説明

伸縮アクチュエータ

【課題】 水中ロボット等において、定期的に交換が必要になる摺動部シールを使わない駆動機構を提供する。
【解決手段】例えば螺旋ねじ軸20、めねじ部品(モータロータ)21、モータステータ22からなる直動機構要素11を、端板A23、端板B23a及び伸縮性のある筒状膜部材30で構成される気密室40に内蔵した直動機構ユニット10において、当該気密室の内部への電力供給、制御信号授受のための電線26が電気的に絶縁されかつ内外の圧力差に耐える耐圧性と気密性を備えた状態で端板を貫通する電線貫通部25を備え、かつ当該気密室を電気的絶縁性を有する液体50で満たしたこと特徴とする水中あるいは海中で使用するのに適した伸縮アクチュエータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中あるいは海中で使われる機器の直線駆動に適した伸縮アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
日本は周囲を海でかこまれた海洋国家であり、海からの多大な恩恵を享受してきている。しかし近年は様々な開発や乱獲が要因となり、多くの海洋生物を絶滅の危機に追い込んでいる。このような状況のもと、「自然再生」をめざした取組みが活発になってきており、水中ロボットによる海洋調査のニーズも従来に増して強くなってきている。これらの調査に使われる水中ロボットの大半は、推進方式としてスクリューを採用しており性能、信頼性の面で豊富な実績を誇っているが、海洋生物にやさしいという点で改良の余地を残している。発明者らはこれまでに弾性振動翼を適用した、ひれで推力を発生させて遊泳する魚型ロボットの開発を手がけてきている。これまでに実施した開発の経験から弾性振動翼を使ったひれには、環境や海洋生物にやさしいという優れた特性があることがわかってきており、ひれで推力を発生させる魚型の水中ロボットに注目をしている。
【0003】
図5に従来の魚型ロボット70の例として、弾性振動翼にロッキングアーム機構72と引張ワイヤ71を適用した構成例を示す。図5(a)は側面断面図、図5(b)は平面断面図を示している。ここで弾性振動翼のひれは、弾力性のあるバネ板部材68の両面に引張ワイヤ71を張り、水中(あるいは海中)でこの末端を交互に引張ることでバネ板部材68を左右に振り、その時に生じるしなりを利用して推力を発生させている。ロッキングアーム機構72は水中(あるいは海中)で使われるため、駆動用のモータ75を本体防水容器76に収納し、回転駆動軸73の摺動部にOリングなどの軸シール74をして本体容器端板64を貫通させている。
ここで66は引張ワイヤ71の固定部、76は本体防水容器である。また78はバッテリー、77は制御装置、67はモータ制御指令・電力供給用の電線を示している。
【0004】
【特許文献1】特願2006-326055 「魚ロボット構造」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の大半の水中ロボットに採用されているスクリューには回転軸があり、Oリングなどで摺動部をシールしているが、一定の時間使用すると摺動部のシールが摩耗したり、損傷を受けたりするため漏水(リーク)が生じるようになる。漏水(リーク)が起こるとシールを交換する以外に手がないため、海洋調査のミッションを遂行中であっても、一度それを中断して陸上に水中ロボットを上げ、シールの交換が必要になる。このため長期にわたり継続的にデータをとる必要のある海洋調査に水中ロボットを使うことが難しく、このことが水中ロボットの最大の課題となっている。また図5で説明したように、弾性振動翼のひれで推力を発生させる魚型ロボットでも、ロッキングアーム機構の回転軸に使われている摺動部のシールで同様な課題を抱えている。
【0006】
一方、定期的に交換が必要になる摺動部のシールを使わない駆動機構として、磁気カップリング方式がある。水中ロボットのスクリュー軸や、魚型ロボットのロッキングアーム機構の回転軸についても、軸をまんなかで切断して磁気カップリングでつなぐことでシールを無くすことが可能である。しかし磁気カップリングは、磁力でトルクを伝えるという特性上の問題として、(1)動力の伝達効率が低い (2)伝達トルクに上限がある (3)強力な磁石を使用するために機構自体が重くなる、など実用上のリスクが大きく、具体化された例はあまりないのが現状である。
本発明はかかる従来の課題に鑑み、摺動部のシールを使わない駆動機構を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明では適正な伸縮アクチュエータを考案し、この伸縮アクチュエータを引張ワイヤの代わりに使うことで、バネ板部材を左右に振り、その時に生じるしなりを利用して推力を発生させる方式とする。この方式とすることにより、摺動部にシールを使わない駆動機構を実現することができ、しかも機構の変更に伴う課題はほとんど発生しない。
【0008】
請求項1の発明はこの適正な伸縮アクチュエータを提案するもので、図1〜図3に構成を示す。ここで図1は伸縮アクチュエータを伸ばした状態、図2は伸縮アクチュエータを縮めた状態を説明する図である。本発明の構成は、螺旋ねじ軸20と、それに螺合するめねじ部品(モータロータ)21、及びめねじ部品(モータロータ)21を、回転駆動するためのモータ〈めねじ部品(モータロータ)21及びモータステータ22〉を備え、めねじ部品(モータロータ)21は回転自在にモータステータ22に固定される。この螺旋ねじ軸20を直線往復運動するようにした直動機構要素11において、螺旋ねじ軸20の端に固定する端版A23と、モータステータ22に固定する端板B23aを、螺旋ねじ軸20の直線往復運動の範囲を挟んで設置し、さらに端板A23と端板B23aと伸縮性のある筒状膜部材30とで構成される気密室40の内部に、当該直動機構要素11を包み込む状態で構成した直動機構ユニット10である。ここでモータステータ22は固定部品27により一方の端板B23aに固定されている。気密室40の内部への電力供給、制御信号授受のための電線26は電気的に絶縁され、かつ内外の圧力差に耐える耐圧性と気密性を備えた電線貫通部25で、端板A23あるいは端板B23a、もしくは両方の端板を貫通している。また当該気密室40内は、電気的絶縁性を有する液体50で満たされている。
ここで24、24aはワイヤー等へのとめ金具である。
【0009】
次に本発明の伸縮アクチュエータについて、機構上の用件である気密室40に液体50を充満する必要性について説明する。端板A23、B23a と伸縮性のある筒状膜部材30とで構成される気密室40には直動機構要素11が内蔵され、水中(あるいは海水中)で使用する際に直動機構要素11が、水(または海水)と直接触れないようにしている。一方水中(あるいは海水中)では気密室40に水圧がかかり、圧縮される方向に変形が生じようとする。気密室40にこの水圧に対抗する力が作用しないと、水圧の上昇につれて気密室40の収縮は進み、最終的には直動機械要素11に伸縮性のある筒状部材30が張付くところまで変形が進み、伸縮アクチュエータは直動の動きを阻害されて作動しなくなる。このことから収縮変形を抑止するための構造上の対策が不可欠であるが、気密室40への液体50の充満がその最良の対策となる。すなわち気密室40に、水に相当する体積圧縮率を有する液体50を充満することで、気密室40に水圧とバランスする圧力を発生させて、気密室40の変形がほとんど起こらないようにすることができる。また、水圧下で伸縮アクチュエータを作動させたときに、伸縮動作のどの状態においても気密室40の体積は変わらないため、水中(あるいは海中)で水圧に抗して直動機構要素11がする仕事(損失)は発生しない。つまり、直動機構要素11の伸縮には水圧に抗する力を必要としないため、基本的にはいかなる水深においても使用すること可能である。なお、モータなどの電機部品と接触する液体50には電気絶縁オイル等の電気絶縁性を有するものを使用する必要がある。
【0010】
請求項2の発明は請求項1の伸縮性のある筒状膜部材30としてジャバラ状あるいはベローズ状の伸縮性のある部材の適用を提案するものである。図2に示した構成例に対し、図3のように筒状膜部材30にジャバラ状、ベローズ状にすることで、伸縮の際に部材に発生するひずみを低く抑えることができる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1、2で説明した本発明の伸縮アクチュエータを魚型水中ロボットに組み込んだ適応例である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、魚型ロボットの弾性振動翼の引張ワイヤに代えて、伸縮アクチュエータを使うことにより、摺動部にシールのない駆動機構とすることができ、従来発生していたシール交換作業が不要となる。これにより継続的にデータを取る必要がある海洋調査などに適した魚型の水中ロボットを提供でき、海洋調査で得られるデータの質を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の伸縮アクチュエータの最良の実施形態1を図1で説明する。ここで図1は伸縮アクチュエータを伸ばした状態、つまり直動機構要素11が螺旋ねじ軸20の右端にある状態を表す説明図である。この場合は図示のように筒状部材30は伸びた状態となっている。これに対し図2は縮めた状態、つまり直動機構要素11を螺旋ねじ軸20左端に移動させた状態の説明図である。この場合は図示のように、筒状部材30は全体長さが短くなった分だけ膨らんだ状態になる。この駆動機構要素11にはビルトイン型のモータを採用して伸縮アクチュエータをコンパクトに構成した例を示している。ねじ部品(モータロータ)21は軸受けでモータステータ22に回転自在に固定されている。ねじ部品(モータロータ)21には螺旋ねじ軸20が螺合しており、ねじ部品(モータロータ)21の回転に伴い螺旋ねじ軸20は前進・後退の直線往復運動をする。モータステータ22は固定部品27で端板B23a に固定する。筒状部材30は直動機構ユニット10の直線往復運動に追従する必要がありエアラストマーなどの適正な伸縮性を有する材料で製作する。なお筒状部材30は伸縮が繰返される部材であるため疲労への考慮が必要であるが、図3で説明するように、ジャバラ状、ベローズ状にすることで伸縮の際に部材に発生するひずみを低く抑える構造にすることが有効である。モータへの電力供給、制御信号授受は電線26を通して行なう。電線26は端板B23a を貫通させて水中(または海中)で使用するため電気的に絶縁され耐圧性と気密性を備えた電線貫通部25を設けてこれを貫通させる。気密室40に満たす液体50は、モータ22及びめねじ部品(モータロータ)21のコイル部及び電気部品、配線26と直接接触するため、電気絶縁性のある電気絶縁オイルなどの使用が適する。また液体50には水圧による気密室の収縮を抑える機能が必要であり、このために水に相当する体積圧縮率を有するものを選定する。
【0014】
次に本発明の伸縮アクチュエータを魚型ロボットに適用した最良の実施形態2について図4(a)、(b)、(c)で説明する。ここで図4は魚型ロボットの概略構成を示す平面断面図である。従来方式については図5で説明したように、バネ板部材68の両面に引張ワイヤ71を張り、この末端をロッキングアーム機構72で交互に引張り、尾ひれのバネ板部材68を左右に振らす構造であった。これに対し本発明では、図4(a)に示すように、ロッキングアーム機構72の役割を担うものとして、バネ板部材68の左右に伸縮アクチュエータ61、61aを配備した。この伸縮アクチュエータ61、61aはワイヤ62、63を介して、バネ板部材68と本体容器端板64に固定した構造となっている。バネ板部材68は、バネ板部材固定部65で本体容器端板64に固定されており、伸縮アクチュエータ61,61a を左右交互に伸縮させることで、尾ひれのバネ板部材68を左右に振らす。図4(b)は図示下方の伸縮アクチュエータ61aを縮め、反対側の伸縮アクチュエータ61を伸ばした状態であり、結果としてバネ板部材68は図示下方側に撓む。この状態とは反対にした状態、つまり図4(c)のように図示下方の伸縮アクチュエータ61aを伸ばし、反対側の伸縮アクチュエータ61を縮めると、結果としてバネ板部材68は図示上方側に撓む。このような動きを連続的に繰り返すことで、尾ひれバネ板部材68により推力が発生し、魚型ロボット60を推進させことができる。伸縮アクチュエータ61,61aのモータ運転のための制御指令、電力供給は、魚型ロボット60に搭載した制御装置77及びバッテリー78からモータ制御指令・電力供給電線80を通じて行なう。本構成で魚型ロボット60を製作し、実際に水深5mの試験水槽で遊泳試験を実施したところ、従来の引張ワイヤを使った魚型ロボットと同様な遊泳特性を示すことを確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を実施するための最良の形態例であって、図1はその伸ばした展状態
【図2】縮めた状態
【図3】伸縮性のある筒状膜部材として、ジャバラ状あるいはベローズ状の部材を適用した例を示した図である。
【図4】本発明を魚型ロボットの弾性振動翼に適用した例を示した図である。 (a)は左右側(図示では上下側)の伸縮アクチュエータの長さを等しくした状態、 (b)は左側(図示では上側)の伸縮アクチュエータを伸ばした状態、右側(図示では下側)を縮めた状態にし、尾ひれを右側(図示では下側)に振った状態 (c)は左側(図示では上側)の伸縮アクチュエータを縮めた状態、右側(図示では下側)を伸ばした状態にし、尾ひれを左側(図示では上側)に振った状態を示した図である。
【図5】従来の魚型ロボットの弾性振動翼にロッキングアーム機構と引張ワイヤを適用した例を示した図である。(a)は側面図、(b)は平面図を示す。
【符号の説明】
【0016】
10 直動機構ユニット
11 直動機構要素
20 螺旋ねじ軸
21 めねじ部品(モータロータ)
22 モータステータ
23 端板A
23a 端板B
24 とめ金具A
24a とめ金具B
25 電線貫通部
26 電線
27 固定部品
30 筒状膜部材
32 ジャバラ状あるいはベローズ状の部材
40 気密室
50 液体
60 本発明の伸縮アクチュエータを適用した魚型ロボットの例
61 伸縮アクチュエータ
61a 伸縮アクチュエータ
62 ワイヤ
62a ワイヤ
63 ワイヤ
63a ワイヤ
64 本体容器端板
65 バネ板部材固定部
66 ワイヤ固定部
67 モータ制御指令・電力供給電線
68 バネ板部材
70 従来の魚型ロボットの例
71 引張ワイヤ
71a 引張ワイヤ
72 ロッキングアーム機構
73 回転駆動軸
74 軸シール
75 モータ
76 本体防水容器
77 制御装置
78 バッテリー
80 モータ制御指令・電力供給電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋ねじ軸とそれに螺合するめねじ部品、およびめねじ部品を回転駆動するためのモータを備え、めねじ部品を回転自在にモータステータに固定することで、螺旋ねじ軸を直線往復運動するようにした直動機構要素において、モータステータに固定する端版Aと螺旋ねじ軸端に固定する端版Bを、螺旋ねじ軸の直線往復運動の範囲を挟んで設置し、さらに端板Aと端板Bと伸縮性のある筒状膜部材とで構成される気密室の内部に、当該直動機構要素を包み込む状態で構成した直動機構ユニットにおいて、当該気密室内部への電力供給や制御信号授受のための電線が電気的に絶縁され、かつ内外の圧力差に耐える耐圧性と気密性を備えた電線貫通部であり、端板Aあるいは端板Bもしくは両方の端板を貫通し、かつ当該気密室を電気的絶縁性を有する液体で満たしたことを特徴とする、水中あるいは海中で使用するのに適した伸縮アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載の直動機構ユニットにおいて、伸縮性のある筒状膜部材としてジャバラ状あるいはベローズ状の構造で伸縮性のある部材を用いることを特徴とする水中あるいは海中で使用するのに適した伸縮アクチュエータ。
【請求項3】
請求項1、2に記載した構成の伸縮アクチュエータを、水中ロボットの推進機構として組み込んだことを特徴とする水中ロボット。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−8108(P2009−8108A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167360(P2007−167360)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(000236104)MHIソリューションテクノロジーズ株式会社 (33)
【Fターム(参考)】