説明

伸縮性横編地及びその製造方法

【課題】 潜在捲縮発現性のポリエステル系偏心複合繊維と他の非弾性繊維とが交編され、ポリエステル系偏心複合繊維が一部コースに配置された交編緯編地において、伸長性と伸長回復性とがともに優れた伸縮性緯編地を提供すること、特に薄地の編地とする場合に好適な交編伸縮性緯編地を提供する。
【解決手段】 少なくとも1成分がポリトリメチレンテレフタレートであるポリエステル系偏心複合繊維と他の非弾性繊維とで編成された交編伸縮性緯編地において、ポリエステル系偏心複合繊維が一部コースに配置され、ポリエステル系偏心複合繊維の編目の編目長(Lcm)が特定範囲内とし、かつ、非弾性繊維の編目の編目長(Lcm)が特定範囲内とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1成分がポリトリメチレンテレフタレートである潜在捲縮発現性のポリエステル系偏心複合繊維を用いた伸縮性緯編地であって、特に塩素に対する耐久性が優れ、良好な伸長性と、伸長後の生地がほぼ元に戻るという良好な伸長回復性とを同時に兼ね備え、軽量で薄地の伸縮性緯編地に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、伸長性、伸長回復性に優れた弾性緯編地は、LYCRA(登録商標)に代表されるポリウレタン系弾性繊維を用いて製造され、インナーウェアやスポーツウェア、あるいはアウターウェアなど主に衣服用途に用いられてきた。しかしながら、ポリウレタン系弾性繊維を用いた弾性緯編地は伸縮性に優れているものの、ポリウレタン自体は一般に耐久性に劣るので、後工程での弾性繊維切れを生じ易く、脆化による特性劣化の問題が生じ易い。ポリウレタンは本来的に耐塩素性が低く、プール水のように殺菌に塩素を用いている環境下では劣化し易いので、水着や、塩素により色落とし処理(ユーズド加工)される伸縮性ジーンズにおいては、耐塩素性化したポリウレタン繊維を使用し、また、加工方法を工夫する必要があった。
【0003】
一方、このようなポリウレタン弾性繊維混の生地の問題を解決するために、伸縮糸としてポリウレタン弾性繊維の代わりに、ウーリーポリエステル糸、ウーリーナイロン糸、あるいはウーリー加工を施したポリブチレンテレフタレート糸のようなウーリー捲縮加工糸を用いる場合があった。しかしながら、ウーリー加工糸を伸縮糸として用いた場合は伸長性、伸縮回復性に劣り、例えば水着のような最終商品で十分なストレッチを出せないという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するために、伸縮糸として、伸長性及び伸縮回復性に優れたポリトリメチレンテレフタレート繊維糸を用いた伸縮性の緯編地が提案されている。
【0005】
例えば、伸縮性緯編地を得る方法として、固有粘度差が0.05〜0.4(dl/g)である2種類のポリトリメチレンテレフタレートを互いにサイドバイサイド型に複合させた繊維からなるマルチフィラメント糸を用いて緯編地を編成することが提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
しかし、一般にポリトリメチレンテレフタレートは熱分解し易いので、この方法による伸縮性緯編地は、編成や染色加工した後の生地の強度が弱くなり易いという欠点がある。
【0007】
高速紡糸によるポリトリメチレンテレフタレート高配向未延伸繊維を延伸同時仮撚り加工することにより伸縮伸長率が130%以上の捲縮糸とし、この捲縮糸を用いて、高ストレッチ性のダブル丸編地を製造することが提案されている(特許文献2参照)。しかし、この方法では、編成前に捲縮加工を施すことが必要であるので、捲縮加工に要するコストが余分にかかり、製造コスト高になるというデメリットがある。
【0008】
また、ポリトリメチレンテレフタレート複合繊維と紡績糸とで編成され、ポリトリメチレンテレフタレート複合繊維が全コースに配置された交編丸編地において、ポリトリメチレンテレフタレート複合繊維の編糸のループ長(ymm)を、その編糸の総繊度(xdtex)との関係で数式(下記式)により特定された範囲内とすることにより、ストレッチ性や形態保持性に優れた弾性丸編地とすることができるという知見が開示されている(特許文献3参照)。
0.0095x+1.4≦y≦0.0095x+3.0
【0009】
しかし、この方法では、編地の全コースにポリトリメチレンテレフタレート複合繊維を配置することが必要であるので、天竺やフライス組織のプレーティングのように1本の編み針に2種類の糸を同時に供給してニットすることや、或いは、リバーシブル組織とすることが必要があり、肉厚な生地になり易いという問題がある。また、実際の緯編地の組織では、編糸の1本ずつで編目を構成し、ニット、タック、ウェルトの3種類の編み方を組合せて種々の編み模様の編地を設計することが多いが、全コースにポリトリメチレンテレフタレート複合繊維を配置する上記方法は、編糸の1本ずつで編目を構成する編地の一部コースにポリトリメチレンテレフタレート複合繊維を配置して交編編地とすることができない。
【0010】
【特許文献1】特開2003−27356公報
【特許文献2】特開2000−239949公報
【特許文献3】特許2004−76191公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明は、潜在捲縮発現性のポリエステル系偏心複合繊維と他の非弾性繊維とが交編され、ポリエステル系偏心複合繊維が一部コースに配置された交編緯編地において、伸長性と伸長回復性とがともに優れた伸縮性緯編地を提供すること、特に薄地の編地とする場合に好適な交編伸縮性緯編地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の伸縮性緯編地は、前記目的を達成するため、次の事項でもって特定される。
【0013】
すなわち、少なくとも1成分がポリトリメチレンテレフタレートであるポリエステル系偏心複合繊維と他の非弾性繊維とで編成された交編緯編地において、ポリエステル系偏心複合繊維が一部コースに配置され、ポリエステル系偏心複合繊維の編目の編目長(Lcm)が、下記式(1)を満足し、かつ、非弾性繊維の編目の編目長(Lcm)が下記式(2)を満足する伸縮性緯編地である。
【0014】
【数1】

【0015】
(上記式において、L:ポリエステル系偏心複合繊維の編目の編目長[cm]、
:ポリエステル系偏心複合繊維の編糸の直径[cm]、
:非弾性繊維の編目の編目長[cm]、
:非弾性繊維の編糸の直径[cm]、
n:天竺編目の数、
m:ラッピングの数、 である。)
【発明の効果】
【0016】
本発明の伸縮性緯編地は、薄地・軽量な編地の場合でも、特に塩素に対する耐久性が優れるとともに、良好な伸長性と良好な伸長回復性とを同時に兼ね備えることができる。従って、本発明の伸縮性緯編地を用いると、特に衣料を作製した場合、薄手の衣類であっても、
ストレッチ性に優れ着脱が容易であり、動作に追随する伸縮性があって着用時の窮屈感がなく、さらに、着用時の暑苦しさがなくて着崩れがしにくい、という優れた効果を奏することができる。
【0017】
また、上記伸縮性緯編地を本発明法によって製造すると、編成前に仮撚などの捲縮加工を行う必要がなく、編成後の染色処理等で捲縮発現させることができるので、製造コスト的に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の伸縮性緯編地及びその製造方法について、さらに詳細に述べる。
【0019】
本発明の伸縮性緯編地は、ポリエステル系偏心複合繊維と他の非弾性繊維とで編成された交編緯編地であり、ここで用いるポリエステル系偏心複合繊維は、少なくとも1成分がポリトリメチレンテレフタレートで構成されたポリエステル系偏心複合繊維である。
【0020】
このポリエステル系偏心複合繊維は、収縮特性が異なる重合体がサイドバイサイド型や偏心芯鞘型のような偏心複合構造をとるものであり、この結果、潜在捲縮特性をもち、捲縮発現処理によりコイル状捲縮が発現するものである。
【0021】
このポリエステル系偏心複合繊維が捲縮を発現する仕組みは以下の通りである。
【0022】
すなわち、極限粘度の差や、或いは、ポリマ種類の相違により収縮特性が異なる重合体を、偏心複合構造に複合させた複合繊維では、弛緩状態で加熱を伴う処理をすることにより、低収縮ポリマ側に比し高収縮ポリマ側が大きく収縮し、単繊維内で歪みが生じて、高収縮ポリマ側がコイル内側となる3次元コイル捲縮の形態が発現する。複合繊維を製造する工程の紡糸時や延伸時にも繊維は熱を受けるが、製糸工程途中の加熱は緊張状態の繊維に対して行われるので、両成分間の収縮差は僅かであり、製糸されて巻取られた段階での複合繊維は僅かな捲縮が顕在化しているだけであって、潜在捲縮性複合繊維の状態にある。
【0023】
捲縮発現された複合繊維が有する3次元コイル捲縮におけるコイル径および単繊維長当たりのコイル数は、高収縮成分と低収縮成分との収縮差や弾性回復率差に大きく左右され、その収縮差が大きいほどコイル径が小さく、単位繊維長当たりのコイル数が多くなる。そして、コイル径が小さく、単位繊維長当たりのコイル数が多いほど、伸長特性に優れ、見映えがよい捲縮糸となる。
【0024】
また、コイルの耐へたり性がよいほど、伸縮回数に応じたコイルのへたり量が小さく、ストレッチ保持性に優れた捲縮糸である。
【0025】
さらに、コイル捲縮の伸縮特性は、低収縮成分を支点とした高収縮成分の伸縮特性が支配的となるため、高収縮成分には、高い伸長性および回復性をもつポリマを用いることが有効である。この観点から、複合繊維の高収縮性成分として、ポリトリメチレンテレフタレートを用いるものである。
【0026】
ポリトリメチレンテレフタレートからなる繊維は、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートからなる繊維と同等の力学的特性や化学的特性を有しつつ、伸長回復性がきわめて優れている。これは、ポリトリメチレンテレフタレートの結晶構造においてアルキレングリコール部のメチレン鎖がゴーシュ−ゴーシュ構造(分子鎖が90度に屈曲)であること、さらにはベンゼン環同士の相互作用(スタッキング、並列)による拘束点密度が低く、フレキシビリティーが高いことから、メチレン基の回転により分子鎖が容易に伸長・回復するためと考えている。
【0027】
本発明で使用されるポリエステル系複合繊維の少なくとも一成分のポリトリメチレンテレフタレートは、トリメチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルであり、具体的には、テレフタル酸を主たる酸成分とし、1,3プロパンジオ−ルを主たるグリコ−ル成分として得られるトリメチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルである。トリメチレンテレフタレート単位以外のエステル単位(共重合成分)を共重合させたものでもよい。その共重合成分の割合は20モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましい。
【0028】
共重合可能な化合物としては、たとえば、イソフタル酸、コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマー酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのジオール類が挙げられる。
【0029】
また、必要に応じて、艶消し剤となる二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体、着色顔料などを添加してもよい。
【0030】
本発明のポリエステル系複合繊維の低収縮成分は、上記したポリトリメチレンテレフタレート(但し、高収縮成分とは固有粘度が異なるもの)でも構わないし、また、ポリエチレンテレフタレート等の他のポリエステルを用いてもよい。特に、ポリエチレンテレフタレートを用いた場合には、繊維の構成成分の一部が強度に優れたポリエチレンテレフタレートであるためポリエステル系複合繊維の強度自体も上がり、最終製品での耐久性を高めることができ、さらに、染色加工時のセット性が向上し取り扱い易い繊維となるので、好ましい。また、ポリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートとからなる偏心複合繊維は、他のポリエステル系複合繊維に比し特にストレッチ性に優れているので、一部コースのみに用いる交編編地用の伸縮性糸として特に好適である。
【0031】
ポリエステル系複合繊維の低収縮成分として用いるポリエチレンテレフタレートは、エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルである。より具体的には、テレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールを主たるグリコ−ル成分として得られるエチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とするポリエステルである。このエチレンテレフタレート単位以外のエステル結合(共重合成分)を共重合させたものでもよい。その共重合成分の割合は20モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましい。
【0032】
共重合可能な化合物として、たとえば、スルフォン酸、ナトリウムスルフォン酸、硫酸、硫酸エステル、硫酸ジエチル、硫酸エチル、脂肪族スルフォン酸、エタンスルフォン酸、クロロベンゼンスルフォン酸、脂環式スルフォン酸、イソフタル酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸、アジピン酸、シュウ酸、デカンジカルボン酸などのジカルボン酸、p−ヒドロキシ安息香酸、ε−カプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸などのジカルボンサン類、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ハイドロキノン、ビスフェノールAなどのジオール類が挙げられる。
【0033】
また、必要に応じて、艶消し剤となる二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体、着色顔料などを添加してもよい。
【0034】
本発明の緯編地においてコイル状捲縮を発現させ、所望の伸縮性を得る観点から、ポリトリメチレンテレフタレートの極限粘度は1.0以上であるのが好ましく、1.2以上であるのがより好ましい。
【0035】
本発明で使用されるポリエステル系複合繊維の単糸断面における高収縮成分及び低収縮成分の複合は、サイドバイサイド型または偏芯シース・コア型で代表される偏心複合構造である。単糸断面において偏心複合構造をとらない場合には、糸条に熱が付与されてもコイル状捲縮が発現せず、糸条に伸縮性を付与することができない。
【0036】
また、ポリエステル系複合繊維における高収縮成分と低収縮成分との重量比率は、製糸性および繊維長さ方向のコイルの寸法均質性の観点から30/70以上、70/30以下の範囲であることが好ましい。
【0037】
ポリエステル系複合繊維の糸条繊度は、編地の用途や目的に応じて決められるが、一般には20デシテックス以上1000デシテックス以下の範囲が好ましい。また、その
ポリエステル系複合繊維の単糸繊度は、編地の用途等に応じて決められるが、一般には0.4デシテックス以上25デシテックス以下の範囲が好ましい。
【0038】
本発明では、緯編地に伸縮性を付与する繊維として、優れた潜在捲縮性を有するポリエステル系偏心複合繊維を用いるので、仮撚加工などの捲縮加工をする必要がなく、また、編成後の染色加工時などで熱がかかることで自動的に捲縮が発現するので、低コストで優れた伸縮性を発揮する生地を容易に製造することができる。
【0039】
本発明の伸縮性緯編地において、前記したポリエステル系複合繊維を伸縮素材の編糸に用いる際、その複合繊維をそのままの複合繊維糸で用いることが最も伸縮回復特性に優れた編地とすることができる。しかし、実用上問題なければ、その複合繊維を他素材と組み合わせて伸縮性加工糸にして用いても構わない。組み合わせる他の繊維には特に制限はなく、フィラメント糸または紡績糸のいずれであってもよい。また、伸縮性加工糸の形態としては特に制限無く、シングルカバードヤーン(SCY)やダブルカバードヤーン(DCY)などのカバリング糸でもよいし、混繊糸や交絡糸、撚糸、コアスパンヤーン(CSY)でもよい。また、該複合繊維やその加工糸を先染め加工した先染め糸として用いても良い。
【0040】
また、緯編地を編成する際に前記したポリエステル系複合繊維と組み合わせて用いられる相手糸は、他の非弾性繊維からなる編糸であり、例えば、通常のナイロン糸、ポリエステル糸のような合成繊維フィラメント糸であってもよいし、綿糸、羊毛糸、麻糸のような天然繊維からなる紡績糸であってもよい。また、それら非弾性繊維に捲縮加工などを施した加工糸であっても構わないし、撚糸、混繊糸であっても構わない。
【0041】
本発明の緯編地を編むのに用いる編機は、一般的な丸編機でも、サントニーの様なシームレスな編地を編める成形編機でも、セーターを編むのに用いる横編機でも成形編機でもよい。
【0042】
弾性編地における編組織は特に限定はされず、インナーウェアやスポーツウェア、アウターウェアなど衣料一般に用いられる編組織であればよい。例えば、丸編地の編組織としては、例えば、一般に用いられる天竺、スムース,フライス、かのこ、ハニカム、モックミラノ、ポンチローマ、ピケ、パイル、片袋などの編組織を使用することが出来る。なお、使用する編機も特に限定されることなく、シングル編機、ダブル編機、ヨコ編機など自由に用いることができる。
【0043】
但し、本発明の伸縮性緯編地では、ポリエステル系複合繊維が一部コースのみに配置され、全コースに入っていないので、同じニット針で、ポリエステル系複合繊維の編糸と他の非弾性繊維の編糸との両方が同時に編まれることが無い。従って、プレーティング天竺や引き揃えなどの編み方は、本発明には適用されない。
一般的には、天竺組織のように全コースにポリエステル系複合繊維が入っている方がストレッチ性に優れるが、本発明の伸縮性緯編地の要件をとれば、例えば1コースおきのように一部のコースのみにポリエステル系複合繊維が配置されている交編編地で十分なストレッチを発現できる。
【0044】
本発明では、編成時での非弾性糸の編目長、ポリエステル系複合繊維の編目長、及び両者のバランスが重要である。編目長は、編機の給糸装置の設定変更により単位時間あたりの給糸量と編機の編成速度の関係を変えることにより調節できるもので、編成後に生機を分解して編糸を取りだし、その長さを測ることにより確認できる。
【0045】
伸縮性編地に好適な理想的な一単位組織の編目長は、ShinnやPetaの理論、又はGrosbergの理論により求めることが出来る。これらは、社団法人日本繊維機械学会が発行した「基礎繊維工学」に詳細に記載されている。以下の説明においてはこの計算による編目長を理論編目長という。
【0046】
ここで、一単位組織とは、特定の糸道における糸の最小繰り返し単位のことである。例として、図1、図2に、天竺編、1×1フライス編の各組織における一単位組織を示すが、この各単位を編むのに必用な糸の理論的な長さが理論編目長である。即ち、同じ編目が繰り返される天竺編では、1つの編目(ループ)が一単位組織であるので、1編目あたりの編糸の長さが理論編目長である。また、1つの表目と1つの裏目とが交互に繰り返される1×1フライス編では、1つの表目と1つの裏目とが一単位組織であるので、2編目あたりの編糸の長さが理論編目長である。
【0047】
その理論編目長は編組織によって、すなわちニット、タック、ウェルトの組合せ方や、編目が表だけのシングル編機の組織か、編目が表裏にあるダブル編機を用いた組織かでも異なる。丸編でタック、ウェルトの無い編み組織ならば、シングル編機、ダブル編機ともに次式(3)により理論編目長(L)を計算できる。
【0048】
L=(16.64n−2.08m)・d ・・(3)
ここで、Lは一単位組織の理論編目長[cm]であり、dは編み糸の直径[cm]であり、nは天竺編目の数であり、また、mはラッピングの数である。ここで、ラッピングとはダブル編機におけるリブ出合の際にシングル針とダブル針の間を連結する部分のことである。
【0049】
例えば、天竺組織の場合は、上式において、n=1,m=0であるので、下記の(4)式により理論編目長(L)を求めることができ、また、1×1フライス組織の場合は、n=2,m=2であるので、下記の(5)式にて理論編目長(L)を求めることが出来る。
L=16.64×d ・・(4)
L=29.12×d ・・(5)
【0050】
ここで、Lは、編み目の理論編目長[cm]であり、dは編成に用いる糸の直径[cm]である。通常この理論編目長で編成すると品質に優れた編地が編成できると考えられている。しかし、ポリエステル系偏心複合繊維と他の非弾性繊維とを交編する緯編地(ポリエステル系偏心複合繊維は一部コースに配置されたもの)の場合には、この理論編目長どおりに編成しても、ポリエステル系偏心複合繊維の優れた伸縮性等の特長を十分に発揮できない。この交編緯編地の場合には、ポリエステル系偏心複合繊維の編目長と他の非弾性繊維の編目長とをそれぞれに特定範囲内に調整した場合に最も良好なストレッチ性が発揮される。この最適範囲は、式(1)及び式(2)で表される。
【0051】
【数2】

【0052】
(上記式において、L:ポリエステル系偏心複合繊維の編目の編目長[cm]、
:ポリエステル系偏心複合繊維の編糸の直径[cm]、
:非弾性繊維の編目の編目長[cm]、
:非弾性繊維の編糸の直径[cm]、
n:天竺編目の数、
m:ラッピングの数、 である。)
【0053】
式(1)は、L/[(16.64n−2.08m)d]の値(以下、第1編目係数Cという)が0.7〜1.4の範囲である、と表すことができる。また、式(2)は、L/[(16.64n−2.08m)d]の値(以下、第2編目係数Cという)が1.125以上の範囲である、と表すことができる。
【0054】
第1編目係数Cは、第2編目係数C未満であることが好ましい。
上記した式(1)及び式(2)を満たす編目長となるような条件で交編することにより、伸縮性付与素材のポリエステル系偏心複合繊維が一部コースのみに配置されている交編編地でも、十分な伸びと優れたキックバック性とを有する伸縮性緯編地とすることができる。
【0055】
上記条件を満足する伸縮性緯編地は、交編する際に、一つのニット針に、ポリエステル系偏心複合繊維の編糸、又は、他の非弾性繊維の編糸のどちらか片方を供給して編成するものである。そして、編成に供するポリエステル系偏心複合繊維は、実質的に捲縮発現加工されていない複合繊維(潜在捲縮性の複合繊維)であることが好ましい。捲縮発現加工されていない潜在捲縮性の複合繊維を用いて編成された後に、染色処理することにより捲縮発現させ、伸縮性緯編地とすることが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]
伸縮性の糸(ポリエステル系偏心複合繊維の糸)として、ポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートとがサイドバイサイド型に複合された複合繊維のフィラメント糸(83dtex、34f)(Invista社製、商品名「T400」)を用いた。一方、非弾性繊維として綿紡績糸40番手を用いた。
14ゲージ、17インチ(=43.18cm)のダブル丸編機で1×1のフライス組織の丸編地を編成した。1×1のフライス組織は、図2に示す組織図をもつ緯編地である。上記伸縮性の糸と上記綿糸とを交互に(1コースおきに)編成した。この際、編目長の調整は、編機の給糸装置の設定を変更して、単位時間あたりの給糸量と編機の編成速度とを変えることにより行った。
【0058】
この編地における各糸の編目長は、編成後の生機を分解して、複合繊維糸と綿糸とをそれぞれ取り出し、一単位組織あたりの編目長を実測することにより求めた。
得られた生機を、通常の条件で染色処理して、綿糸も複合繊維も染色された染色加工反とした。
得られた染色加工反(染色編地)の伸長回復率と定荷重伸長率とを、編地の経方向、緯方向のそれぞれについて測定した。その結果は、表1に示すとおりであり、伸長回復率も定荷重伸長率も経、緯方向ともに良好であった。
【0059】
[実施例2]
伸縮性の糸(ポリエステル系偏心複合繊維の糸)として、実施例1で使用したものと同じものを用いた。一方、非弾性繊維としてレーヨン紡績糸(商品名「テンセル」)の40番手を用いた。
14Gのダブル丸編機で片袋の編成組織の丸編地を編成した。この組織は図3に示すように、フライス編みのコース(図の1コース目)と天竺編みのコース(図の2コース目)とが交互に(1コースおきに)編成されるものであり、1コース目にレーヨン紡績糸を、2コース目に複合繊維の糸を配して交互に編成した。
【0060】
この編地における各糸の編目長は、編成後の生機を分解して、複合繊維糸と綿糸とをそれぞれ取り出し、一単位組織あたりの編目長を実測することにより求めた。
得られた生機を、通常の条件で染色処理して、レーヨン紡績糸も複合繊維も白に染色された染色加工反とした。
得られた染色加工反(染色編地)の伸長回復率と定荷重伸長率とを、編地の経方向、緯方向のそれぞれについて測定した。その結果は、表1に示すとおりであり、伸長回復率も定荷重伸長率も経、緯方向ともに良好であった。
【0061】
[比較例1]
実施例1の場合と同じ編糸を用い、複合繊維の編糸の編目長が変更されるように編編成条件を変更した以外は全て実施例1と同様にして、1×1のフライス組織の丸編地を編成した。得られた生機を実施例1と同様に染色処理した後、伸縮特性を測定した。
その結果は表1に示すとおりであり、伸長回復率が実施例1よりも劣り、また、定荷重伸長率が不十分であった。
【0062】
[比較例2]
実施例1の場合と同じ編糸を用い、綿糸の編目長が変更されるように編編成条件を変更した以外は全て実施例1と同様にして、1×1のフライス組織の丸編地を編成した。得られた生機を実施例1と同様に染色処理した後、伸縮特性を測定した。
その結果は表1に示すとおりであり、伸長回復率が実施例1よりも劣り、また、定荷重伸長率が不十分であった。
【0063】
[比較例3]
伸縮性の糸として、ポリエステル系複合繊維の替わりに、ポリウレタン弾性繊維のカバリング糸(芯糸:LYCRA(登録商標) T127C 22dtex、巻き糸:ウーリーナイロン 78dtex、ドラフト=3.5、ヨリ数=400T/m)を用いた。非弾性繊維の糸として実施例2で用いたと同じ「テンセル」の40番手を用いた。
実施例2と同様に14Gのダブル丸編機で編成を行なった。得られた生機を、通常の条件で白に染色処理して、レーヨン紡績糸も被覆弾性糸のカバリング糸(ナイロン繊維)も染色された染色加工反とした後、伸縮特性を測定した。
【0064】
その結果は表1に示すとおりであり、実施例2と比較してタテ方向の
伸長回復率が不十分であった。
また、この比較例3による編地と、実施例2による編地とについて、塩素漂白したところ、比較例3の編地は脆化しLYCRA(R)がうす黄色く変色しており、明らかに実施例2の編地よりも劣っていた。
【0065】
【表1】

【0066】
以上の実施例及び比較例において、染色された伸縮性編地の伸縮特性は次の方法で測定した。
[伸長回復率]
幅2.5cm×長さ16cmの編地試料を準備する。タテ方向測定用には、試料の長手方向を編地タテ方向とし、ヨコ方向測定用には試料の長手方向を編地ヨコ方向とする。
引張り試験機につかみ間隔10cmでセットし、JIS L1018に準じ伸長速度30cm/minで80%まで伸長した後、元のつかみ間隔まで回復させた。この際80%伸長させた時のつかみ間隔をy(cm)とし、回復時初めて応力がゼロになったときのつかみ間隔をy(cm)として、次の式から伸長回復率を求める。
伸長回復率(%)=[(y−y)/8]×100
【0067】
[定荷重伸長率]
幅2.5cm×長さ16cmの編地試料を準備する。つかみ間隔10cmで引張り試験機にセットし、22.1Nの荷重をかけ、そのときのつかみ間隔x(cm)を測定し、次の式から定荷重伸長率を求める。
【0068】
定荷重伸長率(%)=[(x−10)/10]×100
着用時に快適なストレッチ性のためには、定荷重伸長率がタテ・ヨコともに60%以上あることが要求される。というのも、腕部、脇下部、腰部、膝部、肘部などの部位の皮膚の最大伸びは60%程度であるので、生地が60%以上伸びると、衣服の着用時に窮屈感を感じることがないと言われるからである。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の伸縮性弾性編地はタテ・ヨコ両方向への伸長性および伸長回復性に優れていて、しかも薄地・軽量の編地とすることができるので、生地伸びを余り必要としないアウターウェア用に使用することの他に、十分なストレッチが必要なスポーツウェア、インナーウェア用にも好適である。また、塩素に対する耐久性に優れているので、水着用やストレッチデニム調生地で塩素処理される用途にも好適である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】天竺編の組織を示す図である。
【図2】フライス編の組織を示す図である。
【図3】片袋編の組織を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1成分がポリトリメチレンテレフタレートであるポリエステル系偏心複合繊維と他の非弾性繊維とで編成された交編緯編地において、ポリエステル系偏心複合繊維が一部コースに配置され、ポリエステル系偏心複合繊維の編目の編目長(Lcm)が、下記式(1)を満足し、かつ、非弾性繊維の編目の編目長(Lcm)が下記式(2)を満足することを特徴とする伸縮性緯編地。
【数1】

(上記式において、L:ポリエステル系偏心複合繊維の編目の編目長[cm]、
:ポリエステル系偏心複合繊維の編糸の直径[cm]、
:非弾性繊維の編目の編目長[cm]、
:非弾性繊維の編糸の直径[cm]、
n:天竺編目の数、
m:ラッピングの数、 である。)
【請求項2】
ポリエステル系偏心複合繊維が、ポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートとの偏心複合繊維であることを特徴とする請求項1記載の伸縮性緯編地。
【請求項3】
編成後に染色処理された伸縮性緯編地であることを特徴とする請求項1又は2に記載の伸縮性緯編地。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の緯編地を編成する際に、一つのニット針に、ポリエステル系偏心複合繊維の編糸、又は、他の非弾性繊維の編糸のどちらか片方を供給して編成することを特徴とする伸縮性緯編地の製造方法。
【請求項5】
編成に供するポリエステル系偏心複合繊維として、実質的に捲縮発現加工されていない複合繊維を用いることを特徴とする請求項4記載の伸縮性緯編地の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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