説明

伸縮継目の絶縁構造

【課題】本発明の目的は、絶縁材の形成及びその接着に多大な工数をとられることなく、雨水の侵入による発錆を回避できる伸縮継目の絶縁構造を提供することにある。
【解決手段】一対のトングレールのうちの一つのトングレールの腹部に形成されている溝状凹部の底面部4aと絶縁板13aとの間に環状絶縁体1を装着して、その環状絶縁体1の基部2の側面が絶縁板13aに密着すると共に、内径部2aが絶縁チューブ13bの外周面に密着するようにした。更に、環状ヒレ部3が底面部4aに密接するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道の線路において、信号回路の形成に必要なレール継目の絶縁構造に係り、詳しくは一対のトングレールが斜めに接合される伸縮継目の絶縁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道線路におけるレールの継目には、継目板を用いた突合せ継目とレールの伸縮を吸収する斜め継目とがある。斜め継目は寒暖で生じる温度差によるレールの伸び縮みを吸収する構造になっており、伸縮継目という。
【0003】
そして、列車車輪が通過する時に発生する騒音や振動によりもたらされる不快感を解消するため、新幹線の線路等で採用されている斜め継目の技術を採用する事例が特許文献1に開示されている。その斜め継目の伸縮継目においては、突合せ構造の継目の場合と同様に、回路、信号機、踏切警報機等の制御のため、レールの継目部は絶縁を有する構造になっている。そして、その絶縁構造では、一対のトングレールの間に介在して両者を接着絶縁するものとして、所定形状に成形された絶縁材が用いられている。
【0004】
また、図5に示すように、新幹線等で実用されている伸縮継目においては、トングレール10、11の間に絶縁板13aを介在させ、ボルト14及びナット16によりトングレール10及びトングレール11を接合している。そして、トングレール10の貫通孔5及びトングレール11の貫通孔6の内周面とボルト14との接触により、トングレール10とトングレール11とが通電することがないように、ボルト14には絶縁チューブ13bが外嵌されている。
【特許文献1】特開2003−3404号公報([要約]を参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、図5に示した伸縮継目では、絶縁板13a及び絶縁チューブ13bを含む複数の絶縁材13c、13d、13e等が用いられ、トングレール10とトングレール11とは絶縁されている。しかし、雨水の浸入等と併せて複数の条件が重なれば、それらの絶縁材では絶縁性が損なわれて、予期せぬ信号回路の短絡に繋がる問題があり、その解決が求められていた。
【0006】
本発明者らは、その短絡をもたらす原因は、雨水の浸入により発生するレール等の錆であることを見出した。その発生錆により短絡が起きることは、各種実験により確認された結果、次のように説明できる。即ち、図6に示すように、絶縁板13aと溝状凹部4の底面部4aとの間に入り込んだ雨水が貫通孔5及び貫通孔6の中に侵入して錆を発生させる。その発生錆は貫通孔5及び貫通孔6の中に蓄積され、しかも蓄積されたその錆はトングレール10又はトングレール11に通電されている電気の影響で、より電気を通しやすい微粉状のマグネタイト7に変化する。そして、通電しやすくなったマグネタイト7を介してトングレール10とトングレール11とが通電状態となり、短絡を引き起こすのである。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するものであり、その目的とするところは、絶縁材の形成及びその接着に多大な工数をとられることなく、錆発生の原因となる雨水の侵入を回避できる伸縮継目の絶縁構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するために請求項1に記載の伸縮継目の絶縁構造の発明は、絶縁板を介してボルトにより接合される一対のトングレールよりなる伸縮継目の絶縁構造であって、前記一対のトングレール及び絶縁板には、前記ボルトが挿通される貫通孔が形成され、その貫通孔に絶縁チューブが挿通されて、前記一対のトングレールとボルトとが絶縁されている絶縁構造において、前記一対のトングレールのうちの一つのトングレールの前記絶縁板に対向する腹部には溝状凹部が形成され、その溝状凹部と前記絶縁板との間に形成される空間において、環状絶縁体が前記絶縁板に密着すると共に前記絶縁チューブに外嵌されていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の伸縮継目の絶縁構造において、前記絶縁チューブは、前記環状絶縁体の内径部に圧入されていることを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の伸縮継目の絶縁構造において、前記環状絶縁体は、前記絶縁板と前記底面部とにより圧縮状態に挟持されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の伸縮継目の絶縁構造において、前記環状絶縁体は、環状板状の基部に環状ヒレ部が突設され、その環状ヒレ部が前記底面部に密接されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のうちいずれか一項に記載の伸縮継目の絶縁構造において、前記環状絶縁体は、シリコーンゴムで形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
(作用)
本発明の伸縮継目の絶縁構造においては、環状絶縁体が絶縁板に密着すると共に絶縁チューブに外嵌されているので、絶縁板と溝状凹部との間の空間に侵入した雨水は、絶縁板の内径部を通過して溝状凹部が形成されていないもう一つのトングレールの貫通孔に入り込むことがなくなる。従って、錆発生が少なくなり、また錆が環状絶縁体の上部に蓄積され、マグネタイトに変化したとしても、一対のトングレールの間は、環状絶縁体で隔離された状態となるため、通電するものにはなり得ない。
【0013】
また、環状絶縁体の内径部に絶縁チューブを圧入するようにすれば、環状絶縁体と絶縁チューブとの間において雨水の通過を許容する隙間の形成が防止される。
更に、環状絶縁体が絶縁板と底面部とにより圧縮状態に挟持されるようにすれば、環状絶縁体は絶縁板に対してより確実に密着することになるばかりか、底面部の肌が平滑面ではない場合であっても、環状絶縁体は、底面部に密接することができる。そして、環状絶縁体に環状ヒレ部を設けるようにすれば、その密接度合いは更に高まることになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、絶縁材の形成及びその接着に多大な工数をとられることなく、雨水の侵入を防止し錆発生を回避できる伸縮継目の絶縁構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した伸縮継目の絶縁構造の実施形態を図1〜図3を用いて説明する。なお、従来技術と同一の構成については、その説明において用いた同一の符号を用いるものとする。
【0016】
図1に示すように、一対のトングレール10及びトングレール11は絶縁板13aを介在させて接合され、絶縁材13c及び座金15を介してボルト14及びナット16により締結されている。トングレール10及びトングレール11の絶縁板13aに接合する部分は切削された平滑面となっており、トングレール10及びトングレール11と絶縁板13aとは接着剤により接合されている。ボルト14には絶縁チューブ13bが外嵌されている。そして、トングレール10、11は絶縁材13dを介して床板12に載置され、座金18により固定されている。トングレール10、11と座金18との間は絶縁材13eにより絶縁されている。以上のように、トングレール10とトングレール11との間には互いの電気的接触が起きないように複数の絶縁材が配置されている。
【0017】
本実施形態の絶縁構造において用いられる環状絶縁体1は、図3に示すように、環状板状の基部2の側面に外方へ向かって径が大きくなる環状ヒレ部3が突設されている。また、内径部2aは絶縁チューブ13bの外径よりも小さく形成されている。なお、基部2の側面に環状ヒレ部3を突設するにあたり、環状ヒレ部3の根本部8の位置を、環状絶縁体1に絶縁チューブ13bが圧入されるとき、内径部2aが圧縮変形する部分よりも上方とすることが望ましい。そうすることで、圧入工程をスムーズに行うことができるばかりか、内径部2aの変形により内径部2aと絶縁チューブ13bの外周面との密着状態を得ることができる。
【0018】
そして、図2に示すように、絶縁板13aとトングレール10の腹部に形成された溝状凹部4の底面部4aとの間に圧縮状態で装着された環状絶縁体1は、絶縁チューブ13bに圧入状態で外嵌され、内径部2aが絶縁チューブ13bの外周面に密着している。そして、基部2の側面(図の左側の面)が絶縁板13aに密着すると共に、弾性変形した環状ヒレ部3が底面部4aに密接している。
【0019】
本実施形態の環状絶縁体1の材質はシリコーンゴムであり、その硬度がJIS K 6301におけるHs50〜70の範囲のものを用いている。また、環状絶縁体1の材質は、シリコーンゴム以外に、EPDM(エチレンープロピレンージエンゴム)、EPM(エチレンープロピレン共重合ゴム)等を用いることもできる。
【0020】
従って、上記実施形態の伸縮継目の絶縁構造によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、環状絶縁体1を絶縁板13aに密着させると共に絶縁チューブ13bに圧入状態で外嵌するようにしたので、絶縁板13aと溝状凹部4との間の空間に侵入した雨水が、絶縁板13aの内径部を通過してトングレール11の貫通孔6に入り込むことがない。従って、錆の発生を抑えてマグネタイト7の生成を抑制し、トングレール10とトングレール11との間の通電による信号回路の短絡を防止する伸縮継目の絶縁構造を提供することができる。
【0021】
(2)上記実施形態では、環状絶縁体1の環状ヒレ部3が弾性変形して底面部4aに密接するようにした。そのため、底面部4aの肌が平滑面ではない場合であっても、環状ヒレ部3の底面部4aに対する密接により、環状ヒレ部3と絶縁チューブ13bとの間に赤錆が入り込むことが防止される。従って、トングレール10とトングレール11との間の通電を防止する伸縮継目の絶縁構造を提供することができる。
【0022】
(第2〜5の実施形態)
次に、本発明を具体化した第2〜5の実施形態としての環状絶縁体を、第1実施形態の環状絶縁体1と異なる部分を中心に図4(a)〜(d)を用いて説明する。
【0023】
図4(a)に示すように、第2の実施形態の環状絶縁体41は、基部2に外方へ向かって径が大きくなる環状ヒレ部3a、3bが並設されている。そして、この環状ヒレ部3a、3bは、その肉厚が環状絶縁体1の肉厚よりも薄く形成されているので、環状絶縁体41が絶縁板13aと底面部4aとの間に圧縮状態で装着されるとき、容易に弾性変形して底面部4aに密接することができる。
【0024】
従って、この第2の実施形態においては、前記第1の実施形態の効果に加えて以下の効果を得ることができる。
(3)上記第2の実施形態では、環状絶縁体41の基部2の二ヶ所に肉厚の薄い環状ヒレ部3a及び環状ヒレ部3bを形成したので、環状ヒレ部3a、3bの底面部4aに対するより確実な密接状態を得ることができる。
【0025】
図4(b)に示すように、第3の実施形態の環状絶縁体42は、基部2に外方へ向かって径が小さくなる環状ヒレ部3cが突設されている。この環状ヒレ部3cの先端の内径部42aは、環状絶縁体42に絶縁チューブ13bが圧入されたとき、絶縁チューブ13bの外周面に密着可能な内径となっている。そして、本実施形態では、内径部2aと内径部42aとはそれぞれの内径が同一径となっている。
【0026】
従って、この第3の実施形態においては、前記第1、2の実施形態の効果に加えて以下の効果を得ることができる。
(4)上記第3の実施形態では、環状絶縁体42の基部2に環状ヒレ部3cを突設して、基部2の内径部2aと環状ヒレ部3cの内径部42aとが絶縁チューブ13bの外周面に密着するようにした。そのため、トングレール11の貫通孔6への発錆原因である雨水の侵入をより確実に防止することができる。
【0027】
図4(c)に示すように、第4の実施形態の環状絶縁体43は、内面、右側面、外面及び左側面の4面に環状溝43a、43b、43c、43dが形成された板状の環状体である。環状絶縁体43は、この環状溝43a、43b、43c、43dの存在により剛性が適度に低減されて、弾性変形が容易となり、環状絶縁体43の絶縁板13aに対する密着性が高められる。また、環状絶縁体43の底面部4aに対する密接性及び絶縁チューブ13bの外周面に対する密着性が高められる。
【0028】
従って、この第4の実施形態においては、前記第1〜3の実施形態の効果に加えて以下の効果を得ることができる。
(5)上記第4の実施形態では、環状絶縁体43の4面に環状溝43a、43b、43c、43dを形成したので、環状絶縁体43は弾性変形容易となり、特に底面部4a及び絶縁チューブ13bの外周面に対して環状絶縁体43は2ヶ所で密接することが可能となる。従って、絶縁チューブ13bに対する雨水による発錆及び貫通孔6への雨水の侵入を防止することができる。
【0029】
図4(d)に示すように、第5の実施形態の環状絶縁体44は、4ヶ所の角を円弧状とした長方形の断面を有する環状体であり、シリコーンゴム等のゴム製の発泡体で形成されている。そのため、環状絶縁体44の側面の略全面がトングレール10の底面部4aに密接することができる。
【0030】
従って、この第5の実施形態においては、前記第1〜4の実施形態の効果に加えて以下の効果を得ることができる。
(6)上記第5の実施形態では、環状絶縁体44をゴム製発泡体で形成したので、環状絶縁体44の側面の略全面がトングレール10の底面部4aに密接することができる。そのため、絶縁チューブ13bに対する雨水による発錆をより確実に防止することができる。
【0031】
(変更例)
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、環状絶縁体1、41、42、43、44を絶縁板13aとトングレール10の底面部4aとの間で絶縁チューブ13bに外嵌して装着する際、液状ガスケットを用いなかったが、予め環状絶縁体1、41、42、43、44に液状ガスケットを塗布すること。
・上記実施形態では、絶縁チューブ13bとして中空円筒体を用いたが、その中空円筒体において、ボルト14に外嵌されたときねじ側に位置する端部の外周をテーパー状にすること。そうすることで、そのテーパー状の端部を環状絶縁体1、41、42、43、44に圧入することがより容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の伸縮継目の絶縁構造の第1の実施形態を模式的に示す一部断面図。
【図2】図1のA部拡大図。
【図3】第1の実施形態の環状絶縁体を示す、(a)は断面図、(b)は右側面図。
【図4】(a)〜(d)は第2〜5の実施形態の環状絶縁体を示す断面図。
【図5】従来の伸縮継目の絶縁構造を模式的に示す一部断面図。
【図6】図5のB部拡大図。
【符号の説明】
【0033】
1,41,42,43,44…環状絶縁体、2…基部、2a,42a…内径部、3,3a,3b,3c…環状ヒレ部、4…溝状凹部、4a…底面部、6…貫通孔、10,11…トングレール、13a…絶縁板、13b…絶縁チューブ、14…ボルト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁板を介してボルトにより接合される一対のトングレールよりなる伸縮継目の絶縁構造であって、前記一対のトングレール及び絶縁板には、前記ボルトが挿通される貫通孔が形成され、その貫通孔に絶縁チューブが挿通されて、前記一対のトングレールとボルトとが絶縁されている絶縁構造において、前記一対のトングレールのうちの一つのトングレールの前記絶縁板に対向する腹部には溝状凹部が形成され、その溝状凹部と前記絶縁板との間に形成される空間において、環状絶縁体が前記絶縁板に密着すると共に前記絶縁チューブに外嵌されていることを特徴とする伸縮継目の絶縁構造。
【請求項2】
前記絶縁チューブは、前記環状絶縁体の内径部に圧入されていることを特徴とする請求項1に記載の伸縮継目の絶縁構造。
【請求項3】
前記環状絶縁体は、前記絶縁板と前記溝状凹部の底面部とにより圧縮状態に挟持されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の伸縮継目の絶縁構造。
【請求項4】
前記環状絶縁体は、環状板状の基部に環状ヒレ部が突設され、その環状ヒレ部が前記底面部に密接されていることを特徴とする請求項3に記載の伸縮継目の絶縁構造。
【請求項5】
前記環状絶縁体は、シリコーンゴムで形成されていることを特徴とする請求項1ないし4のうちいずれか一項に記載の伸縮継目の絶縁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−43429(P2010−43429A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206877(P2008−206877)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】(593206986)株式会社関ヶ原製作所 (18)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(591256701)日本機械保線株式会社 (3)