説明

位相差フィルム、光学部材、画像表示装置、及び光学部材の製造方法

【課題】優れた位相差機能を有し、かつ配向角を所望の範囲に調整することができる位相差フィルム、この位相差フィルムを用いた光学部材、画像表示装置、及びこの位相差フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】混合樹脂を含む位相差フィルムにおいて、混合樹脂に、プロピレン系重合体を含むポリプロピレンと、ポリイソブチレンと、位相差調整剤を含有せしめることで上記課題を解決している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルム、光学部材、画像表示装置、及び光学部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置や有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置などの表示装置が、テレビジョン、コンピューター、あるいは携帯電話などに幅広く採用されており、市場の広がりとともに、表示装置の更なる薄型化・低コスト化に対する要請も強くなっている。表示装置の一例として、液晶表示装置の構成例を図3に示す。図3に示される液晶表示装置は、液晶セル6を有し、この液晶セル6の片面側に従来の位相差板5と光学部材4aとが配置されている。そして光学部材4aは、中央に偏光子3を有し、この偏光子3の両面側に接着剤層2を介して偏光子保護膜1bが形成されている。
【0003】
上記表示装置に用いられる光学部材は、直交する偏光成分のうち一方を透過させ、他方を遮蔽する機能を有する光学部材である。この光学部材としては、偏光子の片面側又は両面側に偏光子保護膜が形成されたものが、一般に使用されている。この偏光子は、特定の振動方向をもつ光のみを透過させる機能を有するものであり、ヨウ素や二色性染料などで染色した一軸延伸型のポリビニルアルコール(PVA)系フィルムが広く用いられている。
【0004】
また、偏光子保護膜は、偏光子を支持して光学部材全体に実用的な強度を付与し、かつ偏光子の表面を物理的に保護するなどの機能を担うものである。そのため、偏光子保護膜には、実用的な強度を有すること、透明性が良好であること、モアレ模様などの光学的な不均一性が低いことなどの性能が求められる。そのため、偏光子保護膜としては、セルロース系フィルムであるトリアセチルセルロース(以下、TACと称することがある。)フィルムが一般的に用いられている。
【0005】
ところで、位相差フィルムは、直交する偏光成分の間に位相差を生じさせる複屈折性を有する光学部材であり、位相差を補償するいわゆる光学補償に用いられている。ポジティブAプレート特性を有する位相差フィルムは、どの方向から光が入射しても屈折率が変わらない光を常光とし、光の入射方向によって屈折率が変化する光を異常光としたときに、面内に光軸をもち異常光屈折率が常光屈折率よりも大きい位相差フィルムである。ポジティブAプレート特性を有する位相差フィルムは、例えば、垂直配向(VA)モード型の液晶表示装置において、二枚の光学部材を直交(クロスニコル)配置した際の直交性を斜め視覚において保持する目的で、偏光子と液晶セルとの間に配置され、いわゆる視野角拡大フィルムとして用いられている。また、有機EL表示装置では、適当なポジティブAプレート特性を有する位相差フィルムを偏光子と透明電極との間に配置することで、透明電極の鏡面を外部から視認させない遮蔽効果を得ることができる。
【0006】
しかし、上記の偏光子保護膜として一般的に用いられるTACフィルムは、ポジティブAプレート特性を有する位相差フィルムとして使用することは困難である。これは、TACフィルムの防湿性が不十分であり、吸水によってフィルムの寸法が変化し、あるいは透過した水分によって偏光子の性能が低下する問題があるからである。さらに、TACフィルム自体にポジティブAプレート特性を付与するためには、ポジティブAプレート特性を有する位相差フィルムを別途採用するか、あるいはTACフィルムの表面にポジティブAプレート特性を有する位相差層を別途形成することが必要となり、コストの面からみても好ましくない。
【0007】
ところで近年、液晶ディスプレイの低コスト化の要求に伴って、使用する光学部材の薄型化及び軽量化がさらに求められており、液晶表示装置に用いる位相差フィルムに対しても薄膜化が必要とされている。他方、位相差フィルムとして実用するためには、透明性や位相差性能といった光学特性や、防湿性という基本的特性の要求事項に加えて、光学部材を製造する際の量産適性を備えていることが必要となる。
【0008】
例えば、光学部材を広幅で、あるいは高速で安定的に生産するためには、シート状の偏光子と位相差フィルムの貼り合わせをロール・ツウ・ロール方式で高速に行うことが望ましい。しかしながら、偏光子フィルムは一般に長手方向に垂直な方向に透過軸を有するのに対し、位相差フィルムは、フィルムの長手方向と同じ方向に遅相軸がある。したがって、位相差フィルムとシート状の偏光子との貼り合わせを行う場合には、ロール・ツウ・ロール方式を採用することができず、位相差フィルム切り出して90度回転させたのちに偏光子フィルムと張り合わせる必要があった。
【0009】
かかる問題は、位相差フィルムの遅相軸を偏光子の透過軸と平行にすることで解決することができる。換言すれば、偏光子の透過軸の角度を90°としたとき、位相差フィルムの配向角を透過軸の角度に近づけることで、ロール・ツウ・ロールでの貼り合わせが可能となる。このような状況下、位相差フィルムの遅相軸を偏光子フィルムの透過軸と平行にする各種の方法が提案されている。偏光子フィルムの透過軸と位相差フィルムの遅相軸を平行にする方法として、例えば、特許文献1には、製膜して得られたポリプロピレン系樹脂の原反フィルムを延伸して配向角を制御する手法が開示されている。また、特許文献2には、液晶分子をラビングすることにより、フィルムの遅相軸を偏光子の透過軸に合せる手法が開示されている。また、特許文献3には、コンベア設備で液晶を配向させる方法が開示されている。なお、コンベア設備とは、互いに平行に且つ近接させて無端状に配置した複数のラビングロールからなるラビングロール列を、ラビングロールが配向膜付シートの長手方向と交差する方向に且つ前記配向膜付シートに接触しながら走行するラビング処理経路を通って走行させると共に少なくとも配向膜付シートに接触しているラビングロールを回転させてラビング処理する構成としたものである。この方法では配向膜付シートを連続的に搬送している状態で該配向膜付シートの長手方向に対して垂直方向にラビング処理することを可能となる。またさらに特許文献4には、材料を光配向や磁場配向により材料の配向角を制御する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−221719号公報
【特許文献2】特開2006−126820号公報
【特許文献3】特開2005−300878号公報
【特許文献4】特開2005−173503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記の特許文献1〜4に開示がされている方法では、位相差フィルムの位相差の調整、配向角の調整、さらに位相差フィルムの薄膜化や、光学部材の低コスト化については未だ改善の余地がある。本発明は、このような状況においてなされたものであり、優れた位相差機能を有し、かつ配向角を所望の範囲に調整することができる位相差フィルムを提供すること、また、優れた位相差機能を有する光学部材や画像表示装置を提供すること、及び光学部材を高速で安定的に製造することができる製造方法を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、混合樹脂を含む位相差フィルムにおいて、前記混合樹脂が、プロピレン系重合体を含むポリプロピレンと、ポリイソブチレンと、位相差調整剤を含むことを特徴とする。
【0013】
また、上記課題を解決するための本発明は、偏光子の少なくとも片面に位相差フィルムが形成された光学部材であって、前記位相差フィルムが混合樹脂を含み、該混合樹脂が、プロピレン系重合体を含むポリプロピレンと、ポリイソブチレンと、位相差調整剤を含むことを特徴とする。
【0014】
また、上記課題を解決するための本発明は、光学部材が用いられてなる画像表示装置であって、前記光学部材が、偏光子の少なくとも片面に位相差フィルムが形成されてなる光学部材であり、前記位相差フィルムが混合樹脂を含み、該混合樹脂は、プロピレン系重合体を含むポリプロピレンと、ポリイソブチレンと、位相差調整剤を含むことを特徴とする。
【0015】
また、上記課題を解決するための本発明の方法は、シート状の偏光子フィルムと、シート状の位相差フィルムの張り合わせをロール・ツウ・ロール方式によって行い光学部材を製造する光学部材の製造方法であって、前記シート状の位相差フィルムが混合樹脂を含み、該混合樹脂が、プロピレン系重合体を含むポリプロピレンと、ポリイソブチレンと、位相差調整剤を含み、前記ポリプロピレンと、ポリイソブチレンと、位相差調整剤の合計質量に対し、前記ポリイソブチレンの含有量が、0.3質量%以上3.5質量%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の位相差フィルムによれば、優れた位相差機能を有し、かつ配向角を所望の範囲に調整することができる。また、この位相差フィルムを用いることで優れた位相差機能を有する光学部材、画像表示装置を提供することができる。また、本発明の光学部材の製造方法によれば、偏光子の透過軸と位相差フィルムの遅相軸を平行にすることでロール・ツウ・ロール方式による貼り合わせが可能となり光学部材を高速で安定的に生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の光学部材の構成例を示す図である。
【図2】本発明の画像表示装置の構成例を示す図である。
【図3】液晶表示装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<位相差フィルム>
以下、本発明の位相差フィルムについて具体的に説明する。本発明の位相差フィルムは、混合樹脂を含み、この混合樹脂が、プロピレン系重合体を含むポリプロピレンと、ポリイソブチレンと、位相差調整剤を含むことに特徴を有するものである。
【0019】
(プロピレン系重合体を含むポリプロピレン)
本発明において、ポリプロピレンとは、プロピレン系重合体、すなわちプロピレンの単独重合体、あるいはプロピレンと1種以上のコモノマーとの共重合体(以下「プロピレン系共重合体」と称する場合がある。)を含んでなるものである。本発明においては、プロピレン単独重合体、プロピレン系共重合体のいずれでもよく、これらを単独で用いてもよいし、プロピレン単独重合体と1種以上のプロピレン系共重合体とを混合したものを用いてもよいし、2種以上のプロピレン系共重合体を混合して用いてもよい。また、プロピレン由来の構成単位の割合、分子量、あるいはタクティシティーなどが異なるポリプロピレン単独重合体又はプロピレン系共重合体を混合して用いてもよい。
【0020】
特に、透明性その他光学特性や紫外線吸収剤混合物のブリードアウトのしにくさを考慮すると、プロピレン系共重合体は、プロピレンとα−オレフィンとのランダム共重合体であることが好ましい。
【0021】
α−オレフィンとしては、エチレン、炭素数4〜18のα−オレフィンが好ましく、より好ましくは炭素数4〜12のα−オレフィンが挙げられ、共重合性の観点から、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ヘプテン、4−メチル−ペンテン−1、4−メチル−ヘキセン−1、4,4−ジメチルペンテン−1などが好ましく、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン及び1−オクテンがより好ましく、1−ブテン及び1−ヘキセンがさらに好ましい。共重合体中のプロピレン単位の割合は、透明性と耐熱性のバランスの観点から、好ましくは80モル%以上100モル%未満であり、コモノマーは0超〜20モル%以下である。コモノマーとして、前記のα−オレフィンは1種類に限られず、2種類以上を用いることができ、共重合体をターポリマーのような多元系共重合体とすることもできる。なお、共重合体におけるコモノマー由来の構成単位の含量は、赤外線(IR)吸収スペクトルの測定により求めることができる。
【0022】
また、ポリプロピレンは、紫外線吸収剤混合物のブリードアウトのしにくさを考慮すると、チーグラー・ナッタ触媒、あるいはメタロセン触媒などの公知の重合触媒を用いて重合されたプロピレン系重合体からなるものであることが好ましく、より透明性に優れる観点からメタロセン触媒を用いて重合されたプロピレン系重合体からなるものであることが好ましい。
【0023】
(プロピレン系重合体の物性)
本発明で用いられるプロピレン系重合体は、その融点(Tm)が120〜170℃であることが好ましい。融点(Tm)が上記範囲内であれば、位相差フィルムの耐熱性が向上し、光学部材のような耐熱を要する用途への使用が可能となる。ここで融点とは、示差走査型熱量計(DSC)によって測定された融解曲線において最高強度のピークが現われている温度で評価され、プロピレン系重合体のプレスフィルム10mgを、窒素雰囲気下、230℃で5分間熱処理後、降温速度10℃/分で30℃まで冷却して30℃において5分間保温し、さらに30℃から230℃まで昇温速度10℃/分で加熱した際の融解ピーク温度として求めた値である。
【0024】
また、プロピレン系重合体は、メルトフローレート(MFR)が、0.5〜50g/10分であることが好ましく、より好ましくは7g/10分以上である。プロピレン系重合体のMFRが上記範囲内であれば、未延伸フィルム製膜時にひずみが発生しにくいので、複屈折が小さい位相差フィルムを得ることができる。また、位相差フィルムとして十分な強度が得られ、後加工を容易に行うことができる。さらに、MFR調整剤などの添加剤の添加量をおさえることができるので、物性に悪影響を与えることもない。なお、混合物のMFRの調整は、例えば有機過酸化物などの一般的なMFR調整剤などによって行うこともできる。なお、MFRの値は、JIS K7210に準拠し、温度230℃、荷重21.18Nの条件で測定される値である。
【0025】
プロピレン系重合体の分子量分布の幅は、数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比(分散度)で評価することができ、Mw/Mn=1〜20であることが好ましい。
なお、Mn及びMwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)にて、溶媒に140℃のo−ジクロロベンゼンを用い、標準サンプルにポリスチレンを用いた条件で測定する。
【0026】
(ポリイソブチレン)
位相差フィルムを構成する混合樹脂には、配向角を調整するためのポリイソブチレンが含有されている。本発明では、位相差フィルムを構成する混合樹脂にポリイソブチレンを含有せしめることによって配向角の調整が図られている。例えば、ポリイソブチレンの含有量を適宜調整することによって、偏光子フィルムの透過軸と位相差フィルムの遅相軸が略平行となるように位相差フィルムの配向角を調整することができ、シート状の偏光子フィルムとシート状の位相差フィルムの貼り合わせをロール・ツウ・ロール方式で高速に行うことが可能となる。
【0027】
ポリイソブチレンを含有せしめることで配向角が調整される明確なメカニズムは現在のところ必ずしも明らかとなってはいないが、ポリイソブチレンの連続的な分子構造によって、混合樹脂中の配向状態に規則性が生じ、これにより配向角が上記所望の範囲に調整されるものと推察される。
【0028】
ポリイソブチレンは、従来ゴム成分として、あるいは樹脂の成形性や接着性の向上のために用いられる添加剤として知られるものである(例えば、特開平9−208907号公報、特開2008−31315号公報参照)が、本発明で用いるポリイソブチレンは具体的には分子量が下記の範囲にあるポリイソブチレンを好ましく使用することができる。
【0029】
本発明において、ポリイソブチレンとしての数平均分子量Mnは、11,000以上130,000以下の範囲であることが好ましい。数平均分子量が11,000以上であれば、混合樹脂が伸びやすくならず、成形時にフィルムが延伸されることがなく、光学特性が悪化することがない。また、配向角の調整が容易である。数平均分子量が130,000以下であれば、ポリイソブチレンの取り扱いが容易であり、また混合樹脂の混練性が悪化することがないので、シワや裂けが発生しにくくなり、平滑なフィルムを得ることができる。また、十分な強度と剛性が得られるので、位相差フィルムの量産適性が良好となる。
【0030】
数平均分子量Mnは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定された値であり、より具体的には室温でキシレンに溶かし、標準サンプルにポリスチレンを用いた条件で測定された値である。
【0031】
混合樹脂の総質量に対し、すなわちポリプロピレンと、ポリイソブチレンと、位相差調整剤の合計質量を100質量%としたときに、ポリイソブチレンは、0.1〜3.5質量%の範囲で含有されていることが好ましい。0.1質量%未満の場合には配向角の調整効果を発揮することができない場合があり、3.5質量%より多い場合には位相差フィルムの混練性が悪くなり、フィルムの配向角のバラツキが大きく、配向角の調整が困難となる場合があるためである。
【0032】
また、混合樹脂中のポリイソブチレンの含有量を0.3〜3.5質量%の範囲内とした場合には、配向角のバラツキを抑えつつ、配向角を70〜100°程度に調整することができ、後述する偏光子フィルムとの張り合わせをロール・ツウ・ロール方式で行うことができる。
【0033】
なお、本願明細書では、フィルムの遅相軸のフィルム長手方向に対する角度を「配向角」とする。遅相軸がフィルム長手方向に対して平行である場合を0°、垂直である場合を90°とする。配向角は位相差測定装置(位相差測定機(「KOBRA−WR(型番)」、王子計測機器(株)製))にて測定することができる。
【0034】
(位相差調整剤)
混合樹脂には、上記のプロピレン系重合体を含むポリプロピレン、ポリイソブチレンに加えて、位相差調整剤が含まれている。位相差調整剤は、本発明の位相差フィルムに位相差性能を付与するための成分である。
【0035】
位相差調整剤について特に限定はないが、本発明では、リン酸エステル金属塩、アミド化合物、ロジン類金属塩等を好ましく用いることができる。これらの成分は、少量の添加で位相差調整機能を発現し、位相差フィルムの製造時にブリード不良、いわゆる染み出しを生じることがなく、さらに耐熱性やポリプロピレンに対する分散性も優れる点で好ましい。
【0036】
(リン酸エステル金属塩)
リン酸エステル金属塩としては、リン酸が有する3個の水素の一部又は全部が金属又は有機基で置き換わった構造を有し、少なくとも金属を含むものであれば特に制限はないが、例えば、下記一般式(1)あるいは(2)で示されるリン酸エステル金属塩が好ましく挙げられる。
【0037】
【化1】

【0038】
ここで、式(1)中、R1は単結合、硫黄原子又は炭素数1〜9の二価の有機基を示す。二価の有機基としては、二価の脂肪族基や、二価の芳香族基などが挙げられ、二価の脂肪族基としては、例えば、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基、アルキリデン基、アルケニレン基などが挙げられる。また、二価の芳香族基としては、フェニレン基や、ビフェニレン基、ナフチレン基などが挙げられる。また、これらの基は、ハロゲン原子、置換基を有していてもよく、複数のR1は同じでも異なっていてもよい。
【0039】
2〜R5は各々独立に水素原子又は炭素数1〜12の一価の有機基を示す。一価の有機基としては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基あるいはアラルキル基などが好ましく挙げられる。これらの基は、上記したようにハロゲン原子、置換基を有していてもよい。また、R2〜R5は互いに結合して環状構造を形成したものでもよく、複数のR2〜R5は、同じでも異なっていてもよい。
【0040】
1はアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子又はアルミニウム原子を示す。M1がアルカリ金属原子のときp1は1を、q1は0を示し、M1がアルカリ土類金属のときp1は2を、q1は0であり、M1が亜鉛原子のときp1は2を、q1は0を示し、M1がアルミニウム原子のときp1は1〜3を、q1は3−pを示す。
【0041】
式(2)中、R6〜R8は各々独立に水素原子又は炭素数1〜12の一価の有機基を示す。炭素数1〜12の一価の有機基は、上記したものと同じである。また、複数のR6〜R8は同じでも異なっていてもよい。M2、p2及びq2は各々上記したM1、p1及びq1と同じである。上記した式(1)及び(2)で示されるリン酸エステル金属塩は、それぞれ単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0042】
透明性の観点からリン酸エステル金属塩は、環状リン酸エステル金属塩が好ましく、金属がアルカリ金属、とりわけリチウム及びナトリウムであることが好ましく、ベンゼン環に少なくとも一つのブチル基を有する金属塩、すなわち、ナトリウム2,2'−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2'−メチレンビス(4−i−プロピル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2'−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2'−エチリデンビス(4−s−ブチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2'−ブチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム2,2'−t−オクチルメチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム(4,4'−ジメチル−5,6−ジ−t−ブチル−2,2'−ビフェニル)フォスフェートなどの環状リン酸エステルナトリウム塩、及びこれらのナトリウムをリチウムに置き換えた環状リン酸エステルリチウム塩が好ましい。これらの中でも、特にナトリウム2,2'−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム2,2'−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェートが好ましい。
【0043】
リン酸エステル金属塩のポリプロピレンに対する配合量は、所望の面内位相差の値に応じて、適宜設定することができる。なお、配合量を増やすと得られる面内位相差の値が大きくなる。一方で配合量を増やしすぎた場合には、反面ブリードなどにより白化が生じ、外観不良を生じることがある。
【0044】
上記の点から、リン酸エステル金属塩の配合量は、混合樹脂の総質量に対し、すなわちポリプロピレンと、ポリイソブチレンと、位相差調整剤の合計質量を100質量%としたときに、0.05〜4質量%の範囲内で含有されていることが好ましい。リン酸エステル金属塩の配合量が上記範囲内であれば、外観不良を生じさせることない。また、リン酸エステル金属塩の配合量を上記範囲内とすることで、ポジティブAプレート特性を有する位相差フィルムに対して一般的に要求される位相差の範囲に調節することができる。
【0045】
(アミド化合物)
アミド化合物としては、1,2,3−プロパントリカルボン酸アミド化合物や1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸アミド化合物を好適に使用することができる。アミド化合物とは、所定のポリカルボン酸又はその酸無水物と1種若しくは2種以上のモノアミンとを、従来公知の方法に従ってアミド化の反応した生成物であり、従来、ポリオレフィン樹脂の透明性、結晶性及び剛性を改善するための結晶核剤として、アミド系化合物を活用する技術が提案され(例えば、日本特許第3401868号公報,特開平7−242610号公報,WO00/52089号公報)、一般にポリプロピレンでは、チーグラー・ナッタ系触媒を用いて重合されたに添加され得ることが知られている。アミド化合物は、面内位相差を所望の範囲内に調整することができる点や、耐熱性やポリプロピレンに対する相溶性に優れており、ブレンド後にブリード不良(染み出し)を生じることがない点で好ましい。
【0046】
アミド化合物のポリプロピレンに対する配合量は、所望の面内位相差の値に応じて、適宜設定することができる。配合量を増やすと得られる面内位相差の値が大きくなる。一方で配合量を増やしすぎた場合には、反面ブリードなどにより白化が生じ、外観不良を生じることがある。
【0047】
上記の点から、アミド化合物の配合量は、混合樹脂の総質量に対し、すなわちポリプロピレンと、ポリイソブチレンと、位相差調整剤の合計質量を100質量%としたときに、0.1〜4質量%の範囲内で含有されていることが好ましい。アミド化合物の配合量が上記範囲内であれば、外観不良を生じさせることない。また、アミド化合物の配合量を上記範囲内とすることで、ポジティブAプレート特性を有する位相差フィルムに対して一般的に要求される位相差の範囲に調節することができる。
【0048】
(ロジン類金属塩)
ロジン類としては、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジンなどの天然ロジン;不均化ロジン、水素化ロジン、脱水素化ロジン、重合ロジン、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸変性ロジンなどの各種変性ロジン;前記天然ロジンの精製物、変性ロジンの精製物などを例示できる。ここで、ロジン類は、ピマル酸、サンダラコピマル酸、パラストリン酸、イソピマル酸、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ネオアビエチン酸、ジヒドロピマル酸、ジヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸などから選ばれる樹脂酸を単数又は複数含む。なお、前記のα, β-エチレン性不飽和カルボン酸変性ロジンの調製に用いられる不飽和カルボン酸としては、たとえばマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、アクリル酸、メタクリル酸などを挙げることができる。
【0049】
前記のロジン類の中では、天然ロジン、変性ロジン、天然ロジンの精製物及び変性ロジンの精製物からなる群より選ばれる少なくとも一種のロジン類であることが好ましい。
【0050】
ロジン類と反応して金属塩を形成する金属化合物としては、ナトリウム、カリウム、及びマグネシウムなどの金属元素を有し、かつ前記のロジン類と造塩する化合物が挙げられる。具体的には、前記の金属元素の塩化物、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酸化物、水酸化物などが挙げられる。
【0051】
ロジン類金属塩は、前記ロジン類のナトリウム塩、前記ロジン類のカリウム塩及び前記ロジン類のマグネシウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一種のロジン類金属塩であることが好ましい。また、ロジン類金属塩が、水素化ロジンの金属塩、不均化ロジンの金属塩及び脱水素化ロジンの金属塩からなる群より選ばれる少なくとも一種のロジン類金属塩であることが好ましい。さらに、デヒドロアビエチン酸金属塩、ジヒドロアビエチン酸金属塩及びジヒドロピマル酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも一種のロジン類金属塩であることがより好ましい。
【0052】
ロジン類金属塩のポリプロピレンに対する配合割合は、所望の面内位相差の値に応じて、適宜選択することができる。配合割合を増やすと得られる面内位相差の値が大きくなる。一方で配合量を増やしすぎた場合には、反面ブリードなどにより白化が生じ、外観不良を生じることがある。
【0053】
上記の観点から、ロジン類金属塩の配合量は、混合樹脂の総質量、すなわちポリプロピレンと、ポリイソブチレンと、位相差調整剤の合計質量を100質量%としたときに、0.03〜1質量%の範囲内で含有されていることが好ましい。ロジン類金属塩の配合量を上記範囲内とすることで、ポジティブAプレート特性を有する位相差フィルムに対して一般的に要求される位相差の範囲に調節することができる。
【0054】
(その他の成分)
本発明において、所望に応じて各種の添加剤や添加樹脂を、位相差フィルムを構成する混合樹脂の任意成分として添加することができる。
【0055】
位相差フィルムの厚さは、10〜200μmの範囲が好ましく、30〜150μmがより好ましい。厚さが10μm以上であると、位相差フィルムの強度を確保することができる。厚さが200μm以下であると、十分な可とう性が得られ、軽量であることからハンドリングが容易であり、かつコスト的にも有利である。
【0056】
また、位相差フィルムの曲げ弾性率は700MPa以上であることが好ましく、900MPa以上であることが更に好ましい。曲げ弾性率をこの範囲内とすることで、フィルム状態で取り扱う際の十分な剛性が得られ、後加工を容易に行うことができるからである。さらには、Tダイ押出し成形で製造した場合に、面内位相差を安定させることができるからである。
【0057】
位相差フィルムの曲げ弾性率は、例えば、ポリプロピレン本来の特性(結晶化度、平均分子量等)で選択する方法、樹脂に無機質あるいは有機質の充填剤から選ばれた充填剤を添加する方法、架橋剤などを添加する方法、弾性率の異なる2種類以上の樹脂を混合する方法、硬化性樹脂の可塑剤組成分を選択する方法などを用いて、あるいはこれらの方法を適宜複数組み合わせて用いて、所望の範囲に調整することができる。
【0058】
また、本発明の位相差フィルムを、VAモードの液晶表示装置に用いる場合には、位相差フィルムの面内位相差は、40〜200nmの範囲内となるように、位相差が調整されていることが好ましいが、本発明の位相差フィルムにおける面内位相差がこの範囲内であることに限定されるものではない。例えば、本発明の位相差フィルムを複数枚積層させたときの合計の面内位相差が40〜200nmとなるように、適宜位相差フィルムの面内位相差を設定するもできる。
【0059】
(位相差フィルムの製造方法)
位相差フィルムの製造方法について特に限定はないが、以下の方法によって好適に製造することができる。具体的には、工程(1);プロピレン共重合体を含むポリプロピレンを得る工程、工程(2);ポリプロピレンと、上記で説明したポリイソブチレンと、位相差調整剤、所望に応じて各種の添加剤や添加樹脂とを混合し、加熱溶融させてポリプロピレン組成物を得る工程、工程(3);ポリプロピレン組成物を、押出しコーティング成形法、キャスト法、Tダイ押出し成形法、インフレーション法、射出成形法などの各種成形法で、フィルム形状に成形加工する工程を経て製造することができる。
【0060】
加工時の加熱温度は、通常160〜250℃の範囲であり、好ましくは190〜250℃である。加熱温度が上記範囲内であれば、より性能安定性に優れる位相差フィルムを得ることができる。
【0061】
本発明の位相差フィルムは、延伸処理を行っても行わなくてもよい。延伸に伴う面内位相差のばらつきや内部熱収縮応力が発生せず、高品質の位相差フィルムを安定して製造することが容易となることや、工数削減によるコスト低減が可能となり、位相差フィルムのコストを下げることができることなどの観点からは、延伸処理を行わないことが好ましい。
【0062】
<光学部材>
次に本発明の光学部材について説明する。本発明の光学部材は、偏光子の少なくとも片面に位相差フィルムが形成された光学部材であって、前記位相差フィルムが混合樹脂を含み、該混合樹脂が、プロピレン系重合体を含むポリプロピレンと、ポリイソブチレンと、位相差調整剤を含む点に特徴を有するものである。
【0063】
位相差フィルムは、上記で説明した本発明の「位相差フィルム」をそのまま用いることができ、ここでの説明は省略する。
【0064】
光学部材の形成の方法としては、位相差フィルムを先に作製しておき、その後、接着剤層を介して偏光子に貼り合わせてもよいし、偏光子の上に位相差フィルムを直接成形してもよい。また、本発明の光学部材は、上記で説明したように、混合樹脂中に位相差調整剤を含有せしめることで、その面内位相差をVAモードの液晶表示装置に一般的に要求されている面内位相差に調整された光学部材とすることができる。また、本発明の位相差フィルムは、延伸処理のみで所望の位相差の値を得るのに比べて、延伸工程を行うことなく配向角や、面内位相差を所望の範囲内に容易に調整することができる。したがって、製造工程を従来に比べ少なくすることができ低コストの光学部材とすることが可能となる。
【0065】
図1に、本発明の光学部材の構成例を示す。図1において、3は偏光子であり、その片面側に接着剤層2を介して、本発明の位相差フィルムが偏光子保護膜1aとして形成され、全体として光学部材4を構成している。なお、本発明の光学部材において、位相差フィルムは必ずしも偏光子保護膜を兼ねている必要はなく、本発明の位相差フィルムと従来公知の偏光子保護膜とを組合わされた構成とすることもできる。
【0066】
(偏光子)
光学部材で用いる偏光子としては、特定の振動方向をもつ光のみを透過する機能を有する偏光子であれば如何なるものでもよいが、通常PVA系フィルムなどを延伸し、ヨウ素や二色性染料などで染色したPVA系偏光子が好ましく用いられる。
【0067】
PVA系偏光子としては、例えばPVA系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルムなどの親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料などの二色性物質を吸着させて一軸延伸したものが挙げられる。これらのなかでもPVA系フィルムとヨウ素などの二色性物質からなる偏光子が好適に用いられる。これら偏光子の厚さは特に制限されず、一般的に、1〜100μm程度である。
【0068】
(光学部材の製造方法)
光学部材は、例えば、上述のようなPVA系フィルムを一軸延伸する工程、PVA系樹脂フィルムを二色性色素で染色して、その二色性色素を吸着させる工程、二色性色素が吸着されたPVA系フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、ホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程、及びこれらの工程が施されて二色性色素が吸着配向された一軸延伸PVA系フィルムに位相差フィルムを貼り付ける工程を経て、製造される。
【0069】
<画像表示装置>
本発明の位相差フィルム及び光学部材は、表示用の各種装置に好ましく使用することができる。本発明の位相差フィルムは、位相差調整剤によって、面内位相差が所望の範囲内に調整され優れた位相差機能を有する。また、位相差調整剤によって位相差を調整することで本発明の位相差フィルムをポジティブAプレート特性を有する偏光子保護膜としても用いることができる。
【0070】
また、本発明の位相差フィルムは、偏光子保護膜として用いずに、ポジティブAプレート特性とネガティブCプレート特性が付与されていない光学部材と組み合わせて画像表示装置に用いることもできる。
【0071】
画像表示装置について特に限定はなく、例えば液晶セルを含む液晶ディスプレイ、有機EL表示装置、タッチパネルなどが挙げられる。また、液晶ディスプレイの場合、画像表示装置は、一般に、液晶セル、位相差フィルム、及び必要に応じて照明システム等の構成部品を適宜に組立てて駆動回路を組込むことなどにより形成されるが、本発明においては、上記した光学部材を使用し、かつポジティブAプレート特性を必要とする点を除いて、画像表示装置の構成には特に限定はない。例えば、液晶セルの片側又は両側に光学部材を配置した画像表示装置や、照明システムとしてバックライト又は反射板を用いたものなどの適宜な画像表示装置が例示される。なお、画像表示装置を構成するに際しては、例えば、拡散板、アンチグレア層、反射防止膜、保護板、プリズムアレイ、レンズアレイシート、光拡散板、バックライトなどの適宜な部品を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。下記に、液晶セルを含む液晶表示装置の例と有機EL表示装置の例を説明する。
【0072】
(液晶セルを含む液晶表示装置)
本発明の光学部材は、例えば液晶セルなどに積層して好適に使用される。本発明の画像表示装置の例として、図2に、液晶セルを含む液晶表示装置の構成例を示す。図2は、ポジティブAプレート特性を有するように位相差が調整された位相差フィルムが光学部材の偏光子保護膜を兼ねて用いられている例であるが、本発明の位相差フィルムと偏光子保護膜とを組み合わせた光学部材を用いてもよい。
【0073】
図2において、6は液晶セルを示す。この液晶セル6は、例えば、薄膜トランジスタ型に代表されるアクティブマトリクス駆動型などや、ツイストネマチック型、スーパーツイストネマチック型に代表される単純マトリクス駆動型などのものが例示される。この液晶セル6の上に、粘着剤層(図示せず)を介して、光学部材4が積層されたものである。光学部材4は、中心に偏光子3を有し、偏光子3の液晶セルと光学部材とが配置された面側に、接着剤層2を介して、ポジティブAプレート特性を有するように位相差が調整された偏光子保護膜1aが積層され、また、偏光子3の他方の面側にポジティブAプレート特性を有しない偏光子保護膜1bが積層されている。光学部材4と液晶セル6の積層に際しては、予め光学部材4及び/又は液晶セル6に粘着剤層を設けておくこともできる。なお、ポジティブAプレート特性以外の光学補償機能を必要とする場合は、必要な光学補償機能を有する光学フィルムを表示装置の構成部材として適宜採用することができる。
【0074】
ポジティブAプレート特性を有しない偏光子保護膜1bとしては、TACフィルムや、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレンフィルムなどを用いることができる。また、ポジティブAプレート特性以外の光学補償機能を必要とする場合は、必要な光学補償機能を有する光学フィルムを表示装置の構成部材として適宜採用することができる。
【0075】
(有機EL表示装置)
本発明の光学部材は、有機EL表示装置にも好適に使用し得る。一般に、有機EL表示装置は、透明基板上に透明電極と有機発光層と金属電極とを順に積層して発光体(有機エレクトロルミネセンス発光体)を形成している。
【0076】
このような構成の有機EL表示装置において、有機発光層は、厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため、有機発光層も透明電極と同様、光をほぼ完全に透過する。その結果、非発光時に透明基板の表面から入射し、透明電極と有機発光層とを透過して金属電極で反射した光が、再び透明基板の表面側へと出るため、外部から視認したとき、有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見える。
【0077】
電圧の印加によって発光する有機発光層の表面側に透明電極を備えるとともに、有機発光層の裏面側に金属電極を備えてなる有機エレクトロルミネセンス発光体を含む有機EL表示装置において、透明電極の表面側に光学部材を設け且つ前記透明電極と光学部材との間に複屈折層(位相差板)を設けることができる。
【0078】
光学部材は、外部から入射して金属電極で反射してきた光を偏光する作用を有するため、その偏光作用によって金属電極の鏡面を外部から視認させないという効果がある。特に、本発明の位相差板をポジティブAプレートとしての機能のみを利用する場合は、λ/4板として構成し、かつ光学部材と前記複屈折層との偏光方向のなす角をπ/4に調整すれば、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。すなわち、この有機EL表示装置に入射する外部光は、光学部材により直線偏光成分のみが透過する。この直線偏光は、一般には位相差板によって楕円偏光となるが、位相差板がλ/4板でしかも光学部材との偏光方向のなす角がπ/4のときには円偏光となる。この円偏光は、透明基板、透明電極、有機薄膜を透過し、金属電極で反射して、再び有機薄膜、透明電極、透明基板を透過して、位相差板で再び直線偏光となる。そして、この直線偏光は、光学部材の偏光方向と直交しているので、光学部材を透過できない。その結果、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
【0079】
本発明の位相差フィルムは、上記の金属電極の鏡面を遮蔽する目的で、上記の位相差板として用いることができる。
【実施例】
【0080】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってな
んら限定されるものではない。
【0081】
(実施例1)
(A)ポリプロピレン(「ウィンテックWFW4(商品名)」,日本ポリプロ(株)製,融点:135℃,曲げ弾性率:900MPa,以下「PP―A」と表記する。)98.9質量部と、(B)ポリイソブチレン(「オパノールB10SFN(商品名)」,BASF(株)社製,数平均分子量:250,000,以下「ポリイソブチレン−A」と表記する。)1質量部と、(C)リン酸エステル金属塩として環状リン酸エステルリチウム塩(アデカ(株)製,「アデカスタブ(登録商標)NAシリーズ」、以下「リン酸エステル金属塩A」と表記する。)を0.1質量部配合し、加熱溶融させて混合樹脂を得た。該混合樹脂を、加工温度200℃・引取りロール温度40℃の条件で、フィルム幅1000mm、フィルム厚み100μmでTダイ単層押し出し成形することにより、位相差フィルムを得た。
【0082】
(実施例2)
実施例1において、(A)を99.6質量部とし、(B)を0.3質量部とした以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0083】
(実施例3)
実施例1において、(A)を96.4質量部とし、(B)を3.5質量部とした以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0084】
(実施例4)
実施例1において、(B)をポリイソブチレン−B(「オパノールB50SF(商品名)」,BASF(株)社製,数平均分子量:120,000)とした以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0085】
(実施例5)
実施例1において、(A)を、ホモポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ(株)製「ノバテック(登録商標)MA3U」,MFR:15g/10分,曲げ弾性率:1700MPa,融点:160℃,重合触媒:チーグラー・ナッタ触媒、であり、以下「PP−B」と表記する。)とした以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0086】
(実施例6)
実施例1において、(C)を4−t−ブチルフェニル構造を有する環状リン酸エステルナトリウム塩(アデカ(株)製,「アデカスタブ(登録商標)NAシリーズ」、以下「リン酸エステル金属塩B」と表記する。)、とした以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0087】
(実施例7)
実施例1において、(A)を98.95質量部とし、(C)をロジン類金属塩(荒川化学工業(株)製,「パインクリスタル(登録商標)KM−1500)、(C)の配合量を0.05質量部とした以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0088】
(実施例8)
実施例1において(A)を99.8質量部とし、(B)の配合量を0.1質量部とした他は、実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0089】
(実施例9)
実施例1において(A)を94.9質量部とし、(B)の配合量を5質量部とした他は、実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0090】
(比較例1)
実施例1において、(A)を99.9質量部とし、(B)を混合しなかった以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0091】
(比較例2)
実施例1において、(A)を99質量部とし、(C)を混合しなかった以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0092】
(配向角・面内位相差の評価方法)
各実施例、及び比較例の位相差フィルムの配向角、及び面内位相差を位相差測定機(「KOBRA−WR(型番)」、王子計測機器(株)製)を用いて、波長589.3nm、入射角0度の条件で測定した。測定結果を表1に示す。なお、表1に示す測定値は、実施例、及び比較例の位相差フィルムを幅方向の中心点で1点、長手方向に1m間隔で5点、計5点測定したときの平均値である。
【0093】
(配向角のバラツキ評価)
上記配向角の測定結果から、各実施例及び比較例の配向角の標準偏差を算出し、この標準偏差に基づいて配向角のバラツキ評価を行った。配向角の標準偏差を表1に併せて示す。なお、標準偏差の値が大きいほど配向角のバラツキが大きいことを意味する。
【0094】
【表1】

【0095】
表1からも明らかなように、ポリイソブチレン、位相差調整剤を含む実施例の位相差フィルムは、所望の範囲内に配向角や面内位相差を調整することができていることがわかる。一方、ポリイソブチレンを含まない比較例1では、配向角を調整することができない。また、位相差調整剤を含まない比較例2によれば、面内位相差を調整することができない。また、ポリイソブチレンの含有量を所定の範囲に調整した本発明の一実施形態である実施例1〜7の位相差フィルムでは、配向角のバラツキを低減させることができることが確認された。
【0096】
また、偏光子フィルムの透過軸の角度が90°であるとしたときに、各実施例では、配向角が90°近傍に調整されていることから、ロール・ツウ・ロールでの貼り合わせに適している。
【符号の説明】
【0097】
1a:位相差フィルム
2:接着剤層
3:偏光子
4:光学部材
4a:従来の光学部材
5:従来の位相差板(複屈折板)
6:液晶セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合樹脂を含む位相差フィルムにおいて、
前記混合樹脂が、プロピレン系重合体を含むポリプロピレンと、ポリイソブチレンと、位相差調整剤を含むことを特徴とする位相差フィルム。
【請求項2】
偏光子の少なくとも片面に位相差フィルムが形成された光学部材であって、
前記位相差フィルムが混合樹脂を含み、該混合樹脂が、プロピレン系重合体を含むポリプロピレンと、ポリイソブチレンと、位相差調整剤を含むことを特徴とする光学部材。
【請求項3】
光学部材が用いられてなる画像表示装置であって、
前記光学部材が、偏光子の少なくとも片面に位相差フィルムが形成されてなる光学部材であり、
前記位相差フィルムが混合樹脂を含み、該混合樹脂は、プロピレン系重合体を含むポリプロピレンと、ポリイソブチレンと、位相差調整剤を含むことを特徴とする画像表示装置。
【請求項4】
シート状の偏光子フィルムと、シート状の位相差フィルムの張り合わせをロール・ツウ・ロール方式によって行い光学部材を製造する光学部材の製造方法であって、
前記シート状の位相差フィルムが混合樹脂を含み、該混合樹脂が、プロピレン系重合体を含むポリプロピレンと、ポリイソブチレンと、位相差調整剤を含み、
前記ポリプロピレンと、ポリイソブチレンと、位相差調整剤の合計質量に対し、前記ポリイソブチレンの含有量が、0.3質量%以上3.5質量%以下であることを特徴とする光学部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−24989(P2013−24989A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158148(P2011−158148)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】