説明

位相差フィルム

【課題】簡易かつ安価に製造することができ、低光弾性係数、及び、低波長分散性に優れるとともに、加熱を行った場合でも高い位相差を保持できる位相差フィルムを提供する。
【解決手段】環状オレフィン系樹脂からなる原反フィルムを延伸してなる位相差フィルムであって、前記原反フィルムの熱機械分析により測定されるガラス転移温度と、位相差フィルムの熱機械分析により測定される加熱収縮温度との差が20℃以下であることを特徴とする位相差フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易かつ安価に製造することができ、低光弾性係数、及び、低波長分散性に優れるとともに、加熱を行った場合でも高い位相差を保持できる位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピューター等の表示装置において、ブラウン管式のCRT(Cathode Ray Tube)とともに、液晶表示装置(Liquid Crystal Display:LCD)が多用されている。このような液晶表示装置は、通常、液晶分子を封入した電極が組み込まれたガラスセルに透明な粘着剤を介して位相差フィルムが貼り合わされ、更にその上に粘着剤を介して偏光板が貼り合わされた構成となっている。
【0003】
このような液晶表示装置に用いられる位相差フィルムは、一般的にポリカーボネート系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリサルホン系樹脂、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂等の熱可塑性樹脂を、流延(溶液キャスト)製膜法、カレンダー製膜法、溶融押出製膜法等により製膜し、これを縦方向又は横方向若しくは双方に延伸することで作製されている。なかでも、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂は、耐熱性、低比重性、低複屈折性、低光弾性係数、及び、低波長分散性等の優れた特徴を有するため、位相差フィルムとして検討されている。
しかし、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂は、位相差フィルムとして機能付与するための延伸処理を施した後の位相差の発現性が低く、得られる位相差フィルムの位相差補償範囲が制約されるという問題があった。このような樹脂を用いて要求される位相差値を得る方法としては、例えば、位相差フィルムを厚くする方法や、延伸工程において、延伸倍率を上げたり、延伸温度を下げたりする等の方法が考えられる。
しかしながら、位相差フィルムを厚くする方法では、位相差フィルムを実装する際に制約を受け、用途が限定されてしまうという問題があった。また、延伸倍率を上げる方法では、位相差発現性が低い場合に、フィルム厚が薄くなって効果が相殺されてしまうという問題があり、延伸温度を下げる方法では、要求される位相差値を得ることができても、耐熱性試験を行った際に、位相差値が低下するという問題があった。
【0004】
これに対して、位相差フィルムの位相差の発現性を高める方法としては、例えば、特許文献1に、フィルムの添加剤として特定構造のレタデーション調整剤を配合する方法が開示されている。
しかし、この方法では、レタデーション調整剤を配合する工程を別途必要とすることから工程の煩雑化、コスト上昇等の問題があり、樹脂組成物をフィルム状に製膜した後延伸処理を施すのみの簡易な方法で充分に高い位相差を示す位相差フィルムが望まれていた。
また、このような位相差の発現性の高い位相差フィルムを簡易な方法で得ることができることは、今後ますます需要が伸びることが見込まれる大型液晶テレビ分野において、幅広の位相差フィルムを提供する必要があることから特に望まれている。
【特許文献1】特開2004−051562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、簡易かつ安価に製造することができ、低光弾性係数、及び、低波長分散性に優れるとともに、加熱を行った場合でも高い位相差を保持できる位相差フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、環状オレフィン系樹脂からなる原反フィルムを延伸してなる位相差フィルムであって、前記原反フィルムの熱機械分析により測定されるガラス転移温度と、位相差フィルムの熱機械分析により測定される加熱収縮温度との差が20℃以内であることを特徴とする位相差フィルムである。以下に本発明を詳述する。
【0007】
本発明では、原反フィルムの熱機械分析(以下、TMAという)により測定されるガラス転移温度(以下、Tgという)と、位相差フィルムの熱機械分析により測定される加熱収縮温度との差を20℃以下とする。
従来より問題となっていた、加熱による位相差値の低下を防止する方法としては、原反フィルムの材料としてTgの高い樹脂を用いる方法が挙げられる。しかしながら、Tgの高い樹脂を用いただけでは、加熱時における位相差値の低下を確実に防止することができなかった。そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、原反フィルムのTMAにより測定されるTgと、得られる位相差フィルムのTMAで測定される加熱収縮温度との差を小さくし、更にその差の上限を20℃とした場合に、加熱による位相差値の変化を大幅に小さくできることを見出し、本発明を完成させるに至った。
原反フィルムのTMAにより測定されるTgと、位相差フィルムのTMAで測定される加熱収縮温度との差が20℃を超えると、耐熱性が低下したり、加熱によって位相差値が大幅に低下したりする。好ましい上限は18℃である。
【0008】
本発明において、加熱による位相差の低下を防止することが可能となる理由としては、以下のように考えられる。即ち、位相差フィルムにおいては、分子鎖の配向によって位相差を生じさせているが、このような分子鎖の配向は、分子そのものの配向に由来する主鎖の配向と、分子の末端部の配向とに大きく分けられる。ここで、分子の末端部の配向は、運動の自由度が高いため、加熱によって配向が緩和しやすいと考えられる。
従って、同じ位相差値を有する位相差フィルムであっても、分子の末端部の配向が大きい場合には、局所的に見かけのTgが下がり、TMAを測定した際に加熱収縮温度が低温側にシフトすると考えられる。本発明では、得られる位相差フィルムの加熱収縮温度を高くして、原反フィルムのTgとの差を小さくすることで、局所的に配向が緩和しやすい部分を少なくすることが可能となり、加熱による位相差の低下を防止することが可能となる。
【0009】
本発明の位相差フィルムは、上述した特徴を有することから、実際の製品において一般的に実施されている加熱耐久試験を行った場合であっても、位相差値が低下しないという利点を有する。例えば、液晶テレビ等の一般的な液晶ディスプレイに要求される温度である80℃で耐久性試験を行った場合でも、位相差値が低下せず、優れた加熱耐久性を有する。
【0010】
本発明において、上記原反フィルムのTMAにより測定されるTgの好ましい下限は、120℃である。120℃未満であると、苛酷な使用環境を想定した耐熱試験における加熱による位相差の低下を充分に防止することができないことがある。
また、本発明の位相差フィルムのTMAにより測定される加熱収縮温度の好ましい下限は、115℃である。115℃未満であると、加熱による位相差の低下を充分に防止することができないことがある。
【0011】
本発明において、上記Tg及び加熱収縮温度は、TMAにより測定される。TMAによりTgを測定する方法としては、具体的には例えば、原反フィルムを所定の幅で切り出し、熱機械分析装置にセットした後、所定の昇温速度で昇温することにより、フィルムの変形を測定する方法が挙げられる。図1は、上述した方法で原反フィルムのTgを測定した場合における温度と加熱膨張率との関係を示すグラフである。図1に示すように、延伸前の原反フィルムを測定した場合、線膨張によって直線的に膨張した後、加熱膨張率が急激に上昇する。本明細書では、上昇前後の曲線に接線を引き、この接線の交点をTgとする。
【0012】
TMAにより加熱収縮温度を測定する場合も上述した方法と同様の操作を行うことで測定することができる。図2は、位相差フィルムの加熱収縮温度を測定した場合における温度と加熱膨張率との関係を示すグラフである。図2に示すように、延伸後の位相差フィルムを測定した場合、低温域では線膨張によって直線的に膨張するが、延伸の緩和により、膨張が収縮に転じる温度がある。本明細書では、この極大値を加熱収縮温度とする。
なお、上記加熱収縮温度を測定する場合、加熱膨張率は延伸方向、即ち、正の複屈折を持つ材料であれば、位相差を測定したときに遅相軸方向となる方向の加熱膨張率を測定する。
【0013】
上記環状オレフィン系樹脂としては特に限定されず、例えば、環状オレフィン系モノマーの開環(共)重合体(以下、単に開環(共)重合体ともいう)、環状オレフィン系モノマーとオレフィン系モノマーとからなる付加(共)重合体(以下、単に付加(共)重合体ともいう)、環状オレフィン系モノマー同士の付加(共)重合体及びこれらの誘導体等が挙げられ、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記付加(共)重合体は、開環(共)重合体と比較して、位相差発現性が低くなる傾向がある。即ち、同形状の付加(共)重合体からなるフィルムと、開環(共)重合体からなるフィルムとを、同様の延伸条件(延伸温度;Tg)で延伸した場合、付加(共)重合体からなるフィルムを延伸した場合の方が、位相差値が低くなる。
従って、本発明は、特に位相差発現性が低い樹脂からなるフィルムを延伸する場合に有効な手段であることから、上記環状オレフィン系モノマーとオレフィン系モノマーとからなる付加(共)重合体を用いた場合、更に本発明の効果を発揮することができ、上記環状オレフィン系モノマーと非環状オレフィン系モノマーとからなる付加(共)重合体を用いることがより好ましい。以下、環状オレフィン系モノマーとして、ノルボルネン系モノマーを用いる場合について説明する。
【0014】
上記ノルボルネン系モノマーとしては、ノルボルネン環を有するものであれば特に限定されず、例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエン等の二環体;ジシクロペンタジエン、ジヒドロキシジシクロペンタジエン等の三環体;テトラシクロドデセン等の四環体;シクロペンタジエン三量体等の五環体;テトラシクロペンタジエン等の七環体;これらのメチル、エチル、プロピル、ブチル等のアルキル、ビニル等のアルケニル、エチリデン等のアルキリデン、フェニル、トリル、ナフチル等のアリール等の置換体;更にこれらのエステル基、エーテル基、シアノ基、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、ピリジル基、水酸基、カルボン酸基、アミノ基、無水酸基、シリル基、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基等の炭素、水素以外の元素を含有する基、いわゆる極性基を有する置換体等が挙げられる。なお、上記ノルボルネン系モノマーは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
上記ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体は、例えば、ノルボルネン系モノマーを、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金等の金属のハロゲン化物、硝酸塩もしくはアセチルアセトン化合物と、還元剤とからなる触媒系、又は、チタン、タングステン、モリブデン等の金属のハロゲン化物もしくはアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒系等を用いて、溶媒中又は無溶媒で、通常、−50℃〜100℃の重合温度、0〜5MPaの重合圧力で開環(共)重合させることにより得ることができる。
【0016】
また、上記ノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとからなる付加(共)重合体としては、例えば、ノルボルネン系モノマーとα−オレフィンとからなる付加(共)重合体、ノルボルネン系モノマーと環状オレフィン系モノマーとからなる付加(共)重合体が挙げられる。
上記ノルボルネン系モノマーとしては、力学物性とTgに代表される熱物性とのバランスや、共重合性の観点から、ノルボルネンが特に好ましい。
【0017】
上記α−オレフィンとしては、炭素数が2〜20のα−オレフィンが好ましく、炭素数が2〜10のα−オレフィンがより好ましい。具体的には例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン等が挙げられ、共重合性が高いことから、エチレンが好ましい。
また、上記環状オレフィン系モノマーとしては、例えば、シクロオクタジエン、シクロオクテン、シクロヘキセン、シクロドデセン、シクロドデカトリエン等が挙げられる。
【0018】
上記ノルボルネン系モノマーとオレフィン系モノマーとの付加(共)重合体を合成する際に用いる重合触媒としては、例えば、Ziegler−Natta型触媒やメタロセン触媒が挙げられ、具体的には、バナジウム化合物やチタン、ジルコニウム等からなる化合物と有機アルミニウム化合物(好ましくはハロゲン含有有機アルミニウム化合物)とからなる触媒系が挙げられる。
【0019】
上述した環状オレフィン系樹脂のうち、開環を伴う(共)重合体には必然的に不飽和結合が残留し、また付加(共)重合体であってもモノマーの種類によっては不飽和結合が残留することがある。このような場合、熱履歴による酸化劣化や紫外線等による着変色といった耐久性を重視する観点から、これらの不飽和結合を水素添加しておくことが好ましい。上記ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体を水素添加する方法としては、上記ノルボルネン系モノマーを公知の方法で開環(共)重合させた後、残留している二重結合を公知の方法で水素添加すればよい。
【0020】
上記環状オレフィン系樹脂の具体例としては、例えば、特開平1−240517号公報等に記載されているものが挙げられ、開環(共)重合体の市販品としては、例えば、JSR社製の商品名「アートン」シリーズ、日本ゼオン社製の商品名「ゼオノア」シリーズが挙げられる。また、付加(共)重合体の市販品としては、チコナ社製の商品名「トパス」シリーズ、三井化学社製の商品名「アペル」シリーズ等が挙げられる。
【0021】
上記環状オレフィン系樹脂の数平均分子量の好ましい下限は5000、好ましい上限は8万である。5000未満であると、位相差フィルムの機械的強度が低下することがあり、15万を超えると、溶融粘度が上昇することに伴い、原反フィルムの成形性が低下することがある。より好ましい下限は1万、より好ましい上限は5万である。なお、上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ法によって測定された標準ポリスチレン換算値のことをいう。
【0022】
本発明の位相差フィルムは、位相差フィルムの機能を阻害しない範囲内において、成形中の環状オレフィン系樹脂の劣化防止や位相差フィルムの耐熱性、耐紫外線性、平滑性等を向上させるために、フェノール系、リン系等の酸化防止剤;ラクトン系等の熱劣化防止剤;ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、アクリロニトリル系等の紫外線吸収剤;脂肪族アルコールのエステル系、多価アルコールの部分エステル系、部分エーテル系等の滑剤;アミン系等の帯電防止剤等の各種添加剤が添加されていてもよい。なお、上記添加剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明の位相差フィルムは、上述したような、環状オレフィン系樹脂を製膜して原反フィルムを作製した後、延伸処理を施すことにより製造することができる。
【0024】
上記環状オレフィン系樹脂を製膜して原反フィルムを作製する方法としては特に限定されず、従来公知の製膜法を用いることができ、例えば、溶融押出製膜法、カレンダー製膜法、溶液キャスト(流延)製膜法等が挙げられ、なかでも、生産性に優れ、環境共生的でもあることから、溶融押出製膜法が好ましい。
【0025】
上記延伸処理の方法としては特に限定されず、例えば、縦一軸延伸、横一軸延伸、同時二軸延伸、逐次二軸延伸等の延伸方法が挙げられる。また、連続方式であってもバッチ方式であってもよい。
【0026】
一般的に、上記延伸処理における温度は、低温であるほど得られる位相差フィルムの位相差補償性能が高くなるが、条件によっては、クレーズ等の発生による光学フィルムとしては致命的なフィルムの白化や破断が起こったり、加熱耐久試験をしたときに大きく位相差が落ちたりするといった問題がおこる可能性がある。
このような現象を回避するためには、延伸条件を適宜調整する必要があるが、その手段としては、延伸温度・延伸倍率・延伸速度を連続的に変化させることが挙げられるが、これらの条件は非常に複雑に絡み合い、一元的に比較することは困難であった。
しかしながら、本発明では、原反フィルムのTgと、位相差フィルムの加熱収縮温度との差を調整することで、これらの不具合を回避することが可能となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、原反フィルムのTMAにより測定されるTgと、得られる位相差フィルムのTMAで測定される加熱収縮温度との差を20℃以下とすることで、分子鎖の末端部において、局所的に配向が緩和しやすい部分を少なくすることが可能となり、加熱時においても高い位相差値を示す位相差フィルムを提供することができる。これにより、本発明の位相差フィルムを用いた製品は、加熱耐久試験を行った場合であっても、位相差値の低下が起きず、高い信頼性を有する。また、本発明の位相差フィルムは、簡易かつ安価に製造することができ、低光弾性係数、及び、低波長分散性に優れるものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
(原反フィルムの作製)
ノルボルネンとエチレンとの共重合体(Ticona社製、Topas6013)を一軸押出機(GMエンジニアリング社製、GM50)を用いて溶融押出し、厚さ150μmの原反フィルムを作製した。
【0030】
(ガラス転移温度の測定)
得られた原反フィルムについて、幅3mm×長さ20mmに切り出してサンプルを作製し、熱機械分析装置(セイコーインスツル社製、TMA)にチャック間10mmにセットし、温度を30℃から250℃まで5℃/分で昇温し、TD方向の変形量の温度依存性を測定した。そして、膨張率が急激に上昇する前後の曲線に接線を引き、この接線の交点をTgとした。
測定の結果、ガラス転移温度は135.2℃であった。
【0031】
(位相差フィルムの作製)
得られた原反フィルムを140℃の雰囲気下で、長さ方向を固定し、幅方向に2.2倍のテンター延伸を行うことにより、位相差フィルムを作製した。
【0032】
(実施例2)
実施例1の(位相差フィルムの作製)において、141℃の雰囲気下でテンター延伸を行った以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを作製した。
【0033】
(比較例1)
実施例1の(位相差フィルムの作製)において、長さ方向を固定し、幅方向に2.5倍のテンター延伸を行った以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを作製した。
【0034】
(比較例2)
実施例1の(位相差フィルムの作製)において、145℃の雰囲気下で、長さ方向を固定し、幅方向に3.0倍のテンター延伸を行った以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを作製した。
【0035】
(評価)
(1)加熱収縮温度の測定
実施例及び比較例において得られた位相差フィルムを、幅3mm×長さ20mmに切り出してサンプルを作製し、熱機械分析装置(セイコーインスツル社製、TMA)にチャック間10mmにセットし、温度を30℃から250℃まで5℃/分で昇温し、長さの変形量の温度依存性を測定した。そして、膨張から収縮に転じる極大点を示す温度を求め、加熱収縮温度とした。
【0036】
(2)位相差値の測定
自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA−21ADH)を用い、波長550nmの光で、位相差フィルムの面内の位相差値Reを測定した。また、厚み方向の位相差Rthについても測定した。なお、Re及びRthは、以下の式で算出することができる。
Re(nm)=|nx−ny|×d
Rth(nm)=|(nx+ny)/2−nz|×d
但し、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率であり、d(nm)はフィルムの平均厚みである。
【0037】
(3)加熱による位相差値の変化
位相差フィルムを4cm角に切り出し、面内位相差値を測定後、80℃オーブンに1000時間投入後、再び面内位相差値を測定した。そして、オーブンに投入する前の面内位相差値をRb、オーブンに投入した後の面内位相差値をRaとしたとき、位相差保持率Rr(%)を以下の式で求めた。
Rr(%)=Ra/Rb×100
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示すように、実施例1と比較例1とを比較すると、面内位相差値はほぼ同じであるが、実施例1では、比較例1と比較して、Tgと加熱収縮温度との差が小さく、加熱前後における位相差保持率が高くなっていることがわかる。また、実施例2と比較例2とを比較しても、同様の傾向が示すことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、簡易かつ安価に製造することができ、低光弾性係数、及び、低波長分散性に優れるとともに、加熱を行った場合でも高い位相差を保持できる位相差フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】原反フィルムのTgをTMAにより測定した場合における温度と加熱膨張率との関係を示すグラフである。
【図2】位相差フィルムの加熱収縮温度をTMAにより測定した場合における温度と加熱膨張率との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系樹脂からなる原反フィルムを延伸してなる位相差フィルムであって、前記原反フィルムの熱機械分析により測定されるガラス転移温度と、位相差フィルムの熱機械分析により測定される加熱収縮温度との差が20℃以下であることを特徴とする位相差フィルム。
【請求項2】
原反フィルムの熱機械分析により測定されるガラス転移温度は、120℃以上であることを特徴とする請求項1記載の位相差フィルム。
【請求項3】
熱機械分析により測定される加熱収縮温度は、115℃以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の位相差フィルム。
【請求項4】
環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィン系モノマーと非環状オレフィン系モノマーとからなる付加(共)重合体であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の位相差フィルム。
【請求項5】
環状オレフィン系樹脂は、ノルボルネンとエチレンとからなる共重合体であることを特徴とする請求項4記載の位相差フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−334140(P2007−334140A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167687(P2006−167687)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】