説明

位相差板の製造方法、位相差板、および液晶表示装置

【課題】光学補償を実現できるとともに、幅広で、かつ簡便に製造できる位相差板の製造方法を提供すること
【解決手段】固有複屈折が正の樹脂Aを含有する樹脂層aと、樹脂層aの一方の面に設けられ、固有複屈折が負の樹脂Bを含有する樹脂層bと、樹脂層bにおける樹脂層aとは反対側面に設けられ、固有複屈折が正の樹脂Cを含有する樹脂層cとを備える積層体を形成し、積層体を温度T1で一方向に延伸し、温度T1より低い温度T2において前記延伸方向に略直交する他方向へ延伸して位相差板を得、位相差板は、延伸後の樹脂層aの遅相軸と、延伸後の樹脂層bの遅相軸と、延伸後の樹脂層cの遅相軸が略平行であり、延伸後の樹脂層aにおける面内レターデーションRea、厚み方向レターデーションRta、延伸後の樹脂層bにおける面内レターデーションReb、厚み方向レターデーションRtb、延伸後の樹脂層cにおける面内レターデーションRec、厚み方向レターデーションRtcが下記関係を満足する。20nm<Rea<70nm、40nm<Rta<150nm、90nm<Reb<170nm、−110nm<Rtb<−40nm、0nm<Rec<60nm、4nm<Rtc<130nm

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は位相差板の製造方法、位相差板、および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、一般に、液晶セルと、この液晶セルを挟むように配置される一対の偏光板(入射側偏光板および出射側偏光板)とを備えて構成される。一対の偏光板は、VAモードやIPSモード等の一般的な液晶表示モードの場合には、通常、クロスニコル配置、すなわち、各偏光板の吸収軸が略直交するように配置され、無電界時には黒表示(光の透過を遮断)となるように設計されている。
しかしながら、このような液晶表示装置を斜め方向から観察した場合には、一対の偏光板の吸収軸が見かけ上直交よりも大きな角度(鈍角)となることにより、その結果光漏れが生じる。すなわち、液晶表示装置を斜め方向から観察した場合の黒表示が、正面方向から観察した場合の黒表示に比べて不完全になるため、液晶表示装置を斜め方向から観察した場合には、液晶表示装置を正面方向から観察した場合に比べてコントラストが低下するという問題がある。
【0003】
そこで、このような光漏れを低減するために、液晶表示装置においては、通常、一対の偏光子の間に、これらの偏光板に起因する光漏れを補償(以下、適宜、偏光板補償と称する)するための位相差板が設けられる。偏光板補償機能を実現する手段として、従来、面内の遅相軸方向の屈折率nと、それに面内で直交する方向の屈折率nと、厚み方向の屈折率nとが、n>n>nの関係を満たす位相差板を、前記の一対の偏光子の間に挟み込むことが提案されている。例えば、特許文献1には、樹脂フィルムを延伸する際に、その樹脂フィルムの片面又は両面に収縮性フィルムを接着して積層体を形成し、その積層体を加熱延伸して前記樹脂フィルムの延伸方向と直交する方向の収縮力を付与することによって、0<(n−n)/(n−n)<1の関係を満たす位相差板を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−157911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、特定のフィルムを準備して特殊な処理を施すため、位相差板の製造方法が煩雑であるという課題がある。また、特許文献1の技術では、積層体を収縮させて得られることから、幅の広い位相差板を製造することが困難であるという課題もある。
【0006】
本発明の目的は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、一対の偏光板に起因する光漏れの補償ができて、かつ幅広で、かつ簡便に製造できる位相差板、その位相差板を製造する製造方法、並びに、その位相差板を備えた液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下の発明が開示される。
(1)位相差板の製造方法であって、固有複屈折が正である樹脂Aを含有する樹脂層aと、前記樹脂層aの一方の面に設けられ、固有複屈折が負である樹脂Bを含有する樹脂層bと、前記樹脂層bにおける前記樹脂層aとは反対側の面に設けられ、固有複屈折が正である樹脂Cを含有する樹脂層cとを備える積層体を形成する工程と、前記積層体を温度T1で一方向に延伸する第一延伸工程と、前記第一延伸工程の後に、温度T1より低い温度T2において前記の延伸方向に略直交する他方向へ延伸して、位相差板を得る第二延伸工程と、を備え、前記位相差板は、延伸処理が施された前記樹脂層aの遅相軸と、延伸処理が施された前記樹脂層bの遅相軸と、延伸処理が施された前記樹脂層cの遅相軸とが互いに略平行であり、延伸処理が施された前記樹脂層aにおいて、その面内レターデーションRea、その厚み方向のレターデーションRtaとして、延伸処理が施された前記樹脂層bにおいて、その面内レターデーションReb、その厚み方向のレターデーションRtbとして、延伸処理が施された前記樹脂層cにおいて、その面内レターデーションRec、その厚み方向のレターデーションRtcとして、式1〜式6を満足する位相差板の製造方法。
20nm<Rea<70nm ・・・式1
40nm<Rta<150nm ・・・式2
90nm<Reb<170nm ・・・式3
−110nm<Rtb<−40nm ・・・式4
0nm<Rec<60nm ・・・式5
4nm<Rtc<130nm ・・・式6
(2)位相差板の製造方法であって、固有複屈折が正である樹脂Aを含有する樹脂層aと、前記樹脂層aの一方の面に設けられ、固有複屈折が負である樹脂Bを含有する樹脂層bと、前記樹脂層bにおける前記樹脂層aとは反対側の面に設けられ、固有複屈折が正である樹脂Cを含有する樹脂層cとを備える積層体を形成する工程と、前記積層体を温度T1で一方向に延伸する第一延伸工程と、前記第一延伸工程の後に、温度T1より低い温度T2において前記の延伸方向に略直交する他方向へ延伸して、位相差板を得る第二延伸工程と、を備え、前記位相差板において、延伸処理が施された前記樹脂層bの遅相軸は、延伸処理が施された前記樹脂層aの遅相軸、および延伸処理が施された前記樹脂層cの遅相軸とそれぞれ互いに略直交しており、延伸処理が施された前記樹脂層aにおいて、その面内レターデーションRea、その厚み方向のレターデーションRtaとして、延伸処理が施された前記樹脂層bにおいて、その面内レターデーションReb、その厚み方向のレターデーションRtbとして、延伸処理が施された前記樹脂層cにおいて、その面内レターデーションRec、その厚み方向のレターデーションRtcとして、式7〜式12を満足する位相差板の製造方法。
0nm<Rea<30nm ・・・式7
20nm<Rta<110nm ・・・式8
150nm<Reb<230nm ・・・式9
−140nm<Rtb<−90nm ・・・式10
10nm<Rec<40nm ・・・式11
70nm<Rtc<190nm ・・・式12
(3)前記樹脂Aのガラス転移点温度Tgと、前記樹脂Bのガラス転移点温度TgとがTg>Tg+5℃の関係を満足する前記位相差板の製造方法。
(4)前記樹脂Aのガラス転移点温度Tgと、前記樹脂Cのガラス転移点温度TgとがTg>Tg+5℃の関係を満足する前記位相差板の製造方法。
(5)前記製造方法により得られる位相差板。
(6)各吸収軸が略直交するように配置される一対の偏光板と、前記一対の偏光板の間に設けられる液晶セルと、を備える液晶表示装置であって、前記一対の偏光板のいずれかと前記液晶セルとの間に配置される前記位相差板を備える液晶表示装置。
(7)前記液晶セルの表示モードがインプレーンスイッチング方式である前記液晶表示装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法およびその位相差板によれば、一対の偏光板に起因する光漏れを補償できる、比較的幅広の位相差板を簡便に製造できるという効果がある。また、本発明の液晶表示装置は、簡便に製造できる本発明の位相差板を備えるため、コストダウンを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】樹脂Aと樹脂Cが同一の樹脂であるとした場合において、樹脂層a(樹脂層c)を構成する樹脂A(または樹脂C)のガラス転移温度Tgが高く、樹脂層bを構成する樹脂Bのガラス転移温度Tgが低いと仮定した場合に、位相差板製造用積層体の樹脂層a(樹脂層c)及び樹脂層bをそれぞれ延伸したときの位相差Δの温度依存性と、位相差板製造用積層体を延伸したときの位相差Δの温度依存性の一例を示すものである。
【図2】本発明の実施例1で測定されたコントラスト等高線図である。
【図3】本発明の実施例2で測定されたコントラスト等高線図である。
【図4】本発明の実施例3で測定されたコントラスト等高線図である。
【図5】本発明の実施例4で測定されたコントラスト等高線図である。
【図6】本発明の実施例5で測定されたコントラスト等高線図である。
【図7】本発明の実施例6で測定されたコントラスト等高線図である。
【図8】本発明の実施例7で測定されたコントラスト等高線図である。
【図9】本発明の比較例1で測定されたコントラスト等高線図である。
【図10】本発明の比較例2で測定されたコントラスト等高線図である。
【図11】本発明の比較例3で測定されたコントラスト等高線図である。
【図12】本発明の比較例4で測定されたコントラスト等高線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、例示物や実施形態を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下に挙げる例示物や実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0011】
〔1.本発明の位相差板の製造方法〕
本発明の位相差板は、固有複屈折が正である樹脂Aを含有する樹脂層aと、前記樹脂層aの一方の面に設けられ、固有複屈折が負である樹脂Bを含有する樹脂層bと、前記樹脂層bにおける前記樹脂層aとは反対側の面に設けられ、固有複屈折が正である樹脂Cを含有する樹脂層cとを備える積層体(以下、適宜「位相差板製造用積層体」という。)を形成する工程(積層体形成工程)と、前記積層体を温度T1で一方向に延伸する第一延伸工程と、前記第一延伸工程の後に、温度T1より低い温度T2において前記の延伸方向に略直交する他方向へ延伸して、位相差板を得る第二延伸工程とを備える製造方法により製造される。
【0012】
〔1−1.積層体形成工程〕
位相差板製造用積層体は、固有複屈折値が正である樹脂Aを含有する樹脂層aと、固有複屈折値が負である樹脂Bを含有する樹脂層bと、固有複屈折値が正である樹脂Cを含有する樹脂層cとをこの順に積層する積層体であれば特に限定されないが、特に、樹脂Aと樹脂Bと樹脂Cとを、共押出し法または共流延法により製造することが好ましく、この中でも、後述する観点から共押出し法が好ましい。ここで、固有複屈折値が正であるとは、延伸方向の屈折率がそれに直交する方向の屈折率よりも大きくなることを意味し、固有複屈折値が負であるとは、延伸方向の屈折率がそれに直交する方向の屈折率よりも小さくなることを意味する。固有複屈折値は誘電率分布から計算することもできる。
【0013】
(i.樹脂A)
樹脂Aは熱可塑性樹脂であることが好ましい。樹脂Aに含まれる重合体の例を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル重合体;ポリフェニレンサルファイド等のポリアリーレンサルファイド重合体;ポリビニルアルコール重合体、ポリカーボネート重合体、ポリアリレート重合体、セルロースエステル重合体、ポリエーテルスルホン重合体、ポリスルホン重合体、ポリアリルサルホン重合体、ポリ塩化ビニル重合体、ノルボルネン重合体、棒状液晶ポリマーなどが挙げられる。なお、これらの重合体は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、重合体は単独重合体でもよく共重合体でもよい。これらの中でも、位相差発現性、低温での延伸性、および樹脂層aと樹脂層a以外の層との接着性の観点からポリカーボネート重合体が好ましい。
【0014】
樹脂Aは配合剤を含んでいてもよい。配合剤の例を挙げると、滑剤;層状結晶化合物;無機微粒子;酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤等の安定剤;可塑剤;染料や顔料等の着色剤;帯電防止剤;などが挙げられる。中でも、滑剤や紫外線吸収剤は、可撓性や耐候性を向上させることができるので好ましい。なお配合剤の量は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で適宜定めることができ、例えば、位相差板製造用積層体の1mm厚での全光線透過率が80%以上を維持できる範囲とすればよい。
【0015】
滑剤としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウムなどの無機粒子;ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等の有機粒子などが挙げられる。中でも、滑剤としては有機粒子が好ましい。
【0016】
紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、アクリロニトリル系紫外線吸収剤、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体などが挙げられる。好適な紫外線吸収剤の具体例を挙げると、2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンなどが挙げられ、特に好適なものとしては、2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)が挙げられる。
【0017】
なお、配合剤は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0018】
樹脂Aの重量平均分子量は、樹脂Aを溶融押し出し法や溶液流延法等の方法により実施できる範囲に調整することが好ましい。
【0019】
樹脂Aのガラス転移温度Tgは、通常80℃以上、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは110℃以上、特に好ましくは120℃以上である。ガラス転移温度Tgがこのように高いことにより、樹脂Aの配向緩和を低減することができる。なお、ガラス転移温度Tgの上限に特に制限は無いが、通常は200℃以下である。
【0020】
後述する樹脂Bのガラス転移温度Tgにおける樹脂Aの破断伸度は、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。破断伸度がこの範囲にあれば、延伸により安定的に本発明の位相差板を作製することができる。なお破断伸度は、JISK7127記載の試験片タイプ1Bの試験片を用いて、引っ張り速度100mm/分によって求める。
【0021】
(ii.樹脂B)
樹脂Bは熱可塑性樹脂であることが好ましい。樹脂Bに含まれる重合体の例を挙げると、スチレン又はスチレン誘導体の単独重合体または他のモノマーとの共重合体を含むポリスチレン系重合体;ポリアクリロニトリル重合体、ポリメチルメタクリレート重合体、あるいはこれらの多元共重合ポリマーなどが挙げられる。また、スチレン又はスチレン誘導体に共重合させる前記他のモノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、無水マレイン酸、メチルメタクリレート、及びブタジエンが好ましいものとして挙げられる。なお、これらの重合体は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、位相差発現性が高いという観点から、ポリスチレン系重合体が好ましく、さらに耐熱性が高いという点で、スチレン又はスチレン誘導体と無水マレイン酸との共重合体が特に好ましい。
【0022】
樹脂Bは配合剤を含んでいてもよい。その例としては、樹脂Aが含んでいてもよい配合剤と同様のものが挙げられる。配合剤の量は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で適宜定めることができ、例えば、位相差板製造用積層体の1mm厚での全光線透過率が80%以上を維持できる範囲とすればよい。なお、配合剤は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0023】
樹脂Bの重量平均分子量は、樹脂Bを溶融押し出し法や溶液流延法等の方法により実施できる範囲に調整することが好ましい。
【0024】
樹脂Bのガラス転移温度Tgは、通常80℃以上、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは110℃以上、特に好ましくは120℃以上である。ガラス転移温度Tgがこのように高いことにより、樹脂Bの配向緩和を低減することができる。なお、ガラス転移温度Tgの上限に特に制限は無いが、通常は200℃以下である。
【0025】
樹脂Aのガラス転移温度Tgにおける樹脂Bの破断伸度は、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。なお、樹脂Bの破断伸度の上限に特に制限は無いが、通常は200%以下である。破断伸度がこの範囲にある樹脂であれば、延伸により安定的に本発明の位相差板を作製することができる。
【0026】
樹脂Aのガラス転移温度Tgと、樹脂Bのガラス転移温度Tgとの差の絶対値は、好ましくは5℃より大きく、より好ましくは8℃以上であり、好ましくは40℃以下、より好ましくは20℃以下である。前記のガラス転移温度の差の絶対値が小さすぎると位相差発現の温度依存性が小さくなる傾向がある。一方、前記のガラス転移温度の差の絶対値が大きすぎるとガラス転移温度の高い樹脂の延伸がし難くなり、位相差板の平面性が低下しやすくなる可能性がある。なお、前記のガラス転移温度Tgは、ガラス転移温度Tgよりも高いことが好ましい。よって、樹脂Aと樹脂Bとは通常はTg>Tg+5℃の関係を満足することが好ましい。
【0027】
(iii.樹脂C)
樹脂Cは、前記樹脂Aと同様の範囲から材料を選択することができるが、特に、樹脂Aと同じ樹脂を採用することが好ましい。樹脂Aと樹脂Cとを同じ樹脂とすることにより、位相差板製造用積層体または位相差板に、撓みや反りが生じることを抑えることができる利点がある。樹脂Aと樹脂Cとは、樹脂そのものが異なるように構成してもよいが、同一の樹脂を用い、かつその樹脂に配合する配合剤のみを変えた構成とすることもできる。
【0028】
(iv.積層体形成方法)
以上のような製造方法により位相差板製造用積層体を得て、得られた位相差板製造用積層体を延伸して位相差板を製造することで、通常は、得られる位相差板において樹脂層a、樹脂層bおよび樹脂層cが接着層を介さずに直接に接することになるので、位相差板の厚みを薄くすることができ、光学的機能の発現の点で有利となる。
【0029】
本発明では、共押出し方法を好適に用いることができるが、この共押出し方法としては、共押出Tダイ法、共押出インフレーション法、共押出ラミネーション法等が挙げられる。共押出しは、製造効率や、成形されるフィルム中に溶剤などの揮発性成分を残留させないという観点で優れた成形方法である。これらの中でも、共押出Tダイ法が好ましい。共押出Tダイ法にはフィードブロック方式およびマルチマニホールド方式があるが、樹脂層aの厚みのばらつきを少なくできる点でマルチマニホールド方式が特に好ましい。
【0030】
共押出Tダイ法を採用する場合、Tダイを有する押出機における樹脂の溶融温度は、各樹脂のガラス転移温度(Tg)よりも、80℃高い温度以上にすることが好ましく、100℃高い温度以上にすることがより好ましく、また、180℃高い温度以下にすることが好ましく、150℃高い温度以下にすることがより好ましい。押出機での溶融温度が過度に低いと、樹脂の流動性が不足するおそれがあり、逆に溶融温度が過度に高いと、樹脂が劣化する可能性がある。
【0031】
通常、ダイスの開口部から押出されたシート状の溶融樹脂は、冷却ドラムに密着させるようにする。溶融樹脂を冷却ドラムに密着させる方法は、特に制限されず、例えば、エアナイフ方式、バキュームボックス方式、静電密着方式などが挙げられる。
冷却ドラムの数は特に制限されないが、通常は2本以上である。また、冷却ドラムの配置方法としては、例えば、直線型、Z型、L型などが挙げられるが特に制限されない。またダイスの開口部から押出された溶融樹脂の冷却ドラムへの通し方も特に制限されない。
【0032】
冷却ドラムの温度により、押出されたシート状の樹脂の冷却ドラムへの密着具合が変化する。冷却ドラムの温度を上げると密着はよくなるが、温度を上げすぎるとシート状の樹脂が冷却ドラムから剥がれずに、ドラムに巻きつく不具合が発生するおそれがある。そのため、冷却ドラム温度は、ダイスから押し出す樹脂のうちドラムに接触する層の樹脂のガラス転移温度をTgとすると、好ましくは(Tg+30)℃以下、さらに好ましくは(Tg−5)℃〜(Tg−45)℃の範囲にする。そうすることにより滑りやキズなどの不具合を防止することができる。
【0033】
位相差板製造用積層体中の残留溶剤の含有量は少なくすることが好ましい。そのための手段としては、(1)原料となる樹脂の残留溶剤を少なくする;(2)位相差板製造用積層体を成形する前に樹脂を予備乾燥する;などの手段が挙げられる。予備乾燥は、例えば樹脂をペレットなどの形態にして、熱風乾燥機などで行われる。乾燥温度は100℃以上が好ましく、乾燥時間は2時間以上が好ましい。予備乾燥を行うことにより、位相差板製造用積層体中の残留溶剤を低減させる事ができ、さらに押し出されたシート状の樹脂の発泡を防ぐことができる。
【0034】
(v.位相差板製造用積層体)
位相差板製造用積層体は、温度T1及びT2という異なる温度で互いに略直交する異なる角度に延伸することにより、樹脂層a、樹脂層b、樹脂層cのそれぞれにおいて各温度T1及びT2並びに延伸方向に応じて位相差が生じる。このようにして、樹脂層aに生じた位相差と、樹脂層bに生じた位相差と、樹脂層cに生じた位相差とが合成され、本発明の位相差板では、樹脂層a、樹脂層b、および樹脂層cの積層体全体として、面内の遅相軸方向の屈折率nと、それに面内で直交する方向の屈折率nと、厚み方向の屈折率nとした際に、n>n>nの関係を満たす位相差板とすることができ、これにより、偏光板補償機能が発現する。
【0035】
延伸により樹脂層a、樹脂層bおよび樹脂層cに生じる位相差の大きさは、位相差板製造用積層体の構成(例えば、各層の数及び厚み等)、延伸温度、及び延伸倍率などに応じて決まる。そのため、位相差板製造用積層体の構成は、発現させようとする偏光板補償機能等の光学的機能に応じて定めればよい。本発明の位相差板において式1〜式6または式7〜12で規定される位相差が発現するように位相差板製造用積層体の構成並びに延伸時の延伸温度及び延伸倍率等を定めれば、通常は、本発明の位相差板において偏光板補償機能が発現することになる。したがって、位相差板製造用積層体の構成は様々に設定できる。
【0036】
中でも、位相差板製造用積層体は、ある一方向への延伸方向(すなわち、一軸延伸方向)をX軸、一軸延伸方向に対してフィルム面内で直交する方向をY軸、およびフィルム厚み方向をZ軸としたときに、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がXZ面にある直線偏光(以下、適宜「XZ偏光」という。)の、フィルム面に垂直に入射しかつ電気ベクトルの振動面がYZ面にある直線偏光(以下、適宜「YZ偏光」という。)に対する位相が、
温度T1及びT2のうちの一方(通常は温度T1)でX軸方向に一軸延伸したときには遅れ、
温度T1及びT2のうちの他方(通常は温度T2)でX軸方向に一軸延伸したときには進む、
との要件(以下、適宜「要件P」という。)を満たすことが好ましい。
【0037】
前記の要件Pは、位相差板製造用積層体の面内の様々な方向のうち、少なくとも一の方向をX軸とした場合に満たせばよい。通常、位相差板製造用積層体は等方な原反フィルムであるので、面内の一の方向をX軸としたときに要件Pを満たせば、他のどの方向をX軸としたときも要件Pを満たすことができる。
【0038】
一軸延伸によってX軸に遅相軸が現れるフィルムでは、XZ偏光はYZ偏光に対して位相が遅れる。逆に一軸延伸によってX軸に進相軸が現れるフィルムでは、XZ偏光はYZ偏光に対して位相が進む。
本発明に係る位相差板製造用積層体はこれらの性質を利用した積層体であり、通常、遅相軸または進相軸の現れ方が延伸温度に依存するフィルムである。このような位相差の発現の温度依存性は、例えば、樹脂A、樹脂B及び樹脂Cの光弾性係数並びに各層の厚み比などの関係を調整することで調整できる。
【0039】
面内の位相差は、延伸方向であるX軸方向の屈折率nと延伸方向に直交する方向であるY軸方向の屈折率nとの差(=|n−n|)に厚みdを乗じて求められる値である。樹脂層aと樹脂層bと樹脂層cとを積層したときの積層体の位相差は、樹脂層aの位相差と樹脂層bの位相差と樹脂層cの位相差とから合成される。そこで、高い温度T1および低い温度T2における延伸によって、樹脂層aと樹脂層bと樹脂層cとを含む積層体の位相差の符号が逆になるようにするために、(i)低い温度T2における延伸で、ガラス転移温度の高い樹脂が発現する位相差の絶対値がガラス転移温度の低い樹脂が発現する位相差の絶対値よりも小さくなり、(ii)高い温度T1における延伸で、ガラス転移温度の低い樹脂が発現する位相差の絶対値がガラス転移温度の高い樹脂が発現する位相差の絶対値よりも小さくなるように、樹脂層a、樹脂層b及び樹脂層cの厚みを調整することが好ましい。
このように、一方向への延伸(即ち、一軸延伸)によって樹脂層a、樹脂層bおよび樹脂層cのそれぞれに発現するX軸方向の屈折率NとY軸方向の屈折率Nとの差と、樹脂層aの厚みの総和と、樹脂層bの厚みの総和と、樹脂層cの厚みの総和とを調整することで、要件P(即ち、XZ偏光のYZ偏光に対する位相が、温度T1及びT2の一方でX軸方向に一軸延伸したときには遅れ、温度T1及びT2の他方でX軸方向に一軸延伸したときには進む、という要件)を満たす位相差板製造用積層体を得ることができる。
【0040】
要件Pを満たす位相差板製造用積層体を延伸した場合の位相差の発現について、図を参照して具体的に説明する。図1は、樹脂Aと樹脂Cが同一の樹脂であるとした場合において、樹脂層a,cを構成する樹脂A(または樹脂C)のガラス転移温度Tgが高く、樹脂層bを構成する樹脂Bのガラス転移温度Tgが低いと仮定した場合に、位相差板製造用積層体の樹脂層a(樹脂層c)及び樹脂層bをそれぞれ延伸したときの位相差Δの温度依存性と、位相差板製造用積層体を延伸したときの位相差Δの温度依存性の一例を示すものである。図1に示すような位相差板製造用積層体では、温度Tにおける延伸では樹脂層aにおいて発現するプラスの位相差に比べ樹脂層bにおいて発現するマイナスの位相差の方が大きいので、位相差板全体としてはマイナスの位相差Δを発現することになる。一方、温度Tにおける延伸では樹脂層aにおいて発現するプラスの位相差に比べ樹脂層bにおいて発現するマイナスの位相差の方が小さいので、位相差板全体としてはプラスの位相差Δを発現することになる。したがって、このような異なる温度T及びTの延伸を組み合わせることにより、各温度での延伸で生じる位相差を合成して、所望の位相差を有し、ひいては所望の光学的機能を発揮する位相差板を安定して実現できる。
【0041】
位相差板製造用積層体の構成の例を挙げると、例えば樹脂Aおよび樹脂Cがポリカーボネート系樹脂であり、樹脂Bがスチレン−無水マレイン酸共重合体である場合には、樹脂層aおよび樹脂層cの厚みの総和と、樹脂層bの厚みの総和との比((樹脂層aの厚みの総和+樹脂層cの厚みの総和)/樹脂層bの厚みの総和)は、通常1/15以上、好ましくは1/10以上であり、また、通常1/4以下である。樹脂層a(または樹脂層c)が厚くなり過ぎても、樹脂層bが厚くなり過ぎても、位相差発現の温度依存性が小さくなる傾向がある。
【0042】
位相差板製造用積層体の総厚は、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、特に好ましくは30μm以上であり、好ましくは500μm以下、より好ましくは200μm以下、特に好ましくは150μm以下である。位相差板製造用積層体が前記範囲の下限よりも薄いと十分な位相差を得難くなり機械的強度も弱くなる傾向があり、前記範囲の上限よりも厚いと柔軟性が悪化し、ハンドリングに支障をきたす可能性がある。
【0043】
また、位相差板製造用積層体において、樹脂層a、樹脂層b、および樹脂層cの各厚みのばらつきを全面で1μm以下であることが好ましい。これにより、本発明の位相差板の色調のばらつきが小さくできる。また、本発明の位相差板の長期使用後の色調変化を均一にできるようになる。
【0044】
各樹脂層の厚みのばらつきを全面で1μm以下とするためには、例えば、(1)押出機内に目開きが20μm以下のポリマーフィルターを設ける;(2)ギヤポンプを5rpm以上で回転させる;(3)ダイス周りに囲い手段を配置する;(4)エアギャップを200mm以下とする;(5)フィルムを冷却ロール上にキャストする際にエッジピニングを行う;および(6)押出機として二軸押出機又はスクリュー形式がダブルフライト型の単軸押出機を用いる;を行うようにすればよい。
【0045】
各樹脂層の厚みは、市販の接触式厚み計を用いて、フィルムの総厚を測定し、次いで厚み測定部分を切断し断面を光学顕微鏡で観察して、各層の厚み比を求めて、その比率より計算できる。また以上の操作をフィルムのMD方向(フィルムの流れ方向)及びTD方向(フィルムの幅方向)において一定間隔毎に行い、厚みの平均値およびばらつきを求めることができる。
なお、厚みのばらつきは、上記で測定した測定値の算術平均値Taveを基準とし、測定した厚みTの内の最大値をTmax、最小値をTminとして、以下の式から算出する。
厚みのばらつき(μm)=Tave−Tmin、及び
max−Tave のうちの大きい方。
【0046】
ところで、位相差板製造用積層体は、本発明の効果を著しく損なわない限り樹脂層a、樹脂層b、および樹脂層c以外にその他の層を有しても良い。例えば、各樹脂層間を接着する接着層、フィルムの滑り性を良くするマット層、耐衝撃性ポリメタクリレート樹脂層などのハードコート層、反射防止層、防汚層等が挙げられる。その他の層は、共押出しにより得られた位相差板製造用積層体に対して後から設けるようにしてもよいが、樹脂A〜Cを共押出しする際にその他の層の形成材料を樹脂A〜Cと共に共押出しするようにしてもよい。
【0047】
位相差板製造用積層体は、全光線透過率が85%以上であることが好ましい。85%未満であると本発明の位相差板が光学部材として適さなくなる可能性がある。前記光線透過率は、JIS K0115に準拠して、分光光度計(日本分光社製、紫外可視近赤外分光光度計「V−570」)を用いて測定できる。
【0048】
位相差板製造用積層体のヘイズは、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。ヘイズを低い値とすることにより、本発明の位相差板を組み込んだ表示装置の表示画像の鮮明性を高めることができる。ここで、ヘイズは、JIS K7361−1997に準拠して、日本電色工業社製「濁度計 NDH−300A」を用いて、5箇所測定し、それから求めた平均値である。
【0049】
位相差板製造用積層体は、ΔYIが5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。このΔYIが上記範囲にあると、着色がなく視認性が良好となる。ΔYIは、ASTM E313に準拠して、日本電色工業社製「分光色差計 SE2000」を用いて測定する。同様の測定を五回行い、その算術平均値にして求める。
【0050】
位相差板製造用積層体は、JIS鉛筆硬度でHまたはそれ以上の硬さを有することが好ましい。このJIS鉛筆硬度の調整は、樹脂の種類の変更や樹脂の層厚の変更などによって行うことができる。JIS鉛筆硬度は、JIS K5600−5−4に準拠して、各種硬度の鉛筆を45°傾けて、上から500g重の荷重を掛けてフィルム表面を引っ掻き、傷が付きはじめる鉛筆の硬さである。
【0051】
位相差板製造用積層体の外表面は、MD方向に伸びる不規則に生じる線状凹部や線状凸部(いわゆるダイライン)を実質的に有さず、平坦であることが好ましい。ここで、「不規則に生じる線状凹部や線状凸部を実質的に有さず、平坦」とは、仮に線状凹部や線状凸部が形成されたとしても、深さが50nm未満もしくは幅が500nmより大きい線状凹部、および高さが50nm未満もしくは幅が500nmより大きい線状凸部であることである。より好ましくは、深さが30nm未満もしくは幅が700nmより大きい線状凹部であり、高さが30nm未満もしくは幅が700nmより大きい線状凸部である。このような構成とすることにより、線状凹部や線状凸部での光の屈折等に基づく、光の干渉や光漏れの発生を防止でき、光学性能を向上できる。なお、不規則に生じるとは、意図しない位置に意図しない寸法、形状等で形成されるということである。
【0052】
上述した線状凹部の深さや、線状凸部の高さ、及びこれらの幅は、次に述べる方法で求めることができる。位相差板製造用積層体に光を照射して、透過光をスクリーンに映し、スクリーン上に現れる光の明又は暗の縞の有る部分(この部分は線状凹部の深さ及び線状凸部の高さが大きい部分である。)を30mm角で切り出す。切り出したフィルム片の表面を三次元表面構造解析顕微鏡(視野領域5mm×7mm)を用いて観察し、これを3次元画像に変換し、この3次元画像から断面プロファイルを求める。断面プロファイルは視野領域で1mm間隔で求める。
この断面プロファイルに、平均線を引き、この平均線から線状凹部の底までの長さが線状凹部深さ、また平均線から線状凸部の頂までの長さが線状凸部高さとなる。平均線とプロファイルとの交点間の距離が幅となる。これら線状凹部深さ及び線状凸部高さの測定値からそれぞれ最大値を求め、その最大値を示した線状凹部又は線状凸部の幅をそれぞれ求める。以上から求められた線状凹部深さ及び線状凸部高さの最大値、その最大値を示した線状凹部の幅及び線状凸部の幅を、そのフィルムの線状凹部の深さ、線状凸部の高さ及びそれらの幅とする。
【0053】
〔1−2.第一延伸工程〕
第一延伸工程では、位相差板製造用積層体を温度T1で一方向に延伸する。即ち、位相差板製造用積層体を温度T1で一軸延伸する。温度T1で延伸すると、樹脂層a〜cのそれぞれにおいて、位相差板製造用積層体の構成、延伸温度T1及び延伸倍率などに応じて位相差が生じ、樹脂層a〜cを含む位相差板製造用積層体全体としても位相差を生じる。この際、例えば位相差板製造用積層体が要件Pを満たす場合には、XZ偏光のYZ偏光に対する位相は、遅れるか、若しくは進むことになる。
【0054】
温度T1は、樹脂Aのガラス転移温度Tg、樹脂Bのガラス転移温度Tg、樹脂Cのガラス転移温度Tgを基準として、Tgより高いことが好ましく、Tg+5℃より高いことがより好ましく、また、TgおよびTgのいずれか高い温度+20℃より低いことが好ましく、TgおよびTgのいずれか高い温度+10℃より低いことがより好ましい。温度T1を前記温度範囲の下限よりも高くすると樹脂層bの位相差Reb及びRtbを所望の範囲に安定して収めることができ、温度T1を前記温度範囲の上限よりも低くすると樹脂層aの位相差Rea及びRta、樹脂層cの位相差Rec及びRtcを所望の範囲に安定して収めることができる。
【0055】
一軸延伸は、従来公知の方法で行うことができる。例えば、ロール間の周速の差を利用して縦方向(通常はMD方向に一致する。)に一軸延伸する方法や、テンターを用いて横方向(通常はTD方向に一致する。)に一軸延伸する方法等が挙げられる。縦方向に一軸延伸する方法としては、例えば、ロール間でのIR加熱方式やフロート方式等が挙げられ、中でも光学的な均一性が高い位相差板が得られる点からフロート方式が好適である。一方、横方向に一軸延伸する方法としては、テンター法が挙げられる。
【0056】
延伸の際には、延伸ムラや厚みムラを小さくするために、延伸ゾーンにおいてフィルム幅方向に温度差がつくようにしてもよい。延伸ゾーンにおいてフィルム幅方向に温度差をつけるには、例えば、温風ノズルの開度を幅方向で調整したり、IRヒーターを幅方向に並べて加熱制御したりするなど、公知の手法を用いることができる。
【0057】
〔1−3.第二延伸工程〕
第一延伸工程の後、第二延伸工程を行う。第二延伸工程では、第一延伸工程で一方向に延伸した位相差板製造用積層体を、第一延伸工程での延伸方向とは略直交する方向へ延伸する。ここで、略直交するとは、通常85°以上、好ましくは89°以上、通常95°以下、好ましくは91°以下であることをいう。
【0058】
また第二延伸工程では、温度T1よりも低い温度T2において位相差板製造用積層体を延伸する。即ち、位相差板製造用積層体を相対的に低い温度T2において一軸延伸する。温度T2で延伸すると、樹脂層a〜cのそれぞれにおいて、位相差板製造用積層体の構成、延伸温度T2及び延伸倍率などに応じて位相差が生じ、樹脂層a〜cを含む位相差板製造用積層体全体としても位相差を生じる。この際、例えば位相差板製造用積層体が要件Pを満たすのであれば、第一延伸工程での延伸によりXZ偏光のYZ偏光に対する位相が遅れた場合には第二延伸工程での延伸によりXZ偏光のYZ偏光に対する位相は進み、第一延伸工程での延伸によりXZ偏光のYZ偏光に対する位相が進んだ場合には第二延伸工程での延伸によりXZ偏光のYZ偏光に対する位相は遅れることになる。
【0059】
温度T2は、樹脂Bのガラス転移温度Tgを基準として、Tg−20℃より高いことが好ましく、Tg−10℃より高いことがより好ましく、また、Tg+5℃より低いことが好ましく、Tgより低いことがより好ましい。延伸温度T2を前記温度範囲の下限よりも高くすると延伸時に位相差板製造用積層体が破断したり白濁したりすることを防止でき、延伸温度T2を前記温度範囲の上限よりも低くすると樹脂層bの位相差Reb及びRtbを所望の範囲に安定して収めることができる。
【0060】
また、温度T1と温度T2との差は、通常5℃以上、好ましくは10℃以上である。温度T1と温度T2との差を前記のように大きくすることで、位相差板に偏光板補償機能を安定して発現させることができる。なお、温度T1と温度T2との差の上限に制限は無いが、工業生産性の観点からは100℃以下である。
【0061】
第二延伸工程での一軸延伸は、第一延伸工程での一軸延伸で採用できる方法と同様の方法が適用できる。ただし第二延伸工程での一軸延伸は、第一延伸工程での一軸延伸よりも小さい延伸倍率で行うことが好ましい。具体的には、第一延伸倍率は2倍〜4倍、第二延伸倍率は1.1倍〜2倍であることが好ましい。
【0062】
第一延伸工程及び第二延伸工程における延伸方向の組み合わせは、例えば、第一延伸工程で縦方向に延伸し第二延伸工程で横方向に延伸したり、第一延伸工程で横方向に延伸し第二延伸工程で縦方向に延伸したり、第一延伸工程で斜め方向に延伸し第二延伸工程でそれに略直交する斜め方向に延伸したりすればよい。中でも、第一延伸工程で横方向に延伸し、第二延伸工程で縦方向に延伸することが好ましい。延伸倍率が小さい第二延伸工程での延伸を縦方向に行うようにすることで、得られる位相差板の全幅にわたって光軸の方向のバラツキを小さくできるからである。
【0063】
上述したように位相差板製造用積層体に対して第一延伸工程と第二延伸工程とを行うことにより、第一延伸工程及び第二延伸工程のそれぞれにおいて樹脂層a及び樹脂層bに延伸温度、延伸方向及び延伸倍率等に応じた位相差が生じる。このため、第一延伸工程と第二延伸工程とを経て得られる本発明の位相差板では、第一延伸工程及び第二延伸工程のそれぞれにおいて樹脂層a〜cに生じた位相差が合成されることにより、偏光板補償機能等の光学的機能を発現するに足りる位相差が生じることになる。
【0064】
上述した位相差板の製造方法は、従来の方法と比較して工程が簡便であるため、生産性の向上が期待できる。
例えば特許文献1記載の技術では樹脂フィルムに対して収縮性フィルムによる収縮力を付与することで所望の位相差板を得ていたが、収縮の方向及び程度の制御が煩雑であった。また、収縮性フィルムを用いる方法では収縮力の大きさが収縮性フィルムの膜厚や収縮時の条件等により変動するため収縮の精度調整が困難であり、幅広の位相差板を製造することが難しかった。これに対し、上述した位相差板の製造方法では位相差板製造用積層体に対して延伸を行うだけでよいため、工程がシンプルであり製造方法として簡便である。また、上述した位相差板の製造方法であれば収縮は必要ではなく延伸だけを行えばよく、また延伸は精度調整が比較的容易であるため、位相差板の広幅化が容易である。
さらに、例えば異なる位相差を有するフィルムを別々に用意し、それらを貼り合わせて偏光板補償機能を有する位相差板を製造することも考えられるが、その場合には貼り合わせ角度を精密に調整することになり、その調整が煩雑であった。また、貼り合わせのために接着剤を用いると接着剤の硬化のための装置及び時間を設けることになり、煩雑であった。これに対し、上述した位相差板の製造方法であれば、位相差板製造用積層体を用意した後で延伸を行っているため貼り合わせ角度の調整が不要であり、製造に要する手間が少なく簡便であるので、生産性の向上が期待できる。さらに、貼り合わせ角度の調整が不要であることから遅相軸の方向精度の向上が容易であり、製品の高品質化も期待できる。
【0065】
〔1−4.その他の工程〕
本発明の位相差板の製造方法においては、上述した第一延伸工程及び第二延伸工程以外にその他の工程を行うようにしてもよい。
例えば、位相差板製造用積層体を延伸する前に、位相差板製造用積層体を予め加熱する工程(予熱工程)を設けてもよい。位相差板製造用積層体を加熱する手段としては、例えば、オーブン型加熱装置、ラジエーション加熱装置、又は液体中に浸すことなどが挙げられる。中でもオーブン型加熱装置が好ましい。予熱工程における加熱温度は、通常は延伸温度−40℃以上、好ましくは延伸温度−30℃以上であり、通常は延伸温度+20℃以下、好ましくは延伸温度+15℃以下である。なお延伸温度とは、加熱装置の設定温度を意味する。
【0066】
また、例えば第一延伸工程及び/又は第二延伸工程の後に、延伸したフィルムを固定処理しても良い。固定処理における温度は、通常は室温以上、好ましくは延伸温度−40℃以上であり、通常は延伸温度+30℃以下、好ましくは延伸温度+20℃以下である。
【0067】
〔2.本発明の位相差板〕
上述した製造方法により、本発明の位相差板が得られる。
前述した第一延伸工程および第二延伸工程を経て得られる位相差板は、各延伸工程の延伸条件や各層の厚み等により、(1)延伸後の樹脂層aの遅相軸、延伸後の樹脂層bの遅相軸、および延伸後の樹脂層cの遅相軸が互いに略平行である態様、(2)延伸後の樹脂層bの遅相軸が、延伸後の樹脂層aの遅相軸および延伸後の樹脂層cの遅相軸と互いに直交する態様の2つの態様が考えられ、各態様ごとにその好適な位相差値が相違する。
【0068】
本発明の位相差板の一態様では、少なくとも樹脂Aを含有する樹脂層aと、樹脂Bを含有する樹脂層bと、樹脂Cを含有する樹脂層cとを含む積層構造を有する位相差板であり、延伸処理後の樹脂層aの面内レターデーションRea及び厚み方向のレターデーションRta、延伸処理後の樹脂層bの面内レターデーションReb及び厚み方向のレターデーションRtb、延伸処理後の樹脂層cの面内レターデーションRec及び厚み方向のレターデーションRtc、が、以下の式1〜6を満足する位相差板である。この際、延伸処理が施された前記樹脂層aの遅相軸と、延伸処理が施された前記樹脂層bの遅相軸と、延伸処理が施された前記樹脂層cの遅相軸とが互いに略平行である。なお、本発明において、略平行とは、真に平行な状態から±2°の範囲内のことである。
20nm<Rea<70nm ・・・式1
40nm<Rta<150nm ・・・式2
90nm<Reb<170nm ・・・式3
−110nm<Rtb<−40nm ・・・式4
0nm<Rec<60nm ・・・式5
4nm<Rtc<130nm ・・・式6
【0069】
以下、式1〜6について更に詳しく説明する。
本発明の位相差板における延伸後の樹脂層aの面内レターデーションReaは、通常20nmより大きく、好ましくは25nmより大きく、より好ましくは30nmより大きく、通常70nm未満、好ましくは65nm未満、より好ましくは60nm未満である。
【0070】
本発明の位相差板における延伸後の樹脂層aの厚み方向のレターデーションRtaは、通常40nmより大きく、好ましくは45nmより大きく、より好ましくは55nmより大きく、通常150nm未満、好ましくは145nm未満、より好ましくは140nm未満である。
【0071】
本発明の位相差板における延伸後の樹脂層bの面内レターデーションRebは、通常90nmより大きく、好ましくは95nmより大きく、より好ましくは100nmより大きく、通常170nm未満、好ましくは165nm未満、より好ましくは160nm未満である。
【0072】
本発明の位相差板における延伸後の樹脂層bの厚み方向のレターデーションRtbは、通常−110nmより大きく、好ましくは−105nmより大きく、より好ましくは−100nmより大きく、通常−40nm未満、好ましくは−45nm未満、より好ましくは−50nm未満である。
【0073】
本発明の位相差板における延伸後の樹脂層cの面内レターデーションRecは、通常0nmより大きく、好ましくは5nmより大きく、より好ましくは10nmより大きく、通常60nm未満、好ましくは55nm未満、より好ましくは50nm未満である。
【0074】
本発明の位相差板における延伸後の樹脂層cの厚み方向のレターデーションRtbは、通常4nmより大きく、好ましくは10nmより大きく、より好ましくは15nmより大きく、通常130nm未満、好ましくは125nm未満、より好ましくは120nm未満である。
【0075】
本発明の位相差板の他の態様では、少なくとも樹脂Aを含有する樹脂層aと、樹脂Bを含有する樹脂層bと、樹脂Cを含有する樹脂層cとを含む積層構造を有する位相差板であり、延伸処理後の樹脂層aの面内レターデーションRea及び厚み方向のレターデーションRta、延伸処理後の樹脂層bの面内レターデーションReb及び厚み方向のレターデーションRtb、延伸処理後の樹脂層cの面内レターデーションRec及び厚み方向のレターデーションRtc、が、以下の式7〜12を満足する位相差板である。この際、延伸処理が施された前記樹脂層bの遅相軸は、延伸処理が施された前記樹脂層aの遅相軸、および、延伸処理が施された前記樹脂層cの遅相軸のそれぞれと、互いに略直交である。なお、略直交とは、各遅相軸のなす角度が90±2°の範囲内のことである。
0nm<Rea<30nm ・・・式7
20nm<Rta<110nm ・・・式8
150nm<Reb<230nm ・・・式9
−140nm<Rtb<−90nm ・・・式10
10nm<Rec<40nm ・・・式11
70nm<Rtc<190nm ・・・式12
【0076】
以下、式7〜12について更に詳しく説明する。
本発明の位相差板における延伸後の樹脂層aの面内レターデーションReaは、通常0nmより大きく、好ましくは2nmより大きく、より好ましくは4nmより大きく、通常30nm未満、好ましくは28nm未満、より好ましくは26nm未満である。
【0077】
本発明の位相差板における延伸後の樹脂層aの厚み方向のレターデーションRtaは、通常20nmより大きく、好ましくは30nmより大きく、より好ましくは40nmより大きく、通常110nm未満、好ましくは100nm未満、より好ましくは90nm未満である。
【0078】
本発明の位相差板における延伸後の樹脂層bの面内レターデーションRebは、通常150nmより大きく、好ましくは155nmより大きく、より好ましくは160nmより大きく、通常230nm未満、好ましくは225nm未満、より好ましくは220nm未満である。
【0079】
本発明の位相差板における延伸後の樹脂層bの厚み方向のレターデーションRtbは、通常−140nmより大きく、好ましくは−135nmより大きく、より好ましくは−130nmより大きく、通常−90nm未満、好ましくは−85nm未満、より好ましくは−80nm未満である。
【0080】
本発明の位相差板における延伸後の樹脂層cの面内レターデーションRecは、通常10nmより大きく、好ましくは12nmより大きく、より好ましくは14nmより大きく、通常40nm未満、好ましくは38nm未満、より好ましくは36nm未満である。
【0081】
本発明の位相差板における延伸後の樹脂層cの厚み方向のレターデーションRtbは、通常70nmより大きく、好ましくは80nmより大きく、より好ましくは90nmより大きく、通常190nm未満、好ましくは180nm未満、より好ましくは170nm未満である。
【0082】
前記2つの態様において、延伸後の樹脂層aの面内レターデーションRea及び厚み方向のレターデーションRta、延伸後の樹脂層bの面内レターデーションReb及び厚み方向のレターデーションRtb、延伸後の樹脂層cの面内レターデーションRec及び厚み方向のレターデーションRtcが前記の範囲に収まることにより、本発明の位相差板は偏光板補償機能を発揮することができる。これらのレターデーションRea、Rta、Reb、Rtb、Rec、及びRtcを調整する場合、例えば、第一延伸工程及び第二延伸工程における延伸倍率及び延伸温度を調整すればよい。同様に、樹脂層bの遅相軸方向と、樹脂層aおよび樹脂層cの各遅相軸方向との関係は、各層の厚みおよび延伸温度、延伸倍率を調整することにより、略平行にしたり、略直交にしたりすることができる。
【0083】
各層の面内レタデーション(Rea、Reb、Rec)は、|Nx−Ny|×Th(式中、Nxは厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表し、Nyは厚み方向に垂直な方向(面内方向)であってNxに直交する方向の屈折率を表し、Thは膜厚を表す。)で表される値である。また、各層の厚み方向のレタデーション(Rta及びRtb)は、{|Nx+Ny|/2−Nz}×Th(式中、Nxは厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表し、Nyは厚み方向に垂直な方向(面内方向)であってNxに直交する方向の屈折率であり、Nzは厚み方向の屈折率を表し、Thは膜厚を表す。)で表される値である。なお、レターデーションはいずれも波長550nmの光に対する評価とする。
前記の各層のレターデーションは、J.A.Woollam社製分光エリプソメーターM−2000Uを用いて、位相差板の表面をプラスチック用研磨布で研磨し、単層にした状態で、nx、ny、nzを求めることにより算出できる。
【0084】
本発明の位相差板は、入射角0°におけるレターデーションReが、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましく、また、400nm以下であることが好ましく、350nm以下であることがより好ましい。
【0085】
本発明の位相差板は、面内の遅相軸方向の屈折率nとそれに面内で直交する方向の屈折率nと厚み方向の屈折率nとがn>n>nの関係を満たすことが好ましい。ここで、屈折率n、nおよびnは、Re及びR40、位相差板の厚み、並びに位相差板の平均屈折率naveにより算出される。naveは次式により決定する。
ave=Σ(n×L)/ΣL
:i層樹脂の屈折率
:i層の膜厚
【0086】
本発明の位相差板は、60℃、90%RH、100時間の熱処理によって、縦方向および横方向において収縮するものであってもよいが、その収縮率は、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.3%以下である。収縮率が過大になると、高温・高湿環境下で本発明の位相差板を使用した際に、収縮応力によって位相差板の変形が生じ、表示装置から剥離する可能性がある。
【0087】
本発明の位相差板の厚みは、延伸後の樹脂層a〜cの厚みの合計として、10μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、また、200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましい。また、延伸後の樹脂層a,b,cの厚みはそれぞれ1μm以上であることが好ましい。さらに、延伸後の樹脂層a〜cの厚みのばらつきが全面で1μm以下であることが好ましい。これにより、色調のばらつきを小さくできる。また、長期使用後の色調変化を均一にできるようになる。これを実現するには、位相差板製造用積層体において樹脂層a〜cの厚みのばらつきを全面で1μm以下にすればよい。
【0088】
本発明の位相差板は、その全光線透過率、ヘイズ、ΔYI、JIS鉛筆硬度、並びに外表面が線状凹部や線状凸部を実質的に有さず平坦であることが好ましい点については、位相差板製造用積層体と同様である。
【0089】
本発明の位相差板は、延伸後の樹脂層a〜c以外にその他の層を有してもよい。その他の層の例としては、例えば、フィルムの滑り性を良くするマット層、耐衝撃性ポリメタクリレート樹脂層などのハードコート層、反射防止層、防汚層等が挙げられる。その他の層は、位相差板に対して後から設けるようにして構成することができる。
【0090】
本発明の位相差板は、その幅方向の寸法を1500mm〜2000mmとすることができる。
【0091】
〔3.液晶表示装置〕
本発明の位相差板は優れた偏光板補償機能を有するため、それ単独であるいは他の部材と組み合わせて、液晶表示装置に適用することができる。
【0092】
液晶表示装置は、通常、それぞれの吸収軸が略直交する一対の偏光子(光入射側偏光子と光出射側偏光子)と、前記一対の偏光子の間に設けられた液晶セルとを備える。液晶表示装置に本発明の位相差板を設ける場合、前記一対の偏光子の間に本発明の位相差板を設ける。この際、本発明の位相差板は、液晶セルよりも光入射側に設けてもよく、液晶セルよりも光出射側に設けてもよく、液晶セルよりも光入射側及び光出射側の両方に設けてもよい。通常、これら一対の偏光子、本発明の位相差板及び液晶セルは液晶パネルとして一体に設けられ、この液晶パネルに光源から光を照射して液晶パネルの光出射側に存在する表示面に画像が表示されるようになっている。この際、本発明の位相差板が優れた偏光板補償機能を発揮するため、液晶表示装置の表示面を斜めから見た場合の光漏れを低減することが可能である。また、本発明の位相差板は、通常、偏光板補償機能の他にも優れた光学的機能を有するため液晶表示装置の視認性を更に向上させることが可能である。
【0093】
液晶セルの駆動方式としては、例えば、インプレーンスイッチング(IPS)方式、バーチカルアラインメント(VA)方式、マルチドメインバーチカルアラインメント(MVA)方式、コンティニュアスピンホイールアラインメント(CPA)方式、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)方式、ツイステッドネマチック(TN)方式、スーパーツイステッドネマチック(STN)方式、オプチカルコンペンセイテッドベンド(OCB)方式などが挙げられる。中でもインプレーンスイッチング方式及びバーチカルアラインメント方式が好ましく、インプレーンスイッチング方式が特に好ましい。インプレーンスイッチング方式の液晶セルは視野角が広いが、本発明の位相差板を適用することにより視野角を更に広げることが可能である。
【0094】
本発明の位相差板は液晶セルまたは偏光子に貼り合わせてもよい。貼り合わせには公知の接着剤を用い得る。
また、本発明の位相差板は1枚を単独で用いてもよく、2枚以上を用いてもよい。
さらに、本発明の位相差板を液晶表示装置に設ける場合、更に別の位相差板と組み合わせて用いてもよい。例えば本発明の位相差板をバーチカルアラインメント方式の液晶セルを備えた液晶表示装置に設ける場合、一対の偏光子の間に、本発明の位相差板に加えて視野角特性を改善するための別の位相差板を設けるようにしてもよい。
【0095】
〔4.その他の事項〕
本発明の位相差板は、上述した以外の用途に用いることも可能である。
例えば、本発明の位相差板の面内レターデーションReを120nm〜160nmとすることによって本発明の位相差板を1/4波長板とし、この1/4波長板を直線偏光子と組み合わせれば、円偏光板とすることができる。この際、1/4波長板の遅相軸と直線偏光子の吸収軸とのなす角度は45±2°にすることが好ましい。
【0096】
また、本発明の位相差板を偏光板の保護フィルムとして用いることもできる。偏光板は、通常、偏光子とその両面に貼り合わせられた保護フィルムとを備える。本発明の位相差板を偏光子に貼り合わせれば、本発明の位相差板を保護フィルムとして用いることができる。この場合、保護フィルムが省略されるので液晶表示装置を薄くすることができる。
【実施例】
【0097】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、実施例および比較例において、偏光子として偏光板(サンリッツ社製、LLC2―9518))を用いた。液晶セルとして、厚さ3.349μm、波長550nmの複屈折Δn=0.11、プレチルト角0度のものを用いた。
【0098】
〔評価方法〕
(1)厚みの測定方法
フィルムの膜厚は、接触式の厚み計を用いて測定した。
フィルムを構成する各層の層厚は、フィルムをエポキシ樹脂に包埋したのち、ミクロトーム(大和工業社製、製品名「RUB−2100」)を用いてスライスし、走査電子顕微鏡を用いて断面を観察し、測定した。
【0099】
(2)レターデーションの測定方法
位相差板を構成する各層の面内位相差及び厚み方向位相差は、J.A.Woollam社製分光エリプソメーターM−2000Uを用いて、測定波長550nmで、位相差板の表面をプラスチック用研磨布で研磨して各層を単層にした状態として、各層の長手方向の屈折率Nx、幅方向の屈折率Ny及び厚み方向の屈折率Nzをそれぞれ求め、各層の厚みをTh(nm)とこれらの値を用いて、次式より面内位相差(Rea,Reb,Rec)、厚み方向位相差(Rta,Rtb,Rtc)を算出した。
Rea(Reb,Rec)=|Nx−Ny|×d
Rta(Rtb,Rtc)=(|Nx−Ny|/2−Nz)×Th
【0100】
(3)液晶表示装置の視野角特性
得られた位相差板を、インプレーンスイッチング(IPS)モードの液晶表示装置の液晶セルに隣接する位置に配置して、表示特性を目視により観察する。また、4 × 4 マトリクスを用いた光学シミュレーションによりコントラストを計算し、コントラスト図として表示する。
【0101】
〔製造例1〕
二種三層の共押出成形用のフィルム成形装置を準備し、ポリカーボネート樹脂(旭化成社製、ワンダーライトPC−110、ガラス転移温度145℃)のペレットを、ダブルフライト型のスクリューを備えた一方の一軸押出機に投入して、溶融させた。
スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂(NovaChemicals社製、DylarkD332、ガラス転移温度135℃)のペレットをダブルフライト型のスクリューを備えたもう一方の一軸押出機に投入して、溶融させた。
【0102】
溶融された260℃のポリカーボネート樹脂を目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通してマルチマニホールドダイ(ダイスリップの表面粗さRa:0.1μm)の一方のマニホールドに供給し、溶融された260℃のスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂を目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通して他方のマニホールドに、それぞれ供給した。
【0103】
ポリカーボネート樹脂およびスチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂を該マルチマニホールドダイから260℃で同時に押し出して、ポリカーボネート樹脂層/スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂層/ポリカーボネート層からなる3層構成のフィルム状にした。該フィルム状溶融樹脂を表面温度130℃に調整された冷却ロールにキャストし、次いで表面温度50℃に調整された2本の冷却ロール間に通して積層体1を得た。この積層体1は、ポリカーボネート樹脂層(樹脂層a:15μm)と、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂層(樹脂層b:110μm)と、ポリカーボネート樹脂層(樹脂層c:3μm)とからなる幅1350mmで、かつ厚み128μmの位相差板製造用積層体1を得た(共押出工程)。
【0104】
〔製造例2〕
製造例1と同様の手順で、厚みのみ相違する位相差板製造用積層体2を得た。位相差板製造用積層体2は、ポリカーボネート樹脂層(樹脂層a:13μm)と、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂層(樹脂層b:77μm)と、ポリカーボネート樹脂層(樹脂層c:1μm)とからなる幅1350mmで、かつ厚み91μmであった。
【0105】
〔製造例3〕
製造例1と同様の手順で、厚みのみ相違する位相差板製造用積層体3を得た。位相差板製造用積層体3は、ポリカーボネート樹脂層(樹脂層a:28μm)と、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂層(樹脂層b:135μm)と、ポリカーボネート樹脂層(樹脂層c:22μm)とからなる幅1350mmで、かつ厚み185μmであった。
【0106】
〔製造例4〕
製造例1と同様の手順で、厚みのみ相違する位相差板製造用積層体4を得た。位相差板製造用積層体4は、ポリカーボネート樹脂層(樹脂層a:9μm)と、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂層(樹脂層b:110μm)と、ポリカーボネート樹脂層(樹脂層c:1μm)とからなる幅1350mmで、かつ厚み120μmであった。
【0107】
〔製造例5〕
製造例1と同様の手順で、厚みのみ相違する位相差板製造用積層体5を得た。位相差板製造用積層体5は、ポリカーボネート樹脂層(樹脂層a:18μm)と、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂層(樹脂層b:100μm)と、ポリカーボネート樹脂層(樹脂層c:7μm)とからなる幅1350mmで、かつ厚み125μmであった。
【0108】
〔製造例6〕
製造例1と同様の手順で、厚みのみ相違する位相差板製造用積層体6を得た。位相差板製造用積層体6は、ポリカーボネート樹脂層(樹脂層a:11μm)と、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂層(樹脂層b:82μm)と、ポリカーボネート樹脂層(樹脂層c:3μm)とからなる幅1350mmで、かつ厚み96μmであった。
【0109】
〔製造例7〕
製造例1と同様の手順で、厚みのみ相違する位相差板製造用積層体7を得た。位相差板製造用積層体7は、ポリカーボネート樹脂層(樹脂層a:25μm)と、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂層(樹脂層b:118μm)と、ポリカーボネート樹脂層(樹脂層c:14μm)とからなる幅1350mmで、かつ厚み157μmであった。
【0110】
〔製造例8〕
製造例1と同様の手順で、厚みのみ相違する位相差板製造用積層体8を得た。位相差板製造用積層体8は、ポリカーボネート樹脂層(樹脂層a:4μm)と、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂層(樹脂層b:57μm)と、ポリカーボネート樹脂層(樹脂層c:33μm)とからなる幅1350mmで、かつ厚み94μmであった。
【0111】
〔製造例9〕
製造例1と同様の手順で、厚みのみ相違する位相差板製造用積層体9を得た。位相差板製造用積層体9は、ポリカーボネート樹脂層(樹脂層a:38μm)と、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂層(樹脂層b:164μm)と、ポリカーボネート樹脂層(樹脂層c:33μm)とからなる幅1350mmで、かつ厚み235μmであった。
【0112】
〔製造例10〕
製造例1と同様の手順で、厚みのみ相違する位相差板製造用積層体10を得た。位相差板製造用積層体10は、ポリカーボネート樹脂層(樹脂層a:28μm)と、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂層(樹脂層b:68μm)と、ポリカーボネート樹脂層(樹脂層c:35μm)とからなる幅1350mmで、かつ厚み131μmであった。
【0113】
〔製造例11〕
製造例1と同様の手順で、厚みのみ相違する位相差板製造用積層体11を得た。位相差板製造用積層体11は、ポリカーボネート樹脂層(樹脂層a:28μm)と、スチレン−無水マレイン酸共重合体樹脂層(樹脂層b:126μm)と、ポリカーボネート樹脂層(樹脂層c:3μm)とからなる幅1350mmで、かつ厚み157μmであった。
【0114】
〔実施例1〕
製造例1で得られた積層体1をテンター横一軸延伸機に供給し、延伸温度150℃、延伸倍率2.7で横方向に延伸した(第一延伸工程)。続いて、延伸されたフィルムを縦一軸延伸機に供給し、延伸温度130℃、延伸倍率1.4で縦方向に延伸して、位相差板1を得た(第二延伸工程)。
得られた位相差板1は、延伸後の樹脂層aの遅相軸と、延伸後の樹脂層bの遅相軸と、延伸後の樹脂層cの遅相軸とが互いに略平行であった。また、得られた位相差板1について、延伸後の樹脂層aの面内レターデーションRea及び厚み方向のレターデーションRta、延伸後の樹脂層bの面内レターデーションReb及び厚み方向のレターデーションRtb、樹脂層cの面内レターデーションRec及び厚み方向のレターデーションRtcを測定した。結果を表1に示す。得られた位相差板1はn>n>nの関係を満たし、本位相差板用の積層体は前記要件Pの関係を満たしていた。また、得られた位相差板1を、IPSモードの液晶表示装置の液晶セルに隣接する位置に配置して、表示特性を目視で評価すると、画面を正面からみた場合でも、全方位から極角80度以内の斜めの方向から見た場合も、表示は良好かつ均一であった。この液晶表示装置について4X4マトリックスを用いた光学シミュレーションにより得られたコントラストを表1に、コントラスト等高線図を図2に示す。
【0115】
〔実施例2〕
製造例2で得られた積層体2をテンター横一軸延伸機に供給し、延伸温度150℃、延伸倍率2.7で横方向に延伸した(第一延伸工程)。続いて、延伸されたフィルムを縦一軸延伸機に供給し、延伸温度130℃、延伸倍率1.4で縦方向に延伸して、位相差板2を得た(第二延伸工程)。
得られた位相差板2は、延伸後の樹脂層aの遅相軸と、延伸後の樹脂層bの遅相軸と、延伸後の樹脂層cの遅相軸とが互いに略平行であった。また、得られた位相差板2について、延伸後の樹脂層aの面内レターデーションRea及び厚み方向のレターデーションRta、延伸後の樹脂層bの面内レターデーションReb及び厚み方向のレターデーションRtb、延伸後の樹脂層cの面内レターデーションRec及び厚み方向のレターデーションRtcを測定した。結果を表1に示す。得られた位相差板1は、n>n>nの関係を満たし、本位相差板用の積層体は前記要件Pの関係を満たしていた。また、得られた位相差板2を、IPSモードの液晶表示装置の液晶セルに隣接する位置に配置して、表示特性を目視で評価すると、画面を正面からみた場合でも、全方位から極角80度以内の斜めの方向から見た場合も、表示は良好かつ均一であった。この液晶表示装置について4X4マトリックスを用いた光学シミュレーションにより得られたコントラストを表1に、コントラスト等高線図を図3に示す。
【0116】
〔実施例3〕
製造例3で得られた積層体3をテンター横一軸延伸機に供給し、延伸温度150℃、延伸倍率2.7で横方向に延伸した(第一延伸工程)。続いて、延伸されたフィルムを縦一軸延伸機に供給し、延伸温度130℃、延伸倍率1.4で縦方向に延伸して、位相差板3を得た(第二延伸工程)。
得られた位相差板3は、延伸後の樹脂層aの遅相軸と、延伸後の樹脂層bの遅相軸と、延伸後の樹脂層cの遅相軸とが互いに略平行であった。また、得られた位相差板3について、延伸後の樹脂層aの面内レターデーションRea及び厚み方向のレターデーションRta、延伸後の樹脂層bの面内レターデーションReb及び厚み方向のレターデーションRtb、延伸後の樹脂層cの面内レターデーションRec及び厚み方向のレターデーションRtcを測定した。結果を表1に示す。得られた位相差板3は、n>n>nの関係を満たし、本位相差板用の積層体は前記要件Pの関係を満たしていた。また、得られた位相差板3を、IPSモードの液晶表示装置の液晶セルに隣接する位置に配置して、表示特性を目視で評価すると、画面を正面からみた場合でも、全方位から極角80度以内の斜めの方向から見た場合も、表示は良好かつ均一であった。この液晶表示装置について4X4マトリックスを用いた光学シミュレーションにより得られたコントラストを表1に、コントラスト等高線図を図4に示す。
【0117】
〔実施例4〕
製造例4で得られた積層体4をテンター横一軸延伸機に供給し、延伸温度150℃、延伸倍率2.7で横方向に延伸した(第一延伸工程)。続いて、延伸されたフィルムを縦一軸延伸機に供給し、延伸温度130℃、延伸倍率1.4で縦方向に延伸して、位相差板2を得た(第二延伸工程)。
得られた位相差板4は、延伸後の樹脂層aの遅相軸が、延伸後の樹脂層bの遅相軸および延伸後の樹脂層cの遅相軸とそれぞれと互いに略直交していた。得られた位相差板4について、延伸後の樹脂層aの面内レターデーションRea及び厚み方向のレターデーションRta、延伸後の樹脂層bの面内レターデーションReb及び厚み方向のレターデーションRtb、延伸後の樹脂層cの面内レターデーションRec及び厚み方向のレターデーションRtcを測定した。結果を表1に示す。得られた位相差板4は、n>n>nの関係を満たし、本位相差板用の積層体は前記要件Pの関係を満たしていた。また、得られた位相差板4を、IPSモードの液晶表示装置の液晶セルに隣接する位置に配置して、表示特性を目視で評価すると、画面を正面からみた場合でも、全方位から極角80度以内の斜めの方向から見た場合も、表示は良好かつ均一であった。この液晶表示装置について4X4マトリックスを用いた光学シミュレーションにより得られたコントラストを表1に、コントラスト等高線図を図5に示す。
【0118】
〔実施例5〕
製造例5で得られた積層体5をテンター横一軸延伸機に供給し、延伸温度154℃、延伸倍率2.7で横方向に延伸した(第一延伸工程)。続いて、延伸されたフィルムを縦一軸延伸機に供給し、延伸温度130℃、延伸倍率1.4で縦方向に延伸して、位相差板2を得た(第二延伸工程)。
得られた位相差板5は、延伸後の樹脂層bの遅相軸が、延伸後の樹脂層aの遅相軸および延伸後の樹脂層cの遅相軸とそれぞれと互いに略直交していた。また、得られた位相差板5について、延伸後の樹脂層aの面内レターデーションRea及び厚み方向のレターデーションRta、延伸後の樹脂層bの面内レターデーションReb及び厚み方向のレターデーションRtb、延伸後の樹脂層cの面内レターデーションRec及び厚み方向のレターデーションRtcを測定した。結果を表1に示す。得られた位相差板5は、n>n>nの関係を満たし、本位相差板用の積層体は前記要件Pの関係を満たしていた。また、得られた位相差板5を、IPSモードの液晶表示装置の液晶セルに隣接する位置に配置して、表示特性を目視で評価すると、画面を正面からみた場合でも、全方位から極角80度以内の斜めの方向から見た場合も、表示は良好かつ均一であった。この液晶表示装置について4X4マトリックスを用いた光学シミュレーションにより得られたコントラストを表1に、コントラスト等高線図を図6に示す。
【0119】
〔実施例6〕
製造例6で得られた積層体6をテンター横一軸延伸機に供給し、延伸温度154℃、延伸倍率2.7で横方向に延伸した(第一延伸工程)。続いて、延伸されたフィルムを縦一軸延伸機に供給し、延伸温度130℃、延伸倍率1.4で縦方向に延伸して、位相差板2を得た(第二延伸工程)。
得られた位相差板6は、延伸後の樹脂層bの遅相軸が、延伸後の樹脂層aの遅相軸および延伸後の樹脂層cの遅相軸とそれぞれと互いに略直交していた。また、得られた位相差板6について、延伸後の樹脂層aの面内レターデーションRea及び厚み方向のレターデーションRta、延伸後の樹脂層bの面内レターデーションReb及び厚み方向のレターデーションRtb、延伸後の樹脂層cの面内レターデーションRec及び厚み方向のレターデーションRtcを測定した。結果を表1に示す。得られた位相差板6は、n>n>nの関係を満たし、本位相差板用の積層体は前記要件Pの関係を満たしていた。また、得られた位相差板6を、IPSモードの液晶表示装置の液晶セルに隣接する位置に配置して、表示特性を目視で評価すると、画面を正面からみた場合でも、全方位から極角80度以内の斜めの方向から見た場合も、表示は良好かつ均一であった。この液晶表示装置について4X4マトリックスを用いた光学シミュレーションにより得られたコントラストを表1に、コントラスト等高線図を図7に示す。
【0120】
〔実施例7〕
製造例7で得られた積層体7をテンター横一軸延伸機に供給し、延伸温度154℃、延伸倍率2.7で横方向に延伸した(第一延伸工程)。続いて、延伸されたフィルムを縦一軸延伸機に供給し、延伸温度130℃、延伸倍率1.4で縦方向に延伸して、位相差板2を得た(第二延伸工程)。
得られた位相差板6は、延伸後の樹脂層bの遅相軸が、延伸後の樹脂層aの遅相軸および延伸後の樹脂層cの遅相軸とそれぞれと互いに略直交していた。また、得られた位相差板7について、延伸後の樹脂層aの面内レターデーションRea及び厚み方向のレターデーションRta、延伸後の樹脂層bの面内レターデーションReb及び厚み方向のレターデーションRtb、延伸後の樹脂層cの面内レターデーションRec及び厚み方向のレターデーションRtcを測定した。結果を表1に示す。得られた位相差板7は、n>n>nの関係を満たし、本位相差板用の積層体は前記要件Pの関係を満たしていた。また、得られた位相差板7を、IPSモードの液晶表示装置の液晶セルに隣接する位置に配置して、表示特性を目視で評価すると、画面を正面からみた場合でも、全方位から極角80度以内の斜めの方向から見た場合も、表示は良好かつ均一であった。この液晶表示装置について4X4マトリックスを用いた光学シミュレーションにより得られたコントラストを表1に、コントラスト等高線図を図8に示す。
【0121】
【表1】

【0122】
〔比較例1〕
製造例8で得られた積層体8をテンター横一軸延伸機に供給し、延伸温度150℃、延伸倍率2.7で横方向に延伸した(第一延伸工程)。続いて、延伸されたフィルムを縦一軸延伸機に供給し、延伸温度130℃、延伸倍率1.4で縦方向に延伸して、位相差板8を得た(第二延伸工程)。
得られた位相差板1は、延伸後の樹脂層aの遅相軸と、延伸後の樹脂層bの遅相軸と、延伸後の樹脂層cの遅相軸とが互いに略平行であった。得られた位相差板8について、延伸後の樹脂層aの面内レターデーションRea及び厚み方向のレターデーションRta、樹脂層bの面内レターデーションReb及び厚み方向のレターデーションRtb、延伸後の樹脂層cの面内レターデーションRec及び厚み方向のレターデーションRtcを測定した。結果を表2に示す。また、得られた位相差板8を、前述の要領で表示特性を目視で評価すると、画面を極角80度以内の斜めの方向から見た場合には、表示が良好ではなく不均一であった。この液晶表示装置について4X4マトリックスを用いた光学シミュレーションにより得られたコントラストを表1に、コントラスト等高線図を図9に示す。
【0123】
〔比較例2〕
製造例9で得られた積層体9をテンター横一軸延伸機に供給し、延伸温度150℃、延伸倍率2.7で横方向に延伸した(第一延伸工程)。続いて、延伸されたフィルムを縦一軸延伸機に供給し、延伸温度130℃、延伸倍率1.4で縦方向に延伸して、位相差板9を得た(第二延伸工程)。
得られた位相差板1は、延伸後の樹脂層aの遅相軸と、延伸後の樹脂層bの遅相軸と、延伸後の樹脂層cの遅相軸とが互いに略平行であった。得られた位相差板9について、延伸後の樹脂層aの面内レターデーションRea及び厚み方向のレターデーションRta、樹脂層bの面内レターデーションReb及び厚み方向のレターデーションRtb、延伸後の樹脂層cの面内レターデーションRec及び厚み方向のレターデーションRtcを測定した。結果を表2に示す。また、得られた位相差板9を、前述の要領で表示特性を目視で評価すると、画面を極角80度以内の斜めの方向から見た場合には、表示が良好ではなく不均一であった。この液晶表示装置について4X4マトリックスを用いた光学シミュレーションにより得られたコントラストを表1に、コントラスト等高線図を図10に示す。
〔比較例3〕
製造例10で得られた積層体10をテンター横一軸延伸機に供給し、延伸温度154℃、延伸倍率2.7で横方向に延伸した(第一延伸工程)。続いて、延伸されたフィルムを縦一軸延伸機に供給し、延伸温度130℃、延伸倍率1.4で縦方向に延伸して、位相差板10を得た(第二延伸工程)。
得られた位相差板10は、延伸後の樹脂層bの遅相軸が、延伸後の樹脂層aの遅相軸および延伸後の樹脂層cの遅相軸とそれぞれと互いに略直交していた。得られた位相差板10について、延伸後の樹脂層aの面内レターデーションRea及び厚み方向のレターデーションRta、樹脂層bの面内レターデーションReb及び厚み方向のレターデーションRtb、延伸後の樹脂層cの面内レターデーションRec及び厚み方向のレターデーションRtcを測定した。結果を表2に示す。また、得られた位相差板9を、前述の要領で表示特性を目視で評価すると、画面を極角80度以内の斜めの方向から見た場合には、表示が良好ではなく不均一であった。この液晶表示装置について4X4マトリックスを用いた光学シミュレーションにより得られたコントラストを表1に、コントラスト等高線図を図11に示す。
〔比較例4〕
製造例11で得られた積層体11をテンター横一軸延伸機に供給し、延伸温度154℃、延伸倍率2.7で横方向に延伸した(第一延伸工程)。続いて、延伸されたフィルムを縦一軸延伸機に供給し、延伸温度130℃、延伸倍率1.4で縦方向に延伸して、位相差板11を得た(第二延伸工程)。
得られた位相差板11は、延伸後の樹脂層bの遅相軸が、延伸後の樹脂層aの遅相軸および延伸後の樹脂層cの遅相軸とそれぞれと互いに略直交していた。得られた位相差板11について、延伸後の樹脂層aの面内レターデーションRea及び厚み方向のレターデーションRta、樹脂層bの面内レターデーションReb及び厚み方向のレターデーションRtb、延伸後の樹脂層cの面内レターデーションRec及び厚み方向のレターデーションRtcを測定した。結果を表2に示す。
また、得られた位相差板11を、前述の要領で表示特性を目視で評価すると、画面を極角80度以内の斜めの方向から見た場合には、表示が良好ではなく不均一であった。この液晶表示装置について4X4マトリックスを用いた光学シミュレーションにより得られたコントラストを表1に、コントラスト等高線図を図12に示す。
【0124】
【表2】

【0125】
〔まとめ〕
表1から分かるように、所定の層構成を有する積層体を第一延伸工程及び第二延伸工程を行うことにより、樹脂層aの面内レターデーションRea及び厚み方向のレターデーションRta、樹脂層bの面内レターデーションReb及び厚み方向のレターデーションRtb、樹脂層cの面内レターデーションRec及び厚み方向のレターデーションRtcが式1〜6または式7〜12を満たす位相差板を製造できる。また、樹脂層aの面内レターデーションRea及び厚み方向のレターデーションRta、樹脂層bの面内レターデーションReb及び厚み方向のレターデーションRtb、樹脂層cの面内レターデーションRec及び厚み方向のレターデーションRtcが式1〜6または式7〜12を満たす実施例1〜7においては、全方位コントラストが大きいことから十分な光学補償機能が発揮されていることが分かる。また、本発明によれば、幅広の位相差板を簡便な方法で製造できることもわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相差板の製造方法であって、
固有複屈折が正である樹脂Aを含有する樹脂層aと、前記樹脂層aの一方の面に設けられ、固有複屈折が負である樹脂Bを含有する樹脂層bと、前記樹脂層bにおける前記樹脂層aとは反対側の面に設けられ、固有複屈折が正である樹脂Cを含有する樹脂層cとを備える積層体を形成する工程と、
前記積層体を温度T1で一方向に延伸する第一延伸工程と、
前記第一延伸工程の後に、温度T1より低い温度T2において前記の延伸方向に略直交する他方向へ延伸して、位相差板を得る第二延伸工程と、を備え、
前記位相差板は、延伸処理が施された前記樹脂層aの遅相軸と、延伸処理が施された前記樹脂層bの遅相軸と、延伸処理が施された前記樹脂層cの遅相軸とが互いに略平行であり、
延伸処理が施された前記樹脂層aにおいて、その面内レターデーションRea、その厚み方向のレターデーションRtaとして、
延伸処理が施された前記樹脂層bにおいて、その面内レターデーションReb、その厚み方向のレターデーションRtbとして、
延伸処理が施された前記樹脂層cにおいて、その面内レターデーションRec、その厚み方向のレターデーションRtcとして、
式1〜式6を満足する位相差板の製造方法。
20nm<Rea<70nm ・・・式1
40nm<Rta<150nm ・・・式2
90nm<Reb<170nm ・・・式3
−110nm<Rtb<−40nm ・・・式4
0nm<Rec<60nm ・・・式5
4nm<Rtc<130nm ・・・式6
【請求項2】
位相差板の製造方法であって、
固有複屈折が正である樹脂Aを含有する樹脂層aと、前記樹脂層aの一方の面に設けられ、固有複屈折が負である樹脂Bを含有する樹脂層bと、前記樹脂層bにおける前記樹脂層aとは反対側の面に設けられ、固有複屈折が正である樹脂Cを含有する樹脂層cとを備える積層体を形成する工程と、
前記積層体を温度T1で一方向に延伸する第一延伸工程と、
前記第一延伸工程の後に、温度T1より低い温度T2において前記の延伸方向に略直交する他方向へ延伸して、位相差板を得る第二延伸工程と、を備え、
前記位相差板において、延伸処理が施された前記樹脂層bの遅相軸は、延伸処理が施された前記樹脂層aの遅相軸、および延伸処理が施された前記樹脂層cの遅相軸とそれぞれ互いに略直交しており、
延伸処理が施された前記樹脂層aにおいて、その面内レターデーションRea、その厚み方向のレターデーションRtaとして、
延伸処理が施された前記樹脂層bにおいて、その面内レターデーションReb、その厚み方向のレターデーションRtbとして、
延伸処理が施された前記樹脂層cにおいて、その面内レターデーションRec、その厚み方向のレターデーションRtcとして、
式7〜式12を満足する位相差板の製造方法。
0nm<Rea<30nm ・・・式7
20nm<Rta<110nm ・・・式8
150nm<Reb<230nm ・・・式9
−140nm<Rtb<−90nm ・・・式10
10nm<Rec<40nm ・・・式11
70nm<Rtc<190nm ・・・式12
【請求項3】
請求項1または2に記載の位相差板の製造方法であって、
前記樹脂Aのガラス転移点温度Tgと、前記樹脂Bのガラス転移点温度TgとがTg>Tg+5℃の関係を満足する位相差板の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の位相差板の製造方法であって、
前記樹脂Aのガラス転移点温度Tgと、前記樹脂Cのガラス転移点温度TgとがTg>Tg+5℃の関係を満足する位相差板の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られる位相差板。
【請求項6】
各吸収軸が略直交するように配置される一対の偏光板と、前記一対の偏光板の間に設けられる液晶セルと、を備える液晶表示装置であって、
前記一対の偏光板のいずれかと前記液晶セルとの間に配置される請求項5に記載の位相差板を備える液晶表示装置。
【請求項7】
前記液晶セルの表示モードがインプレーンスイッチング方式である請求項6記載の液晶表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−39338(P2011−39338A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187686(P2009−187686)
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】