説明

位相差板

【課題】信頼性に優れ、低コストで製造可能な位相差板を提供すること。
【解決手段】基板と、前記基板上に設けられた位相差層と前記位相差層のうち第一領域に設けられた複数の第一の針状粒子と、前記位相差層のうち第二領域に、前記複数の第一の針状粒子の態様とは異なる態様にて設けられた複数の第二の針状粒子と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差板に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光方向が互いに直交する偏光成分の間に位相差を生じさせる位相差板が知られている。位相差板は、例えば立体表示装置の表示部に偏光部として用いられたり(例えば、特許文献1参照)、レーザー光の偏光面を変換する偏光フィルターとして用いられたりする場合がある。上記各位相差板は、例えば一の位相差板において、遅相軸の異なる複数の領域が形成される場合がある。
【0003】
特許文献1に記載の位相差板を製造する場合、例えば以下のような手順が想定される。すなわち、まず基板に位相差層を形成する。次に、光の位相を変換したい部分の形状及び遅相軸の方向にそれぞれ対応した形状及び遅相軸方向となるように、位相差層が形成された基板を切断して板片を形成する。その後、形成された板片を一枚一枚基板などの所望の箇所に貼り付けて設置する。
【0004】
また、偏光フィルターとして、円形の位相差板を製造する場合、例えば以下のような手順が想定される。すなわち、まず基板のうち遅相軸が異なる扇形の領域ごとに、当該遅相軸に応じて凹凸形状のパターンを、フォトリソグラフィ法や転写法等によって形成する。その後、パターン上に蒸着膜を形成して、位相差層を形成する。このような位相差層を領域ごとに形成することで、位相差板が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−304909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記立体表示装置の偏光部に関する手法においては、板片を一枚一枚形成し配置する必要があるため、位相差板の製造コストが高くなってしまうという問題がある。また、上記偏光フィルターの製造手法においては、円の中心部分におけるパターンの精度が不均一になりやすく、位相変換特性にバラつきが生じるおそれがある。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明は、信頼性に優れ、低コストで製造可能な位相差板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る位相差板は、基板と、前記基板上に設けられた位相差層と前記位相差層のうち第一領域に設けられた複数の第一の針状粒子と、前記位相差層のうち第二領域に、前記複数の第一の針状粒子の態様とは異なる態様にて設けられた複数の第二の針状粒子と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、位相差層が、遅相軸の互いに異なる第一領域及び第二領域を有している。また、第一領域には複数の第一の針状粒子が設けられ、第二領域には、複数の第一の針状粒子の態様とは異なる態様にて複数の第二の針状粒子設けられている。第一領域における複数の針状粒子の態様を第一領域の遅相軸に応じて調整し、第二領域における複数の針状粒子の態様を第二領域の遅相軸に応じて調整することで、遅相軸が互いに異なる複数の領域を有する位相差板を容易に製造することができる。したがって、板片を一枚一枚形成して配置する必要が無く、基板にパターンを形成する必要も無いためパターンの精度が不均一になるおそれも無い。これにより、偏光特性が高く、信頼性に優れ、低コストで製造可能な位相差板を得ることができる。
【0010】
上記の位相差板は、前記第一領域における前記複数の第一の針状粒子の平均的な配向方向は、前記第二領域における前記複数の第二の針状粒子の平均的な配向方向と異なることが好ましい。
本発明によれば、第一領域における複数の第一の針状粒子の平均的な配向方向および第二領域における複数の第二の針状粒子の平均的な配向方向を調整することにより、遅相軸の互いに異なる第一領域及び第二領域を形成することができる。これにより、低コストかつ容易に位相差板を製造することができる。
【0011】
上記の位相差板において、前記複数の第一の針状粒子を構成する針状粒子の諸元は、前記複数の第二の針状粒子を構成する針状粒子の諸元と同じであることが好ましい。
本発明によれば、前記複数の第一の針状粒子を構成する針状粒子の諸元は、前記複数の第二の針状粒子を構成する針状粒子の諸元と同じである。そのため、針状粒子の配向を調整することによって、遅相軸の互いに異なる第一領域及び第二領域を容易に形成することができる。これにより、低コストかつ容易に位相差板を製造することができる。
【0012】
上記の位相差板において、前記複数の第一の針状粒子を構成する針状粒子の諸元は、前記複数の第二の針状粒子を構成する針状粒子の諸元と異なることが好ましい。
本発明によれば、前記複数の第一の針状粒子を構成する針状粒子の諸元は、前記複数の第二の針状粒子を構成する針状粒子の諸元と異なる。そのため、第一針状粒子の諸元及び第二針状粒子の諸元を調整することにより、遅相軸だけでなく位相差も互いに異なる第一領域及び第二領域を容易に形成することができる。これにより、低コストかつ容易に位相差板を製造することができる。
【0013】
上記の位相差板において、前記複数の第一の針状粒子および前記複数の第二の針状粒子は、誘電体を用いて形成されていることが好ましい。
本発明によれば、複数の針状粒子が誘電体を用いて形成されているので、位相差層における光の吸収が抑制されることになる。これにより、光の利用効率が低減するのを防ぐことができる。
【0014】
上記の位相差板において、複数の前記第一領域と複数の前記第二領域とを備え、前記複数の前記第一領域と前記複数の前記第二領域とは、一体的に形成されており、前記第一領域と前記第二領域とは、第一方向に交互に並んで配置されていることが好ましい。
本発明によれば、第一領域及び第二領域がそれぞれ複数設けられており、複数の第一領域と複数の第二領域とが一体的に形成されており、第一領域と第二領域とが第一方向に交互に並んで配置されている。そのため、例えば位相差板を液晶装置などの他の部材に設置する際において、1つの位相差板について第一方向において位置あわせを行えば良い。つまり、従来とは異なり、複数の位相差板を一枚一枚位置あわせする必要がない。
【0015】
上記の位相差板において、複数の前記第一領域と複数の前記第二領域とを備え、前記複数の前記第一領域と前記複数の前記第二領域とは、一体的に形成されており、前記複数の前記第一領域と前記複数の前記第二領域とは、市松模様を形成するように配置されていることが好ましい。
本発明によれば、複数の第一領域及び複数の第二領域は、第一方向及び第二方向のそれぞれについて交互に並んだ状態(いわゆる市松模様を形成する状態)で配置されている。そのため、例えば位相差板を液晶装置などの他の部材に設置する際において、1つの位相差板について第一方向及び第二方向において位置あわせを行えば良い。つまり、従来とは異なり、複数の位相差板を一枚一枚位置あわせする必要がない。
【0016】
上記の位相差板において、前記第一領域及び前記第二領域は、一体的に形成され、かつ円周方向に並んで配置されていることが好ましい。
本発明によれば、第一領域及び第二領域が一体的に形成され、かつ円周方向に並んで配置されている。そのため、例えば位相差板を他の部材に設置する際において、1つの位相差板について円周方向において位置あわせを行えば良い。つまり、従来とは異なり、複数の位相差板を一枚一枚位置あわせする必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第一実施形態に係る偏光フィルターの構成を示す斜視図。
【図2】本実施形態に係る偏光フィルターの構成を示す平面図。
【図3】本実施形態に係る偏光フィルターの構成を示す断面図。
【図4】本実施形態に係る位相差板の一部の構成を示す図。
【図5】本実施形態に係る位相差板の一部の構成を示す図。
【図6】本実施形態の位相差層の屈折率楕円体を示す図である。
【図7】本実施形態に係る偏光フィルターによる偏光変換の態様を模式的に示す図。
【図8】本実施形態の位相差板の製造工程を示す図である。
【図9】本実施形態の位相差板の製造工程を示す図である。
【図10】本実施形態の位相差板の製造工程を示す図である。
【図11】本実施形態の位相差板の製造工程を示す図である。
【図12】本実施形態の位相差板の製造工程を示す図である。
【図13】本実施形態の位相差板の製造工程を示す図である。
【図14】本実施形態の位相差板の製造工程を示す図である。
【図15】本実施形態の位相差板の製造工程を示す図である。
【図16】本発明の第二実施形態に係る立体ディスプレイ装置の構成を示す斜視図。
【図17】本実施形態に係る立体ディスプレイ装置の使用態様を示す図。
【図18】本発明の変形例に係る位相差板の構成を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
[第一実施形態]
図1は、本発明の第一実施形態に係る位相差板110、および位相差板110を備えた偏光フィルター100の構成を示す斜視図である。
図1に示すように、偏光フィルター100は、光源装置101から射出されるレーザー光Rの偏光を変換する。光源装置101は、例えば直線偏光のレーザー光Rを射出する光源を有している。偏光フィルター100は、円形の位相差板110と、当該位相差板110の外周部に設けられたフレーム部111と、を有している。
【0019】
図2は、レーザー光の光路と平行な方向から視た偏光フィルター100の平面図である。
図2に示すように、位相差板110は、円形の位相差板110を等分割した複数の扇形の領域110A乃至領域110Lを有している。したがって、領域110A〜領域110Lは、円周方向に並んで配置されている。領域110A〜領域110Lは、互いに光軸Qの方向が異なるように形成されている。ここで、領域110Aを第一領域とし、領域110Bを第二領域とする。
【0020】
具体的には、図2に示したように、領域110Aから時計回りに向けて領域ごとに15°ずつ、光軸Qの方向がずれるように形成されている。このように、位相差板110は、円周方向に区画された領域110A〜領域110Lにおいて、光軸Qの方向が全て互いに異なっている。
【0021】
図3は、図2におけるA−A´断面に沿った構成を示す図である。
図3に示すように、位相差板110は、基板140及び位相差層145を有している。基板140は、ガラスや石英など、レーザー光Rを透過可能な材料を用いて形成されている。位相差層145は、基板140上に例えば薄膜状に形成されている。
【0022】
図4及び図5は、本実施形態に係る位相差層145の構成を示す模式図である。ただし、図4及び図5には、位相差層145のうち領域110Aの構成を示している。
図4及び図5に示すように、位相差層145は、基板140上に設けられており、母材2と、当該母材2中に分散した複数の誘電体ナノロッド3(針状粒子)と、を有する光学部材である。領域110B乃至領域110L各々における位相差層145の構成も、領域110Aにおける位相差層145の構成と同様であるが、複数の誘電体ナノロッド3の態様は、後で説明するように、領域によって互いに異なっている。
【0023】
誘電体ナノロッド3は針状粒子に相当する。母材2は、無機物を主原料とする透光性の材料で構成されており、例えばシリコン酸化物などで構成されている。母材2は光透過可能な材料を用いて形成されている。
【0024】
誘電体ナノロッド3は、短軸方向が例えば数nmから数十nm程度、長軸方向が例えば数十nmから数百nm程度の寸法を有する誘電体材料からなる針状の粒子である。本実施形態では、誘電体ナノロッド3は、例えば炭酸ストロンチウムなどの誘電体材料を用いて構成されている。
【0025】
図2、図4及び図5に示したように、母材2の主面2aをxy面とし、主面2aの法線方向をz軸方向とする。また、領域110Aにおける光軸Qと平行な方向をy軸とする。従って、図5は図4に示した位相差層145のyz断面図である。
【0026】
炭酸ストロンチウムからなる誘電体ナノロッド3は、長軸方向に平行な振動方向を有する偏光成分に対する屈折率が短軸方向に平行な振動方向を有する偏光成分に対する屈折率とは異なることが知られている。互いに直交する3つの軸a軸、b軸、c軸(ただし、c軸を誘電体ナノロッドの長軸方向とする)を取り、a軸方向の偏光成分に対する屈折率をna、b軸方向の偏光成分に対する屈折率をnb、c軸方向の偏光成分に対する屈折率をncとする。このとき、炭酸ストロンチウムは、na=1.520、nb=1.666、nc=1.669、であり、誘電体材料の中でも複屈折性が比較的大きい。
【0027】
炭酸ストロンチウムからなる誘電体ナノロッド3の長軸方向はa軸方向とほぼ一致する。したがって、複数の誘電体ナノロッド3は、図4に示すように、母材2の主面の法線方向から見たとき、領域110Aにおいては、誘電体ナノロッド3の長軸方向の方位角φが略所定の方向、すなわち方位角90°の方向に揃うように配向させられている。ここでは、x軸方向を基準として、長軸方向のZ軸の回りの回転角を方位角φとして定義すると、方位角φは90°である。領域110Bにおいては、誘電体ナノロッド3の長軸方向の方位角φは105°である。領域110Lにおいては、誘電体ナノロッド3の長軸方向の方位角φは75°である。
【0028】
また、複数の誘電体ナノロッド3は、図5に示すように、長軸方向Cが母材2の主面2aに対して所定の角度だけ傾いて配向している。すなわち、複数の誘電体ナノロッド3は、長軸方向Cが母材2の主面2aに対して平行な方向には配向していない。
【0029】
なお、液晶相における液晶分子の配向と同様に、全ての誘電体ナノロッド3の長軸方向が所定の方向に配向するとは限らない。そのため本明細書では、複数の誘電体ナノロッド3の平均的な配向を、誘電体ナノロッド3の配向と呼ぶことがある。
【0030】
炭酸ストロンチウムの上記の複屈折性を屈折率楕円体で示したものが、図6である。符号Kで示した平面を母材2の主面2aとすると、屈折率楕円体Dの長軸方向C’は、所定の方位角を有するとともに、母材2の主面2aに対して所定の角度をなして傾いた状態となる。これにより、所定の方向に遅相軸もしくは進相軸を有する位相差層を実現できる。本実施形態では、遅相軸の方位角が領域110Aから領域110Lへ向けて15°ずつずれるように、領域110A〜領域110Lにおいて、それぞれ異なる方向に誘電体ナノロッド3が配向されている。
【0031】
このような構成の偏光フィルター100の位相差板110をレーザー光Rが透過することにより、レーザー光Rの偏光が変換される。
具体的には、位相差板110を透過する前のレーザー光Rの偏光方向が図7(a)の矢印に示す方向の場合、位相差板110を透過することにより、レーザー光Rの偏光方向は図7(b)の矢印に示すように放射状の偏光に変換される。また、位相差板110を透過する前のレーザー光Rの偏光方向が図7(c)の矢印に示す方向の場合、位相差板110を透過することにより、レーザー光Rの偏光方向は図7(d)の矢印に示すように同心円状の偏光に変換される。
【0032】
以下、偏光フィルター100の位相差板110の製造方法について、図8〜図15を用いて説明する。図8〜図15は、位相差板110の製造過程を示す図である。なお、図9は図8におけるB−B´断面図であり、図10と図11は、図8におけるC−C’断面に沿った構成を示している。また、図13は図8におけるD−D´断面図であり、図14と図15は、図12におけるE−E’断面に沿った構成を示している。
【0033】
まず、図8に示すように、例えばガラスからなる基板140上に隔壁22を形成する。隔壁22は、上記の領域110A〜領域110Lのうち1つの領域(例えば、ここでは領域110A)において基板140を露出すると共に、他の領域を覆うように形成する。当該隔壁22は、例えばフォトリソグラフィ法やエッチング法などにより、レジストをパターニングして形成することができる。勿論、他の方法により隔壁22を形成しても構わない。
【0034】
基板140上に隔壁22を形成した後、図9に示すように、基板140のうち隔壁22とフレーム部111とで囲まれた領域に、第一の針状粒子として炭酸ストロンチウムからなる誘電体ナノロッド3を複数含有する素子材料7を塗布する(塗布工程)。なお、母材となるシリコン酸化物の原料であるポリシラザンを任意の有機溶媒に溶解したものを準備し、その溶液中に複数の誘電体ナノロッド3を分散させた素子材料7を予め作製しておく。
【0035】
この段階では、複数の誘電体ナノロッド3はランダムな方向を向いている。また、素子材料7は、基板140の上に薄膜状に形成されている。素子材料7の主面はxy面であり、素子材料7の主面の法線方向はz軸方向である。素子材料7は、例えば公知の印刷技術やインクジェット法などを用いて形成することができる。
【0036】
次に、電界印加工程について説明する。図10に示すように、薄膜状の素子材料7の基板140とは反対側に帯状の第一電極4を配置し、素子材料7の第一電極4とは反対側に帯状の第二電極5を配置する。z軸方向から見たとき、第一電極4および第二電極5は帯状の形状を有し、第一電極4と第二電極5は互いに平行に設けられている。
【0037】
ここで、領域110Aの光軸Qの方位角は90°であるため、誘電体ナノロッド3の配向方向の方位角を90°とする必要がある。そこで、第一電極4および第二電極5を、方位角0°の方向に延在するように配置する。さらに、第一電極4を第二電極5に対して方位角90°の方向にずれた位置に配置する。さらに、素子材料7を、基板140に支持された状態で基板140とともに、第一電極4と第二電極5との間をz軸と直交しかつ方位角90°の方向に不図示の基板駆動部によって移動させる。
【0038】
この電極配置により、電界Eは、素子材料7の主面7aに対して斜めに、かつ方位角90°の方向に印加される。
【0039】
素子材料7に含まれる複数の誘電体ナノロッド3は針状の形状をしており、各誘電体ナノロッド3には分極が生じている。そのため、複数の誘電体ナノロッド3のうち電界を受けた誘電体ナノロッド3から順に、長軸方向が電界Eの方向に沿うように配向する。素子材料7の全体に電界Eが印加されると、複数の誘電体ナノロッド3は、その長軸方向の方位角が略所定の方向、すなわち方位角90°の方向に揃い、かつ、長軸方向が素子材料7の主面7a、すなわち母材2の主面2a(図4参照)に対して傾くように配向する。
【0040】
次に、図11に示すように、例えばオーブン6等を用いて素子材料7を焼成する(焼成工程)。これにより、素子材料7中の有機溶媒が除去されるとともに、ポリシラザンが大気中の水分や酸素と反応して固化し、シリコン酸化物(母材2)に変化する。このとき、複数の誘電体ナノロッド3が略同一方向に配向した状態で固定され、位相差層145が形成される。
【0041】
次に、図12に示すように、例えばエッチングなどを行うことにより、隔壁22のうち領域110Bに相当する一部分を除去する(レジスト除去工程)。隔壁22の当該一部分を除去した後、例えば洗浄液などによって基板140上を洗浄する。隔壁22の一部分が除去されることにより、領域110Bに相当する領域において基板140上が露出される。
【0042】
次に、図13に示すように、基板140上において露出された部分、すなわち、隔壁22とフレーム部111と領域110Aに設けられた位相差層145とによって囲まれた領域を埋めるように、第二の針状粒子として炭酸ストロンチウムからなる誘電体ナノロッド3を複数含有する素子材料7を塗布する(塗布工程)。この工程では、先に領域110Aに設けられた位相差層145を隔壁として用いることができる。
【0043】
塗布工程の後、位相差層145の領域110Aを形成した手順と同様に、図14に示すように、領域110Bに形成された薄膜状の素子材料7に電界を印加して誘電体ナノロッド3を配向させる(電界印加工程)。領域110Bの光軸Qの方位角は105°であるため、誘電体ナノロッド3の配向方向の方位角を105°とする必要がある。そこで、第一電極4および第二電極5を、方位角15°の方向に延在するように配置する。さらに、第一電極4を第二電極5に対して方位角105°の方向にずれた位置に配置する。さらに、素子材料7を、基板140に支持された状態で基板140とともに、第一電極4と第二電極5との間をz軸と直交しかつ方位角105°の方向に不図示の基板駆動部によって移動させる。この電極配置により、電界Eは、素子材料7の主面7aに対して斜めに、かつ方位角105°の方向に印加される。
【0044】
このように電界Eを印加するための手段として、例えば、第一電極4の延在方向と第二電極5の延在方向を固定しておき、基板140を回転テーブル上に配置し、誘電体ナノロッド3の配向に応じて回転テーブルの回転角度を調整してもよい。この方法によれば、領域110A乃至領域110Lの各領域において、光軸Qを容易に所望の方向に設定することができる。勿論、他の手法を用いて位置合わせを行っても構わない。
【0045】
電解印加工程の後、図15に示すように、素子材料7を焼成することで位相差層145の領域110Bが形成される(焼成工程)。
【0046】
位相差層145の領域110Bが形成された後、エッチングなどを行い、隔壁22のうち領域110Cに相当する一部分を除去する(レジスト除去工程)。その後、領域110Bを形成する手順と同様の手順を行い、領域110Cを形成する。領域110Cの形成後、同様に領域110D〜領域110Lを順に形成する。
【0047】
以上のように、本実施形態によれば、基板140上に一体的に形成された位相差層145が、遅相軸の互いに異なる複数の領域110A〜領域110Lを有している。また、これら領域110A〜領域110L各々には、領域110A〜領域110L各々の遅相軸に応じた態様で複数の誘電体ナノロッド3が設けられている。具体的には、領域110Aに設けられた複数の誘電体ナノロッド3の配向は、領域110Aの遅相軸に応じて設定され、領域110Bに設けられた複数の誘電体ナノロッド3の配向は、領域110Bの遅相軸に応じて設定されている。このように、領域110A〜領域110L各々における複数の誘電体ナノロッド3の配向状態を領域110A〜領域110L各々の遅相軸に応じた態様に調整することで、互いに遅相軸が異なる領域を複数有する位相差板110を容易に製造することができる。これにより、板片を一枚一枚形成して配置する必要が無く、基板140にパターンを形成する必要も無いためパターンの精度が不均一になるおそれも無い。これにより、偏光特性が高く、信頼性に優れ、低コストで製造可能な位相差板110を得ることができる。
【0048】
また、本実施形態によれば、領域110A〜領域110Lにおいて複数の誘電体ナノロッド3が15°ずつずれた方向に配向されていることとしたので、複数の誘電体ナノロッド3の配向方向を調整することにより、互いに遅相軸の異なる領域110A〜領域110Lを形成することができる。これにより、低コストかつ容易に位相差板110を製造することができる。
【0049】
なお、本実施形態の位相差層145は、複数の誘電体ナノロッド3が位相差を発生させ、母材2は位相差を発生させないため、複数の誘電体ナノロッド3の材料、形状などの諸元を制御することによって、位相差層145の位相差を比較的容易に制御できる。
【0050】
すなわち、本実施例では、第一の針状粒子の諸元を第二の針状粒子の諸元と同一とし、誘電体ナノロッド3の配向を領域によって異ならせたが、第一の針状粒子の諸元を第二の針状粒子の諸元と異ならせてもよい。これによれば、遅相軸だけでなく位相差も互いに異なる複数の領域を容易に形成することができる。
【0051】
また、本実施形態では、母材2が無機物の一つであるシリコン酸化物で構成されているため、耐熱性に優れた位相差板を実現できる。
【0052】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態を説明する。
図16は、本実施形態に係る位相差板280と、位相差板280を用いた立体ディスプレイ装置200の構成を示す斜視図である。
図16に示すように、立体ディスプレイ装置200は、バックライト220と、表示部230と、位相差板280とを有している。これらバックライト220、表示部230及び位相差板280は、筐体に収容されている。表示部230は、偏光板250、液晶表示パネル260および偏光板270を有している。
【0053】
バックライト220は、白色の無偏光を偏光板250の一面に向けて出射する。本実施形態では、バックライト220に面光源を用いているが、面光源に替えて例えば点光源と集光レンズとの組み合わせでもよい。
【0054】
偏光板250は、液晶表示パネル260とバックライト220との間に配置されている。偏光板250は、透過軸および当該透過軸に直交する吸収軸を有し、バックライト220から出射した無偏光が入射すると、その無偏光のうち透過軸方向と平行な偏光軸の光を透過し、吸収軸方向と平行な偏光軸の光を遮断する。偏光板250における透過軸の方向は、観察者が立体ディスプレイ装置200を見たときの水平方向に対して、例えば45度の角をなす方向である。
【0055】
液晶表示パネル260は、右目用の画像を生成する第一画像生成領域262と、左目用の画像を生成する第二画像生成領域264を有している。第一画像生成領域262および第二画像生成領域264は、図16に示すように、液晶表示パネル260を鉛直方向に区切っている。複数の第一画像生成領域262および第二画像生成領域264は、鉛直方向に交互に配置されている。
【0056】
液晶表示パネル260の第一画像生成領域262および第二画像生成領域264は、それぞれ水平方向において複数の小さなセルに分割されており、これらのセルの1つ1つが赤色画素、緑色画素および青色画素となっている。赤色画素、緑色画素及び青色画素は、水平方向にこの順に繰り返して配置されている。
【0057】
偏光板270は、液晶表示パネル260に対して観察者側に配置されている。偏光板270は、上記第一画像生成領域262を透過した第一画像光及び上記第二画像生成領域264を透過した第二画像光が入射すると、これらのうち偏光軸が透過軸と平行な光を透過し、偏光軸が吸収軸と平行な光を遮断する。
【0058】
位相差板280は、基板285上に位相差層286が形成された構成となっている。位相差層286には、複数の第一偏光領域(第一領域)281および複数の第二偏光領域(第二領域)282が形成されている。第一偏光領域281及び第二偏光領域282は、短冊状に形成されており、短冊の短手方向(第一方向)に交互に配置されている。
【0059】
第一偏光領域281および第二偏光領域282の位置および大きさは、図16に示すように、液晶表示パネル260の第一画像生成領域262および第二画像生成領域264の位置および大きさに対応する。したがって、第一偏光領域281には、第一画像生成領域262を透過した第一画像光が入射し、第二偏光領域282には、第二画像生成領域264を透過した第二画像光が入射する。
【0060】
第一偏光領域281は、入射した第一画像光の偏光軸を45°回転させて透過する。また、第二偏光領域282は、入射した第二画像光の偏光軸を、第一偏光領域281を透過した第一画像光の偏光軸に対して直交する方向に回転させる。したがって、第一偏光領域281を透過した第一画像光の偏光軸と、第二偏光領域282を透過した第二画像光の偏光軸とは、その方向が互いに直交する。
【0061】
位相差板280において、第一偏光領域281及び第二偏光領域282には、上記第一実施形態と同様の、母材2と、当該母材2中に分散した複数の誘電体ナノロッド3(針状粒子)と、が含まれている。第一偏光領域281に含まれる第一の針状粒子としての誘電体ナノロッド3、及び、第二偏光領域282に含まれる第二の針状粒子としての誘電体ナノロッド3は、第一偏光領域281の遅相軸が第二偏光領域282の遅相軸と直交するように、それぞれ所定方向に配向されている。
【0062】
図17は、立体ディスプレイ装置200の使用状態を示す概略図である。立体ディスプレイ装置200により立体画像を観察する場合、観察者500は、図17に示すように、立体ディスプレイ装置200から投影される第一画像光および第二画像光を、偏光眼鏡290をかけて観察する。この偏光眼鏡290には、観察者500がこの偏光眼鏡290をかけたときに観察者500の右目512側にあたる位置に第一画像透過部232が配され、左目514側にあたる位置に第二画像透過部234が配される。これら第一画像透過部232および第二画像透過部234は、透過軸方向が互いに異なる偏光レンズであり、偏光眼鏡290のフレームに固定されている。
【0063】
第一画像透過部232は、透過軸方向が第一偏光領域281を透過した第一画像光と同じ方向を有し、吸収軸方向が上記透過軸方向と直交する方向を有する偏光板である。第二画像透過部234は、透過軸方向が第二偏光領域282を透過した第二画像光と同じ方向を有し、吸収軸方向が上記透過軸方向と直交する方向を有する偏光板である。これら第一画像透過部232および第二画像透過部234には、例えば二色性染料を含浸させたフィルムを一軸延伸して得られる偏光膜を貼り付けた偏光レンズが用いられる。
【0064】
観察者500は、立体ディスプレイ装置200により立体画像を観察するときに、第一偏光領域281を透過した第一画像光および第二偏光領域282を透過した第二画像光の出射する範囲内で、偏光眼鏡290をかけて立体ディスプレイ装置200を観察することにより、右目512では第一画像光に含まれる第一画像だけを観察することができ、左目514では第二画像光に含まれる第二画像だけを観察することができる。したがって、観察者500は、これら第一画像および第二画像を立体画像として認識することができる。
【0065】
上記のように構成された位相差板280を製造する場合、まず、例えばガラスからなる基板上のうち、第二偏光領域282に相当する部分にそれぞれ隔壁を形成する。この工程により、基板上のうち第一偏光領域281に相当する部分がそれぞれ露出される。その後、上記第一実施形態と同様の手法により、第一偏光領域281に位相差層を形成する。第一偏光領域281に位相差層を形成した後、隔壁を除去する。隔壁を除去した後、当該第一偏光領域281に形成された位相差層を隔壁として、第二偏光領域282に位相差層を形成する。このようにして、位相差板280を製造することができる。
【0066】
以上のように、本実施形態によれば、基板上に一体的に形成された位相差層が、遅相軸の互いに異なる複数の第一偏光領域281及び複数の第二偏光領域282を有している。これら第一偏光領域281及び第二偏光領域282には、複数の誘電体ナノロッド3が遅相軸に応じた態様で設けられている。そのため、第一偏光領域281及び第二偏光領域282における複数の誘電体ナノロッド3をそれぞれの遅相軸に応じた態様に調整することで、遅相軸が互いに異なる領域を複数有する位相差板280を容易に製造することができる。これにより、板片を一枚一枚形成して配置する必要が無く、基板にパターンを形成する必要も無いためパターンの精度が不均一になるおそれも無い。これにより、偏光特性が高く、信頼性に優れ、低コストで製造可能な位相差板280を得ることができる。
【0067】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
例えば、互いに遅相軸の異なる第一領域及び第二領域の配置として、図18に示すように、位相差板300において、互いに遅層軸の異なる第一領域301と第二領域302とがマトリクス状に配置されており、行方向及び列方向のそれぞれについて第一領域301と第二領域302とが交互に並んだ状態(いわゆる市松模様を形成する状態)で配置された構成であっても構わない。この場合、位相差板300を他の部材、例えば表示部230に設置する際において、第一領域301及び第二領域302の位置合わせを行方向及び列方向において行えば良いことになる。
【0068】
また、上記第一実施形態及び第二実施形態では、互いに遅相軸の異なる第一領域及び第二領域が光の偏光方向を変換する構成である例を挙げて説明したが、これに限られることは無い。例えば、第一領域及び第二領域の少なくとも一方が光学的に等方である構成としても構わない。
【0069】
本発明の位相差板の適用例としては、上記第一実施形態に記載の偏光フィルターや上記第二実施形態に記載の立体ディスプレイ装置の他、顕微鏡や光学測定器などの光学機器、プロジェクター、携帯電話機、電子ブック、パーソナルコンピューター、ディジタルスチルカメラ、液晶テレビジョン、ビューファインダー型またはモニター直視型のビデオテープレコーダー、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電卓、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた各種の電子機器等が挙げられる。
【符号の説明】
【0070】
2…母材 3…誘電体ナノロッド 22…隔壁 100…偏光フィルター 110…位相差板 110A〜110L…領域 140…基板 145…位相差層 200…立体ディスプレイ装置 280…位相差板 281…第一偏光領域 282…第二偏光領域 285…基板 286…位相差層 300…位相差板 301…第一領域 302…第二領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた位相差層と、
前記位相差層のうち第一領域に設けられた複数の第一の針状粒子と、
前記位相差層のうち第二領域に、前記複数の第一の針状粒子の態様とは異なる態様にて設けられた複数の第二の針状粒子と
を備えた位相差板。
【請求項2】
前記第一領域における前記複数の第一の針状粒子の平均的な配向方向は、前記第二領域における前記複数の第二の針状粒子の平均的な配向方向と異なる
請求項1に記載の位相差板。
【請求項3】
前記複数の第一の針状粒子を構成する針状粒子の諸元は、前記複数の第二の針状粒子を構成する針状粒子の諸元と同じである
請求項1又は請求項2に記載の位相差板。
【請求項4】
前記複数の第一の針状粒子を構成する針状粒子の諸元は、前記複数の第二の針状粒子を構成する針状粒子の諸元と異なる
請求項1又は請求項2に記載の位相差板。
【請求項5】
前記複数の第一の針状粒子および前記複数の第二の針状粒子は、誘電体からなる
請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の位相差板。
【請求項6】
複数の前記第一領域と、複数の前記第二領域と、を備え、
前記複数の前記第一領域と前記複数の前記第二領域とは、一体的に形成されており、
前記第一領域と前記第二領域とは、第一方向に交互に並んで配置されている
請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の位相差板。
【請求項7】
複数の前記第一領域と、複数の前記第二領域と、を備え、
前記複数の前記第一領域と前記複数の前記第二領域とは、一体的に形成されており、
前記複数の前記第一領域と前記複数の前記第二領域とは、市松模様を形成するように配置されている
請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の位相差板。
【請求項8】
前記第一領域及び前記第二領域は、一体的に形成され、かつ円周方向に並んで配置されている
請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の位相差板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−44776(P2013−44776A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180306(P2011−180306)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】