説明

位相差素子

【課題】強度に優れ、特に高温雰囲気下において割れの発生が少なく、安定した光学性能を維持することができる位相差素子を提供する。
【解決手段】イソシアヌル酸誘導体を1種類以上と、少なくとも1種類以上の液晶性化合物を含む組成物からなる位相差素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度に優れ、特に高温雰囲気下において割れの発生が少なく、安定した光学性能を維持することができる位相差素子に関する。
【背景技術】
【0002】
位相差素子は、ある方向にある直線偏光を別の方向に変換したり、円偏光や楕円偏光を直線偏光に変換したりする機能を有しており、これらの機能を利用して、例えば、液晶表示装置(LCD)の視野角やコントラスト等を改善することができる。この位相差素子の偏光変換機能を利用した具体例として、例えば、特許文献1に開示されているような液晶プロジェクターの偏光ビームスプリッターの偏光回転子として1/2波長板と呼ばれる位相差素子を用いた例や、特許文献2に開示されているようなコレステリック液晶から得られる円偏光を直線偏光に変換するために1/4波長板と呼ばれる位相差素子を用いた例等が知られている。この1/4波長板は、偏光板と組み合わせた円偏光板として、反射防止フィルター等にも用いられることが知られている。
【0003】
この位相差素子として、従来公知のポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルサルフォン、シクロオレフィンポリマー等のプラスチックフィルムを一軸又は二軸延伸した位相差素子等が挙げられる。一般にこれらは位相差板又は位相差フィルムと呼ばれている。
位相差素子の性能は、例えば、遅相軸方向(面内で屈折率が最大となる方向)の屈折率と進相軸方向(面内で遅相軸方向と直交する方向)の屈折率の差を示す複屈折と該素子の厚さとの積によって求められる位相差値(リタデーション)によって決めることができる。また、近年では、特許文献3〜7に開示されているような液晶性化合物を特定の方向に配向させて該配向状態を固定化することによって位相差素子を作製することも行われている。
この液晶性化合物を用いた位相差素子は、プラスチックフィルムでは実現できないような薄膜にすることができ、また、プラスチックフィルムで行われる延伸では実現できないような複雑な配向状態を実現できる特徴があることから注目されている。
【0004】
このような液晶性化合物を用いた位相差素子を用いることにより、各種液晶表示装置の視野角特性や色やコントラストを改善できることが知られている。例えば、特許文献3には、ハイブリッド配向したディスコティック液晶層を有する位相差素子を用いたTN(twisted nematic)型液晶表示装置の視野角特性の改善について開示されている。また、特許文献4には、STN(super twisted nematic)型液晶表示装置の色補償について開示されている。また、特許文献5には、ハイブリッド配向した液晶性ポリエステルを有する位相差素子を用いたECB(electrically controlled birefringence)型液晶表示装置の視野角改善について開示されている。また、特許文献6には、紫外域に選択反射波長域を有する捩れ配向した液晶層を用いたVA(vartically alignment)型液晶表示装置やOCB(optically compensated bend)型液晶表示装置の視野角特性の改善について開示されている。また、特許文献7には、上記各液晶表示装置を補償するための液晶性化合物を用いた位相差素子に使用される化合物や製造方法等について開示されている。
【0005】
以上のように液晶性化合物を用いた位相差素子を使用することにより目的の波長で適切な偏光変換を行なうことが可能である。
しかしながら、この位相差素子は配向性の材料であるために、一定方向に裂けやすいという性質がある。そのため、製造工程や、種々の環境条件下、例えば高温雰囲気下、高温高湿度雰囲気下等において、応力が加わることで、位相差素子が割れてしまい、光学性能が損なわれるため、その解決が切望されている。例えば、車のインストルメントパネル部分や液晶プロジェクターに用いる液晶表示装置の場合、高温雰囲気下に晒されることで、位相差素子の強度不足により割れが生じる場合があった。
【0006】
このような課題に対し、位相差素子の光学的機能に悪影響を与えることなく、強度を向上する手段が、特許文献8〜10に開示されている。
特許文献8には、ディスコチック液晶性分子および、透明支持体と光学異方性層との間に設けられる配向性ポリマーに、重合性基を導入し、ディスコチック液晶性分子とポリマーとを共重合させて強度が高い光学補償シートを得る方法が開示されている。
特許文献9には、剥離強度が400g/cm以上となる強度で透明支持体と光学異方性層とが結合している光学補償シートが開示されている。剥離強度を強化するための手段としては、無機微粒子を透明支持体、配向膜または光学異方性層に添加する方法が開示されている。
特許文献10には、分子内に4個以上の二重結合を有する多官能モノマーを光学異方性層に添加し、モノマーから重合体を形成することによって強度が向上した光学補償シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−43453号公報
【特許文献2】特許第2509372号公報
【特許文献3】特許第2587398号公報
【特許文献4】特許第2592701号公報
【特許文献5】特開2004−125830号公報
【特許文献6】特開2003−315556号公報
【特許文献7】特開2004−29824号公報
【特許文献8】特開平9−152509号公報
【特許文献9】特開2000−235117号公報
【特許文献10】特開2002−296423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献8〜10に記載の方法を用いることで、強度は改善するものの、十分とは言えず、特に高温雰囲気下で発生する割れは依然問題であった。そこで本発明は、強度に優れ、特に高温雰囲気下において割れの発生が少なく、安定した光学性能を維持することができる位相差素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に対し、本発明者らは鋭意検討した結果、イソシアヌル酸誘導体を1種類以上と、少なくとも1種類以上の液晶性化合物を含む組成物の硬化物からなる位相差素子を用いることにより、強度に優れ、特に高温雰囲気下において割れの発生が少なく、安定した光学性能を維持することができることを新規に見出し本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明は、
「(1)イソシアヌル酸誘導体を1種類以上と、少なくとも1種類以上の液晶性化合物を含む組成物からなる位相差素子、
(2)イソシアヌル酸誘導体が下記式(1)で示される化合物である、(1)に記載の位相差素子、
【化1】

(1)
〔一般式(1)中、R、R、及びRはそれぞれ独立に、−(CHOCOCR=CH、または−(CHOHを示し、少なくとも1つは−(CHOCOCR=CHである。Rは水素またはメチル基を示し、nは1〜20の整数を示す。〕
(3)イソシアヌル酸誘導体が一般式(2)で示される化合物である(1)に記載の位相差素子、
【化2】

(2)
〔一般式(2)中、R、R、及びRはそれぞれ独立に、−CHCHOCOCH=CH、または−CHCHOHを示し、少なくとも1つは−CHCHOCOCH=CHである。〕
(4)イソシアヌル酸誘導体が一般式(1)または一般式(2)で表される化合物のカプロラクトン付加体である(1)に記載の位相差素子、
(5)イソシアヌル酸誘導体の含有量が重合性液晶に対して1〜30重量%含有していることを特徴とする(1)ないし(4)のいずれか1項に記載の位相差素子、
(6)液晶性化合物が重合性であることを特徴とする(1)ないし(5)に記載の位相差素子、
(7)(1)ないし(6)のいずれか1項に記載の組成物を硬化してなる位相差素子、
(8)(1)ないし(7)のいずれか1項に記載の位相差素子の両側に接着剤層を有する位相差素子、
(9)(1)ないし(8)のいずれか1項に記載の位相差素子と他の位相差素子とを積層してなる複合位相差素子、
(10)(1)ないし(9)のいずれか1項に記載の位相差素子あるいは複合位相差素子と偏光板とを積層してなる光学素子」
に関する
【発明の効果】
【0011】
本発明の位相差素子を用いることにより例えば、高温雰囲気下で使用されることの多いカーナビ、リアエンターテインメント用モニター、インパネやカーオーディオ部の車載モニター、液晶プロジェクター等において、割れが生じず、安定した表示性能を維持することができる。更に、素子の強度改善により、製造工程の歩留まりの向上が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の位相差素子は、イソシアヌル酸誘導体を1種類以上と、少なくとも1種類以上の液晶性化合物を含む組成物の硬化物からなることを特徴とする。本発明で用いられるイソシアヌル酸誘導体とは、一般式(1)または一般式(2)で表されるイソシアヌル酸誘導体、またはそのカプロラクトン付加体から選択される1種以上が好ましい。前記一般式(1)において、イソシアヌル酸骨格の3つの窒素原子に結合するアルキレン基は直鎖状、分岐鎖状のいずれであってもよく、n=1〜20であれば良く、特に制限はないが、具体的にはエチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、各種ブチレン基等が挙げられる。また(メタ)アクリロキシ基は1つ以上あれば良いが、製造しやすさなどの観点から、2つ以上が好ましく、より好ましくは3つである。一般式(1)または一般式(2)で表されるイソシアヌル酸誘導体、またはそのカプロラクトン付加体としては具体的に、トリス(2−(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート(東亜合成製 アロニックスM315)、ジ(2−(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート(東亜合成製 アロニックスM215)、カプロラクトン変性トリス(2−(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート(東亜合成製 アロニックスM325)などが挙げられる。
【0013】
本発明において使用する上記イソシアヌル酸誘導体は上記液晶性組成物中に含有させても、液晶性の低下や配向温度の低下をもたらし難く、多量に含有させることができるため、上記位相差素子の強度を著しく向上でき、更に製造も行ないやすい。
本発明において使用する上記液晶性組成物中の上記イソシアヌル酸誘導体の含有量は、組成物としての液晶性を失わない限り特に限定されないが、上記液晶性化合物100重量部に対して好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が50重量部である。上記イソシアヌル酸誘導体の含有量のより好ましい下限は1重量部、より好ましい上限は30重量部であり、更に好ましい下限は2重量部、更に好ましい上限は20重量部である。本発明に用いられる組成物において、上記イソシアヌル酸誘導体の含有量が0.1重量部未満であると、高温雰囲気下での十分な強度が得られないことがある。上記イソシアヌル酸誘導体の含有量が50重量部を超えると、本発明で用いられる組成物の液晶性が失われてしまうことがある。
【0014】
本発明の位相差素子を作製するために用いられる重合性液晶とは、液晶性を示し、特定の方向へ配向(例えば、水平配向、垂直配向、スプレイ配向、ツイスト配向、チルト配向等)する化合物であれば特に限定されない。上記液晶性化合物として、ポリエステル、ポリアミド、ポリエステルイミド等の主鎖型液晶ポリマーや、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリマロート、ポリエーテル等の側鎖型液晶ポリマーや、重合性液晶等が挙げられる。重合性液晶とは、分子内に重合性基を有し、液晶性を示す化合物である。なかでも、上記液晶性化合物は、重合性液晶であることが好ましい。
上記重合性基は特に限定されず、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、カルコニル基、シンナモイル基、エポキシ基等の反応性基が挙げられる。
【0015】
また、上記重合性液晶は、液晶性を示すために、分子内にメソゲン基を有することが好ましい。
ここで、上記メソゲン基として、例えば、ビフェニル基、ターフェニル基、(ポリ)安息香酸フェニルエステル基、(ポリ)エーテル基、ベンジリデンアニリン基、アセナフトキノキサリン基等のロッド状の置換基、板状の置換基、又は、トリフェニレン基、フタロシアニン基、アザクラウン基等の円盤状の置換基等が挙げられる。すなわち、上記メソゲン基は液晶相挙動を誘導する能力を有する。なお、ロッド状又は板状の置換基を有する液晶性化合物は、カラミティック液晶として知られている。また、円盤状の置換基を有する液晶性化合物は、ディスコティック液晶として知られている。
上記メソゲン基を有する重合性液晶は、必ずしもそれ自身が液晶相を示さなくても他の化合物との混合、他のメソゲン基を有する化合物との混合、他の液晶性化合物との混合、又は、これらの混合物のポリマー化によって液晶相を示す重合性液晶であってもよい。
上記重合性液晶は特に限定されず、例えば、特許第2587398号、特開2003−315556号公報、特開2004−29824号公報に記載されている重合性液晶や、BASF社製「PALIOCOLORシリーズ」、Merck社製「RMMシリーズ」等が挙げられる。
【0016】
上記液晶性組成物は、上記液晶性化合物と、上記イソシアヌル酸誘導体以外の、液晶性を有しない重合性化合物(以下、単に、液晶性を有しない重合性化合物ともいう)を含有してもよい。
上記液晶性を有しない重合性化合物は特に限定されず、例えば、紫外線硬化型樹脂等が挙げられる。
上記紫外線硬化型樹脂は特に限定されず、例えば、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートと1,6−ヘキサメチレン−ジ−イソシアネートとの反応生成物、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとイソホロン−ジ−イソシアネートとの反応生成物、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスルトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスルトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールトリグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、トリグリセロール−ジ−(メタ)アクリレート、プロピレングリコール−ジ−グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ポリプロピレングリコール−ジ−(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコール−ジ−(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ジ−(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコール−ジ−(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール−ジ−(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール−ジ−(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール−ジ−グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、1,6−ヘキサンジオール−ジ−(メタ)アクリレート、グリセロール−ジ−(メタ)アクリレート、エチレングリコール−ジ−グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ジエチレングリコール−ジ−グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ビス(アクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ビス(メタアクリロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、ビスフェノールA−ジ−グリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−シアノエチル(メタ)アクリレート、ブチルグリシジルエーテルと(メタ)アクリル酸との反応生成物、ブトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの液晶性を有しない重合性化合物は単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0017】
上記液晶性組成物中の上記液晶性を有しない重合性化合物の含有量は特に限定されないが、上記液晶性組成物の液晶性を失わない程度に添加しなければならず、上記液晶性組成物中の上記液晶性を有しない重合性化合物の含有量の好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は20重量%であり、より好ましい下限は1.0重量%、より好ましい上限は10重量%である。
【0018】
上記液晶性化合物が紫外線硬化型の重合性液晶である場合、あるいは、上記液晶性を有しない重合性化合物が紫外線硬化型である場合、これらの成分を紫外線により硬化させるために、上記液晶性組成物には光重合開始剤が添加される。
上記光重合開始剤は特に限定されず、例えば、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパン−1−オン(チバスペシャリティーケミカルズ社製「イルガキュアー907」)、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバスペシャリティーケミカルズ社製「イルガキュアー184」)、4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン(チバスペシャリティーケミカルズ社製「イルガキュアー2959」)、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン(メルク社製「ダロキュアー953」)、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン(メルク社製「ダロキュアー1116」)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(チバスペシャリティーケミカルズ社製「イルガキュアー1173」)、ジエトキシアセトフェノン等のアセトフェノン化合物、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(チバスペシャリティーケミカルズ社製「イルガキュアー651」)等のベンゾイン化合物、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン(日本化薬社製「カヤキュアーMBP」)等のベンゾフェノン化合物、チオキサントン、2−クロルチオキサントン(日本化薬社製「カヤキュアーCTX」)、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン(日本化薬社製「カヤキュアーRTX」)、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロオチオキサントン(日本化薬社製「カヤキュアーCTX」)、2,4−ジエチルチオキサントン(日本化薬社製「カヤキュアーDETX」)、2,4−ジイソプロピルチオキサントン(日本化薬社製「カヤキュアーDITX」)等のチオキサントン化合物等が挙げられる。
これらの光重合開始剤は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0019】
上記液晶性組成物中の上記光重合開始剤の含有量は特に限定されないが、上記重合性液晶化合物と紫外線硬化型の重合性化合物の合計100重量部に対して、好ましい下限は0.5重量部、好ましい上限は10重量部以下であり、より好ましい下限は2重量部、より好ましい上限は8重量部である。
【0020】
上記光重合開始剤として、上記ベンゾフェノン化合物や上記チオキサントン化合物を用いる場合には、光重合反応を促進させるために、反応助剤を併用することが好ましい。
上記反応助剤としては特に限定されず、例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、n−ブチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジエチルアミノエチルメタアクリレート、ミヒラーケトン、4,4’−ジエチルアミノフェノン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(n−ブトキシ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等のアミン化合物が挙げられる。
【0021】
上記液晶性組成物中の上記反応助剤の含有量は特に限定されないが、上記液晶性組成物の液晶性に影響を与えない範囲で使用することが好ましく、上記重合性液晶化合物と紫外線硬化型の重合性化合物の合計100重量部に対して、好ましい下限は0.5重量部、好ましい上限は10重量部以下であり、より好ましい下限は2重量部、より好ましい上限は8重量部である。
また、上記反応助剤の含有量は、上記光重合開始剤の含有量に対して、0.5〜2倍量であることが好ましい。
【0022】
本発明の位相差素子は、配向処理により上記イソシアヌル酸誘導体と上記液晶性化合物とを含有する上記液晶性組成物を一定方向に配向させた後、該配向を固定化することにより得られる。より具体的には、例えば、上記液晶性組成物を所定の濃度になるように溶剤に溶解させ、この溶液をラビング処理したフィルム上に塗布する。次いで、溶剤を加熱等により除去するが、この加熱の過程で、又は、その後液晶相を示す温度で放置することにより、上記液晶性化合物が一定方向に配向する。配向の固定化は下記するように、このまま放冷しても、配向状態を維持したまま、紫外線を照射して重合等により硬化させてもよい。
【0023】
上記配向処理する方法として、例えば、ポリエステルフィルムやセルロースフィルム等のプラスチックフィルムをラビング処理する方法や、ガラス板やプラスチックフィルム上に配向膜を形成し、上記配向膜をラビング処理又は光配向処理する方法等が挙げられる。
上記ラビング処理は、鋼やアルミニウム等の金属ロールに、ナイロン、レーヨン、コットン等のベルベット状のラビング布を、両面テープ等を用いて貼り合せて作製したラビングロールを用い、これを高速回転させ、ガラス板やプラスチックフィルムを接触させながら移動させることにより達成される。
上記ラビング処理の条件は、用いる液晶性化合物の配向のしやすさ、用いるラビング布の種類、ラビングロール径、ラビングロールの回転数、基板の進行方向に対する回転方向、基板とラビングロールの接触長、基板へのラビングロールの押し込みの強さ、基板の搬送速度、基板がプラスチックフィルムである場合には、該フィルムとラビングロール接触部分のラップ角、該プラスチックフィルムの搬送張力等の諸条件によって適宜調整すればよい。
【0024】
上記配向を固定化する方法として、例えば、紫外線硬化型の(液晶性)化合物を光重合開始剤の存在下、紫外線照射して重合反応によって硬化させて固定化する方法や、水酸基やカルボキシル基やアミノ基等の官能基を有する(液晶性)化合物を含む液晶性組成物を、該官能基と架橋反応することが可能な多価イソシアネートや多価エポキシ化合物といった架橋剤の存在下で、加熱により架橋させて固定化する方法や、液晶相を示す温度が高温領域にあるような液晶性化合物を用い、高温雰囲気下で配向後に急冷することにより、配向状態を固定化する方法等が挙げられる。
【0025】
上記液晶性組成物を塗布する方法として、例えば、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、カレンダーコート法、スプレーコート法、メニスカスコート法、スロットダイコート法等が挙げられ、所望の厚さ、位相差値を得るために適宜選択される。
上記紫外線の照射量は、液晶性化合物や他の重合性化合物の種類や反応性、光重合開始剤の種類と添加量、膜厚によって異なるが、通常、100〜1000mJ/cm程度がよい。また、紫外線照射時の雰囲気は空気中、窒素等の不活性ガス中等、重合のしやすさに応じて適宜選択することができる。
【0026】
本発明の位相差素子は、少なくとも片面に接着剤層を有することが好ましく、より好ましくは接着剤層が感圧接着剤層即ち粘着剤層であることにより、基板等への積層が容易になる。上記感圧接着剤は特に限定されないが、アクリル粘着剤、ゴム粘着剤、シリコーン粘着剤、ウレタン粘着剤、ポリエーテル粘着剤、ポリエステル粘着剤等が好ましく、アクリル粘着剤が特に好ましい。
【0027】
上記アクリル粘着剤として、複数の(メタ)アクリル酸エステルをモノマー成分の主成分として共重合させて得られるポリマーを含むアクリル粘着剤が挙げられる。上記共重合体のモノマー成分として、例えば、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソ(メタ)ノニルアクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、ベンジル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチエル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12−ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)−メチルアクリレート、2−メチル−3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシ−シクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、上記アクリル酸エステル以外のポリマーのモノマー成分として、ジメチルアミノメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、ビニルエーテルモノマー、酢酸ビニル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル等の共重合できるモノマーを用いることができる。
【0028】
上記モノマーを用いて共重合させることにより、アクリル粘着剤の主成分となるポリマーを得ることができる。なかでも、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソ(メタ)ノニルアクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜18(メタ)アクリル酸アルキルエステルの内の少なくとも1種以上のモノマーと、メチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチエル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12−ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)−メチルアクリレート、2−メチル−3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸の内の少なくとも1種以上のモノマーとを用いて共重合させたポリマーを用いることが好ましい。特に、ブチル(メタ)アクリレートと、アクリル酸とを共重合させたポリマーや、ブチル(メタ)アクリレートと、メチル(メタ)アクリレートと、アクリル酸とを共重合させたポリマーや、ブチル(メタ)アクリレートと、アクリル酸と、2−ヒドロキシエチエル(メタ)アクリレートとを共重合させたポリマーといった、アクリル酸を含む複数のアクリル酸エステルを共重合させて得られるポリマーを用いると、位相差素子の耐熱性が向上するので好ましい。
【0029】
本発明に用いる粘着剤は、粘着剤の耐久性や、位相差素子又はガラスに対する接着力を調整するために、架橋剤を含有してもよい。上記架橋剤として、上記粘着剤を構成するモノマー成分として、水酸基やカルボキシル基を含有するモノマーを用いた場合に、水酸基やカルボキシル基と反応することにより架橋させる架橋剤が挙げられる。上記架橋剤として、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、金属キレート化合物、メラミン化合物、アジリジン化合物、金属塩等が挙げられる。イソシアネート化合物として、例えば、トルエンジイソシアネート、水素化トルエンジイソシアネート、トリメチロールプロパンのトルエンジイソシアネートアダクト、トリメチロールプロパンのキシリレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、メチレンビス(4−フェニルメタン)トリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、これらのケトオキシムブロック物、フェノールブロック物等が挙げられる。また、イソシアネート化合物として、イソシアヌレート環、ビューレット体、アロファネート体等を形成させたポリイソシアネート化合物等が挙げられる。
【0030】
エポキシ化合物として、例えば、ビスフェノールA、エピクロロヒドリン型のエポキシ樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0031】
金属キレート化合物として、例えば、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、スズ、チタン、ニッケル、マグネシウム等の多価金属のアセチルアセトンやアセト酢酸エステル配位化合物等が挙げられる。
【0032】
上記架橋剤は単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよいが、高温環境下での変色を低減するために、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、これらのケトオキシムブロック物やフェノールブロック物、エポキシ化合物を用いることが好ましい。上記架橋剤の添加量は、所望とする粘着剤としての物性と反応性によって異なるが、上記モノマー成分100重量%に対して0.001〜10重量%の範囲内であることが好ましく、0.01〜5重量%の範囲内であることがより好ましい。
【0033】
本発明の位相差素子の両側に粘着剤層が形成されている場合、両側の粘着剤層は同じ粘着剤であってもよいが、異なる粘着剤であってもよい。異なる粘着剤とは分子量、粘着剤層を構成するポリマーの組成、ガラス転移温度等が異なることを意味する。例えば、両側の粘着剤層に貼り合せる基材が異なる場合、ポリマー組成を変えることにより、それぞれの基材に対する接着力を調整できるため好ましい。さらに、粘着剤層において、少なくとも一方にアクリル酸を含む複数のアクリル酸エステルを共重合させたポリマーを主成分とする粘着剤を用いることにより、位相差素子の耐熱性が向上する。粘着剤層は位相差素子の片側のみに形成されていてもよく、両側に形成されていてもよい。また、粘着剤層は1層のみで形成されてもよく、異なる粘着剤層が積層されていてもよい。
【0034】
上記粘着剤層は、偏光板やガラス板との接着力を高め、さらには積層後の耐熱性評価後の外観変化を抑制するためにシランカップリング剤を含有してもよい。上記シランカップリング剤として、例えば、ビニルトリクロルシラン(信越化学工業社製「KA−1003」)、ビニルトリメトキシシラン(信越化学工業社製「KBM−1003」)、ビニルトリエトキシシラン(信越化学社製「KBE−1003」)、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン(信越化学社製「KBC−1003」)、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(信越化学社製 KBM−303)、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製「KBM−403」)、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(信越化学社製「KBE−402」)、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製「KBE−403」)、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学社製「KBM−502」)、γ−メタクリロキシプロプルトリメトキシシラン(信越化学社製「KBM−503」)、γ−メタクルロキシプロピルメチルジエトキシシラン(信越化学社製「KBE−502」)、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製「KBE−503」)、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーティング・シリコーン社製「SZ−6030」)、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩(東レ・ダウコーティング・シリコーン社製「SZ−6032」)、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーティング・シリコーン社製「SZ−6083」)、γ−ジアリルアミノプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーティング・シリコーン社製「AX43−065」)、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学社製「KBM−602」)、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製「KBM−603」)、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製「KBE−603」)、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製「KBM−903」)、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製「KBM−903」)、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製「KBM−573」)、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーティング・シリコーン社製「SH6020」)、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン(東レ・ダウコーティング・シリコーン社製 「SH6023」)、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製「KBM−703」)、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製「KBM−803」)等が挙げられる。
【0035】
上記粘着剤層は、粘着剤層や位相差素子の耐光性を向上させるために紫外線吸収剤を含有してもよい。上記紫外線吸収剤として、例えば、マロン酸エステル化合物、シュウ酸アニリド化合物、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、トリアジン化合物、ベンゾエート化合物、ヒンダートアミン化合物等が挙げられる。
【0036】
上記粘着剤層は、上記ポリマーと、上記架橋剤と、必要に応じて添加されるシランカップリング剤や紫外線吸収剤等と溶剤とを混合して溶解させた溶液を離型フィルム上に所望の厚さになるように塗布する。次いで、加熱乾燥することにより、溶剤を除去させ、上記ポリマーが架橋された粘着剤層が形成される。さらに、この粘着剤層と本発明の位相差素子とを貼り合わせ、次いで離型フィルムを剥がして、ガラス板、偏光板等の基材に貼り合せることができる。また、剥離力の異なる2枚の離型フィルムの間に、粘着剤層が挟み込まれた状態にして保管してもよい。一方の離型フィルムを剥離した後、位相差素子に粘着剤層を貼り合せ、もう一方の離型フィルムを剥離した後、ガラス板、偏光板等の基材に貼り合せればよい。
【0037】
本発明の位相差素子の両側に粘着剤層が形成される場合、各粘着剤層は同じポリマーを含んでもよいし、異なるポリマーを含んでもよい。各々の面のポリマーの組成を変えることにより、貼り合せるそれぞれの他の基材が異なる場合にも、各基材との密着性を各々調整できる。
【0038】
本発明の位相差素子は、配向処理された基板上に形成されているが、そのまま基板と共に用いてもよいし、粘着剤層又は接着剤層を有する他の基板等で配向処理された基板から剥離し、他の基板と積層することもできる。
上記基板として、トリアセチルセルロース等のセルロースフィルム、シクロオレフィンポリマーフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエステルフィルム等が挙げられる。これらのフィルムは延伸等により複屈折を持たせることで、位相差フィルムとして機能する。例えば、本発明の位相差素子を複数、又は、上記位相差フィルムと本発明の位相差素子とを直接又は粘着剤若しくは接着剤を介して積層することによって複合位相差素子を得ることができる。
複数の層が積層されている複合位相差素子であって、少なくとも一層が、本発明の位相差素子である複合位相差素子もまた、本発明の1つである。
【0039】
本発明の位相差素子又は上記複合位相差素子は、位相差値を波長の1/4(例えば波長560nmにおける位相差値が140nm)にすることで、1/4波長板として用いることができ、直線偏光を円偏光に変換したり、円偏光を直線偏光に変換したりすることができる。また、位相差値を波長の1/2(例えば波長540nmにおける位相差値が270nm)にすることで、1/2波長板として用いることができ、直線偏光の光軸を変えることができる。
【0040】
また、本発明の位相差素子又は上記複合位相差素子と偏光板とを直接、又は、粘着剤層若しくは接着剤層とを介して積層することにより、光学素子を得ることができる。
本発明の位相差素子又は上記複合位相差素子と、偏光板との積層体である光学素子もまた、本発明の1つである。
【0041】
上記偏光板として、光源からの光を偏光光化する機能を有する偏光板であれば特に限定されず、特定の方向の光を吸収して偏光光化する吸収型偏光板と特定の方向の光を反射して偏光光化する反射型偏光板を用いることができる。
上記吸収型偏光板として、例えば、染料や多ヨウ素イオン等の2色性色素を含有したポリビニルアルコールフィルム等の親水性高分子フィルムを一軸延伸して得られる偏光素子や、ポリビニルアルコールフィルム一軸延伸前後に酸により脱水してポリエン構造を形成して得られる偏光素子や、一定方向に配向するよう処理された配向膜上にリオトロピック液晶状態を発現する2色性色素の溶液を塗布して溶剤を除去して得られる偏光素子や、ポリエステルフィルムに2色性色素を含有させて一軸延伸して得られる偏光素子等をそのまま、又は、トリアセチルセルロース等のセルロースフィルムやシクロオレフィンポリマーフィルム等の保護フィルムと積層した偏光板が挙げられる。
【0042】
上記反射型偏光板として、例えば、複屈折の異なる層が多数積層された偏光素子や、選択反射域を有するコレステリック液晶と1/4波長板とを組み合わせた偏光素子や、基板上に微細なワイヤーグリッドを設けた偏光素子等をそのまま、又は、トリアセチルセルロース等のセルロースフィルムやシクロオレフィンポリマーフィルム等の保護フィルム、あるいはガラス、水晶、サファイヤ等の無機基板と積層した偏光板が挙げられる。積層に使用する接着剤又は粘着剤は特に限定されないが、アクリル粘着剤、ゴム粘着剤、シリコーン粘着剤、ウレタン粘着剤、ポリエーテル粘着剤、ポリエステル粘着剤等が特に好ましい。
【0043】
また、本発明の位相差素子又は上記複合位相差素子で作製した1/4波長板の遅相軸と偏光板の吸収軸とのなす角が45°になるように積層することで、上記光学素子の一形態である円偏光板を得ることができる。更に、本発明の位相差素子又は上記複合位相差素子で作製した1/2波長板の遅相軸と偏光板の吸収軸とのなす角が45°になるように積層することで、上記光学素子の一形態である旋光板を得ることができる。
また、本発明の位相差素子が、ハイブリッド配向したディスコティック液晶層を有する位相差素子である場合には、位相差素子の遅相軸方向と偏光板との吸収軸とが同一方向になるよう積層することで、上記光学素子の一形態であるTN型又はOCB型液晶表示装置用の視野角改良光学素子を得ることができる。
また、本発明の位相差素子の遅相軸方向をn、それと直交する方向をn、厚さ方向の屈折率をnとするとき、n=n>nである位相差素子と偏光板とを積層することで、上記光学素子の一形態であるVA型液晶表示装置用の視野角改良光学素子を得ることができる。また、少なくとも1種のn>n>nである位相差素子の進相軸と偏光板の吸収軸とが同一方向になるように積層することで、上記光学素子の一形態であるIPS(in−plane switching)型液晶表示装置の視野角改良光学素子を得ることができる。
【0044】
このようにして得られた本発明の位相差素子、複合位相差素子、光学素子を画像表示装置に組み込むことで、画像表示装置を得ることができる。
画像表示装置は特に限定されないが、例えば、液晶表示装置、プラズマディスプレイ装置、エレクトロルミネッセンス型表示装置等が挙げられ、特に、液晶表示装置に好適に用いられる。液晶表示装置は用いる液晶セルの種類によって異なるが、TN、OCB、STN、VA、IPS型等が挙げられ、また、表示装置はカーナビ、リアエンターテインメント用モニター、インストルメントパネルやカーオーディオ部の車載モニター、パソコンのモニター、液晶テレビ、液晶プロジェクター等種々の形態で使用することができる。
特に高温雰囲気下で使用されることの多いカーナビ、リアエンターテインメント用モニター、インパネやカーオーディオ部の車載モニター、液晶プロジェクター等において、本発明の位相差素子を用いることにより、高温雰囲気下に晒されても割れの発生がすくないため、安定した表示性能を維持できる。また、素子の強度改善により製造工程の歩留まりの向上が期待でき、さらにLCDを高温雰囲気下に放置しても、位相差素子に割れが生じず、安定した表示性能を維持することができる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0046】
(実施例1)
(1)位相差素子の作製
下記式(3)にて表される紫外線硬化型重合性液晶(BASF社製「PARIOCOLORLC242」)100重量部と、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(BASF社製「ルシリンTPO」)4重量部と、レベリング剤(ビックケミー社製「BYK361」)0.1重量部とをシクロペンタノン243重量部に溶解させて固形分30重量%の溶液を調製した。次にイソシアヌル酸誘導体としてトリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート(東亞合成(株)製M315)を10重量部加えて均一になるまで攪拌し、液晶性組成物の溶液を得た。次にポリエステルフィルム(東洋紡(株)製「A4100」)をラビングマシン(EHC(株)製、ラビングロール径45mm、ラビングロール回転数1500rpm、搬送速度1m/min)を用いてラビング処理した。ラビング処理面上にスピンコーターにて上記液晶性組成物の溶液を塗布し、80℃で1分間乾燥後、窒素置換した雰囲気下で高圧水銀灯(630mJ/cm)を照射して硬化させ、本発明の位相差素子を有するフィルムを得た。得られた位相差素子は厚さが4μmであり、ポリエステルフィルムを除去した位相差素子の位相差値を自動複屈折計(王子計測(株)製「KOBRA−21ADH」)で測定した結果、540nmにおける位相差値が270nmであった。
【化3】

(3)
【0047】
(2)構成体の作製
(1)で得られた位相差素子の両側にアクリル粘着剤層を配置し、アクリル粘着剤/位相差素子/アクリル粘着剤層/ガラス板の順に積層された構成体を作製した。
なお、アクリル粘着剤層は、ブチルアクリレートと、メチルアクリレートと、N,N−ジメチルアクリルアミドと、2−ヒドロキシエチルアクリレートとを共重合させて得られたポリマーをイソシアネート架橋剤で架橋させた粘着剤層である。
【0048】
(実施例2)
トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート(東亞合成(株)製M315)の添加量を15重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして位相差素子を作製した。得られた位相差素子は厚さが2μm、540nmにおける位相差値が270nmであった。
以下、実施例1と同様にして構成体を作製した。
【0049】
(実施例3)
トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート(東亞合成(株)製M315)の添加量を20重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして位相差素子を作製した。得られた位相差素子は厚さが3μm、540nmにおける位相差値が270nmであった。
以下、実施例1と同様にして構成体を作製した。
【0050】
(実施例4)
カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート(東亞合成(株)製M325)を10重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして位相差素子を作製した。得られた位相差素子は厚さが3μm、540nmにおける位相差値が270nmであった。
以下、実施例1と同様にして構成体を作製した。
【0051】
(実施例5)
ジ(アクリロキシエチル)イソシアヌレート(東亞合成(株)製M215)を10重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして位相差素子を作製した。得られた位相差素子は厚さが3μm、540nmにおける位相差値が270nmであった。
以下、実施例1と同様にして構成体を作製した。
【0052】
(実施例6)
実施例1と同様にして位相差素子を作製した。得られた位相差素子は厚さが3μm、540nmにおける位相差値が270nmであった。
以下、アクリル粘着剤層を、ブチルアクリレートと、メチルアクリレートと、アクリル酸とを共重合させて得られたポリマーをイソシアネート架橋剤で架橋させた粘着剤層を用いた以外は、実施例1と同様にして構成体を作製した。
【0053】
(実施例7)
実施例4と同様にして位相差素子を作製した。得られた位相差素子は厚さが3μm、540nmにおける位相差値が270nmであった。
以下、アクリル粘着剤層を、ブチルアクリレートと、メチルアクリレートと、アクリル酸とを共重合させて得られたポリマーをイソシアネート架橋剤で架橋させた粘着剤層を用いた以外は、実施例1と同様にして構成体を作製した。
【0054】
(比較例1)
イソシアヌル酸誘導体を添加しない以外は、実施例1と同様にして位相差素子を作製した。得られた位相差素子は厚さが3μm、540nmにおける位相差値が270nmであった。
以下、実施例1と同様にして構成体を作製した。
【0055】
(比較例2)
イソシアヌル酸誘導体に代えてトリメチロールプロパントリアクリレート(日本化薬(株)製KAYARAD TMPTA)を10重量部を使用した以外は、実施例1と同様にして位相差素子を作製した。得られた位相差素子は厚さが3μm、540nmにおける位相差値が270nmであった。
以下、実施例1と同様にして構成体を作製した。
【0056】
(比較例3)
イソシアヌル酸誘導体に代えてトリメチロールプロパントリアクリレート(日本化薬(株)製KAYARAD TMPTA)を20重量部を使用した以外は、実施例1と同様にして位相差素子を作製したが、液晶相を発現しなかった。
【0057】
(比較例4)
イソシアヌル酸誘導体に代えてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬(株)製KAYARAD DPHA)を10重量部を使用した以外は、実施例1と同様にして位相差素子を作製した。得られた位相差素子は厚さが3μm、540nmにおける位相差値が270nmであった。
以下、実施例1と同様にして構成体を作製した。
【0058】
(比較例5)
イソシアヌル酸誘導体に代えてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬(株)製KAYARAD DPHA)を20重量部を使用した以外は、実施例1と同様にして位相差素子を作製したが、液晶相を発現しなかった。
<評価>
実施例及び比較例で得られた構成体について以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0059】
(加速試験評価用サンプルの作製)
この構成体を端部の状態が揃うように同一のカッターで5cm角で裁断し、ガラス上に配置して、アクリル粘着剤/位相差素子/アクリル粘着剤層/ガラス板の順に積層された構成体を作製した。
【0060】
(加速試験)
この構成体を140℃の高温雰囲気下に30分間放置し、加速試験を行った。試験後に発生した割れ本数を数えた。また実施例1、実施例4、実施例6、実施例7の構成体については、試験後の位相差値を測定し、変化率を計算した。変化率(%)={(140℃、30分後の位相差値)−(初期位相差値)}/(初期位相差値)×100
【0061】
(実使用温度試験用サンプルの作製)
実施例1、比較例1、比較例2、比較例4の構成体について、最表面に染料系偏光板(ポラテクノ製SHC-13U)を配置して、偏光板/アクリル粘着剤/位相差素子/アクリル粘着剤層/ガラス板の順に積層された構成体を作製した。
【0062】
(実使用温度試験)
この構成体を、車載用途での高温状態を想定して、95℃の高温雰囲気下に1週間放置し、割れや外観異常の有無から実施用可能かどうかを確認した。
【0063】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、耐熱性に優れ、高温雰囲気下において割れの発生が少なく、安定した光学性能を維持することができる位相差素子を提供することができる。さらに、粘着剤層において、少なくとも一方にアクリル酸を含む複数のモノマー成分を共重合させたポリマーを主成分とする粘着剤を用いることにより、位相差素子の長期耐熱性が向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアヌル酸誘導体を1種類以上と、少なくとも1種類以上の液晶性化合物を含む組成物からなる位相差素子
【請求項2】
イソシアヌル酸誘導体が一般式(1)で示される化合物である請求項1に記載の位相差素子
【化1】

(1)
〔一般式(1)中、R、R、及びRはそれぞれ独立に、−(CHOCOCR=CH、または−(CHOHを示し、少なくとも1つは−(CHOCOCR=CHである。Rは水素またはメチル基を示し、nは1〜20の整数を示す。〕
【請求項3】
イソシアヌル酸誘導体が一般式(2)で示される化合物である請求項1に記載の位相差素子
【化2】

(2)
〔一般式(2)中、R、R、及びRはそれぞれ独立に、−CHCHOCOCH=CH、または−CHCHOHを示し、少なくとも1つは−CHCHOCOCH=CHである。〕
【請求項4】
イソシアヌル酸誘導体が一般式(1)または一般式(2)で表される化合物のカプロラクトン付加体である請求項1に記載の位相差素子
【請求項5】
イソシアヌル酸誘導体の含有量が液晶性化合物に対して1〜30重量%含有していることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の位相差素子
【請求項6】
液晶性化合物が重合性であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項
に記載の位相差素子
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の組成物を硬化してなる位相差素子
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の位相差素子の両側に接着剤層を有する位相差素子
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の位相差素子と他の位相差素子とを積層してなる複合位相差素子
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の位相差素子あるいは複合位相差素子と偏光板とを積層してなる光学素子

【公開番号】特開2011−95514(P2011−95514A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249683(P2009−249683)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【出願人】(594190998)株式会社ポラテクノ (30)
【Fターム(参考)】