位置検知システム
【課題】光学的に遮蔽された空間を移動する移動体の位置も電磁気を利用して容易に検知する。
【解決手段】互いに直交する励磁コイル13,14を有し、これらの励磁コイル13,14に位相が90°ずれた励磁信号が入力される回転磁界プローブ11と、回転磁界プローブ11と離間して位置され、励磁コイル13,14で発生した回転磁界によって起電力が発生する検出コイル20とを備える。回転磁気プローブ11は、検出コイル20に対して移動するトンネル掘削機2の先導体3に取り付けられ、検出コイル20は地表4に配置される。検出コイル20は、回転磁界によって起電力が発生し、これに応じた位置信号を出力する。
【解決手段】互いに直交する励磁コイル13,14を有し、これらの励磁コイル13,14に位相が90°ずれた励磁信号が入力される回転磁界プローブ11と、回転磁界プローブ11と離間して位置され、励磁コイル13,14で発生した回転磁界によって起電力が発生する検出コイル20とを備える。回転磁気プローブ11は、検出コイル20に対して移動するトンネル掘削機2の先導体3に取り付けられ、検出コイル20は地表4に配置される。検出コイル20は、回転磁界によって起電力が発生し、これに応じた位置信号を出力する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁気を利用して移動体の位置を検出する位置検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
生体内のマーカーの位置検知や、非特許文献1のような通信・電力ケーブル用のパイプラインを敷設するためのトンネル掘削機の位置検知等正確な位置計測に対する要求がある。生体内のマーカーの位置検知やトンネル掘削機の位置検知などは、光学的に遮蔽されておりレーザーを使った高精度の光学式の位置計測が適用できないのが現状である。一方、電磁気を利用した計測手法は、生体内や地中など光学的に遮蔽された空間でも位置計測が可能である。
【0003】
なお、非特許文献1では、3次元磁場計測を行うため、3つの検出コイルを用い、各検出コイルで検出された微弱な信号を増幅し、磁束密度計算を行い、検出された検出コイルの起電力と計算した磁束密度から移動体の位置計測を行うようにしており、移動体の位置推定のための演算が極めて複雑である。
【0004】
また、特許文献1には、溶接線、溶接突合わせ部の位置検出に電磁気を利用した計測手法が記載されている。しかしながら、特許文献1は、溶接線、溶接突合わせ部の位置検出に関するものであり、光学的に遮蔽された空間を移動する移動体の位置検知を行うものではなく、また、検出コイルを移動体側に取り付けたものでもない。
【0005】
【非特許文献1】辻村「三次元磁界計測システムを用いたトンネル掘削装置の遠隔位置推定技術」非破壊検査、53(9)、pp.572-579(2004)
【特許文献1】特開2002−131285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、電磁気を利用して移動体の位置を容易に検出することができる位置検出システムを提供することにある。
【0007】
また、本発明の目的は、光学的に遮蔽された空間を移動する移動体の位置も電磁気を利用して容易に検知することができる位置検出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る位置検出システムは、上述の課題を解決するために、互いに直交する励磁コイルを有し、これらの励磁コイルに位相が90°ずれた励磁信号が入力される回転磁界プローブと、上記回転磁界プローブと離間して位置され、上記励磁コイルで発生した回転磁界によって起電力が発生する検出コイルとを備える。上記回転磁気プローブは、上記検出コイルに対して移動する移動体に取り付けられる。
【0009】
また、本発明に係る位置検出システムは、上述の課題を解決するために、互いに直交する励磁コイルを有し、これらの励磁コイルに位相が90°ずれた励磁信号が入力される回転磁界プローブと、上記回転磁界プローブと離間して位置され、上記励磁コイルで発生した回転磁界によって起電力が発生する検出コイルとを備える。上記検出コイルは、上記回転磁気プローブに対して移動する移動体に取り付けられている。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、互いに直交する励磁コイルに位相が90°ずれた交流の励磁電流が供給されると、これと同期する回転磁界が発生する。検出コイルは、コイル面に垂直な磁束成分を検出して起電力を発生し、起電力に応じた振幅と位相の異なる正又は負極性の信号を検出することによって、回転磁界プローブの位置信号を生成することができる。したがって、従来のように、3成分の磁束密度計算等を行う必要が無くなり、簡単なアルゴリズムで回転磁界プローブの位置検知を行うことができる。更に、回転磁界プローブは、2つのコイルで構成できることから、構成を極めて簡素化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明が適用された位置検出システムについて図面を参照して説明する。
【0012】
図1に示すように、本発明が適用された位置検知システム1は、通信ケーブル、上下水道、ガス、電力等の管埋設工事において、開削工法に代わって用いられているトンネル工法に用いられるものであって、例えば口径1mm以下のトンネルを掘削するトンネル掘削機2の位置を検出するものである。このトンネル工法は、開削工法に比べ、道路を広範に亘って通行止めに必要が無い点で優れている。
【0013】
本発明を適用した位置検出システム1では、トンネル掘削機2の先端部、すなわち掘削機能と方向修正機能を備えた先導体3の位置を検出するものである。そして、この位置検知システム1は、先導体3に取り付けられる回転磁界プローブ11と、地表4に配置されて回転磁界プローブ11の発生する回転磁界RMF(Rotating Magnetic Field)を検出する検出コイル20とを備えている。
【0014】
図2に示すように、トンネル掘削機2の先導体3に取り付けられる回転磁界プローブ11は、コア12に矩形に巻かれた2つの励磁コイル13,14を十字に組み合わせてなり、励磁コイル13,14で発生する回転磁界RMFを薄いプリントコイルの検出コイル20で検出して位置検知を行う。具体的に、各励磁コイル13,14は、矩形のコア12に形成された溝部13a,14aに巻回される。
【0015】
一方の励磁コイル13は、励磁信号発生器15より所定周波数の交流の励磁電流が供給され、他方の励磁コイル14には、90°位相器16で励磁信号発生器15からの交流の励磁電流が90°位相がずらされて供給される。これにより、回転磁界プローブ11は、各励磁コイル13,14に供給される励磁電流に同期して回転する回転磁界RMFが発生する。具体的に、図3に示すように、2つの励磁コイル13,14の巻線が重なった下面では、励磁電流に同期して方向が回転する回転磁界RMFが発生する。
【0016】
検出コイル20は、励磁コイル13,14の巻線の重なった面と平行に配置されるものであり、回転磁界RMF中検出コイル20のコイル面に垂直な磁束成分を検出して起電力を発生する。励磁コイルの電流が交流であるので、検出コイル20の起電力、すなわち誘導電流は、励磁電流と同相成分(In-phase component)と90°進成分(Quadrature component)となる。検出コイル20には、位置検出器21が接続されており、位置検出器21は、検出コイル20に発生する起電力に応じた正又は負極性の信号を検出することによって、回転磁界プローブ11の位置信号を生成する。
【0017】
具体的に、検出コイル20を、xy平面と平行に置き、回転磁界プローブ11の励磁コイル13,14の巻線の重なった平面を検出コイル20のコイル面と平行にして、回転磁界プローブ11をxy平面に平行に移動させたときを説明する。回転磁界プローブ11が検出コイル20の中心上に位置した場合には、検出コイル20は、回転磁界RMFの中心に位置することとなる。したがって、図4に示すように検出コイル20が回転磁界RMFの中心に位置すると、検出コイル20の中心を対称として検出コイル20を鎖交する磁束の垂直成分の向きが正負対称となり、検出コイル20には起電力が発生しない。なお、図4中の矢印は、検出コイル面に垂直な磁束成分の大きさと向きを表す。
【0018】
そして、回転磁界プローブ11をx軸上を移動させ、図5(A)に示すように、回転磁界プローブ11が検出コイル20の中心より左側に位置すると、検出コイル20に鎖交する磁束の垂直成分は負方向の磁束成分が多くなり、検出コイル20に起電力efmが発生し負極性の位置信号が位置検出器21で得られることになる。一方、回転磁界プローブ11が検出コイル20の中心より右側に位置すると、図5(B)に示すように、検出コイル20に鎖交する磁束の垂直成分の正方向が多くなり、検出コイル20に正極性の位置信号が位置検出器21で得られることになる。このように、位置検出器21では、検出コイル20の中心で位置信号が零となり左右対称の極性の異なる差動信号が得られることで、回転磁界プローブ11の位置信号を生成することができる。
【0019】
次に、回転磁界プローブ11がy軸上を移動した場合には、検出コイル20の中心で左右極性の異なる差動信号を得ることができるが、励磁電流に同期した回転磁界であるので、回転磁界プローブがx軸上を移動した場合とは90°位相の異なる位置信号が得られることになる。かくして、位置検出器21では、回転磁界プローブ11のxy平面上の位置に応じて振幅と位相が異なる位置信号を得ることができ、回転磁界プローブ11の位置検知を行うことができる。
【0020】
トンネル掘削機2の先導体3の位置検知は、光学的に遮蔽された、すなわち地中を移動する先導体3の位置検知であるから、検出コイル20は、図6に示すように、格子状に複数設けられることで、地表4の広範囲に亘って配置される。図6では、回転磁界プローブ11の大きさに対応させて3×3個の検出コイル20を1組としている。各検出コイル20は、回転磁界RMFを検出しているので、位置検出器21では、3×3個の検出コイル20を1組として、図7の信号条件を満たす検出コイル20の組の位置を検索することによって、回転磁界プローブ11の位置の概略位置を検知することができる。図7の信号条件を満たす検出コイル20の組以外の検知コイル20では、回転磁界RMFを検出しないことから、位置信号は出力されないことになる。そして、位置検出器21は、概略の位置を検知した後で対をなす検出コイル20の位置信号から補間計算を行って正確な位置検知を行うことができる。
【0021】
そこで、次のような実験を行った。位置検知の実験に用いた回転磁界プローブ11の励磁コイル13,14は、1層巻きの矩形コイルであり、その寸法は、幅30mm、長さ40mm、高さ30mmである。また、検出コイル20は、薄いプリントコイルであり、その寸法は、外径5mm、厚さ0.1mmである。また、試験周波数を、10kHzとし、回転磁界プローブ11と検出コイル20との相対距離を20mmで一定とした。
【0022】
そして、xy平面の原点に検出コイル20を平行に置き、2つの励磁コイル13,14の巻線が重なった面がxy平面と平行となるように移動させた。検出コイル20は、磁束密度のz成分を検出して起電力を発生する。励磁コイル20がy=0でx軸上を移動したときに得られる検出コイル20からの位置信号が同相成分のみとなる様に位相の調整をはじめに行った。
【0023】
検出コイル20をxy平面の原点に置き、回転磁界プローブ11が−15mmから+15mmまでの範囲を、x軸を0°、y軸を90°として、0°、45°、90°、135°方向に移動した場合の検出コイル20起電力の変化を観測した。なお、励磁コイル13,14の巻線の重なった面の一辺が30mmであるので、移動範囲を±15mmとした。
【0024】
次に、検出コイル20を格子状に配置した場合の位置検知を模擬して、回転磁界プローブ11を固定して単一の検出コイル20を−50mmから+50mmの範囲を10mm間隔でxy方向に移動させて、位置検知の実験を行った。±50mmの範囲を10mm間隔としたので、検出コイル20を11×11個の格子状に配置したこととなる。
【0025】
ここで、図8乃至図11は、検出コイル20をxy平面の原点に置き、回転磁界プローブ11が移動したときの検出コイル20の信号変化を示す。図8(A)及び図8(B)は、0°方向、すなわちx軸上を移動した場合、図9(A)及び図9(B)は、45°方向、図10(A)及び図10(B)は、90°方向、すなわちy軸上を移動した場合、図11(A)及び図11(B)は、135°方向をそれぞれ示す。図8乃至図11より、回転磁界プローブ11の位置に応じて信号の同相成分(In-phase component)と90°進相成分(Quadrature component)が変化していることが分かる。
【0026】
以上の結果を踏まえ、原点を中心にxy方向10mm間隔で検出コイル20からの位置信号の各成分の符号について考えると、図7が得られる。すなわち、ある検出コイル20を中心に前後左右斜めの3×3個の検出コイル20の位置信号が図7の条件を満たす位置に回転磁界プローブ11が位置していることとなる。
【0027】
11×11個に格子状配置された検出コイル20の内3×3個の検出コイル20を1組として図8乃至図11に示した検出信号の条件を満たしているかを検索して回転磁界プローブ11の位置検知を行った結果を表1に示す。表より、今回の条件下で概ね良好に位置検知が行えていることが分かる。
【0028】
【表1】
【0029】
以上のように構成された本発明が適用された位置検知ステム1によれば、回転磁界プローブ11が検出コイル20の中心に位置したとき、位置信号は零となり、検出コイル20の中心より移動すると符号の異なる差動信号が得られる。ここで、検出コイル20は、回転磁界を検出しているので、差動信号の振幅と位相は、回転磁界プローブ11の位置に応じて異なることになる。位置検出器21では、検出コイル20からの信号の変化を検出することによって、回転磁界プローブ11の位置を検出することができる。そして、従来のように、3成分の磁束密度計算等を行う必要が無くなり、簡単なアルゴリズムで回転磁界プローブ11の位置検知を行うことができる。更に、回転磁界プローブ11は、2つのコイルで構成できることから、構成を極めて簡素化することができる。
【0030】
なお、以上、本発明が適用された位置検出システムとして、トンネル掘削機2の先導体3の位置検知を例に取り説明したが、本発明は、光学的に遮蔽された空間を移動する移動体の位置検知でなくても良い。また、光学的に遮蔽された空間を移動する移動体の位置検知の場合であれば、例えば、上述の地下のパイプラインの敷設工事の他に、生体内のマーカーの位置検知に適用することができる。
【0031】
また、以上の例では、回転磁界プローブ11をトンネル掘削機2の先導体3、すなわち移動体側に配置し、回転磁界を発生しながら移動する移動体の位置検出を、地表にある固定側の検出コイル20の信号変化によって検出する場合を説明したが、本発明は、これとは逆に、回転磁界プローブ11を固定側に配置し、検出コイル20を移動体に取り付けるようにしても良い。例えば、図12に示すように、建築物の荷重試験の際、梁、柱等の変位量を検知する場合に用いることができる。この場合、検出コイル20を建築物30の例えば梁31に取り付け、回転磁界プローブ11を検出コイル20に対して平行に離間配置する。そして、建築物31に荷重Lを加えると、梁31等が変位し、回転磁界プローブ11との相対位置が変化する。この際の検出コイル20から出力される位置信号の変化によって、建築物30の変位量を検知することができる。
【0032】
なお、検出コイル20を移動体側に取り付けた場合についても、図12の例に限定されるものではない。
【0033】
また、以上の例に用いる回転磁界プローブ11において、図13に示すように、励磁コイル13,14のそれぞれは、全体に亘って巻線数が同じであると、コイルの両側で磁束φが弱くなる傾向にある(図13中点線で示す)。そこで、励磁コイル13,14のそれぞれは、磁束φが一様になるように、両端部及びその近傍で巻線数を増やしても良い(図13中実線)。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明が適用されたトンネル掘削機の位置検知システムを示す斜視断面図である。
【図2】本発明が適用された位置検知システムの構成を示す図である。
【図3】励磁コイル巻線下面における回転磁界を示す図である。
【図4】検出コイルが回転磁界中心に位置した場合を示す検出コイルの平面図である。
【図5】(A)は、検出コイルが回転磁界中心より左にずれて位置した場合を示す検出コイルの平面図であり、(B)は、検出コイルが回転磁界中心より右にずれて位置した場合を示す検出コイルの平面図である。
【図6】検出コイルを格子状に配置した例を示す平面図である。
【図7】検出コイルから出力される位置信号の符号を示す図である。
【図8】検出コイルをxy平面の原点に置き、回転磁界プローブが0°方向、すなわちx軸上を移動した場合の検出コイルの信号変化を示す図である。
【図9】検出コイルをxy平面の原点に置き、回転磁界プローブが45°方向を移動した場合の検出コイルの信号変化を示す図である。
【図10】検出コイルをxy平面の原点に置き、回転磁界プローブが90°方向、すなわちy軸上を移動した場合の検出コイルの信号変化を示す図である。
【図11】検出コイルをxy平面の原点に置き、回転磁界プローブが135°方向を移動した場合の検出コイルの信号変化を示す図である。
【図12】本発明を建築物の荷重試験に用い、荷重に対する建築物の変位量を検知するシステムに適用した例を示す図である。
【図13】励磁コイルと磁束との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 位置検知システム、2 トンネル掘削機、3 先導体、4 地表、11 回転磁界プローブ、12 コア、13,14 励磁コイル、13a,14a 溝部、15 励磁信号発生器、16 90°位相器、20 検出コイル、21 位置検出器
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁気を利用して移動体の位置を検出する位置検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
生体内のマーカーの位置検知や、非特許文献1のような通信・電力ケーブル用のパイプラインを敷設するためのトンネル掘削機の位置検知等正確な位置計測に対する要求がある。生体内のマーカーの位置検知やトンネル掘削機の位置検知などは、光学的に遮蔽されておりレーザーを使った高精度の光学式の位置計測が適用できないのが現状である。一方、電磁気を利用した計測手法は、生体内や地中など光学的に遮蔽された空間でも位置計測が可能である。
【0003】
なお、非特許文献1では、3次元磁場計測を行うため、3つの検出コイルを用い、各検出コイルで検出された微弱な信号を増幅し、磁束密度計算を行い、検出された検出コイルの起電力と計算した磁束密度から移動体の位置計測を行うようにしており、移動体の位置推定のための演算が極めて複雑である。
【0004】
また、特許文献1には、溶接線、溶接突合わせ部の位置検出に電磁気を利用した計測手法が記載されている。しかしながら、特許文献1は、溶接線、溶接突合わせ部の位置検出に関するものであり、光学的に遮蔽された空間を移動する移動体の位置検知を行うものではなく、また、検出コイルを移動体側に取り付けたものでもない。
【0005】
【非特許文献1】辻村「三次元磁界計測システムを用いたトンネル掘削装置の遠隔位置推定技術」非破壊検査、53(9)、pp.572-579(2004)
【特許文献1】特開2002−131285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、電磁気を利用して移動体の位置を容易に検出することができる位置検出システムを提供することにある。
【0007】
また、本発明の目的は、光学的に遮蔽された空間を移動する移動体の位置も電磁気を利用して容易に検知することができる位置検出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る位置検出システムは、上述の課題を解決するために、互いに直交する励磁コイルを有し、これらの励磁コイルに位相が90°ずれた励磁信号が入力される回転磁界プローブと、上記回転磁界プローブと離間して位置され、上記励磁コイルで発生した回転磁界によって起電力が発生する検出コイルとを備える。上記回転磁気プローブは、上記検出コイルに対して移動する移動体に取り付けられる。
【0009】
また、本発明に係る位置検出システムは、上述の課題を解決するために、互いに直交する励磁コイルを有し、これらの励磁コイルに位相が90°ずれた励磁信号が入力される回転磁界プローブと、上記回転磁界プローブと離間して位置され、上記励磁コイルで発生した回転磁界によって起電力が発生する検出コイルとを備える。上記検出コイルは、上記回転磁気プローブに対して移動する移動体に取り付けられている。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、互いに直交する励磁コイルに位相が90°ずれた交流の励磁電流が供給されると、これと同期する回転磁界が発生する。検出コイルは、コイル面に垂直な磁束成分を検出して起電力を発生し、起電力に応じた振幅と位相の異なる正又は負極性の信号を検出することによって、回転磁界プローブの位置信号を生成することができる。したがって、従来のように、3成分の磁束密度計算等を行う必要が無くなり、簡単なアルゴリズムで回転磁界プローブの位置検知を行うことができる。更に、回転磁界プローブは、2つのコイルで構成できることから、構成を極めて簡素化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明が適用された位置検出システムについて図面を参照して説明する。
【0012】
図1に示すように、本発明が適用された位置検知システム1は、通信ケーブル、上下水道、ガス、電力等の管埋設工事において、開削工法に代わって用いられているトンネル工法に用いられるものであって、例えば口径1mm以下のトンネルを掘削するトンネル掘削機2の位置を検出するものである。このトンネル工法は、開削工法に比べ、道路を広範に亘って通行止めに必要が無い点で優れている。
【0013】
本発明を適用した位置検出システム1では、トンネル掘削機2の先端部、すなわち掘削機能と方向修正機能を備えた先導体3の位置を検出するものである。そして、この位置検知システム1は、先導体3に取り付けられる回転磁界プローブ11と、地表4に配置されて回転磁界プローブ11の発生する回転磁界RMF(Rotating Magnetic Field)を検出する検出コイル20とを備えている。
【0014】
図2に示すように、トンネル掘削機2の先導体3に取り付けられる回転磁界プローブ11は、コア12に矩形に巻かれた2つの励磁コイル13,14を十字に組み合わせてなり、励磁コイル13,14で発生する回転磁界RMFを薄いプリントコイルの検出コイル20で検出して位置検知を行う。具体的に、各励磁コイル13,14は、矩形のコア12に形成された溝部13a,14aに巻回される。
【0015】
一方の励磁コイル13は、励磁信号発生器15より所定周波数の交流の励磁電流が供給され、他方の励磁コイル14には、90°位相器16で励磁信号発生器15からの交流の励磁電流が90°位相がずらされて供給される。これにより、回転磁界プローブ11は、各励磁コイル13,14に供給される励磁電流に同期して回転する回転磁界RMFが発生する。具体的に、図3に示すように、2つの励磁コイル13,14の巻線が重なった下面では、励磁電流に同期して方向が回転する回転磁界RMFが発生する。
【0016】
検出コイル20は、励磁コイル13,14の巻線の重なった面と平行に配置されるものであり、回転磁界RMF中検出コイル20のコイル面に垂直な磁束成分を検出して起電力を発生する。励磁コイルの電流が交流であるので、検出コイル20の起電力、すなわち誘導電流は、励磁電流と同相成分(In-phase component)と90°進成分(Quadrature component)となる。検出コイル20には、位置検出器21が接続されており、位置検出器21は、検出コイル20に発生する起電力に応じた正又は負極性の信号を検出することによって、回転磁界プローブ11の位置信号を生成する。
【0017】
具体的に、検出コイル20を、xy平面と平行に置き、回転磁界プローブ11の励磁コイル13,14の巻線の重なった平面を検出コイル20のコイル面と平行にして、回転磁界プローブ11をxy平面に平行に移動させたときを説明する。回転磁界プローブ11が検出コイル20の中心上に位置した場合には、検出コイル20は、回転磁界RMFの中心に位置することとなる。したがって、図4に示すように検出コイル20が回転磁界RMFの中心に位置すると、検出コイル20の中心を対称として検出コイル20を鎖交する磁束の垂直成分の向きが正負対称となり、検出コイル20には起電力が発生しない。なお、図4中の矢印は、検出コイル面に垂直な磁束成分の大きさと向きを表す。
【0018】
そして、回転磁界プローブ11をx軸上を移動させ、図5(A)に示すように、回転磁界プローブ11が検出コイル20の中心より左側に位置すると、検出コイル20に鎖交する磁束の垂直成分は負方向の磁束成分が多くなり、検出コイル20に起電力efmが発生し負極性の位置信号が位置検出器21で得られることになる。一方、回転磁界プローブ11が検出コイル20の中心より右側に位置すると、図5(B)に示すように、検出コイル20に鎖交する磁束の垂直成分の正方向が多くなり、検出コイル20に正極性の位置信号が位置検出器21で得られることになる。このように、位置検出器21では、検出コイル20の中心で位置信号が零となり左右対称の極性の異なる差動信号が得られることで、回転磁界プローブ11の位置信号を生成することができる。
【0019】
次に、回転磁界プローブ11がy軸上を移動した場合には、検出コイル20の中心で左右極性の異なる差動信号を得ることができるが、励磁電流に同期した回転磁界であるので、回転磁界プローブがx軸上を移動した場合とは90°位相の異なる位置信号が得られることになる。かくして、位置検出器21では、回転磁界プローブ11のxy平面上の位置に応じて振幅と位相が異なる位置信号を得ることができ、回転磁界プローブ11の位置検知を行うことができる。
【0020】
トンネル掘削機2の先導体3の位置検知は、光学的に遮蔽された、すなわち地中を移動する先導体3の位置検知であるから、検出コイル20は、図6に示すように、格子状に複数設けられることで、地表4の広範囲に亘って配置される。図6では、回転磁界プローブ11の大きさに対応させて3×3個の検出コイル20を1組としている。各検出コイル20は、回転磁界RMFを検出しているので、位置検出器21では、3×3個の検出コイル20を1組として、図7の信号条件を満たす検出コイル20の組の位置を検索することによって、回転磁界プローブ11の位置の概略位置を検知することができる。図7の信号条件を満たす検出コイル20の組以外の検知コイル20では、回転磁界RMFを検出しないことから、位置信号は出力されないことになる。そして、位置検出器21は、概略の位置を検知した後で対をなす検出コイル20の位置信号から補間計算を行って正確な位置検知を行うことができる。
【0021】
そこで、次のような実験を行った。位置検知の実験に用いた回転磁界プローブ11の励磁コイル13,14は、1層巻きの矩形コイルであり、その寸法は、幅30mm、長さ40mm、高さ30mmである。また、検出コイル20は、薄いプリントコイルであり、その寸法は、外径5mm、厚さ0.1mmである。また、試験周波数を、10kHzとし、回転磁界プローブ11と検出コイル20との相対距離を20mmで一定とした。
【0022】
そして、xy平面の原点に検出コイル20を平行に置き、2つの励磁コイル13,14の巻線が重なった面がxy平面と平行となるように移動させた。検出コイル20は、磁束密度のz成分を検出して起電力を発生する。励磁コイル20がy=0でx軸上を移動したときに得られる検出コイル20からの位置信号が同相成分のみとなる様に位相の調整をはじめに行った。
【0023】
検出コイル20をxy平面の原点に置き、回転磁界プローブ11が−15mmから+15mmまでの範囲を、x軸を0°、y軸を90°として、0°、45°、90°、135°方向に移動した場合の検出コイル20起電力の変化を観測した。なお、励磁コイル13,14の巻線の重なった面の一辺が30mmであるので、移動範囲を±15mmとした。
【0024】
次に、検出コイル20を格子状に配置した場合の位置検知を模擬して、回転磁界プローブ11を固定して単一の検出コイル20を−50mmから+50mmの範囲を10mm間隔でxy方向に移動させて、位置検知の実験を行った。±50mmの範囲を10mm間隔としたので、検出コイル20を11×11個の格子状に配置したこととなる。
【0025】
ここで、図8乃至図11は、検出コイル20をxy平面の原点に置き、回転磁界プローブ11が移動したときの検出コイル20の信号変化を示す。図8(A)及び図8(B)は、0°方向、すなわちx軸上を移動した場合、図9(A)及び図9(B)は、45°方向、図10(A)及び図10(B)は、90°方向、すなわちy軸上を移動した場合、図11(A)及び図11(B)は、135°方向をそれぞれ示す。図8乃至図11より、回転磁界プローブ11の位置に応じて信号の同相成分(In-phase component)と90°進相成分(Quadrature component)が変化していることが分かる。
【0026】
以上の結果を踏まえ、原点を中心にxy方向10mm間隔で検出コイル20からの位置信号の各成分の符号について考えると、図7が得られる。すなわち、ある検出コイル20を中心に前後左右斜めの3×3個の検出コイル20の位置信号が図7の条件を満たす位置に回転磁界プローブ11が位置していることとなる。
【0027】
11×11個に格子状配置された検出コイル20の内3×3個の検出コイル20を1組として図8乃至図11に示した検出信号の条件を満たしているかを検索して回転磁界プローブ11の位置検知を行った結果を表1に示す。表より、今回の条件下で概ね良好に位置検知が行えていることが分かる。
【0028】
【表1】
【0029】
以上のように構成された本発明が適用された位置検知ステム1によれば、回転磁界プローブ11が検出コイル20の中心に位置したとき、位置信号は零となり、検出コイル20の中心より移動すると符号の異なる差動信号が得られる。ここで、検出コイル20は、回転磁界を検出しているので、差動信号の振幅と位相は、回転磁界プローブ11の位置に応じて異なることになる。位置検出器21では、検出コイル20からの信号の変化を検出することによって、回転磁界プローブ11の位置を検出することができる。そして、従来のように、3成分の磁束密度計算等を行う必要が無くなり、簡単なアルゴリズムで回転磁界プローブ11の位置検知を行うことができる。更に、回転磁界プローブ11は、2つのコイルで構成できることから、構成を極めて簡素化することができる。
【0030】
なお、以上、本発明が適用された位置検出システムとして、トンネル掘削機2の先導体3の位置検知を例に取り説明したが、本発明は、光学的に遮蔽された空間を移動する移動体の位置検知でなくても良い。また、光学的に遮蔽された空間を移動する移動体の位置検知の場合であれば、例えば、上述の地下のパイプラインの敷設工事の他に、生体内のマーカーの位置検知に適用することができる。
【0031】
また、以上の例では、回転磁界プローブ11をトンネル掘削機2の先導体3、すなわち移動体側に配置し、回転磁界を発生しながら移動する移動体の位置検出を、地表にある固定側の検出コイル20の信号変化によって検出する場合を説明したが、本発明は、これとは逆に、回転磁界プローブ11を固定側に配置し、検出コイル20を移動体に取り付けるようにしても良い。例えば、図12に示すように、建築物の荷重試験の際、梁、柱等の変位量を検知する場合に用いることができる。この場合、検出コイル20を建築物30の例えば梁31に取り付け、回転磁界プローブ11を検出コイル20に対して平行に離間配置する。そして、建築物31に荷重Lを加えると、梁31等が変位し、回転磁界プローブ11との相対位置が変化する。この際の検出コイル20から出力される位置信号の変化によって、建築物30の変位量を検知することができる。
【0032】
なお、検出コイル20を移動体側に取り付けた場合についても、図12の例に限定されるものではない。
【0033】
また、以上の例に用いる回転磁界プローブ11において、図13に示すように、励磁コイル13,14のそれぞれは、全体に亘って巻線数が同じであると、コイルの両側で磁束φが弱くなる傾向にある(図13中点線で示す)。そこで、励磁コイル13,14のそれぞれは、磁束φが一様になるように、両端部及びその近傍で巻線数を増やしても良い(図13中実線)。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明が適用されたトンネル掘削機の位置検知システムを示す斜視断面図である。
【図2】本発明が適用された位置検知システムの構成を示す図である。
【図3】励磁コイル巻線下面における回転磁界を示す図である。
【図4】検出コイルが回転磁界中心に位置した場合を示す検出コイルの平面図である。
【図5】(A)は、検出コイルが回転磁界中心より左にずれて位置した場合を示す検出コイルの平面図であり、(B)は、検出コイルが回転磁界中心より右にずれて位置した場合を示す検出コイルの平面図である。
【図6】検出コイルを格子状に配置した例を示す平面図である。
【図7】検出コイルから出力される位置信号の符号を示す図である。
【図8】検出コイルをxy平面の原点に置き、回転磁界プローブが0°方向、すなわちx軸上を移動した場合の検出コイルの信号変化を示す図である。
【図9】検出コイルをxy平面の原点に置き、回転磁界プローブが45°方向を移動した場合の検出コイルの信号変化を示す図である。
【図10】検出コイルをxy平面の原点に置き、回転磁界プローブが90°方向、すなわちy軸上を移動した場合の検出コイルの信号変化を示す図である。
【図11】検出コイルをxy平面の原点に置き、回転磁界プローブが135°方向を移動した場合の検出コイルの信号変化を示す図である。
【図12】本発明を建築物の荷重試験に用い、荷重に対する建築物の変位量を検知するシステムに適用した例を示す図である。
【図13】励磁コイルと磁束との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 位置検知システム、2 トンネル掘削機、3 先導体、4 地表、11 回転磁界プローブ、12 コア、13,14 励磁コイル、13a,14a 溝部、15 励磁信号発生器、16 90°位相器、20 検出コイル、21 位置検出器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する励磁コイルを有し、これらの励磁コイルに位相が90°ずれた励磁信号が入力される回転磁界プローブと、
上記回転磁界プローブと離間して位置され、上記励磁コイルで発生した回転磁界によって起電力が発生する検出コイルとを備え、
上記回転磁気プローブは、上記検出コイルに対して移動する移動体に取り付けられることを特徴とする位置検知システム。
【請求項2】
上記移動体は、光学的に遮蔽された空間を移動し、
上記検出コイルは、上記移動体の移動空間の表面に配置されることを特徴とする請求項1記載の位置検知システム。
【請求項3】
上記検出コイルは、上記移動体の移動空間の表面に格子状に複数配置されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の位置検知システム。
【請求項4】
互いに直交する励磁コイルを有し、これらの励磁コイルに位相が90°ずれた励磁信号が入力される回転磁界プローブと、
上記回転磁界プローブと離間して位置され、上記励磁コイルで発生した回転磁界によって起電力が発生する検出コイルとを備え、
上記検出コイルは、上記回転磁気プローブに対して移動する移動体に取り付けられていることを特徴とする位置検知システム。
【請求項1】
互いに直交する励磁コイルを有し、これらの励磁コイルに位相が90°ずれた励磁信号が入力される回転磁界プローブと、
上記回転磁界プローブと離間して位置され、上記励磁コイルで発生した回転磁界によって起電力が発生する検出コイルとを備え、
上記回転磁気プローブは、上記検出コイルに対して移動する移動体に取り付けられることを特徴とする位置検知システム。
【請求項2】
上記移動体は、光学的に遮蔽された空間を移動し、
上記検出コイルは、上記移動体の移動空間の表面に配置されることを特徴とする請求項1記載の位置検知システム。
【請求項3】
上記検出コイルは、上記移動体の移動空間の表面に格子状に複数配置されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の位置検知システム。
【請求項4】
互いに直交する励磁コイルを有し、これらの励磁コイルに位相が90°ずれた励磁信号が入力される回転磁界プローブと、
上記回転磁界プローブと離間して位置され、上記励磁コイルで発生した回転磁界によって起電力が発生する検出コイルとを備え、
上記検出コイルは、上記回転磁気プローブに対して移動する移動体に取り付けられていることを特徴とする位置検知システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−139706(P2007−139706A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−337080(P2005−337080)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年8月22日、23日 平成17年電気学会基礎・材料・共通部門大会において「電磁誘導プローブによる2次元位置検地について」に発表
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年8月22日、23日 平成17年電気学会基礎・材料・共通部門大会において「電磁誘導プローブによる2次元位置検地について」に発表
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
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