説明

低い仕事関数の陽極を有する電界発光素子

【課題】本発明は多量のキャリアを低い駆動電圧で電極から注入できる有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】
本発明は陽極物質を含む陽極;陰極物質を含む陰極;及び前記陽極と前記陰極の間の少なくとも一つの層を含み、前記陽極物質が前記陰極物質の仕事関数と実質的に同一であるか、それ未満の仕事関数を有することを特徴とする電界発光素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はディスプレイ技術に関する。特に、本発明は有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光または有機電界発光は、例えば、電流が有機化合物の内部過程によって可視光に転換されるものである。有機化合物の蛍光性または燐光性は電流印加により発光する。有機蛍光性及び燐光性分子はともに有機発光化合物と呼ばれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
有機発光または電界発光素子は一般に2個の対向電極と両電極間に挿入された1つ以上の層で構成されている。両電極間の1つ以上の層は1つ以上の有機発光化合物を含んでいる。電子と正孔は、一纏めにしてキャリアと呼ばれ、両電極から前記の層に注入され、両電極とは陰極と陽極である。適切な電力の印加により、陰極は前記の挿入層に電子を注入し、陽極はこの層に正孔を注入する。
【0004】
有機電界発光素子の性能は多くの因子の中で電極から注入されるキャリアの量に依存する。より多くのキャリアが注入されるほど、より高い発光または輝度を有する可能性が大きい。多量のキャリアを低い駆動電圧で電極から注入するために、キャリアがそれから容易に注入される電極用物質を選択する。陽極は一般に高い仕事関数を有する物質で形成される。陰極は一般に低い仕事関数を有する物質で形成される。単一電界発光素子で、陽極物質の仕事関数は陰極物質の仕事関数より高い。
【0005】
また、多量のキャリアを低い駆動電圧で電極から注入するために、キャリア注入層を導入することができる。前記キャリア注入層は電極からキャリアの注入を促進させる。正孔注入層は陰極と対向する陽極の一面上に形成することができる。電子注入層は陽極と対向する陰極の一面上に形成することができる。キャリア注入層用物質もまた、キャリア注入層が電極から容易にキャリアを受容するように選択される。前記正孔注入層は一般に低い電位で容易に酸化される低い酸化電位を有する物質で形成される。前記電子注入層は一般に低い電位で容易に還元される低い還元電位を有する物質で形成される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態によれば、前記電界発光素子の構成要素には;陽極物質を含む陽極;陰極物質を含む陰極;及び前記陽極と前記陰極の間の少なくとも一つの層を含み、前記陽極物質が前記陰極物質の仕事関数と実質的に同一であるか、それ未満の仕事関数を有する。前記陽極物質及び前記陰極物質が同一であることを特徴とする、請求項1に記載の素子。前記少なくとも一つの層が一般式Iの化合物を含む:
【化1】

前記少なくとも一つの層が一般式Iaの化合物を含む:
【化2】

【0007】
他の実施形態によれば、前記電界発光素子は: 前記実質的反射物質は仕事関数が4.5eV以下の実質的に伝導性物質であり;前記陰極が伝導性物質で実質的に構成され;前記機能性層が前記陽極と陰極との間に位置する少なくとも一つの発光層;及び、その一つの面で前記陽極または陰極の一方に接触し、前記少なくとも一つの発光層に向いているバッファー層を含み、前記陽極は前記少なくとも一つの発光層に向かって正孔を注入するように配列されるが、前記陰極は前記少なくとも一つの発光層に向かって電子を注入するように配列され;前記バッファー層は少なくとも一つの実質的に非-伝導性である物質で構成される。前記バッファー層は陽極と接触する。前記陽極はアルミニウムを含み、前記バッファー層はアルミニウム酸化物を含む。前記素子は前記バッファー層と前記少なくとも一つの発光層の間に位置する正孔注入層を含み、前記正孔注入層は前記定義した一般式Iの化合物を含む。前記素子は前記陰極と接触し、前記陰極と前記少なくとも一つの発光層の間に位置する他のバッファー層を追加的に含む。前記バッファー層は正孔を通過させるのに十分な実質的に薄い厚さを有する。前記バッファー層は約5Åから約40Åまでの厚さを有する。前記バッファー層は約10Åから約20Åまでの厚さを有する。
【0008】
前記素子において、前記少なくとも一つの実質的に非-伝導性である物質はアルミニウム酸化物、チタニウム酸化物、亜鉛酸化物、ルテニウム酸化物、ニッケル酸化物、ジルコニウム酸化物、タンタル酸化物、マグネシウム酸化物、カルシウム酸化物、ストロンチウム酸化物、バナジウム酸化物、イトリウム酸化物、リチウム酸化物、セシウム酸化物、クロム酸化物、シリコン酸化物、バリウム酸化物、マンガン酸化物、コバルト酸化物、銅酸化物、プラセオジム酸化物、タングステン酸化物、ゲルマニウム酸化物、カリウム酸化物、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、メタホウ酸リチウム(BiBO)、珪酸カリウム(KSiO)、シリコン-ゲルマニウム酸化物、チタン酸バリウム、タンタル酸リチウム(LiTaO)、窒化ケイ素(SiN)、窒化ホウ素(BN)、元素周期律表の3族と4族に属する元素の窒化物、硫化亜鉛(ZnS)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、燐化ガリウム(GaP)、及び窒化ガリウム(GaN)からなる群より選択される。
【0009】
また他の実施形態によれば、前記電界発光素子は:前記機能性層が、陽極;陰極;前記陽極と陰極との間に位置し、前記陽極と接触する陽極接触層;前記陽極と陰極との間に位置し、前記陰極と接触する陰極接触層;及び前記陽極接触層及び前記陰極接触層のうちの少なくとも一つの層内で仮想電極を形成するための手段を含む。
【0010】
本発明の他の側面は、多様な電子ディスプレイを提供する。前記ディスプレイは前記多様な実施形態による電界発光素子を含む。前記ディスプレイは前記電界発光素子に連結された電子回路を追加的に含む。
【0011】
本発明の他の側面は、下記段階を含む電子素子の作動方法を提供する:陽極、陰極、及び前記陽極と陰極との間に機能性層を含み、前記機能性層は前記陽極と機能性層との間に位置する介在層または前記陽極との界面を有する電子素子を提供する段階;前記陽極と陰極との間に順方向電界を印加する段階;ここで、電子は前記陽極から前記機能性層内に注入され、界面近くの領域内に実質的に滞留することによって仮想陰極を形成する。
【0012】
前記方法で、前記順方向電界を継続して印加することによって前記陽極から前記機能性層内に正孔注入を促進させる。前記順方向電界を継続して印加することによって前記機能性層内で陰極方向に正孔移送を促進させる。前記機能性層は(低)還元電位、(低)電子移動度、(高)正孔移動度を有する物質を含む。前記機能性層は前記一般式Iの化合物を含む。前記機能性層は前記一般式Iaの化合物を含む。前記機能性層は還元電位の範囲が約-0.4乃至約0Vである少なくとも一つの化合物を含む。前記機能性層は還元電位が約-0.3乃至約0Vである少なくとも一つの化合物を含む。前記陽極は仕事関数が約3.5乃至約4.5eV範囲である少なくとも一つの物質を含む。前記機能性層はその中での電子移動度が約10-5cm/V.sより低い、少なくとも一つの化合物を含む。前記機能性層はその中での電子移動度が約10-10乃至約10-6cm/V.sである少なくとも一つの化合物を含む。前記機能性層はその中での正孔移動度が約10-4cm/V.sより高い、少なくとも一つの化合物を含む。前記機能性層はその中での正孔移動度が約10-4乃至約1cm/V.sである少なくとも一つの化合物を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の様々な側面について以下でより詳細に説明する。本明細書の技術から当業者は本明細書に技術された発明を変更して本発明の有利な効果が得られると理解されるべきである。したがって、以下の技術は広い範囲のものであり、適切な技術分野の当業者に教示するもので、本発明を制限するわけではない。以下の技術で利用される表題は一般的に論議される内容を言及するためのものであり、論議内容を定義したり限定するわけではない。
【0014】
有機EL素子の構成
本発明の様々な実施形態による有機EL素子は多様な方式で構成することができる。有機EL素子の一般的な構成は、対向する2個の電極とこの両電極の間に挿入された一つ以上の機能性層を含む。用語“層”とは一つの物質または二つ以上の物質の混合物のデポジット、コートまたはフィルムを意味する。図1〜6は本発明の多様な側面を実現することができる有機EL素子の例証的な断面構成を示す。前記図面において、同一な図面符号が層または構成成分を指すのに使用される。これら諸構成は本発明による有機EL素子の仕残しのない変形ではないことを注目すべきである。
【0015】
図示された有機EL素子10は基板1、陽極3、陰極15及び前記陽極3と前記陰極15の間に配置された一つ以上の機能性層を有する。前記一つ以上の介在機能性層は正孔注入層5、正孔移送層7、発光層9、電子移送層11、電子注入層13と、二つ以上の前記層が持つ機能を有する多機能性層を含む。前記多機能性層の不十分な一覧表でも、正孔注入及び正孔移送機能を有する層、正孔注入及び発光機能を有する層、正孔注入と正孔移送及び発光機能を有する層、電子注入及び電子移送機能を有する層、電子移送及び発光機能を有する層、電子注入、電子移送及び発光機能を有する層などを含む。
【0016】
前記基板1(図1〜6)は有機EL素子10の積層構造を支持する。図面には基板1が陽極3の側に配置されていることを示しているが、基板1は陰極15の側に配置してもよい。いずれの場合でも、基板1は有機EL素子の積層構造を構成できる支持体を提供する。陽極3(図1〜6)及び陰極15(図1〜6)はスイッチ19(図6)を経て電源17(図1〜6)に電気的に連結され、スイッチはコントローラ(図示せず)によって制御される。図示してはいないが、電極3及び15の一方または両方を多重層で形成することができ、これはいわゆる“バッファー層” と呼ばれる非-伝導性層を含んでも含まなくてもよい。正孔注入層5(図1〜3)は陽極3から正孔移送層7(図1〜5)内への正孔注入を促進させる。これと同様に、電子注入層13(図1及び4)は陰極15から電子移送層13内への電子注入を促進させる。正孔移送層7は陽極3及び/または正孔注入層5から発光層9(図1〜6)に向かう正孔の移動を加速する。電子移送層11(図1、2、4及び5)は陰極15及び/または電子注入層13から発光層9(図1〜6)に向かう電子の移動を加速する。機能性層及び有機EL素子の他の特徴に関しては、2002年3月14日出願、米国特許出願第10/099,781号の米国特許出願公報第___号、及び2003年5月6日出願、米国特許出願第10/431,349号の米国特許出願公報第___号を参照し、これら公報は本願に参考として全体的に統合される。
【0017】
前記電極3及び15との間に適切な電圧を印加すれば、電子及び正孔が陰極15及び陽極3から各々介在層内に注入される。前記正孔及び電子は介在層内発光分子に移動して再結合する。再結合された電子と正孔の対、つまり、励起子は再結合エネルギーをそれらが再結合した所である発光分子に伝達する。あるいは、励起子は短時間移動して再結合エネルギーを他の発光分子、特にそれらが再結合した発光分子より小さい帯域間隙を有する発光分子に伝達する。伝達されたエネルギーは発光分子の原子価電子を励起させるのに利用され、これは電子が底状態に戻れば光子を生成する。
【0018】
一般式Iの化合物を使用する有機EL素子
本発明の一つの側面は二つの対向する電極3及び15の間に位置する一つ以上の機能性層内に一般式Iで示される少なくとも一つの化合物を含有する有機EL素子を提供する。
【化3】

前記式で、
R1-R6は独立的に水素、ハロ、ニトリル(-CN)、ニトロ(-NO)、スルホニル(-SOR)、スルホキシド(-SOR)、スルホンアミド(-SONR)、スルホン酸塩(-SOR)、トリフルオロメチル(-CF)、エステル(-CO-OR)、アミド(-CO-NHRまたは-CO-NRR’)、直鎖または分枝(置換または非置換)C-C12アルコキシ、直鎖または分枝(置換または非置換)C-C12アルキル、芳香族または非-芳香族(置換または非置換)複素環、置換または非置換アリール、モノ-またはジ-(置換または非置換)アリール-アミン、及び(置換または非置換)アルキル-(置換または非置換)アリール-アミンで構成される群より選択される。前記置換基で、R及びR’は、例えば、置換または非置換C-C60アルキル、置換または非置換アリール、置換または非置換5-7員複素環である。前記置換されたC-C60アルキル、アリール及び複素環は一つ以上のアミン、アミド、エーテル及びエステル基で任意で置換される。あるいは、R1-R6は置換または非置換電子求引型置換基から独立的に選択され、このことは当業者であればよく理解できる。前記アリール基はフェニル、ビペニル、テルフェニル、ベンジル、ナフチル、アントラセニル、テトラセニル、ペンタセニル、ペリレニル及びコロネニルを含み、これらは単一的または多重的に置換され、または置換されない。
【0019】
一般式I化合物の非-制限的な例は下記の一般式Ia乃至一般式Ifである。
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【0020】
一般式Iの他の例、そのような化合物の合成及び様々な特徴が米国特許出願第US2002/0158242A1号及び米国特許出願第6436559号及び第4780536号に追加的に開示されており、これら文献は全て参考として本願に全体的に統合される。
【0021】
本発明の一つの実施形態で、有機EL素子10は一般式Ia-Ifの化合物を少なくとも一つ含む。任意で、前記一般式Ia-Ifの少なくとも一つの化合物は一般式Iの化合物またはその他の化合物一つ以上と組合わせられたり単独で前記層のうちのある一層内に含まれる。任意で、前記一般式Iaの化合物は一般式Iで示されたり示されないその他の化合物一つ以上と組合わせられたり単独で前記有機EL素子10の前記層のうちの少なくとも一つの層内に含まれる。
【0022】
一般に、一般式Iの化合物は有機EL素子10の機能性または多機能性層のうちのある一つの層内に使用することができる。任意で、前記化合物は一般式Ia-Ifのものである。任意で、一般式Iで示される一つ以上の化合物が陽極3と接触する層のうちのある一つの層内に含まれる。一つの実施形態で、有機EL素子は図1〜3に示すように正孔注入層5を含み、一般式Iで示される少なくとも一つの化合物が前記正孔注入層5内に含まれる。任意で、前記正孔注入層は実質的に他の物質を含まない一般式Iで示される少なくとも一つの化合物で形成される。替わりに、前記正孔注入層は一つ以上の他の物質と組合わせられ、一般式Iで示される少なくとも一つの化合物で形成される。
【0023】
他の実施形態で、有機EL素子は図1〜5に示すように正孔移送層7を含み、一般式Iで示される少なくとも一つの化合物が前記正孔移送層7内に含まれる。任意で、前記化合物は一般式Ia-Ifのものである。任意で、前記正孔移送層は実質的にその他の物質を含まなかったり、一つ以上のその他の物質と組合わせられて少なくとも一つの一般式Iの化合物で形成される。他の実施形態で、前記有機EL素子は正孔注入及び正孔移送を含む機能をする層を含み、このような多機能性層は一般式Iで示される少なくとも一つの化合物を含む。前記多機能性層は実質的にその他の物質を含まなかったり、一つ以上のその他の物質と組合わせられ、少なくとも一つの一般式Iの化合物で形成される。
【0024】
仮想電極
本発明の他の側面は有機EL素子を含む電子素子の作動において仮想電極の形成に関する。用語“仮想電極”とは実物電極の概念に基づいて、あたかも電極のように見える電子素子の内部領域における荷電キャリアの蓄積を意味する。前記仮想電極は実際に電極からキャリアの注入を増進または促進させる。
【0025】
仮想電極の形成について図7の有機EL素子16の例証的な構造を参照して論議する。このような論議はEL素子に関するものであるが、仮想電極は有機EL素子においての固有な現象でなく、その他の任意の電子素子においても起こることができる。前記有機EL素子16は互いに対向するように位置する陽極3及び陰極15を含む。それぞれの電極3及び15は電源17に制御スイッチ19を経由して連結されている。第1層21及び第2層23が前記対向する電極3及び15の間に挿入される。前記第1層21及び第2層23のうちの少なくとも一つの層が発光物質を含む。
【0026】
本発明が作動する理由について任意の理論に拘らなくてもよく、一つの実施形態で、前記第1層21はその中性状態でより還元状態でさらに安定な物質で形成される。ここで、物質が自発的にその中性状態から還元状態で転換すれば、その物質は中性状態でより還元状態でさらに安定である。さらに、例えば、電子は第1層21物質内で非常に低い移動度を有する反面、正孔はその中で非常に高い移動度を有すると仮定する。前記陽極3と第1層21とが接触すれば、陽極3の自由電子が第1層21物質の還元のために第1層21に伝達される。前記物質内に低調な電子移動度のため、伝達された電子は陽極3と第1層21との間の境界27を乗り越えた後、第1層21内でほとんど移動しない。それより、伝達された電子は第1層21の側の境界27近くに留まる。したがって、陽極3から第1層21に伝達された電子は図面符号25で図示されるように境界27に沿って蓄積される。
【0027】
陽極3の概念によれば、前記境界27に沿って蓄積された電子または負電荷25は、多量の負電荷によって電子の供給源、つまり、素子の陰極が前記境界27に非常に近く位置するように見える。このような意味で、蓄積された電子25の領域を仮想電極という。スイッチ19を作動して陽極3と陰極15との間に順方向電界を加えれば、陽極3が正孔を仮想電極25に沿って第1層21に向かって注入させる。前記仮想電極の負電荷が陽極3に近接するので、陽極3から正孔の注入が促進される。第1層21内に注入された正孔は陽極からの注入運動量及び前記陽極3及び15間の順方向電界によって実際陰極15または第2層23に向かって移動する。第1層21物質の高い正孔移動度によって実際電極15または第2層23に向かって正孔移送が促進される。
【0028】
第2層23内に類似な現象が起こって陰極15と第2層23との間の境界29に沿って正孔の蓄積により仮想陽極を形成することができる。前記第2層23物質はその中性状態でより酸化状態でさらに安定な物質から選択され、その中で低い正孔移動度及び高い電子移動度を有する。正孔が陰極15から第2層23に伝達され、陰極15と第2層23との間の境界近くに蓄積される。前記蓄積された正孔は陰極15の透視図から仮想陽極のように見える。適切な電界を順方向に加えれば、陰極15が電子を第2層23内に注入させる。
【0029】
本発明の多様な実施形態により、電荷キャリアが素子の内部領域内に蓄積されて仮想電極を形成する。有機EL素子16(図7)で、例えば、第1層21は正孔注入層、正孔移送層、発光層または前述した層の機能を有する多機能成層を構成することができる。替わりに、第1層21が存在しないことがあり、陽極3が第2層23と接触する。第2層23は、例えば、正孔移送層、発光層、電子移送層、電子注入層または前述した層の一つ以上の機能を有する多機能成層を構成する。替わりに、前記第2層23が存在しないこともあり、陰極15が第1層と接触する。前記現象は一つ以上の層21及び23を有する有機EL素子について論議されるが、その他の構成の有機EL素子、例えば、陽極3と陰極15との間に二つ以上の層を有する素子に同一に適用される。
【0030】
前記仮想電極を形成する有機EL素子の前記実施形態において、第1層21はその中性状態でよりその還元状態でさらに安定な化合物を含む。任意で、そのような化合物は一般式Iで示される化合物から選択される。好ましく、第1層は一般式Iaの化合物を含む。他の実施形態で、第1層21のための化合物は約-0.6乃至約0V、好ましく約-0.2乃至約0Vの還元電位を有する。替わりに第1層21のための化合物の還元電位は約-0.3乃至約0V、任意で約-0.1乃至約0Vである。第1層21の中で電子は低い移動度を有する反面、正孔は高い移動度を有する化合物を含む。第1層21のための化合物は約10-5と同一であるかこれより低い、好ましく約10-10乃至約10-6cm/V.sの電子移動度を有する。第1層21のための化合物は10-4cm/V.sと同一であるかこれより高い正孔移動度を有する。第1層21のための化合物は約10-4cm/V.sと同一であるかこれより高い、好ましく約10-4乃至約1cm/V.sの正孔移動度を有する。
【0031】
仮想電極を形成する有機EL素子の一実施形態において、第2層23はその中性状態でよりその酸化状態でさらに安定な化合物を含む。他の実施形態で、第2層23は約0.5Vと同一であるかこれより低い酸化電位を有する第2層23化合物を含む。替わりに前記化合物の酸化電位は約0乃至約0.4V、好ましく約0乃至約0.3Vである。第2層23の中で正孔は低い移動度を有する反面、電子は高い移動度を有する化合物を含む。第2層23化合物は約10-4と同一であるかこれより低い、好ましく約10-10乃至約10-5cm/V.sの正孔移動度を有する。第2層23化合物は約10-5cm/V.sと同一であるかこれより高い、好ましく10-5乃至約1cm/V.sの電子移動度を有する。
【0032】
電極物質の仕事関数
本発明の他の側面は、陽極3内の低い仕事関数を有する物質の使用に関する。陽極物質は相対的に高い仕事関数を有する物質から選択される反面、陰極物質は相対的に低い仕事関数を有する物質から選択されると当業界に一般に知られている。しかし、本発明の実施形態によると、有機EL素子は相対的に低い仕事関数を有する物質を使用する陽極を含む。例えば、陽極物質の仕事関数は約4.5eV以下、好ましく約4.3eV以下である。他の場合には、陽極物質の仕事関数は約3.5乃至約4.5eV、好ましく約3.8乃至約4.3eVである。陽極内使用のための物質には、例えば、アルミニウム(Al、4.28eV)、銀(Ag、4.26eV)、亜鉛(Zn、4.33eV)、ニオビウム(Nb、4.3eV)、ジルコニウム(Zr、4.05eV)、錫(Sn、4.42eV)、タンタル(Ta、4.25eV)、バナジウム(V、4.3eV)、水銀(Hg、4.49eV)、ガリウム(Ga、4.2eV)、インジウム(In、4.12eV)、カドミウム(Cd、4.22eV)、ホウ素(B、4.4eV)、ハフニウム(Hf、3.9eV)、ランタン(La、3.5eV)、ニオビウム(Nb、4.3eV)、チタニウム(Ti、4.3eV)、またはこれらのうちの一つとネオジム(Nd)またはパラジウム(Pd)との合金を含む。
【0033】
相対的に低い仕事関数物質を陽極内で使用することに対する可能な非-制限的説明は、低い仕事関数の陽極物質により前記仮想電極の形成が促進されることである。図7を再び参照して、低い仕事関数の陽極3物質は、陽極3と第1層21の間に接触が形成される時に、容易に電子を第1層21に伝達する。陽極3から第1層21への電子伝達は適切な電圧の印加によって増進される。仮想電極25から第1層21内に伝達された電子は陽極3から第1層21内に前記実際陰極15に向かって正孔注入を増進させる。
【0034】
本発明の一実施形態によると、陰極物質の仕事関数は約4.5eVより低い。陰極15内使用のための物質は、例えば、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、チタニウム、インジウム、イトリウム、リチウム、ガドリニウム、アルミニウム、銀、錫、鉛、類似金属、CsF、前記金属の一つ以上を含む合金、またはLiF/AlとLiO/Alを含む前記金属一つ以上を含む多重層である。前記論議した有機EL素子の光通過構造によって、透明または不透明物質が陰極15のために使用されることができる。当業者は陰極15内で使用されることができるその他の任意の物質を認知し、適切な陰極物質を選択することができる。
【0035】
本発明の一実施形態によると、陽極3は実質的に純粋な元素物質または均一または不均一合金であり得る単一物質で形成される単層構造を有する。他の実施形態で、陽極3は非-伝導性サブ層を含んだり含まない多重サブ層を含むことができる。任意選択で、陽極物質の仕事関数に対する前記論議は陽極3の伝導性部分にのみ適用され、陽極の非-伝導性サブ層または部分には適用されない。任意選択で陽極3は一つ以上の伝導性物質サブ層を有することができる。陽極が多重伝導性物質サブ層を含む場合、陽極物質の仕事関数に対する前記論議は少なくとも一つの伝導性物質に適用される。
【0036】
本発明の他の側面は、陰極15内高い仕事関数を有する物質の使用に関する。低い仕事関数陽極と同様に、高い仕事関数陰極物質は前記仮想陽極の形成を補助する。本発明の一つの実施形態によると、有機EL素子10は高い仕事関数を有する物質を使用する陰極15を含む。例えば、陰極物質の仕事関数は約3.5eV、好ましく約4eVである。これと異なる場合には、陰極物質の仕事関数は約4.1乃至約5.0eV、好ましく約4.1乃至約4.8eVである。
【0037】
陽極反射物質
本発明の他の側面は有機EL素子の陽極3内の反射物質使用に関する。本発明による有機EL素子の一つの実施形態で、陽極は高い反射率を有する一つ以上の物質で形成される。例えば、投入された光強度に対する反射された光強度の比率である反射率は約0.2、例えば、約0.4乃至1である。陽極3内使用のための反射物質は、例えば、アルミニウム、銀、金、ニッケル、クロム、モリブデン、タンタル、チタニウム及び亜鉛を含む。任意で、前記物質は可視光の実質的に全ての波長成分に対して反射率を有する。任意で、前記物質は可視光の実質的に全ての波長成分に対して同等な反射率を有する。好ましくは、陽極反射物質は、例えば、アルミニウム、銀、白金、クロム及びニッケルである。
【0038】
本発明の一つの実施形態で、陽極3は複数のサブ層を含むことができる。任意で、陽極3は少なくとも一つの透明サブ層及び反射サブ層で形成される。前記少なくとも一つの透明サブ層は、例えば、ITO(インジウム錫酸化物)、IZO(インジウム亜鉛酸化物)、及びフルオロ化錫酸化物を含む透明物質で形成される。替わりの実施形態として、陽極3は反射物質で形成された単一層である。前記単一層構成の陽極は製造過程での単純性側面で多重サブ層構成に比べて有利である。
【0039】
頂部放射
陰極15でなく陽極3が基板1と接触する図1〜6の構成で、陽極3内反射物質の使用によって生成された光が陰極15を通じてまたは陽極3を通じない方向に放射される。図1〜6で、陰極15を通じる放射は頂部放射と呼ばれ、陽極3及び基板1を通じる放射は底部放射と呼ばれる。任意選択で、有機EL素子10は頂部放射デザインで構成することができる。頂部放射のために、陰極15は実質的に透明である。
【0040】
一つの実施形態で、実質的に透明な陰極15は一つ以上の透明伝導性物質の単一層で形成される。透明伝導性物質の例は、ITO、IZO及びフッ化錫酸化物を含む。他の場合としては、実質的に透明な陰極15が多重層(図示せず)で形成される。例えば、多重層構成の陰極15は正常状態で不透明な物質で形成された薄層及び透明物質層を含むことができる。前記正常状態で不透明な物質の薄層は有機EL物質から放射された可視光が通過できる厚さで形成される。任意選択で、前記薄層の厚さは約10Åから500Å、好ましくは、約10Åから200Åである。前記薄層内で使用するための正常状態で不透明な物質は、例えば、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、リチウム(Li)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、カリウム(K)、イトリウム(Y)、ストロンチウム(St)、ユウロピウム(Eu)、ナトリウム(Na)、ガリウム(Ga)、サマリウム(Sm)または前述した元素二つ以上の合金または混合物を含む。前記透明物質層は、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)及びフッ化錫酸化物である一つ以上の物質で形成される。前記透明物質層の厚さは約100乃至5000Åである。前記多重層構成内の陰極15は一つ以上の部が層を含む。
【0041】
制御回路の位置及び類型
有機EL素子の頂部放射デザインは一般に底部放射デザインより素子の能動マトリックス駆動にさらに適している。前記能動マトリックス駆動は、図8に例示したように基板1と陽極3との間に集積回路またはトランジスタのための層31を必要とする。底部放射デザインを有する有機EL素子においては、集積回路層31が発光化合物から放射された光を少なくとも一部ブロッキングする。しかし、頂部放射デザインは陽極3下の集積回路層31の存在により影響を受けない。頂部放射デザインは集積回路層31を形成する技術、例えば、層31の口径比に影響を与える非晶質シリコンまたはポリシリコンの使用によっても影響を受けない。
【0042】
頂部放射デザインの一つの実施形態で、有機EL素子は手動マトリックスまたは能動マトリックス回路デザインを使用する。任意選択で、頂部放射デザインは能動マトリックス回路デザインを使用する。任意選択で、能動マトリックス駆動のための集積回路は基板1と陽極3との間に位置する。任意選択で、集積回路は非晶質シリコン技術によって形成される。
【0043】
密封層
有機EL素子の特定実施形態において、基板1と陽極3との間に密封層を有して水分またはその他の汚染物質が積層構造の複雑な領域内に浸透することを防止することが有利である。そのような密封層は特に基板1を構成する物質がより透過性である場合、さらに重要である。そのような物質は、例えば、アルミニウム、アルミニウム酸化物、ストロンチウム酸化物、バリウム酸化物、シリコン酸化物、シリコン窒化物である。前記密封層は少なくとも一つの有機サブ層及び少なくとも一つの無機サブ層を含む多重層で構成することができる。有機サブ層は、例えばポリフェニルエチレン、重合されたエポキシ化合物及び/または多環式アルカンで形成することができる。無機サブ層は、例えばシリコン窒化物、シリコン酸化物及び/またはバリウム酸化物で形成することができる。実質的に非透過性または半-透過性である物質、また、陽極物質として使用することができる場合には、陽極3自体が密封層を形成する。したがって、別途の密封層が形成される必要はない。本発明の一つの実施形態で、陽極3はアルミニウム、アルミニウム-ネオジム合金またはアルミニウム-パラジウム合金で形成され、これはまた、密封層として機能する。密封層としても機能する陽極3は基板1と陽極3との間に集積回路層31が介在したり介在せずに任意の適切な基板物質と共に使用される。
【0044】
非伝導性陽極サブ層
本発明の任意の有機EL素子実施形態において、陽極3及び陰極15のうちの一方または両方を多重サブ層で形成できる。図9を参照すると、例えば、図示された有機EL素子の陽極3は伝導性サブ層33及び非-伝導性サブ層35を含む。二つのサブ層において示されるとしても、陽極3は二つより多くのサブ層を有することができる。図示のように、非-伝導性サブ層35は、正孔注入層5と伝導性サブ層33との間に位置し、 陰極15に向かう側で陽極3に接触する。前記積層陽極構造における正孔注入層5は正孔移送層7(図4及び5)、発光層9(図6)、または多機能成層(図示せず)で代替することができる。他方、前記非-伝導性サブ層35は、陽極3に接触する層5、7または9と陽極3との間に挿入された別個の層と見なすことができる。
【0045】
別個層と見なされる非-伝導性サブ層35はバッファー層と呼ばれる。その名称と関係なく、前記非-伝導性サブ層、別名、バッファー層35は伝導性サブ層33(または陽極3)と陽極3に接触する層5、7または9との間の界面強度を向上させるように形成される。前記非-伝導性サブ層、別名、バッファー層35はまた、伝導性サブ層33から非-伝導性サブ層35に接触する層5、7または9内への正孔注入のためのエネルギー障壁を下げるように援助する。一つの実施形態で、非-伝導性サブ層またはバッファー層35は一つ以上の無機物質で形成される。任意選択で、バッファー層のための物質は、例えば、アルミニウム酸化物、チタニウム酸化物、亜鉛酸化物、ルテニウム酸化物、ニッケル酸化物、ジルコニウム酸化物、タンタル酸化物、マグネシウム酸化物、カルシウム酸化物、ストロンチウム酸化物、バナジウム酸化物、イットリウム酸化物、リチウム酸化物、セシウム酸化物、クロム酸化物、シリコン酸化物、バリウム酸化物、マンガン酸化物、コバルト酸化物、銅酸化物、プラセオジム酸化物、タングステン酸化物、ゲルマニウム酸化物、カリウム酸化物、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、メタホウ素リチウム(BiBO)、珪酸カリウム(KSiO)、シリコン-ゲルマニウム酸化物、チタン酸バリウム、タンタル酸リチウム(LiTaO)、窒化ケイ素(SiN)、窒化ホウ素(BN)、元素周期律表の3族と4族に属する元素の窒化物、硫化亜鉛(ZnS)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、燐化ガリウム(GaP)、及び窒化ガリウム(GaN)及び前出物質の二つ以上の組み合わせを含む。
【0046】
素子の製造
本発明の有機EL素子の多様な層はスパッタリング、電子ビーム蒸着、その他の類型である物理蒸着(Pysical Vapor Deposition)、化学蒸着(Chemical Vapor Deposition)、スピンコーティング、ディップコーティング、ドクターブレード、インクジェットプリンティング、スクリーン-プリンティング、ロール-コーティング及び熱伝達を含む任意のフィルム形成技術を利用して製造することができる。このような技術は一般に下記文献に記載されており、これら文献は本願に参照して全体的に統合される:Applied Physic Letters, 73, 18, 1998, 2561-2563; Applied Physics Letters, 78, 24, 2001, 3905-3907。当業者は層形成のための条件及び環境下における適切なフィルム形成技術を理解するであろう。
【0047】
[実施例]
本発明の多様な側面及び特徴が以下の実施例を通じて追加的に論議される。下記の実施例は本発明の多様な側面及び特徴を例示するためのものであり、本発明の範囲を制限するわけではない。
【0048】
実施例1
ガラス基板(Corning7059)を約1300Åインジウム錫酸化物(ITO)でコーティングし、Fisher Co.の洗浄剤水溶液内で超音波洗浄した。洗浄されたITO層状基板を乾燥させ、プラズマ洗浄装置に移動させた。基板をアルゴン-酸素(2:1)プラズマで50Wで14mtorrで5分間追加洗浄した。その後、基板を真空蒸着チャンバーに移動させた。
【0049】
約100Åのアルミニウム層をITO層上に熱真空蒸着して半透明アルミニウム陽極を形成した。前記アルミニウム層を大気圧下に5分間酸素気体に露出させ、約20Åのアルミニウム酸化物層を形成した。一般式Iaの化合物(ヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレンまたはHAT)の正孔注入層を熱真空蒸着によって約500Åでアルミニウム酸化物層上に形成させた。前記正孔注入層上に、正孔移送層を熱真空蒸着によってNPBを利用して約400Åで形成させた。前記正孔移送層上に、発光層を熱真空蒸着によってAlqを利用して約300Åで形成した。前記発光層上に、電子移送層を熱真空蒸着によって一般式IIの化合物(2-[4-[(N-フェニルベンズイミダゾール-2-イル)フェニル-9,10-ビス(2-ナフチル)アントラセン]を利用して約200Åで形成した。陰極形成のために、約10Åのフッ化リチウム(LiF)層を前記電子移送層上に形成した後、約2500Åのアルミニウム層を追加的に蒸着した。蒸着する間に、蒸着チャンバー内の圧力を5-8×10-7torrに維持した。有機物質を1Å/secの速度で蒸着した。フッ化リチウムを0.3Å/secの速度で蒸着し、アルミニウムを3-7Å/secの速度で蒸着した。
【化10】

結果的な有機EL素子の積層構造は“ガラス基板/ITO(1300Å)/Al(100Å)/AlO(20Å)/HAT(500Å)/NPB(400Å)/Alq(300Å)/一般式II(200Å)/LiF(10Å)/Al(2500Å)”の通りであった。5.17Vの順方向電界を得られた素子に加えた時、500nit明るさの発光が半透明アルミニウム層を通じて観察された。発光色は1931 CIE 色座標でx=0.4460、y=0.550で確認された。作動中の電流密度は50mA/cmであった。
【0050】
実施例2
ITO層を形成せず、AlO層も形成しないことを除いては、実施例1と同様な方法で素子を製作した。得られた構造は“ガラス基板/Al(100Å)/HAT(500Å)/NPB(400Å)/Alq(300Å)/一般式II(200Å)/LiF(10Å)/Al(2500Å)”であった。
【0051】
5.0Vの順方向電界を得られた素子に加えた時、1,010nitの発光が、半透明アルミニウム層を通じて、観察された。発光色は1931 CIE 色座標でx=0.417、y=0.534で確認された。作動中の電流密度は50mA/cmであった。
【0052】
比較例1
HAT正孔注入層を形成しないことを除いて、実施例1と同一な方式で素子を製作した。得られた素子の構造は“ガラス基板/ITO(1300Å)/Al(100Å)/AlO(20Å)/NPB(400Å)/Alq(300Å)/一般式II(200Å)/LiF(10Å)/Al(2500Å)”であった。20Vの順方向電界を前記素子に加えた時、発光は観察されなかった 。順方向電界を印加する間の電流密度は0.1mA/cm未満であった。
【0053】
比較例2
ITOとNPBとの間にアルミニウム及びアルミニウム酸化物層を形成しなかったことを除いては、実施例1と同一な方式で素子を製作した。結果構造は“ガラス基板/ITO(1300Å)/HAT(500Å)/NPB(400Å)/Alq(300Å)/一般式II(200Å)/LiF(10Å)/Al(2500Å)”であった。5.37Vの順方向電界を得られた素子に加えた時、1931 CIE 色座標でx=0.345、y=0.553に相当する緑色発光が観察された。作動中の電流密度は50mA/cmであった。100mA/cm一定の直流電流密度で、初期輝度3399nitが80%水準に落ちるまでかかる時間は23時間であった。
【0054】
実施例5
アルミニウム及びアルミニウム酸化物の代りに100Å厚さの銀を半透明陽極として形成したことを除いては、実施例1と同一な方式で素子を製作した。得られた素子の構造は“ガラス基板/ITO(1300Å)/Ag(100Å)/HAT(500Å)/NPB(400Å)/Alq(300Å)/一般式II(200Å)/LiF(10Å)/Al(2500Å)”であった。5.1Vの順方向電界を得られた素子に加えた時、1931 CIE 色座標でx=0.420、y=0.516に相当する800nit明るさの発光が観察された。作動中の電流密度は50mA/cmであった。
【0055】
実施例6
ITO層を形成しないことを除いては、実施例1と同一な方式で素子を製作した。結果構造は“ガラス基板/Ag(100Å)/HAT(500Å)/NPB(400Å)/Alq(300Å)/一般式II(200Å)/LiF(10Å)/Al(2500Å)”であった。順方向電界を得られた素子に加えた時、可視光が観察された。
【0056】
実施例7
約1300Åのインジウム錫酸化物(ITO)でコーティングされたガラス基板(Corning 7059)をFisher Co.の洗浄剤水溶液内で超音波洗浄した。洗浄されたITO層状基板を乾燥し、プラズマ洗浄装置に移動した。基板を50Wで14mtorr下で15分間アルゴン-酸素(2:1)プラズマで追加的に洗浄した。その後、基板を真空蒸着チャンバーに移動させた。
【0057】
一般式Iaの化合物(ヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレンまたはHAT)をITO層上に熱真空蒸着によって約2000Åで形成した。前記化合物層上に、約500Åのアルミニウムを蒸着させて陰極を形成した。蒸着する間は、蒸着チャンバー内の圧力を5-8×10-7torr.vに維持した。有機物質は1Å/secの速度で蒸着させ、アルミニウムは3-7Å/secの速度で蒸着させた。
【0058】
得られた有機EL素子の積層構造は“ガラス基板/ITO(1300Å)/HAT(2000Å)/Al(500Å)”であった。順方向電界を前記素子に加えた時、0V直上の電位差で電流が観察された。電圧-電流関係を図10に示す。
【0059】
比較例3
1600Å厚さのNPBをHATの代りに形成したことを除いては、実施例7と同一な方式で素子を製作した。得られた素子の構造は“ガラス基板/ITO(1300Å)/NPB(1600Å)/Al(500Å)”であった。順方向電界を素子に加えた時、約1Vの電位差で電流が観察された。電圧-電流関係を図10に示す。
【0060】
実施例9
500Åのアルミニウム層をITO層の代わりに陽極として形成したことを除いては、実施例7と同一な方式で素子を製作した。得られた構造は“ガラス基板/Al(500Å)/HAT(2000Å)/Al(500Å)”であった。順方向電界を素子に加えた時、0V直上の電位差で電流が観察された。電圧-電流関係を図11に示す。
【0061】
比較例4
2000Å厚さのNPBをHATの代りに形成したことを除いて、実施例9と同一な方式で素子を製作した。結果素子の構造は“ガラス基板/Al(500Å)/NPB(2000Å)/Al(500Å)”であった。順方向電界を素子に加えた時、20Vを超える電位差でも電流が観察されなかった。電圧-電流関係を図11に示す。
【0062】
実施例11
“ガラス基板/Al(500Å)/HAT(2000Å)/Al(500Å)”の構造を有する実施例9で製作された素子に、実施例9と反対極性で電位を加え、ここでガラス基板とHATとの間に位置したアルミニウムは陰極として作用し、HAT上に位置したアルミニウムは陽極として作用した。順方向電界の印加時、0V直上で電流が流れ始めた。電圧-電流関係を図12に示す。結果は、実施例9の結果が共に、アルミニウム層がHAT層上または下に蒸着されるか、HAT層がアルミニウム層に正孔をその中へ注入させるようにすることを示す。
【0063】
比較例5
“ガラス基板/Al(500Å)/NPB(2000Å)/Al(500Å)”の構成を有する比較例4で製作された素子に、比較例4と反対極性で電位を加え、ここでガラス基板とNPB層との間に位置したアルミニウムは陰極として作用し、HAT上に位置したアルミニウムは陽極として作用した。順方向電界を印加した時、20V以上の電位差で電流は観察されなかった。電圧-電流関係を図12に示す。
【0064】
[関連出願]
本出願は2002年12月11日に出願された大韓民国特許出願第2002-78809号に基づいた外国優先権を主張し、これは本願に参考として全体的に統合される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態による有機EL素子等の概略断面図である。
【図2】本発明の実施形態による有機EL素子等の概略断面図である。
【図3】本発明の実施形態による有機EL素子等の概略断面図である。
【図4】本発明の実施形態による有機EL素子等の概略断面図である。
【図5】本発明の実施形態による有機EL素子等の概略断面図である。
【図6】本発明の実施形態による有機EL素子等の概略断面図である。
【図7】本発明の実施形態による電子素子内仮想電極の形成を示す。
【図8】本発明の実施形態による能動マトリックス駆動有機EL素子の概略断面図である。
【図9】本発明の実施形態による陽極内に非-伝導性サブ層を使用する有機EL素子の概略断面図である。
【図10】実施例7及び比較例3の素子作動において電圧-電流関係を示す。
【図11】実施例9及び比較例4の素子の作動において電圧-電流関係を示す。
【図12】実施例11及び比較例5の素子の作動において電圧-電流関係を示す。
【符号の説明】
【0066】
1 基板
3 陽極
5 正孔注入層
7 正孔移送層
9 発光層
11 電子移送層
13 電子注入層
15 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極物質を含む陽極;
陰極物質を含む陰極;及び
前記陽極と前記陰極の間の少なくとも一つの層
を含み、
前記陽極物質が前記陰極物質の仕事関数と実質的に同一であるか、それ未満の仕事関数を有することを特徴とする電界発光素子。
【請求項2】
前記陽極物質及び前記陰極物質が同一であることを特徴とする、請求項1に記載の素子。
【請求項3】
前記少なくとも一つの層が一般式Iの化合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の素子:
[一般式I]
【化1】

前記式で、
R1-R6は独立的に水素、ハロ、ニトリル(-CN)、ニトロ(-NO)、スルホニル(-SOR)、スルホキシド(-SOR)、スルホンアミド(-SONR)、スルホン酸塩(-SOR)、トリフルオロメチル(-CF)、エステル(-CO-OR)、アミド(-CO-NHRまたは-CO-NRR’)、直鎖または分枝(置換または非置換)C-C12アルコキシ、直鎖または分枝(置換または非置換)C-C12アルキル、芳香族または非-芳香族(置換または非置換)複素環、置換または非置換アリール、モノ-またはジ-(置換または非置換)アリール-アミン、及び(置換または非置換)アルキル-(置換または非置換)アリール-アミンで構成される群より選択される。
【請求項4】
前記少なくとも一つの層が一般式Iaの化合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の素子:
[一般式Ia]
【化2】

【請求項5】
前記陽極物質は仕事関数が約4.5eV以下の実質的に伝導性物質であり;
前記陰極が伝導性物質で実質的に構成され;
前記機能性層が前記陽極と陰極との間に位置する少なくとも一つの発光層;及び、
その一つの面で前記陽極または陰極の一方に接触し、前記少なくとも一つの発光層に向いているバッファー層
を含み、
前記陽極は前記少なくとも一つの発光層に向かって正孔を注入するように配列されるが、前記陰極は前記少なくとも一つの発光層に向かって電子を注入するように配列され;
前記バッファー層は少なくとも一つの実質的に非-伝導性である物質で構成されることを特徴とする、請求項1に記載の素子 。
【請求項6】
前記バッファー層が前記陽極と接触することを特徴とする、請求項5に記載の素子。
【請求項7】
前記陽極がアルミニウムを含み、前記バッファー層がアルミニウム酸化物を含むことを特徴とする、請求項6に記載の素子。
【請求項8】
前記バッファー層と前記少なくとも一つの発光層の間に正孔注入層を追加的に含むことを特徴とする、請求項6に記載の素子。
【請求項9】
前記正孔注入層が一般式Iの化合物を含むことを特徴とする、請求項8に記載の素子:
[一般式I]
【化3】

前記式で、
R1-R6は独立的に水素、ハロ、ニトリル(-CN)、ニトロ(-NO)、スルホニル(-SOR)、スルホキシド(-SOR)、スルホンアミド(-SONR)、スルホン酸塩(-SOR)、トリフルオロメチル(-CF)、エステル(-CO-OR)、アミド(-CO-NHRまたは-CO-NRR’)、直鎖または分枝(置換または非置換)C-C12アルコキシ、直鎖または分枝置換または非置換C-C12アルキル、芳香族または非-芳香族(置換または非置換)複素環、置換または非置換アリール、モノ-またはジ-(置換または非置換)アリール-アミン、及び(置換または非置換)アルキル-(置換または非置換)アリール-アミンで構成される群より選択される。
【請求項10】
前記陰極と接触し、前記陰極と前記少なくとも一つの発光層の間に位置する他のバッファー層を追加的に含むことを特徴とする、請求項6に記載の素子。
【請求項11】
前記バッファー層が正孔を通過させるのに十分な実質的に薄い厚さを有することを特徴とする、請求項6に記載の素子。
【請求項12】
前記バッファー層が5Åから40Åまでの厚さを有することを特徴とする、請求項5に記載の素子。
【請求項13】
前記バッファー層が10Åから20Åまでの厚さを有することを特徴とする、請求項5に記載の素子。
【請求項14】
前記少なくとも一つの実質的に非-伝導性である物質がアルミニウム酸化物、チタニウム酸化物、亜鉛酸化物、ルテニウム酸化物、ニッケル酸化物、ジルコニウム酸化物、タンタル酸化物、マグネシウム酸化物、カルシウム酸化物、ストロンチウム酸化物、バナジウム酸化物、イットリウム酸化物、リチウム酸化物、セシウム酸化物、クロム酸化物、シリコン酸化物、バリウム酸化物、マンガン酸化物、コバルト酸化物、銅酸化物、プラセオジム酸化物、タングステン酸化物、ゲルマニウム酸化物、カリウム酸化物、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、メタホウ酸リチウム(LiBO2)、珪酸カリウム(K2SiO3)、シリコン-ゲルマニウム酸化物、チタン酸バリウム、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化ホウ素(BN)、元素周期律表の3族と4族に属する元素の窒化物、硫化亜鉛(ZnS)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、燐化ガリウム(GaP)、及び窒化ガリウム(GaN)からなる群より選択されることを特徴とする、請求項5に記載の素子。
【請求項15】
前記機能性層が
前記陽極と陰極との間に位置し、陽極と接触する陽極接触層;
前記陽極と陰極との間に位置し、陰極と接触する陰極接触層;及び
前記陽極接触層と前記陰極接触層のうちの少なくとも一つの層内で仮想電極を形成するための手段
を備えることを特徴とする、請求項1に記載の素子。
【請求項16】
請求項1乃至15のうちのいずれか一項に記載の電界発光素子;及び
前記電界発光素子と連結された電子回路
を含むことを特徴とする、ディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−287698(P2007−287698A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160505(P2007−160505)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【分割の表示】特願2004−558519(P2004−558519)の分割
【原出願日】平成15年12月5日(2003.12.5)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】