説明

低い水含有量を有するニトロセルロース溶液の製法

本発明は、製造の結果として最初は水で湿っていることが知られている、通常提供される固体状のニトロセルロースを、好ましくは酢酸エチルに、溶解することによって用意された、比較的水に富んだ、所望により乳濁液状の未精製ニトロセルロース溶液の部分蒸留流下膜蒸発による、特に低い水含有量を有するアルコールおよび可塑剤を含まない最終製品ニトロセルロース溶液の連続的な製法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールまたは可塑剤を含まず、特に低い水含有量を特徴とするニトロセルロース溶液の調製に関する。
【背景技術】
【0002】
低いエステル化度および12.6質量%以下の窒素含有量を有し、主にコーティングおよび印刷インキ工業において使用されるニトロセルロース(以下「NC」ともいう。)は、液体減感剤(densensitizers)(エタノール、イソプロパノール、よりまれにはブタノールまたは水が好ましい。)を30または35質量%(アルコールの場合は残存する水を含む。)含む湿った固体として市場に導入されている。湿った製品の液体含有量が25質量%未満に下がると、これらのいわゆる工業用ニトロセルロースは、潜在的な危険が増加するために、「爆発物」として分類される(国際連合危険物輸送勧告、第10版、1997年)。予定された使用を考慮してアルコールで湿らせた製品中の残存する水の含有量は、湿った製品を基準として、2〜8質量%である。選択された可塑剤が減感剤(desensitizers)として加えられた水で湿ったNCは、水の除去によって可塑化され(事実上もはやいかなる繊維構造もない)、そして熱処理後もなお、18〜20質量%の可塑剤に加えて1.5〜3質量%の残存する水を含む。コーティングおよび印刷インキ工業においては、減感された形で得られた湿ったNCの類は、固体として配合バッチに導入され、その中に溶解される。特に印刷インキ生産用の、特別の配合物においては、残存する水とは別に、アルコールまたは可塑剤が、それぞれの場合に対応して減感された固体のNCとともに必然的に導入されたときは、不利である。
【0003】
しかし、そのような不純物を回避するために、工業用NC製造者もコーティングおよび印刷インキ生産者も、安全性および法律上の理由(たとえば火薬類法による安全性に関しての相当な努力)のために、そしてたとえば低い水含有量を有するアルコールおよび可塑剤を含まないNC溶液(以下、最終製品NC溶液という。)を与えるためにそれを経済的に加工するために、固体の形態で無水のそして減感されていない(すなわち乾燥した、純粋な)NCを配達も使用もすることができない。この目的のために考えられる方法は、好ましくは、水で湿った固体のNCを、適切な有機溶媒によって、比較的希薄な水に富んだそして所望により乳濁液状でもある溶液(以下「未精製NC溶液」という。)に変換し、好ましくは固体の水結合剤(たとえばモレキュラーシーブ)を添加した後、続いて適切な方式で該未精製溶液から水を除去することであろう。このように処理されたNC溶液が要望される残存水含有量に達したとしても、精製およびモレキュラーシーブの再生のための、ならびに要望される最終製品NC溶液を与えるために低い水含有量を有するNC溶液の濃縮の、さらなるかなり複雑な手順が経済的理由のために続く。もし、たとえば、該未精製NC溶液の中に、指定の有機NC溶媒および有機NC非溶媒の組み合わせられた導入によって、好ましくは適切に容易に分離することができる2つの液相が生成され、そのうちの一方は、できるだけNCが低いがそれに対応して水が豊富になり、要望される脱水を生じるならば、この手順と匹敵する相当な努力が期待されるに違いない。経済的必要性から、NCに富んだ相は、その後、最終製品溶液に濃縮され、そして溶媒は実質的に水相から回収されることになる。
【0004】
独国特許発明第3041085号明細書は、NC溶媒およびNC非溶媒との特別のNC混合物、それを調製する方法およびポリウレタン最終製品中の添加剤としてのそれの使用を提案した。その発明によれば、水で湿った(固体の湿った原料中に25質量%以上の水)ニトロセルロースが、好ましくは出発原料として使用され、そして多数の指定された典型的な有機NC溶媒の中に、好ましくは各々多数から指定されたNC溶媒と有機NC非溶媒とからなる多数の個々の混合物の中に、回分的な方法で、溶解されまたは少なくとも粘着性の糊状の形態(繊維構造の除去)にゲル化される。生じた(高)粘性流体またはゲル状の糊状の生成物、または非溶媒の添加によって再び固体にされ所望により既に成形された生成物は、水を取り除くために、(主として共留剤としてNC溶媒および/またはNC非溶媒をさらに添加して)熱処理される。選択された出発条件および目的に依存して、低い水含有量(約1質量%の水)を有するNC溶液、粘着性のゲル状のNCペーストまたは特に好ましくは固体の湿ったニトロセルロース成形物(たとえばペレット)を生成することができ、それの残存液体含有量は、それぞれの場合(所望の減感のためには少なくとも25質量%の水準)において、その発明によれば、NC非溶媒およびNC溶媒の混合物(その混合物はPU最終製品と相溶性である。)および残存する水(約1質量%)からなる。水を含有するがその発明によれば有機溶媒および有機非溶媒で既に前処理された回分的に導入されたNCバッチの蒸留または蒸発のための手順が、減圧下で回転装置要素によって機械的支えで行なわれる、回転式蒸発器と組み合わせた乾燥機が、特に独国特許発明第3041085号明細書の熱プロセス工程のために、装置設計のための重要な要件として述べられている。独国特許発明第3041085号明細書の低い水含有量を有するNC溶液の調製のために、使用される蒸留装置は、明らかに、適切な掻き取るまたは引っ掻く道具を装備し、したがって蒸発器中の加熱表面に生成物層が付着するのを防ぐことを絶えず確実にすべき蒸発器である。用語「薄膜蒸発器」はその特許においてこのために用いられていないが、独国特許発明第3041085号明細書は、装置の中心軸に取り付けられ、それとともに移動する、加熱表面に作用するワイパー要素(=掻き取り器/引っ掻き器)を有する、既知の鉛直または水平設計の回転薄膜蒸発器が、適した装置であるという技術的教示を与えている。重力で駆動される細流または流下膜蒸発器、および板形熱交換器からなる群からの通常の板型蒸発器(それらはすべて薄い生成物層で操作されるが機械的な内部構造物なしで操作される。)は、同様に含まれない。しかしながら、もちろん蒸発する液体の既存の粘度によって決定的に決定される、それの操作中は、比較的薄い層における生成物によって濡れた加熱表面は決して露出(乾燥)されてはならない(ドイツ技術者協会熱地図(VDI-Warmeatlas)、第7版、1994、シートMd6、ポイント4、またはエー・ゲー・ボロンゾウ(E.G. WORONZOW)「細流膜における最小レイノルズ数(Reynoldszahl bei Rieselfilmen)」、BWK 44、1994年、5、p.201−205も参照)。
【0005】
独国特許発明第3041085号明細書で知られるようになったその発明の特に明白な不利は、とりわけ、有機溶媒とともにニトロセルロースの回分式の(不連続な)溶解、希釈および蒸発の手順における方法の装置およびエネルギー消費量の観点から、その方法は費用がかかりかつ機械的に複雑であることである。これに加えて、たとえばその発明によれば好ましいが複雑な真空操作において、大気の酸素の流入を防ぐために、ニトロセルロースおよび主に引火性溶剤(混合物)および特にそれの爆発性蒸気を熱機械的処理する場合に、技術的な大きさにおけるかなり複雑な安全要求事項がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許発明第3041085号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ドイツ技術者協会熱地図(VDI-Warmeatlas)、第7版、1994、シートMd6、ポイント4
【非特許文献2】エー・ゲー・ボロンゾウ(E.G. WORONZOW)「細流膜における最小レイノルズ数(Reynoldszahl bei Rieselfilmen)」、BWK 44、1994年、5、p.201−205
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、アルコールおよび可塑剤を含まず、低い水含有量を有するNC溶液を調製するための別の方法を提供することであり、本発明によれば、最終製品NC溶液を与えるために、市場で要望される多様な種類のNCを確実に加工することができ、そしてこれらは、技術的に実行可能で(たとえば取り扱える粘度)、経済的に有利な濃度および必要とされる品質で生産され提供されることができる。
【0009】
驚くべきことに、既知の設計の板型または流下膜蒸発器において用いられている、それ自体は既知の濃縮方法が、好都合に、特に希薄で、比較的水に富んだ、そしてその結果として所望により乳濁液状でもある未精製NC溶液の、所望の透明性を有するが、熱的に敏感であり、そして粘稠な最終製品NC溶液への、熱による蒸発および濃縮のために適していることが見いだされた。しかし、放出された蒸気に対して向流で流れる溶液で、そして溶液の外部強制循環(ワンパス、比例再循環なし)なしで、重力駆動流下膜蒸発として蒸留によって連続的に蒸発処理全体を運転することが特に好ましく、好ましくは水で湿ったNCから希薄な未精製NC溶液を生産するために使用される溶媒の定められた部分は、予定された用途を考慮して除去される水のための共留剤の機能をする。
【0010】
したがって、本発明は、好ましい実施態様において、単純な装置を用いて、技術的に信頼できる、特に経済的な方法によって提供される、予熱された未精製ニトロセルロース溶液から本発明に従って次第に変化させられた蒸留蒸発処理において、要求を満たす品質の最終製品ニトロセルロース溶液を生産することを可能にするために、ジャケット空間に鉛直の管束を有する通常の設計の重力駆動流下膜蒸発器の1〜3段、好ましくは2段の使用に関する。しかしながら、本発明のより一般的な態様においては、重力駆動流下膜蒸発器以外の蒸発器も、最終製品ニトロセルロース溶液の生産のために用いることができる。代替の蒸発器は、たとえば、振動ワイパーを有する回転薄膜蒸発器、螺旋管蒸発器、板型蒸発器、および上昇膜蒸発器である。
【0011】
一般に、本発明の主題は、熱的方法によって低い水含有量を有するニトロセルロース溶液を調製する方法であって、
該方法は、
a)25〜45質量%、好ましくは25〜35質量%の水を含む水で湿ったニトロセルロースを、好ましくは攪拌容器の中で、溶媒の中でまたは溶媒とともに、加工または処理し、3.5〜12.5質量%、好ましくは4.5〜9質量%のニトロセルロースを含む未精製ニトロセルロース溶液を得る工程、次いで
b)未精製ニトロセルロース溶液を、好ましくは連続的に、少なくとも部分蒸留蒸発処理に供する工程、そして
c)蒸発処理のそれぞれの最終段から、好ましくは連続的に、20〜35質量%、好ましくは25〜30質量%のニトロセルロース、および1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下の残存する水を含む、形成された最終製品ニトロセルロース溶液を取り出す工程を含み、
前記蒸留蒸発処理が、少なくとも1段の、好ましくは1〜3段の、より好ましくは2段の流下膜蒸発器、向流流下膜蒸発器、ダウンドラフト蒸発器、振動ワイパーを有する回転薄膜蒸発器、螺旋管蒸発器、板型蒸発器、および上昇膜蒸発器から選択された蒸発器によって行なわれることを特徴とする。
【0012】
特に好ましい実施態様においては、本発明の主題は、原則として前記方法であって、図1に従って、
a)25〜45質量%の、好ましくは25〜35質量%の水を含む水で湿ったニトロセルロース(1)を、わずかに水と混和するかまたは水と混ざらない、ニトロセルロースのための通常の溶媒(2、3)の中(5)で処理し、3.5〜12.5質量%、好ましくは4.5〜9質量%のニトロセルロースを含む未精製ニトロセルロース溶液(4)を得ること、その後、
b)この未精製ニトロセルロース溶液(4)を、原則として通常の設計の1〜3段の、好ましくは2段の流下膜蒸発(6、7)において部分蒸留蒸発に連続的に供すること、そして
c)20〜35質量%、好ましくは25〜30質量%のニトロセルロース、および1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下の残存する水を含む、形成された最終製品ニトロセルロース溶液(8)を、それぞれの最終段の流下膜蒸発器から、好ましくは第2の段(7)の流下膜蒸発器から、連続的に取り出すことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本発明の1つの実施態様の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施態様について記述する。以下の括弧内の符号は図1を参照する。しかし、それらは、本発明を図1に示された方法に限定することを意図するものではなく、本発明の方法についての理解を容易にするためにのみ付したものである。
【0015】
重力駆動薄膜蒸発器の範疇の中で、好ましい流下膜蒸発器設計は、向流流下膜蒸発器およびダウンドラフト蒸発器に分けられる。両方の型において、加熱された鉛直の管束は、液相を受け取り、それを膜の状態で放出するために用いられる。実質的な差は、生じた蒸気の除去であり、蒸気は、前者の場合は、下向きに流れる液相に対して向流で上向きに流れ、そしてそこで別々に得られる。ダウンドラフト蒸発器においては、液相および生じた蒸気は、下方へ流れ(並流)、一緒に発生した後に分離されなければならない。
【0016】
重力を利用するさらなる設計は、鉛直回転薄膜蒸発器を含み、その蒸発空間は単一の外部加熱管のみによって形成され、そして外部から機械的に駆動される中心軸の上に振動する方式でその管の中に据え付けたワイパブレードが、その軸とともに回転し、調整可能な距離(隙間)でその管の内部の加熱表面の上を通過する。その結果、加熱管周囲の一番上に入る液相は、最初のワイパー位置から加熱表面の上の膜として周囲方向に分配され、その後、その膜は加熱表面の上を下方へ流れ、そして軸に沿って存在する多数のさらなるワイパー位置の繰り返される動きによって促進され、高濃度または高粘度に濃縮することができる。生じる蒸気は、好ましくは、上向きの方向に向流で流れ去る。
【0017】
通常、外部ポンプによって、それ故に重力と無関係に作り出される加熱表面上の流れを有する設計は、並列または直列に連結された管コイルを有する螺旋管蒸発器、および並列に配置された多数の加熱表面を有する板型蒸発器である。最初に述べたものは、蒸気が同じ方向(並流)に取り出される、比較的薄い層の高粘度の液体の濃縮さえを可能にする。板型蒸発器は、生じる蒸気相を、液相に対して並流および/または向流で運ぶことができる。
【0018】
薄膜蒸発に用いることができるさらなる設計は、いわゆる上昇(膜)蒸発器を含む。加熱ジャケットの中の鉛直の管の束として設計され、濃縮される溶液は、これらの装置の管の底に供給され、そして蒸気発生の開始により、蒸気の流れは、液相を、上向きの方向(並流)に加熱表面に沿っていわば薄い環状の層として運び、共に放出され、続いて分離される。
【0019】
上記の「溶媒」、好ましくはわずかに水と混和するか水と混和しない溶媒(水で湿ったニトロセルロースはその溶媒の中で処理される。)は、当業者に知られたニトロセルロースに慣用されているいかなる有機溶媒、有機非溶媒またはそれらの混合物であってもよい。有機溶媒は、たとえば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン、ニトロエタンおよび/またはニトロプロパンからなる群から選択することができる。上記の有機非溶媒は、好ましくは溶媒と非溶媒の混合物の一部として用いられ、たとえば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ソルベントナフサ、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエンおよび/またはキシレンからなる群から選択することができる。上記の溶媒と非溶媒の混合物を使用する場合は、溶媒と非溶媒の比は9:1〜1:9の範囲にすることができる。
【0020】
本発明の好ましい実施態様においては、上記の各方法は、酢酸エチルが溶媒(2、3、12)として用いられることを特徴とする。
【0021】
特に重力駆動薄膜蒸発によって、提案された方法を実行するには、流動性を有するNC溶液を必要とする。最終製品NC溶液へ濃縮する過程において、液相の粘度は、もちろん、NC濃縮とともに増加する。しかし、溶液粘度は、それぞれの場合において蒸発するポリマーのNCの種類によって導入された平均高分子鎖長によって、より大きく左右される。塗料(特に仕上剤およびペンキ)としてまたはそれらの成分として需要があるNCの類型は、それらの主要な特徴がDIN ISO 14446:E38〜E3、A38〜A7およびM38〜M12に従って特徴づけられる。それらの文字は、関係するNC中の最大の窒素含有量を特徴づけ、一方、数字は標準の方法で調製されそして測定された各NC溶液の粘度範囲を示す。従って、次の区別をすることができる。17以下の数字は高い粘度のNCの類型を特徴づけ、18〜29は中間の粘度のNCの類型の範囲を定め、そして30以上は低い粘度のNCの類型を示す。
【0022】
本発明に従って、(特に除去される水の共留蒸留のための)大量の溶媒が未精製NC溶液の調製のために加えられるので、そのように生産された3.5〜12.5質量%のNC含有量を有する未精製NC溶液の決定的でない粘度は、また、常に、用いられる水で湿ったNCの類型の粘度範囲と無関係の結果となる。乱されない重力駆動薄膜蒸発を確実にするためには、好ましくは、向流流下膜蒸発器において、そして蒸発温度より低い温度(たとえば室温、約20〜25℃)で最終製品NC溶液を配合し加工するためのそのすぐ後の取り扱いのためにも、高粘度NC類型の未精製NC溶液は好ましくは溶液最終製品中のNC含有量15〜20質量%に濃縮され、中間の粘度のNC類型のものは好ましくは22〜27質量%に濃縮され、そして低粘度NC類型のものは好ましくは29〜35質量%に濃縮されるべきであることが見いだされた。本発明に従って好ましくは連続的に行なわれるその方法は、流量(たとえば流れ1、2、4、8、9、12、18、21)、温度(たとえば流れ8、9(6)、9(7)、10、13、17(6)、17(7)、21)および圧力(たとえば9(6)、9(7)、13(6)、13(7)、18)を測定し調節する慣用の装置によって、生産される最終製品NC溶液の一定の品質で、濃度の信頼できる監視、実施可能性およびバランスを可能にする。
【0023】
公知技術を考慮して、本発明に従って操作される上記の重力駆動薄膜蒸発器または機械的(振動ワイパー)または水力(ポンプ)支援薄膜蒸発器、好ましくは向流流下膜蒸発器は、熱的方法によって未精製NC溶液から比較的純粋で濃縮された最終製品NC溶液の、経済的に有効であり、製品を保護し、かつ技術的に信頼できる生産のための最も良好な必須条件を提供する。
【0024】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、上記の方法の各々は、未精製ニトロセルロース溶液(4)からすべて蒸発するそれぞれの前もって決められた量の40〜80質量%、好ましくは50〜70質量%が、第1段の流下膜蒸発器(6)において蒸発することを特徴とすることができる。
【0025】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、上記の方法の各々は、流下膜蒸発器、好ましい2段の流下膜式蒸発においては第1段および第2段流下膜蒸発器(6)および(7)が、それぞれの周囲の大気圧から2.5バールまでの、好ましくは1.1〜2.2バールの範囲内の同一のまたは個々に異なる圧力下で操作されることを特徴とすることができる。
【0026】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、上記の方法の各々は、蒸発混合物(9)が、いずれの場合にも、未精製ニトロセルロース溶液膜(4)に対して向流で搬送され、各流下膜蒸発器(6、7)から別々に取り出されることを特徴とすることができる。
【0027】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、上記の方法の各々は、凝縮液混合物(10)、好ましくは続いて30℃未満に冷却された凝縮液混合物(10)が、連続相分離のために分離容器(11)に供給され、そしてそこで分離された水飽和溶媒(3)が未精製ニトロセルロース溶液(4)の生産のために攪拌容器(5)に戻されることを特徴とすることができる。
【0028】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、上記の方法の各々は、新しい溶媒(2)の0〜100質量%、好ましくは50〜100質量%、および所望により追加的に0〜35質量%、好ましくは0〜25質量%の量で水飽和溶媒量(3)から分けられた水飽和溶媒(12)のさらなる一部が、溶媒蒸発器(14)において蒸発し、溶媒蒸気(13)を発生させることを特徴とすることができる。
【0029】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、上記の方法の各々は、溶媒蒸気流れ(13)が、ストリッピングまたは共留蒸気として、液相に対して向流で、流下膜蒸発器(6、7)の中に、好ましくは2段の実施態様においては2つの蒸発器(V1、V2)の中に、好ましくは最終段の流下膜蒸発器(7)のみの中に、通されることを特徴とすることができる。
【0030】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、上記の方法の各々は、コーティングおよび印刷インキ工業で必要とされるニトロセルロース、好ましくはDIN ISO 14 446によって標準化されかつE12〜E38、M15〜M38およびA15〜A38の範囲内に指定された類型のニトロセルロースが、水で湿ったニトロセルロース(1)として使用されることを特徴とすることができる。
【0031】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、上記の方法の各々は、溶媒が、分離容器(11)において連続的に分離された水相(15)から、技術的に慣用の方法で、好ましくは水蒸気で、ストリッピングされ(stripped out)、蒸気の形で、蒸発混合物流れ(9)に戻されることを特徴とすることができる。
【0032】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、上記の方法の各々は、蒸発混合物(9)および凝縮液混合物(10)から除去される熱量が、未精製ニトロセルロース溶液(4)および新しい溶媒流れ(2)および所望により水飽和溶媒流れ(12)の予熱のために利用されることを特徴とすることができる。
【0033】
本発明の方法について、図1を参照しながら、以下、より詳しく説明する。実際のNC調製方法において、繊維の形態(羊毛)でまたは粒状の細片もしくは均一に切断された立方体もしくは短いペレットとして生産された、25〜45質量%、好ましくは25〜35質量%の水を含む安定化された水で湿ったニトロセルロース1は、好ましくは攪拌容器5において、ニトロセルロース用に慣用されているわずかに水と混和するかまたは水と混和しない新しい溶媒2の中で、すなわち上記したように、および/または所望により既に水を飽和させた溶媒3、好ましくは酢酸エチルの中で、処理され、攪拌容器5の中に3.5〜12.5質量%、好ましくは4.5〜9質量%のニトロセルロースを含む未精製ニトロセルロース溶液4を与えることが知られている。その後、この未精製NC溶液4は、1〜3段の流下膜蒸発で、好ましくは2段の流下膜蒸発6および7で、部分蒸留蒸発に連続的に供され、その後、20〜35質量%、好ましくは25〜30質量%のニトロセルロースおよび1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下の残存する水を含む形成された最終製品ニトロセルロース溶液8は、最終段の流下膜蒸発器から、好ましくは第2段の流下膜蒸発器7から、連続的に得られる。
【0034】
第1段の流下膜蒸発器6の中で、いずれの場合にも前もって定められた最終製品NC溶液8を達成するために供給された未精製NC溶液4から蒸発させるべきすべての液体相(ただし液体相は溶媒および水からなる。)の量の40〜80質量%、好ましくは50〜70質量%が蒸発させられる。それぞれのその結果残った蒸発させるべき量は、次の段の流下膜蒸発器の中で、好ましくは第2段の流下膜蒸発器7の中で蒸発させられる。蒸発器、好ましくは蒸発器6および7は、好ましくは、いずれの場合にも、大気圧以上、2.5バール以下の範囲内で、好ましくは1.1〜2.2バールの範囲内で、同じ操作圧で、所望により異なる圧力で、操作される。結果として生じた溶媒蒸気および水蒸気からなる蒸発混合物9は、凝縮のための凝縮器16に導かれ、そしてそこから流れ出る凝縮液混合物10は、続いて少なくとも30℃に冷却され、分離のための分離容器11に通される。
【0035】
分離の結果としてそこで集められた水飽和溶媒3、好ましくは水飽和酢酸エチルは、未精製NC溶液4を調製するための攪拌容器5へ戻され、そして予定された使用を考慮して溶媒飽和相15とともに除去されるべき水は分離容器11から同様に放出される。その中に存在する溶媒は、その後、簡単なストリッピング工程で回収される。蒸発混合物9は流下膜蒸発器6および7の上から取り出される。第1段および第2段の流下膜蒸発器6および7において、その操作は、連続操作で、特に効果的な液体膜と蒸気相の向流で行なわれる。溶液の外部強制循環の省略は、両方の蒸発器6および7の加熱表面上を流下するまたは滴り落ちる膜の比較的短い平均滞留時間が溶解したNCの熱的保護に実質的な寄与をするという点で、流下膜蒸発器のための追加の経済的利点と操作上の利点をもたらす。したがって、沸点降下のための真空操作、そしてその結果としての蒸発混合物9の非常に大きな蒸気体積流量(それらは向流で操作される第1段および第2段の流下膜蒸発器6と7において、そして設備の大きさに関して、不利な効果を伴う。)を回避することができる。本発明のさらなる工程設計においては、その工程の費用効果は、また、適切な通常の設計の別個の溶媒蒸発器14で生成された溶媒蒸気13が、好ましくは最終段の蒸発器7の、管空間にその底からいわゆるストリッピングまたは共留蒸気として通されるという事実によって増加する。無水溶媒蒸気13または少なくとも比較的低い水含有量を有する溶媒蒸気13を得るために、好ましくは無水の形で導入され、そして選ばれたスタート条件に応じて最終製品NC溶液8に最終的に必要な、新しい溶媒量2の0〜100質量%、好ましくは50〜100質量%、および、所望により、水飽和溶媒量3から分けられた、水飽和溶媒3の0〜40質量%、好ましくは0〜25質量%の量の、水飽和溶媒12が、溶媒蒸発器14において蒸発させられる。エネルギーに関して特に有利な本発明の方法の実施態様においては、蒸発混合物9から除去された熱および最終製品NC溶液8から除去された熱は、導入される未精製NC溶液4および新たに導入される新しい溶媒2ならびに所望により水飽和溶媒3から分けられた水飽和溶媒12の予熱のために利用される。さらに、異なる操作圧(蒸発器6内の圧力>蒸発器7内の圧力)で操作する場合には、第1段の蒸発器6からの蒸発混合物9で第2段の蒸発器7を加熱するエネルギーの点で非常に経済的である。本発明の方法は、また、ストリッピング水蒸気としての水蒸気18でストリッピング塔19によってよく知られている方法で溶媒飽和水15から溶媒を回収し、ストリッピング塔19の塔頂から得られた溶媒蒸気と水蒸気の混合物20を蒸発混合物流れ9に戻すことによって、さらに、経済的にそして特に生態学的に改善される。廃水21がストリッピング塔19の底から取り出される。
【0036】
本発明の方法は、NCが低い水含有量を有するアルコールまたは可塑剤を含まない最終製品溶液として配達される場合には、コーティングと印刷インキ工業で通常要望される類型のNCに適している。特に、(DIN ISO 14446による)ニトロセルロースの類型E38〜E12、そしてさらにM38〜M15、そして特にA38〜A15がこの目的では普通である。
【実施例】
【0037】
表1において、実施例1〜4は、本発明の方法によって、いずれの場合も、水で湿ったニトロセルロース1、および新しい溶媒2としての酢酸エチルおよび/または水飽和溶媒3で生成された、未精製NC溶液4から最終製品NC溶液8を連続的に調製した結果を示す。
【0038】
【表1】

【符号の説明】
【0039】
1 ニトロセルロース(水で湿った)(SW)
2 溶媒(新しい)(LP)
3 溶媒(水飽和)(LW)
4 未精製NC溶液(RL)
5 攪拌容器(B)
6 流下膜蒸発器(第1段)(V1)
7 流下膜蒸発器(第2段)(V2)
8 最終製品NC溶液(FL)
9 蒸発混合物(DG)
10 凝縮液混合物(KG)
11 分離容器(A)
12 溶媒(水飽和)(LV)
13 溶媒蒸気(所望により水を含む)(LD)
14 溶媒蒸発器(V3)
15 水(溶媒飽和)(WA)
16 凝縮器(K)
17 熱媒体(HM)
18 水蒸気
19 ストリッピング塔
20 溶媒蒸気と水蒸気の混合物
21 廃水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱的方法によって低い水含有量を有するニトロセルロース溶液を調製する方法であって、該方法は、
a)25〜45質量%の水を含む水で湿ったニトロセルロース(1)を、溶媒(2、3)の中でまたは溶媒とともに、加工または処理し(5)、3.5〜12.5質量%のニトロセルロースを含む未精製ニトロセルロース溶液(4)を得る工程、次いで
b)未精製ニトロセルロース溶液(4)を、少なくとも部分蒸留蒸発処理(6、7)に供する工程、および
c)蒸発処理の最終段(7)から、20〜35質量%のニトロセルロースおよび1質量%以下の残存する水を含む最終製品ニトロセルロース溶液(8)を取り出す工程
を含み、
前記蒸留蒸発処理が、少なくとも1段の流下膜蒸発器、向流流下膜蒸発器、ダウンドラフト蒸発器、振動ワイパーを有する回転薄膜蒸発器、螺旋管蒸発器、板型蒸発器、または上昇膜蒸発器から選択された蒸発器によって行なわれることを特徴とする方法。
【請求項2】
未精製ニトロセルロース溶液(4)から蒸発させるべき前もって決められた量の40〜80質量%を、第1段の流下膜蒸発器(6)において蒸発させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
流下膜蒸発器、好ましい2段の流下膜蒸発においては第1段および第2段の流下膜蒸発器(6)および(7)が、大気圧から2.5バールまでの範囲内の同一のまたは異なる圧力下で操作されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
蒸発混合物(9)が、未精製ニトロセルロース溶液膜(4)に対して向流で搬送され、各流下膜蒸発器(6、7)から別々に取り取り出されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
凝縮液混合物(10)、好ましくは続いて30℃未満に冷却された凝縮液混合物が、連続相分離のために分離容器(11)に供給され、そしてそこで分離された水飽和溶媒(3)が未精製ニトロセルロース溶液(4)の生産のために攪拌容器(5)に戻されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
新しい溶媒(2)の0〜100質量%、好ましくは50〜100の質量%、および所望により水飽和溶媒量(3)から分けられた水飽和溶媒量(3)の0〜35質量%の量の追加の水飽和溶媒(12)が、溶媒蒸発器(14)において蒸発させられ、溶媒蒸気(13)を発生させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
溶媒蒸気流れ(13)が、流下膜蒸発器(6、7)に、好ましくは最終段の流下膜蒸発器(7)のみに、液相に対して向流で、ストリッピングまたは共留蒸気として通されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
酢酸エチルが溶媒(2、3、12)として使用されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
DIN ISO 14 446によって標準化されかつE12〜E38、M15〜M38およびA15〜A38の範囲内に指定された類型のニトロセルロースが、水で湿ったニトロセルロース(1)として使用されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
溶媒が、分離容器(11)において連続的に分離された水相(15)から水蒸気でストリッピングされ、蒸気の形で蒸発混合物流れ(9)に戻されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
蒸発混合物(9)および凝縮液混合物(10)から除去された熱量が、未精製ニトロセルロース溶液(4)および新しい溶媒流れ(2)および所望により水飽和溶媒流れ(12)の予熱のために利用されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法によって調製された、20〜35質量%のニトロセルロースおよび1質量%未満の水を含む、アルコールおよび可塑剤を含まない、透明な、好ましくは酢酸エチルを溶媒とする、ニトロセルロース溶液。

【図1】
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【公表番号】特表2010−523745(P2010−523745A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501414(P2010−501414)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【国際出願番号】PCT/EP2008/002532
【国際公開番号】WO2008/122379
【国際公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】