説明

低ゲル化電解質を有する鉛酸蓄電池

【課題】 低ゲル化の電解質を有する鉛酸蓄電池を提供する。
【解決手段】 鉛酸蓄電池は、交互に設けられた複数の正極板および負極板と、正極板と負極板の間に設置された複数の隔離板と、希硫酸および実質的に電解質の重量の0.1%〜3%の範囲のシリカ粒子を含む低ゲル化電解質と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛酸蓄電池に関し、特に低ゲル化電解質を有する改良された制御弁式鉛酸蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
1800年代後半に開発された鉛酸蓄電池は、最初に商業化された電池である。充電式鉛酸蓄電池が1950年代に開発され、これは、世界中で最も広く使用される電池となっている。鉛酸蓄電池の放電化学反応は、以下の式で表される。
【0003】
PbO2+Pb+2H2SO4→2PbSO4+2H2O
鉛酸蓄電池は、広い温度範囲にわたり高いまたは低い電流を供給し、良好な寿命およびライフサイクルを有するため、現在も広く利用されている。また、これらは、製造および購入が比較的安価である。鉛酸蓄電池の別の利点は、これらが家庭用から潜水艦で使用される大型の電池までの、様々な形状および寸法になることである。
【0004】
制御弁式鉛酸蓄電池(VRLA)は、鉛酸蓄電池の一種である。VRLAは、正極板、負極板、セパレータ(隔離板)、電解質、および一方向の制御弁が設けられた容器を有する。制御弁は、外部気体が電池の中に入って、酸素が極板と反応して、内部放電を起こすことを防ぐとともに、内圧がある値を超えたときに、電池の内方から気体を排出する機能を有する。図1を参照する。図1は、従来の鉛酸蓄電池の断面図である。図1に示すように、鉛酸蓄電池10は、互い違いに設けられた複数の正極板12および負極板14と、隣接する極板の間に設けられた隔離板16と、電解質(図示せず)とを備える。正極板12および負極板14は、それぞれ、酸化鉛などの正極活物質を塗った鉛グリッドを正極板12に、および鉛粉などの負極活物質を塗った鉛グリッドを負極板14に変換する、化成プロセスで製作される。
【0005】
通常、VRLA電池では、電解質は、自由に流動しない。VRLA内のこのような非流動性の電解質によって、一つの電極で生じたガスは、放電時に他の電極に到達することができる。その結果、酸素ガスは、電池内を移動することが可能となり、これが負極板の表面で還元され、電池の電解質の方に戻される。あるいは、また電解質の非流動性は、強酸で腐食性の液体電解質が漏洩する危険性を回避する。
【0006】
鉛酸電池内で電解質を流動しにくくするには、主によく知られた2つのカテゴリーの方法がある:吸着法とゲル化法である。アメリカ特許第4,871,428号には、ガラス繊維でつくられたガラスマット隔離板を用い、吸着によって液体電解質を非流動化させ、この板に強く固着させ、これにより、良好な初期電解質―板接触を確保し、さらに、高いエネルギー効率を得る方法が掲げられている。しかし、ガラスマット隔離板と極板の間の初期接触によって、負極板には、ニードル状のデンドライトが容易に形成され、その後、隣接する隔離板ポアを介して、正極板と接するトンネル状通路が成長し、最終的に電池が短絡してしまう。
【0007】
アメリカ特許第4,317,872号には、硫酸とシリカ粒子を反応させて、電解質を非流動化させ、ゲル状電解質を形成する別の方法が掲げられている。しかし、ゲル状電解質は、高内部抵抗、低エネルギー容量、低サイクル特性など、各種電気的特性が劣るという問題がある。また、ゲル状電解質は、収縮しやすく、ゲル状電解質と極板上の活物質との接触が、妨げられる可能性がある。さらに、初期の粘度が高いゲルは、電池容器内に注入しにくく、極板の孔を有効に埋めることができないという問題がある。
【0008】
アメリカ特許第4,889,778号には、一般式が[YO].[SiO].nHOのアルカリ金属ポリシリカの重量比で約30%の水溶性コロイダル分散剤と、硫酸を体積比1:3〜1:6で混合した混合物からなる揺変性ゲル状電解質が掲げられている。xは、約20〜350の範囲であり、Yは、アルカリ金属であり、nは、水のモル数である。さらに、アメリカ特許公開第2005/0042512号には、比重1.250〜1.280の硫酸と、濃度が重量百分率で2〜15の間のシリカ粒子を含む鉛酸蓄電池の電解質が掲げられている。重量比で少なくとも10%のシリカ粒子は、未乾燥の沈降シリカスラリーである。
【0009】
従来技術には、容器への充填を容易にする、改良されたゲル状電解質の調製方法が示されているが、ゲル状電解質系の鉛酸蓄電池は、放電時の内部電気抵抗の上昇、活性電解質材料の減少により生じるエネルギー容量の低下、および高シリカ含有量による潜在的な収縮の問題などのため、未だ通常の液体電解質で構成されたものに比べて、全般的な電気的特性が劣っている。
【特許文献1】米国特許公報第4317872号
【特許文献2】米国特許公報第4871428号
【特許文献3】米国特許公報第4889778号
【特許文献4】米国特許公開公報第20050042512号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前述の問題を改善するため、低ゲル化の非流動性電解質をベースとしたVRLA電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、鉛酸蓄電池の低ゲル化電解質は、希硫酸と、実質的に電解質の重量の0.1%〜3%を占めるシリカ粒子とを有する。該シリカ粒子はヒュームドシリカ粒子である。
【0012】
本発明では、更に低ゲル化電解質を有する鉛酸蓄電池が提供される。該鉛酸蓄電池は、交互に設置される正極板および負極板と、正極板と負極板の間に設けられた隔離板と、低ゲル化電解質とを含む。該低ゲル化電解質は、希硫酸と、実質的に電解質の重量の0.1%〜3%を占めるシリカ粒子とを有する。該シリカ粒子はヒュームドシリカ粒子である。
【発明の効果】
【0013】
本発明による低ゲル化電解質を有する鉛酸蓄電池は、低内部抵抗、高速充電能、高エネルギー密度、および電解質の収縮の問題がないなどの特長を有する。高充電率、高エネルギー容量が必要となる用途の、コスト効果のある電池として、特に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のこれらのおよび他の課題は、各図面に示された好適実施例の以下の詳細な説明を読むことにより、当業者に明らかになろう。
【0015】
以下、実施例により本発明をより詳しく説明する。もっとも、下記実施例は本発明を限定するものではない。
【0016】
本発明は、鉛酸蓄電池、特に制御弁式鉛酸(VRLA)蓄電池の電解質を非流動化させる新しい方法の発見に基づいてなされたものである。本発明の実施例では、低ゲル化の電解質は、比重1.28〜1.34の硫酸と、少量のシリカ粒子とを混合して調製したものであり、そのうちシリカ粒子は、実質的に電解質の重量の0.1%〜3%、望ましくは0.5%〜1%の範囲にある。
【0017】
最初のうちは、電解質は低粘度であって長時間にわたって自由に流動できる。しかし鉛酸蓄電池を2、3回充放電すれば、より固形状の局部的にペースト化したゲル塊が、電解質全体の中に、発生し始め、これは、特に極板と接するガラスマットの表面で生じやすいことが観測される。また、本発明の二相混合物となった電解質は、高速充電条件下で、大部分を元の液相に戻すことができる。実際には、繰り返し放電/充電サイクルの後の放電の間に、電解質全体がより固形状のペーストゲルに変化する。
【0018】
使用するシリカ粒子の種類および量に応じて、低ゲル化電解質は、実質的に透明または僅かに曇った状態となる。ヒュームドシリカを使用した場合、得られる電解質は、僅かに曇っており、その混濁度は時間とともにゆっくりと増加する。適切なヒュームドシリカの一例には、Degussa社のAEROSIL(登録商標)200、200V、予備分散されたAERODISP(登録商標)W7520(アンモニア安定化)、またはW7520N(水酸化ナトリウム安定化)などがある。
【0019】
いかなる特殊な混合装置も必要ではない。プロペラ攪拌機やコールズ溶解機(Cowless dissolver)など、従来の各種混合機器が利用でき、またテフロン(登録商標)コーティングタンクのようないかなる酸に対しても耐性を有する容器が使用できる。もっとも、好ましくない凝結物または沈殿物を回避し、あるいは最小限に抑制して、均質な溶液を得るためには、混合速度を適切に調整しなければならない。例えばプロペラ攪拌機の場合は、約1250〜2000rpmの攪拌速度で使用し、約20分の時間をかけて、ヒュームドシリカを徐々に希硫酸の中に入れて、更に10分間攪拌することが必要である。混合の間、混合物の温度は40℃以下に維持される。
【0020】
電解質の非流動化は、ガラスマットの吸着特性と、電解質の低ゲル化の組み合わせによって行うことができる。一般に、電解質は他の手段を介せずともガラスマット隔離板に吸着される。しかしながら、真空充填ステップを援用することは、低ゲル化電電解質を隔離板および極板に吸着させることが容易になる点で有意である。
【0021】
完全に充電された状態での電解質の低粘性、および隔離板の孔隙の乾燥を防ぐ親水性のシリカ粒子の存在のため、本発明の低ゲル化電解質を有する鉛酸蓄電池は、効率的な充電のための低い内部抵抗を有し、高エネルギー密度を得ることができ、必要な際に長時間放電および高い電流速度または高い放電率を得ることが可能になる。放電時には、極板の表面に隣接して、ガラスマット隔離板の孔隙内に、可逆性のペースト状ゲル塊が生成し、このゲル塊は、デンドライトの成長を防ぎ、ペースト状活物質が極板の表面から剥落するなどの劣化に関する問題が回避されまたは遅延化されることにより、極板が保護される。そのため、本発明による低ゲル化電解質を有する鉛酸蓄電池は、通常の場合、予想されるよりもサイクル寿命が長い。
【0022】
また、極板は、組み立てられた蓄電池の中で形成されても良いが、予め形成された極板を用いることが望ましい。また、ガラスマット隔離板の使用が好ましいが、その代わりに、耐酸性高分子不織布のような電解質吸収性隔離板を用いることも可能である。例えば適切な親水性表面処理がなされたポリオレフィンやポリエステルをベースとする不織布が吸収性隔離板として好適である。
【0023】
以下に、本発明の好適実施例をより詳しく説明する。ただし、これらの実施例は本発明を限定するものではない。本願に示した本発明の精神から逸脱しないで、さらに別の実施例を製作することも可能である。そのような実施例は、当業者が創出できる範囲にある。
【実施例1】
【0024】
まず、100グラムのヒュームドシリカ、例えばDegussa Aerosil 200と、900グラムの脱イオン水を混合して、均一な混合物とする。これとは別に、比重1.32の希硫酸9キログラムを、プロペラ攪拌機付きの耐酸性槽に入れる。1457rpmで回転する攪拌機内で、希硫酸の中にヒュームドシリカ混合物を20分かけて、徐々に添加する。添加の完了後に、攪拌機を継続して10分間攪拌し、均一な混合物を得る。得られた低ゲル化電解質の粘度は、撹拌前の希硫酸よりも若干高くなっており、混合物は、僅かに不透明となる。混濁度(haziness)は、時間がたつにつれて高くなるが、さらに三週間にわたって、自由に流動できる状態が維持される。試験のため、12アンペアアワー(AH)の値で12Vの蓄電池を組み立て、低ゲル化電解質を充填した。50mmの距離で隔てられた2本の銅線間の電解質の電気抵抗を測定した。結果を表1に示す。本発明の低ゲル化電解質を有する鉛酸蓄電池を用いて放電試験を行った。各種初期放電率の下での放電時間を表2にまとめて示す。
【実施例2】
【0025】
実施例2は上記実施例1と同じ手順で行われる。ただし希硫酸としては比重1.33のものを用いて電解質を調製し、攪拌機は、1360rpmで回転した。低ゲル化電解質の全般的な特性は、実施例1と同様である。電解質の電気抵抗は表1に示されており、初期放電テストの結果は表2に示されている。
【0026】
比較のため、12AHの値で12Vの蓄電池を組み立て、比重が1.32の標準的な硫酸を充填した。電解質の電気抵抗は表1に示されており、初期放電テストの結果は表2に示されている。
【0027】
【表1】

注:50mmの距離で隔てられた2本の銅線間で測定された値

【0028】
【表2】

注1:全ての蓄電池は、12AHで12Vである。
注2:放電時間は、時・分・秒として記されている。
【0029】
表1に示すように、低ゲル化電解質の電気抵抗は、通常の希硫酸よりやや高めであるが、増加量は僅かであり、2時間の放電率の場合、蓄電池の放電特性に及ぼす影響は、無視できる。実際には、全般に、実施例1−2の20時間の放電率では、比較例1の標準的な硫酸蓄電池を超える、予期されない改善が見られる。これらのデータは、本発明が、長い放電時間が要求される電動自転車および屋外ソーラー照明機器等の用途に特に適していることを示している。
【0030】
また、表2には、1Cおよび3Cのような高速放電の結果が示されており、本発明の高速放電は、予想外にも、標準的な硫酸蓄電池と同じ範囲であり、または標準的な硫酸蓄電池よりも優れている。
【0031】
本発明の改善された特性をより詳しく説明する。図2には、実施例2の300回にわたるライフサイクル間の放電時間の曲線を示す。予想に反し、本発明の蓄電池では、比較例1の従来の蓄電池よりも長い放電時間に耐え、優れた特性が得られることが明らかに認められる。
【0032】
本発明の示唆により、装置および方法の多くの変更と修正がなされ得ることは、当業者には容易に理解される。従って、前述の開示は、特許請求の範囲の境界によってのみ限定されるものと理解する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】従来の鉛酸蓄電池の断面図である。
【図2】低ゲル化電解質を有する蓄酸電池と従来の標準的な蓄電池の、300放電サイクルにわたる放電時間の比較曲線を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
10 鉛酸蓄電池
12 正極板
14 負極板
16 隔離板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛酸蓄電池の低ゲル化電解質であって、
希硫酸と、
電解質の重量の実質的に0.1%〜3%の範囲のシリカ粒子とを含み、
シリカ粒子は、ヒュームドシリカ粒子であることを特徴とする低ゲル化電解質。
【請求項2】
前記希硫酸は、比重が1.28〜1.34であることを特徴とする請求項1記載の低ゲル化電解質。
【請求項3】
前記シリカ粒子は、電解質の重量の0.5%〜1%の範囲を占めることを特徴とする請求項1記載の低ゲル化電解質。
【請求項4】
低ゲル化電解質を有する鉛酸蓄電池であって、
(a)容器と、
(b)容器中に設けられた正極板および負極板と、
(c)容器中の正極板と負極板の間に設けられた隔離板と、
(d)容器中の正極板と負極板の間を接続させる低ゲル化電解質を含み、
前記低ゲル化電解質は、
希硫酸、および
実質的に電解質の重量の0.1%〜3%の範囲のシリカ粒子を有し、
前記シリカ粒子は、ヒュームドシリカ粒子であることを特徴とする鉛酸蓄電池。
【請求項5】
前記希硫酸は、比重が1.28〜1.34であることを特徴とする請求項4記載の鉛酸蓄電池。
【請求項6】
前記シリカ粒子は、実質的に電解質の重量の0.5%〜1%の範囲にあることを特徴とする請求項4記載の鉛酸蓄電池。
【請求項7】
前記鉛酸蓄電池は、制御弁式であることを特徴とする請求項4記載の鉛酸蓄電池。
【請求項8】
前記隔離板は、電解質を吸着できることを特徴とする請求項4記載の鉛酸蓄電池。
【請求項9】
前記隔離板は、ガラスマットであることを特徴とする請求項8記載の鉛酸蓄電池。
【請求項10】
前記隔離板は、高分子不織布であることを特徴とする請求項8記載の鉛酸蓄電池。
【請求項11】
前記隔離板は、ポリオレフィンであることを特徴とする請求項8記載の鉛酸蓄電池。
【請求項12】
前記隔離板は、ポリエステル系の不織布であることを特徴とする請求項8記載の鉛酸蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−300216(P2008−300216A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145485(P2007−145485)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(507180478)オーシャン ベイ インターナショナル リミテッド (1)
【Fターム(参考)】