説明

低フォギング革

【課題】皮をなめす前の前処理工程の後に、なめし工程、シェービング工程に続き、再なめし・染色・加脂工程の一連の工程、及び乾燥工程を経て、ベースコート層、カラーコート層及びトップコート層からなる塗膜を形成して製造した自動車シート用天然皮革にの製造方法の提供。ウレタンパッド(自動車シートのクッション材)に天然皮革を取り付けた複合体ではフォギング発生量を高温条件下においても一定水準以下に抑えることのできる自動車シート用天然皮革を提供する。
【解決手段】再なめし・染色・加脂工程にの一連の工程の処理剤として、シェービング革重量に対して2〜12重量%の植物タンニン、植物タンニンとの合計が7〜25重量%となる量の合成タンニン、2〜12重量%の樹脂なめし剤及び6〜14重量%の加脂剤を含み、式(I)を満たす組成物の利用。
式(I) 合成タンニン+加脂剤−植物タンニン≦22.0

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低フォギング革に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フォギングは、高温の環境下に置かれた材料が熱の影響により気体状の化学物質が発生し、ガラスの表面に付着、冷却されて凝集され、ガラスがくもる現象を言う。自動車内を対象にする場合であれば、自動車内装材から揮発した化学物質が、窓ガラス主としてフロントガラスに曇りを生じさせ、運転者の視界を遮り、外の状態を見えにくくすることが問題とされている。
深刻な事態はおこっていないとされているものの、極端な場合を予想すると、運転にリスクが生じかねない状況やそれが原因で事故につながる危険性をはらんでいると予想されるとして、フォギングの発生防止方法について対策がとられてきた。
【0003】
自動車メーカー及び内装品を提供する素材メーカーでは、フォギングに対する対策を実行してきた。
表皮材として天然皮革を用いている自動車シートを製造している企業側の報告では、自動車シート用天然皮革の製造工程では、原皮に由来する脂質の存在、及び製造工程で使用される薬品である、塩化アンモニウムやギ酸アンモニウムなどのアンモニウム化合物(脱灰工程・中和工程)、加脂剤、及び界面活性剤などを使用することが原因となって、フォギングが発生することを述べている(非特許文献1 Journal of the Societyof Leather Technologists and Chemists、Vol.83、p.149?153、1998)。
このため、自動車シート用天然皮革のフォギングの発生防止対策は、製造工程での塩化アンモニウムの使用を排除すること、及び低フォギング性加脂剤の開発し、それを使用するこことし、フォギングの発生原因となる生成ガスを一定の基準を超えないように管理することが主に行われている。
【0004】
天然皮革製造に用いられる加脂剤は、フォギングの主要な原因であるとされ、フォギングが発生しにくい加脂剤が開発されてきた。
EP498634A2号公報(特許文献1)は、フォギングの少ない革を製造するための特別のポリマー、及び実質的に有機溶媒を含まず、かつ主成分としての少なくとも1種の疎水性モノマーと、少量の少なくとも1種の親水性モノマーとから形成された両親媒性コポリマーがある。
使用されるモノマー同士の親水性が異なるために共重合において当然に問題が発生する。モノマー同士の溶解性が本質的に逆方向であるために、残留モノマーを分解するために費用のかかる再処理が必要になる。革加工作業において廃水の問題を提起しかねないなどの問題点が指摘されている。
EP466392B1号公報(特許文献2)は、疎水性のペンダント基とアルコキシル化されたペンダント基とを含むポリマーを、ポリマーを重合した後で誘導体にして製造する方法を開示している。ポリマーをアクリルアミドおよび/またはアクリル酸のような簡単なモノマーから慣用の重合法によって製造し、その後に疎水基を有する第1アミンとアルコキシル化された第1または第2アミンとの混合物を使用して誘導体を形成する。記載されたポリマーは、増粘剤および防汚剤として使用されている。
WO98/10103号公報(特許文献3)は、ポリマー状の加脂剤を、まずアクリル酸および/またはメタクリル酸および/またはこれらのアシル塩化物および/またはこれらの無水物を別の共重合可能な水溶性モノマーおよび共重合可能な水不溶性モノマーと重合させ、次いで得られたポリマーをアミンと反応させる、という方法により製造する方法を開示している。
フォギングが少なくかつ吸尽率が高い加脂剤組成物を製造するためとして、「〜12個のAO単位でアルコキシル化されたC−C14−アルカノールまたは複数の該アルカノールの混合物である成分A、15〜30個のAO単位でアルコキシル化されたC12−C24−脂肪アルコールの混合物である成分B、および、40〜100個のAO単位でアルコキシル化されたC12−C24−脂肪アルコールの混合物である成分Cを含む乳化剤組成物および得られた上述のような好適な加脂剤組成物、及び革の製造に得られた乳化剤組成物と加脂剤組成物を使用する方法」(特許文献4:特表2005‐502458号公報、ビーエーエスエフ)、1種の親水性単量体(アクリル酸、メタクリル酸などの酸及び無水物、塩基置換(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミドから成る群から選ばれる)10〜50重量%及び疎水性共単量体(アルキル(メタ)アクリレート、第一アルケン、アルキルカルボン酸のビニルエステル、及びそれらの混合物から選ばれる少なくとも1種の単量体である)50〜90重量%から生成させた革の処理方法(特許文献5:特開平05‐59399号公報、US5348807号公報、ローム アンド ハース)などがある。
ダイマーまたはトリマー脂肪酸中に存在するカルボキシル基(-CO2H)の少なくとも1つが-CH2N[CH2-CH2-CO2H]2および/または-CH2N[CH2-CH(CH3)-CO2H]2基に転化されて得られるダイマーおよび/またはトリマーアミノプロピオン酸。化合物(I)は、酸またはそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩もしくはアルカノールアンモニウム塩の形態で用いられる。これらのアミノプロピオン酸は革類のオイリング仕上げに適する。このように処理された革は、洗浄および清浄化、フォギングならびに水に対するそれらの良好な耐性によって特に識別される(特許文献6:特表平09−510490号公報)。特定構造のアルキレンジアミノテトラプロピオン酸は、革のオイリング仕上げに適する。このように処理された革は、洗浄および清浄化、フォギングならびに水に対する加脂剤の使用それらの良好な耐性によって特に識別される(特許文献7:特表平09−510491号公報)。いずれも好ましくない物質の発生を抑制する物質を用いることが大きな特徴である。用いられてきた加脂剤についてのみ検討すると言った特定の処理工程に注目し、処理剤を変更してフォギングの問題を解決しようという方法が前記の方法である。
【0005】
これに対して、本来皮革の製造工程は多段階の工程からなり、これらの各工程のそれぞれが、大なり小なり、最終製品である自動車シート用天然皮革のフォギングが発生する原因が存在する場合が考えられる。この場合には各工程の処理を確実に実行することで、各処理工程の処理が十分に実行される結果、ヴォギング物質の発生を抑制できるという考え方がある。
この視点にたって本発明者らは、皮を出発材料として皮革を製造する全工程についての条件の見なおしが必要であることを前提に検討を進め、特開2007‐70487号公報「皮革材料及び皮革材料の製造方法」(特許文献8、ミドリホクヨー/トヨタ自動車)の発明を完成させた。フォギングが起きにくく熱収縮率の小さいインストルメントパネル等への接着に適した皮革材料に関するもので、特徴点は以下の通りである。
「(1)なめし、再なめしでは合成タンニンを利用する。(2)フォギングや悪臭の原因物質である加脂剤の使用を避け、柔軟剤を使用する。(3)加脂工程では酸化防止剤を用いることにより脂質等の酸化分解に起因する揮発物質や悪臭の生成を抑制する。(4)加熱処理によりあらかじめ収縮され、(5)裏面に樹脂が塗布されて揮発物質の放出が遮断されることにより、使用環境が厳しい部位であっても、熱収縮を抑えるとともに揮発物質を減らしてフォギングを抑制し、更に、酸化による悪臭の発生を抑制する。」
発明の特徴点は以下の通りに集約される。
「合成タンニンによるなめし処理及び柔軟剤による柔軟処理を施された動物由来の原皮であり、原皮の繊維質に酸化防止剤が含有され、塗装後に色差ΔEが0.5以下となるように100〜120℃にて加熱処理されている皮革材料。」
この発明の問題点は、熱収縮率の低減を課題としたためクロム鞣し革に対して適用できず、また出来あがりの皮革製品は風合いが硬めになる点である。
【0006】
自動車シートは、曲げた鋼管やプレスした鋼板を溶接して組み立てたフレーム構造に発泡ポリウレタンのパッド(以下ウレタンパッド)を被せて基体が構成されている。ウレタンパッドは、シートの形状をつくると共に、クッション材の役目をする。天然皮革を自動車シートの表皮材として用いる場合には、このウレタンパッドの表面に天然皮革を取り付ける。取り付けは、シートの形状に合わせて縫製した天然皮革を伸ばしながらウレタンパッドに被せることにより行う。
自動車シート用天然皮革のフォギングについて、本発明者自らが驚いたのは、汎用クロム革により得た天然皮革による自動車シートのごく一部に、自動車シート用として製造した天然皮革をウレタンパッドに取り付けた複合体としたときに限り、フォギングの発生する不具合が見られたことである。
不具合が発生した原因は、決められた処理条件どおりに製造工程を行っていないことにあるのではないかという疑問を解消させるために、製造工程の条件を定められた条件にしたがって実施して意図した状態の天然皮革を再現し、皮革処理工程の用いた処理剤が皮革の内部に固定されずに、遊離している状態で未反応物質として残っていること及び処理後に発生した分解生成物が皮革本体から除去されずに残留し、これらがフォギングの発生に関与している場合を想定して、皮革の水洗を強化した。皮革の水性は一部に効果を確認できたものの、全部に効果があったということもなく、皮革の水洗のみによっては十分な対策を確立できたという結論を得るには至らなかった。
そこで、最初に戻って、複合体からフォギングが発生する状態及びその条件を確認することが必要であるとし、以下の点を検討した。
汎用クロム革により得た天然皮革による自動車シートのごく一部に、天然皮革をウレタンパッドに取り付けた複合体から発生するフォギングの発生原因物質を究明するために、革にウレタンパッドを取り付けた複合体をフォギングの発生環境下において、原因物質を発生させて、ガラス表面に付着物として付着させて、これを分析して、フォギングの原因となっている原因物質の特定につとめることとした。原因物質を特定し、使用する物質を変更する改善策について検討を行って、ウレタンパッドに取り付けた自動車シート用天然皮革より、フォギングの原因となる物質の発生を防止することによる、新しい自動車シート用天然皮革の開発を行うこととした。
本発明者らの製造している自動車シート用天然皮革は柔軟であり、感触の点で最も良好な品質であることを前提とする製品である。この製品の各製造工程の条件を詳細に検討して、条件を確実に実行すると、複合体からフォギングを発生する状態及びその条件を確認することによりウレタンパッドに取り付けた自動車シート用天然皮革より、フォギングの原因となる物質の発生を防止できる、新しい自動車シート用天然皮革の開発を行うことが可能であると考えた。
この前提の下で、フォギングの原因となっている原因物質の特定につとめることとした。原因物質を特定し、使用する物質を変更する改善策について検討を行って、ウレタンパッドに取り付けた自動車シート用天然皮革よりフォギングの発生原因となる物質の発生を防止している、新しい自動車シート用天然皮革の開発を行うこととした。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of the Societyof Leather Technologists and Chemists、Vol.83、p.149〜153、1998
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】EP498634A2号公報
【特許文献2】EP466392B1号公報
【特許文献3】WO98/10103号公報
【特許文献4】特表2005−502458号公報
【特許文献5】特開平05−59399号公報、US5348807号明細書
【特許文献6】特表平09−510490号公報
【特許文献7】特表平09−510491号公報
【特許文献8】特開2007‐70487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、皮をなめす前の前処理工程、なめし工程、シェービング工程、再なめし・染色・加脂工程、乾燥工程を経た後、ベースコート層、カラーコート層及びトップコート層からなる塗膜を形成して製造された自動車シート用天然皮革に関し、高温条件下においても一定水準以下のフォギングの発生量に抑えることのできる自動車シート用天然皮革及びウレタンパッド(自動車シートのクッション材)にこの自動車シート用天然皮革を取り付けた複合体を、提供することである。
【課題を解決する手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題に取り組んで以下のようにして前記課題を解決した。
(1)フォギング性能評価基準の設定
新しいフォギング性能の評価基準を設定した。
革を自動車シート表皮として実車に搭載する場合は、クッション材である以下ウレタンパッドの上に被せるので、この状況を反映させて、革とウレタンパッドを合わせた状態でフォギング性を評価することとした。具体的には、以下のとおりである。
ふ(a)ガラス板への揮発物の凝集量の評価
ウィンドスクリーンフォギングテスターWF‐2(スガ試験機株式会社製)を用いて行った。円筒ビーカー(直径90mm、高さ190mm)内に直径80mm×高さ40mmのウレタンパッドと直径80mmの革を、革が上になるようにして重ねて入れ、ガラス板(110×110×3mm)による蓋をして100℃に保ったオイルバス中に入れ、72時間加温した。ガラス板は、上から20℃に設定した冷却装置をあてて冷却した。
(b)ガラス板の反射率測定装置の採用
光沢度測定装置REFO60(独HACH LANGE社製)を用いてガラス板の反射率を測定した。
(c)基準値の設定
ガラス板の反射率測定装置による反射率の測定結果が80%以上であれば、実車においては、フォギングが起きていない(起きていても問題にならない程度ということができる)と判断した。
(d)問題とされた従来の自動車シート用天然皮革とウレタンパッドの複合体の測定値は以下の通りである。
汎用革 72.0%
セミアニリン革 61.3%
これらは数値の点から見てみればフォギングが発生するおそれのある天然皮革であると判断される。
(2)フォギング原因物質の解明
天然皮革とウレタンパッドの複合体から蒸散してガラス上に付着しフォギングの原因となっている物質について分析した。この結果、主な原因物質は、ウレタンパッド由来のアミン成分(トリエチレンジアミン=DABCO、ウレタンパッド製造に使う触媒)と革由来の硫酸イオン(合成タンニンが主な発生源と考えられる)が反応したもの、及び加脂剤由来の成分と推定された。詳しくは以下のとおりである。
(a)フォギング原因物質についてIR分析と元素分析を行った結果した結果、IRでアミドまたはSOの可能性のあるピーク、およびスルホンまたは硫酸イオン部の可能性のあるピークが検出されたことと、元素分析でSが検出されたことから、ウレタンパッド由来のアミン成分(トリエチレンジアミン=DABCO)と革由来の硫酸イオンが反応したものと推定された。
トリエチレンジアミンは、ポリウレタン製造に用いられるアミン触媒である。このことからトリエチレンジアミンは難燃剤と反応してフォギングの原因となることが指摘されている(特開平8−217846号公報)。試験対象となった天然皮革中に硫酸イオンが多量に含まれることが大きく影響しているものと考えられた。
(b)革にある硫黄成分が存在することが要因となる。革に付与される薬品中の硫黄成分量を調査したところ、使用されている合成タンニンには、10%の硫黄が存在していることが判明した。合成タンニンが原因物質の発生源となっていることが考えられた。
(c)フォギング原因物質のうち、有機溶媒に可溶の成分についてGC−MS分析を行った結果、ウレタンパッド由来と考えられる成分として、トリエチレンジアミン(DABCO)、ハロゲン系リン酸エステル難燃剤、ポリシロキサン系整泡剤が検出された。また、天然皮革由来と考えられる成分として、脂肪酸、脂肪酸エステル、高級アルコール類が検出された。これらは、主に加脂剤に由来するものと考えられる。
(3)上記分析結果から、本発明者らは、まず暫定的な対応策(革品質に影響しないと考えられる範囲での対策)として、硫酸イオンを除去するために、再鞣し工程における水洗を1回から3回に増やすこと、水洗に脱脂剤(界面活性剤)を使用する対策を行った。一定の効果が認められたが(反射率70%→82%)、対策後の一つの製品では不具合が発生したことから、さらに水洗温度を上げる(40℃→50℃)などの対策を追加したが、不十分な結果に終わった。
(4)再なめし工程では、なめし剤の特定及び選択がなされてきた。その結果、合成なめしなどが好まれることになり、現在のなめし剤がとして採用されている。これが最良の選択であったことは間違えないと考えられる。前記の通り、加脂剤を合わせて用いる場合の状況を考えると、フォギングの発生を防止するといとを前提にすることについては合成なめしを前提にするだけであった、十分に検証されているということはできない。合成なめしは従来からあった植物タンニンにとってかわった経緯がある。植物タンニンには植物タンニンの結果ではないかということを検討してみると以下の通りである。
(5)従来の再なめし・染色・加脂工程の一連の工程に用いる処理剤には、合成タンニン、樹脂なめし剤及び加脂剤を使用し、植物タンニンは使用していなかった。植物タンニンはポリフェノール化合物のひとつで、タンパク質の吸着作用、金属イオンのキレート作用、抗酸化作用などが知られており、脂質を吸着する作用があるとも言われている。これを皮革に取り込ませておくことによってフォギング原因物質を吸着し遊離発散を防止することが期待できる。そこで、植物タンニンを含む組成物を用い得ることにより効果が上がることが考えられたので、再なめし・加脂工程用の処理剤につき検討を行った。
この場合には、フォギングを一定基準以下に抑制することに加えて、自動車シート用天然皮革下地に求められる柔軟性、柔らかさやボリューム感などの触感、良好な外観、耐熱性、引張強度などを同時に達成することが必要である。本発明者らの天然皮革製造にかかわる経験およびフォギング原因物質についての知見から、以下のことが有効であると予見され、これを実証することとした。
(a)再なめし・染色・加脂工程の一連の工程の処理剤は、植物タンニンの他に合成タンニン、樹脂なめし剤及び加脂剤を含むものであること
再なめし・染色・加脂工程の一連の工程は、なめし工程を経た革に、さらに「革らしさ」を与える工程である。「革らしさ」は、柔軟性(伸びやすさ、曲げやすさ)、柔らかい触感(風合い)、ボリューム感(充実感)などを指し、自動車シート用天然皮革には必ず要求されるものである。
また、銀浮き(革の表層乳頭層と網状層が剥離して外観が悪化する現象)を抑制することも再なめし・加脂工程の重要な役割である。
この他に、耐熱性・引張り強度も要求され、耐熱性はなめし工程で達成されているが、引張り強度は再なめし・染色・加脂によりさらに改善される。
再なめし・染色・加脂工程に求められる上記の役割を達成するためには、植物タンニンの他に合成タンニン、樹脂なめし剤及び加脂剤を組み合わせて用いることが必要である。個々の役割については以下に述べる。
なお、染色については、革の色を調整する役割であり、「革らしさ」や引張り強度の達成には関係しない。
(b)それぞれの薬剤には、適切な使用量があること
具体的には、以下のとおりである。各タンニンの薬剤の使用量は、シェービング革に対する重量%で示す。シェービング革は、なめし工程を終えてシェービング(肉面側を削り取って厚みの調整をする)を施した革で、50〜60%程度の水分を含む。
(i)植物タンニン
植物タンニンは、光をあてることにより黄色などに変色する性質があり、変色が著しいと外観上問題となるため、使用量は12重量%以下とすることが望ましい。より好ましくは8重量%以下とする。
(ii)合成タンニン
植物タンニンと類似の働きをする薬剤であるが、植物タンニンだけでは使用量に限度があり充分な効果が得られないので植物タンニンと合わせて用いる。植物タンニンとの合計の量として、7〜25重量%とする。この範囲より少ない場合には、柔軟性、柔らかい触感、ボリューム感、引張り強度など、再なめしに求められる効果が充分でない。多すぎると、逆に硬い触感になってしまう。
(iii)樹脂なめし剤
樹脂なめし剤は、銀浮きを抑制する働きをするもので、2〜12重量%の量で使用する。この範囲より少ないと銀浮きの抑制が不充分で外観上問題が出るおそれがある。この範囲より多いと硬い触感になる。
(iv)加脂剤
加脂剤は、皮革に柔軟性、柔らかい触感を与えるものである。使用量は、6〜14重量%とする。この範囲より少ないと、硬い触感になる。多すぎると、銀浮きが起きることが考えられ、外観上問題となり得る。
(c)植物タンニンと合成タンニン及び加脂剤の使用量の関係
天然皮革とウレタンパッドの複合体に含まれるフォギング原因物質の分析結果から、原因物質の主な発生源はウレタンパッド、合成タンニン及び加脂剤と考えられたので、これらの量に応じて植物タンニンを使用すれば良いと考えられる。天然皮革そのものについては、加脂剤と合成タンニン由来のフォギング原因物質を吸着するのに充分な量であれば良いが、さらにウレタンパッドに由来する物質を吸着する余地が残されていることが必要である。植物タンニンを上限の12重量%まで使用して、合成タンニン加脂剤を一定以下にするという考え方もできる。実際には、天然皮革製品に求められる性能は一様ではないため、できるだけ自由度の高い設定としておくことが望ましい。以上の考えから、植物タンニン、合成タンニン及び加脂剤の使用量(シェービング革に対する重量%)の関係について鋭意検討した結果、これらの間に次の関係が成り立つときに、反射率が80%以上となることについて、経験則を見出し、本発明に至った。
加脂剤+合成タンニン−植物タンニン≦22.0
以上の条件は、天然皮革とウレタンパッドの複合体に適合するものであるから、フォギング発生源のひとつであるウレタンパッドを除いた天然皮革についても適合するものである。
(5)仕上げ工程を施した自動車シート用天然皮革まで含めて整理すると、本発明は以下のとおりである。
(a)天然皮革製造の再なめし・染色・加脂工程の一連の工程で以下の特定割合の組成物を採用する。シェービング革重量に対して2〜12重量%の植物タンニン、合成タンニンと植物タンニンとの合計が7〜25重量%となる量の合成タンニン、2〜12重量%の樹脂なめし剤及び6〜14重量%の加脂剤を含み、植物タンニン、合成タンニン及び加脂剤の含有量(重量%)が式(I)の関係にある組成物であれば、良好な結果を得ることができる。
式(I) 合成タンニン+加脂剤−植物タンニン≦22.0
(b)皮をなめす前の前処理工程、なめし工程、シェービング工程、再なめし・染色・加脂工程、乾燥工程を経た後、ベースコート層、カラーコート層及びトップコート層からなる塗膜を形成する天然皮革の製造方法において、再なめし・染色・加脂工程で上記(a)の組成物を使用する天然皮革の製造方法。
(c)上記(b)の製造方法により製造したことを特徴とする自動車シート用天然皮革。
(d)ウレタンパッドに上記(c)の自動車シート用天然皮革を取り付けたことを特徴とする自動車シート用天然皮革とウレタンパッドの複合体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高温条件下においても一定水準以下のフォギングの発生量に抑えた自動車シート用天然皮革を得ることができる。
又、本発明によれば、ウレタンパッドにこの自動車シート用天然皮革を取り付けた複合体についても、高温条件下においても一定水準以下のフォギングの発生量に抑えた自動車シート用天然皮革を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の天然皮革は、動物、例えばウシの原皮を用いて、準備工程、なめし工程、水絞り工程、シェービング工程、再鞣し・染色・加脂工程、セッター工程、乾燥工程、バイブレーション工程、バフ工程、仕上げ塗装工程を経て得られるものであり、再鞣し・染色・加脂工程において、植物タンニン、合成タンニン、樹脂なめし剤及び加脂剤を含む処理剤を用いることを製造上の特徴としている。以下、各工程について説明する。なお、一般的な天然皮革製造方法については、新版皮革科学(日本皮革技術協会)に詳しい。
【0013】
皮革を製造するための準備工程は、既によく知られた工程である。水漬け・石灰漬け工程では、と畜場で剥皮された生皮を塩漬けの状態で保存していたもの(原皮)をドラムに入れ、塩分や汚物を水で洗い流して生皮の状態に戻し、さらに消石灰等のアルカリ性の薬品を使って脱毛を行う。脱毛促進剤として硫化ナトリウムや水硫化ナトリウムを用いる場合もある。フレッシング工程では、前記の水漬け・石灰漬け工程で得られた皮の裏側に付着している脂肪などの余剰物(裏ニベ)を機械的に除去する。バンドナイフ工程では、皮を目的に応じて定められた厚さにバンドマシンを用いて荒漉きし、銀層と床皮に分割する。銀層は、体表側の層で、緻密で平滑性があり、優れた材料となる。床皮は、体内革の層で、繊維が粗く平滑性に乏しいが、後の処理を工夫することにより良質の革を得ることができる。
【0014】
次いで、なめし工程では、皮をなめしドラム中でなめし剤を用いてなめすことにより、皮のコラーゲン物質を架橋して皮に耐熱性、微生物や化学物質に対する抵抗性を与え、柔軟性を付与するする。この工程を経ることにより、「皮」は「革」になる。
なめし剤として汎用されるのは、3価のクロム錯体、例えばCr(SOとして表現されるヘキサアコ結晶硫酸を用いるクロム化合物である。クロムなめし剤でなめした革は、青く着色するためウェットブルーと呼ばれる。一つの工場で皮革製造の全工程を行わず、ウェットブルー、ウェットホワイトを購入して、なめし工程のあとの工程から製造を行うこともできる。
なお、なめし剤には上記のように多くの種類があるが、これらはいずれも従来から知られているものであり、市販のものを購入して使用すればよい。
【0015】
水絞り工程では、なめし後の革を水絞り機で絞って革に含まれる水分を一定にする。
【0016】
シェービング工程では、目標とする製品の厚さに応じて、なめした湿潤革をシェービングマシンで一定の厚さに削る作業である。シェービング後の革の水分は、50−60重量%程度で比較的変動が少ない。
【0017】
再なめし・染色・加脂は、それぞれ異なる役割をもつ工程であるが、それぞれが相互に影響を及ぼしあい、またこれらの作業を通じてドラム中の処理液を排液することなく、順次薬品を添加して処理を行うため、再なめし・染色・加脂工程としてひとまとめに呼んでいる。再なめし・染色・加脂工程で使用する薬剤の量は、シェービング後の革(シェービング革、水分50−60重量%を含む)重量に対する重量比で定める。
薬剤に水を含めた処理剤全体の重量はシェービング革重量の1〜3倍程度である。
再なめしは、なめし工程とは別種のなめし剤でなめしを行うもので、なめしの補強の意味にとどまらず、付加価値を高めるために新しい特性を革に付与するものである。繊維の弾性減少によるバフィングと型押しの適性改善(植物タンニン)、繊維束の個々の繊維への分離をすすめ繊維空隙を増大させて革のふくらみ感(充実性)を付与する(植物タンニン、合成タンニン)、銀面のしまり状態の改善(銀浮きの防止)、革の腹部などの繊維の交絡が比較的空疎で密度の小さい組織の繊維間に再なめし剤を沈着させてボリューム感のある革を得る(植物タンニン、合成タンニン、樹脂なめし剤)などの効果がある。
【0018】
本発明者は、植物タンニンには従来知られていなかったフォギング抑制効果があることを初めて見出した。再なめし剤に植物タンニンを含む組成物として用いると有効であることを見出した。植物タンニンは、植物の中に含まれるポリフェノール化合物の一種で、再鞣し剤に使われる種類として、ミモサ、タラ、チェストナット、ケブラチョ、ミロバランなどがある。再鞣しに関係のある性質は以下のとおりである。
(a)弱アニオン性である。
(b)分子内にカルボキシル基、水酸基、芳香環などが多く存在するので非イオン結合性の分子間相互作用の能力が高い。このため植物タンニン分子は多かれ、少なかれ集合し、粒子サイズの分布が広いコロイド的な性格の多分散体をなし、吸着活性が強いとされる。特にカチオン体との反応性が強く、クロム革の再なめし剤として広く使用される。
(c)植物タンニンの粒子サイズや反応性はその濃度、温度などの影響を受けるとともに、電解質、糖類、低分子極性物質などの存在で促進されたり、抑制されたりする。
(d)植物タンニンの化学的安定性はやや劣るとされている。
植物タンニンがフォギングを抑制するしくみはよくわかっていないが、フォギングに最も大きな影響を与えているウレタンパッド由来のアミン成分(トリエチレンジアミン=DABCO、ウレタンパッド製造に使う触媒)のアミノ基が、植物タンニンに多く含まれるフェノール性水酸基にイオン的に結合し、トリエチレンジアミンの揮発が抑制されている可能性が考えられる。また、加脂剤については吸着して揮発を抑制している可能性、抗酸化作用による分解抑性の可能性が考えられる。
植物タンニンは、粉末の形で市販されているので、購入して使用することができる。植物タンニンの種類は特に限定されない。
【0019】
一方、植物タンニンの難点として、耐光性が弱く、光により黄変しやすいことがあげられる。植物タンニンの使用量が多すぎると黄変が顕著になる。以上の点を考えると、再なめし剤として植物タンニンだけを用いて、再なめしの効果を得ることは難しいことがわかる。
そこで、合成タンニンおよび樹脂なめし剤と組み合わせて再なめしを行うことが望ましい。また、植物タンニン、合成タンニン、樹脂なめし剤の効果は異なる部分もあるので、組み合わせて使用することにより、風合いやシボ立ちなどバランスのとれた革を得ることができる。
【0020】
合成タンニンは、芳香族合成タンニン剤である。スルホン化芳香族化合物を−単独または他の通常未スルホン化芳香族化合物と一緒に−ホルムアルデヒドおよび/ または尿素と縮合して得られる化合物である。この目的のために適当な芳香族化合物の例は、ナフタレン、ビフェニル、テルフェニル、フェノール、クレゾー ル、4、4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、β−ナフトール、ジヒドロキシベンゼン、レソルシノール、2、2−ビス(ヒドロキシフェニル)プロパン、 およびジアリールエーテルたとえばジフェニルエーテルおよびジトリルエーテル(これらは、それ自体公知の方法でスルホン化されていてもよい)などである。 芳香族合成タンニン剤は、以下の化合物である:(I)スルホン化フェノールまたはクレゾールとホルムアルデヒドとの縮合生成物、(II)ナフタレンスルホ ン酸とホルムアルデヒドとの縮合生成物、(III)アリールスルホン酸または(ヒドロキシ)アリールスルホン酸を加えた、4、4’−ジヒドロキシジフェニ ルスルホンのホルムアルデヒド縮合生成物、(IV)ハロゲン化アラールキルを加えた、スルホ含有芳香族ヒドロキシ化合物のホルムアルデヒド縮合生成 物、(V)フェノールおよびフェノールスルホン酸の尿素−ホルムアルデヒド縮合生成物、(VI)フェノールとスルホン化剤との反応生成物、ここにおいて フェノール:SO のモル比は(1):(1.1乃至2.2)である、(VII)スルホン化ジアリールエーテルとホルムアルデヒド との縮合生成物、(VIII)スルホン化−ビフェニルまたは−テルフェニルとホルムアルデヒドとの縮合生成物、(IX)4、4’−ジヒドロキシフェニルス ルホンおよびスルホン化4、4’−ジヒドロキシフェニルスルホンとホルムアルデヒドとの縮合生成物。(X)ジアリールエーテルスルホン酸および4、4’− ジヒドロキシジフェニルスルホンのホルムアルデヒド縮合生成物;(XI)アリールスルホン酸またはヒドロキシアリールスルホン酸を加えた、フェノールのホルムアルデヒド縮合生成物。
合成タンニンの性質は、以下のとおりである。
a)強アニオン性で、クロム革の正電荷を減少させ、負の電荷を増加させる作用が顕著である。
b)クロム革などカチオン体との反応性が高く、主としてイオン結合で吸着される。
c)組成は一般に複雑で、多成分の混合体である。
e)化学的安定性はやや劣り、酸化されやすい。
合成タンニンは硫黄を10%程度含んでおり、革に由来するフォギング原因物質である可能性があり、フォギング抑制のためには、使用量をできるだけ減らすことがのぞましい。
合成タンニンは、市販の製品を購入して使用すれば良く、本発明に使用できる製品として、バシンタンDLX−N、バシンタンMLB,バシンタンSW,タモールNA(以上BASF社製)、ウカタンGM、ウカタンINF,ウカタンSWL(Schill+Seilacher社製)、タニガンOS、タニガン3LN、タニガンBN、タニガンF,タニガンZF(以上Lanxess社製)などが挙げられる。
【0021】
樹脂なめし剤には、以下のようなタイプがある。
(I)尿素、ジシアンジアミド、メラミンなどのアミノ化合物とホルムアルデヒドとの縮合物を主成分とするもの、(II)ホルムアルデヒドを使用しないタイプの重縮合体(アクリル酸、イソシアネートのポリマーなど)。
(I)のタイプには、ホルムアルデヒドによる縮合反応を軽微にとどめ、比較的低分子量の形で革に浸入させてから縮合による高分子化をすすめるものもある。多かれ少なかれ残余のメチロール基が存在するので、革中で縮合が進行することも考えられる。スルホン基などの導入により強アニオン性のものがおいが、カチオン性のものもある。
(II)のタイプのものは、(I)よりもはるかに高分子量化したもので、通常粘性の溶液またはエマルジョンの形態をなす。比較的粗大な粒子をなすので、革のち密な組織中には浸入せず、ベリー部などの組織のルーズな部位に集中的に沈着させることにより充てん効果をあげ、革組織の均質化を図る目的で使用する。銀浮きを抑制する効果がある。
樹脂なめし剤は、市販の製品を購入して使用すれば良く、本発明に使用できる製品として、リューコタン1084(以上ROHM & HAAS社製)、レルガンDLF,レルガンRF,レルガンSE、レルガンRE,レルガンRV(以上BASF社製)、デルガンNG(Schill+Seilacher社製)などがあげられる。
【0022】
染色工程
染色工程は、染料で革に着色を施す工程である。革表面の色は、塗膜層の顔料の色によってきまるが、革内部の色もできるだけ塗膜層の色に近づけることにより革断面を見た場合など自然に見える。
染料としては、酸性染料、直接染料(いわゆるアニオン染料)を用いる場合が多く、大半はアゾ系である。他に、塩基性染料、硫化染料などがある。これらの染料は、市販品を購入して使用することができる。
【0023】
加脂工程
革製品の主たる分野をカバーするクロム革は多かれ少なかれ柔軟性が要求される。
乾燥された革を機械的に揉むだけでは十分でない。加脂剤と呼ばれる適切な油剤を施す必要がある。なめした革は水にぬれた状態では繊維束内、繊維間隙に存在する水のために繊維の柔軟性は保持される。乾燥すると繊維同士が膠着して繊維及び組織が硬化する。
乾燥前に予め繊維間に膠着を阻害するような物質である油剤を存在させておくと乾燥しても組織は硬化しない。革繊維中の水が油剤により置換されることによる。更に、乾燥後の繊維間又は繊維表面に油剤の膜が存在すると繊維間のすべりがよくなり、革に柔軟性が付与される。加脂の目的は繊維間潤滑効果を第一に期待するものである。そのほか、撥水性や防水性などの革繊維の保護、革の感触、ふくらみ、艶に影響する。
【0024】
加脂剤には以下のものが含まれる。これらのうちから選ばれて用いられる。
(1)アニオン性加脂剤は以下の通りである。
(イ)硫酸化油
硫酸化油は天然の不飽和油脂に硫酸を加え、硫酸エステル化したものである。水酸基や二重結合の一部分が硫酸化されている。
硫酸化脂肪酸エステル:Lipoderm Liquor PU(BASF社製)、
合成スルホン化脂質:SYNCUROL KV(MUNZING社製)、
スルホン化エステルと炭化水素の混合物:SYNCUROL 79(MUNZING社製)、スルホン化エステル:SYNCUROL SE(MUNZING社製)
合成スルホン化エステル:SYNCUROL PF、MAX(MUNZING社製)などがある。
(ロ)スルホン化油
スルホン化油は不飽和基を有する合成油天然油を無水硫酸、発煙硫酸、クロルホン酸などで処理し、分子中の二重結合をスルホン化して中和したものである。
スルホン化油としては、例えば、SKオイルHF(サンプラス社製)、ペラストールES(Zschimmer & Schwarzchemische Fabriken 社製)等が挙げられる。
なお、SKオイルHFは、耐黄変性のある合成スルホン化油であり、未反応の生油50重量%、その硫酸エステル25重量%と加水分解生成物25重量%の混合物である。
このほか、ターコンFA−200(泰光油脂化学工業社製)、ペルグラソールSF(Zschimmer & Schwarzchemische Fabriken 社製)等が挙げられる。なお、ターコンFA200は、脂肪酸モノグリセライド、天然油のスルホン化油、これらの酸化生成物等の混合物である。
(ハ)亜硫酸化油
亜硫酸化油は不飽和度の高い天然油や合成油を原料として亜硫酸塩をスルホン化剤として得られるスルホン酸塩である。
亜硫酸化魚油、天然油、乳化剤の混合物:Lipsol EB(MUNZING社製)、亜硫酸化魚油:OPTIMALIN UPNC(MUNZING社製)、植物油、亜硫酸化動物油の水溶性エマルジョン:Lipoderm Liquor A1(BASF社製)、
(ニ)脂肪酸石鹸、
脂肪酸石鹸は天然の油脂をアルカリ水溶液でケン化すると得られる石鹸である。加脂剤にはアンモニウム塩やカリウム塩も使用される。中性から酸性側で脂肪酸が遊離するため、界面活性成分と中性油の効果がある。
変性脂肪酸:Lipoderm Liquor LA(BASF社製)
(ホ)リン酸化油
卵黄、大豆レシチンなどのリン脂質が用いられてきた。最近では、リン酸化油は高級アルコール又はポリオキシエチレンアルキルエーテルのリン酸エステル塩が多く用いられている。
合成油とレシチン油の混合物のエマルジョン:Lipsol LQ(Schill+Seilacher社製)
燐酸エステル油:Lipoderm Liquor PU(BASF社製)
硫酸化植物油、脂肪アルコール燐酸エステル塩及び炭化水素の配合品:リッカーKIM
(那木商会)
(へ)多極性加脂剤はアニオン性、非イオン性及び少量のカチオン性加脂剤の混合物である。
(ト)そのほかのアニオン性加脂剤
モノ又はジアルキルコハク酸、アルキルマロン酸、アルキル鎖両末端のカルボン酸塩など錯活性基を有するもの、長鎖アルキル基を有するポリアクリル酸誘導体などがある。
【0025】
カチオン性加脂剤
カチオン性加脂剤には、4級アンモニウム塩、脂肪族アミン、脂肪族ポリアミン縮合物
が用いられる。
両性加脂剤
両性加脂剤には同一分子内にアニオンとカチオンの両性を有する加脂剤でレシチンが古くから使用されている。
ノニオン性加脂剤
ノニオン加脂剤は単独で使用されることは少なく、アニオン性及びカチオン性加脂剤と併用される。
天然油と非イオン性界面活性剤の水溶液:Lipoderm Liquor IC(BASF社製)、ワックス及び天然油及び界面活性剤の混合水溶液:Lipoderm Liquor SC(BASF社製)、
非イオン界面活性剤、亜硫酸化油及びナトリウム塩の水溶液:Lipoderm Liquor WF(BASF社製)、天然油、合成油及び合成乳化剤の混合物:Lipsol MSG(MUNZING社製)
・中性油、具体的には、(イ)動物油、(ロ)海産動物油、(ハ)植物油、(ニ)鉱物油、(ホ)合成油などを挙げることができる。
加脂剤と併用される。
【0026】
再なめし・染色・加脂工程は、再なめしドラムを使用して、以下のように行う。
シェービング後の革を水洗し、排液する。次に、革重量の2倍程度の水を再なめしドラムに入れる。クロムなめしの革の場合は、pHが3〜4と低くなっているので、炭酸水素ナトリウムや蟻酸ナトリウムで中和し、4.5〜6.0程度とする。
植物タンニン、合成タンニンおよび樹脂なめし剤を投入してドラムを回し、革を処理する。投入の順序は特に限定されない。
次いで、染料を投入してドラムを回し、革を処理する。
次いで、加脂剤を投入してドラムを回し、革を処理する。
次いで、蟻酸で処理液のpHを3.5〜4.0程度に下げて、染料を固着させる。
なお、加脂剤は必ずしも一度に投入する必要はなく数回に分けて投入するようにしてもよい。
最後に、処理液を排液して革を水洗し、再なめし・染色・加脂工程を終了する。
【0027】
セッター工程では、セッターで革に含まれる水分を絞りだし、次工程での乾燥を容易にするため、革の伸ばし作業を行う。セッター工程後の革の水分は、革重量の50〜60%程度になっている。
【0028】
乾燥には、ガラ干し乾燥、真空乾燥、ネット張り乾燥などがあり、用途に応じて使いわける。組み合わせて行う場合もある。ガラ干し乾燥は、吊り下げた革を移動させながら、移動とは反対の方向から熱風を送り、革を乾燥する方法である。真空乾燥は、低圧下で乾燥を行うことにより、乾燥時間の短縮をはかる。ネット張り乾燥は、革をネットにトグルではさんでとめて乾燥するもので、革の収縮を抑える効果がある。
【0029】
バイブレーション工程は、乾燥を終えて繊維が固着している革に、適当な水分を与えて熟成させ(味取り)、バイブレーターで振動を与え繊維をほぐす工程である。さらに、空のドラムに革を入れて回し、革のドラム内での落下によりたたきつける空打ちを行い、柔軟化をはかる場合もある。
【0030】
バフ工程は、銀面の表面の汚れ、傷などを、バフィングマシンを用い、サンドペーパーで削りとる工程で、革の表面を平滑で均一にする。
【0031】
仕上げ塗装工程は、皮革の表面にベースコート、カラーコート及びトップコートの3層からなる塗膜層を形成する工程である。ベースコート形成後またはカラーコート形成後にシボ付け(エンボス加工による種々凹凸模様の付与)を行う場合もある。ベースコートは、塗膜と革の密着を図るとともに顔料による着色を行う。カラーコートは製品色への最終調整(調色)し均一な表面色にする。トップコートはつや調整・耐摩耗性や触感など表面物性を付与するトップコートからなる。
これらの塗膜層は、自動車シート用天然皮革に求められる耐摩耗性・良好な触感・適度のつやを得るうえで重要な役割を果たすが、フォギングの原因とはならないので、本発明においては、それらの成分を自動車シート用天然皮革に求められる物性を満たす範囲で自由に決めることができる。
【0032】
(1)ベースコート層の形成
カラーコート層及びトップコート層の前に形成され、皮革の表面にある凹凸を平らにし、安定して上部に層を形成する準備のための層である。また、両者を相互に安定して固定結合させる働きもある。この層を形成するにあたっては、樹脂、架橋剤、顔料及び水からなる組成物を床革の表面に塗布する。全固形分は水で30〜40重量%に調整されている。
樹脂には、二液性ポリウレタン樹脂、アクリル・ウレタン樹脂、アクリル樹脂が用いられる。架橋剤にはイソシアネートなどが用いられる。顔料には色付けしたい色の顔料を用いる。樹脂と架橋剤と顔料の固形分重量比は、88〜92:2〜8:3〜9(合計100)である。この他に、増粘剤やレベリング剤などの助剤を加える場合がある。
塗装方法には水溶液を含んだ状態で、はけ塗り、スプレー、カーテン塗装、ロール 塗装が適宜選択して使用される。塗布量は55から100g/m、塗布後に温風を表面にあてて乾燥させる。膜厚は10〜20μmである。
塗布後に温風を表面にあてて乾燥させる。
【0033】
(2)カラーコート層の形成
カラーコート層は、皮革を着色するための顔料及び染料を存在させるための層であって、床革から見てベースコートの上部に設けられている。この層を形成するにあたっては、樹脂、架橋剤、フィラー剤、顔料、助剤及び水からなる組成物をベースコートの表面に塗布する。
樹脂には、二液性ポリウレタン樹脂、二液性ポリウレタン・アクリル樹脂、アクリル樹脂が用いられる。架橋剤にはイソシアネートなどが用いられる。顔料には色付けしたい色の顔料を用いる。助剤にはレベリング剤、増粘剤、耐光剤、発泡安定剤などが含まれる。全固形分は、水で30〜40重量%に調整されている。
樹脂、架橋剤、フィラー剤、顔料および助剤の固形分重量比は50〜70:5〜15:4〜10:15〜25:3〜7(合計100)である。塗装方法には水溶液を含んだ状態で、スプレー、カーテン塗装、ロール塗装が適宜選択して使用される。塗布量は45から70g/m、塗布後に温風を表面にあてて乾燥させる。膜厚は10〜15μmである。
【0034】
トップコート層の形成
トップコート層は、カラーコート層の表面に形成され、塗膜表面を強く、硬い表面として耐摩耗性を付与する。同時に触感剤を加えてぬめり感やきしみ音などを改善し、マット剤(つや消し剤)を添加して、不自然に光ることを防止する。つや消しのためにポリウレタン微粒子などを配合した樹脂製剤を利用する場合もある。この層を形成するにあたっては、樹脂、架橋剤、マット剤、触感剤、助剤及び水からなる組成物をカラーコートの表面に塗布する。全固形分は、水で30〜40重量%に調整されている。
樹脂には、二液性ポリウレタン樹脂、二液性ポリウレタン・アクリル樹脂、アクリル樹脂が用いられる。架橋剤には、イソシアネートなどが用いられる。マット剤にはシリカ微粒子などが用いられる。触感剤にはシリコーン系触感剤、ワックスなどが用いられる。助剤にはレベリング剤、増粘剤などが含まれる。
樹脂、架橋剤、マット剤、レベリング剤の固形分重量比は、55〜65:15〜30:0〜15:10〜20:2〜7(合計100)である。塗布方法には水溶液を含んだ状態で、スプレー、カーテン塗装、ロール塗装が適宜選択して使用される。塗布量は30から45g/m、塗布後に温風を表面にあてて乾燥させる。
塗布量は60から90g/mとする。2回に分けて塗布する場合もあり、その場合には1回目と2回目の塗布の間に乾燥処理を行う。膜厚は5〜15μmとなる。
【0035】
フォギング性能の評価方法
(1)ガラス板への揮発物の凝集
ウィンドスクリーンフォギングテスターWF‐2(スガ試験機株式会社製)を用いて行った。円筒ビーカー(直径90mm、高さ190mm)内に直径80mm×高さ40mmのウレタンパッドと直径80mmの革を、革が上になるようにして重ねて入れ、ガラス板(110×110×3mm)による蓋をして100℃に保ったオイルバス中に入れ、72時間加温した。ガラス板は、上から20℃に設定した冷却装置をあてて冷却した。
(2)ガラス板の反射率測定
光沢度測定装置REFO60(独HACH LANGE社製)を用いて上記(1)で得られた揮発物を凝集させたガラス板の反射率を測定した。
(3)基準値の設定
ガラス板の反射率測定装置による反射率の測定結果が80%以上であれば、実車においては、フォギングが起きていない(起きていても問題にならない程度ということができる)と判断した。
【実施例1】
【0036】
(1)ウシの塩蔵原皮を用いて、準備工程、なめし工程、水絞り工程、シェービング工程、再なめし・染色・加脂工程、セッター工程、乾燥工程、バイブレーション工程、バフ工程、仕上げ塗装工程を経て天然皮革を製造した。なめしは、クロムなめし剤を用いて行った。
(2)再なめし・染色・加脂工程の一連の工程で使用する組成物を、以下のとおりである。使用量は、シェービング革に対する重量%で示した。植物タンニン(ミモサとタラの混合物)2.0重量%、合成タンニン6.0重量%、樹脂なめし剤10.0重量%、加脂剤(油脂・鉱物油の混合物)9.0重量%。この他に染料を加えた。
合成タンニン、加脂剤及び植物タンニンの使用量(重量%)の関係は以下のとおりである。
合成タンニン+加脂剤−植物タンニン=13.0
(3)仕上げ工程で使用した塗料の固形分組成は以下のとおりである。全固形分は35%となるように水で調整されている。
ベースコート
二液性ウレタン樹脂40重量%、アクリル樹脂48重量%、架橋剤(イソシアネート)6重量%、顔料6重量%。
カラーコート
二液性ウレタン樹脂60重量%、架橋剤(イソシアネート)重量10%、フィラー剤7重量%、顔料19重量%、助剤(レベリング剤及び耐光剤)5重量%。塗料の固形分組成は以下のとおりである。全固形分は35%となるように水で調整されている。
トップコート
二液性ウレタン樹脂(ポリウレタン微粒子入りの製剤を含む)59重量%、架橋剤(イソシアネート)23重量%、触感剤(シリコーン系触感剤、ワックス)14重量%、助剤(レベリング剤、増粘剤)4重量%。
(4)上記で得られた天然皮革のフォギング性能を、上述の方法によりウレタンパッドを天然皮革裏面に重ね合わせた状態でガラス板の反射率により評価した。
再なめし・染色・加脂工程で使用する処理剤のフォギング性能について、ガラス板の反射率を評価した結果、反射率は82.0%であり基準値とした80.0%を達成していた。
【実施例2】
【0037】
再なめし・染色・加脂工程の一連の工程で使用する組成物を、植物タンニンの使用量を4.0重量%とした以外は実施例と同様に天然皮革を製造し、フォギング性能を評価した。植物タンニン、合成タンニン及び加脂剤の使用量の関係、フォギング評価結果について以下のとおりであった。
合成タンニン+加脂剤−植物タンニン=11.0
ガラス板の反射率:87.0%
【実施例3】
【0038】
再なめし・染色・加脂工程の一連の工程で使用する組成物を、植物タンニンを5.0重量%、合成タンニンを2.0重量%、樹脂なめし剤を2.0重量%、加脂剤を7.0重量%とした以外は実施例1と同様に天然皮革を製造し、フォギング性能を評価した。植物タンニン、合成タンニン及び加脂剤の使用量の関係、フォギング評価結果について以下のとおりであった。
合成タンニン+加脂剤−植物タンニン=4.0
ガラス板の反射率:92.0%
【実施例4】
【0039】
再なめし・染色・加脂工程の一連の工程で使用する組成物を、植物タンニンを6.0重量%、合成タンニンを4.0重量%、樹脂なめし剤を2.0重量%、加脂剤を6.0重量%とした以外は実施例1と同様に天然皮革を製造し、フォギング性能を評価した。植物タンニン、合成タンニン及び加脂剤の使用量の関係、フォギング評価結果について以下のとおりであった。
合成タンニン+加脂剤−植物タンニン=4.0
ガラス板の反射率:95.9%
【実施例5】
【0040】
再なめし・染色・加脂工程の一連の工程で使用する組成物を、植物タンニンを6.0重量%とした以外は実施例1と同様に天然皮革を製造し、フォギング性能を評価した。植物タンニン、合成タンニン及び加脂剤の使用量の関係、フォギング評価結果について以下のとおりであった。
合成タンニン+加脂剤−植物タンニン=9.0
ガラス板の反射率:95.0%
【実施例6】
【0041】
再なめし・染色・加脂工程の一連の工程で使用する組成物を、植物タンニンを6.0重量%、合成タンニンを10重量%、樹脂なめし剤を11.0重量%とした以外は実施例1と同様に天然皮革を製造し、フォギング性能を評価した。植物タンニン、合成タンニン及び加脂剤の使用量の関係、フォギング評価結果について以下のとおりであった。
合成タンニン+加脂剤−植物タンニン=13.0
ガラス板の反射率:83.6%
【実施例7】
【0042】
再なめし・染色・加脂工程の一連の工程で使用する組成物を、植物タンニンを8.0重量%、合成タンニンを12.5重量%、樹脂なめし剤を12.0重量%、加脂剤を14.0重量%とした以外は実施例1と同様に天然皮革を製造し、フォギング性能を評価した。植物タンニン、合成タンニン及び加脂剤の使用量の関係、フォギング評価結果について以下のとおりであった。
合成タンニン+加脂剤−植物タンニン=18.5
ガラス板の反射率:84.3%
【参考例1】
【0043】
再なめし・染色・加脂工程の一連の工程で使用する植物タンニンを8.0重量%、合成タンニンを16.8重量%、樹脂なめし剤を12.0重量%、加脂剤を14.0重量%とした以外は実施例1と同様に天然皮革を製造し、フォギング性能を評価した。植物タンニン、合成タンニン及び加脂剤の使用量の関係、フォギング評価結果について以下のとおりであった。
合成タンニン+加脂剤−植物タンニン=22.8
ガラス板の反射率:84.3%
【比較例1】
【0044】
再なめし・染色・加脂工程で植物タンニンを使用せず、樹脂なめし剤使用量を3.5重量%、加脂剤使用量を6.5重量%とした以外は実施例1と同様に天然皮革を製造し、フォギング性能を評価した。植物タンニン、合成タンニン及び加脂剤の使用量の関係、フォギング評価結果について以下のとおりであった。
合成タンニン+加脂剤−植物タンニン=12.5
ガラス板の反射率:72.0%
【比較例2】
【0045】
再なめし・染色・加脂工程で植物タンニンを使用せず、合成タンニン使用量を6.3重量%、樹脂なめし剤使用量を5.0重量%、加脂剤使用量を6.5重量%とした以外は実施例1と同様に天然皮革を製造し、フォギング性能を評価した。植物タンニン、合成タンニン及び加脂剤の使用量の関係、フォギング評価結果について以下のとおりであった。
合成タンニン+加脂剤−植物タンニン=12.8
ガラス板の反射率:72.0%
【比較例3】
【0046】
再なめし・染色・加脂工程で植物タンニンを使用せず、合成タンニン使用量を12.5重量%、樹脂なめし剤使用量を13.0重量%、加脂剤使用量を14.0重量%とした以外は実施例1と同様に天然皮革を製造し、フォギング性能を評価した。植物タンニン、合成タンニン及び加脂剤の使用量の関係、フォギング評価結果について以下のとおりであった。
合成タンニン+加脂剤−植物タンニン=26.5
ガラス板の反射率:61.3%
【比較例4】
【0047】
再なめし・染色・加脂工程で植物タンニンを使用せず、合成タンニン使用量を16.8重量%、樹脂なめし剤使用量を12.0重量%、加脂剤使用量を14.0重量%とした以外は実施例1と同様に天然皮革を製造し、フォギング性能を評価した。植物タンニン、合成タンニン及び加脂剤の使用量の関係、フォギング評価結果について以下のとおりであった。
合成タンニン+加脂剤−植物タンニン=30.8
ガラス板の反射率:61.3%
【比較例5】
【0048】
再なめし・染色・加脂工程で使用する植物タンニンを4.0重量%、合成タンニンを12.5重量%、樹脂なめし剤を13.0重量%、加脂剤使用量を14.0重量%とした以外は実施例1と同様に天然皮革を製造し、フォギング性能を評価した。植物タンニン、合成タンニン及び加脂剤の使用量の関係、フォギング評価結果について以下のとおりであった。
合成タンニン+加脂剤−植物タンニン=22.5
ガラス板の反射率:78.0%
【比較例6】
【0049】
再なめし・染色・加脂工程で使用する植物タンニンを4.0重量%、合成タンニンを16.8重量%、樹脂なめし剤を12.0重量%、加脂剤使用量を14.0重量%とした以外は実施例1と同様に天然皮革を製造し、フォギング性能を評価した。植物タンニン、合成タンニン及び加脂剤の使用量の関係、フォギング評価結果について以下のとおりであった。
合成タンニン+加脂剤−植物タンニン=26.8
ガラス板の反射率:78.0%
【0050】
上記の実験結果について、まとめて表1に示した。
【0051】
【表1】

【0052】
ガラス板反射率は、加脂剤と合成タンニンの使用量の増加と従って低下し、植物タンニンの使用量の増加に従って上昇する傾向が認められた。
植物タンニンを使用しない場合には、ガラス板反射率の基準値80%を達成することができなかった。また、植物タンニンを使用した場合、(合成タンニン+加脂剤−植物タンニン)が22.0以下の場合には、すべてガラス板反射率の基準値を達成していたが、22.0を超えると、達成できない場合があった。
なお、実施例1〜7及び参考例1の天然皮革について、柔軟性、耐摩耗性、耐もみ性、触感及び耐光性について試験した結果、自動車シート用天然皮革として良好に使用できる水準に達していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然皮革製造工程中の再なめし・染色・加脂工程の一連の工程で使用する組成物であって、シェービング革重量に対して2〜12重量%の植物タンニン、合成タンニンと植物タンニンとの合計が7〜25重量%となる量の合成タンニン、2〜12重量%の樹脂なめし剤及び6〜14重量%の加脂剤を含み、植物タンニン、合成タンニン及び加脂剤の含有量(重量%)が式(I)の関係にあることを特徴とする組成物。
式(I) 合成タンニン+加脂剤−植物タンニン≦22.0
【請求項2】
皮をなめす前の前処理工程、なめし工程、シェービング工程、再なめし・染色・加脂工程、乾燥工程を経た後、ベースコート層、カラーコート層及びトップコート層からなる塗膜を形成する天然皮革の製造方法において、再なめし・染色・加脂工程から一連の工程で請求項1記載の組成物を使用することを特徴とする天然皮革の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の製造方法により製造したことを特徴とする自動車シート用天然皮革。
【請求項4】
ウレタンパッドに請求項3記載の自動車シート用天然皮革を取り付けたことを特徴とする自動車シート用天然皮革とウレタンパッドの複合体。

【公開番号】特開2013−35998(P2013−35998A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175392(P2011−175392)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(591189535)ミドリホクヨー株式会社 (37)
【Fターム(参考)】