説明

低分子インクの吐出量測定方法

【課題】低分子系(概ね1万分子未満)の溶質を用いた場合には、溶媒の乾燥に伴い、基板の平面視で大幅に縮むため、体積の測定が困難になるという課題があった。そこで、高分子系の溶質を低分子の溶質に混合し、縮みを抑えたものを有機EL素子に用いる方法を取ることが検討されたが、この場合有機EL素子の性能が低下するという課題があった。
【解決手段】低分子インク350の吐出量測定方法として、表面が撥液性を有する高分子膜202を備えた基板Kに、低分子溶質351を含む低分子インク350を、インクジェット方式を用いてノズルより前記高分子膜に向けて吐出し、前記高分子膜202に前記低分子インク350を塗布する工程と、前記低分子インク350を乾燥させる工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子インクの吐出量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶装置のカラーフィルターや、有機EL素子を製造する方法として、例えば機能性材料を含む液状体をインクジェット法により複数のノズルから被吐出体に液滴として吐出することで液状体を塗布する方法が知られている。
この場合、吐出量を制御する制御装置の設定と実際の吐出量との対応を取ることが重要な工程となる。
【0003】
実際の吐出量を調べるためには、高分子系(概ね1万分子以上)の溶質を備えたインクを用いた場合には、例えばガラス基板にインクを吐出/塗布し、溶媒を乾燥させた後、例えば薄膜白色干渉計を用いて溶質の体積を測定する方法が知られている。
【0004】
また、特許文献1に示すように、顔料を含むインクと、当該インクと反応性を有する処理液を、当該インクと液体状態で接するように重ねて被吐出媒体に付着させることで滲み方を制御する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−322346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、低分子系(概ね1万分子未満)の溶質を用いた場合には、溶媒の乾燥に伴い、基板の平面視で大幅に縮むため、体積の測定が困難になるという課題があった。そこで、高分子系の溶質を低分子の溶質に混合し、縮みを抑えたものを有機EL素子等に用いる方法を取ることが検討されたが、この場合には有機EL素子の性能が低下するという課題があった。
また、特許文献1に示される方法では、有機EL素子やカラーフィルター等を構成するための機能液に対して応用することは極めて困難であり、処理液そのものが有機EL素子等の性能を大幅に低下させてしまうという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]本適用例にかかる低分子インクの吐出量測定方法は、表面が撥液性を有する高分子膜を備えた基板に、低分子溶質を備えた低分子インクを、インクジェット方式を用いてノズルから前記高分子膜に向けて吐出し、前記高分子膜に前記低分子インクを塗布する工程と、前記低分子インクを乾燥させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
これによれば、高分子膜を覆う低分子インクのパターンが形成される。基板表面が撥液性を有するため、低分子インクは濡れ広がることなく、表面張力により制限された領域に収まるため、光学的に測定しやすい形状を保つことができる。
[適用例2]上記適用例にかかる低分子インクの吐出量測定方法であって、前記低分子インクを乾燥させる工程は、前記高分子膜と前記低分子インクの少なくとも一部が混合した状態で行うことを特徴とする。
【0010】
上記した適用例によれば、高分子量の溶質を含む場合、乾燥前後に基板の平面視方向に対して縮む現象(シュリンクとも言う)の発生が抑えられるため、より高い精度で低分子溶質の量を測定することができる。
【0011】
[適用例3]上記適用例にかかる低分子インクの吐出量測定方法であって、前記低分子インクの乾燥は、15℃以上120℃以下の温度範囲で減圧雰囲気で行うことを特徴とする。
【0012】
上記した適用例によれば、減圧雰囲気で、15℃以上の温度を用いることで、低分子インクを実用的な時間範囲で乾燥させることができる。また、120℃以下の温度を用いることで、シュリンクの発生をより確実に抑えることができ、測定精度を向上させることができる。
【0013】
[適用例4]上記適用例にかかる低分子インクの吐出量測定方法であって、前記低分子インクを乾燥させた後、前記低分子溶質が塗布された凸領域の厚みと広さを元に前記低分子溶質の量を測定することを特徴とする。
【0014】
上記した適用例によれば、低分子溶質の吐出量と吐出条件との関係を把握することができ、吐出量を定量的に調整することが可能となる。
【0015】
[適用例5]上記適用例にかかる低分子インクの吐出量測定方法であって、前記ノズルは、吐出ヘッドに複数備えられており、各々の前記ノズルから吐出を行うことで形成された、複数の前記凸領域の厚みと広さをもとに前記低分子溶質の量を測定することを特徴とする。
【0016】
上記した適用例によれば、各々のノズルからの低分子溶質の吐出量と吐出条件との関係を把握することができ、各々のノズルからの低分子溶質の吐出量を校正し、揃えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】インクジェット方式を用いた液滴吐出装置の概略構成を示す斜視図。
【図2】吐出ヘッドの構成を示す説明図。
【図3】基板の構成を示す断面図。
【図4】典型的なプラズマ処理装置の構成を示す模式断面図。
【図5】走査型白色干渉計の模式断面図。
【図6】(a)は基板に対して吐出された状態(未乾燥)の状態での低分子インクの平面形状を示す平面図、(b)は、乾燥後の低分子溶質の形状を示す平面図、(c)はその3次元プロットを示す斜視図、(d)は、乾燥後の混合膜の断面形状を示す模式断面図。
【図7】(a)は吐出後(乾燥前)の低分子インク形状、(b)は乾燥後の低分子溶質の形状を示す平面図、(c)はその3次元プロットを示す斜視図。
【図8】(a)は吐出後(乾燥前)の高分子インクの平面形状、図8(b)は乾燥後の高分子溶質の平面形状、(c)はその3次元プロットを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
(液滴吐出装置の概要)
図1はインクジェット方式を用いた液滴吐出装置の概略構成を示す斜視図である。
液滴吐出装置100は、液状体10を吐出する吐出部が設けられた吐出ヘッド50から、吐出対象物としての基板Kに吐出して、文字、図柄、画像、パターン、配線等を描画する装置である。
液滴吐出装置100は、直線状に設けられた一対のガイドレール101と、ガイドレール101に設けられたエアースライダーとリニアモーター(図示せず)により一つの直線軸方向(本実施形態ではY軸方向とする)に移動する移動台103を備えている。移動台103上には、基板Kを載置するための載置テーブル105が設けられている。基板Kは、載置テーブル105に吸着固定されるように構成されている。ここで、「上」とは、ガイドレール101からガイドレール102に向かう方向として定義する。そして、「下」とは「上」の反対方向を指すものとして定義する。
【0019】
載置テーブル105に対して移動台103と反対側の方向には、所定の距離をおいて一対のガイドレール102が設けられている。ガイドレール102はガイドレール101と直交する直線軸方向(本実施形態ではX軸方向とする)に延在するように設けられている。
そして、液滴吐出装置100には、この一対のガイドレール102に沿って移動するキャリッジ120が備えられている。このキャリッジ120は、その両側にキャリッジ120と一体若しくは別体でキャリッジ移動台112が設けられ、ガイドレール102に設けられたエアースライダーとリニアモーター(いずれも図示せず)により、X軸方向に沿って移動可能に構成されている。
【0020】
キャリッジ120には、その下方向側に所定の配列方向を呈するように設けられた複数の吐出部と、吐出部毎に液状体10(図2参照)を吐出する吐出ヘッド50が備えられている。そして、図示しない液状体供給手段からキャリッジ120に供給された液状体10は、キャリッジ120内に形成された流路を経由して吐出ヘッド50に供給され、吐出ヘッド50内に一旦蓄積され、吐出部から液滴として吐出する。
【0021】
また、液滴吐出装置100には、ガイドレール102の端部付近に吐出ヘッド50のメンテナンスユニットとして、吐出ヘッド50をメンテナンスするキャッピング装置130およびワイピング装置150を備えている。
キャッピング装置130は、凹部が形成されたホルダー132に弾性部材を含むキャッピング部材131がはめ込まれている。キャッピング装置130は、この凹部内を吸引する吸引機構を備えている。また、ホルダー132が昇降(上下移動)可能に構成され、吐出ヘッド50まで移動可能に構成されている。
ワイピング装置150には、二つの回転ローラー151と、その間に配置された受け台154を備えている。回転ローラー151の間には布状のワイプ材155が配置され、ワイプ材155を間欠送りできる機構を備えている。そして、ワイピング装置150は、昇降可能に構成され、吐出ヘッド50の近傍まで移動して、吐出ヘッド50とワイプ材155とが接触可能に構成されている。
【0022】
移動台103のY軸方向の移動、キャリッジ120に設けられたキャリッジ移動台112のX軸方向の移動、および吐出ヘッド50に形成された吐出機構の駆動制御は、制御部140によって行われる。同様に、キャッピング装置130の吸引および昇降制御、ワイピング装置150のワイプ材送りおよび昇降制御は制御部140によって行われる。制御部140は、コンピューターにより所定のプログラムに基づいてこれらの処理を実行する。
【0023】
次に、吐出ヘッド50について説明する。図2は、吐出ヘッドの構成を示す説明図である。例えば有機EL素子では赤(R)、緑(G)、青(B)の3色が主に用いられるが、本実施形態では、どの色についても同様な構成を備え、同様な処理が為される。そのため、以下の実施形態では、赤(R)を代表して説明を続ける。
なお、以下の説明は、カラープリンターや、モノクロプリンター、カラーフィルター製造装置等に対しても同様に対応できる。
【0024】
吐出ヘッド50には、複数のノズルNが副走査方向に沿って並ぶノズルアレー21が形成されている。本実施形態では、ノズルアレー21は、60個のノズルNが所定のピッチ(例えば、1インチ当たり180個のピッチ)でライン状に並んだ構成を有している。
【0025】
吐出ヘッド50内には、各ノズルNにそれぞれ連通する図示しない液室(以下、キャビティと呼ぶ)が形成されており、液状体10が内蔵されている。各キャビティには、その可動壁を駆動して容積を可変するための図示せぬ圧電素子が配設されている。そして、圧電素子に電気信号を供給してキャビティ内の液体の圧力を制御することにより、ノズルNから液滴を吐出させることが可能となっている。また、圧電素子以外にも、気泡を形成する方法や、静電気力を制御する方法を用いてキャビティ内の液体の圧力を制御しても良い。
【0026】
(基板の構成)
図3は、基板の構成を示す断面図である。基板Kは、支持基板201と、高分子膜202を含んでいる。
支持基板201は、例えばガラスを用いることができる。高分子膜202は、例えばポリマー系の物質として、概ね分子数が1万以上の物質を用いることができる。いくつか例を挙げれば、高分子膜202の材料としてはポリビニールカルバゾールや、ポリフルオレン、ポリパラフェニレン等を用いることができる。以下、高分子膜202としてポリビニールカルバゾールを例として用いた場合について説明を続ける。
高分子膜202は、ポリビニールカルバゾールを例えばシクロヘキシルベンゼンを溶媒とし、液体としたものを、スピンコート法等を用いて支持基板201に塗布/乾燥させたものである。典型的な厚みとしては、10nm〜100nm程度の値をとる。
ここで、スピンコート法を用いて塗布/乾燥した状態では、撥液性が十分には得られないため、プラズマ処理を行うことが好適である。これにより、基板Kは表面が撥液性を有する高分子膜202を備えたものとなる。
(プラズマ処理装置)
図4は、典型的なプラズマ処理装置として好適に用いられるICPプラズマ処理装置の構成を示す模式断面図である。ICPプラズマ処理装置250は、基板Kを搬送する搬送系251、ゲートバルブ252、処理室253、対向電極254、基板支持部255、結合コンデンサー256、ACバイアス電源257、アンテナ258、ガス供給系259、ガス排気系260、RF電源261、予備排気系262、予備排気室263を含み、基板Kを処理する。
【0027】
搬送系251は、基板Kを大気中から、処理室253へと搬送する機能を有している。ゲートバルブ252は、大気と処理室253との間を気密封止し、基板Kを処理室253に挿入/排出する場合に開放される。予備排気室263は、基板Kを大気中から搬送した際に入る大気を予備排気系262より排出し、予備排気室263から処理室253への大気の混入を抑制する機能を果たしている。
【0028】
アンテナ258は、処理室253内で、ガス供給系259から供給されるプロセスガスを励起し、誘導結合によりプラズマを発生させる機能を有している。そして、ガス供給系259は、図示せぬガス流量コントローラーから供給されるプロセスガスを処理室253に導入する機能を有している。ガス排気系260は、図示せぬターボ分子ポンプや圧力制御機構により、処理室253内の圧力を制御している。
【0029】
RF電源261は、例えば13.56MHzの高周波電力をアンテナ258に供給することで、処理室253内でのプラズマを発生、維持するためのエネルギーを供給している。
【0030】
ACバイアス電源257は、結合コンデンサー256を介して、対向電極254と基板Kとの間にDCバイアスを発生させ、プラズマの励起状態の制御を行っている。結合コンデンサー256は、ACバイアス電源257からの高周波電力を受けて、プラズマ中に発生するDC電位を保持する機能を有している。
【0031】
図中、アンテナ258として2ターンの構成を有するものを用いているが、これは1ターン型のものや、多ターン型のものを用いても良い。また、ここではICPプラズマ処理装置250について説明したが、これはECR(電子サイクロトロンスピン共鳴)プラズマ処理装置や、HWP(ヘリコン波励起プラズマ)処理装置等、プラズマ励起エネルギーとプラズマ引き込みエネルギーとを独立して扱えるプラズマ処理装置を用いても良い。
【0032】
このようなプラズマ処理装置を用いて、例えばポリビニールカルバゾールを高分子膜202として用いた場合には、プロセスガスしてCF4、プラズマ出力700W、処理時間0.2秒程度の表面処理をすることで、高分子膜202(図3参照)を撥液化することができる。
【0033】
(測定装置)
図5は、測定装置として好適な走査型白色干渉計の模式断面図である。走査型白色干渉計とは、可干渉性の少ない白色光を光源として、ミラウ型(a)やマイケルソン型(b)等の等光路干渉計を利用し、測定面に対応する等光路位置(干渉強度が最大になる位置)を、干渉計対物レンズを垂直走査(スキャン)して見つける装置である。
走査型白色干渉計300は、干渉計対物光学系301、光源302、ビームスプリッター303、CCDカメラ304、試料ステージ305、垂直走査系306、ビームスプリッター307、参照ミラー308と、を備える。ここで、光が伝わる経路として、太線の矢印を用い、機械的可動部については通常の矢印を用いて記載している。なお、ミラウ型(a)やマイケルソン型(b)の説明においては、光路が複雑であるため、細めの矢印を用いている。
光源302より射出された光は、ビームスプリッター303で分割され、その一部が干渉計対物光学系301に射出される。そして、干渉計対物光学系301内部のビームスプリッター307により分割され、基板Kと参照ミラー308とに分かれて射出される。
そして、基板Kで反射された光と参照ミラー308で反射した光が、再び干渉計対物光学系301内部で合成され、ビームスプリッター303を透過し、CCDカメラ304により電気信号に変換される。
白色干渉計強度の波形は、複数からなる単色波長の干渉パターンの合成波であり、各干渉パターンが同じ位相となるポイントで最大の光強度をとる。このポイントは、基板Kに対する光路長(段差)により、変動する。ここで、垂直走査系306により、干渉計対物光学系301を基板Kの法線方向に動かすことで、このポイントを検出できるので、基板Kにおける厚み方向の情報(段差情報)が得られる。
そして基板Kを、基板Kの平面方向に対して試料ステージ305により走査することで、厚み方向の情報を広い範囲に対して得ることができる。即ち、基板Kの段差情報を3次元量として得ることができるので、基板Kに吐出された物質の体積や形状を抽出することが可能となる。
【0034】
(低分子インク、低分子溶質の形状)
以下、図6を参照して低分子インク350の吐出後の形状と低分子溶質351(低分子インクを乾燥させた状態)の形状について説明する。
低分子インク350は、液滴吐出装置100(図1参照)を用いて、ノズルアレー21に属する複数のノズルN(図2参照)から基板K(図3参照)の、表面が撥液化された高分子膜202に対して吐出されている。ここでは、種々のノズルNの駆動条件として、駆動電力が等しくなるよう設定しているが、これは駆動電力の値が各々異なっていても良い。また、例えば一つだけのノズルNのみを駆動させるように、吐出するノズルNを選択しても良い。
図6(a)は基板に対して吐出された状態(未乾燥)の状態での低分子インクの形状、図6(b)は、乾燥後の低分子溶質の形状を示す平面図、図6(c)は、その3次元プロットを示す斜視図、図6(d)は、乾燥後の混合膜の断面形状を示す模式断面図である。図6(a),(b),(c)から読み取れるように、混合膜352の形状は乾燥に対して安定しているため、この形状を、上記した走査型白色干渉計300(図5参照)により測定することができる。
低分子インク350は、低分子溶質351を溶媒中に溶解/分散させたものである。低分子溶質351とは、概ね分子数が1万未満のものを指し、例えばAlq3やBeBq2,Znq2に代表されるものである。また、低分子溶質351は高分子溶質410と比べ、分子数の分布が急峻であるという特性を備えている。換言すれば、低分子溶質351は高分子溶質410と比べ組成の揃った物質で構成されているといえる。
低分子インク350の溶媒としては、シクロヘキシルベンゼンや、シクロドデセン、テルピネオール等を用いることができる。本実施形態では低分子溶質351としてAlq3、溶媒としてシクロヘキシルベンゼンを用いた場合について説明を続ける。低分子溶質351の比率は特に限定されないが、ここでは1wt%程度にした場合について説明を続ける。
【0035】
基板Kに吐出された低分子インク350の平面形状はほぼ円形で、間隔も揃っている。そして、乾燥により形成された低分子溶質351と高分子膜202との混合膜352(低分子溶質351の形状と概ね同じ)の形状もほぼ円形で、間隔も揃っている。図6(a),(b),(c)から読み取れるように、混合膜352の形状は測定しやすい形状を保っており、体積の測定を正確に行うことができる。
支持基板201を覆う高分子膜202は一部溶解され、低分子溶質351と混合し混合膜352を構成する。混合膜352は高分子膜202を構成する高分子溶質410を含むため、乾燥を行っても収縮せず、容易に体積の測定が可能な形状を保つこととなる。
ここで、低分子インク350を乾燥させる場合には、高分子膜202の一部が溶解するなどして、低分子インク350中に導入されていることが、乾燥後の低分子溶質351の収縮を避けるには好ましい。この場合、例えば低分子インク350の溶媒が高分子膜202を溶解する性質を持っていることが好ましい。
【0036】
また、乾燥にあたっては、15℃以上120℃以下の温度範囲を用い、減圧雰囲気で行うことが好ましい。15℃以上の温度を用いることで、低分子インク350を実用的な時間範囲で乾燥させることができる。また、120℃以下の温度を用いることで、基板Kの平面方向での縮みの発生をより確実に抑えることができ、体積の測定精度を向上させることができる。典型的な乾燥条件としては、10Pa程度の減圧雰囲気において、25℃程度(室温)で20分程度の時間乾燥を行う条件を例示することができる。
【0037】
ここで、ノズルアレー21を構成するノズルN(図2参照)は、吐出ヘッド50に複数備えられており、吐出条件を揃えて各々のノズルNから低分子インク350の吐出を行い、乾燥させた後、混合膜352による複数の凸領域の厚みと広さをもとに低分子溶質351の体積を測定することで、各々のノズルNからの吐出量のばらつきを求めることができるようになる。
低分子溶質351と高分子膜202が混合することで得られた混合膜352の膜厚から元にあった高分子膜202の厚さを引けば、低分子溶質351のみの膜厚を求めることができる。即ち、凸領域の厚みが低分子溶質351の厚みとなる。この凸領域の厚みや広さは上記した走査型白色干渉計300により容易に求めることができ、これを元に凸領域の体積が求められる。このようにして求められた体積を元に、ばらつきの補正を行うことで、ノズルアレー21を構成するノズルNの吐出量を揃えることができ、より均一性の高い吐出を行わせることができる。
【0038】
(比較例1)
以下、比較例1として、低分子インク350(前述した低分子インクと同じインク)をガラス基板360に吐出し、乾燥させた例について説明する。図7(a)は吐出後(乾燥前)の低分子インク形状、図7(b)は乾燥後の低分子溶質の形状を示す平面図、図7(c)は、はその3次元プロットを示す斜視図である。なお、ガラス基板360の表面には上記したICPプラズマ処理装置250を用いて撥液性を与えている。
吐出後の低分子インク350は、前記した形状とほぼ同じであるが、減圧乾燥した後は、大幅に低分子溶質を351による凸領域の面積が減る。また、減圧乾燥後の低分子溶質351により生じる凸領域の位置は、規則性を失っている。そのため、図7(c)に示すように低分子溶質351の裾の部分が検出できなくなっており、凸領域の厚みを精密に測定することが困難となり、体積の測定ができなくなることがわかる。
【0039】
(比較例2)
以下、比較例2として、高分子インク400をガラス基板360に吐出し、乾燥させた例について説明する。図8(a)は吐出後(乾燥前)の高分子インクの平面形状、図8(b)は乾燥後の高分子溶質の平面形状、図8(c)はその3次元プロットを示す斜視図である。なお、ガラス基板360の表面には上記したICPプラズマ処理装置250を用いて撥液性を与えている。
高分子インク400としては、分子数が概ね1万以上のポリビニールカルバゾールや、ポリフルオレン、ポリパラフェニレン等を溶質とし、シクロヘキシルベンゼンや、シクロドデセン、テルピネオール等を溶媒として用いたものを用いることができる。この比較例では、ポリビニールカルバゾールを高分子溶質410としてシクロヘキシルベンゼンに1wt%程度で溶解させたものを用いている。
吐出後の高分子インク400は、前記した形状とほぼ同じである。また、減圧乾燥した後も、平面的な高分子溶質410の形状は吐出後の高分子インク400の形状とほぼ同じである。そのため、図8(c)に示すように高分子溶質410による凸領域の厚みを精密に測定することができ、体積の測定が容易に行えることがわかる。
【0040】
(比較例3)
以下、比較例3について説明する。上記した2つの比較例を合わせて考察すると、高分子の溶質を混合することで、低分子インク350の乾燥後の形状を制御できることが予想される。実際に高分子溶質410を低分子インク350に混合した混合インクの乾燥後の形状は図8(b)とほぼ同一の形状を示すことが確認できているが、高分子の溶質を低分子インク350に混合した場合、当然低分子インク350を乾燥して得られた低分子溶質351と異なる特性を示すため、特性的に不利となる。
上記した比較例から、低分子インク350のみを吐出させながら、高分子膜202を構成する高分子溶質410の供給を受けられる状態として、基板に高分子溶質410を塗布しておけば、吐出直後の形状を保てる可能性があるものとして考察されたものである。
【0041】
本実施形態における低分子インク350の吐出量測定方法は、以下の効果を奏する。
【0042】
図3に示すように、支持基板201に高分子膜202を、スピンコート法を用いて形成することで、高分子膜202の膜厚均一性が高い高分子膜202を得ることができる。
【0043】
図4に示すICPプラズマ処理装置250は、アンテナ258の形状を最適化することでプラズマ密度の均一性を高くできるため、高分子膜202の撥液処理を均一性高く行うことができる。
【0044】
図4に示すICPプラズマ処理装置250を用いたプラズマ処理により高分子膜202の表面を撥液化するため、シランカップリング剤等の物質を用いる必要が無く、高分子膜202を清浄な状態に保つことができる。
【0045】
図4に示すICPプラズマ処理装置250を用いたプラズマ処理により高分子膜202の表面を撥液化するため、低分子インク350が濡れ広がることなく、表面張力により低分子インク350が収縮するため、低分子インク350の液滴を狭い領域に局在させることができ、位置分解能を向上させることが可能となる。
【0046】
図5に示す走査型白色干渉計300を用いることで非接触・非破壊で三次元測定が可能となる。また50μm〜4mm程度の広い視野と0.1nm程度の高い垂直分解能を持っているので基板Kに形成された、高分子膜202と低分子溶質351とが混合した混合膜352による凸領域の厚さ、およびこの厚さを用いて計算された凸領域の体積を測定することができる。
【0047】
図5に示す走査型白色干渉計300に基板Kの平面方向に可動する試料ステージ305を設けることで、広い範囲で混合膜352による凸領域の体積を測定することができる。
【0048】
図3に示す高分子膜202を備えた基板Kに低分子インク350を吐出するため、高分子膜202が低分子インク350と混合する。そのため、低分子インク350を乾燥させた場合に生じる低分子溶質351の基板Kの平面方向に生じる縮みを防ぐことができる(比較例3参照)。
【0049】
低分子インク350の乾燥を15℃以上120℃以下の温度範囲で減圧雰囲気で行うことで、低分子インク350を実用的な時間範囲で乾燥させ、かつ基板Kの平面方向での低分子溶質351(混合膜352)の縮みの発生をより確実に抑えることができ、体積の測定精度を向上させることができる。
【0050】
図2に示すように、ノズルアレー21を構成するノズルNは、吐出ヘッド50に複数備えられている。このノズルアレー21から揃えた駆動条件で吐出された低分子溶質351の体積を求めることで、より均一性の高い吐出を行わせることができる。
【0051】
低分子インク350に高分子の溶質を加えた混合インクを用いることで、基板Kの平面方向での縮みを抑える方法と比べ、高分子の溶質というパラメーターを増やすことなく低分子溶質351のみを用いた膜を形成することが可能となる。
【0052】
低分子インク350に高分子の溶質を加えてノズルアレー21を構成するノズルNは、吐出ヘッド50に複数備えられている。このノズルアレー21から揃えた駆動条件で低分子インク350に高分子の溶質を加えたものを吐出させ、低分子溶質351の体積を類推する場合と比べ、より精密に低分子溶質351の体積を求めることができる。
【符号の説明】
【0053】
K…基板、N…ノズル、10…液状体、21…ノズルアレー、50…吐出ヘッド、100…液滴吐出装置、101…ガイドレール、102…ガイドレール、103…移動台、105…載置テーブル、112…キャリッジ移動台、120…キャリッジ、130…キャッピング装置、131…キャッピング部材、132…ホルダー、140…制御部、150…ワイピング装置、151…回転ローラー、154…受け台、155…ワイプ材、201…支持基板、202…高分子膜、250…ICPプラズマ処理装置、251…搬送系、252…ゲートバルブ、253…処理室、254…対向電極、255…基板支持部、256…結合コンデンサー、257…ACバイアス電源、258…アンテナ、259…ガス供給系、260…ガス排気系、261…RF電源、262…予備排気系、263…予備排気室、300…走査型白色干渉計、301…干渉計対物光学系、302…光源、303…ビームスプリッター、304…CCDカメラ、305…試料ステージ、306…垂直走査系、307…ビームスプリッター、308…参照ミラー、350…低分子インク、351…低分子溶質、352…混合膜、360…ガラス基板、400…高分子インク、410…高分子溶質。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が撥液性を有する高分子膜を備えた基板に、低分子溶質を備えた低分子インクを、インクジェット方式を用いてノズルから前記高分子膜に向けて吐出し、前記高分子膜に前記低分子インクを塗布する工程と、
前記低分子インクを乾燥させる工程と、
を含むことを特徴とする低分子インクの吐出量測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の低分子インクの吐出量測定方法であって、前記低分子インクを乾燥させる工程は、前記高分子膜と前記低分子インクの少なくとも一部が混合した状態で行うことを特徴とする低分子インクの吐出量測定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の低分子インクの吐出量測定方法であって、
前記低分子インクの乾燥は、15℃以上120℃以下の温度範囲で減圧雰囲気で行うことを特徴とする低分子インクの吐出量測定方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の低分子インクの吐出量測定方法であって、
前記低分子インクを乾燥させた後、前記低分子溶質が塗布された凸領域の厚みと広さを元に前記低分子溶質の量を測定することを特徴とする低分子インクの吐出量測定方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の低分子インクの吐出量測定方法であって、前記ノズルは、吐出ヘッドに複数備えられており、吐出条件を揃えて各々の前記ノズルから吐出を行うことで形成された、複数の前記凸領域の厚みと広さをもとに前記低分子溶質の量を測定することを特徴とする低分子インクの吐出量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−187499(P2012−187499A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52607(P2011−52607)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】