説明

低分子ヒアルロン酸の製造方法

【課題】低分子ヒアルロン酸を効率よく製造する方法を得ることを目的とする。
【解決手段】 原料ヒアルロン酸にミネラルを含有させた状態で麹・有機酸発酵させる。具体的には、分子量が50万〜120万程度の原料ヒアルロン酸にミネラルを添加して所定量の浄化水で蒸煮することにより殺菌し、つぎに麹菌、酵母、クエン酸菌、乳酸菌、酢酸菌のほか繊維分解酵素を含む麹菌などを単独でまたはこれらの2種以上の混合物を加えて醗酵させ、次いでこの醗酵ヒアルロン酸にクエン酸、乳酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸などのカルボキシル基を有する有機酸を単独でまたはこれらの2種以上の混合物を混合して所定温度に保持して熟成したのちこれを濾過抽出する。この方法によれば、分子量約2000の低分子ヒアルロン酸を効率よく製造することができるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ヒアルロン酸に関するものであり、一層詳細には、ヒアルロン酸を発酵によって分解し、食品、化粧品、医療品などへの応用を好適に行うことができる、例えば、分子量が凡そ2000の低分子ヒアルロン酸を効率よくの製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸(hyaluronicacid)は、N−アセチル−D−グルコサミンとD−グルクロン酸がβ−1,4結合とβ−1,3結合で交互に結合した二糖単位から形成される直鎖状で分子量が凡そ100万以上の高分子多糖体であり、哺乳動物の眼の硝子体、臍の緒、関節液、皮膚、肋膜液、血清などに分布するほか、鶏冠、鮫の皮、鯨の軟骨さらには連鎖球菌の夾膜などにも存在することが知られている。
【0003】
そしてこのヒアルロン酸は、非常に多量の水と結合してゲル状を呈する保水性、保湿性を有するだけでなく、関節の潤滑作用や皮膚の柔軟性などに関与する粘弾性を備えていることが知られている。
【0004】
近年は、例えば、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus.pyogenes)、ストレプトコッカス・エクイ(Streptococcus・equi)、ストレプトコッカス・エキシミリス(Streptococcus・equisimilis)、ストレプトコッカス・デイスガラクテイエ(Streptococcus・dysgaiactiae)、ストレプトコッカス・ズーエピデミカス(Streptococcus・zooepidemicus)、パスツレラ・マルトシダ(Pasteurella.multocida)などヒアルロン酸の生産能を有する微生物を用いた方法によって良質のヒアルロン酸を入手することができるようになったため、その特性を利用して化粧品、食品の分野などで種々の用途開発がされており、さらには高度な粘り気によって細菌の侵入に対する防御機能もあることが解明されてからは医薬品分野も含めて様々なグレードのものが要求されるようになってきている。
【0005】
すなわち、はじめの頃は生物的活性の高い高分子量のヒアルロン酸が求められていたが、最近の化粧品等の分野においては水に溶けやすくて粘度も低く、成分に配合してもベトツキ感やツッパリ感の少ない低分子量のヒアルロン酸が望まれるようになってきている。
【0006】
このような事情から、高分子量のヒアルロン酸を低分子化する方法として、例えば、ヒアルロン酸含有原料中に含まれているヒアロニダーゼを利用して分解する方法、あるいはペースト化したヒアルロン酸含有原料にアルカリを加えて特殊処理したのち抽出する方法(特許文献1)などが提案されている。
【0007】
【特許文献1】 特公平5−77681号公報
【0008】
しかるに、前者の方法は細菌増殖により産生されたヒアロニダーゼによって低分子化を図るため微生物的な問題点があるだけでなく、分解程度の制御も困難でその収益率も低いなどの点で工業的には採用しにくく、また、後者のアルカリを用いる方法はヒアルロニダーゼを用いる方法に比べればかなりの前進がみられるものの工程数が多くて処理時間が長く、得られるヒアルロン酸の分子量も5万〜15万程度であるため、例えば、表皮の角質層における水分保持(保湿、保水)に有効ではあるもののバリアゾーンから真皮など皮膚の内部からのケアを目指している化粧品分野などの要求にはほとんど対応することができないという問題を有していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、この発明では効率よく安価に製造でき、しかも従来よりもはるかに低分子のヒアルロン酸を得ることができる製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するため、本発明では、わが国で古くから行われている発酵技術に着目し、原料となるヒアルロン酸にミネラルを含有させた状態で麹および有機酸発酵させることにより分解を行って低分子化を図るものである。
【0011】
具体的には、例えば、分子量80万〜120万程度の原料ヒアルロン酸にミネラルを添加して所定量の浄化水で蒸煮することにより殺菌し、つぎに麹菌、酵母、クエン酸菌、乳酸菌、酢酸菌などのほかセルラーゼ(繊維分解酵素)等を含む麹菌を単独でまたはこれらの2種以上の混合物を加えて醗酵させ、次いでこの醗酵ヒアルロン酸原料にクエン酸、乳酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸などのカルボキシル基を有する有機酸を単独でまたはこれらの2種以上の混合物を混合して所定温度に保持して熟成し、さらにこれを濾過抽出する手順を採用する。
【0012】
この場合、原料ヒアルロン酸に添加するミネラルとしては、イオン性固体(塩)や解離(イオン化)したミネラルなどを単独でまたはこれらの混合物を使用することができ、さらに、イオン化ミネラルを使用する場合は、例えば、澱粉および/もしくは穀類と種子と卵殻とを所定の割合で混合した原料を粉砕し、次いで浄化水と麹菌を加えて醗酵熟成することにより原料中に含まれているカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、鉄、銅、亜鉛、マンガンなどのミネラルを解離させたのち濾過することにより得られた醗酵熟成液が好適に使用できる。
【0013】
そして、この手順(プロセス)を採用することにより分子量が約2000の低分子ヒアルロン酸を得ることができ、さらにこの低分子ヒアルロン酸と加水分解卵殻膜を含む材料で化粧品を調製すれば、皮膚のバリアゾーンないしは真皮などの内部から所望のケアを施すことが可能となるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る低分子ヒアルロン酸の製造方法によれば、原料ヒアルロン酸の分散液は麹菌あるいは麹菌混合物による発酵作用によってヒアルロン酸の酸素結合が切られ、さらに切られたヒアルロン酸のモノマーユニット末端にミネラルが適宜結合してその状態を保持するので、従来に比べはるかに低分子のヒアルロン酸を効率よくしかも安価に製造することができる。
また、本発明方法によって得られた低分子ヒアルロン酸はその分子量が約2000であるため、少量で目的とする所望の効果を充分期待することができるので種々の用途、殊に、化粧品分野への活用を好適に図ることが可能となるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明に係る低分子ヒアルロン酸の製造方法における最良の実施の形態を例示し、以下詳細に説明する。
図1において、本発明に係る低分子ヒアルロン酸の製造方法で使用する原料ヒアルロン酸10は、天然材料あるいはバイオによって得られた高分子量のヒアルロン酸でも、この高分子ヒアルロン酸を化学的あるいは酵素を使用してある程度分解したヒアルロン酸でもその分子量については特に制限はなく、任意の分子量のヒアルロン酸を使用することができるが、効率を勘案すると、分子量が50万〜80万程度のものを使用するのが好ましい。
【0016】
次にこの原料ヒアルロン酸10と、ミネラル12と、水道水(Tapwater)から予め塩素などを除去した浄化水14とを容器16に投入し、適度に攪拌しながら公知の加熱手段で、例えば、85℃以上で30分間程度加熱して殺菌ことによりヒアルロン酸の分散液18を調製する。
この場合、原料ヒアルロン酸10と浄化水14との混合比は、原料ヒアルロン酸1に対して99程度にするのが好ましく、またミネラル12の添加量は原料ヒアルロン酸10と浄化水14の総量に対して1重量%〜10重量%の範囲に設定するのが好適である。
【0017】
一方、原料ヒアルロン酸10に添加するミネラルとしては、本実施の形態においては、表面積が大きい多孔構造でしかもリン含量が低く平均粒径を10μm以下に設定した卵殻粉(炭酸カルシウム)や炭酸マグネシウムなどのイオン性固体(塩)を使用するが、あらかじめ解離(イオン化)したミネラルあるいはこれらの混合物を使用することができることは言うまでもない。
なお、イオン化ミネラルを使用する場合は、例えば、澱粉および/もしくは穀類と種子と卵殻とを所定の割合で混合した原料を粉砕し、次いで浄化水と麹菌を加えて醗酵熟成することにより原料中に含まれているカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、鉄、銅、亜鉛、マンガンなどのミネラルを解離させたのち濾過して得られた醗酵熟成液などが好適に使用することができる。
【0018】
次に、容器16内のヒアルロン酸分散液18の温度が40℃程度まで低下したら、このヒアルロン酸分散液18に対して、酒麹菌、醤油麹菌、味噌麹菌などのほかセルラーゼ(繊維分解酵素)を含む麹菌を単独でまたはこれらの2種以上の麹菌混合物20、砂糖などの糖質22およびミネラル塩24を加えてよく混合したのち、35℃〜45℃に所定期間保持して前記ヒアルロン酸分散液18を醗酵させる。
この場合、麹菌あるいは麹菌混合物20の分量は、ヒアルロン酸分散液18の10重量%〜30重量%の範囲に設定するのが好ましい。麹菌あるいは麹菌混合物20の分量が10重量%未満になると醗酵に長時間を要するだけでなく充分な発酵を行えなくなり、また30重量%を超えると量が多すぎて経済性が低下することになる。
また、糖質22の分量は麹菌あるいは麹菌混合物20よりも若干多めの分量とし、ミネラル塩24の分量は、糖質22の分量の約30重量%程度を目安とする。
【0019】
なお、ヒアルロン酸分散液18の発酵に際しては、公知の手段による攪拌を適宜繰り返して麹菌あるいは麹菌混合物20の発酵を促進させるのが好ましく、この発酵作用によってヒアルロン酸はその酸素結合が切られ、最終的には、やや白濁した粘稠性のある醗酵液となる。
【0020】
次に、このようにして得られた醗酵ヒアルロン酸液26に、例えば、クエン酸、乳酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸などのカルボキシル基を有する有機酸を単独でまたはこれらの2種以上を混合した有機酸溶液28を加え、ヒータなどにより35℃〜45℃に保持した状態で静電磁場および電位差を有する雰囲気、さらに必要に応じて、例えば、28KHz程度の超音波の照射下においてゆっくりと攪拌しながら流動させて熟成(有機酸発酵)する。
この場合、醗酵ヒアルロン酸液26に加える有機酸溶液28の分量としては醗酵ヒアルロン酸液の1倍量〜3倍量に設定するのが好ましく、有機酸溶液28が醗酵ヒアルロン酸液の1倍量以下だと醗酵熟成に長時間を必要とし、また3倍量を超えるとヒアルロン酸自体の量が少なくなるため熟成がうまくできず経済性も低下する。
【0021】
この熟成で、ヒアルロン酸は麹菌あるいは麹菌混合物20の発酵作用によってその酸素結合を切られて有機酸の作用でさらに分断されていくが、この際、ヒアルロン酸のモノマーユニット(一つの断片)末端にはミネラルが適宜結合していくため、分子量2000程度のヒアルロン酸を含む発酵ヒアルロン酸液30として好適に保持されることになる。
なお、この醗酵ヒアルロン酸30の熟成に際しては、適宜の攪拌手段を使用して醗酵ヒアルロン酸を攪拌するとともにポンプ装置などでゆっくり流動させながら行うのが好ましい。
【0022】
そして、このようにして得られた醗酵熟成ヒアルロン酸液30を加熱あるいは紫外線照射などの手段で再び殺菌したのち濾過抽出することにより低分子ヒアルロン酸32を調製した。
【0023】
次にこのような本発明方法により得られた低分子ヒアルロン酸32の質量分析を以下の要領、分析条件で行ったところ、表1に示す結果を得た。
・使用装置 ;レーザーイオン化飛行時間型質量分析装置
AXIMA−CFR (株式会社島津製作所製)
・引き出し電圧 ;20kv
・飛行モード ;Linear
・検出イオン ;正イオン
・マトリックス ;2.5−Dihydroxybenzoic acid(DHB ) 30%エタノール
・サンプル前処理;低分子ヒアルロン酸を水で10倍希釈し、これをマトリックス溶 液と等量混合し、得られた溶液をMALDIプレートにアプライ し、風乾後に質量分析を行った。
【0024】
表 1(観測質量イオンピーク値)
質量数 407.46 535.84 545.78
760.04 1145.57 1360.07
1568.50 1622.23 1634.77
2171.09 3179.69 3326.80
【0025】
この質量測定によると、いくつかのピークが見られたものの凡そ2000をピークトップとする分布が得られたことから、その分子量は約2000であることが確認された。また、ヒアルロン酸のモノマーユニットの分子量が約200であることを勘案すると、8〜10量体前後のヒアルロン酸が混在していることが確認される。
このように分子量が約2000の低分子ヒアルロン酸を得られるのは、麹菌あるいは麹菌混合物による発酵作用によってヒアルロン酸の酸素結合が切られ、この際、ヒアルロン酸のモノマーユニット末端にミネラルが適宜結合してこの状態がバランスよく保持されるからである。
【0026】
また、このようにして得られた低分子ヒアルロン酸に、卵殻膜たんぱく質と呼ばれる加水分解卵殻膜を配合した化粧品を調製すれば、低分子化したヒアルロン酸による肌への浸透性と保湿性および加水分解卵殻膜によるII型コラーゲン量の増加機能の相乗作用を利用して、バリアゾーンないしは真皮など皮膚の内部から肌の柔軟性を増すことができるなど新たなのケアを施すことが可能となるものである。
【0027】
さらに、低分子ヒアルロン酸、卵殻膜たんぱく質およびミネラルの相乗的作用で繊維芽細胞の増殖作用も推認されており、口腔内、歯ぐき、皮膚などのケアに対しても新たな効果を加味することが可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る低分子ヒアルロン酸の製造手順を示す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
10 原料ヒアルロン酸、
12 ミネラル、
14 浄化水、
16 容器、
18 ヒアルロン酸分散液、
20 麹菌、麹菌混合物、
22 砂糖などの糖質、
24 ミネラル塩、
26 醗酵ヒアルロン酸液、
28 有機酸溶液
30 醗酵熟成ヒアルロン酸液
32 低分子ヒアルロン酸
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ヒアルロン酸に関するものであり、一層詳細には、原料となるヒアルロン酸を発酵によって分解し、食品、化粧品、医療品などへの応用を好適に行うことができる、例えば、分子量が凡そ2000の低分子ヒアルロン酸を効率よくの製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸(hyaluronicacid)は、N−アセチル−D−グルコサミンとD−グルクロン酸がβ−1,4結合とβ−1,3結合で交互に結合した二糖単位から形成される直鎖状で分子量が凡そ100万以上の高分子多糖体であり、哺乳動物の眼の硝子体、臍の緒、関節液、皮膚、肋膜液、血清などに分布するほか、鶏冠、鮫の皮、鯨の軟骨さらには連鎖球菌の夾膜などにも存在することが知られている。
【0003】
そしてこのヒアルロン酸は、非常に多量の水と結合してゲル状を呈する保水性、保湿性を有するだけでなく、関節の潤滑作用や皮膚の柔軟性などに関与する粘弾性を備えていることが知られている。
【0004】
近年は、例えば、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus.pyogenes)、ストレプトコッカス・エクイ(Streptococcus・equi)、ストレプトコッカス・エキシミリス(Streptococcus・equisimilis)、ストレプトコッカス・デイスガラクテイエ(Streptococcus・dysgaiactiae)、ストレプトコッカス・ズーエピデミカス(Streptococcus・zooepidemicus)、パスツレラ・マルトシダ(Pasteurella.multocida)などヒアルロン酸の生産能を有する微生物を用いた方法によって良質のヒアルロン酸を入手することができるようになったため、その特性を利用して化粧品、食品の分野などで種々の用途開発がされており、さらには高度な粘り気によって細菌の侵入に対する防御機能もあることが解明されてからは医薬品分野も含めて様々なグレードのものが要求されるようになってきている。
【0005】
すなわち、はじめの頃は生物的活性の高い高分子量のヒアルロン酸が求められていたが、最近の化粧品等の分野においては水に溶けやすくて粘度も低く、成分に配合してもベトツキ感やツッパリ感の少ない低分子量のヒアルロン酸が望まれるようになってきている。
【0006】
このような事情から、高分子量のヒアルロン酸を低分子化する方法として、例えば、ヒアルロン酸含有原料中に含まれているヒアロニダーゼを利用して分解する方法、あるいはペースト化したヒアルロン酸含有原料にアルカリを加えて特殊処理したのち抽出する方法(特許文献1)などが提案されている。
【0007】
【特許文献1】 特公平5−77681号公報
【0008】
しかるに、前者の方法は細菌増殖により産生されたヒアロニダーゼによって低分子化を図るため微生物学的な問題点があるだけでなく、分解程度の制御も困難でその収益率も低いなどの点で工業的には採用しにくく、また、後者のアルカリを用いる方法はヒアロニダーゼを用いる方法に比べればかなりの前進がみられるものの工程数が多くて処理時間が長く、得られるヒアルロン酸の分子量も5万〜15万程度であるため、例えば、表皮の角質層における水分保持(保湿、保水)に有効ではあるもののバリアゾーンから真皮など皮膚の内部からのケアを目指している化粧品分野などの要求にはほとんど対応することができないという問題を有していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、この発明では効率よく安価に製造でき、しかも従来よりもはるかに低分子のヒアルロン酸を得ることができる製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するため、本発明では、わが国で古くから行われている発酵技術に着目し、ミネラルを添加した原料ヒアルロン酸を醗酵させ、ついでこれに有機酸を混合して熟成することにより分解を行って低分子化を図るものである。
【0011】
具体的には、例えば、分子量50万〜120万程度の原料ヒアルロン酸にミネラルを添加して所定量の浄化水で蒸煮することにより殺菌し、つぎに麹菌、酵母、クエン酸菌、乳酸菌、酢酸菌繊維分解酵素(セルラーゼ)を含む麹菌単独でまたはこれらの2種以上の混合物を加えて醗酵させ、次いでこの醗酵ヒアルロン酸原料にクエン酸、乳酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸から選ばれるカルボキシル基を有する有機酸を単独でまたはこれらの2種以上の混合物を混合して35℃〜45℃の温度に保持して熟成し、さらにこれを濾過抽出する手順を採用する。
【0012】
この場合、原料ヒアルロン酸に添加するミネラルとしては、イオン性固体(塩)や解離(イオン化)したミネラルを単独でまたはこれらの混合物を使用することができ、さらに、イオン化ミネラルを使用する場合は、例えば、澱粉および/もしくは穀類と種子と卵殻とを所定の割合で混合した原料を粉砕し、次いで浄化水と麹菌を加えて醗酵熟成することにより原料中に含まれているカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、鉄、銅、亜鉛、マンガンなどのミネラルを解離させたのち濾過することにより得られた醗酵熟成液が好適に使用できる。
【0013】
この手順(プロセス)を採用することにより分子量が約2000の低分子ヒアルロン酸を得ることができる。また、この低分子ヒアルロン酸と加水分解卵殻膜を含む材料で化粧品を調製すれば、皮膚のバリアゾーンないしは真皮などの内部から所望のケアを施すことが可能となるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る低分子ヒアルロン酸の製造方法によれば、原料ヒアルロン酸の分散液は麹菌あるいは麹菌混合物による発酵作用によってヒアルロン酸の酸素結合が切られ、さらに切られたヒアルロン酸のモノマーユニット末端にミネラルが適宜結合してその状態を保持するので、従来に比べるとはるかに低分子量のヒアルロン酸を効率よくしかも安価に製造することができる。
また、本発明方法によって得られた低分子ヒアルロン酸はその分子量が約2000であるため、少量で目的とする所望の効果を充分期待することができるので種々の用途、殊に、化粧品分野への活用を好適に図ることが可能となるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明に係る低分子ヒアルロン酸の製造方法における最良の実施の形態を例示し、以下詳細に説明する。
図1において、本発明に係る低分子ヒアルロン酸の製造方法で使用する原料ヒアルロン酸10は、天然材料あるいはバイオによって得られた高分子量のヒアルロン酸でも、この高分子ヒアルロン酸を化学的あるいは酵素を使用してある程度分解したヒアルロン酸でも特に制限されるものではなく、分子量50万〜120万程度のヒアルロン酸を使用することができるが、効率を勘案すると、分子量は50万〜80万程度のものを使用するのが好ましい。
【0016】
次にこの原料ヒアルロン酸10と、ミネラル12と、水道水(Tapwater)から予め塩素などを除去した浄化水14とを容器16に投入し、適度に攪拌しながら公知の加熱手段で、例えば、85℃以上で30分間程度加熱して殺菌ことによりヒアルロン酸の分散液18を調製する。
この場合、原料ヒアルロン酸10と浄化水14との混合比は、原料ヒアルロン酸1に対して99程度にするのが好ましく、またミネラル12の添加量は原料ヒアルロン酸10と浄化水14の総量に対して1重量%〜10重量%の範囲に設定するのが好適である。
【0017】
一方、原料ヒアルロン酸10に添加するミネラルとしては、本実施の形態においては、表面積が大きい多孔構造でしかもリン含量が低く平均粒径を10μm以下に設定した卵殻粉(炭酸カルシウム)や炭酸マグネシウムなどのイオン性固体(塩)を使用するが、あらかじめ解離(イオン化)したミネラルあるいはこれらの混合物を使用することができることは言うまでもない。
なお、イオン化ミネラルを使用する場合は、例えば、澱粉および/もしくは穀類と種子と卵殻とを所定の割合で混合した原料を粉砕し、次いで浄化水と麹菌を加えて醗酵熟成することにより原料中に含まれているカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、鉄、銅、亜鉛、マンガンなどのミネラルを解離させたのち濾過して得られた醗酵熟成液などが好適に使用することができる。
【0018】
次に、容器16内のヒアルロン酸分散液18の温度が40℃程度まで低下したら、このヒアルロン酸分散液18に対して、酒麹菌、醤油麹菌、味噌麹菌、セルラーゼ(繊維分解酵素)を含む麹菌を単独でまたはこれらの2種以上の麹菌混合物20、砂糖などの糖質22およびミネラル塩24を加えてよく混合したのち、35℃〜45℃に所定期間保持して前記ヒアルロン酸分散液18を醗酵させる。
この場合、麹菌あるいは麹菌混合物20の分量は、ヒアルロン酸分散液18の10重量%〜30重量%の範囲に設定するのが好ましい。麹菌あるいは麹菌混合物20の分量が10重量%未満になると醗酵に長時間を要するだけでなく充分な発酵を行えなくなり、また30重量%を超えると量が多すぎて経済性が低下することになる。
また、糖質22の分量は麹菌あるいは麹菌混合物20よりも若干多めの分量とし、ミネラル塩24の分量は、糖質22の分量の約30重量%程度を目安とする。
【0019】
なお、ヒアルロン酸分散液18の発酵に際しては、公知の手段による攪拌を適宜繰り返して麹菌あるいは麹菌混合物20の発酵を促進させるのが好ましく、この発酵作用によってヒアルロン酸はその酸素結合が切られ、最終的には、やや白濁した粘稠性のある醗酵液となる。
【0020】
次に、このようにして得られた醗酵ヒアルロン酸液26に、例えば、クエン酸、乳酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸から選ばれるカルボキシル基を有する有機酸を単独でまたはこれらの2種以上を混合した有機酸溶液28を加え、ヒータなどにより35℃〜45℃に保持した状態で静電磁場および電位差を有する雰囲気、さらに必要に応じて、例えば、28KHz程度の超音波の照射下においてゆっくりと攪拌しながら流動させて熟成(有機酸発酵)する。
この場合、醗酵ヒアルロン酸液26に加える有機酸溶液28の分量としては醗酵ヒアルロン酸液の1倍量〜3倍量に設定するのが好ましく、有機酸溶液28が醗酵ヒアルロン酸液の1倍量以下だと熟成醗酵に長時間を必要とし、また3倍量を超えるとヒアルロン酸自体の量が少なくなるため熟成がうまくできず経済性も低下する。
【0021】
この熟成で、ヒアルロン酸は麹菌あるいは麹菌混合物20の発酵作用によってその酸素結合を切られて有機酸の作用でさらに分断されていくが、この際、ヒアルロン酸のモノマーユニット(一つの断片)末端にはミネラルが適宜結合していくため、分子量2000程度のヒアルロン酸を含む発酵ヒアルロン酸液30として好適に保持されることになる。
なお、この醗酵ヒアルロン酸30の熟成に際しては、適宜の攪拌手段を使用して醗酵ヒアルロン酸を攪拌するとともにポンプ装置などでゆっくり流動させながら行うのが好ましい。
【0022】
そして、このようにして得られた醗酵熟成ヒアルロン酸液30を加熱あるいは紫外線照射などの手段で再び殺菌したのち濾過抽出することにより低分子ヒアルロン酸32を得た。
【0023】
次に前述のような本発明方法により得られた低分子ヒアルロン酸32の質量分析を以下の要領、分析条件で行ったところ、表1に示す結果を得た。
・使用装置 ;レーザーイオン化飛行時間型質量分析装置
AXIMA−CFR (株式会社島津製作所製)
・引き出し電圧 ;20kv
・飛行モード ;Linear
・検出イオン ;正イオン
・マトリックス ;2.5−Dihydroxybenzoic acid(DHB) 30%エタノール
・サンプル前処理;低分子ヒアルロン酸を水で10倍希釈し、これをマトリックス溶液と等量混合し、得られた溶液をMALDIプレートにアプライし、風乾後に質量分析を行った。
【0024】
【表1】

【0025】
この質量測定によると、いくつかのピークが見られたものの凡そ2000をピークトップとする分布が得られたことから、その分子量は約2000であることが確認された。また、ヒアルロン酸のモノマーユニットの分子量が約200であることを勘案すると、8〜10量体前後のヒアルロン酸が混在していることが確認される。
このように分子量が約2000の低分子ヒアルロン酸を得られるのは、麹菌あるいは麹菌混合物による発酵作用によってヒアルロン酸の酸素結合が切られ、この際、ヒアルロン酸のモノマーユニット末端にミネラルが適宜結合してこの状態がバランスよく保持されるからである。
【0026】
また、このようにして得られた低分子ヒアルロン酸に、卵殻膜たんぱく質と呼ばれる加水分解卵殻膜を配合した化粧品を調製すれば、低分子化したヒアルロン酸による肌への浸透性と保湿性および加水分解卵殻膜によるII型コラーゲン量の増加機能の相乗作用を利用して、バリアゾーンないしは真皮など皮膚の内部から肌の柔軟性を増すことができるなど新たなのケアを施すことが可能となるものである。
【0027】
さらに、低分子ヒアルロン酸、卵殻膜たんぱく質およびミネラルの相乗的作用で繊維芽細胞の増殖作用も推認されており、口腔内、歯ぐき、皮膚などのケアに対しても新たな効果を加味することが可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る低分子ヒアルロン酸の製造手順を示す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
10 原料ヒアルロン酸、
12 ミネラル、
14 浄化水、
16 容器、
18 ヒアルロン酸分散液、
20 麹菌、麹菌混合物、
22 砂糖などの糖質、
24 ミネラル塩、
26 醗酵ヒアルロン酸液、
28 有機酸溶液
30 醗酵熟成ヒアルロン酸液
32 低分子ヒアルロン酸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ヒアルロン酸にミネラルを含有させた状態で麹・有機酸発酵させることを特徴とする低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項2】
分子量50万〜120万程度の原料ヒアルロン酸にミネラルを添加して所定量の浄化水で蒸煮することにより殺菌し、つぎに麹菌、酵母、クエン酸菌、乳酸菌、酢酸菌のほか繊維分解酵素を含む麹菌などを単独でまたはこれらの2種以上の混合物を加えて醗酵させ、次いでこの醗酵ヒアルロン酸原料にクエン酸、乳酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸などのカルボキシル基を有する有機酸を単独でまたはこれらの2種以上の混合物を混合して所定温度に保持して熟成し、さらにこれを濾過抽出することを特徴とする請求項1に記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項3】
ミネラルとして、イオン性固体(塩)やイオン化ミネラルなどを単独でまたはこれらの混合物を使用することからなる請求項1または請求項2に記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかの方法によって製造された分子量が約2000の低分子ヒアルロン酸。
【請求項5】
請求項4の低分子ヒアルロン酸と加水分解卵殻膜とを含む化粧品材料。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミネラルを添加した原料ヒアルロン酸を醗酵させ、ついでこれに有機酸を混合して熟成することを特徴とする低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項2】
分子量50万〜120万程度の原料ヒアルロン酸にミネラルを添加して所定量の浄化水で蒸煮することにより殺菌し、つぎに麹菌、酵母、クエン酸菌、乳酸菌、酢酸菌繊維分解酵素を含む麹菌単独でまたはこれらの2種以上の混合物を加えて醗酵させ、次いでこの醗酵ヒアルロン酸原料にクエン酸、乳酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸から選ばれるカルボキシル基を有する有機酸を単独でまたはこれらの2種以上の混合物を混合して35℃〜45℃の温度に保持して熟成し、さらにこれを濾過抽出することを特徴とする請求項1に記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項3】
ミネラルとして、イオン性固体(塩)、イオン化ミネラルを単独でまたはこれらの混合物を使用することからなる請求項1または請求項2に記載の低分子ヒアルロン酸の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−271351(P2006−271351A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−122896(P2005−122896)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【特許番号】特許第3767627号(P3767627)
【特許公報発行日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【出願人】(591135200)
【出願人】(505148519)
【Fターム(参考)】