説明

低分子量ポリフェニレンエーテルを含有する密着性に優れた塗料

【課題】亜鉛メッキ鋼板などの鋼材に対し塗膜密着性に優れた塗料を提供する。
【解決手段】 低分子量ポリフェニレンエーテル、更には1分子鎖あたりの水酸基を複数有する低分子量ポリフェニレンエーテルを、ポリフェニレンエーテルを含まない樹脂、特にエポキシ樹脂等の塗料用樹脂に特定の割合で配合することにより、塗膜密着性に優れた塗料が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定のポリフェニレンエーテルの新規な用途に関するものである。さらに詳しくは自動車の車体及びバンパーや、建築材料の構造物などに使われる亜鉛メッキ鋼板、アルミ鋼板などの鋼板に対する塗膜密着性に優れた塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気亜鉛メッキ鋼板や溶融亜鉛メッキ鋼板、アルミ鋼板等の剛材は自動車、家電、構造物などに広く用いられており、優れた防錆性を有する表面処理鋼板に対する要求が強い。一般に防錆を目的とする表面処理鋼板は、亜鉛メッキを施した後に6価クロム酸塩等の水溶液処理により防錆被膜を形成する手法がとられている。この処理を施した、いわゆるクロメート処理層は、それ自身で高度の防錆性及び塗膜密着性を有するものである。
しかし、近年6価クロムによる作業環境や設置場所のクロム汚染の問題、製品が廃棄される段階での6価クロムの溶出の懸念が指摘されており、6価クロム酸塩等の水溶液処理によるクロメート処理を省略する動きがある。
【0003】
一方、塗装による防錆は、金属表面の酸素との接触を遮断する技術とした手法が一般的で、エポキシ塗料、アクリル塗料、ウレタン塗料などの高分子塗装被膜を形成する手法が当業者に公知である。
しかし、クロメート処理を行わない亜鉛メッキ鋼板などの鋼板の場合、塗装膜と鋼板との密着性が低下し、その結果防錆性能が低下することが懸念される。
塗膜密着性を向上させるため、樹脂骨格中に含まれる水酸基に注目した塗料組成物が特許文献1に提案されている。樹脂骨格中に水酸基を多く含むエポキシ樹脂を用いることで、金属板との塗膜密着性の向上に有効であるが、クロメート処理を行わない亜鉛メッキ鋼板の鋼板との密着性は充分とはいえない。従ってさらに密着性を向上させるには、樹脂組成物中に含まれる水酸基の濃度を高めることが必要と考えられる。
【0004】
ポリフェニレンエーテルは加工性・生産性に優れ、溶融射出成形法や溶融押出成形法などの成形方法により所望の形状の製品、部品を効率良く生産できるため、電気・電子分野、自動車分野、その他の各種工業材料分野、包装分野の製品、部品用の材料として幅広く用いられている。
ポリフェニレンエーテルは、フェノール性化合物の水酸基を酸化カップリングすることで重合体として得られることから推察されるに、高分子鎖の分子鎖末端は水酸基であり、鋼板との密着性があると考えられる。しかし、溶融射出成形法や溶融押出成形法などの成形方法で用いられるポリフェニレンエーテルは比較的分子量の高いことから水酸基の量が少なく、鋼板との密着性が不十分である。
【0005】
さらなる密着性向上を望むなら分子鎖末端の水酸基の濃度を高めればよい、すなわち分子量を下げポリマー単位重量当たりの分子鎖数を増やすのが有効との類推は難しくはない。このように低分子量化は密着性の向上に有効であるが、一方で単に分子量を小さくするだけでは塗膜の強度は低下するため、低分子量のポリフェニレンエーテル自体の塗料としての性能は必ずしも十分ではない。なお、低分子量のポリフェニレンエーテル自体は、特許文献2、特許文献3及び特許文献4などに開示されている。
【特許文献1】特開2004−344779
【特許文献2】特公昭50−6520号
【特許文献3】特開昭62−39628号
【特許文献4】米国特許第6211327号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、亜鉛メッキ鋼板、アルミ鋼板などの剛材に対し、密着性に優れた塗料を提供することを目的とする。
一般に防錆を目的とした表面処理鋼板は亜鉛メッキを施した後に6価クロム酸水溶液処理により防錆被膜を形成する手法がとられている。しかし、6価クロムによる作業環境や設置場所のクロム汚染の問題、製品を廃棄する段階での6価クロムの溶出の懸念が指摘され、クロム水溶液処理などのクロメート処理を省略する動きがある。
一方、塗装による防錆は、エポキシ塗料、アクリル塗料、ウレタン塗料など高分子塗装被膜を形成することにより金属表面の大気中の酸素や水分との接触を遮断することが一般的である。しかし、クロメート処理を行わない場合、塗装膜との密着性が低下し、その結果防錆性能が必ずしも十分とはいえなく、より密着性の良好な塗料が望まれる。
本発明は、クロメート処理を行わない亜鉛メッキ鋼板などの剛材に対する塗膜密着性に優れた塗料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、低分子量ポリフェニレンエーテルは密着性向上に必要だが、一方で分子量を低下させることにより塗膜の強度及び密着性の低下、さらにはクロメート処理を行わない鋼板とのの密着性が低下することが懸念される。しかし密着性はポリフェニレンエーテル鎖に複数の水酸基を導入することで補えること、さらに低分子量ポリフェニレンエーテルを塗料として用いられる樹脂と混合して用いることが密着性を向上するに好ましいこと等が明らかとなった。
その結果、低分子量、さらに分子量あたり複数の水酸基を有する低分子量ポリフェニレンエーテルは、ポリフェニレンエーテルを含まない塗料、特にエポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂等の塗料用樹脂と併用して使用することにより、亜鉛メッキ鋼板などの剛材に対する塗膜密着性に優れた塗料として適することを見出し本発明をなすに至った。
【0008】
即ち、本発明は、
1.30℃において濃度0.5g/dlのクロロホルム溶液中で測定した還元粘度が0.04〜0.18dl/g であることを特徴とする低分子量ポリフェニレンエーテルを含有する塗料。
2.該低分子量ポリフェニレンエーテルが、1分子鎖当たりの水酸基が1.1ヶ以上2.0ヶ以下であることを特徴とする上記1記載の低分子量ポリフェニレンエーテルを含有する塗料。
3.該低分子量ポリフェニレンエーテルの一部又は全部が、低分子量ポリフェニレンエーテルとエポキシ化合物、又はフマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ハロゲン化マレイン酸から選ばれるジカルボン酸又はこれらの酸無水物、又はアクリル酸、メタクリル酸から選ばれるモノカルボン酸とを反応させて得られる官能化されたポリフェニレンエーテルであることを特徴とする上記1又は2記載の低分子ポリフェニレンエーテルを含有する塗料。
4.該低分子量ポリフェニレンエーテルが、2,6−ジメチルフェノール、または2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールの混合物から得られる重合体であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の低分子量ポリフェニレンエーテルを含有する塗料。
5.該低分子量ポリフェニレンエーテルが、下記の一般式(1)で表される2価フェノール化合物を用いた重合体であることを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載の低分子量ポリフェニレンエーテルを含有する塗料。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Q1、Q2は各々同一または異なる置換基を表し、水素、アルキル基、置換アルキル基、アラルキル基、置換アラルキル基、アリール基、置換アリール基、アルコキシ基、置換アルコキシ基又はハロゲンを表し、各々同一でも異なってもよい。:Xは脂肪族炭化水素残基及びそれらの置換誘導体、酸素、イオウまたはスルホニル基を表し、Q2、Xの結合位置はフェノール水酸基に対してオルソ位またはパラ位である。)
6.上記1〜5のいずれかに記載の該低分子量ポリフェニレンエーテルを含有する塗料が、該低分子量ポリフェニレンエーテル(a)と、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂(b)からなり、かつ(a)と(b)の重量比(a)/(b)が0.5/99.5〜20/80からなることを特徴とする低分子量ポリフェニレンエーテルを含有する塗料。
【発明の効果】
【0011】
本発明に基づけば、塗膜の強度が高く、かつ金属鋼板との密着性に優れた塗料の製造が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明における低分子量ポリフェニレンエーテルの還元粘度は0.04〜0.18dl/g、好ましくは0.04〜0.15dl/g、さらに好ましくは0.05〜0.13dl/gである。還元粘度は0.5g/dlの濃度のクロロホルム溶液とし、ウベローデ粘度管を用いて30℃において測定することにより測定できる。本発明の低分子量ポリフェニレンエーテルの密着性は水酸基が多いほど、換言すれば分子量が小さいほど優れるが、塗膜の密着性及び塗膜の強度に関しては、分子量が小さすぎると低下の傾向にある。
本発明に用いられる低分子量ポリフェニレンエーテル原料となるフェノール化合物は次のような一般式(2)の構造を持つ化合物である。
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、R1、R2、R3は各々独立の置換基を表し、R1はアルキル基、置換アルキル基、アラルキル基、置換アラルキル基、アリール基、置換アリール基、アルコキシ基、置換アルコキシ基であり、R2、R3はR1について定義されたものと同一の基に加え、更に水素、ハロゲンであっても良い。)
【0015】
該化合物の例としては例えば、o−クレゾール、2,6−ジメチルフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール、2−エチルフェノール、2−メチル−6−エチルフェノール、2,6−ジエチルフェノール、2−n−プロピルフェノール、2−エチル−6−n−プロピルフェノール、2−メチル−6−クロルフェノール、2−メチル−6−ブロモフェノール、2−メチル−6−イソプロピルフェノール、2−メチル−6−n−プロピルフェノール、2−エチル−6−ブロモフェノール、2−メチル−6−n−ブチルフェノール、2,6−ジ−n−プロピルフェノール、2−エチル−6−クロルフェノール、2−メチル−6−フェニルフェノール、2−フェニルフェノール、2,6−ジフェニルフェノール、2,6−ビス−(4−フルオロフェニル)フェノール、2−メチル−6−トリルフェノール、2,6−ジトリルフェノール等が挙げられる。これらの化合物はそれぞれ単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。また少量のm−クレゾール、p−クレゾール、2,4−ジメチルフェノール、2,4,6−トリメチルフェノール等を含んでいても実質上差し支えない。これらの中で2,6−ジメチルフェノールは工業上重要である。また2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの組み合わせ、あるいは2,6−ジメチルフェノールと2,6−ジフェニルフェノールとの組み合わせも好ましく用いられる。
【0016】
本発明の低分子量ポリフェニレンエーテルは分子鎖あたり1.0ケ以上,より好ましくは1.5ケ以上の水酸基を持つことが好ましい。通常ポリフェニレンエーテルは,分子鎖の片末端に水酸基を有する。さらに水酸基数を増やすには,ジフェノキノンに代表されるキノン類とカップリングさせる方法が知られている。更により多くの水酸基を導入するには,フェノール化合物として前記一般式(1)で表される二価フェノール化合物を共重合させることは好ましい。
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、Q1、Q2は水素、アルキル基、置換アルキル基、アラルキル基、置換アラルキル基、アリール基、置換アリール基、アルコキシ基、置換アルコキシ基またはハロゲンであり、各々同一でも異なっていてもよい:Xは脂肪族炭化水素残基またはそれらの置換誘導体、酸素、イオウまたはスルホニル基を表し、Q2,Xの結合位置はフェノール水酸基に対してオルソ位またはパラ位である。)
該化合物の例としては例えば、下記一般式(1−a)、(1−b)、(1−c)の各々の構造に挙げる化合物群がある。
【0019】
【化4】

【0020】
【化5】

【0021】
【化6】

【0022】
(式中、Q1、Q2は水素、アルキル基,置換アルキル基,アラルキル基,置換アラルキル基,アリール基,置換アリール基,アルコキシ基,置換アルコキシ基またはハロゲンを表し、各々同一でも異なっていてもよい:Xは脂肪族炭化水素残基またはそれらの置換誘導体、酸素、イオウまたはスルホニル基である。)
【0023】
上記一般式の構造を持つもので代表的なものは、Q1、Q2がメチル基でXがイソプロピリデンである化合物、Q1とQ2がメチル基でXがメチレンである化合物、Q1とQ2がメチル基でXがチオである化合物、Q1とQ2がメチル基でXがシクロヘキシリデンである化合物等であるがこれらの例に限定されないことはいうまでもない。
これらの二価フェノール性化合物は一種類でも用いられるし、2種以上組み合わせて用いても良い。二価フェノール性化合物を含有される量は特に限定されないが、一価フェノール類に対して0.1〜30モル%とするのが好ましい。
低分子量ポリフェニレンエーテル分子鎖中に存在する水酸基の数は,塗膜の密着性の向上に重要である。詳細は明らかではないが、水酸基が地金の金属やトップコート塗膜成分と相互作用を持つと推定され、分子鎖あたり複数個の水酸基、具体的には1.0ケ〜2.0ケ、好ましくは1.1ヶ〜2.0ヶの水酸基を有することがより好ましい。水酸基の数は、NMR法または、GPCとUV分光光度計を併用する方法などにより定量できる。
【0024】
一般にポリフェニレンエーテルを得る方法としては、ポリフェニレンエーテルの貧溶媒を重合溶媒として用い、重合の進行に伴ってポリフェニレンエーテルが粒子として析出する沈殿重合法と、良溶媒を重合溶媒として用い、ポリフェニレンエーテルが溶媒中に溶解している溶液重合法が知られているが、本発明の低分子量ポリフェニレンエーテルは、どちらの方法を用いても得ることができる。
析出重合法,即ちポリフェニレンエーテルの貧溶媒を重合溶媒として用い、重合の進行に伴ってポリフェニレンエーテルを析出させる沈殿重合法を用いる場合には、貧溶媒と良溶媒を組み合わせて用いることが好ましい。貧溶媒としては、炭素数1〜10のアルコールが好ましく,メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、エチレングリコールが例示できる。複数のアルコールを併用することも任意である。この貧溶媒は水を含んでいないことが好ましい。良溶媒は,低分子量ポリフェニレンエーテルを溶解させない範囲で用いられる。
【0025】
一方、ポリフェニレンエーテルの良溶媒を重合溶媒として用い、得られた低分子量ポリフェニレンエーテルを含む溶液に貧溶媒を添加して低分子量ポリフェニレンエーテルを析出させる溶液重合法を用いることもできる。
良溶媒としてはベンゼン、トルエン、キシレン(o−、m−、p−の各異性体を含む)、エチルベンゼン、スチレン等の芳香族炭化水素、クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、ニトロベンゼンのようなニトロ化合物が挙げられる。好ましい良溶媒はトルエンである。溶液中の低分子量ポリフェニレンエーテルの濃度は特に制限されないが、25〜70重量%が好ましい。重合溶液は、そのまま塗料原料として用いることが可能であるが、重合時に用いたものと異なる溶剤系の塗料を得るには析出操作が必要である。
【0026】
低分子量ポリフェニレンエーテルの析出操作は、攪拌機を有する適当な大きさの槽に連続的に低分子量ポリフェニレンエーテルを含む溶液と貧溶媒を添加する方法、低分子量ポリフェニレンエーテルを含む溶液が入った槽に貧溶媒を添加する方法、貧溶媒が入った槽に低分子量ポリフェニレンエーテルを含む溶液を添加する方法、管型スタティックミキサーに連続的に低分子量ポリフェニレンエーテルを含む溶液と貧溶媒を添加する方法等が例示できる。貧溶媒としてはエーテル類、ケトン類またはアルコール類が挙げられる。好ましくは炭素数1〜10のアルコールであり、さらに好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールおよびエチレングリコールから選ばれる少なくとも1種である。これらには水が含まれていても良い。析出温度は−80〜+20℃が好ましい。
【0027】
又、低分子量ポリフェニレンエーテルを塗料の1成分として用いるに際し、本発明の目的を損なわない範囲でポリスチレン系樹脂を混合してもよい。ポリスチレン系樹脂の好ましい添加量は、低分子量ポリフェニレンエーテル100重量部につき1〜45重量部である。
塗料としての総合的性能、即ち塗膜の強度、塗膜硬度、耐傷つき性、外観、密着性及び耐光性が求められることから、ポリフェニレンエーテルを含まない塗料と混合して用いる手法は好ましい実施形態の一つである。低分子量ポリフェニレンエーテルと混合することのできるポリフェニレンエーテルを含まない塗料としては、例えばエポキシ樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シアネートエステル樹脂、キシレン樹脂、トリアジン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ウレタン樹脂、ケトン樹脂、フラン樹脂、スチリルピリジン樹脂、シリコーン樹脂、合成ゴムなどからなる塗料が好ましい。中でも、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂からなる塗料が好適である。特に、エポキシ樹脂からなる塗料はポリフェニレンエーテル鎖の水酸基と相溶性が良く、最も好ましい選択である。
【0028】
本発明において、好適に用いられるエポキシ樹脂は、分子中に少なくとも2個の、エポキシ基を有する化合物であればよく、特に制限されるものではない。一例として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、多官能型エポキシ樹脂等を挙げることができ、これらのエポキシ樹脂は単独又は二種以上を混合して用いることができる。
これら塗料の好ましい混合比率は、低分子量ポリフェニレンエーテル(a)とポリフェニレンエーテルを含まない塗料、つまりエポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂(b)との重量比(a)/(b)において、(a)が0.5以上であれば本発明の密着性を向上させることができ、好ましくは2以上、より好ましくは5以上であり、また、塗膜の強度及び密着性を低下させないためには(a)が20以下であり、好ましくは18以下、より好ましくは15以下である。
【0029】
本発明における分子鎖当たりの水酸基が1.0ヶ以上2.0以下、好ましくは1.1ヶ以上2.0以下の範囲を満足する限り、ポリフェニレンエーテルを含まない塗料との相性を高める目的で、ポリフェニレンエーテルの一部又は全部を予めエポキシ化合物やフマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ハロゲン化マレイン酸などのカルボン酸又はこれらの酸無水物、アクリル酸、メタクリル酸などのモノカルボン酸を用いて変性することも可能である。反応して得られる官能化されたポリフェニレンエーテルの量は、低分子量ポリフェニレンエーテルと官能化されたポリフェニレンエーテルの合計量に対し20重量%以下が好ましく、さらに好ましくは10重量%以下である。また、変性方法は特に制限はなく、押出機や反応器を用い、当業者公知の方法で実施できる。好適な変性率は、塗料の使用目的や条件に応じて変化するため、用途毎に適宜設定すれば良い。
【0030】
本発明における上記低分子量ポリフェニレンエーテルの平均粒径は、特に制限はないが、ポリフェニレンエーテルを含まない塗料に対する溶解性を向上させるために、300μm以下にすることが好ましく、より好ましくは該平均粒径を100μm以下、更に好ましくは該平均粒径を50μm以下にすることが好適に用いられる。上記平均粒径が300μm以下、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは50μm以下の低分子量ポリフェニレンエーテルを得るには、機械的に粉砕する方法、或いは機械的に粉砕した後、分粒する方法等を用いることができる。
【0031】
上記の機械的粉砕には、任意の粉砕機を使用できるが、例えば、高速回転式衝撃粉砕機(ハンマーミル、ピンミル、ディスクミル、遠心分級ミル等)、ローラーミル、エロフォールミル、ボールミル(転動ミル、振動ミル等)、媒体撹拌型粉砕機(塔式粉砕機、撹拌槽型粉砕機、流通管型粉砕機等)、ジェットミル、コロイドミル等を挙げることができる。また、液体窒素等を利用して該ポリフェニレンエーテル及び粉砕機容器内を冷却した上で上記粉砕機等を用いて粉砕する(凍結粉砕)方法も適宜用いられる。また、粉砕後の分級には、乾式分粒器、湿式分粒器、フィルター分粒器等を用いて、重量方式、遠心力方式、慣性力方式等で所望の粒径を得ることができる。
本塗料に許される範囲で亜鉛系、鉛系防錆成分を配合することも任意にできる。粘度調節剤、顔料、染料、熱安定剤、光安定剤の配合も任意に添加できる。塗装方法については特に制限することはなく、公知の方法で可能である。
以下、実施例に基づき、本発明を説明する。
【実施例】
【0032】
<ポリフェニレンエーテルの合成方法>
[合成例1]
反応器底部に酸素含有ガス導入の為のスパージャー、攪拌タービン翼及びバッフル、反応器上部のベントガスラインに還流冷却器を備えた1.5リットルのジャケット付き反応器に、0.2512gの塩化第二銅2水和物、1.1062gの35%塩酸、3.6179gのジ−n−ブチルアミン、9.5937gのN,N,N‘,N’−テトラメチルプロパンジアミン、211.63gのメタノール及び493.80gのn−ブタノールおよび180.0gの2,6−ジメチルフェノールを入れた。溶媒の組成重量比はn−ブタノール:メタノール=70:30である。次いで激しく攪拌しながら反応器へ180ml/minの速度で酸素をスパージャーより導入を始めると同時に、重合温度は40℃を保つようにジャケットに熱媒を通して調節した。重合液は次第にスラリーの様態を呈した。重合中、反応器に付着は観測されなかった。酸素を導入し始めてから120分後、酸素の通気をやめ、得られた重合混合物にエチレンジアミン四酢酸3カリウム塩(同仁化学研究所製試薬)の10%水溶液を添加し、50℃に温めた。次いでハイドロキノン(和光純薬社製試薬)を少量ずつ添加し、スラリー状のポリフェニレンエーテルが白色となるまで、50℃での保温を続けた。終了後、濾過して、濾残の湿潤ポリフェニレンエーテルを50%の水を含むメタノール洗浄溶媒に投入し、60℃で攪拌を行った。続いて再び濾過し、濾残に50%の水を含むメタノールをふりかけ洗浄し湿潤ポリフェニレンエーテルを得た。次いで110℃で真空乾燥し乾燥ポリフェニレンエーテルを得た。
【0033】
[合成例2]
使用した溶媒の全量は変えずに組成重量比をn−ブタノール:メタノール=30:70とし,フェノール化合物を2.5モル%の2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンを含む2,6−ジメチルフェノールを用いた以外は実施例1と同様の方法でポリフェニレンエーテルを得た。
【0034】
[合成例3]
使用した溶媒の全量は変えずに組成重量比をキシレン:n−ブタノール:メタノール=60:20:20とし、洗浄溶媒として、メタノールを用いた以外は実施例1の方法でポリフェニレンエーテルを得た。
【0035】
<ポリフェニレンエーテルの分析方法>
[還元粘度(ηsp/c)]
ポリフェニレンエーテルを0.5g/dlのクロロホルム溶液として、ウベローデ粘度管を用いて30℃で測定した。単位はdl/gである。
【0036】
[分子量]
昭和電工(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィーSHODEX・GPCsystem21でエチルベンゼンと標準ポリスチレンを用いて検量線を作成し測定した。標準ポリスチレンの分子量は550、1300、9680、28600、65900、172000、629000、996000、1960000、3900000のものを用いた。カラムはSHODEX製K−802.5を直列に2本つないで使用した。また、溶媒はクロロホルム、溶媒の流量は1.0ml/min、カラムの温度は40℃で測定した。検出部にはUV検出器を用い、波長は標準ポリスチレンの検量線作成にあたっては254nm、測定対象のポリフェニレンエーテルにあたっては283nmで測定した。サンプルをクロロホルムに溶かし、メンブランフィルターで不溶液を除去し溶液を測定した。
【0037】
[水酸基数]
高分子論文集、vol.51、No.7(1994)、480ページ記載の方法に従い、ポリフェニレンエーテルの塩化メチレン溶液にテトラアンモニウムハイドロオキシド溶液を加えたときの318nmにおける吸光度変化を紫外可視吸光光度計で測定した値と先の分子量測定で得られた数平均分子量の値から算出した。
【0038】
<塗膜の評価方法>
試験片の下地として0.95%炭素綱板、亜鉛鉄板(JIS G 3302)を用い、メチルエチルケトンを用いて表面を洗浄した。
ポリフェニレンエーテル以外の樹脂(b)としてビスフェノールA型液状エポキシ樹脂を用いた(以下エポキシ樹脂と略)。
実施例1〜4、比較例3、4、5は、合成例1、2、3で得たポリフェニレンエーテル(a)をエポキシ樹脂に、表1の示す通り配合させた後、エポキシ樹脂の硬化剤としてトリエチレンテトラミンをエポキシ樹脂のエポキシ当量に対し、1.2倍の活性水素当量相当分を添加させた。得られた液をバーコーターで塗布し、室温で10時間放置後、100℃、30分間乾燥し塗膜試験片を得た。比較例1は実施例で用いたエポキシ樹脂を用いて同様の操作を行い、塗膜試験片を得た。また、比較例2、は合成例2で得たポリフェニレンエーテル(a)をトルエンに溶解させ5重量%とした溶液を、同じくバーコーターで塗布し、室温で5分間乾燥させた後、比較例2は170℃で乾燥し塗膜試験片を得た。また、比較例5は合成例3で得たポリフェニレンエーテル(a)をエポキシ樹脂に配合したが、溶解せず評価できなかった。
【0039】
(塗膜剥離評価)
上記で得られた各試験片の塗膜に1mm間隔で、縦、横のクロスカットを施し、セロハンテープを密着させ、強く剥離した時の塗膜の状態を下記の基準により評価した。その結果を表2に示した。
◎:剥離が認められない、○:僅かに剥離が認められる、△:かなりの剥離が認められる、×:著しい剥離が認められる。
(環境サイクル試験後の密着性評価)
上記で得られた試験片を試料とし、JIS−Z−2371に規定されている環境サイクル試験を実施した。即ち、塩水噴霧(2時間)−乾燥(60℃、湿度15〜20%)−湿潤(50℃、湿度50%以上)を1サイクルとし、環境サイクル試験を3サイクル行った。試験後の試験片を取り出し、表面を乾燥させた時の塗膜の状態を下記の基準により評価した。その結果を表2に示した。
◎:剥離が認められない、○:僅かな剥離が認められる、△:かなりの剥離が認められる、×:著しい剥離が認められる。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の塗料は、電気亜鉛メッキ鋼板や溶融亜鉛メッキ鋼板などの鋼板との塗膜密着性に優れ、自動車部品の車体及びバンパー、建築材料の構造物、家電等の塗装に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
30℃において濃度0.5g/dlのクロロホルム溶液中で測定した還元粘度が0.04〜0.18dl/gであることを特徴とする低分子量ポリフェニレンエーテルを含有する塗料。
【請求項2】
該低分子量ポリフェニレンエーテルが、1分子鎖当たりの水酸基が1.1ヶ以上2.0ヶ以下であることを特徴とする請求項1記載の低分子量ポリフェニレンエーテルを含有する塗料。
【請求項3】
該低分子量ポリフェニレンエーテルの一部又は全部が、低分子量ポリフェニレンエーテルとエポキシ化合物、又はフマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ハロゲン化マレイン酸から選ばれるジカルボン酸又はこれらの酸無水物、又はアクリル酸、メタクリル酸から選ばれるモノカルボン酸とを反応させて得られる官能化されたポリフェニレンエーテルであることを特徴とする請求項1又は2記載の低分子量ポリフェニレンエーテルを含有する塗料。
【請求項4】
該低分子量ポリフェニレンエーテルが、2,6−ジメチルフェノール、または2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールの混合物から得られる重合体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の低分子量ポリフェニレンエーテルを含有する塗料。
【請求項5】
該低分子量ポリフェニレンエーテルが、下記の一般式(1)で表される2価フェノール化合物を用いた重合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の低分子量ポリフェニレンエーテルを含有する塗料。
【化1】

(式中、Q1、Q2は各々同一または異なる置換基を表し、水素、アルキル基、置換アルキル基、アラルキル基、置換アラルキル基、アリール基、置換アリール基、アルコキシ基、置換アルコキシ基又はハロゲンを表し、各々同一でも異なってもよい。:Xは脂肪族炭化水素残基及びそれらの置換誘導体、酸素、イオウまたはスルホニル基を表し、Q2、Xの結合位置はフェノール水酸基に対してオルソ位またはパラ位である。)
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の低分子量ポリフェニレンエーテルを含有する塗料が、該低分子量ポリフェニレンエーテル(a)とエポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂(b)からなり、かつ(a)と(b)の重量比(a)/(b)が0.5/99.5〜20/80からなることを特徴とする低分子量ポリフェニレンエーテルを含有する塗料。

【公開番号】特開2006−298962(P2006−298962A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−118127(P2005−118127)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】