説明

低動摩擦係数性シリコーンゴム組成物

【課題】動摩擦係数が小さく、すべり性が良好な成形物が得られる低動摩擦係数性シリコーンゴム組成物を提供する。
【解決手段】(A)1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン、
(B)繊維状の摺動性向上充填剤、及び
(C)硬化剤
を含有してなる低動摩擦係数性シリコーンゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動摩擦係数が小さく、すべり性が良好な硬化物を与える低動摩擦係数性シリコーンゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にゴム部品は、他の部材との接触の際、摩擦抵抗が大きく、摺動による磨耗傷により耐久性に乏しい。そのため、磨耗を低減する目的でなんらかの減摩処理が施されている。潤滑油などを部材表面に付与することによって潤滑性を向上させることができるが、潤滑油による汚れをもたらす。塩素化処理、フッ素化処理などのハロゲン処理を施すことにより、減摩効果を発現することができる。
【0003】
ワイパーブレードラバーには、ウィンドシールドガラス面との払拭作動時における摩擦を低下させる必要がある。そのため、ワイパーブレードラバーに撥水剤成分を混練し、ワイパーブレードから撥水剤成分をブリードアウトさせることで、ガラス面との摺動性を改善させる方法がある(特開2004−50974号、特開2000−118361号公報:特許文献1,2)。しかし、撥水剤成分を混練することで、物性に著しい悪影響を与えるおそれがあるため、あまり好ましい方法とは言えない。また、摩擦を低下させるためのコーティング剤を使用する方法がある(特開2004−250512号、特開2002−20695号、特開2004−331831号公報:特許文献3〜5)。しかし、いずれも、耐熱性、耐寒性、耐薬品性、耐オゾン性などに優れるシリコーンゴムとの接着性の記述はなく、天然ゴムを主原料とするワイパーブレードにコーティングしている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−50974号公報
【特許文献2】特開2000−118361号公報
【特許文献3】特開2004−250512号公報
【特許文献4】特開2002−20695号公報
【特許文献5】特開2004−331831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、動摩擦係数が小さく、すべり性が良好な成形物が得られる低動摩擦係数性シリコーンゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、繊維状の摺動性向上充填剤を配合したシリコーンゴム組成物を用いることにより、ゴム物性が低下することがなく、摺動性が良好である成形物が得られることを見出し、本発明をなすに至った。なお、本発明において、低動摩擦係数性シリコーンゴム組成物とは、該シリコーンゴム組成物が低動摩擦係数の硬化物を与えることを意味する。
【0007】
従って、本発明は、
(A)1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン、
(B)繊維状の摺動性向上充填剤、及び
(C)硬化剤
を含有してなる低動摩擦係数性シリコーンゴム組成物を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の低動摩擦係数性シリコーンゴム組成物によれば、ゴム物性が低下することがなく、動摩擦係数が小さいために摺動性が良好である成形物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の低動摩擦係数性シリコーンゴム組成物は、下記(A)〜(C)成分を含有してなるものである。
【0010】
[(A)オルガノポリシロキサン]
(A)成分の1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンとしては、例えば、下記平均組成式(I)で示されるオルガノポリシロキサンを用いることができる。
aSiO(4-a)/2 (I)
(式中、Rは互いに同一又は異種の炭素数1〜10の非置換もしくは置換一価炭化水素基であり、aは1.8〜2.3の正数である。)
【0011】
上記式中、Rは互いに同一又は異種の非置換もしくは置換の炭素数1〜10、好ましくは1〜8の一価炭化水素基であり、その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等の炭素数2〜10アルケニル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基、シアノエチル基等が挙げられる。これらの中でメチル基、ビニル基、フェニル基、トリフロロプロピル基が好ましく、Rの少なくとも50モル%以上、特に80モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0012】
本発明においては、Rのうち少なくとも2個はアルケニル基(炭素数2〜8のものが好ましく、更に好ましくは2〜6のものである)であることが必要である。アルケニル基の含有量は、R中0.0001〜20モル%、特に0.001〜10モル%とすることが好ましい。このアルケニル基は、分子鎖末端のケイ素原子に結合していても、分子鎖途中のケイ素原子に結合していても、両者に結合していてもよい。
【0013】
aは1.8〜2.3、好ましくは1.9〜2.1の正数であり、このオルガノポリシロキサンは基本的には直鎖状であるが、ゴム弾性を損なわない範囲において部分的には分岐していてもよい。
【0014】
分子量については、特に限定なく粘度の低い液状のものから、粘度の高い生ゴム状のものまで使用できるが、硬化してゴム状弾性体になるためには、重合度が100〜100,000、特に150〜20,000であることが好ましい。
また、(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種でも分子構造や重合度の異なる2種以上を併用してもよい。
【0015】
このようなオルガノポリシロキサンは、公知の方法、例えばオルガノハロゲノシランの1種又は2種以上を(共)加水分解縮合することにより、或いは環状ポリシロキサンをアルカリ性又は酸性触媒を用いて開環重合することによって得ることができる。
【0016】
[補強性シリカ]
本発明においては、機械的強度等を付与するために、(A)成分のオルガノポリシロキサンに補強性シリカを配合してもよい。
補強性シリカとしては、ヒュームド(煙霧質)シリカ、沈降(湿式)シリカが挙げられる。これらのシリカは、BET法による比表面積が50m2/g以上であることが好ましく、特に100〜400m2/gであることが好ましい。
【0017】
このようなシリカは、必要に応じてその表面をオルガノポリシロキサン、シラザン、クロロシラン、アルコキシシラン等の表面処理剤で表面処理されたシリカを用いてもよい。また、(A)成分のオルガノポリシロキサンに、これら微粉末シリカを配合する時に上記表面処理剤を配合してもよい。
【0018】
補強性シリカの配合は任意であるが、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0〜100質量部、好ましくは1〜80質量部、特に好ましくは5〜50質量部配合する。配合量が少なすぎると十分なゴム強度が得られない場合がある。更に生ゴムを原料とするミラブルゴムの場合、加工性が低下する場合がある。また、配合量が多すぎると配合が困難となる場合があり、ゴム物性が低下してしまう場合もある。
【0019】
[(B)繊維状の摺動性向上充填剤]
(B)成分は、繊維状の摺動性向上充填剤である。繊維状の摺動性向上充填剤を用いることにより、シリコーンゴムの摩擦係数が小さくなりやすい。ここで、繊維状とは、一つの軸方向に伸張している形状であることを意味し、より具体的には、最長軸の長さ/最短軸の長さ(アスペクト比)が、通常、2以上(例えば、2〜1,000)、好ましくは40以上(例えば、40〜1,000)である形状であることを意味する。
【0020】
(B)成分は1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
(B)成分の材質は特に制限されないが、カーボンであることが特に好ましい。即ち、(B)成分は好ましくはカーボン繊維である。
【0021】
(B)成分は、より好ましくは、気相法によって得られたカーボン繊維であり、その例としては、気相法によって得られ、中心部が空洞であり、グラファイト六角網平面が年輪状に積層した、カーボン繊維が挙げられる。ここで、気相法とは、加熱炉内で有機化合物(例えば、炭化水素)を熱分解して、カーボン繊維を成長させる方法をいう。また、年輪状とは、チューブ状のグラファイト六角網面がカーボン繊維の最長軸の周りで同心円状に複数積層していることをいう。
【0022】
炭化水素の熱分解による気相法でカーボン繊維を製造する方法としては、数多くの方法が公知である(特開2004−339676号公報、特開平7−150419号公報、特開平5−321039号公報、特開平5−179514号公報、特開昭60−215816号公報、特開昭61−70014号公報、特公平5−36521号公報、特公平3−61768号公報等)。本発明においては、これらの方法により製造されたカーボン繊維を用いることができる。
【0023】
(B)成分の平均繊維径は、好ましくは10〜300nm、より好ましくは50〜250nmである。また、(B)成分の平均繊維長は、好ましくは1〜100μm、より好ましくは5〜90μmである。該平均繊維径及び該平均繊維長がそれぞれこれらの範囲内にあると、得られる組成物は、少量の添加により、硬化物の動摩擦係数が小さくなりやすくなる。ここで、平均繊維径及び平均繊維長は、例えば、摺動性向上充填剤のTEM(透過型電子顕微鏡)の写真から100本程度の外径及び長さをそれぞれ測定し、平均することによって求めることができる。
【0024】
(B)成分の摺動性向上充填剤の添加量は、(A)成分100質量部に対して好ましくは0.1〜100質量部であり、より好ましくは0.5〜80質量部である。該添加量がこの範囲内より少ないと、硬化物の動摩擦係数が小さくならないおそれがあり、この範囲より多いと、摺動性向上充填剤の欠落が起こる場合がある。
【0025】
[(C)硬化剤]
(C)成分は硬化剤であり、本発明のシリコーンゴム組成物を硬化させ得るものであれば特に限定されない。(C)成分は1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。(C)成分としては、例えば、加熱により該シリコーンゴム組成物を硬化させ得る硬化剤が挙げられ、好ましい例としては、(C−1)付加反応型硬化剤、(C−2)有機過酸化物硬化剤、及び(C−1)成分と(C−2)成分との組み合わせが挙げられる。
【0026】
〔(C−1)付加反応型硬化剤〕
(C−1)成分としては、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとヒドロシリル化触媒を組み合わせて用いられる。
【0027】
ヒドロシリル化触媒は、(A)成分のアルケニル基と(C−1)成分中のオルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子結合水素原子(以下、Si−H基と呼ぶことがある。)とを付加反応させる触媒である。
【0028】
ヒドロシリル化触媒としては、白金族金属系触媒が挙げられ、白金族金属系触媒としては、付加反応硬化型シリコーンゴム組成物の触媒として従来公知のものが使用できる。より具体的には、例えば、白金族の金属単体とその化合物が挙げられる。例えば、シリカ、アルミナ又はシリカゲルのような担体に吸着させた微粒子状白金金属、塩化第二白金、塩化白金酸、塩化白金酸6水塩のアルコール溶液、パラジウム触媒、ロジウム触媒等が挙げられるが、白金又は白金化合物が好ましい。
【0029】
ヒドロシリル化触媒の添加量は、上記付加反応を促進できる量であればよく、好ましくは白金族金属量に換算して(A)成分のオルガノポリシロキサンに対して1ppm〜1質量%の範囲で使用されるが、10〜500ppmの範囲である。該添加量が1ppm未満だと、付加反応が十分促進されず、硬化が不十分である場合があり、一方、1質量%を超えると、これより多く加えても、反応性に対する影響も少なく、不経済となる場合がある。
【0030】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、1分子中に2個以上、好ましくは3個以上のSi−H基を含有すれば、直鎖状、環状、分枝状のいずれであってもよく、付加反応硬化型シリコーンゴム組成物の架橋剤として公知のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いることができ、例えば、下記平均組成式(II)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いることができる。
1pqSiO(4-p-q)/2 (II)
【0031】
上記平均組成式(II)中、R1は、非置換又は置換の一価炭化水素基を示し、同一であっても異なっていてもよく、脂肪族不飽和結合を除いたものであることが好ましい。通常、炭素数1〜12、特に1〜8のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、2−フェニルエチル基、2−フェニルプロピル基等のアラルキル基、及びこれらの基の水素原子の一部又は全部をハロゲン原子等で置換した基、例えば3,3,3−トリフルオロプロピル基等が挙げられる。なお、p,qは0≦p<3、好ましくは1≦p≦2.2、0<q≦3、好ましくは0.002≦q≦1、0<p+q≦3、好ましくは1.002≦p+q≦3を満たす正数である。
【0032】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、Si−H基を1分子中に2個以上、好ましくは3個以上有するが、これは分子鎖末端にあっても、分子鎖の途中にあっても、その両方にあってもよい。また、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、25℃における粘度が0.5〜10,000mm2/sであることが好ましく、1〜300mm2/sであることがより好ましい。なお、本発明において、粘度はキャノンフェンスケ(SIBATA製)により測定することができる。
【0033】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、具体的に下記構造式の化合物を例示することができる。
【0034】
【化1】


(式中、kは2〜10の整数、s及びtは0〜10の整数である。)
【0035】
上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、(A)成分100質量部に対し、0.1〜40質量部が好ましい。また(A)成分の脂肪族不飽和結合(アルケニル基及びジエン基等)1個に対し、ケイ素原子に結合した水素原子(≡Si−H基)の割合が0.5〜10個の範囲が適当であり、好ましくは0.7〜5個となるような範囲が適当である。0.5個未満だと架橋が十分でなく、十分な機械的強度が得られない場合があり、また10個を超えると硬化後の物理特性が低下し、特に耐熱性と圧縮永久歪特性が悪くなる場合がある。
【0036】
また、(C−1)成分の付加反応型硬化剤を用いる場合には、上記の触媒のほかに硬化速度を調整する目的で、反応制御剤を使用してもよい。具体的には、エチニルシクロヘキサノール等のアセチレンアルコール系制御剤やテトラシクロメチルビニルポリシロキサン等が挙げられる。
【0037】
〔(C−2)有機過酸化物硬化剤〕
(C−2)成分として用いられる有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、p−メチルベンゾイルパーオキサイド、o−メチルベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−ビス(2,5−t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート、1,6−ヘキサンジオール−ビス−t−ブチルパーオキシカーボネート等が挙げられる。
【0038】
有機過酸化物の添加量は(A)成分100質量部に対して0.1〜10質量部、特に0.2〜5質量部が好ましい。添加量が少なすぎると硬化し難くなる場合があり、多すぎても、それ以上の効果はなく経済的ではなく、また分解残渣が多くなる場合がある。
【0039】
本発明においては、上記(C−1)成分と(C−2)成分とを組み合わせて使用することもできる。この場合、上記(C−1)成分の配合量は、ヒドロシリル化触媒を、白金族金属として(A)成分の質量に対して0.5〜1,000ppm、特に1〜500ppm程度配合することが好ましく、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを上記と同量配合することが好ましい。また、上記(C−2)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましい。
【0040】
[(D)有機溶剤]
本発明の組成物には、更に(D)成分として有機溶剤を配合することができ、(D)成分の有機溶剤は、必要に応じて、組成物の流れ性や濡れ性を向上させる目的で使用される成分である。使用される溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤が例示される。中でもトルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素系溶剤が好ましい。この(D)成分を配合する場合、所要の流れ性や濡れ性が得られるような適宜の量でよい。
【0041】
[その他の成分]
本発明の組成物には、上記成分に加え、本発明の目的を損なわない範囲において、必要に応じて、粉砕石英、結晶性シリカ、珪藻土、炭酸カルシウム等の充填剤、着色剤、引き裂き強度向上剤、酸化鉄や酸化セリウム等の耐熱性向上剤、酸化チタン、白金化合物等の難燃性向上剤、受酸剤、アルミナや窒化硼素等の熱伝導率向上剤、離型剤、充填剤用分散剤として各種アルコキシシラン、特にフェニル基含有アルコキシシラン及びその加水分解物、ジフェニルシランジオール、カーボンファンクショナルシラン、シラノール基含有低分子シロキサンなどの熱硬化型シリコーンゴム組成物における公知の充填剤や添加剤を添加してもよい。
【0042】
本発明の組成物は、上記各成分を常法に準じて混合することにより調製することができる。このようにして得られた本発明のシリコーンゴム組成物は、加熱硬化させることにより、比重が小さいにも関わらず、動摩擦係数が小さいシリコーンゴムとなる。
【0043】
成形方法としては、目的とする成形品の形状や大きさにあわせて公知の成形方法を選択すればよい。例えば、注入成形、圧縮成形、射出成形、カレンダー成形、押出成形、コーティング、スクリーン印刷などの方法が例示される。
また、本発明の組成物は、コーティング剤として好適に使用でき、コーティング剤として使用する場合、その塗工方法としては、浸漬法、スプレー法、ロールコータ法、フローコータ法などの任意の塗工方法によって行うことができる。
【0044】
硬化条件としては、その成形方法における公知の条件でよく、一般的に60℃〜450℃の温度で数秒〜1日程度である。また、硬化物の圧縮永久歪を低下させる、シリコーンゴム中に残存している低分子シロキサン成分を低減する、あるいは有機過酸化物の分解物を除去する等の目的で、200℃以上、好ましくは200℃〜250℃のオーブン内等で1時間以上、好ましくは1時間〜70時間程度、より好ましくは1時間〜10時間のポストキュア(2次キュア)を行ってもよい。
【0045】
本発明の組成物を硬化させてなるシリコーンゴムは、その熱伝導率が好ましくは1.2W/mK以上であり、より好ましくは1.5〜10W/mKである。熱伝導率が低すぎると摩擦により発生する熱の放熱効果が劣る場合がある。なお、本発明において、熱伝導率は熱伝導計(QTM−3、京都電子社製)により測定できる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら制限するものではない。なお、下記の例において、「部」とは「質量部」を表す。また、平均繊維径及び平均繊維長は、カーボン繊維のTEM(透過型電子顕微鏡)の写真から100本の外径及び長さをそれぞれ測定することによって求めた値の平均値であり、平均粒径は、日機装株式会社製の粒度分析計であるマイクロトラックMT3300EXにより測定した体積基準の累計平均径である。
【0047】
[実施例1]
両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(重合度500)100部、平均繊維径150nm、平均繊維長10μmのカーボン繊維(商品名:VGCF−H、昭和電工製、以下同じ)60部、両末端及び側鎖にSi−H基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(重合度17、Si−H量0.0060mol/g)1.0部、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.05部、白金触媒(Pt濃度1質量%)0.1部を混合し、組成物Aを調製した。
【0048】
[実施例2]
両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にビニル基を持つ(ビニル基含有量0.000072mol/g)ジメチルポリシロキサン(重合度300)80部、両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(重合度500)20部、平均繊維径150nm、平均繊維長10μmのカーボン繊維を55部、両末端及び側鎖にSi−H基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(重合度15、Si−H量0.0035mol/g)2.8部、両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にビニル基を持つジメチルポリシロキサン(ビニル基含有量0.018mol/g、重合度20)1.2部、白金触媒(Pt濃度1質量%)0.1部を混合し、組成物Bを調製した。
【0049】
[実施例3]
両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にビニル基を持つ(ビニル基含有量0.000072mol/g)ジメチルポリシロキサン(重合度300)100部、平均繊維径150nm、平均繊維長10μmのカーボン繊維60部、両末端及び側鎖にSi−H基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(重合度15、Si−H量0.0035mol/g)2.9部、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.05部、白金触媒(Pt濃度1質量%)0.1部を混合し、組成物Cを調製した。
【0050】
[比較例1]
実施例1において、カーボン繊維の代わりに、平均粒径5μmの粉砕石英350部を添加した以外は、実施例1と同様にして、組成物Dを調製した。
【0051】
[比較例2]
実施例1において、カーボン繊維の代わりに、平均粒径12μmのアルミナ400部を用いた以外は、実施例1と同様にして、組成物Eを調製した。
【0052】
[測定]
組成物A〜Eの各々を120℃で10分間プレスキュアし、更に200℃で4時間オーブンキュアを行った後、機械特性はJIS−K6249に準じた方法で測定し、動摩擦係数は摩擦試験機TYPE−HEIDON−14(新東科学株式会社製)を用い、荷重200g、引張速度100mm/分の条件で測定した。また、熱伝導率は、熱伝導計(QTM−3、京都電子社製)により測定した。測定結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
[実施例4]
両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(重合度500)100部、平均繊維径150nm、平均繊維長10μmのカーボン繊維(商品名:VGCF−H、昭和電工製、以下同じ)60部、両末端及び側鎖にSi−H基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(重合度17、Si−H量0.0060mol/g)3.0部、反応制御剤としてエチニルシクロヘキサノール0.05部、白金触媒(Pt濃度1質量%)0.1部を混合し、組成物aを調製した。組成物aを5質量%のトルエン溶液とし、組成物Fとした。
【0055】
[実施例5]
実施例4において、平均繊維径150nm、平均繊維長10μmのカーボン繊維を30部に変更した以外は、実施例4と同様にして組成物bを調製した。組成物bを10質量%のトルエン溶液とし、組成物Gとした。
【0056】
[実施例6]
両末端がジメチルビニルシロキシ基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(重合度750)100部、平均繊維径150nm、平均繊維長10μmのカーボン繊維40部、両末端及び側鎖にSi−H基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(重合度38、Si−H量0.0160mol/g)8.0部、白金触媒(Pt濃度1質量%)0.1部を混合し、組成物cを調製した。組成物cを10質量%のトルエン溶液とし、組成物Hを調製した。
【0057】
[比較例3]
実施例4において、カーボン繊維の代わりに、平均粒径12μmのアルミナ400部を用いた以外は、実施例4と同様にして、組成物Iを調製した。
【0058】
[比較例4]
実施例6において、カーボン繊維を混合しないこと以外は、実施例6と同様にして組成物Jを調製した。
【0059】
[測定]
組成物F〜Jを信越化学工業(株)製のKE951U(商品名)の有機過酸化物硬化型シリコーンゴム硬化物シートにスプレーコートし、30分風乾後、180℃で2分オーブンキュアし、硬化させた。
動摩擦係数は摩擦試験機TYPE−HEIDON−14(新東科学株式会社製)を用い、荷重200g、引張速度100mm/分の条件で測定した。測定結果を表2に示す。
【0060】
[比較例5]
KE951U(信越化学工業(株)製商品名)の有機過酸化物硬化型シリコーンゴム硬化物シートの動摩擦係数を上記測定方法と同様にして測定した。測定結果を表2に示す。
【0061】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個有するオルガノポリシロキサン、
(B)繊維状の摺動性向上充填剤、及び
(C)硬化剤
を含有してなる低動摩擦係数性シリコーンゴム組成物。
【請求項2】
更に、(D)有機溶剤を含む請求項1に記載の低動摩擦係数性シリコーンゴム組成物。
【請求項3】
(B)成分がカーボン繊維である請求項1又は2に記載の低動摩擦係数性シリコーンゴム組成物。
【請求項4】
(B)成分が気相法によって得られたカーボン繊維である請求項1〜3のいずれか1項に記載の低動摩擦係数性シリコーンゴム組成物。
【請求項5】
(B)成分の平均繊維径が10〜300nm、平均繊維長が1〜100μmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の低動摩擦係数性シリコーンゴム組成物。
【請求項6】
(B)成分の含有量が(A)成分100質量部に対して0.1〜100質量部である請求項1〜5のいずれか1項に記載の低動摩擦係数性シリコーンゴム組成物。
【請求項7】
硬化物の熱伝導率が1.2W/mK以上である請求項1〜6のいずれか1項に記載の低動摩擦係数性シリコーンゴム組成物。
【請求項8】
コーティング剤用である請求項1〜7のいずれか1項に記載の低動摩擦係数性シリコーンゴム組成物。

【公開番号】特開2007−314679(P2007−314679A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−146500(P2006−146500)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】