説明

低密度リポ蛋白中のトリグリセリドの定量方法

【課題】被検試料中の低密度リポ蛋白中のトリグリセリドの定量方法の提供。
【解決手段】被検試料中の低密度リポ蛋白以外のリポ蛋白中のトリグリセリドを消去する第1工程と、次いで、被検試料中に残存する低密度リポ蛋白中のトリグリセリドを定量する第2工程とから成ることを特徴とする、被検試料中の低密度リポ蛋白中のトリグリセリドの定量方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、被検試料中の低密度リポ蛋白中のトリグリセリドの定量方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
低密度リポ蛋白(LDL)は血液中におけるトリグリセリド運搬の主役であり、LDL−トリグリセリド(LDL−C)の上昇が冠動脈硬化性疾患の重要な危険因子であることは以前より明らかとなっていた。一方、血中のLDL−Cが正常範囲であっても心筋梗塞を発症する例が数多く存在することも事実であり、最近ではLDL粒子の質の変化が重要視されるようになってきた(非特許文献1を参照)。
【0003】
近年、小型で比重の重いsmall, dense LDLと冠動脈硬化性疾患の関係がクローズアップされ、正常サイズのLDLを持つ症例に比べ発症率が3倍に達することが指摘されている。Small, dense LDL粒子の特徴としては小型であることと粒子中のトリグリセリド量が正常のLDLに比べ高いことである。よってLDL中のトリグリセリドを測定することによりSmall, dense LDLの存在量を推測できるので、LDL中のトリグリセリドを簡便に測定し定量できることは臨床上有用である。
【0004】
LDL中のトリグリセリドの定量方法としては、分画とトリグリセリド定量の2つの操作から求める方法がある。
分画操作としては超遠心法、沈殿法、免疫反応を利用した方法等があるが、いずれの方法においても試料を遠心処理またはフィルター処理による操作が必要となる。定量としては分画により得られたLDLを試料に用い、臨床検査の場で用いられている自動分析装置装置とTG試薬により定量を行う方法があるが、いずれにせよ簡便性や経済性において普及しにくい方法である。
【非特許文献1】
芳野原他、「特集 高脂血症の治療 Small, dense LDL」、CURRENT THERAPY 1998, Vol.16, No.1, p.45-53
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、被検試料中のLDL中のトリグリセリドを簡便に定量する方法の提供を目的とする。具体的には、本発明は、第1工程でLDL以外のリポ蛋白中トリグリセリドを消去し、第2工程でLDL中のトリグリセリドを定量する方法の提供を目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本願発明者らは、ある種の界面活性剤とリポプロテインリパーゼを組み合わせて、被検試料に作用させることにより、被検試料中のLDL以外のリポ蛋白であるカイロミクロン(CM)、超低密度リポ蛋白(VLDL)、高密度リポ蛋白(HDL)中のトリグリセライドとの反応が起こりこれらのリポ蛋白が分解されることを見出した。本発明者らは第1工程で、LDL以外のリポ蛋白を分解し、第2工程で残存するLDLと反応する界面活性剤を添加しLDLを分解しLDL中のトリグリセリドをリポプロテインリパーゼの作用により分解し生成した過酸化水素を定量することによりLDL中のトリグリセリドを定量し得ると考えた。さらに、鋭意検討を行い、第1工程の反応の結果生じるトリグリセリドの分解産物である過酸化水素が第2工程で検出されてしまうのを抑えるために過酸化水素を消去する反応系を組み込み、さらに第1工程にアルブミンを添加することで、第1工程の反応の残骸物を吸着し、第2工程における反応への干渉を回避できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、被検試料中のLDL以外のリポ蛋白中のトリグリセリドを消去する第1工程と、次いで、被検試料中に残存するLDL中のトリグリセリドを定量する第2工程とから成ることを特徴とする方法を提供する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の方法は、第1工程及び第2工程から成り、第1工程では被検試料中のLDL以外のリポ蛋白中のトリグリセリドを消去し、続く第2工程では、被検試料中の残存トリグリセリドを定量する。LDL以外のリポ蛋白にはHDL、VLDL及びCMがある。第1工程でHDL、VLDL及びCM中のトリグリセリドが消去されているので、第2工程で定量されるトリグリセリドは、主として被検試料中のLDL中のトリグリセリドである。
【0009】
本発明の方法に供される被検試料としては、HDL、LDL、VLDL及びCM等のリポ蛋白を含むかもしれない試料であればいずれのものでもよく、例えば、血液、血清、血漿等の体液やその希釈物を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0010】
第1工程における「トリグリセリドを消去」とは、トリグリセリドを分解し、かつ、その分解産物が次の第2工程で検出されないようにすることを意味する。LDL以外のリポ蛋白、すなわち、HDL、VLDL、CM等に含まれるトリグリセリドを選択的に消去する方法としては以下の方法を挙げることができる。
【0011】
すなわち、LDL以外のリポ蛋白に作用する界面活性剤の存在下において、リポプロテインリパーゼ、グリセロールキナーゼおよびグリセロール3リン酸オキシダーゼを作用させ、生じた過酸化水素を消去する。
【0012】
過酸化水素を消去する方法としては、カタラーゼを作用させて水と酸素に分解する方法、及びペルオキシダーゼを用いてフェノール系又はアニリン系水素供与体化合物と過酸化水素を反応させて無色キノンに転化する方法を挙げることができるが、いずれの方法を用いてもよく、さらにこれらの方法に限定されるものではない。
【0013】
第1工程の反応液中のリポプロテインリパーゼ濃度は50〜500 IU/mL程度が好ましく、グリセロールキナーゼの濃度は0.3〜 3.0 IU/mL程度が好ましく、グリセロール3リン酸オキシダーゼの濃度は2〜15 IU/mL程度が好ましい。さらに、過酸化水素を水と酸素に分解する場合のカタラーゼの濃度は40〜100U/mL程度が好ましい。また、過酸化水素を無色キノンへ転化する場合のペルオキシダーゼの濃度は0.4〜1.0U/mLが好ましく、この際に添加するフェノール系又はアニリン系水素供与体化合物の濃度としては0.4〜0.8mmol/Lが好ましい。
【0014】
第1工程で用いられる、LDL以外のリポ蛋白に作用する界面活性剤の好ましい例として、HLB値が13以上14以下であるポリアルキレンオキサイド誘導体を挙げることができる。誘導体の例としては高級アルコール縮合物、高級脂肪酸縮合物、高級脂肪酸アミド縮合物、高級アルキルアミン縮合物、高級アルキルメルカプタン縮合物、アルキルフェノール縮合物を挙げることができる。なお、界面活性剤のHLB算出方法は周知であり、例えば「新界面活性剤」、堀内博著、昭和61年、三共出版に記載されている。
【0015】
HLB値が13以上14以下のポリアルキレンオキサイド誘導体の好ましい具体例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンベンジルフェニルエーテル等でHLB値が13以上14以下の化合物を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0016】
第1工程で用いられる上記界面活性剤の濃度は、0.1〜10g/L程度が好ましく、さらに好ましくは0.5〜5.0g/L程度である。
第1工程は、pH5〜9の緩衝液中で行うことが好ましく、緩衝液としてはトリス、トリエタノールアミン、グットの緩衝液等のアミンを含む緩衝液が好ましい。特にグット緩衝液であるBis−Tris、PIPES、MOPSO、BES、HEPES及びPOPSOが好ましく、緩衝液の濃度は10〜500mM程度が好ましい。
【0017】
第1工程で、LDLとの反応を抑え、他のリポ蛋白の消去をさらに高めるために、反応液中に2価の金属イオンを含ませてもよい。2価の金属イオンとしては銅イオン、鉄イオン及びマグネシウムイオンを使用することができるが、特にマグネシウムイオンが好ましい。2価の金属イオンの濃度は5〜200mM程度が好ましい。
第1工程の反応温度は30〜40℃程度が適当であり、37℃が最も好ましい。また、反応時間は2〜10分間程度でよい。
【0018】
本発明の方法では、第1工程をアルブミンの存在下で行う。アルブミンの存在下で行うことにより、第工程の反応の結果生じる残骸物がアルブミンに吸着され、第2工程でこれらの残骸が反応に干渉することを防止できる。アルブミンは、アルブミンであれば何ら限定されるものではなく、血清アルブミン等の市販のアルブミンを好適に用いることができる。また、アルブミンの起源も何ら限定されるものではなく、ヒト、ウシ、ブタ、ウマ等いずれの動物であってもよく、特に、広く用いられているウシ血清アルブミンを好適に用いることができる。第1工程の反応溶液中の前記アルブミンの濃度は0.1〜5.0 g/dLが好ましく、0.3〜3.0g/dLがさらに好ましい。
【0019】
第1工程において、界面活性剤、リポプロテインキナーゼ、グリセロールキナーゼおよびグリセロールからなるLDL以外のリポ蛋白に作用しこれらのリポ蛋白を分解する酵素、ならびにカタラーゼ等の過酸化水素を消去するための酵素は同時に添加してもよいし、また別々に添加してもよい。好適には、これらの試薬の総てを含む試薬を調製しておき、被検試料と混合する。
【0020】
続く第2工程では、被検試料中の残存LDL中のトリグリセリドを定量する。これは、例えば、少なくともLDLに作用する界面活性剤を加え、第1工程で加え反応系に残っているリポプロテインリパーゼ、グリセロールキナーゼおよびグリセロール3リン酸オキシダーゼの作用により生じた過酸化水素を定量することにより行なうことができる。ここで、少なくともLDLに作用する界面活性剤は、LDLのみに選択的に作用する界面活性剤でもよいし、全てのリポ蛋白に作用する界面活性剤であってもよい。
【0021】
全てのリポ蛋白に作用する界面活性剤の好ましい例として、HLB値が11以上13未満、好ましくは12以上13未満であるポリアルキレンオキサイド誘導体を挙げることができる。誘導体の例としては高級アルコール縮合物、高級脂肪酸縮合物、高級脂肪酸アミド縮合物、高級アルキルアミン縮合物、高級アルキルメルカプタン縮合物、アルキルフェノール縮合物を挙げることができる。
【0022】
HLB値が11以上13未満のポリアルキレンオキサイド誘導体の好ましい具体例として、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等でHLB値が11以上13未満の化合物を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0023】
第2工程で用いられる界面活性剤の濃度は、0.1〜100g/L程度が好ましく、さらに好ましくは1〜50g/L程度である。
第2工程のその他の好ましい反応条件は、第1工程における好ましい反応条件と同様である。
【0024】
生じた過酸化水素の定量は、過酸化水素存在下でペルオキシダーゼの作用により4−アミノアンチピリンとフェノール系又はアニリン系水素供与体化合物とを酸化縮合させ、生じた色素を定量すればよい。フェノール系又はアニリン系水素供与体化合物としては、例えば、5-ジメトキシアニリン(HDAOS)、N-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N’-サクシニルエチレンジアミン(EMSE)等が挙げられる。
【0025】
以下、本発明の実施例に基づき具体的に説明する。もっとも本発明は下記実施例に限定されるものではない。
(試薬)
次の組成からなるLDLトリグリセリド定量試薬を調製した。

【0026】
(試料)
臨床検体12例を準備した。
(測定方法)
試料各4μLに、あらかじめ37℃に加温した第1試薬300μLを混和し、37℃で5分間反応させた後に、第2試薬100μLを加え5分間反応させ600nmにおける吸光度を測定した。測定された吸光度から事前に測定していた既知濃度試料の吸光度と比較を行い、LDLトリグリセリド濃度を算出した。
【0027】
比較対照として超遠心法でLDL分画を採取し、市販のトリグリセリド試薬(デンカ生研社製 FG-TG(S)試薬を使用)でLDL中のトリグリセリド濃度を求めた。なお、超遠心法は「新生化学実験法講座4 脂質I 中性脂肪とリポタンパク質」、(株)東京化学同人出版に記載されている方法を実施した。
【0028】
【表1】

(単位:mg/dL)
表1の結果より本法と超遠心法の良好な関係が確認できる。
【0029】
【発明の効果】
本発明の方法により、LDL中のトリグリセリドを遠心操作等を行うことなく簡便に定量することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検試料中の低密度リポ蛋白以外のリポ蛋白中のトリグリセリドを消去する第1工程と、次いで、被検試料中に残存する低密度リポ蛋白中のトリグリセリドを定量する第2工程とから成ることを特徴とする、被検試料中の低密度リポ蛋白中のトリグリセリドの定量方法。
【請求項2】
前記第1工程は、低密度リポ蛋白以外のリポ蛋白に作用する界面活性剤の存在下において、リポプロテインリパーゼ、グリセロールキナーゼおよびグリセロール3リン酸オキシダーゼを作用させ、生じた過酸化水素を消去することから成る、請求項1記載の被検試料中の低密度リポ蛋白中のトリグリセリドの定量方法。
【請求項3】
前記第1工程で用いられる、低密度リポ蛋白以外のリポ蛋白に作用する界面活性剤が、HLB値が13以上14以下であるポリアルキレンオキサイド誘導体である請求項1又は2記載の被検試料中の低密度リポ蛋白中のトリグリセリドの定量方法。
【請求項4】
前記第1工程の反応が0.1〜5.0 g/dLのアルブミンの存在下で行う請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1工程の反応が、pH5〜9および温度30〜40℃の条件下で行う請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第2工程は、前記第1工程の産物に、少なくとも低密度リポ蛋白に作用する界面活性剤を加え、リポプロテインリパーゼ、グリセロールキナーゼおよびグリセロール3リン酸オキシダーゼの作用により生じた過酸化水素を定量することから成る、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも低密度リポ蛋白と作用する界面活性剤が、全てのリポ蛋白に作用するものである請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記第2工程で用いられる、全てのリポ蛋白に作用する界面活性剤が、HLB値が11以上13未満であるポリアルキレンオキサイド誘導体である請求項7記載の方法。

【公開番号】特開2006−180707(P2006−180707A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−91651(P2003−91651)
【出願日】平成15年3月28日(2003.3.28)
【出願人】(591125371)デンカ生研株式会社 (72)
【Fターム(参考)】