説明

低帯電性フッ素樹脂組成物

【課題】 フッ素樹脂エマルジョンと、金、銀、亜鉛、銅、コバルト、チタン、タングステン、錫、ビスマス、カドミウム、クロム、ニッケル、タリウムから選ばれる少なくとも1つの帯電防止微粒子のコロイダル溶液とを攪拌下に混合した水性分散液を、0℃以下の温度で凍結するか、電解物質を加えて混合液のイオン強度またはpHを変化させるか、せん断力をかけることによって得られる凝集体を水性の溶液から分離乾燥して得られる低帯電性フッ素樹脂組成物であって、該低帯電性フッ素樹脂組成物の帯電量が−2.0kV〜0kVである低帯電性フッ素樹脂組成物、及びそれから得られる低帯電性部材

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低帯電性を有する低帯電性フッ素樹脂組成物及びその用途に関する。詳しくは、帯電防止微粒子をフッ素樹脂中にナノレベルに均一に分散させることにより、耐薬品性、耐熱性などのフッ素樹脂の特性を維持しながら、良好な帯電防止性能を有する低帯電性フッ素樹脂組成物及びその低帯電性部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという),テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(以下、PFAという)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下、FEPという)などのフッ素樹脂は、優れた非粘着性、耐薬品性、耐熱性、耐候性などを有しているが、これらフッ素樹脂は表面抵抗が極めて高いため、静電気を帯電し易い。
【0003】
画像形成装置の定着用部材、例えばベルト、チューブ、ローラなどの電子複写機の定着用回転部材においては、その表面に熱溶融性フッ素樹脂が使用されているが、オフセット、白抜き、汚れなどの画像不良が発生するため、画像不良を起こさない低帯電性フッ素樹脂組成物が要求されている。
【0004】
また、半導体製造工程に用いられる熱溶融性フッ素樹脂製のウエハーキャリアー、薬液移送用パイプライン、および継ぎ手などの部品は、フッ素樹脂の有する帯電性により雰囲気中の微粒子が付着すると、汚染され製品不良の原因になる。更に、可燃性薬液を移送するパイプラインにおいては、パイプ内を可燃性薬液が通過することによる摩擦で静電気が発生し、スパークによる着火の危険性があるため、静電気破壊防止或いは防爆化が必要となっている。
【0005】
このため、帯電圧を制御する方法として、フッ素樹脂に導電性粉末を配合した低帯電性樹脂組成物及びその成型体が知られている。例えば、特開昭61−37842号公報、特開昭62−223255号公報、特開平2−255751号公報には、フッ素樹脂に炭素粉末と炭素繊維粉末、繊維状導電性酸化チタンと酸化亜鉛などの導電性粉末を混合した樹脂組成物が開示されている。
【0006】
また、他の帯電圧を制御する方法として、特開2001−193729号公報には、成型品表面を金属ナトリウムでエッチングして帯電圧を制御する方法が記載されており、特開2005−75880号公報には、フッ素樹脂に官能基を有するフッ素樹脂をブレンドして帯電圧を制御する方法が記載されている。
【0007】
しかし、導電性粉末を混合して帯電防止性を付与する方法では、導電性粉末の帯電防止剤の表面が極性を有する場合が多いため、これを疎水性のフッ素樹脂中に直接分散させることは困難である。また、粒径が1μm以下の微細な導電性粉末などは、高い表面エネルギーを有するため、粒径が小さくなるほど不安定になり凝集あるいは微粒子同士の表面反応などが起こる。それ故、これらの導電性粉末を直接樹脂と溶融混合して均一に樹脂中に分散させることは極めて困難である。
【0008】
また、金属ナトリウムでエッチングして帯電圧を制御する方法では、成型物をエッチングし、洗浄するなどの煩雑な後工程が必要になる。
【0009】
【特許文献1】特開昭61−37842号公報
【特許文献2】特開昭62−223255号公報
【特許文献3】特開平2−255751号公報
【特許文献4】特開2001−193729号公報
【特許文献5】特開2005−75880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、帯電性微粒子を使用し、帯電性微粒子をフッ素樹脂中にナノレベルに均一に分散させ、その表面積を大幅に増大させることにより、帯電性微粒子の微量な添加で優れた帯電性を有する、帯電性フッ素樹脂組成物を提供することを目的とする。
本発明はまた、該帯電性フッ素樹脂組成物を用いた、フッ素樹脂の成形性及び耐熱性、耐薬品性を維持しながら、帯電防止性能を有する低帯電性部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、優れた帯電防止性能を有する低帯電性フッ素樹脂組成物を提供することを目的とする。
フッ素樹脂エマルジョンと、金、銀、亜鉛、銅、コバルト、チタン、タングステン、錫、ビスマス、クロム、ニッケル、タリウムから選ばれる少なくとも1つの帯電防止微粒子のコロイダル溶液とを攪拌下に混合した水性分散液を、0℃以下の温度で凍結するか、電解物質を加えて混合液のイオン強度またはpHを変化させるか、せん断力をかけることによって得られる混合凝集体を水性の溶液から分離乾燥して得られる低帯電性フッ素樹脂組成物であって、該低帯電性フッ素樹脂組成物の帯電圧が−2.0kV〜0kVである低帯電性フッ素樹脂組成物は、本発明の好ましい態様である。
【0012】
前記フッ素樹脂エマルジョンが、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエ−テル)、ビニリデンフルオライド及びビニルフルオライドから選ばれるモノマーの重合体又は共重合体である請求項1記載の低帯電性フッ素樹脂組成物は、本発明の好ましい態様である。
【0013】
前記フッ素樹脂エマルジョンが、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエ−テル)、ビニリデンフルオライド及びビニルフルオライドから選ばれる少なくとも1つのモノマーと、エチレン又はプロピレンとの共重合体であることを特徴とする請求項1及び2記載の低帯電性フッ素樹脂組成物は、本発明の好ましい態様である。
【0014】
低帯電性微粒子の含有量が、低帯電性フッ素樹組成物に対し0.01〜10重量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の低帯電性フッ素樹脂組成物は、本発明の好ましい態様である。
【0015】
本発明は、前記した低帯電性フッ素樹脂組成物を、溶融押出しして得られるペレットは、本発明の好ましい態様である。
【0016】
本発明はまた、前記低帯電性フッ素樹脂組成物またはペレットからなる、低帯電性部材を提供する。
【0017】
前記低帯電性部材が、半導体製造装置用部材、画像形成装置の定着用部材、繊維、不織布、織物、または膜である低帯電性部材は、本発明の好ましい態様である。
【0018】
前記半導体製造装置用部材が、パイプ、継ぎ手、容器の何れかである低帯電性部材は、本発明の好ましい態様である。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、平均粒子径800nm以下の帯電防止微粒子がフッ素樹脂中にナノレベルに均一に分散され、耐薬品性、耐熱性などのフッ素樹脂の特性を維持しながら、良好な帯電防止性能を有する低帯電性部材を得ることが出来る。
本発明の低帯電性フッ素樹脂組成物からなる低帯電性部材は安定した低帯電性を示すので、静電気発生が問題になる分野で利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明において用いられフッ素樹脂エマルジョンは、すでに広く知られているものであって、例えば、含フッ素樹脂エマルジョンとしては、テトラフルオロエチレン(TFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)、ビニリデンフルオライド(VdF)及びビニルフルオライド(VF)から選ばれるモノマーの重合体又は共重合体、あるいはこれらモノマーとエチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチン、ヘキセン等の2重結合を有するモノマーやアセチレン、プロピン等の3重結合を有するモノマーとの共重合体などを挙げることができる。
【0021】
具体的な例としては、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)、TFEPAVE共重合体(以下、PFAという)、TFE/HFP共重合体(以下、FEPという)、TFE/HFP/PAVE共重合体(EPE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエテレン・エチレン共重合体(ECTFE)、TFE/VdF共重合体、TFE/VF共重合体、TFE/HFP/VF共重合体、HFP/VDF共重合体、VdF/CTFE共重合体、TFE/VdF/CTFE共重合体、TFE/HFP/VDF共重合体、などを挙げることができる。
【0022】
この内、テトラフルオロエチレンとパ−フルオロ(アルキルビニルエーテル)との共重合体においては、パ−フルオロ(アルキルビニルエーテル)のアルキル基が炭素数1〜5、特に1〜3であることが好ましい。これら重合体及び共重合体粒子の分散液は、通常乳化重合によって製造されることが好ましい。
【0023】
本発明では、樹脂一次粒子が界面活性剤に取り囲まれ溶媒中に安定に分散したフッ素樹脂エマルジョンと低帯電性微粒子のコロイダル溶液とを攪拌して、樹脂一次粒子と低帯電性微粒子を均一に混合した水性分散液を凝集することで樹脂一次粒子と低帯電性微粒子の均一混合状態を固定させた後、得られた混合凝集体を水性の溶液から分離・乾燥することで低帯電性微粒子を樹脂中にナノレベルに均一に分散させたフッ素樹脂組成物を得ることが出来る。
【0024】
従って、本発明では混合溶液の凝集・乾燥によって樹脂一次粒子と低帯電性微粒子が均一に分散されている異種粒子の混合凝集体の乾燥粉末が得られるので、使用するフッ素樹脂の融点や溶融混合特性などに関係なく、乳化重合で得られるあらゆるフッ素樹脂エマルジョンを使用することができる。そのため、フッ素樹脂の溶融粘度、或は分子量には特に制限がなく、使用目的によって適宜好適な範囲を選択することができる。例えば、射出成形の目的では、メルトフローレート(MFR)で表わすと7〜40g/10分程度が好ましい。
【0025】
フッ素樹脂エマルジョン中の樹脂一次粒子の粒子径としては、使用するコロイド溶液中の低帯電性微粒子の平均粒子径にもよるが、例えば50〜500nm、好ましくは70〜300nmである。
【0026】
本発明の帯電防止微粒子としては、帯電防止性を有する金、銀、亜鉛、銅、コバルト、チタン、タングステン、錫、ビスマス、クロム、ニッケル、タリウムから選ばれる少なくとも1種の金属または金属化合物が好ましい。
【0027】
これらの帯電防止微粒子は、安定なコロイダル溶液として用いることが好ましく、金、銀、ハロゲン化銀、酸化銀、銅、酸化錫、亜酸化銅、酸化第一銅、亜鉛、酸化亜鉛(ZnO)、錫、ビスマス、クロム、酸化チタン(TiO2)のゾルがより好ましい。更に好ましくは、金、銀、亜鉛、銅、コバルト、チタン、タングステン、錫、ビスマス、クロム、ニッケル、タリウムのゾルである。また、上記ゾルは、目的に応じて単独または組み合わせて使用しても良い。
【0028】
フッ素樹脂エマルジョン中の樹脂固形成分に対する、帯電防止微粒子ゾル中の帯電防止微粒子の割合は、低帯電性フッ素樹脂組成物の用途にもよるが、0.005〜20重量%、好ましくは0.01〜15重量%、より好ましくは0.05〜10重量%である。
【0029】
本発明の帯電防止微粒子のゾルは、貯蔵安定性の目的で各種電解質や有機系添加剤などによって溶液状態で安定化されたものを使用することも可能である。例えば、コロイダル銀ゾルでは、負に帯電した銀ナノ粒子を水中に分散させたコロイド溶液であり、粒子の表面には水溶性有機保護層があるので安定化されている。
【0030】
一般に、無機微粒子の平均粒子径が10nm未満になると、無機微粒子同士の凝集が起こり、ナノレベルに均一に樹脂中に分散出来ない傾向がある。そのため、帯電防止微粒子ゾルにおける帯電防止微粒子の平均粒子径は、10nm〜800nm、好ましくは15nm〜550nm、より好ましくは20〜350nmである。
【0031】
本発明では、樹脂一次粒子が界面活性剤(以下、乳化剤ということがある)に取り囲まれ溶媒中に安定に分散したフッ素樹脂エマルジョン(以下、ラテックスということがある)と、帯電防止微粒子のコロイダル溶液(以下、ゾルということがある)とを攪拌下に混合し、樹脂一次粒子と帯電防止微粒子とを均一に混合した水性分散液を凝集することにより、樹脂一次粒子と帯電防止微粒子の均一混合状態を固定させ(以下、この過程を凝集ということがある)得られた混合凝集体を、水性の溶液から分離・乾燥して、帯電防止微粒子がフッ素樹脂中にナノレベルに均一に分散された低帯電性フッ素樹脂組成物を得ることが出来る。
【0032】
樹脂一次粒子と帯電防止微粒子を均一に混合した水性分散液の凝集法としては、攪拌装置による強いせん断力で樹脂エマルジョンと帯電防止微粒子ゾル混合液を攪拌してフッ素樹脂エマルジョンの中の界面活性剤のミセル構造を破壊して凝集する方法(物理的凝集)、樹脂エマルジョンと帯電防止微粒子ゾル混合液に電解物質を入れてイオン強度またはpHを変化させることで樹脂エマルジョンまたは帯電防止微粒子コロイドの安定性を急に低下させて凝集する方法(化学的凝集)、樹脂エマルジョンと帯電防止微粒子ゾル混合液を凍結して発生する氷晶の成長によって氷晶間でコロイド粒子を圧着させて凝集する方法(凍結凝集)などを挙げることが出来る。
【0033】
中でも、フッ素樹脂エマルジョンと帯電防止微粒子ゾルの混合液に電解物質または無機塩などを入れて樹脂エマルジョンまたは帯電防止微粒子コロイド溶液の安定性を急に低下させて、一気に樹脂一次粒子と帯電防止微粒子の均一混合状態を固定して異種粒子が均一に分散された混合凝集体を得る化学的凝集方法が好ましい。
【0034】
フッ素樹脂エマルジョンのフッ素樹脂一次粒子を化学的に凝集させる目的として使用される電解物質としては、化学的に凝集する前の混合液中の樹脂一次粒子または帯電防止微粒子の種類及びその割合にもよるが、例えば、水に可溶なHCl,H2SO4,HNO3,H3PO4,Na2SO4,MgCl2,CaCl2,ギ酸ナトリウム、酢酸カリウム、炭酸アンモニウムなどの無機または有機の化合物を例示することが出来る。これらの中では、後の混合凝集体の乾燥工程で除去可能な化合物、例えばHCl,HNO3,(NH4)2CO3などを使用するのが好ましい。
【0035】
また、上記電解物質以外にもハロゲン水素酸、燐酸、硫酸、モリブデン酸、硝酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウムの塩など、好ましくは、臭化カリウム、硝酸カリウム、ヨウ化カリウム(KI)、モリブデン酸アンモニウム、リン酸ニ水素ナトリウム、臭化アンモニウム(NHBr)、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化第2銅、硝酸カルシウムなどの無機塩を単独または組み合わせで使用することもできる。
【0036】
これらの電解物質は、電解物質の種類、フッ素樹脂エマルジョンと帯電防止微粒子ゾルの固形分濃度にもよるが、フッ素樹脂の重量に対して0.001〜5重量%、特に0.05〜1重量%の割合で使用することが好ましい。また、これらの電解物質は、水溶液の形でフッ素樹脂エマルジョンと帯電防止微粒子ゾル混合液に添加するのが好ましい。電解物質の使用量が少なすぎる場合には、部分的にゆっくり凝集が起こるため、全体的に一気に樹脂一次粒子と帯電防止微粒子の均一混合状態を固定することが出来ず、帯電防止微粒子が樹脂中に均一に分散された樹脂組成物を得ることが出来ない場合がある。
【0037】
また、フッ素樹脂エマルジョンと帯電防止微粒子ゾルを攪拌して均一な混合液を得る目的で、フッ素樹脂エマルジョンまたは帯電防止微粒子ゾルを予め純水などで希釈して固形分濃度を調整してから、これらを攪拌・混合することも可能である。
【0038】
フッ素樹脂エマルジョンと帯電防止微粒子ゾルとを攪拌下に混合した水性分散液を物理的または化学的に凝集させる装置は、特に制限されるものではないが、攪拌速度が制御できる攪拌手段、例えばプロペラ翼、タービン翼、パドル翼、かい型翼、馬蹄形型翼、螺旋翼などと排水手段を備えた装置であることが好ましい。このような装置中にフッ素樹脂エマルジョン、帯電防止微粒子ゾル及び電解物質または無機塩を入れ攪拌することにより、樹脂のコロイド粒子及び/または帯電防止微粒子が凝集して異種粒子の混合凝集体となり、水性媒体から分離する。
【0039】
水性媒体から混合凝集体を分離する凝集工程の攪拌速度は、フッ素樹脂エマルジョンと帯電防止微粒子ゾルの混合工程の攪拌速度より1.5倍以上早い方が好ましい。
水性媒体を排出し、必要に応じて異種粒子の混合凝集体を水洗した後、樹脂の融点または熱分解開始温度以下の温度で乾燥することにより、低帯電性フッ素樹脂組成物を得ることが出来る。乾燥する温度は、フッ素樹脂の熱劣化や分解が起こる温度以下で、電解物質や界面活性剤などを除去できる温度が好ましい。
【0040】
本発明においては、上記乾燥工程で得られる帯電防止微粒子がフッ素樹脂中に均一に分散されている異種粒子の混合凝集体の乾燥粉末を、従来公知の成形方法、例えば、押出成型、射出成型、ブロー成形、回転成形、トランスファー成型、などの溶融成型、及び圧縮成形、ラム押出成形、ペースト押出成形、アイソスタティック成形などの粉末成形、或いは静電粉体塗装,スプレーコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ローラーコーテイングなどの任意の膜形成方法に用いて、低帯電性部材を得ることができる。
【0041】
また、成型機ホッパーでの混合凝集体粉末の食い込みをよくするため、該混合凝集体をコンパクターで乾燥し固めて粉体としたもの、該混合凝集体を造粒したもの、該混合凝集体をペレット化したものなどを用いて低帯電性部材を得ることもできる。いずれの場合においても、フッ素樹脂中の帯電防止微粒子の分散状態は、ほぼ同様である(図1、図2参照)。
或いは、高濃度の帯電防止微粒子が分散された低帯電性フッ素樹脂組成物をマスターバッチとして、目的に合わせ最終的な濃度の製品を作製することも可能である。
【0042】
溶融押出し機を通してペレット化する場合には、せん断応力の面から2軸押出機を用いることが好ましい。溶融混合はペレット化するのが主目的であり、帯電防止微粒子の均一分散又は物性向上のために必要であるということではない。
【0043】
本発明の低帯電性フッ素樹脂組成物には、必要に応じて任意の添加剤が配合されていてもよい。このような添加剤の例として、酸化防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、着色剤を配合することができる。また、本発明の目的を損なわない範囲であれば、他の樹脂が配合されていてもよい。
【0044】
また、溶融押出し機を通してペレット化する過程で、任意の添加剤を配合する或いは他の樹脂とブレンドすることもできる。これらの配合は、溶融押出し工程では勿論、前記フッ素樹脂エマルジョンと帯電防止微粒子ゾルの混合工程で行うことも出来る。このような添加剤としては、マイカ、クレイの様な層状ケイ素化合物のナノ粒子などを例示することが出来る。
【0045】
本発明の低帯電性フッ素樹脂組成物からなる低帯電性部材は、安定した低帯電性を示すため、電子複写機の部材、半導体製造装置用部材、化学工業分野、食品製造分野、あるいは一般の理化学分野などの静電気発生が問題になる分野で利用できる。
【0046】
本発明の低帯電性部材は、独立した成形体であっても、積層体であってもよく、また基材に被覆される被膜であってもよい。成形体の好適な適用例として半導体製造装置用部材などを挙げることができる。また、本発明の低帯電性部材は、繊維、不織布、または織物などの形状であってもよい。本発明の低帯電性フッ素樹脂組成物で被覆される被覆物の好適な適用例として画像形成装置の定着用部材などを挙げることができる。
【0047】
或いは、帯電性の制御が必要な部分にのみ、本発明の低帯電性フッ素樹脂組成物からなる層を形成することにより、少量で帯電性を制御することもできる。
【0048】
例えば、電子複写機の定着用回転部材として用いられる場合には、従来の帯電性の高い定着用回転部材に比べ、白抜き、汚染防止等の画像不良解消に効果がある。帯電防止が必要な可燃性物質の運搬用のホース類、パイプ類(チューブ類を含む)として用いられる場合には、静電気の発生、蓄積が防止され、着火の危険性を防止することができる。
【0049】
また、半導体製造時の周辺部材として、薬液移送パイプ、継ぎ手、薬品容器、ウエハーキャリアー等に用いられる場合には、静電気による使用雰囲気中の微粒子の付着やスパークによる破壊を抑えることができる。さらにシート類、棒類、繊維類、パッキング類、及びコーティング用材料として用いることが出来る。
【実施例】
【0050】
以下に実施例によって、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
本発明において、物性測定は下記の方法によって行った。
【0051】
(A.物性の測定)
(1)融点(融解ピーク温度)
示差走査熱量計(Pyris1型DSC、パーキンエルマー社製)を用いた。試料約10mgを秤量して専用のアルミパンに入れ、専用のクリンパーによってクリンプした後、DSC本体に収納し、150℃から360℃まで10℃/分で昇温をする。この時得られる融解曲線から融解ピーク温度(Tm)を求めた。
【0052】
(2)メルトフローレート(MFR)
ASTM D−1238−95に準拠した耐食性のシリンダー、ダイ、ピストンを備えたメルトインデクサー(東洋精機製)を用いて、5gの試料粉末を372±1℃に保持されたシリンダーに充填して5分間保持した後、5kgの荷重(ピストン及び重り)下でダイオリフィスを通して押出し、この時の押出速度(g/10分)をMFRとして求めた。
【0053】
(3)帯電性微粒子分散状態
低帯電性フッ素樹脂組成物試料を350℃で溶融圧縮成形することによって作製された厚み2mmの試料より、10mm×10mmの試片を3ヶ所切り取り、光学顕微鏡(NIKON製、OPTIPHOT2−POL)を使用して、大きさが1000nm以上の銀ナノ粒子からなる混合凝集体の有無で分散状態を評価した。
【0054】
1000nm以上の銀ナノ粒子からなる混合凝集体が観察されない試料のみ、液体窒素に入れ脆くした後折って作製した破断面を電子顕微鏡で各試料につき3ヶ所観察し、銀の分散状態を評価した。電子顕微鏡観察で、殆どの銀が1次粒子まで分散されている場合を◎印で示し、銀ナノ粒子からなる混合凝集体が僅かに残っているある場合を○印で示し、光学顕微鏡で1000nm以上の銀ナノ粒子からなる混合凝集体が数多く残っている場合を×印で示した。
【0055】
(4)引っ張り物性(引っ張り強度、伸び率、引っ張り弾性率)
低帯電性フッ素樹脂組成物を350℃で溶融圧縮成形することにより得られた厚み約1mm試料より、JIS K 7127に準拠し、引っ張り速度50mm/分で測定した。
【0056】
(5)帯電圧測定法
JIS L 1094に準拠し、試験片表面と受電部との距離を10cmにして測定した。低帯電性フッ素樹脂組成物を350℃で溶融圧縮成形することにより作製した厚み約3mm、縦横100mm x 100mmの試験片3枚を用いた。6面がアルミ製の箱(縦x横x高さ:21cm x 21cmx 30cm)に集電式電位測定器(シシド静電気株式会社製、KS−525型)の測定ノズル(受電部)を設置し、試験片表面と測定ノズルとの距離が10cmになるようにノズルの位置を固定した装置を用いて帯電圧を測定した。また、アルミ製箱は、電源コンセントのアースと接続した状態で、測定を行った。
【0057】
測定を行う前に、試験片をアルミ箔に入れて温度℃、湿度25%の部屋に3日間置いた後、ガーゼに一定の荷重(PTFE棒、85g、縦x横x高さ:9 cm x 3.5cmx 1.5cm)をかけながら、試験片をガーゼで1分間擦り、試験片を帯電させた。擦り終わってから1分後、10分後の所定時間毎に減少する帯電圧を温度22℃、湿度25%の雰囲気で測定した。帯電圧は試験片と集電式電位測定器との電位差(−kV)で表す。帯電圧としては、3つの試料の帯電圧の平均値から計算した。
【0058】
(B.原料)
本発明の実施例、及び比較例で用いた原料は下記の通りである。
(1)PFAエマルジョン
乳化重合で得られたPFA水性分散液
(固形分:29重量%、一次粒子の平均粒子径:200nm、pH:9、
融点:309℃、メルトフローレート:2g/10分)
【0059】
(2)銀ゾル
(高純度コロイダル銀、ABCナノテク株式会社製、Sarpu−50K
(銀:5.0重量%、銀1次粒径:25nm、pH:7.0))
【0060】
(実施例1)
銀ゾル198gをビーカー(10L)に入れ、ダウンフロータイププロペラ型4枚羽根付き攪拌を使用して140rpmで15分間攪拌した後、銀含量がPFA固形分に対して1.0重量%になるように、乳化重合で得られたPFA水性分散液3380gを入れ、300rpmで30分間攪拌し、60%硝酸17.9gを加えて、ゲル化が進み流動しなくなるまで攪拌してフッ素樹脂一次粒子と銀ナノ粒子を一気に凝集させた。
【0061】
得られたゲル状の混合凝集体を、450rpmで10分攪拌し混合凝集体を水性媒体から分離させ余分な水を除去し、残った混合凝集体を170℃で10時間乾燥し、混合凝集体の乾燥粉末を得た。得られた混合凝集体の乾燥粉末を、溶融混合装置(東洋精機製作所製KF−70V小型セグメントミキサー)を用いて、340℃、240rpmで100秒間溶融混合し、低帯電性フッ素樹脂組成物を得た。
【0062】
得られた低帯電性フッ素樹脂組成物の引っ張り物性、MFR、帯電圧を測定し、光学・電子顕微鏡観察を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0063】
(実施例2)
銀ゾル19.6gをビーカー(10L)に入れ、ダウンフロータイププロペラ型4枚羽根付き攪拌を使用して140rpmで15分間攪拌してから、銀含量がPFA固形分に対して0.1重量%になるように乳化重合で得られたPFA水性分散液3380gを入れ、実施例1と同様にして、混合凝集体の乾燥粉末、及び低帯電性フッ素樹脂組成物を得た。
【0064】
得られた低帯電性フッ素樹脂組成物の引っ張り物性、MFR、帯電圧を測定し、光学・電子顕微鏡観察を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0065】
(比較例1)
銀を使用しないフッ素樹脂のみの試料の引っ張り物性、MFR測定、光学・電子顕微鏡観察、光線透過率、及び抗菌力試験を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
表1から、本発明による低帯電性フッ素樹脂組成物(実施例1〜実施例2)は、帯電防止微粒子である銀がナノ分散されていることが分かる。また、銀含量が1%の場合には、銀がナノ分散されることによりMFRと伸び率が低下せず、フッ素樹脂単体(比較例1)とほぼ同じであることが分かる。
【0069】
表2より、帯電防止微粒子である銀の含量が0.1重量%である場合には、帯電圧がフッ素樹脂単体の約70%まで低くなっていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明では、フッ素樹脂エマルジョンと、金、銀、亜鉛、銅、コバルト、チタン、タングステン、錫、ビスマス、クロム、ニッケル、タリウムから選ばれる少なくとも1つの帯電防止微粒子のコロイダル溶液とを攪拌下に混合した水性分散液を、0℃以下の温度で凍結するか、電解物質を加えて混合液のイオン強度またはpHを変化させるか、せん断力をかけることによって得られる混合凝集体を水性の溶液から分離乾燥して得られる低帯電性フッ素樹脂組成物であって、該低帯電性フッ素樹脂組成物の帯電圧が−2.0kV〜0kVである低帯電性フッ素樹脂組成物を得ることが出来る。
従って、帯電性微粒子がナノレベルに均一に分散されことで期待できるあらゆる分野に応用することが出来る。
【0071】
更に、最終的に得られる低帯電性部材は、フッ素樹脂中に帯電防止微粒子がナノレベルに均一に分散されることで期待できるあらゆる分野に応用することが出来、特に本発明で限定するようなことはない。例えば、半導体製造装置用部材、画像形成装置の定着用部材、繊維、不織布、織物、または膜等の種々の用途に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施例1で得られた混合凝集体の乾燥粉末試料の銀分散状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例2で使用した溶融混合後の低帯電性フッ素樹脂組成物の銀分散状態を示す電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂エマルジョンと、金、銀、亜鉛、銅、コバルト、チタン、タングステン、錫、ビスマス、クロム、ニッケル、タリウムから選ばれる少なくとも1つの帯電防止微粒子のコロイダル溶液とを攪拌下に混合した水性分散液を、0℃以下の温度で凍結するか、電解物質を加えて混合液のイオン強度またはpHを変化させるか、せん断力をかけることによって得られる凝集体を水性の溶液から分離乾燥して得られる低帯電性フッ素樹脂組成物であって、該低帯電性フッ素樹脂組成物の摩擦帯電減衰測定法での電圧が−2.0kV〜0kVである低帯電性フッ素樹脂組成物。
【請求項2】
前記フッ素樹脂エマルジョンが、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエ−テル)、ビニリデンフルオライド及びビニルフルオライドから選ばれるモノマーの重合体又は共重合体である請求項1記載の低帯電性フッ素樹脂組成物。
【請求項3】
前記フッ素樹脂エマルジョンが、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエ−テル)、ビニリデンフルオライド及びビニルフルオライドから選ばれる少なくとも1つのモノマーと、エチレン又はプロピレンとの共重合体であることを特徴とする請求項1及び2記載の低帯電性フッ素樹脂組成物。
【請求項4】
低帯電性微粒子の含有量が、低帯電性フッ素樹組成物に対し0.01〜10重量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の低帯電性フッ素樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜6記載の低帯電性フッ素樹脂組成物を、溶融押出しして得られるペレット。
【請求項6】
請求項1〜7のいずれかに記載の低帯電性フッ素樹脂組成物またはペレットからなる低帯電性部材。
【請求項7】
低帯電性部材が、半導体製造装置用部材、画像形成装置の定着用部材、繊維、不織布、織物、または膜である、請求項8に記載の低帯電性部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−239884(P2008−239884A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84899(P2007−84899)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000174851)三井・デュポンフロロケミカル株式会社 (59)
【Fターム(参考)】