説明

低揮発高温組織コンディショニング

【課題】 昇温下、すなわち、100℃をこえる温度で蒸発による目減りの少ないかあるいは蒸発による目減りの無い溶液を、通常の水溶液に基づいた抗原賦活化溶液の代わりに使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織サンプルの処理に関し、特には、包埋組織サンプルを処理するための方法、材料物質及び装置に関する。本発明は、特定の参考例でもって、染色用に包埋された生物学的な組織サンプルを処理することに関して記述されていおり、本発明はそうした用途(他の用途も包含されるが)に関連しても記載されよう。
【背景技術】
【0002】
病気の体から取り出した組織や細胞のサンプルを解釈して、それに基づいて病気の診断を行うことが、過去数年にわたり劇的に拡大してきている。伝統的な組織染色(histological staining)技術及び免疫組織化学染色アッセイ(immunohistochemical assays)に加えて、イン・サイチュ・ハイブリダイゼーション(in situ hybridization)やイン・サイチュ・ポリメラーゼ・チェイン・リアクション(in situ polymerase chain reaction)などのイン・サイチュの技術は今やヒトの病状を診断するのを助けるために使用されている。このように、細胞の形態だけでなく、細胞や組織の中に特定の高分子(マクロモレキュール)が存在するか否かを評価検討することを可能にする様々な多くの技術が存在している。これらの技術のそれぞれは、サンプルの細胞や組織に対して、アルデヒド(例えば、フォルムアルデヒド、グルタルアルデヒドなど)、フォルマリン代替物、アルコール(例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノールなど)などの化学物質でもって当該サンプルを固定化すること、あるいは、寒天、ポリマー類、樹脂類、極低温の媒体、各種のプラスチック性包埋化媒体(例えば、エボキシ樹脂やアクリル類など)などの不活性な物質の中に該サンプルを包埋せしめることを包含していてよい試料調製処理工程を行うことを必要としている。サンプルの細胞や組織の他の調製法は、冷凍(凍結組織切片)又は細い針を通しての吸引(細針アスピレーション(FNA))などの物理的な取り扱いを必要としている。組織又は細胞のサンプルやその調製又は保存方法に関係なく、その道の技術者専門家の目標は、データを正確に解釈することを可能にする、精確で、読み解くことができ且つ再現可能な結果を得ることである。精確で、読み解くことができ且つ再現可能なデータを与える一つの方法は、使用される技術に関係なく、試験結果を最適化するような方法でその組織や細胞を調製することである。免疫組織化学やイン・サイチュ技術の場合では、これは特異的なプローブ(例えば、、抗体、DNA、RNAなど)から得られるシグナルの量を増加せしめることを意味している。組織化学染色の場合、これは染色の強度を高めること又は染色のコントラストを増加せしめることを意
味している。
【0003】
保存すること無しでは、組織のサンプルを宿主から取り出した後短時間で組織のサンプルを診断に使用することはできなくなるといったように組織のサンプルは急速に劣化してしまう。1893年に、Ferdinand Blumはホルムアルデヒドが組織を保存したり固定化するのに使用され、組織化学の処理に使用できることを発見した。ホルムアルデヒドが組織の固定化で働く厳密なメカニズムは完全には確立されてはいないが、それはその同じタンパク質の中の反応性のサイトや異なったタンパク質の間の反応性のサイトをメチレンの架橋を介して交差結合あるいは架橋結合(クロスリンク)せしめることが関与していると信じられている(Fox et al., J. Histochem. Cytochem. 33: 845-853 (1985) 〔非特許文献1〕)。最近の証拠ではカルシウムイオンもまたなんらかの役割を果たしているということが示唆されている(Morgan et al., J. Path. 174: 301-307 (1994) 〔非特許文献2〕)。これらのリンク(結合)はタンパク質の四次構造や三次構造の変化を引き起こすが、一次構造や二次構造は保存されるようである(Mason et al., J. Histochem. Cytochem. 39: 225-229 (1991) 〔非特許文献3〕)。交差反応(化学架橋反応)の生起の程度は、ホルマリンの濃度、pH、温度、固定の長さなどの条件により異なる(Fox et al., J. Histochem. Cytochem. 33: 845-853 (1985) 〔非特許文献1〕)。ガストリン、ソマトスタチン、α-1-アンチトリプシンなどのある種の抗原は、ホルマリン固定の後で検出されうるが、インターミディエイト・フィラメント(中間径フィラメント: intermediate filaments)や白血球マーカーなどの多くの抗原に関しては、ホルマリン処理の後では免疫検出することがなくなったり、著しく低下せしめられる(McNicol & Richmond, Histopathology 32: 97-103 (1998) 〔非特許文献4〕)。抗原の免疫反応性が失われるのは、不連続となっている抗原のエピトープの部分で多く認められる、すなわち、連続しているものでないタンパク質配列の部分の集まりにそのエピトープ形成が依存しているようなアミノ酸配列のところで多く認められる。
【0004】
抗原賦活(抗原賦活化、又は抗原の回復: antigen retrieval)とは、クロスリンク剤(交差結合剤、ma化学架橋剤)で組織を処理すると、その組織の中に存在する抗原に誘導される構造上の変化を「元通りにする」ための試みのことを指している。抗原賦活(例えば、ホルマリン固定処理により形成された交差結合を緩めたりあるいは破壊すること)のメカニズムを記述することを試みるいくつかの説があるけれども、ホルマリンによるタンパク質の構造の修飾は高温での加熱などの条件の下では可逆的であることは明らかである。また、いくつかのファクター:加熱処理、pH、溶液中の濃度及び溶液中の金属イオンなどが抗原賦活に影響を及ぼすことも明らかである(Shi et al., J. Histochem. Cytochem. 45: 327-343 (1997) 〔非特許文献5〕)。
【0005】
ホルマリン固定によりマスクされた抗原を回復するためには加熱処理は最も重要なファクターであることは明らかである。免疫組織化学染色(IHC)での抗原賦活化に関して異なった加熱法が記載されてきており、例えば、オートクレーブ法(Pons et al, Appl. Immunohistochem. 3: 265-267 (1995) 〔非特許文献6〕; Bankfalvi et al., J. Path. 174: 223-228 (1994)) 〔非特許文献7〕; 圧力クッキング法(Miller & Estran, Appl. Immunohistochem. 3: 190-193 (1995) 〔非特許文献8〕; Norton et al., J. Path. 173: 371-379 (1994) 〔非特許文献9〕); 水浴法(Kawai et al., Path. Int. 44: 759-764 (1994) 〔非特許文献10〕); マイクロウェーブ処理+プラスチック圧力クッキング法(米国特許第5,244,787号明細書〔特許文献1〕; Pertschuk et al., J. CellBiochem. 19(suppl.): 134-137 (1994) 〔非特許文献11〕); 及び蒸気加熱法(Pasha et al., Lab. Invest. 72: 167A (1995) 〔非特許文献12〕; Taylor et al., CAP Today 9: 16-22 (1995) 〔非特許文献13〕)などである。
【0006】
多くの溶液及び方法が染色を増強するために普通に使用されている。それらのものとしては、蒸留水、EDTA、尿素、Tris、グリシン、塩水、クエン酸塩緩衝液などが挙げられるが、それに限定されるものではない。また、様々な洗浄剤(イオン系界面活性剤又は非イオン系界面活性剤)を含有している溶液は、広範囲の温度(常温から100℃をこえる温度まで)の下で染色を増加せしめるのを促進する。
【0007】
また、組織及び細胞は多種多様な不活性な媒体(パラフィン、セロイジン、OCTTM、寒天、プラスチック又はアクリルなど)の中に包埋され、さらなる分析のためにそれらを保存する助けとする。これら不活性材料物質の多くは、疎水性のものであり、組織学的な用途及び細胞学的な用途のため使用する試薬は、主に親水性のものである;そのため、該不活性媒体は、試験を行う前にその生物学的なサンプルから除去される必要がある。例えば、パラフィン包埋された組織切片は、その後の試験を行うためにトルエン、キシレン、リモネンあるいはその他の適した溶媒などの種々の有機溶媒に、スライドを通すことにより、該組織切片からパラフィンを除去することにより調製される。これらの有機溶媒は、非常に揮発性であり、特別なプロセス処理(例えば、脱パラフィン処理は換気用のフード中で行うなど)を必要とするなど様々な問題を起こし、特別な廃棄物の処理を必要とする。これらの有機溶媒を使用すると分析のコストが上昇し、試験される組織サンプルのそれぞれに関連した曝露のリスクも高まり、環境に重大なネガティブな効果を持つ。
【0008】
上記で述べた先行技術の賦活化法のいくつかは、特定の条件下、ある期間熱をかけることが必要である。例えば、免疫組織化学(IHC)の一次抗体でのインキュベーション処理は、42℃で16分間又はそれより多く行う; 組織コンディショニングは数分間又はもっとの長い時間おおよそ100〜120℃で行われる; イン・サイチュ・ハイブリダイゼーション処理は1時間又はもっとといった長い時間の間、47℃又はもっと高い温度で行われる。これらの必要条件の結果、液体を保持/保存することが不適切な液体の損失を防ぐために必要である。そうした用途では様々な液体保持のためのことが実施されてきた。例えば、圧力容器が組織コンディショニングプロセスのため、おおよそ120℃を得るために使用されうる。また、同じ用途に蒸気処理用容器も使用されてきた。そうした場合比較的に大きなサイズの蒸気処理用の容器は、スライドのすぐ近くの所での適切な液体の接触を保持しながらシステムの全体からの水分の蒸発を通しての液体の消失を軽減するのである。特製のハイブリダイゼーション用カバースリップに加えて湿気を付与されたインキュベーション・チャンバーが、イン・サイチュ・ハイブリダイゼーションでの手引きの中で広く使用されてきた。それはスライドのすぐ近くの所の液体蒸発によるロスを緩和するという同じ原理により作用する。ある製造業者は、顕著に液が蒸発して消失してしまうことに対抗してそれを緩和するように小さく囲まれたチェンバーを有している比較的大きなスライドの容量のもの(浸漬する部分をもつもの)を使用する。本出願の譲受人であるベンタナ・メディカル・システムズ社(Ventana Medical Systems, Inc., Tucson, Arizona)は、リキッド・カバースリップ(LIQUID COVERSLIPTM)(これはスライドの上の水溶液が蒸発してしまうのを防止するために使用される軽い油性物質である)を使用している(例えば、米国特許第5,552,087号明細書〔特許文献2〕参照)。その油性の層は、水溶液の頂上の表面をシーリング(“sealing”)して水が蒸発して消失してしめうことを防止している。しかしながら、沸点近傍での処理プロセスに関しては油性成分と水性成分の両者は、顕著な速度で蒸発する。そのような例では、表面が乾ききってしまうのを避けた
りあるいは液が濃縮されてしまうのを避けるために、頻繁に表面の液体を新しいものにすることが必要である。しかしながら、沸点近くの温度のスライドの表面に室温の液体を添加する結果、スライドは瞬間的に冷却されることとなり、定常温度であるセットポイントに回復させることをしなければならない。特定の組織サンプルをどのように固定化するかにより異なるが、抗原賦活化処理のプロトコ−ルの長さはそれにしたがって処理を行う時間を最小にしつつ染色結果を最適化するために調節される。抗原賦活化で有効ではあるが、リキッド・カバースリップ(LIQUID COVERSLIPTM)を使用するプロセスは比較的ゆっくりしたもので、水溶液の沸点により制限のあるものである。また、リキッド・カバースリップ(LIQUID COVERSLIPTM)を使用するプロセスは、プロセス温度が100℃に近くなるにつれその効果が少なくなるように働く二次的な液相(油)を使用することを必要とする。さらに、スライドを加熱したり冷却したりする回数がかなりになる。加えて、抗原賦活化の前には、包埋をしているパラフィンワックスというものは、おおよそ25分間の追加の処理時間を費やす除去プロセスを行うことを必要とする。
【0009】
そうした先行技術のスキームのすべては、システムのデザインを複雑にしたりあるいはそれに制限を加えることになる。120℃での処理プロセスでは、圧力容器に封じ込めることが必要となり、それは例えば、単一のプラットフォームにおける下流側処理のIHC処理プロセスを簡単に一体化するということに制限を加える。おおよそ100℃の蒸気処理プロセスは、液体保持のためのデザインを意味のあるように考慮することなしには、容易に統合化せしめることはできない。マイクロウェーブ及び超音波処理プロセスを行うことは、それ自体の装置構成を複雑化せしめることになる。その場合、下流側処理のIHC処理プロセスを行うことを一体化するには大きな課題がある。一般的なルールとしては、より高温では液体を保持するようなスキームが求められる。その場合、蒸発による損失はより重大となる。
【0010】
また、賦活化溶液の沸点に非常に近いところで操作することは、「液不安定性」(fluidic instability)と記載されることを発生させる。液不安定性は多くの方法でそれを表すことができるものである。第一に、長時間の期間にわたり昇温下で操作されると、溶液は蒸発する。処理されている領域の表面をリフレッシュするか、あるいは、適切にコントロールされなければ、溶液は濃縮されて、乾ききってしまう可能性もある。第二に、多くの液体のシステムに関し温度が上がるにつれ、溶解されていたガスは溶液から出てくる。液の中を動くガスの泡は、影響を受けているスポットのところで組織を溶液に露出することから遮断し、不十分な処理や一致性のない染色結果にする。第三に、その溶液はホットスポットで液体からガスに相変化を起こす(沸騰する)かもしれない。液の中を動くガスの泡の発生に加えて、組織の中や周りの凝集するガスの泡は形態の損傷(ダメージ)を起こすかもしれない。これらのすべての理由から、抗原賦活化のプロセスは、高温での水溶液での処理を行う場合に典型的に遭遇する液不安定性に対して、それを和らげるための様々な手段を包含するものである。
【0011】
処理を行うことを加速せしめるため、水溶液をおおよそ126℃まで加熱することを可能にしつつ溶液のロスを防ぐため高圧チェンバーが使用されてきた。そうしたプロセスはおおよそ数分だけといった程度で賦活化をするように作用するが、サンプルをロードしたり、装置を加熱したり、装置を冷却したり、サンプルを取り外したりするに伴い、実質的な時間が費やされる。また、高圧処理を行うことは高圧の蒸気が不注意にも漏れると危険なものである。
さらに、加圧されている容器を自動化され統合化されているシステムの中に組み込み、信頼できる、廉価で、簡単で且つ小型のフットプリント型のプロセス処理をできるようにすることは、プログラムに基づいて行えるようなものでない。
【0012】
別の例においては、スライドは抗原賦活化処理のためスチーマー中に置かれる。そうした問題並びに困難性は、高圧のスチーマーにおいても同様である。そのプロセスはおおよそ100℃、むしろおおよそ126℃より高い温度で行われるから、ロードを行ったり、加熱したりの平衡化に要する時間のファクターに加えて、この方法で抗原を回復するには数分間の代わりにおおよそl/2時間のオーダーの時間が一般的にはかかる。
必要とされるのは、液不安定性を示さず、僅か数分で抗原を回復せしめることができ、最小限の加熱冷却フェーズであるもので、流体を扱ったりあるいは温度をコントロールするのに複雑な装置構成とすることを必要としない、大きな容量の液体を消費することなどの無い、そして、別途の時間を費やす脱ワックス処理プロセスを必要としないなどの、方法、抗原賦活化の化学及び装置である。
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,244,787号明細書
【特許文献2】米国特許第5,552,087号明細書
【非特許文献1】Fox et al., J. Histochem. Cytochem. 33: 845-853 (1985)
【非特許文献2】Morgan et al., J. Path. 174: 301-307 (1994)
【非特許文献3】Mason et al., J. Histochem. Cytochem. 39: 225-229 (1991)
【非特許文献4】McNicol & Richmond, Histopathology 32: 97-103 (1998)
【非特許文献5】Shi et al., J. Histochem. Cytochem. 45: 327-343 (1997)
【非特許文献6】Pons et al, Appl. Immunohistochem. 3: 265-267 (1995)
【非特許文献7】Bankfalvi et al., J. Path. 174: 223-228 (1994))
【非特許文献8】Miller & Estran, Appl. Immunohistochem. 3: 190-193 (1995)
【非特許文献9】Norton et al., J. Path. 173: 371-379 (1994)
【非特許文献10】Kawai et al., Path. Int. 44: 759-764 (1994)
【非特許文献11】Pertschuk et al., J. CellBiochem. 19(suppl.): 134-137 (1994)
【非特許文献12】Pasha et al., Lab. Invest. 72: 167A (1995)
【非特許文献13】Taylor et al., CAP Today 9: 16-22 (1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、蒸散して消失することが僅かであるかあるいはそれがないという性状を示す溶液、すなわち、昇温下、すなわち、100℃を超える温度で蒸気圧がほんの僅かであるかあるいは実質的にないものである溶媒を使用することに基づいた、抗原賦活処理用の方法、材料物質及び装置を提供する。特に、本発明は、抗原賦活処理用の新規溶液化学技術を提供するもので、該溶液は、高い温度のもとで液体として安定であり、蒸気圧がほんの僅かであるかあるいは実質的にないものであり、セットポイントの温度にまで急速に加熱したり冷却する場合にも効果を有しており、大きな容量の液体を消費するものではなく、たった数分で抗原探索に効果を示し、複雑な機器構成とする必要性も無く、そして組織切片の予めの脱ワックス処理することもなく使用できる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
水性液に基づいた抗原賦活化学技術に代えて、蒸気圧が低いかあるいは実質的にないものである液体での抗原賦活化学技術を使用することにより、本発明を実施可能にすることができる。
【0016】
ある特定の物質の蒸気圧というものは、その物質と温度との関数である。一般的な法則としては、ある特定の材料物質の沸点が高ければ高いほど、その沸点より下のある与えられた温度でのそれの蒸気圧は低くなる。室温で液体であって、約200℃をこえる沸点を有している物質が、本発明では特に有用である。また、好適には、当該物質は100〜160℃の操作を予定する温度で約300センチポイズより小さな粘性を有しているもので、抗原賦活化に活性を有しているべきである。上記した判断基準に合致する様々な物質や材料物質が市場から入手可能である。上記で述べた判断基準を満足する好適な材料物質の一つのグループとしては、室温で通常液体であり、「イオン液体」(“ionic liquids”)として知られる有機塩が挙げられる。それらのものは塩であることから、揮発しない; ゆえに、それらの物質は実質的に蒸気圧がない性状を示し、少なくとも問題の温度の範囲内、例えば、100℃〜160℃の間では沸騰しない。上記した判断基準に合致する好適な材料物質の別のグループとしては、アミノポリオール類が挙げられる。アミノポリオール類は、低い蒸気圧で高い沸点を持つ物質であり、該物質としてはアミノグリコール類、すなわち、炭素鎖に結合している1個のアミノ基と2個のヒドロキシル基を有しているアミノポリオール類が挙げられる。それぞれ、262℃及び217℃の沸点を有する3-アミノ-l,2 プロパンジオール及びジエタノールアミンが特に好ましい。100℃〜160℃の処理温度ではこれらの化合物の揮発性は実質的に無視できるものである。結果として、それらの物質は抗原賦活化のための問題の操作温度では液安定性を示す。その上、賦活化処理は120℃でわずか数分間程度の短時間で行うことができる。そして、液体を含有するためとか液体を扱うためとか液体を補充するためとかの複雑な装置を備える必要が一切無い。その理由はその液体がもともとこの温度での処理法の範囲内では安定であるからである。加えて、高温のその液体はワックスを溶解し、その液体は組織に接触して、それに先立つ別の脱ワックス処理操作をすることなしに抗原を賦活化することを行いえるのである。本発明の好ましい態様では、迅速に温度が平衡化するようスライドを接触させることのできるといった決められた温度に予めセットされている加熱を行
うステーションを使用してよい。結果、先行技術では必要であったようなヒーターを再度平衡化することに関連しての加熱したり冷却するといった時間を大幅に避けることができて、素早いスライドの処理が可能となる。そして一旦処理されると、本発明に従って低い蒸気圧の液体で湿らされたスライドは、組織が乾ききってしまうという危険なしに次なる処理の前に長い時間置いておくことができる。
【0017】
また、本発明は、上記したような蒸気圧が低いかあるいは蒸気圧がないものである液体の化学作用を使用する抗原賦活化及び組織コンディショニングのための方法及び装置にも関する。
【0018】
本発明の更なる特徴点及び利点については、以下の詳細な記載から、添付の図面を組み合わせて考慮することにより明らかとなろう。
図1は、本発明を実施する上で有用な装置のブロック図を示す。図2〜4は、本発明に従った抗原賦活化処理を示すグラフである。図5A及び5Bは、図1と同様な方向からもので、本発明を実施する上で有用な装置の別の形態のもののブロック図を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、抗原賦活化/組織コンディショニング(明細書を通して交換可能に使用されている)のための方法、材料物質及び装置を提供するものであり、それらは先行技術の上記で言及した問題点及びその他の問題点を克服するためのものである。特には、本発明は、抗原賦活化/組織コンディショニング材料物質の用途に基づいたものであり、当該物質は昇温下で低揮発性を示し、すなわち、約100℃〜160℃又はそれ以上の温度で蒸気圧が低いかあるいは蒸気圧のない液体物質である。
【0020】
特には、本発明は、100〜160℃のスライドコンディショニングの温度を上回る沸点を有しているコンディショニング用液体をオンスライドとして使用することにより、100〜16O℃又はそれより高温で組織コンディショニングすることを可能にしている。一つの好ましい態様では、本組織コンディショニング液は有機溶媒を含有しており、該有機溶媒は室温で液体であるが、約200℃を超える沸点を有しているものである。本発明の別の好ましい態様では、本組織コンディショニング液は、普通、室温では液体であり且つ約200℃をこえる沸点を有している有機の塩を含有しているものである。
【0021】
本発明で組織コンディショニング液として使用される物質は、室温で液体であるべきであり、標準的な大気圧(1気圧)での沸点が約200℃をこえるところのものであるべきである。また、該組織コンディショニング液は、染色処理、ハイブリダイゼーション処理などで使用される化学物質と両立できるものであるべきで、そして、生物学的な標本を包埋するために使用されるパラフィンを分離することを許容することのできるものであるべきである。そして、該組織コンディショニング液は、組織標本の抗原を賦活化することのできるものでもあるべきであるが、組織標本に対して、その他の作用効果、すなわち、形態へのダメージなどは少ないかあるいは無いものであるべきである。
【0022】
本発明の組織コンディショニング液は、組織のサンプルが乾ききってしまうことから保護するためや約6O℃のパラフィンの融点より高い温度で標本を抗原賦活化処理するために役立つ。本組織コンディショニング液は、約6O℃のパラフィンの融点より高い温度でパラフィンが浮かび出て分離するのを可能にする。
【0023】
本発明の好ましい組織コンディショニング液としては、アミノグリコール類及び有機塩類、すなわち、有機のイオンを含有している塩などが挙げられる。本発明に従って有用な特に好ましい有機塩類としては、l-ブチル-4-メチルピリジウムテトラフルオロボレートなどの有機ボレート類、l-ブチル-3-メチルイミダゾリウム2 (2-メトキシエトキシ) エチル サルフェートなどの有機サルフェート類、及び有機ホスフェート類などが挙げられ、それらは、通常、室温で液体であり、200℃を超える沸点を有するものである。好ましいアミノグリコール類としては、3-アミノ-l,2-プロパンジオール; ジエタノールアミン及びトリエタノールアミンなどが挙げられる。
【0024】
本発明に従って組織コンディショニング液として使用される材料物質は希釈されていないものを使用してもよい。しかしながら、ある種の材料物質の粘性を低下せしめて、例えば、その物質を容易にポンプで送ったり分配することができるようにするためには、その物質を水又は有機の溶液で希釈することができる。しかし、希釈される場合には、その物質は主成分で、典型的には希釈された溶液の約5〜約75容量%を含有しているべきである。その物質及び希釈化剤は、混和するものあるいは使用される配合比の範囲内で互いに少なくとも溶解するものであるべきである。脱イオン水で約50容量%に希釈された3-アミノ-l,2-プロパンジオールは特に好適である。
【0025】
好ましくはであって、必ずしもではないが、該組織コンディショニング液は、スライドに適用される前に予め加熱されていてよい。その組織コンディショニング液を予め加熱しておくと、スライドを処理することを容易にし、粘性のある液体の場合、液の移動を容易にもする。好ましくはであって、必ずしもではないが、液体が適用され、スライドが接触される前に、組織コンディショニング液を受容する表面は予め加熱されてもよい。予め加熱された表面はスライドを接触する前にその液体を事前に加熱するのに使用されてよい。予め加熱処理を行った結果、スライドヒーターを再度平衡化することに関連して加熱したり冷却したりする時間を大きく省くことができて、短時間で且つ素早いスライド処理で賦活化を可能とする。温度が平衡状態である間を前後するようにスライドとスライドの温度をコントロールするステーションとの組み合わさったものを動かす代わりに、スライドは予め平衡化せしめられた温度の表面又は環境に接触せしめられる。
【0026】
図1を参照してみると、当該装置10はスライド14を支えるための、そして、昇温下、すなわち、100〜160℃で操作するように設計されたスライドヒ−ター16を持っているスライドホールダー12を有している。
【0027】
本発明は、次なる実施例を参照しながらさらに説明されよう。次なる実施例において、手動で行われた明示されている以外では、自動処理された例のすべては、ベンタナ・メディカル・システムズ社(Ventana Medical Systems, Inc., Tucson, Arizona)から入手できるディスカバリー自動染色装置(DISCOVERYTM autostainer)上で行われた。
【実施例1】
【0028】
DISCOVERYTM自動染色装置での自動化抗原賦活化処理を使用しての扁桃腺にある抗原Ki67
パラフィン包埋された中性緩衝ホルマリン固定(固定時間は未知)ヒト由来扁桃腺の一片を含有している組織ブロックAを得た。該組織ブロックをおおよそ4μの厚さの切片にスライスしてマイクロ切片とし、各切片をそれぞれのスライド上に載せて全部でおおよそ200個の切片スライドを試験用に用意した。組織切片の直径は、おおよそ1.0 cmであった。スライドを最低おおよそ1ヶ月の間貯蔵して、効果的に乾燥せしめ、ガラスに接着せしめた。スライドをキシレン中オフラインで脱ワックス処理(脱パラフィン処理)し、脱イオン水でアルコールを段階的に希釈して当該組織の最終液体条件としてある。フォルマリン固定によりマスクされることが知られていることから抗原Ki-67を賦活化特性をテストするために選択した。組織の形態を可視化することを改善するためにヘマトキシリン対比染色を選択した。次なる試薬はすべて、ベンタナ・メディカル・システムズ社(Ventana Medical Systems, Inc., Tucson, Arizona)より得られた: 抗体 CONFIRMTM anti-Ki67 (K-2 clone) カタログ No. 790-29 10; DAB MAPTM Kit カタログ No. 760-124; ユニバーサル二次抗体 P/N 760-4205; ヘマトキシリン P/N 760-2021; ブルーイング剤(Bluing reagent) P/N 760-2037。別途記述する以外は自動脱ワックス+抗原検出プロセスを行う標準的なプロトコール又は改変プロトコールに従ってベンタナ・ディスカバリー自動染色装置(Ventana DISCOVERYTM autostainer)上ですべてのスライドは処理された。
【0029】
いかなる組織コンディショニング(抗原賦活)処理も行わないで、ベンタナ・ディスカバリー自動染色装置(Ventana DISCOVERYTM autostainer)上でプロトコール”A”で、三枚のスライドを流した。「スタンダード」(“standard”)の組織コンディショニングを選択し、プロトコール”B”で、さらに二枚のスライドを流した。
【0030】
組織コンディショニング処理なしでは、抗原は全く検出されなかった; 本群のスライドのいずれにおいても、対比染色以外の染色は何ら観察されなかった。組織コンディショニング処理すると、すべてのスライドで、胚中心及び関連した胚中心の周りに、Ki-67抗原が明瞭に観察された。それはマスクされた抗原の回復に組織コンディショニングプロセスが有効であり且つ必要であることを示している。染色の強さは、「濃い」(“Dark”)に分類される又は最高に染色されたであった。スタンダード組織コンディショニング処理は、37の処理ステップを有しており、72分間という処理時間を必要とするものである。その二つの条件の間での形態の状態は、本質的には等しいように見えた。そしてそれを「良好」(“Good”)と定義した。標本を賦活化し過ぎてしまうことは、形態がダメージを受けることになるといった、当該分野でのよく知られている問題点である。形態のダメージとは、組織及び/又は細胞の構造上の鮮明度が低下するとか無くなるというように理解される。そしてそれは軽度(mild)から重度(severe)までに等級付けされることができる。
【実施例2】
【0031】
抗原賦活化処理の時間依存性
パラフィン包埋された中性緩衝ホルマリン固定(固定時間は未知)ヒト扁桃腺の一片を含有している組織ブロックBを得た。それぞれ一つの組織切片が付けられているスライド4枚を、lOO℃のノミナル設定ポイント処理温度でもって様々な条件の抗原賦活化処理に付した:「ショート」(“Short”), 「マイルド」(“Mild”), 「スタンダード」(“Standard”)及び「イクステンディッド」(“Extended”)のプロトコール。四つのプロトコールのすべては、おおよそ18分間かけての同じ加熱ランプ処理から始めた。ショートの組織コンディショニングの総時間は、24分間で、マイルドでは42分間で、スタンダードでは72分間で、イクステンディッドでは102分間であった。それ故にそれぞれの条件はその組織サンプルを累進的により長い時間抗原賦活化処理に付すものとなっている。表1は、観察可能な染色強度に及ぼす賦活化処理時間の効果を示すものである。抗原賦活化プロセスでより長い時間処理すると、図2に示されているように、グラフI (GRAPH I)で示される観察可能な検出により測定されている、回復された抗原%(賦活化された抗原パーセント: % antigen retrieved)を増加せしめることは明白である。
【0032】
【表1】

【0033】
ブロックBは、賦活化に対してブロックAより大きな抵抗性を示した: スタンダード組織コンディショニングプロセスは、ブロックAに対しては濃い染色を与えたがブロックBに対しては単に中程度の染色を与えた。グラフIIa(Graph IIa: 図3A)は、組織ブロックA及びBがそれぞれ曲線3及び4で表されるといった理想化された関係であることを示している。曲線1(図3A)は、賦活化処理が必要ない場合を表している; 抗原がマスクされておらず、利用可能な抗原の100%が検知に利用できて処理時間がゼロでよい。曲線2(図3A)は、抗原が回復不可能にマスクされている場合あるいは賦活化プロセスは簡単には有効なものではない場合を表している;賦活化処理は抗原性を回復できなかった。曲線3〜5(図3A)は、マスクされている抗原の回復がだんだんと抵抗性となることを示している。組織調製手法はいろいろであるとされているから、他のことに関連したある種の場合には更にいっそうの賦活化処理が必要とされる。
【実施例3】
【0034】
抗原賦活化処理の時間依存性
パラフィン包埋された中性緩衝ホルマリン固定(固定時間は未知)ヒト由来扁桃腺の一片を含有している組織ブロックB及びCを得た。それぞれ一枚のスライドをスタンダード組織コンディショニングにより染色し、そしてその組織コンディショニングの温度を95℃及び9O℃に変える以外は同じプロトコールを使用して追加のスライドを染色した。結果を表2に示す:
【0035】
【表2】

【0036】
そこに示されている賦活化プロセスのそれぞれに関し、組織Cに比較すると、組織Bには同等の量の抗原を回復するためにはより賦活化処理が必要であることは明白である。すべての場合において組織の形態は良好である。
【0037】
表2では3種の異なった高原賦活化プロセスが示されており、それらは処理温度が異なっており、異なった染色強度を与えるものであった。より高い温度ではより大きく抗原賦活化が得られた。グラフIIb (Graph IIb: 図3B)は、この温度の効果を示すものである: 曲線3は100℃での賦活化プロセスを、曲線4は95℃での賦活化プロセスを、曲線5は90℃での賦活化プロセスを示すものである。より高い温度では、本化学処理に関して形態が反対に悪くなるということなしに、比較してより効果的に抗原賦活化が達成できる。曲線3(図3B)は、この適用されたプロセスに関し最大の効率を示す曲線を示すものである。その理由は組織コンディショニング水溶液はその沸点以上に上昇せず、液体の状態に保たれるからである。しかしながら、使用することのできる最高の温度の極めて近くで操作するといった相殺処理する手法がある。プロトコール”B”は、液がなくなることを克服するために必要とされる液体の頻繁な補充(12x)を示しているものである。液補充のたびに、処理されているスライドの容積部の温度は低下せしめられて、回復に時間を要することになる。かなりの量の廃棄液体を生ずる一方で大量の液体を消費する。
【実施例4】
【0038】
抗原賦活化処理における化学コンディショニング液対水
抗原賦活の化学は、賦活化の効果がそれぞれ異なっている。様々な組織コンディショニング液を各種の処理条件下に同じプロトコールを使用して試験し、ベースラインとして100℃のセットポイントで、ベンタナ・メディカル・システムズ社(Ventana Medical Systems, Inc.)の細胞コンディショニング液(cell conditioning fluid: CCl)クエン酸塩緩衝液(citrate buffer)と比較した。それぞれのスライド二枚をCClに代えて脱イオン水を使用してマイルド及びイクステンディッドの条件で染色した。H2Oのマイルドの条件での染色強度は、ショートのCClの条件と同等なものであった; イクステンディッドH2Oの染色は、マイルドのCClの条件と同等なものであった。すべての場合で形態は良好であった。グラフIIc (Graph IIc: 図3c)は、特定の化学処理に基づいた賦活化処理の効果を示すのに使用されることができる。抗原賦活化液としての脱イオン水(DI水)は曲線5により示されており、CCl化学は曲線4により示されている。それ故に、クエン酸塩緩衝液などの好ましいとされる化学試薬は、抗原賦活化プロセスの時間を加速するものであるか、あるいは、同等なプロセス処理条件では抗原をより効果的に賦活化するものである。
【実施例5】
【0039】
100℃での低蒸気圧の抗原賦活化液
CClに代えて候補液体物質を使用し、本発明の化学物質の抗原賦活の効能を明らかにした。候補物質はすべて100℃で蒸気圧が低いかあるいは蒸気圧の無いものであった。こうした属性は、絶えず液体を新鮮のものとしておくという処理を除こうとするプロトコールを簡単なものとすることを可能にした。代わりに、抗原賦活処理、それに続く100℃までの速やかな温度上昇、そしてその後の温度保持の最初のところで、適用すべき一回分の液体を与えた。100℃から約2°以内に到達するに要する時間は、すべての場合で約10分間であった。抗原賦活処理の最後で、スライドヒーターを慣用的な方法で冷却し、その後何回か洗浄処理し、検知処理した。
【0040】
試験されたいくつかの液体に関しては、完全に組織切片を覆うために、おおよそ5μl又は丁度十分な容量を使用した。試験された第一の液体は、”IL-1”と呼ばれるものである: 1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム2-(2-メトキシエトキシ)エチルサルフェート(1-butyl-3-methylimidazolium 2-(2-methoxyethoxy)ethyl sulfate), Chemika A.S., Bratislava, Switzerland, P/N No. 67421。試験された第二の液体は、”IL-2”と呼ばれるものである: l-ブチル-4-メチルピリジニウムテトラフルオロボレート(l-butyl-4-methylpyridinium tetrafluoroborate), Chemika A.S., P/N73261。スライド3枚をIL-1用の条件下に処理し、スライド2枚をIL-2用の条件下に処理した。また、蒸気圧の低いアミノグリコール化合物についても調べた、”A-1”:3-アミノ-1,2-プロパンジオール(3-amino-1,2 propanediol), 97%, シグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich, Inc., St. Louis, Missouri), P/N A76001。38分間二枚のスライドを処理し、3枚のスライドは98分間処理した。A-1の条件については比較的大容量の液体、おおよそ20〜50μl、を適用した。
【0041】
液体を適用する前に、スライドを激しく振って脱ワックス処理の後のスライド表面に付着している残留脱イオン水の大部分を除く。組織切片の周りのグラスより過剰の水滴を吸い取るためにペーパータオルを使用した。本処理の間に組織から水分がなくなってしまうことを避けるように注意する。蒸気圧の低い抗原賦活化液を一旦適用したら、組織が乾いてしまうことが無いように組織切片の上を液で完全に覆うのを促進し且つ確実に行うため、当該スライドを回転する。次に、そのスライドをスライドヒーター上においてプロトコールAを行った。結果を表3にまとめて示す。
【0042】
【表3】

【0043】
表3の見出しの二つのIL-1から明らかなように、抗原賦活化においてIL-1は効果があり、それは同様な処理時間並びに処理温度の条件でCC1処理の場合とほとんど等しいものであった。しかしながら、IL-1処理は形態の品位を低下せしめていた。また、染色の均一性も欠けているものであった; 不均一性のパターンは、IL-1処理スライドのすべてで一致しており、それはCC1の条件ではみられない人工固定化物に対して感受性を有することを示唆するものであった。IL-2の化学作用はこの条件の下では賦活化に何らの作用効果も示さなかった。いすれの処理によっても組織の形態には影響が無かった。38分間処理でのA-1の化学作用は、CC1の化学作用より少ないものであるが、賦活化に効果があることを示していた。98分間の処理条件は「賦活化し過ぎ」を示唆していた; すなわち、染色強度は最大化されたが、形態の品位が低下していた。本結果は、少なく処理すると、あまり形態の品位を落とさないが、依然として最高の(ほぼそのような)染色強度を達成可能であることを示唆している。グラフIV(Graph IV: 図4)は、賦活化処理(曝露)の関数として、回復された抗原%(賦活化された抗原パーセント: % antigen retrieved)と形態の品位低下の程度(morphological degradation)の間の関係を示すものである。CC1のスタンダードの処理は、グラフIVの曲線1a及び1b (図4)により、時間のポイントT1及びT2のところに示されている。染色強度は最大となっているが、賦活化処理はこれらの時間のポイントで形態が損傷されるほど大きくはないものである。しかしながら、賦活化処理が時間のポイントT3まで長くされると、形態の損傷が起こることとなろう。IL-1の処理は、曲線2a及び2b(図4)で表されている。抗原が十分に回復される前にかなり形態の損傷が起こっている。このようにいくつかの化学的な処理は好ましいものである。その理由はそれらは対応する過剰に形態にダメージを与えるということなしに抗原賦活化を比較的良好になしうるからである。
【0044】
IL類及びA-1の液の安定性はすべて良好であった:素早く温度へ到達する;発煙性もガスの発生/起泡性も何ら観察されない;容量変化は何ら認められない; +/- 0.5℃のセットポイントの温度に保持され、これは(スライドヒーターのセンサーにより測定されるように)CC1での液の補充に伴なう数度の温度低下の場合と対比せしめられる。
【実施例6】
【0045】
高温で蒸気圧が低い抗原賦活化液
ディスカバリー(DISCOVERYTM)自動染色装置に特別製のソフトウエアを搭載せしめ、12O℃まで高温処理することができるようにした。組織の表面の実際の本当の温度(見掛けの温度に対して)を正確に調べることは困難である; しかしながら、比較的高い温度は、ヒーターのセンサーで示されるように、組織表面の比較的高い温度と、正確にではないが相関していることは知られている。CC1の抗原賦活の化学作用は、おおよそ100℃で処理する条件では、実施例5で示されているように、A-1の化学作用より効果があるが、CC1の化学作用は温度が溶液の沸点に近づいていくにつれて液不安定性の重大な問題を生じて実用的なものでなくなる。しかし、蒸気圧がないかあるいは低い液体はこうした制限をこうむることはない。さらに、T>100℃での処理は特定の化学作用の効果を促進するために使用されてよい。
【0046】
組織ブロックCよりスライドを得た。二枚のスライドを、実施例5に記載されている方法を使用し、CC1, IL-2及びグリセロール (99%, Sigma-Aldrich P/N G-5516)使用の条件で、表4にその詳細が示されているようにして処理した。グリセロールを過剰におおよそ50〜100μlの容量で適用した。115℃の条件で蒸気圧が低い抗原賦活化液A-1で二枚のスライドを処理した; 実施例5に記載されている方法を使用し、12又は16分間12O℃の条件で四枚のスライドをそれぞれ処理した。その結果を表4に示す。IL-2とグリセロールの両者は、なんら染色することが示されなかったので、現在のプロトコールの設定では抗原賦活化の化学作用があるものでない。対応して、形態の品位の低下は何ら観察されなかった。T> 100℃でのA-1の化学作用は、CC1での処理のT=1OO℃の場合と比較して、抗原賦活化の処理時間が加速されていることを示していた。さらに、A-1では昇温下でも液の安定性は良好であった。A-1の16分間のところでは、一つのスライドで僅かながら形態の品位の低下を伴って染色強度は最大化せしめられていた(濃い:Dark)。12分のところでは、一つのスライドでは賦活化が少しばかり劣るもの(中程度の染色)のようであった。スライドヒーターがセットポイントの温度にまでなるのにおおよそ10分間かかるので、時間にわたって温度変化が平均化されるといったより長い時間の処理と異なり、10分間より少しだけ長いといったショートの処理サイクルでは温度変化の作用効果に支配される。A-1に関しては12O℃で数分間のオーダーでは、セットポイントの温度での一度の実際の処理の時間は効果的な賦活化にはきわめて短いものである。蒸気圧がないかあるいは低い液体を使用しての条件すべてで液体の安定性は良好であった。
【0047】
【表4】

【実施例7】
【0048】
A-2/A-3による高温での抗原賦活化
アミノポリオール類から選択されたその他の液状化合物二種につき、実施例5に記載されている方法を使用し、抗原賦活化の効果を評価した:トリエタノールアミン(“A-2”: Sigma-Aldrich P/N T5830-0, bp=193℃)及びジエタノールアミン(“A-3”: Sigma-Aldrich P/N D8330-3, bp=217℃/150mm Hg)。組織ブロックCからの二枚のスライドをそれぞれ表5に示されたような条件で処理した。A-2は本発明の条件下の賦活化処理で効果は無かった。A-1ほど効果は無かったがA-3は効果があり、同等の賦活効果を得るためにはより長い時間処理することが必要であった。12O℃での20分間のA-1での処理では過剰の賦活化がなされ、かなりな形態のダメージを示していた。結果を表5にまとめて示す。
【0049】
【表5】

【実施例8】
【0050】
脱ワックス処理無しの抗原の賦活化処理
前記した実施例と異なり、オフラインの脱ワックス化の前処理を何ら行わないでスライドを処理した。各スライドの上のワックス性の組織切片の中心に直接A-1液(おおよそ20〜50μl)を添加した。該液は極性があるという性状であり、パラフィン切片には極性がないという性状から、完全に組織を覆っているワックス切片の中心部に直接液滴を添加することを行うように注意を払った。良好に中心部に適用されるかぎり、そのA-1液の比較的に高い粘性は液滴の安定性を高めていた。該液滴がワックス性の縁部に非常に近いところに来てそれを取り囲むむき出しのガラスに触れたなら、表面張力でその極性を持っている液体がワックス部から流れ出てガラスの表面の上に引き出されることとなり、組織切片を覆うことなくそして処理されないままとするようになる。流体としてはこのことは、その下で操作するには非常に不安定で実用的でない条件である。一旦スライドが加熱されワックスが溶融されると、その適用された液体は明らかに安定化されていたようであった。
【0051】
組織ブロックAからスライド9枚を得た。スライドの6枚は上記したようにオフラインで脱ワックス化処理したが、スライド3枚はそれをしなかった。6枚のスライドのうち3枚は、脱ワックス処理の間100%エタノール液に置いたままにし、脱イオン水へとさらなる溶媒交換が起こるのを避けた。このように抗原賦活化処理の直前、3枚のスライドは脱ワックス化及び水和処理され、3枚のスライドは脱ワックス化され、100% ETOH中に置かれ、3枚のスライドはパラフィンワックス中に包埋化されていた。
【0052】
抗原賦活化処理の後の冷却の際に、スライドからワックスが洗い流される前にワックスが再度固化するという心配がある。スライドを最初に75℃にまで冷却して、そこで洗浄を行うようにプロトコールを調整した。一回の洗浄サイクルの後、更なる処理のためスライドを常温にまで冷却せしめた。すべてのスライドを12O℃で20分間賦活化処理した。すべてで形態のスコアが「劣る」(“Poor”)の結果の賦活化され過ぎていたことを示した。結果を表6にまとめて示す。
【0053】
【表6】

【0054】
本A-1組織コンディショニング液を使用している本実施例のプロセスの下で液不安定であることを除いて、別々である脱ワックス前処理の操作を除くことができ、それによりさらに促進された処理が可能である。これを「脱ワックス処理無しの」(“free de-wax”)抗原賦活プロセスと呼ぶ。
【実施例9】
【0055】
IL-1, A-1及びA-3を使用する脱ワックス処理無し処理
実施例8で記載した脱ワックス処理無しプロセスを使用して120℃でスライドを処理した。組織ブロックCより得られたスライドの上におおよそ20〜70μlの液容量のIL-1, A-1及びA-3液を使用した。さらに、予めオフラインで脱ワックス処理された追加のスライド2枚をIL-1で賦活化処理した。そのIL-1のワックスの条件では染色は顕著に影響を受けていた; ほんの少数の細胞がはっきりと染色を示していた。それ故、ワックスが存在すると、IL-1での賦活化処理の効果に影響を与えるが、A-1やA-3の処理ではそうではなかった。結果を表7にまとめて示す。
【0056】
【表7】

【実施例10】
【0057】
A-1の溶液
アミノポリオール類の粘度は、直径の小さなチューブを通してポンプで送り出すという能力を妨害するに十分大きなものである。本実施例では、粘度を低減するため脱イオン水でA-1を希釈した。50%(v/v)及び10%(v/v)の両方の濃度のA-1水溶液を調製した。水とA-1は極性物質で混和可能なもので、容易に混合して一緒にできる。A-1の50%及び10%の両水溶液は、水の粘性と類似した粘性を示した。実施例8で記載した脱ワックス処理無しの方法を使用して条件(120℃)あたり3枚のスライドを処理した。組織ブロックCより得られたスライドの上におおよそ50〜200μlの液容量のA-1の10%及び50%の水溶液を使用した。10%のものの条件では、200μlの容量を適用し、スライドは12分間処理された。50%のものの条件では、おおよそ50〜100μlの容量を適用し、スライドは20分間処理された。粘性が低いと液体を動かしたり、液体を使用することが容易となる。しかしながら、粘性が低いと液体としてより不安定となることになる; 液体は比較的容易に流れることとなり、ワックス切片から他に移動したり、周囲のガラスの領域に移動しやすくなる。ワックスが溶融するまでワックス性の切片のところに賦活化処理用液の液滴がとどまるように注意を払うことが一層求められる。賦活化用液の量が少ないと、移動する傾向がより少ない;大きさがより大きくなると、スライド上での液の位置取りを不安定化する慣性効果とか重力効果がより大きくなる。
【0058】
水を添加する別の効果としては、含有される水を蒸発するためにエネルギーや時間が必要となり、スライドが120℃のセットポイントの温度になるのに長くかかるようになることである。ガスが泡立つといった組成のものは何ら観察されなかった; この点ではスライドは流体学的に安定であった。しかしながら、水が蒸発するにつれ容量が変化し、この点ではスライドは流体学的に安定でなかった。本プロセスを通して10%の組成液はかなりの容積が減った。組織は残留する混合液では均一に覆われていなくて、不均一な染色となった。しかしながら、組織が液で覆われたところでは組織は濃く染色された。それ故、A-1を水と混合することは、賦活化の化学の効果に影響を及ぼすことなく液を動かすことに関し賦活化用の液を「薄くする」(“thin”)ための手段として合格であった。しかしながら、希釈剤たる水が蒸発することに関して顕著に液不安定であるということが残っていた。
【実施例11】
【0059】
メンブレンによる流体のコントロール
12インチ×25インチ(12" × 25": 約30.48cm×約63.5cm)のシートの0.002インチ(0.002": 約0.05mm)の厚さのカプトン(KaptonTM)メンブレン(McMaster-Carr Supply Company, Los Angeles, California: 12" x 25" P/N 2271K12)を2.5 × 5 cmのサイズの大きさに裁断した。組織ブロックCからのワックス性組織切片を備えたスライドの数枚を用意した。第一の場合においては、ワックス性の組織切片を備えたガラス製スライドを上に向けて出して、脱イオン水の100μlの一滴を適用した。水の液滴は、ワックス性の表面に適用されると、その液体が極性であるという性状と反対に、ワックスは極性でないという性状の故に、不安定な液の玉を形成した。不安定性は水の液滴が移動する傾向及び大部分はもしガラスを動かしたり傾けるとガラスの表面から落ちてしまう傾向があるとして現れた。第二の場合においては、KaptonTMメンブレンを上に向けて出して、脱イオン水の100μlの一滴を適用した。水の液滴は、KaptonTMの表面に付着し、移動に抵抗性を示した。KaptonTMの表面は液滴を捕捉するための流体学的に比較的より安定な基盤を提供した。次に、ガラススライドを上方よりワックス性の表面が直接に接触するように液の粒の上に置いた。その二つのものが密に接触するにつれ、そのメンブレンとガラスの間の空間をその液は拡がり完全に覆った。非極性のワックス性表面の存在は、接触している領域を通って液が被覆するのを邪魔しない。KaptonTMの表面は流体力学を支配し制御しており、液安定性を与えていた。
【実施例12】
【0060】
流体的コントロール及びA-1による抗原賦活化
組織ブロックCよりのワックス性切片を備えているスライド9枚をA-1調合液を使用しての120℃16:00 賦活化プロトコールに付して処理した。200μlのA-1 100%液を3枚のスライドの上のワックス性切片の中心の組織領域に注意深く適用した。別のスライド3枚には200μlの100% A-1液を適用し、さらに別の三枚には100μlの50% A-1液を適用した。これらの最後の二つの群のものに関しては、スライドの面積を液で完全に覆うように、A-1液を適用したすぐ後に(そしてスライドを加温する前に)、一つのKaptonTM片を直接そのスライドの上に置いた。賦活化処理を完了すると、メンブレンは冷却期間の間取り除かれ、メンブレンによる干渉なしに続いての処理を行った。そのメンブレンは薄くて柔軟性のあるもので、液と接触すると、カールせしめられ、当該二つの部材の間に泡発生をすることなく液が拡散することを可能にするものであった。さらに、そのメンブレンをはずす間もメンブレンはカールせしめられ、濡らされたメンブレンを少ない力で取り去ることを可能にした。そのメンブレンを接触せしめたり取り去る場合に、表面張力の故に、メンブレンは自然と平べったくなり、当該部材の間に液を分布させたり、液で覆うことを可能にした。
【0061】
【表8】

【0062】
結果(表8にまとめられている)より、メンブレン使用の100% A-1の場合とメンブレン無しの場合では差異があった。本メンブレンは、非極性である領域に関係なく、ガラススライドの表面を確実に液体的に覆うものであった。50%調合液の場合良好な染色となり、均一な結果を与えたが、液不安定であることが証明された。スライドをH2Oの沸点近くに加熱すると、メンブレンの下側にガスのポケットが形成され、メンブレンが上に飛び上がる(“popping”)動きを起こした。得られた形態のダメージは重度であった: 生の組織構造の多くが、おそらく組織にかかったガスポケットにより局所的に働くせん断ストレスにより破壊されていた。本実施例及び前記の実施例のメンブレン無しの場合(覆いがされてない場合)では、水は妨げられておらず組織の形態に関連する作用なしに自由に揮発する。
【実施例13】
【0063】
高温での予めの加熱処理及び抗原賦活化時間に及ぼす作用効果
抗原賦活化に影響を及ぼすように14〜20分間ディスカバリー(DISCOVERYTM)装置を使用してスライドを加熱処理すると、セットポイントの温度となるのに多くのプロセス時間(おおよそ10分間)が関与した。ヒーターの表面と液滴の両方は、予め加熱処理され、それにより処理中の熱的な時間のずれがあることによる効果を最小となるようにすると、有効賦活化時間を顕著に低減することができた。条件あたり組織ブロックCから二枚のスライドを得た。スライド4枚をオフラインで脱ワックス処理し、4枚のスライドはそうした処理をしなかった。使用に先立ち、最低で10分間12O℃の一定の温度に保つようにいくつかのスライドヒーター(図1参照)をプログラムした。使用に先立ち、すべてのスライドヒーターを徹底的に洗剤で清浄にし、続いて脱イオン水ですすいだ。約50〜100μlのA-1液を予め加熱されたスライドヒーターに直接に適用し、その適用した液体が予め加熱処理されるように追加の2分30秒間をかけた。スライドを予め加熱された液体中に組織表面が下向きとなるように置き、接触で液がひろがって覆うことができるようにした。4分間又は6分間のいずれかの間スライドを処理した。一度処理されると、スライドヒーターからスライドは取り除かれ、おおよそ10秒間空中に保持されて冷却せしめられた。その際、スライドは75℃の予め加熱されたスライドヒーターの上に組織側が上となるように置かれ、プロセス処理は検知まで完結するように行われた(表9に示す)。
【0064】
【表9】

【0065】
予め脱ワックス処理されたスライドは短い接触処理時間で良好に賦活化された。予め加熱処理する賦活化の化学は、熱的にずれがあることによる作用効果を最小にすることを介して、より便宜的に優れている処理法であることを示している。ワックス包埋スライドは、被覆が完全でなかったことにより均一でない染色を示した。上記した実施例では、賦活化用の液が組織の頂部に置かれるようにその組織は位置決めされていた。本実施例の場合では、方向は逆向きとされ、スライドはひっくり返されており、組織はその予め加熱処理された液の上に降下するように置かれた。ワックスが存在する時には、賦活化処理液がその組織にアクセスする能力にその位置どりが影響を与えることは明らかであろう。あるいは、適切に装置を配置して、組織サンプルの上に加熱を行う装置を配置すると適切な染色結果を得ることができる。あるいは、加熱を行う装置に関しスライドを、液が組織にアクセスするのを容易にするよう前後に往復運動せしめることができる。
【実施例14】
【0066】
第一のヒーターステーションの液体接触表面(図5A参照)は、セットポイントの温度、例えば、120℃に予め加熱せしめられる。本発明の抗原賦活化液(容量100μl)をその第一のヒーター表面に適用し、そして迅速に抗原賦活化処理するため組織を載せているスライド14をその液体と接触せしめる。その処理に続けてスライド14をその第一の表面22から移動させ、後処理のため第二の加熱された処理用の表面24と接触させる。第一及び第二の処理用の表面は、同じシステム(図5A)の構成部分の連続している領域22, 24であってよいし、あるいは、別々の加熱された表面(図5B)のそれぞれ別となっている表面22, 24であってよい。あるいは、第一の処理用表面のみを使用、例えば、蒸気圧が低いことから賦活化液が蒸発して無くなってしまうことに抵抗性であり、迅速にリンス処理する必要がないといった抗原賦活化処理のために使用する。
【実施例15】
【0067】
自動抗原賦活化処理を使用したディスカバリー自動染色装置(DISCOVERYTM autostainer)上での乳房のKi67
ヒト乳房組織を高温液を使用して抗原賦活化することを実施例1に記載した方法を使用して評価した。パラフィン包埋された中性緩衝ホルマリン固定ヒト由来乳房の一片を含有している組織ブロックDを得た。該組織ブロックをおおよそ4μの厚さの切片にスライスしてマイクロ切片とし、各切片をそれぞれのスライド上に載せた。一枚のスライドのそれぞれは、次なる細胞コンディショニング液の一つで処理した後に染色した:
(1) 3-アミノ-1,2-プロパンジオールを脱イオン水で50%濃度(容積濃度)に希釈したもの、
(2) 濃縮高温液体カバースリップLIQUID COVERSLIPTM (LCS)で、それはベンタナ・メディカル・システムズ社(Ventana Medical Systems, Inc., Tucson, Arizona)より得られたパラフィン性炭化水素オイル (カタログNo. 650-010)である、及び
(3) EZ Prepの中に漬けられた組織を覆う層に適用されたLCS。これも、ベンタナ・メディカル・システムズ社(Ventana Medical Systems, Inc., Tucson, Arizona)より入手可能である(カタログNo. 950-102)。EZ Prepは、1O×濃縮液として販売されているが、使用前に脱イオン水で1:10に希釈した。
【0068】
スライドを染色前に115℃で様々な時間処理した。殆どの場合で顕著に組織のロスが観察され、これはコラーゲン様の緩やかな結合組織に共通した問題で、特に乳房組織においてよく起こる、そしてアミノポリオールでの処理でよく起こる問題である。しかしながら、付着が起こるその組織に関しては、優れた抗原賦活化が観察された。115℃の温度で12, 16, 20又は40分間スライドは保持された。結果は表10に示す。
【0069】
【表10】

【0070】
上記には様々な改変がなされてよい。例えば、液と接触する表面はヒーターステーションと接触してメンブレンを有しているものであってよい。該メンブレンは、ヒーターの表面及び/又はフライドの表面に関して増加せしめられて、新鮮なメンブレンの表面がその処理されているスライドのそれぞれのために利用可能とされていてよい。さらに、プロセスを行うステーションは長くされていて、スライドが該ステーションの長い方向に運ばれながら、多くのスライドが順番に且つ同時に処理されるようになっていてよい。そのような場合には、スライドは該ステーションに連続的に供給されているものであってよい。そしてスライドの温度を上昇せしめるための最初の待ち時間の後は、スライドはステーションを通っていくことにより連続的に処理されるものであってよい。本発明の精神及びその範囲を逸脱しないならさらに他の改変を加えることもできよう。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明を実施する上で有用な装置のブロック図を示す。
【図2】本発明に従った抗原賦活化処理を示すグラフである。
【図3】本発明に従った抗原賦活化処理を示すグラフである。
【図4】本発明に従った抗原賦活化処理を示すグラフである。
【図5】本発明を実施する上で有用な装置の別の形態のもののブロック図(図1と同様な図)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染色用にスライド上の生物学的なサンプルを調製する方法であり、約200℃より高い沸点を有している液体物質を含有している液体と該サンプルを接触せしめ、次に当該液体物質及び/又は当該サンプルを抗原賦活化に十分な程度加熱することを特徴とする方法。
【請求項2】
該液体がアミノグリコールを含有しているものであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
該アミノグリコールが3-アミノ-l,2-プロパンジオール、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミンからなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
該液体が有機塩又はイオン液体を含有しているものであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
該有機塩が有機ボレート、有機サルフェート及び有機ホスフェートからなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
該有機塩がl-ブチル-3-メチルイミダゾリウム2-(2-メトキシエトキシ) エチル サルフェート及びl-ブチル-4-メチルピリジウムテトラフルオロボレートからなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
該液体を100℃をこえる温度に加熱することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
該液体を100℃〜160℃の温度に加熱することを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
該液体を該サンプルに適用する前に加熱しておくことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
該液体は該サンプルに適用する前に希釈されているものであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項11】
希釈剤は少ない量で添加されているものであることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
該液体物質は生物学的染色剤を含有しているものであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項13】
約200℃より高い沸点を有している液体物質を含有しており、該液体物質が抗原賦活化能を有していることを特徴とする生物学的サンプルコンディショニング液。
【請求項14】
該液体物質がアミノグリコールを含有しているものであることを特徴とする請求項13記載の液。
【請求項15】
該アミノグリコールが3-アミノ-l,2-プロパンジオール、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミンからなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項14記載の液。
【請求項16】
該液体物質が有機塩又はイオン液体を含有しているものであることを特徴とする請求項13記載の液。
【請求項17】
該有機塩が有機ボレート、有機サルフェート及び有機ホスフェートからなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項16記載の液。
【請求項18】
該有機塩がl-ブチル-3-メチルイミダゾリウム2-(2-メトキシエトキシ) エチル サルフェート及びl-ブチル-4-メチルピリジウムテトラフルオロボレートからなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項17記載の液。
【請求項19】
該液体物質がその粘性を下げるために希釈されているものであることを特徴とする請求項13記載の液。
【請求項20】
該希釈剤が水又は該液体物質と混和することのできる高沸点を有する有機の液体であることを特徴とする請求項19記載の液。
【請求項21】
該希釈剤が僅かな量で添加されているものであることを特徴とする請求項19記載の液。
【請求項22】
請求項1記載の方法に従って液体物質と生物学的なサンプルを接触せしめることにより染色用にスライド上の生物学的なサンプルを調製するための装置であって、該装置は抗原賦活化能を持つ液体物質のためのリザーバー及び計量された該液体物質を該スライドに送達せしめるためのディスペンサーを備えており、該液体物質は約200℃より高い沸点を有しているものであることを特徴とするサンプル調製装置。
【請求項23】
該液体物質がアミノグリコールを含有しているものであることを特徴とする請求項22記載の装置。
【請求項24】
該アミノグリコールが3-アミノ-l,2-プロパンジオール、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミンからなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項23記載の装置。
【請求項25】
該液体物質が有機塩又はイオン液体を含有しているものであることを特徴とする請求項22記載の装置。
【請求項26】
該有機塩が有機ボレート、有機サルフェート及び有機ホスフェートからなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項25記載の装置。
【請求項27】
該有機塩がl-ブチル-3-メチルイミダゾリウム2-(2-メトキシエトキシ) エチル サルフェート及びl-ブチル-4-メチルピリジウムテトラフルオロボレートからなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項26記載の装置。
【請求項28】
さらに該液体物質を100℃をこえる温度に加熱するためのヒーターを備えていることを特徴とする請求項22記載の装置。
【請求項29】
該ヒーターが該液体物質を100℃〜160℃の温度に加熱できるようにされているものであることを特徴とする請求項28記載の装置。
【請求項30】
該ヒーターが該ディスペンサーの上流側にある該液体物質を加熱できるようにされているものであることを特徴とする請求項22記載の装置。
【請求項31】
さらに該スライドを約100℃をこえる高い温度に加熱するためのヒーターを備えていることを特徴とする請求項22記載の装置。
【請求項32】
該ヒーターが該スライドを100℃〜160℃の温度に加熱できるようにされているものであることを特徴とする請求項31記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−524592(P2008−524592A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−546913(P2007−546913)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【国際出願番号】PCT/US2005/045498
【国際公開番号】WO2006/066039
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(500555848)ヴェンタナ メディカル システムズ インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】