説明

低汚染塗料組成物

【課題】塗膜表面を親水性にすることができ、さらに塗膜硬化直後からの耐汚染性を兼ね備えた塗膜とできる低汚染塗料組成物を提供すること。
【解決手段】水酸基含有樹脂を基体樹脂とし、ポリイソシアネートを架橋剤とする硬化性樹脂組成物を含む塗料組成物に、下記一般式

CH2=CH−Si−(X) 3

(式中、XはRまたはORで表され(ただし、前記Rは三つのX中の一つ以内に限られる)、
上記RまたはOR中のRは三つ中の少なくとも二つが同一、もしくは三つの各々が異なったものであり、水素原子または炭素数1〜10の有機基を示す)

で表されるアルコキシシラン含有ビニルモノマー(A)を全モノマー100質量部あたり90〜100質量部重合して得られるアルコキシシラン含有ビニル重合体(B)を配合してなる低汚染塗料組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水性、耐候性、低汚染性に優れた塗膜を形成する塗料組成物に係るものである。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】国際公開第94/06870号パンフレット
【特許文献2】特開平10−152646号公報
【0003】
従来より建築物等の外装には、躯体の保護・美粧性の向上のため屋外用塗料による塗装仕上げが行われている。特に、近年外装塗料として、アクリルウレタン樹脂塗料、アクリルシリコン樹脂塗料あるいはアクリルフッ素樹脂塗料等の高耐候性塗料が主流となってきている。しかしながら、これら高耐候性塗料の場合、従来より用いられている合成樹脂調合ペイント等に特有の、塗膜が劣化して汚れと共に流れ落ちるセルフクリーニング効果がおこらず、かえって排ガスや粉塵あるいは大気中の油性の汚れによる雨筋が目立つ結果となってしまっている。
【0004】
このような、高耐候性塗料の雨筋汚れを防止する方法として、WO94/06870(特許文献1)に開示されるような、塗料中に特定のオルガノシリケートおよび/又はその縮合物を配合する方法がある。これは、オルガノシリケートおよび/又はその縮合物が酸性雨または酸性水によって加水分解反応を起こし、塗膜表面が親水化するという技術である。
【0005】
しかし、近年の塗り替え需要や環境問題により、トルエン又はキシレン主体の溶剤系塗料から脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素主体の弱溶剤系塗料、さらには水性塗料への転換が行われてきている。このような背景のもと、弱溶剤系塗料への応用方法として特開平10−152646号公報(特許文献2)に開示されるような、アルキル基の炭素数が1〜3のものと4〜12のものが混在した、縮合度4〜10のテトラアルコキシシランを塗料中に配合する方法がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの方法は、縮合率が低く、べたつきやすいシリケートが塗膜表面に配向しているため、塗装から数日間の汚染性に劣る問題がある。
【0007】
本発明はこの問題に鑑み、塗膜表面を親水性にすることができ、さらに塗膜硬化直後からの耐汚染性を兼ね備えた塗膜とできる低汚染塗料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、特に溶解力の弱い溶剤にも溶解および/又は分散が可能である、ポリオールを使用したアクリルウレタン樹脂塗料、アクリルシリコン樹脂塗料、アクリルフッ素樹脂塗料について、アルコキシシラン含有ビニルモノマーを重合して得られるアルコキシシラン含有ビニル重合体を配合することにより、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、アクリルフッ素樹脂等のアクリル系樹脂とアルコキシシラン含有ビニル重合体の不相溶性により、アルコキシシラン含有ビニル重合体が相分離をおこし、酸処理により塗膜表面を親水性にすることができ、さらに、塗膜硬化直後からの耐汚染性を兼ね備えた塗膜を提供できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本願請求項1に係る発明は、塗料組成物中に下記一般式

CH2=CH−Si−(X) 3

(式中、XはRまたはORで表され(ただし、前記Rは三つのX中の一つ以内に限られる)、
上記RまたはOR中のRは三つ中の少なくとも二つが同一、もしくは三つの各々が異なったものであり、水素原子または炭素数1〜10の有機基を示す)

で表されるアルコキシシラン含有ビニルモノマー(A)を全モノマー100質量部あたり90〜100質量部重合して得られるアルコキシシラン含有ビニル重合体(B)を配合してなることを特徴とする低汚染塗料組成物を提供するものである。
【0010】
また、本願請求項2に係る発明は、前記したアルコキシシラン含有ビニル重合体(B)を、塗料組成物中の上記基体樹脂とポリイソシアネートを合わせた樹脂固形分100質量部あたり0.1〜60質量部配合してなる請求項1記載の低汚染塗料組成物を提供するものである。
【0011】
また、本願請求項3に係る発明は、前記したアルコキシシラン含有ビニル重合体(B)が、1,000〜1,000,000なる数平均分子量を有するものである請求項1又は2記載の低汚染塗料組成物を提供するものである。
【0012】
また、本願請求項4に係る発明は、低汚染塗料組成物の全溶剤のうち、50質量%以上が脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の低汚染塗料組成物を提供するものである。
【0013】
また、本願請求項5に係る発明は、酸処理後の塗膜表面の水に対する接触角が70度以下であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の低汚染塗料組成物を提供するものである。
【0014】
また、本願請求項6に係る発明は、加水分解触媒として、アルミニウムキレート化合物、チタニウムキレート化合物及びジルコニウムキレート化合物の少なくとも一種からなる金属キレート化合物を、塗料組成物中の基体樹脂とポリイソシアネートを合わせた樹脂固形分100質量部あたり0.001〜5質量部配合してなる請求項1〜5いずれかに記載の低汚染塗料組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、酸処理後において塗膜表面を親水性にすることができ、さらに塗膜硬化直後からの耐雨筋汚染性を兼ね備えた塗膜を提供できる低汚染塗料組成物であるため、塗装工事施工終了後、ごく短期間のうちに雨筋汚れ等を生じることがなく、低汚染塗料として本来あるべき、塗膜形成直後からの耐汚染性に優れるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明で使用されるアルコキシシラン含有ビニルモノマー(A)は下記一般式

CH2=CH−Si−(X) 3

で表されるものであり、式中のXはRまたはORで表される。ただし、前記Rは三つのX中の一つ以内に限られる。そして上記RまたはOR中のRは、水素原子または炭素数1〜10の有機基であり、この有機基としてはアルキル基、アリール基、アセチル基等が例示される。また、三つのX中のRは三つ中の少なくとも二つが同一、もしくは三つの各々が異なったものであっても良い。
【0017】
Rがアルキル基の場合、直鎖状又は分岐状のいずれのタイプであってもよく、例えば、メチル(炭素数=1)、エチル(炭素数=2)、n−プロピル(炭素数=3)、i−プロピル(炭素数=3)、n−ブチル(炭素数=4)、i−ブチル(炭素数=4)、t−ブチル(炭素数=4)、n−ペンチル(炭素数=5)、i−ペンチル(炭素数=5)、ネオペンチル(炭素数=5)、n−ヘキシル(炭素数=6)、i−ヘキシル(炭素数=6)、n−オクチル(炭素数=8)基などが挙げられ、中でも炭素数1〜4の低級アルキル基が好適である。またRがアリール基の場合、単環及び多環のいずれのタイプであってもよく、例えばフェニル基、トルイル基、キシリル基、ナフチル基などが挙げられ、中でもフェニル基が好適である。
【0018】
上記アルコキシシラン含有ビニルモノマー(A)の具体例としては、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリアセトキシシランなどが挙げられる。これらは1種又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0019】
そして、上記アルコキシシラン含有ビニルモノマー(A)を重合させてアルコキシシラン含有ビニル重合体(B)とする。なお、上記アルコキシシラン含有ビニル重合体(B)は、アルコキシシラン含有ビニルモノマー(A)以外にアルコキシシラン含有ビニルモノマー(A)と共重合可能な他のモノマーを全モノマー100質量部あたり0〜10質量部配合して重合することができる。具体的には、(メタ)アクリル酸およびそのエステル類で、アルキル基としてメチル、エチル、プロピル、ブチル、2−エチルヘキシル、ラウリル等の(メタ)アクリル酸エステル、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルアクリレート等の3級アミン含有重合性不飽和結合含有モノマー、スチレン、または、α−メチルスチレン、β−クロロスチレン等のスチレン誘導体、シェル社製VeoVa-9およびVeoVa-10(商品名(商標))等、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、イソプロピオン酸ビニル等のビニルエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類、この中で特に好ましいのは、スチレン、または、α−メチルスチレン、β−クロロスチレン等のスチレン誘導体、シェル社製VeoVa-9およびVeoVa-10等、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、イソプロピオン酸ビニル等のビニルエステル等である。ただし、水酸基を含有するアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルまたはビニルエステル等は、アルコキシシラン含有ビニルモノマー(A)中のアルコキシシリル基と反応をおこす恐れがあるため好ましくない。
【0020】
上記アルコキシシラン含有ビニル系重合体(B)は、有機溶剤の存在下もしくは非存在下で、上記の各単量体成分をラジカル重合開始剤と共に60〜180℃程度の温度で撹拌することで合成することができる。反応時間は、1〜10時間程度とすればよい。
【0021】
また、有機溶剤としては脂肪族炭化水素系溶媒を用いることができ、必要に応じてエステル系溶媒、エーテル系溶媒等を使用することもできる。またラジカル開始剤としては、通常用いられているものを使用することができ、その一例として、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーオキシオクトエート、t-ブチルパーオキシ 2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカルボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチルニトリル、アゾビスメチルバレロニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。
【0022】
上記アルコキシシラン含有ビニル系重合体(B)の数平均分子量は、1,000〜1,000,000、好ましくは2,000〜100,000の範囲に入るものが良い。数平均分子量が1,000(好ましくは2,000)より低いと塗膜硬化直後の汚染性に劣り、1,000,000(好ましくは100,000)より高いと脂肪族炭化水素系溶媒に溶解し難くなるため好ましくない。
【0023】
上記アルコキシシラン含有ビニル系重合体(B)は硬化性樹脂組成物と配合されて塗料組成物を構成する。この硬化性樹脂組成物は、水酸基含有樹脂(ポリオール樹脂)を基体樹脂とし、ポリイソシアネートを架橋剤としたものであって、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、アクリルフッ素樹脂等のアクリル系樹脂が例示できる。上記アルコキシシラン含有ビニル系重合体(B)の配合割合は、塗料組成物中の基体樹脂(水酸基含有樹脂)と架橋剤(ポリイソシアネート)を合わせた樹脂固形分100質量部当たり、0.1〜60質量部、好ましくは1〜55質量部、より好ましくは5〜50質量部の範囲とする。アルコキシシラン含有ビニル系重合体(B)の配合割合が上記下限値未満では塗膜の耐汚染性の発現が悪いため好ましくなく、一方、上記上限値を超えると塗膜が堅くなりワレ、光沢低下などの欠陥を生じるおそれがあるほか、高コストになるので好ましくない。
【0024】
本発明の低汚染塗料組成物には、親水性を早期に発現させるために配合される加水分解触媒として、アルミニウムキレート化合物、チタニウムキレート化合物及びジルコニウムキレート化合物の少なくとも一種からなる金属キレート化合物を用いることができる。
【0025】
具体的には、ジイソプロポキシエチルアセトアセテートアルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、イソプロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、モノアセチルアセトナート・ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(n−プロピルアセトアセテート)アルミニウム、トリス(n−ブチルアセトアセテート)アルミニウム、モノエチルアセトアセテート・ビス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(プロピオニルアセトナート)アルミニウム、アセチルアセトナート・ビス(プロピオニルアセトナート)アルミニウムなどのアルミニウムキレート化合物類、ジイソプロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタニウム、ジイソプロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタニウムなどのチタニウムキレート化合物類、テトラキス(n−プロピルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、テトラキス(エチルアセトアセテート)ジルコニウムなどのジルコニウムキレート化合物類などが好適である。
【0026】
金属キレート化合物の配合割合は、塗料組成物の基体樹脂とポリイソシアネートを合わせた樹脂固形分100質量部に対して、0.001〜5質量部、好ましくは0.01〜3質量部である。金属キレート化合物が上記下限値未満では耐汚染性の発現が遅く、上記上限値を超えると塗膜の耐水性が低下するので好ましくない。
【0027】
本発明の低汚染塗料組成物は溶剤に溶かされて用いられる。溶剤としては種々のものを用いることができるが、全溶剤のうち、50質量%以上が脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素であることが望ましい。具体的には、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン等やこれらの混合物、さらには、新日本理化株式会社のリカソルブ800、リカソルブ900、エクソンモービル社のエクソールD−30、エクソールD−40、アイソパーG、アイソパーHや、シェルケミカルズジャパン社のシェルゾールS、コスモ松山石油社のスワクリーン150、コスモ石油ルブリカンツ社のペトロゾールMC、さらには、ミネラルスピリット、ホワイトスピリット等が使用できるが、環境低負荷や衛生性の観点から、芳香族炭化水素系有機溶剤の含有量の少ない溶剤がより望ましい(以上の会社名に続く名称はいずれも商品名(商標)である)。
【0028】
また本発明の低汚染塗料組成物には、上記した以外にも必要に応じて着色剤、充填材、流動調整剤、可塑剤、硬化触媒、紫外線吸収剤など、通常配合することが可能な各種添加剤を、本発明の効果に影響しない程度に配合することができる。
【0029】
本発明の低汚染塗料組成物は、塗布によって最終的に形成された硬化塗膜の表面を酸処理し、その酸処理後の塗膜表面の水に対する接触角が70度以下、好ましくは10〜60度の範囲に入るものである。
【0030】
本発明における酸処理後の接触角とは、硬化直後の塗膜を2.5質量%硫酸水で20℃、24時間酸処理(浸漬)し、次いで、塗膜に付着した硫酸水を水道水にて水洗し、乾燥させたのち、塗膜表面に0.03cc脱イオン水を滴下し、20℃にて30秒後の水滴の接触角を協和界面科学(株)製FACE 自動接触角計(全自動ウエハー表面処理評価装置) CA-Z150型にて測定した数値である。
【0031】
本発明の低汚染塗料組成物は、前記低汚染塗料組成物を基材に塗布し、次いで室温もしくは加熱することによって塗膜を形成することができる。そして屋外などに晒された際に、酸性雨などの酸成分によって自然に上記酸処理がなされ、塗膜表面の水に対する接触角が徐々に低下することによって親水性を発揮する。
【0032】
そして、硬化性樹脂組成物とアルコキシシラン含有ビニル重合体(B)との不相溶性により、アルコキシシラン含有ビニル重合体(B)が相分離をおこすため、数平均分子量の高いアルコキシシラン含有ビニル重合体(B)が表面に配向する。そのため、従来とは異なり、塗膜硬化直後から塗膜がべたつかずに汚染物質が吸着されにくく、耐汚染性を兼ね備えた塗膜となる。
【0033】
本発明の低汚染塗料組成物は、各成分をプロペラ式等の一般的な撹拌装置によって混合することができ、また、得られた組成物は、塗装において一般的に使用される塗装方法、例えばローラー塗装、刷毛塗り、スプレー塗装等により塗装することができる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0035】
(アルコキシシラン含有ビニル重合体(B)の合成例1)
攪拌機、温度計、コンデンサー及び窒素ガス導入口を備えた反応器に、ビニルトリメトキシシランの500質量部およびビニルトリエトキシシランの500質量部を仕込んで、窒素雰囲気下に、128℃まで昇温し、t-ブチルパーオキシイソプロピルカルボネートの75質量部、ミネラルスピリット125質量部からなる混合物を5時間にわたって滴下し、滴下終了後も、同温度に10時間の間保持し、最後に、ミネラルスピリット800質量部を投入して、不揮発分が50%で、かつ、数平均分子量が4000なるアルコキシシラン含有ビニル重合体(B)の溶液を得た。以下、これを重合体(B−1)と略記する。
【0036】
(アルコキシシラン含有ビニル重合体(B)の合成例2)
単量体類として、ビニルトリメトキシシランを1000質量部に変更した以外は、合成例1と同様にして、不揮発分が50%で、かつ、数平均分子量が1800なるアルコキシシラン含有ビニル重合体(B)の溶液を得た。以下、これを重合体(B−2)と略記する。
【0037】
(アルコキシシラン含有ビニル重合体(B)の合成例3)
単量体類として、ビニルトリエトキシシランを1000質量部に変更した以外は、合成例1と同様にして、不揮発分が50%で、かつ、数平均分子量が150,000なるアルコキシシラン含有ビニル重合体(B)の溶液を得た。以下、これを重合体(B−3)と略記する。
【0038】
(アルコキシシラン含有ビニル重合体(B)の合成例4)
単量体類として、ビニルトリメトキシシランを500質量部に、ビニルトリエトキシシランを400質量部に変更し、酢酸ビニルを100質量部加えた以外は、合成例1と同様にして、不揮発分が50%で、かつ、数平均分子量が5000なるアルコキシシラン含有ビニル重合体(B)の溶液を得た。以下、これを重合体(B−4)と略記する。
【0039】
(アルコキシシラン含有ビニル重合体(B)の合成例5)
単量体類として、ビニルトリメトキシシランを400質量部に、ビニルトリエトキシシランを400質量部に変更し、酢酸ビニルを200質量部加えた以外は、合成例1と同様にして、不揮発分が50%で、かつ、数平均分子量が6000なるアルコキシシラン含有ビニル重合体(B)の溶液を得た。以下、これを重合体(B−5)と略記する。
【0040】
(実施例1〜21および比較例1〜12)
表1および表2に示す配合割合で、有機溶剤系塗料、アルコキシシラン含有ビニル重合体(上記のB−1〜B−5)、硬化剤(架橋剤)、及び加水分解触媒を配合し、塗料組成物を得た。なお、表中の(B)成分またはメチルシリケート、エチルシリケート、および加水分解触媒の配合量は塗料組成物中の基体樹脂とポリイソシアネートを合わせた樹脂固形分100質量部あたりの(B)成分の不揮発分の質量部である。この塗料組成物を、スレート板上にエポキシ樹脂の下塗り塗料を塗装し室温で乾燥した上に、乾燥膜厚が30〜50μmとなるようにローラーにて塗装し、室温で1日間乾燥させサンプル塗膜を作成した。
【0041】
なお、表1の比較例で用いたメチルシリケートは、メチルシリケート「MS-56S」(三菱化学株式会社製)、エチルシリケートは、エチルシリケート「エチルシリケート48」(コルコート社製)である(カギカッコ表記内の記載は商品名(商標)である(以下同じ))。
【0042】
有機溶剤系塗料としては以下のものを用いた(冒頭のアルファベット表記は表1及び2上の記載に対応、以下同じ)。
C/「ロック ウレタントップ ホワイト」、ロックペイント社製、アクリルポリイソシアネート硬化型有機溶剤系塗料。
D/ターペン可溶フッ素ポリイソシアネート硬化型有機溶剤系塗料:市販のフッ素ポリオール樹脂「ルミフロンLF−800」(旭硝子株式会社製)100gに酸化チタン「CR−97」(石原産業株式会社製)200g、石油ターペン100gを配合したものを均一に攪拌し、20−30meshのサンドミルで2回分散を行って作製した分散液150gに「ルミフロンLF−800」(旭硝子株式会社製)100gを加えてなる白ベース塗料(基体樹脂の樹脂固形分33質量%)。
E/「ユメロック ホワイト」、ロックペイント社製、ターペン可溶NAD型シリコンアクリルポリイソシアネート硬化型有機溶剤系塗料。
【0043】
イソシアネート化合物(硬化剤)としては以下のものを用いた。
C/「コロネートHX」、日本ポリウレタン社製、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体
D/「コロネート−2770」、日本ポリウレタン社製、ヘキサメチレンジイソシアネートのアロファネート誘導体
E/「コロネート−2770」、日本ポリウレタン社製、ヘキサメチレンジイソシアネートのアロファネート誘導体
【0044】
加水分解触媒としては以下のものを用いた
「アルミキレートD」、川研ファインケミカル社製、モノアセチルアセトネート ビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム
【表1】

【表2】

【0045】
以上のようにして得られた実施例1〜21及び比較例1〜12のサンプル塗膜について、以下の評価方法により耐汚染性を評価した。
【0046】
塗膜の接触角の測定
塗膜表面の物性として、硬化塗膜の静的接触角を自動接触角計(協和界面科学(株)製FACE 自動接触角計(全自動ウエハー表面処理評価装置) CA-Z150型)を用いて、塗膜表面に0.04ccの脱イオン水を滴下し、20℃において30秒後の接触角を5回繰り返して測定し、その最大値と最小値の数値を削除した平均値を求めた。
【0047】
処理後の静的接触角は、硬化塗膜を2.5質量%硫酸水で20℃、24時間酸処理(浸漬)し、次いで付着した硫酸水を水道水にて水洗し、乾燥させたのち、塗膜表面に0.04ccの脱イオン水を滴下し、20℃において30秒後の水滴の接触角を協和界面科学(株)製FACE 自動接触角計(全自動ウエハー表面処理評価装置) CA-Z150型にて5回繰り返して測定し、その最大値と最小値の数値を削除した平均値を求めた数値である。
【0048】
雨筋汚染性
塗膜表面を目視で観察した。
○:試験前の塗板に対して、外観変化がほとんど認められないもの
△:試験前の塗板に対して、若干の外観変化が認められるもの
×:試験前の塗板に対して、著しく外観変化が認められるもの
【0049】
塗膜性能評価結果を表3および表4に示した。
【表3】

【表4】

【0050】
表3および表4に示したように、実施例1〜21の硬化塗膜の静的接触角測定において、未処理の状態では高い接触角を示したにも関わらず、酸処理後は低い接触角を示した。これは、数平均分子量の高いアルコキシシラン含有ビニル重合体が表面に配向していることを裏付けるものであり、塗装工事施工終了後、ごく短期間のうちに、塗膜表面の汚染物質除去性能に優れた塗膜となり、非常に高い耐雨筋汚染性を発揮しているものと思われる。
【0051】
一方、比較例1〜6は、硬化塗膜の静的接触角測定において、未処理の状態では高い接触角を示した。また、べたつきやすいシリケートが塗膜表面に配向しているため、塗装から数日間は、塗膜がべたつき、汚染物質吸着しやすく、除去しがたい塗膜を形成しているものと思われる。このため、塗装工事施工終了後、ごく短期間の耐雨筋汚染性が非常に悪いものと思われる。また、アルコキシシラン含有ビニルモノマー(A)を全モノマー100質量部あたり80質量部、酢酸ビニルを全モノマー100質量部あたり20質量部配合した比較例7〜9、およびアルコキシシラン含有ビニル重合体を含まない比較例10〜12では、塗膜表面が親水化しないか、あるいは塗膜表面の親水化が不十分で、時間の経過と共に雨筋汚染が顕著となる結果であった。
【0052】
このように本発明は、酸処理後において塗膜表面を親水性にすることができ、さらに、塗膜硬化直後からの耐雨筋汚染性を兼ね備えた塗膜を提供できる低汚染塗料組成物であるため、塗装工事施工終了後、ごく短期間のうちに雨筋汚れ等を生じることがなく、低汚染塗料として本来あるべき、塗膜形成直後からの耐汚染性に優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基含有樹脂を基体樹脂とし、ポリイソシアネートを架橋剤とする硬化性樹脂組成物を含む塗料組成物に、下記一般式

CH2=CH−Si−(X) 3

(式中、XはRまたはORで表され(ただし、前記Rは三つのX中の一つ以内に限られる)、
上記RまたはOR中のRは三つ中の少なくとも二つが同一、もしくは三つの各々が異なったものであり、水素原子または炭素数1〜10の有機基を示す)

で表されるアルコキシシラン含有ビニルモノマー(A)を全モノマー100質量部あたり90〜100質量部重合して得られるアルコキシシラン含有ビニル重合体(B)を配合してなる低汚染塗料組成物。
【請求項2】
前記したアルコキシシラン含有ビニル重合体(B)を、塗料組成物中の上記基体樹脂とポリイソシアネートを合わせた樹脂固形分100質量部あたり0.1〜60質量部配合してなる請求項1記載の低汚染塗料組成物。
【請求項3】
前記したアルコキシシラン含有ビニル重合体(B)が、1,000〜1,000,000なる数平均分子量を有するものである請求項1又は2記載の低汚染塗料組成物。
【請求項4】
低汚染塗料組成物の全溶剤のうち、50質量%以上が脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の低汚染塗料組成物。
【請求項5】
酸処理後の塗膜表面の水に対する接触角が70度以下であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の低汚染塗料組成物。
【請求項6】
加水分解触媒として、アルミニウムキレート化合物、チタニウムキレート化合物及びジルコニウムキレート化合物の少なくとも一種からなる金属キレート化合物を、塗料組成物中の基体樹脂とポリイソシアネートを合わせた樹脂固形分100質量部あたり0.001〜5質量部配合してなる請求項1〜5いずれかに記載の低汚染塗料組成物。

【公開番号】特開2010−6924(P2010−6924A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166898(P2008−166898)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(391056066)ロックペイント株式会社 (8)
【Fターム(参考)】