説明

低温でのノイズを抑制する磁気再生方法

【課題】低温においてノイズを発生させる読み出し用のヘッド素子を備えた薄膜磁気ヘッドにおいて、低温環境下においてもノイズが抑制された良好な読み出し特性を得ることができる磁気再生方法を提供する。
【解決手段】低温であるためにノイズが発生する読み出し用のヘッド素子を加熱して、このヘッド素子の温度を上昇させた状態で、このヘッド素子による読み出しを行う磁気再生方法が提供される。この際、読み出し用のヘッド素子を備えた薄膜磁気ヘッド内に設けられた発熱部を発熱させることによって、この読み出し用のヘッド素子を加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜磁気ヘッドを用いて、磁気ディスク等の磁気記録媒体からの読み出しを行う磁気再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置、磁気テープ装置等の磁気記録再生装置が備えている薄膜磁気ヘッドにおいては、現在その多くが、磁気記録媒体との相対速度に依存しない出力を有する高感度の磁気抵抗(MR)効果素子を用いて、磁気ディスク、磁気テープ等の磁気記録媒体からデータ信号の読み出しを行っている。
【0003】
このMR効果素子においては、従来、その出力にバルクハウゼンノイズを発生させる不良品が生成されてしまう問題がある。このバルクハウゼンノイズは主に、MR効果素子を構成する磁性膜において磁壁が膜内の欠陥等に引っかかりながら移動するために発生するものであるが、特に、MR効果素子が受ける応力に大きく影響される。実際、外部からの又は内部の応力が所定量以上に存在すると、逆磁歪効果によりMR効果素子内の磁化が分散し磁区構造が不安定化することによって、バルクハウゼンノイズが非常に発生し易くなる。このような応力の発生原因として、素子構造自体が有する歪みに加えて、素子の温度変化に起因する歪みの増大が挙げられる。
【0004】
特に、最近の、非常に高感度で信号磁界を感受する面内通電型(CIP(Current In Plain))巨大磁気抵抗(GMR(Giant Magneto Resistive))効果素子、垂直通電型(CPP(Current Perpendicular to Plain))GMR効果素子、又はトンネル磁気抵抗(TMR(Tunnel Magneto Resistive))効果素子においては、温度変化の影響が以前にも増して顕著となっている。
【0005】
また、最近の磁気ディスク装置においては、非常に微小な値に設定された薄膜磁気ヘッドの浮上量を安定的に制御するために、薄膜磁気ヘッド内に発熱体を設け、この発熱体からの熱によってヘッド素子端を磁気ディスク方向に突出させて浮上量を調整する技術が採用されつつある(例えば、特許文献1を参照)。これにより、サーマルアスペリティやクラッシュを回避して良好な書き込み及び読み出し特性を維持する。このような発熱体を設けた場合、発熱体からの熱がMR効果素子、さらにはその周囲をより一層加熱し、温度変化の影響がさらに大きな問題となり得る。
【0006】
以上述べたように、温度変化の影響を強く受けるMR効果素子におけるバルクハウゼンノイズ対策として、例えば、特許文献2には、MR効果素子に流すセンス電流の種々の値に対するノイズを測定することによって、MR効果素子の良否を判断する方法が開示されている。なお、この方法においてセンス電流値が大きい場合、MR効果素子の温度も当然に高くなっており、高温状態での評価となっている。また、特許文献3には、MR効果型ヘッドへのセンス電流を徐々に増加させて、急激な温度変化に起因する応力等によってノイズの発生しやすい磁区構造が形成されるのを防止する技術が開示されている。
【0007】
【特許文献1】米国特許第5991113号明細書
【特許文献2】特開2002−133621号公報
【特許文献3】特開平6−84116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、以上に述べたような従来技術によっても、特に、低温時におけるノイズの発生の問題が未解決となっていた。
【0009】
現在、磁気記録再生装置、特に磁気ディスク装置は、オーディオ・ビデオデータ等の大容量データ用のストレージメモリとして、ノートパソコン、携帯電話等の室外での使用も盛んに行われるモバイル機器に多く搭載されている。その結果、装置の使用環境の温度も相当に広範囲となり、特に、搭載する機器によっては、その低温において、例えば−30℃での正常な使用を保証する必要が生じている。
【0010】
ところが、実際に製造された薄膜磁気ヘッドの中には、このような低温時での出力中に許容数以上のバルクハウゼンノイズ等のノイズを発生させてしまうものが生じてしまう。ここで、このようなヘッドを判別するには、従来、ヘッドをサスペンションに取り付けてHGAを完成させた後、磁気ディスク上で浮上させて低温での出力特性を調べるより方法がなく、低温においてノイズが発生するヘッドを事前に判別することは非常に困難であった。その結果、ヘッドが不良品と判定された場合、付加価値の高いHGAごと破棄されることになり、ヘッドの不良品毎の損失が大きくなって製造コストの増大をもたらす問題が生じていた。
【0011】
また、特許文献2のようにヘッドの判別のためにセンス電流を用いたとしても、本質的に高温時でのヘッド出力特性の評価しかできない。この事情は、特許文献3の技術においても同様であり、低温におけるノイズ発生の問題は解決されてこなかった。
【0012】
従って、本発明の目的は、低温においてノイズを発生させる読み出し用のヘッド素子を備えた薄膜磁気ヘッドにおいて、低温環境下においてもノイズが抑制された良好な読み出し特性を得ることができる磁気再生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明について説明する前に、明細書において用いられる用語の定義を行う。基板の素子形成面に形成された素子の積層構造において、基準となる層よりも基板側にある構成要素を、基準となる層の「下」又は「下方」にあるとし、基準となる層よりも積層される方向側にある構成要素を、基準となる層の「上」又は「上方」にあるとする。例えば、「絶縁層上に下部磁極層がある」とは、下部磁極層が、絶縁層よりも積層される方向側にあることを意味する。
【0014】
本発明によれば、低温であるためにノイズが発生する読み出し用のヘッド素子を加熱して、このヘッド素子の温度を上昇させた状態で、このヘッド素子による読み出しを行う磁気再生方法が提供される。
【0015】
このような本発明による磁気再生方法においては、低温においてノイズを発生させる読み出し用のヘッド素子の温度を、例えばヘッド内の発熱手段等を用いて適切に上昇させる。その結果、読み出し時において、読み出し用のヘッド素子の出力におけるノイズが抑制され、低温環境下においても良好な読み出し特性を得ることができる。これにより、使用環境の温度が低い状態での磁気記録再生装置のエラーレートが低減し、信頼性が向上する。
【0016】
この本発明による磁気再生方法において、読み出し用のヘッド素子が、MR効果素子であることが好ましい。また、読み出し用のヘッド素子を備えた薄膜磁気ヘッド内に設けられた発熱部を発熱させることによって、読み出し用のヘッド素子を加熱することも好ましい。なお、このヘッド内に設けられた発熱部として、浮上量調整用として設けられた発熱体を兼用してもよい。
【0017】
さらに、この発熱部は、薄膜磁気ヘッド内に設けられた書き込み用のヘッド素子及び読み出し用のヘッド素子の間に設けられていることが好ましい。この場合、発熱部への供給電力に対する読み出し用のヘッド素子の温度上昇効率が高くなり、より少ない供給電力で読み出し用のヘッド素子の温度を所定の温度に到達させることが可能となる。
【0018】
また、この本発明による磁気再生方法において、薄膜磁気ヘッドを回転する磁気記録媒体上に浮上させた状態で、読み出し用のヘッド素子を加熱することが好ましい。この際、読み出し用のヘッド素子の出力を測定し、この出力におけるバイトエラーレートが所定の閾値以下となるまで、読み出し用のヘッド素子を加熱することも好ましい。この場合、読み出し時には確実に、所望の低減されたバイトエラーレートが実現することになる。
【0019】
さらに、読み出し用のヘッド素子を加熱する前の温度が使用温度範囲の下限以上であって5℃以下であることが好ましく、さらに、読み出し用のヘッド素子を加熱した際の温度が10℃以上であって30℃以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、低温においてノイズを発生させる読み出し用のヘッド素子を備えた薄膜磁気ヘッドにおいて、低温環境下においてもノイズが抑制された良好な読み出し特性を得ることができる。これにより、使用環境の温度が低い状態での磁気記録再生装置のエラーレートが低減し、信頼性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、同一の要素は、同一の参照番号を用いて示されている。また、図面中の構成要素内及び構成要素間の寸法比は、図面の見易さのため、それぞれ任意となっている。
【0022】
図1は、本発明による磁気再生方法の実施に用いる磁気記録再生装置の一実施形態における要部の構成を概略的に示す斜視図である。ここで、HGAの斜視図においては、HGAの磁気記録媒体表面に対向する側が上になって表示されている。
【0023】
図1において、磁気記録再生装置は、磁気ディスク装置であり、10は、スピンドルモータ11の回転軸の回りを回転する複数の磁気記録媒体である磁気ディスク、12は、薄膜磁気ヘッド21をトラック上に位置決めするためのアセンブリキャリッジ装置、13は、この薄膜磁気ヘッド21の書き込み及び読み出し動作を制御し、さらに、薄膜磁気ヘッド21を加熱するための発熱部の発熱動作を制御する記録再生及び発熱制御回路をそれぞれ示している。
【0024】
アセンブリキャリッジ装置12には、複数の駆動アーム14が設けられている。これらの駆動アーム14は、ボイスコイルモータ(VCM)15によってピボットベアリング軸16を中心にして角揺動可能であり、この軸16に沿った方向にスタックされている。各駆動アーム14の先端部には、HGA17が取り付けられている。各HGA17には、スライダである薄膜磁気ヘッド21が、各磁気ディスク10の表面に対向するように設けられている。磁気ディスク10、駆動アーム14、HGA17及び薄膜磁気ヘッド21は、単数であってもよい。
【0025】
HGA17は、サスペンション20の先端部に、薄膜磁気ヘッド21を固着し、さらにその薄膜磁気ヘッド21の信号端子電極及び駆動端子電極に配線部材203の一端を電気的に接続して構成される。サスペンション20は、ロードビーム200と、このロードビーム200上に固着され支持された弾性を有するフレクシャ201と、ロードビーム200の基部に設けられたベースプレート202と、フレクシャ201上に設けられておりリード導体及びその両端に電気的に接続された接続パッドからなる配線部材203とから主として構成されている。
【0026】
なお、本発明のHGA17におけるサスペンションの構造は、以上述べた構造に限定されるものではないことは明らかである。なお、図示されていないが、サスペンション20の途中にヘッド駆動用ICチップを装着してもよい。
【0027】
図2は、本発明による磁気再生方法の実施に用いる薄膜磁気ヘッドの一実施形態を示す斜視図である。
【0028】
図2によれば、薄膜磁気ヘッド21は、適切な浮上量を得るように加工された浮上面(ABS)2100と、素子形成面2101に設けられた磁気ヘッド素子32と、同じく素子形成面2101に設けられた、磁気ヘッド素子32を加熱するための発熱部35と、磁気ヘッド素子32及び発熱部35を覆うように素子形成面2101上に設けられた被覆層39と、被覆層39の層面から露出しているそれぞれ2つの信号端子電極36及び37、並びに2つの駆動端子電極38とを備えている。ここで、磁気ヘッド素子32は、データ信号の読み出し用の読み出しヘッド素子であるMR効果素子33と、データ信号の書き込み用の書き込みヘッド素子である電磁コイル素子34とから構成されており、信号端子電極36及び37は、これらMR効果素子33及び電磁コイル素子34にそれぞれ接続されている。また、駆動端子電極38は、発熱部35に接続されている。
【0029】
MR効果素子33及び電磁コイル素子34においては、各素子の一端がスライダ端面211に達している。ここでスライダ端面211は、薄膜磁気ヘッド21の磁気ディスクに対向する媒体対向面のうちABS2100以外の面であって主に被覆層39の端面からなる面である。これらの素子の一端が磁気ディスクと対向することによって、信号磁界の感受によるデータ信号の読み出しと信号磁界の印加によるデータ信号の書き込みとが行われる。
【0030】
発熱部35は、同図においてMR効果素子33と電磁コイル素子34との間に設けられているが、本発明による磁気再生方法の実施に用いられる素子であり、通電されることによって発熱する。この発熱部35からの熱によって、低温において出力中にノイズを発生させるMR効果素子33の温度が上昇し、その結果、MR効果素子33のノイズが抑制される。
【0031】
ここで、発熱部35は、薄膜磁気ヘッド21の磁気ディスク10に対する浮上量を調整するための浮上量調整素子を兼ねていてもよい。この場合、発熱部35が通電によって加熱すると、磁気ヘッド素子32は、この発熱部35からの熱によって自身が熱膨張することにより、又は自らを取り囲む材料の熱膨張によって押し出されることにより、スライダ端面211を隆起させる形で磁気ディスク表面方向に突出する。この突出動作を発熱部35への通電量により制御することによって、浮上量が調整可能となる。
【0032】
また、発熱部35に接続されている2つの駆動端子電極38は、4つの信号端子電極36及び37の群の両側にそれぞれ配置されている。これは、特開2004−234792号公報に記載されているように、MR効果素子33の配線と電磁コイル素子34の配線との間におけるクロストークを防止することができる配置である。ただし、所定のクロストークが許容される場合には、2つの駆動端子電極38がそれぞれ4つの信号端子電極36及び37の何れかの間に配置されてもよい。なお、これらの端子電極の数は、図1の形態に限定されるものではない。図1において端子電極は合計6つであるが、例えば、駆動端子電極を1つにして電極を5つとした上でグランドをスライダ基板に接地した形態でもよい。
【0033】
図3(A)は、本発明による磁気再生方法の実施に用いる薄膜磁気ヘッドの要部の構成を示す、図2のA−A線断面図である。また、図3(B)はそのA−A線断面を含む斜視図である。
【0034】
図3(A)において、210はアルチック(Al−TiC)等からなるスライダ基板であり、磁気ディスク表面に対向するABS2100を有している。このスライダ基板210のABS2100を底面とした際の一つの側面である素子形成面2101に、MR効果素子33と、電磁コイル素子34と、発熱部35と、これらの素子を保護する被覆層39とが主に形成されている。
【0035】
MR効果素子33は、MR積層体332と、この積層体を挟む位置に配置されている下部シールド層330及び上部シールド層334とを含む。下部シールド層330及び上部シールド層334は、例えば、フレームめっき法を含むパターンめっき法等を用いて形成された厚さ0.5〜3μm程度のNiFe(パーマロイ等)、CoFeNi、CoFe、FeN又はFeZrN等で構成することができる。
【0036】
MR積層体332は、CIP−GMR多層膜、CPP−GMR多層膜、又はTMR多層膜を含み、非常に高い感度で磁気ディスクからの信号磁界を感受する。上下部シールド層334及び330は、MR積層体332が雑音となる外部磁界の影響を受けることを防止する。
【0037】
このMR積層体332がCIP-GMR多層膜を含む場合、上下部シールド層334及び330の各々とMR積層体332との間に絶縁用の上下部シールドギャップ層がそれぞれ設けられる。さらに、MR積層体332にセンス電流を供給して再生出力を取り出すためのMRリード導体層が形成される。一方、MR積層体332がCPP-GMR多層膜又はTMR多層膜を含む場合、上下部シールド層334及び330はそれぞれ上下部の電極層としても機能する。この場合、上下部シールドギャップ層とMRリード導体層とは不要であって省略される。なお、図示されていないが、MR積層体332のヘッド端面300とは反対側のシールド層間には絶縁層が形成され、さらに、MR積層体332のトラック幅方向の両側には、絶縁層か、又は磁区の安定化用の縦バイアス磁界を印加するための、バイアス絶縁層及び強磁性材料からなるハードバイアス層が形成される。
【0038】
MR積層体332は、例えば、後に詳述する実施例1及び2に用いたヘッドにおいてのようにTMR効果多層膜を含む場合、IrMn、PtMn、NiMn又はRuRhMn等からなる厚さ5〜15nm程度の反強磁性層と、例えば強磁性材料であるCoFe等又はRu等の非磁性金属層を挟んだ2層のCoFe等から構成されており、反強磁性層によって磁化方向が固定されている磁化固定層と、例えばAl、AlCu又はMg等からなる厚さ0.5〜1nm程度の金属膜が真空装置内に導入された酸素によって又は自然酸化によって酸化された非磁性誘電材料からなるトンネルバリア層と、例えば強磁性材料である厚さ1nm程度のCoFe等と厚さ3〜4nm程度のNiFe等との2層膜から構成されておりトンネルバリア層を介して磁化固定層との間でトンネル交換結合をなす磁化自由層とが、順次積層された構造を有している。
【0039】
電磁コイル素子34は、長手磁気記録用であり、下部磁極層340、書き込みギャップ層341、書き込みコイル層343、書き込みコイル絶縁層344及び上部磁極層345を備えている。書き込みコイル層343は、下部書き込みコイル層3430及び上部書き込みコイル層3431の2層構造となっており、1ターンの間に少なくとも下部磁極層340及び上部磁極層345の間を通過するように形成されている。下部磁極層340及び上部磁極層345は、書き込みコイル層343への通電によって発生した磁束の導磁路となっている。
【0040】
ここで、下部磁極層340は、下部ヨーク層3400と、下部ヨーク層3400のABS2100側(スライダ端面211側)の端部上であってスライダ端面211に達する位置に形成されており、上面が書き込みギャップ層341と接面している下部磁極部3401とを備えている。下部ヨーク層3400は、例えば、スパッタリング法、フレームめっき法を含むパターンめっき法等を用いて形成された厚さ0.5〜3.5μm程度のNiFe、CoFeNi、CoFe、FeN又はFeZrN等で構成されており、下部磁極部3401は、例えば、スパッタリング法等を用いて形成された厚さ0.2〜0.6μm程度のNiFe、CoFeNi、CoFe、FeN又はFeZrN等で構成されている。ここで、下部磁極部3401においては、飽和磁束密度が下部ヨーク層3400よりも大きく設定されており、例えば少なくとも2.0テスラ(T)以上となっている。
【0041】
また、上部磁極層345は、下面が書き込みギャップ層341と接面している上部磁極部3450と、ABS2100側の端部が上部磁極部3450と接面している上部ヨーク層3451とを備えている。上部磁極部3450は、例えば、スパッタリング法、フレームめっき法を含むパターンめっき法等を用いて形成された厚さ1〜3μm程度のNiFe、CoFeNi、CoFe、FeN又はFeZrN等で構成されており、上部ヨーク層3451は、例えば、フレームめっき法を含むパターンめっき法等を用いて形成された厚さ0.5〜3.0μm程度のNiFe、CoFeNi、CoFe、FeN又はFeZrN等で構成されている。ここで、上部磁極部3450の飽和磁束密度は、上部ヨーク層3451よりも大きく、例えば少なくとも2.0T以上となっている。
【0042】
下部磁極部3401及び上部磁極部3450が、書き込みギャップ層341のうちABS2100側(スライダ端面211)側の端部を挟持している。この書き込みギャップ層341の端部位置からの漏洩磁界によって磁気ディスクに書き込みが行なわれる。なお、スライダ端面211に達した下部磁極部3401及び上部磁極部3450の端には、保護のために極めて薄いダイヤモンドライクカーボン(DLC)等のコーティングが施されている。
【0043】
書き込みコイル絶縁層344は、下部書き込みコイル層3430を取り囲む下部書き込みコイル絶縁層3440と、上部書き込みコイル層3431を取り囲む上部書き込みコイル絶縁層3441との2層構造となっている。この書き込みコイル絶縁層344は、書き込みコイル層343と上下部磁極層345及び340との間を電気的に絶縁するために設けられている。また、下部書き込みコイル層3430及び下部書き込みコイル絶縁層3440と、上部書き込みコイル層3431及び上部書き込みコイル絶縁層3441との間には、両者間の電気的絶縁のための上下部コイル絶縁層342が、さらに設けられている。なお、書き込みコイル層343は同図において2層構造を有しているが、単層、3層以上又はヘリカルコイルでもよい。
【0044】
ここで、下部書き込みコイル層3430及び上部書き込みコイル層3431は、例えば、フレームめっき法等を用いて形成された厚さ0.3〜5μm程度のCu等で構成されている。また、下部書き込みコイル絶縁層3440及び上部書き込みコイル絶縁層3441はそれぞれ樹脂層であり、例えばフォトリソグラフィ法等を用いて形成された厚さ0.5〜7μm程度の加熱キュアされたフォトレジスト等でそれぞれ構成されている。さらに、書き込みギャップ層341は絶縁層であり、例えば、スパッタリング法、CVD法等を用いて形成された厚さ0.01〜0.1μm程度のAl、SiO、AlN又はDLC等で構成されている。
【0045】
発熱部35は、図3(B)(及び図3(A))に示すように、MR効果素子33と電磁コイル素子34との間であってスライダ端面211の近傍に設けられている。発熱部35は、1本のラインを層内で矩形波状に蛇行させた発熱ライン層350と、発熱ライン層350の両端にそれぞれ接続された2つの引き出しライン層351とを有しており、所定の長さの通電路となっている。引き出しライン層351の一端は、それぞれ駆動端子電極38(図2)に接続されており、発熱部35は、この駆動端子電極38を介して、後述する制御回路から発熱用の電力供給を受ける。なお、発熱ライン層350の形状は、このような矩形波状に限られるものではなく、例えば、1本のライン状、コ字状、又は螺旋状であってもよい。
【0046】
ここで、発熱ライン層350は、例えば、0.1〜5μm程度の厚さを有しており、例えば、NiCu、NiCr、Ta、W、Ti、Cu、Au又はNiFe等を含む材料から形成されることができる。また、引き出しライン層351は、発熱ライン層350と同じ材料から形成されていてもよい。
【0047】
図4(A)及び(B)は、本発明による磁気再生方法の実施に用いる薄膜磁気ヘッドの他の実施形態における要部の構成を示す、図2のA−A線断面図である。
【0048】
図4(A)によれば、電磁コイル素子44は、垂直磁気記録用であり、バッキングコイル部440と、主磁極層441と、ギャップ層442と、書き込みコイル層443と、書き込みコイル絶縁層444と、補助磁極層445とを備えている。また、この電磁コイル素子44とデータ信号の読み出し用のMR効果素子43との間に、磁気的シールドの役目を果たす素子間シールド層46が設けられている。さらに、電磁コイル素子44と素子間シールド層46の間であってスライダ端面211の近傍に、MR効果素子43を加熱するための発熱部45が設けられている。
【0049】
主磁極層441は、書き込みコイル層443への通電によって発生した磁束を、書き込みがなされる磁気ディスクの垂直磁気記録層まで収束させながら導くための導磁路であり、主磁極主要層4411及び主磁極補助層4410から構成されている。ここで、主磁極層441のスライダ端面211側の端部における層厚方向の長さ(厚さ)は、この主磁極主要層4411のみの層厚に相当しており小さくなっている。この結果、高記録密度化に対応した微細な書き込み磁界を発生させることができる。
【0050】
補助磁極層445のスライダ端面211側の端部は、補助磁極層445の他の部分よりも層断面が広いトレーリングシールド部4450となっている。トレーリングシールド部4450は、主磁極層441のスライダ端面211側の端部とギャップ層442を介して対向している。このようなトレーリングシールド部4450を設けることによって、トレーリングシールド部4450の端部と主磁極層441の端部との間において磁界勾配がより急峻になる。この結果、信号出力のジッタが小さくなって読み出し時のエラーレートを小さくすることができる。
【0051】
書き込みコイル層443は、1ターンの間に少なくとも主磁極層441及び補助磁極層445の間を通過するように形成されている。書き込みコイル絶縁層444は、書き込みコイル層443を取り囲んでおり、書き込みコイル層443と主磁極層441及び補助磁極層445との間を電気的に絶縁するために設けられている。
【0052】
また、電磁コイル素子44においては、素子間シールド層46(発熱部45)と主磁極層441との間に、バッキングコイル部440が設けられている。バッキングコイル部440は、バッキングコイル層4400及びバッキングコイル絶縁層4401から形成されており、主磁極層441及び補助磁極層445から発生してMR効果素子43内の上下部シールド層を経由する磁束ループを打ち消す磁束を発生させて、磁気ディスクへの不要な書き込み又は消去動作である広域隣接トラック消去(WATE)現象の抑制を図っている。
【0053】
次いで、図4(B)によれば、例えば、図3(A)及び図4(A)それぞれの実施形態の薄膜磁気ヘッドにおいて、構成要素の1つである発熱部は、位置P1〜P3のいずれの箇所に設置されていてもよい。すなわち、図3(A)及び図4(A)のように、MR効果素子と電磁コイル素子との間のスライダ端面211に近い位置(P1)であってもよいし、被覆層内であって磁気ヘッド素子のスライダ端面211とは反対側(P2)であってもよいし、被覆層内であって電磁コイル素子の直上のスライダ端面211に近い位置(P3)であってもよい。特に、発熱部が位置P1に設置されている場合、他の位置と比較して、供給電力に対するMR効果素子の温度上昇の効率が高くなり、より少ない供給電力でMR効果素子の温度を所定の温度に到達させることが可能となる。また、発熱部が浮上量調整素子としても機能する場合、磁気ヘッド素子端の突出効率が高くなり、突出レスポンスも良好となる。
【0054】
図5は、図1の磁気ディスク装置が備えている記録再生及び発熱制御回路13の回路構成を示すブロック図である。
【0055】
図5において、61はR/W(記録/再生)チャネル、62は、発熱部に電力を供給してMR効果素子に加えられる熱量を制御する発熱部制御手段としての発熱回路、63は、MR効果素子の出力におけるエラーレート又はノイズを測定するためのエラー・ノイズ測定手段としての信号処理回路、60は、発熱部によって加熱されたMR効果素子の出力におけるエラーレート又はノイズを測定するために、R/Wチャネル61と、発熱回路62と、信号処理回路63とを連動させて制御するための制御手段としての制御回路、64はインターフェース、65はVCM15の駆動のためのVCMドライバ、66はスピンドルモータ11の駆動のためのモータドライバ、67は温度計測素子、68は、デジタルコンピュータをそれぞれ示している。
【0056】
このうち、記録再生及び発熱制御回路13を構成するのは、制御回路60、R/Wチャネル61、発熱回路62、信号処理回路63、インターフェース64である。
【0057】
記録動作においては、制御回路60の制御を受けたR/Wチャネル61からの記録データ信号が、薄膜磁気ヘッド21内の電磁コイル素子に送信される。次いで、薄膜磁気ヘッド21が、モータドライバ66によって駆動されたスピンドルモータ11によって回転している磁気ディスク10に、このデータ信号の書き込みを行う。
【0058】
また、再生動作においては、まず、薄膜磁気ヘッド21内のMR効果素子が回転している磁気ディスク10から読み出した再生データ信号が、制御回路60の制御を受けたR/Wチャネル61により受信され、さらに信号処理回路63に送られる。ここで、ヘッドの書き込み/読み出し位置は、同じく制御回路60の制御を受けたVCMドライバ65を介してVCM15を駆動することによって適宜制御される。
【0059】
次いで、信号処理回路63が、受信した再生データ信号を処理して、バイトエラーレート(BER)を測定する。この際、他の実施形態として、信号処理回路63が、再生データ信号からノイズのレベルを測定してもよい。なお、ノイズのレベルの測定には、後述するノイズカウントプロファイル(NCP)を用いることができる。その後、信号処理回路63によって測定されたBERが、インターフェース64を介して、デジタルコンピュータ68に送られる。デジタルコンピュータ68は、このBERに基づいて発熱部を駆動させてMR効果素子の温度を上昇させるかどうかを判断する。
【0060】
ここで、デジタルコンピュータ68が、発熱の開始を制御回路60に指示した場合、制御回路60の制御を受けた発熱回路62からの発熱用電流が、薄膜磁気ヘッド21内の発熱部に送られる。この際の発熱用電流の値は、温度計測素子67によって計測された温度を参照してMR効果素子の温度が所定値となるように制御されてもよい。なお、発熱用電流として、直流だけではなく、交流又はパルス電流等を用いることも可能である。
【0061】
次いで、MR効果素子の温度が所定値に達した段階で、再度、上述した再生動作が行われ、測定されたBERに基づいて、デジタルコンピュータ68が発熱部を駆動させてMR効果素子の温度を上昇させるかどうかを判断する。最後に、BERが所定の閾値以下である場合に一連の発熱動作を終了し、以後、所定の温度にまで上昇したMR効果素子による良好な読み出し動作が行われる。
【0062】
図6は、本発明による磁気再生方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【0063】
最初に、初期化動作として、デジタルコンピュータで実行されるプログラム上において、パラメータi及び発熱部への供給電力値P(i)をそれぞれ、i=0、P(i)=P(0)=0とし、アラームフラグをOFFとする(ステップS1)。次いで、薄膜磁気ヘッド内の電磁コイル素子を用いて、所定のトラックにレファレンスデータを書き込み、その後、MR効果素子を用いてこのデータの読み出しを行い、信号処理回路によって、電力値P(i)=0、すなわち発熱部に電力を供給していない状態での出力におけるバイトエラーレートであるBER(0)を測定する(ステップS2)。
【0064】
次いで、測定されたBER(i)が所定の閾値RTHよりも大きいか否かを判断する(ステップS3)。ここで、閾値RTHは、使用している磁気記録再生装置において規格、性能等を勘案した上で要求されるBERの条件から、デジタルコンピュータのプログラム上で設定されてもよいが、例えば1×10−6〜1×10−5である。
【0065】
このBER(i)が閾値RTHよりも大きいと判断された場合、i=i+1としてP(i)の値を設定する(ステップS4)。ここで、各P(i)の値は、発熱部の発熱によるMR効果素子の温度上昇幅を考慮して適切に、デジタルコンピュータのプログラム上で設定される。
【0066】
次いで、P(i)が所定の閾値PULよりも大きいか否かを判断する(ステップS5)。ここで、閾値PULは、発熱部の発熱によるMR効果素子の温度上昇の上限を考慮して適切に、デジタルコンピュータのプログラム上で設定されるが、例えば10〜50mWである。P(i)が閾値PUL以下である場合、発熱部に電力値P(i)の電力を供給する(ステップS6)。これにより、MR効果素子の温度が所定値まで上昇する。その後、ステップS2に戻って、MR効果素子を用いてこのデータの読み出しを行い、信号処理回路によって、電力値P(i)を供給した際の出力におけるBER(i)を測定する。
【0067】
ここで、このBER(i)の測定の開始は、発熱部への電力P(i)の供給(ステップS6)を開始してから、MR効果素子が所定の温度に達すると見込まれる時間を経た後とすることが可能であるが、当然、このBER(i)の測定を開始するためには、MR効果素子が所定の温度に達するのに必要な時間に関わらず、実際にMR効果素子が所定の温度に達していることが必要条件となる。
【0068】
次いで、再度、測定されたBER(i)が所定の閾値RTHよりも大きいか否かを判断する(ステップS3)。以下、このBER(i)が閾値RTH以下と判断されるまで、上述したステップS4以降のステップを繰り返す。このBER(i)が閾値RTH以下と判断された場合、以上のステップを終了し、以後、電力値P(i)が供給された条件で、MR効果素子による読み出し動作が行われることになる。
【0069】
また、ステップS5において、P(i)が閾値PULを超えている場合、アラームフラグをONとし(ステップS7)、同じく以上のステップを終了する。この場合、アラームフラグがONとなったことを受けて、読み出しヘッド素子の状態が不良であることの通知が行われる。この通知は、例えばデジタルコンピュータの表示部に表示されることによって行われてもよい。
【0070】
以上の磁気再生方法を用いることによって、低温においてノイズを発生させる読み出し用のヘッド素子を備えた薄膜磁気ヘッドにおいて、発熱部に制御しつつ電力を供給して、MR効果素子の温度を適切に上昇させることができる。その結果、低温環境下においても良好な読み出し特性を得ることができる。すなわち、使用環境の温度が低い状態での磁気記録再生装置のエラーレートが低減し、信頼性が向上する。
【0071】
以下、本発明による磁気再生方法の実施例について、説明する。
【0072】
本実施例においては、図1〜3及び図5に示した、長手磁気記録用の薄膜磁気ヘッドを備えた磁気ディスク装置を、5℃の環境温度下で使用し、図6を用いて説明した再生動作を行った。ここで、ヘッド内のMR効果素子は、図3(A)を用いて説明したTMR効果素子であった。また、図6でのBER(i)の閾値RTHは、1×10−6と設定された。
【0073】
図7は、本実施例で使用した磁気ディスク装置における発熱部への電力供給とMR効果素子の温度上昇との関係を示すグラフである。
【0074】
図7によれば、本実施例に使用した、薄膜磁気ヘッドを回転する磁気ディスク上で浮上させて(通常の書き込み又は読み出しの状態において)、発熱部に電力を供給したところ、温度上昇効率(グラフの傾き)は0.35℃/mWであった。
【0075】
一方、本実施例においては、磁気ディスク装置の使用温度が5℃であるところ、図6のフローチャートにおける最終的なP(i)の値が、20mWとなった。すなわち、発熱体への供給電力は、最終的に20mWであった。従って、図7より、最終的なMR効果素子の温度は、7℃上昇して12℃となったことが分かる。なお、この最終的なP(i)の値は、通常10〜50mW程度となり、発熱体を浮上量調整素子として用いた際の供給電流範囲内であって、浮上量の調整をも考慮して決定することができる。
【0076】
図8は、MR効果素子の出力におけるノイズ抑制の実施例を示すグラフである。
【0077】
ここで、図8(A−1)及び(A−2)の実施例1によれば、5℃という低温で非常に多数のノイズが発生しているMR効果素子において、発熱部に20mWの電力を供給してMR効果素子の温度を12℃にまで上昇させると、低温故に発生していたノイズが抑制される。この実施例1の場合、出力波形のエンベロープの両方に多数発生していたノイズが抑制されているが、図8(B−1)及び(B−2)の実施例2では、5℃において一方に偏って発生していたノイズが、12℃において抑制されている。いずれにしても、低温であることによって非常に多数のノイズが発生しているMR効果素子の出力が、発熱部に電力を供給してMR効果素子の温度を適切な温度にまで上昇させることによって、このようなノイズの抑制された良好な出力となることが理解される。
【0078】
この際、BERは、実施例1において1×10−3から1×10−7に、実施例2において1×10−4から1×10−8に低減し、それぞれ上述した閾値RTH=1×10−6以下に改善されている。なお、これらの改善後のBER値は、実施例1及び2において使用された磁気記録再生装置において規格、性能等を勘案して要求される条件を満たした値ではあるが、その絶対値は、使用された装置に依存することに留意すべきである。従って、本発明の効果においては、BERの大幅な改善をその特徴の1つとしていることが理解される。
【0079】
また、磁気ディスク装置の使用温度範囲の下限は、通常、0℃以下に設定されているが、この下限の温度から5℃までの間で、MR効果素子の出力において低温に起因するノイズが見られることが経験的に分かっている。この場合、温度計測素子によって計測された温度が、例えばこの下限の温度から5℃までの温度範囲内にあることを確認して上で、以上に述べた磁気再生方法を実施することも好ましい。さらに、発熱部に電力を供給してMR効果素子を加熱する際の到達温度を、温度のばらつきを考慮して、10℃以上であって30℃以下とすることが好ましいことも経験的に分かっている。
【0080】
ここで、以上に述べた実施例1及び2の出力におけるノイズのレベルを評価する。本実施形態では、このノイズのレベルを表す指標として、ノイズカウントプロファイル(Noise Count Profile(NCP))を用いる。NCPは、MR効果素子の出力におけるノイズのレベルを強調して表現していて、具体的には、以下に述べるように横軸を(規格化された)閾値電圧とし縦軸を(規格化された)ノイズカウント数としたグラフ上に表され、ノイズのレベルを評価するのに非常に適した特性表示となっている。
【0081】
図9は、実施例1及び2のMR効果素子の出力におけるノイズのレベルを評価するためのNCPを説明するためのグラフである。
【0082】
このNCPの測定においては、最初に、MR効果素子の出力を、広帯域アンプに通してDC成分をキャンセルした上で、所定の帯域幅の信号を取り出す。図9(A)は、この信号を、横軸を時間とし縦軸を電圧としたグラフに表したものである。同図によれば、所定の幅を持ったベースラインから飛び出したノイズが示されている。
【0083】
この図9(A)に示す信号に対して、ある閾値電圧vTHを決めて、所定時間tMEAS(例えば500ミリ秒)の間に、この閾値電圧vTHを信号が横切った回数Cをカウントする。さらに、閾値電圧vTHを変えて各閾値電圧vTHでの横切った回数Cをカウントする。図9(B)は、このようにして得られた、閾値電圧vTHと横切った回数Cとの関係を表すグラフである。同図のプロファイル曲線の幅は、基本的に図9(A)のベースライン幅に対応するものであるが、信号中にノイズが存在すると、プロファイル曲線が裾、又は肩(ショルダー)を持ってしまうことになる。
【0084】
ここで、図9(B)においては、0V近傍の回数Cが桁違いに大きくて突出してしまい、ノイズの存在が目立たなくなってしまう。そこで、これに対処した縦軸の取り方を行ったグラフを図9(C)に示す。図9(C)に示したグラフの縦軸は、規格化ノイズカウント数nC、すなわちlog10(C/MAX(C))×100(%)となっており、対数を取った上で0Vでの値を100%として規格化している。これによって、ポッピングノイズの頻度及び大きさが明瞭にグラフに表されて、ノイズ特性の評価が容易になる。この図9(C)に示した特性がNCPとなる。
【0085】
図10は、図8の実施例におけるNCPを示すグラフである。
【0086】
図10(A)に、図8(A−1)及び(A−2)の出力例におけるNCPの測定例を、図10(B)に、図8(B−1)及び(B−2)の出力例におけるNCPの測定例を示す。ここで、図10(A)及び(B)のグラフの横軸は閾値電圧vTH(V)、縦軸は規格化ノイズカウント数nC(%)となっている。
【0087】
図10(A)によると、当初5℃においてノイズが出力波形のエンベロープの一方に偏って発生しているのに対応して、プロファイル曲線は、横軸の一方向(同図ではマイナス方向)だけにショルダーを持ち、全体として非対称となっている。次いで、12℃となるまで加熱すると、プロファイル曲線は、ノイズが十分に抑制されたことを示す、急峻な脚を持つ台形状となる。さらに、図10(B)によると、当初5℃においてノイズが出力波形のエンベロープの両方に多数発生しているのに対応して、プロファイル曲線は、横軸の両方向にショルダーを持ち、対称的に幅広となっている。次いで、12℃となるまで加熱すると、プロファイル曲線は、同じく、ノイズが十分に抑制されたことを示す急峻な脚を持つ台形状となる。
【0088】
このように、NCPには、問題となるノイズのレベルが的確に反映されており、低温においてノイズを発生させる読み出し用のヘッド素子を備えた薄膜磁気ヘッドにおいて、本発明の磁気再生方法を実施することによって、ノイズが抑制された良好な読み出し特性が実現可能となることが理解される。
【0089】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明による磁気再生方法の実施に用いる磁気記録再生装置の一実施形態における要部の構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】本発明による磁気再生方法の実施に用いる薄膜磁気ヘッドの一実施形態を示す斜視図である。
【図3】本発明による磁気再生方法の実施に用いる薄膜磁気ヘッドの要部の構成を示す、図2のA−A線断面図、及びそのA−A線断面を含む斜視図である。
【図4】本発明による磁気再生方法の実施に用いる薄膜磁気ヘッドの他の実施形態における要部の構成を示す、図2のA−A線断面図である。
【図5】図1の磁気ディスク装置が備えている記録再生及び発熱制御回路の回路構成を示すブロック図である。
【図6】本発明による磁気再生方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図7】本実施例で使用した磁気ディスク装置における発熱部への電力供給とMR効果素子の温度上昇との関係を示すグラフである。
【図8】MR効果素子の出力におけるノイズ抑制の実施例を示すグラフである。
【図9】実施例1及び2のMR効果素子の出力におけるノイズのレベルを評価するためのNCPを説明するためのグラフである。
【図10】図8の実施例におけるNCPを示すグラフである。
【符号の説明】
【0091】
10 磁気ディスク
11 スピンドルモータ
12 アセンブリキャリッジ装置
13 記録再生及び発熱制御回路
14 駆動アーム
15 ボイスコイルモータ(VCM)
16 ピボットベアリング軸
17 ヘッドジンバルアセンブリ(HGA)
20 サスペンション
21 薄膜磁気ヘッド
210 スライダ基板
211 スライダ端面
2100 浮上面(ABS)
2101 素子形成面
200 ロードビーム
201 フレクシャ
202 ベースプレート
203 配線部材
32 磁気ヘッド素子
33、43 MR効果素子
330 下部シールド層
332 MR積層体
334 上部シールド層
34、44 電磁コイル素子
340 下部磁極層
3400 下部ヨーク層
3401 下部磁極部
341 書き込みギャップ層
342 上下部コイル絶縁層
343、443 書き込みコイル層
3430 下部書き込みコイル層
3431 上部書き込みコイル層
344、444 書き込みコイル絶縁層
3440 下部書き込みコイル絶縁層
3441 上部書き込みコイル絶縁層
345 上部磁極層
3450 上部磁極部
3451 上部ヨーク層
35、45 発熱部
350 発熱ライン層
351 引き出しライン層
36、37 信号端子電極
38 駆動端子電極
39、49 被覆層
440 バッキングコイル部
4400 バッキングコイル層
4401 バッキングコイル絶縁層
441 主磁極層
4410 主磁極補助層
4411 主磁極主要層
442 ギャップ層
445 補助磁極層
4450 トレーリングシールド部
46 素子間シールド層
60 制御回路
61 R/Wチャネル
62 発熱回路
63 信号処理回路
64 インターフェース
65 VCMドライバ
66 モータドライバ
67 温度計測素子
68 デジタルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温であるためにノイズが発生する読み出し用のヘッド素子を加熱して、該読み出し用のヘッド素子の温度を上昇させた状態で、該読み出し用のヘッド素子による読み出しを行うことを特徴とする磁気再生方法。
【請求項2】
前記読み出し用のヘッド素子が、磁気抵抗効果素子であることを特徴とする請求項1に記載の磁気再生方法。
【請求項3】
前記読み出し用のヘッド素子を備えた薄膜磁気ヘッド内に設けられた発熱部を発熱させることによって、該読み出し用のヘッド素子を加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気再生方法。
【請求項4】
前記発熱部が、前記薄膜磁気ヘッド内に設けられた書き込み用のヘッド素子及び前記読み出し用のヘッド素子の間に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の磁気再生方法。
【請求項5】
前記薄膜磁気ヘッドを回転する磁気記録媒体上に浮上させた状態で、前記読み出し用のヘッド素子を加熱することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の磁気再生方法。
【請求項6】
前記読み出し用のヘッド素子の出力を測定し、該出力におけるバイトエラーレートが所定の閾値以下となるまで、該読み出し用のヘッド素子を加熱することを特徴とする請求項5に記載の磁気再生方法。
【請求項7】
前記読み出し用のヘッド素子を加熱する前の温度が使用温度範囲の下限以上であって5℃以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の磁気再生方法。
【請求項8】
前記読み出し用のヘッド素子を加熱した際の温度が10℃以上であって30℃以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の磁気再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−52819(P2008−52819A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−227848(P2006−227848)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【出願人】(500393893)新科實業有限公司 (361)
【氏名又は名称原語表記】SAE Magnetics(H.K.)Ltd.
【住所又は居所原語表記】SAE Technology Centre, 6 Science Park East Avenue, Hong Kong Science Park, Shatin, N.T., Hong Kong
【Fターム(参考)】