説明

低温性曲げ性にすぐれる成型用樹脂組成物

【課題】ポリ塩化ビニルに対する接着性を保持しながら、適当な硬度を有し、低温(−40℃)での柔軟性(低温曲げ性)に優れ、しかも長時間の溶融中に成分の分離が起こらず、ホットメルト材として好適に用いることができる成型用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】芳香族ポリエステル(a)と、タッキファイヤー(b)と、1分子中にヒドロキシ基を2個以上有するポリオール化合物(c)と、コアシェル粒子(d)とを含有する成型用樹脂組成物であって、該コアシェル粒子(d)がシリコン/アクリル複合ゴムからなるコアと極性基(x)を有するビニル系化合物からなるシェルとからなり、かつ、該芳香族ポリエステル(a)100質量部に対して該コアシェル粒子(d)1〜50質量部を含有する成型用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成型用樹脂組成物に関する。より詳細には、芳香族ポリエステル系の成型用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などに使用されている電線、例えばハーネス等は、アース部分などから水分が侵入してくる。通常、その水分を自動車内に入れないために、図5に示すハーネス60のように、かしめ部61を介して接合部62と接合されている導線63の途中を切断し、大気開放部64などを設ける必要があった。そのため、配線回しなどでデザイン等が規制されてしまい、コスト的にも不利となるといった問題がある。また、コネクタについては、一液のシリコンなどを注入硬化させ防水、止水する等の方法、具体的には、図6に示すコネクタ70のように、成型部71をエチレン・プロピレン共重合体(EPDM)等のゴム部材を使用し、接合部72と導線73を接合する部分に一液シリコン等を注入する場合が知られているが、一液シリコン等の硬化時間が長く工場内で1〜2時間程放置しておく必要がある。
【0003】
上記の一液シリコン等に存在する生産タクトが長い等の問題点を解決すべく、ホットメルト材の適用が考えられてきたが、例えば、低粘度で成型し易い樹脂であると成型後の柔軟性が非常に低く、逆に柔軟性を有する樹脂では成型が困難であり、ウレタン系ホットメルト材、ポリアミド系ホットメルト材、EVA系ホットメルト材等は、従来、成型用ホットメルト材として用いることができていなかった。
【0004】
ポリエステル樹脂は、脂肪酸とグリコールとの縮合体であって、柔軟性、耐熱性、耐薬品性、耐油性、延伸性および成形性などの特徴を有した各種ポリエステル樹脂が知られている。しかし、これらの特徴を有する従来のポリエステル系樹脂組成物は、成型性と柔軟性のバランスが悪く、成型用ホットメルト材としては用いることができなかった。
【0005】
これに対して、本発明者は、芳香族ポリエステル系樹脂を含有する成型用樹脂組成物を、コネクタやハーネス等の導線の端子の防水被覆や基板全体の封止等のために使用することができる成型用ホットメルト材として用いるべく、これまで改良を重ねてきた。
【0006】
特許文献1には、「芳香族ポリエステル(a)と、タッキファイヤー(b)と、1分子中に水酸基を2個以上有するポリオール化合物(c)と、ジエン系ゴムまたはその水添物(d)とを含有し、前記ジエン系ゴムまたはその水添物(d)の含有量が、前記芳香族ポリエステル(a)100質量部に対して、1質量部超30質量部未満である、成型用樹脂組成物。」が記載されている。
【0007】
この成型用樹脂組成物は、長時間溶融状態にした後においても粘度が低減せず、成型後においては柔軟性、硬度、ポリ塩化ビニル(PVC)や金属に対する密着性、成型性および耐水性等に優れることから、成型用ホットメルト材として好適に用いることができる成型用樹脂組成物である。
【0008】
特許文献2には、「芳香族ポリエステル(a)と、タッキファイヤー(b)と、1分子中にヒドロキシ基を2個以上有するポリオール化合物(c)と、ポリオレフィン(d)と、前記芳香族ポリエステル(a)および前記ポリオレフィン(d)より熱伝導率の高い充填剤(e)とを含有し、前記ポリオレフィン(d)の含有量が、前記芳香族ポリエステル(a)と前記ポリオレフィン(d)との合計100質量部中の5〜40質量部であり、前記充填剤(e)の含有量が、前記芳香族ポリエステル(a)と前記ポリオレフィン(d)との合計100質量部に対して0.1〜100質量部である成型用樹脂組成物。」が記載されている。
【0009】
この成型用樹脂組成物は、生産タクトが短く、得られる成型用樹脂組成物の成型時の粘度を低く保ちながら成型後の固化物に柔軟性を与えることが可能である。さらに、熱伝導率が高く、成型後の硬化時間がより短く、養生の必要性がない。また、この成型用樹脂組成物は、耐ヒートショック性に優れ、ヒートサイクル時の被着体の膨張収縮に追従することが可能であるため成型用ホットメルト材として用いることができる。
【0010】
これらの成型用樹脂組成物は、成型用ホットメルト材として使用するとき、溶融時における粘度、耐分離性およびモールド注入性、硬化後における耐ブリード性、延伸性(伸び)、柔軟性(室温)、硬度、接着性および脱型性等について満足できる特性を有しているものの、低温(−40℃)における柔軟性については、さらに改良の余地があった。
【0011】
特許文献3には、「芳香族ポリエステル(a)と、タッキファイヤー(b)と、1分子中に水酸基を2個以上有するポリオール化合物(c)と、液状ポリエーテルポリエステル(d)とを含有し、前記液状ポリエーテルポリエステル(d)の含有量が、前記芳香族ポリエステル(a)100質量部に対して、1〜50質量部である、成型用樹脂組成物。」が記載されている。
【0012】
この成型用樹脂組成物は、ポリエステル系可塑剤(液状ポリエーテルポリエステル)を特定量含有することによって硬化時における硬度を低下させたものであり、ポリ塩化ビニル(PVC)に対する接着性を保持しつつ、硬度がHA70以下となり、成型用ホットメルト材として好適に用いることができる成型用樹脂組成物である。また、このような硬度の低い成型用樹脂組成物は、柔軟性に優れることから、振動を吸収する必要のある圧力センサー、コネクタ等の端子とコードとの接着、封止に好適に使用することができるため非常に有用である。
【0013】
しかし、結果として、ポリエステル系可塑剤の配合によっては、芳香族ポリエステル系成型用樹脂組成物に十分な低温性(−40℃における曲げ性)を付与することができなかった。しかも、可塑剤を配合すると、硬化後の成型用樹脂組成物が硬度および強度がそれを添加しない場合に比べて低下するため、硬化後の硬度または強度を必要とする箇所に、その可塑剤を添加した成型用樹脂組成物を使用することができなかった。
【0014】
一方、シリコンゴム粒子を充填剤として芳香族ポリエステル系成型用樹脂組成物に配合すると、低温性(−40℃における曲げ性)を改善することができるが、シリコンゴムと芳香族ポリエステル樹脂との相溶性が悪いため、ホットメルト材の溶融中にシリコンゴムが沈降、分離してしまい、成分の偏りと接着性の低下が発生する。このため、シリコンゴム粒子を充填剤として成形用樹脂組成物に配合して、ホットメルト材としての機能および性能を確保しながら低温性の改善をすることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006−328263号 公報
【特許文献2】特開2008−38020号 公報
【特許文献3】特開2006−328255号 公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来の成型用樹脂組成物では、厚く覆ったモールド部分に続いてハーネスに使用されるコードに沿って薄く成型すると、低温時に大きく曲げられたとき、また、低温時で大きく曲がるような振動を受けた時、付け根部分に大きな歪みが掛かりわれてしまい、そのような形状への成型が難しかった。また、従来の成型用樹脂組成物に可塑剤等を添加して低温時の曲げ性を確保しようとすると、硬度が低下してしまうため、硬度が必要な場合に対応することができなかった。
【0017】
そこで、本発明は、ポリ塩化ビニルに対する接着性を保持しながら、適当な硬度を有し、低温(−40℃)での柔軟性(低温曲げ性)に優れ、しかも長時間の溶融中に成分の分離が起こらず、ホットメルト材として好適に用いることができる成型用樹脂組成物を提供することを課題とする。
本発明は、また、さらに、ポリオレフィンに対しても接着性を有する成型用樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、特定の構造をもつコアシェル粒子を芳香族ポリエステル系成型用樹脂組成物に特定量配合すると、硬化後の硬度および強度を確保しながら低温性を改善することができ、しかも、ホットメルト材として用いるとき、長時間の溶融中に成分の分離が起こらない成型用樹脂組成物を構成できることを知得した。
すなわち、本発明は以下のものである。
【0019】
(1)芳香族ポリエステル(a)と、タッキファイヤー(b)と、1分子中にヒドロキシ基を2個以上有するポリオール化合物(c)と、コアシェル粒子(d)とを含有する成型用樹脂組成物であって、該コアシェル粒子(d)がシリコン/アクリル複合ゴムからなるコアと極性基(x)を有するビニル系化合物からなるシェルとからなり、かつ、該芳香族ポリエステル(a)100質量部に対して該コアシェル粒子(d)1〜50質量部を含有する成型用樹脂組成物。
(2)前記コアシェル粒子(d)の平均粒径が0.1μm〜10μmである、上記(1)に記載の成型用樹脂組成物。
(3)前記コアシェル粒子(d)が、ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とが分離できないように相互に絡み合った構造をもち、かつポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分との質量比(ポリオルガノシロキサンゴム成分/ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分)が99/1〜1/99であるシリコン/アクリル複合ゴムに、極性基(x)を有するビニル系単量体1種類以上がグラフト重合された構造をもつ、上記(1)または(2)に記載の成型用樹脂組成物。
(4)前記コアシェル粒子(d)が、ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とが分離できないように相互に絡み合った構造をもち、かつポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分との質量比(ポリオルガノシロキサンゴム成分/ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分)が99/1〜1/99であるシリコン/アクリル複合ゴムに、極性基(x)を有するビニル系重合体1種類以上がグラフト重合された構造をもつ、上記(1)または(2)に記載の成型用樹脂組成物。
(5)前記コアシェル粒子(d)が、ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とが分離できないように相互に絡み合った構造をもち、かつポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分との質量比(ポリオルガノシロキサンゴム成分/ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分)が99/1〜1/99であるシリコン/アクリル複合ゴムに、極性基(x)を有するビニル系単量体を包含するビニル系単量体をグラフト重合させた構造をもつ、上記(1)または(2)に記載の成型用樹脂組成物。
(6)前記コアシェル粒子(d)が、ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とが分離できないように相互に絡み合った構造をもち、かつポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分との質量比(ポリオルガノシロキサンゴム成分/ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分)が99/1〜1/99であるシリコン/アクリル複合ゴムに、極性基(x)を有するビニル系単量体を包含するビニル系単量体をグラフト重合させた後、最終段に極性基(x)を含有しないビニル系単量体をグラフト重合させた構造をもつ、上記(1)または(2)に記載の成型用樹脂組成物。
(7)前記極性基(x)が、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、グリシジル基およびカルボニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
(8)前記コアシェル粒子がメタブレン(登録商標)SRK200(三菱レイヨン社製)である、上記(1)に記載の成型用樹脂組成物。
(9)さらに、極性基(y)を有するポリオレフィン(e)を含有する、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
(10)前記極性基(y)が、エポキシ基、カルボキシル基および酸無水物基からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である、上記(9)に記載の成型用樹脂組成物。
(11)前記カルボキシ基がマレイン酸基に由来するカルボキシ基である、上記(10)に記載の成型用樹脂組成物。
(12)前記酸無水物基が無水マレイン酸基である、上記(10)に記載の成型用樹脂組成物。
(13)前記タッキファイヤー(b)を前記芳香族ポリエステル(a)100質量部に対して1〜50質量部含有する、上記(1)〜(12)のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
(14)前記ポリオール化合物(b)を前記芳香族ポリエステル(a)100質量部に対して0.5〜50質量部含有する、上記(1)〜(12)のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
(15)190℃における粘度が10〜500Pa・sである、上記(1)〜(14)のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
(16)前記芳香族ポリエステル(a)が、テレフタル酸およびイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸成分と、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオールおよびポリテトラメチレンエーテルグリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むヒドロキシ基成分とを反応させて得られるポリエステルである、上記(1)〜(15)のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
(17)前記芳香族ポリエステル(a)が、テレフタル酸およびイソフタル酸を含有する酸成分と、1,4−ブタンジールおよびネオペンチルグリコールを含有するヒドロキシ基成分とを反応させて得られるポリエステルAと、テレフタル酸およびイソフタル酸を含有する酸成分と、エチレングリコール、ネオペンチルグリコールおよび1,4−ブタンジオールとを含有するヒドロキシ基成分とを反応させて得られるポリエステルCとを含有する、上記(1)〜(15)のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
(18)前記芳香族ポリエステル(a)が、さらに、テレフタル酸およびイソフタル酸を含有する酸成分と、エチレングリコールおよびネオペンチルグリコールを含有するヒドロキシ基成分とを反応させて得られるポリエステルDを含有する、上記(17)に記載の成型用樹脂組成物。
(19)前記タッキファイヤー(b)がロジン系タッキファイヤーである、上記(1)〜(18)のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
(20)前記ロジン系タッキファイヤーがロジンジオールである、上記(19)に記載の成型用樹脂組成物。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ポリ塩化ビニルに対する接着性を保持しながら、適当な硬度を有し、低温(−40℃)での柔軟性(低温曲げ性)に優れ、しかも長時間の溶融中に成分の分離が起こらず、ホットメルト材として好適に用いることができる成型用樹脂組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、さらに、ポリオレフィンに対しても接着性を有する成型用樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1の(A)は、成型前の導線を示す図であり、(B)は、モールドの形状(モールド片面)を示す図であり、(C)は、成型時のモールドの形状を示す図であり、(D)は、成型品の形状を示す図である。
【図2】図2は、本発明の成型用樹脂組成物で封止したハーネスを示す図である。
【図3】図3の(A)および(B)は、それぞれ、ポリ塩化ビニル(PVC)との接着性試験サンプルを示す斜視図および断面図である。
【図4】図4の(A)および(B)は、それぞれ、ポリプロピレン(PP)との接着性試験サンプルを示す斜視図および断面図である。
【図5】図5は、従来品のハーネスを示す図である。
【図6】図6は、従来品のコネクタを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をより詳細に説明する。
なお、本明細書においては、「(メタ)アクリレート」の用語は「アクリレート」および「メタクリレート」の両方を含む意味で用いられる。同様に、「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸」および「メタクリル酸」の両方を含む意味で用いられる。
[成型用樹脂組成物]
本発明の成型用樹脂組成物(以下、単に「本発明の組成物」という場合がある。)は、芳香族ポリエステル(a)と、タッキファイヤー(b)と、1分子中にヒドロキシ基を2個以上有するポリオール化合物(c)と、コアシェル粒子(d)とを含有する成型用樹脂組成物であって、該コアシェル粒子(d)がシリコン/アクリル複合ゴムからなるコアと極性基(x)を有するビニル系化合物からなるシェルとからなり、かつ、該芳香族ポリエステル(a)100質量部に対して該コアシェル粒子(d)1〜50質量部を含有する成型用樹脂組成物である。
また、本発明の成型用樹脂組成物は、所望により、さらに、極性基(y)を有するポリオレフィン(e)を含有することができる。
【0023】
〈芳香族ポリエステル(a)〉
上記芳香族ポリエステル(a)は、芳香族酸とグリコールとの縮合反応から得られる芳香族ポリエステルであることが好ましい。
このような芳香族ポリエステル(a)としては、具体的には、例えば、テレフタル酸および/またはイソフタル酸を含有する酸成分と、エチレングリコール(以下「EG」と略す。)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下「PTMG」と略す。)、ネオペンチルグリコール(以下「NPG」と略す。)および1,4−ブタンジオール(以下「1,4−BD」と略す。)からなる群より選択される少なくとも1種を含有する水酸基成分とを反応させて得られるポリエステルを含有する芳香族ポリエステルが挙げられ、1種単独であってもよく、2種以上を併用するものであってもよい。
より具体的には、下記に示すポリエステルA、Cおよび/またはDを併用(含有)する芳香族ポリエステルが好適に例示される。
【0024】
《ポリエステルA》
ポリエステルAとは、酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸との混合物を用い、ヒドロキシ基成分として1,4−BDとPTMGとの混合物を用いて、縮合反応により得られるポリエステルをいう。
このポリエステルAの溶融状態における流動性を示す尺度である溶融指数(メルトインデックス)(以下、「MI」と略す)は、200℃において10以上であることが好ましく、13〜50であることがより好ましい。ポリエステルAのMIがこの範囲であると、成型時の粘度を低く保ち、成型後の耐熱性が優れる。
ここで、上記PTMGは1,4−BDを重合させて得られる重合体であれば特に限定されず、数平均分子量が2000以上であることが好ましく、市販品として三菱化学社製のH−283を用いることができる。
ポリエステルAとしては、具体的には、例えば、ハイトレル 4057(東レ・デュポン社製)を使用することができる。
【0025】
《ポリエステルC》
ポリエステルCは、テレフタル酸とイソフタル酸との混合物からなる酸成分と、EGとNPGと1,4−BDとの混合物からなるヒドロキシ基成分との縮合反応により得られるポリエステルである。
ポリエステルCの190℃での粘度は、0.5〜2Pa・sであることが好ましく、0.7〜1.5Pa・sであることがより好ましい。
ポリエステルCとしては、具体的には、例えば、エリーテル UE3510(ユニチカ社製)を使用することができる。
【0026】
《ポリエステルD》
ポリエステルDとは、酸成分としてテレフタル酸とイソフタル酸との混合物を用い、ヒドロキシ基成分としてEGとNPGとの混合物を用いて、縮合反応により得られるポリエステルをいう。
このポリエステルAの190℃での粘度は、0.5〜2Pa・sであることが好ましく、0.7〜1.5Pa・sであることがより好ましい。
ポリエステルDとしては、具体的には、例えば、エリーテル UE3320(ユニチカ社製)を使用することができる。
【0027】
本発明においては、上記芳香族ポリエステル(a)は、上記ポリエステルA、CおよびDからなる群より選択される少なくとも2種を併用していることが好ましく、ポリエステルAとポリエステルCまたはポリエステルDとを併用することがより好ましい。
これは、柔軟性、耐熱性、耐薬品性、耐油性および延伸性に優れたポリエステルAと、低粘度で成型性に優れているポリエステルCおよび/またはポリエステルDとを併用することにより、得られる本発明の成型用樹脂組成物の成型時における粘度を適当に保ち、さらに成型後の固化物により高い柔軟性を与えるという理由からである。また、同様の理由から、上記芳香族ポリエステル(a)は、上記ポリエステルAと、ポリエステルCと、ポリエステルDとを併用することがさらに好ましい。
【0028】
また、本発明においては、上記芳香族ポリエステル(a)における上記ポリエステルA、B、CおよびDの含有割合は特に限定されないが、芳香族ポリエステル(a)の総質量に対して、上記ポリエステルAを10〜50質量%、上記ポリエステルCを15〜45質量%、上記ポリエステルDを0〜35質量%含有していることが好ましく、上記ポリエステルAを20〜40質量%、上記ポリエステルCを25〜35質量%、上記ポリエステルDを15〜25質量%含有していることがより好ましい。
【0029】
上記ポリエステルA、CおよびDの含有割合がこの範囲であると、得られる成型用樹脂組成物の成型時の粘度を低く保ちながら成型後の固化物に柔軟性を与えることが可能であり、成型後の固化物が耐油性、耐ガソリン性に優れるため好ましい。更に、成型後の硬化時間が短く、養生の必要性がないことからも好ましい。
【0030】
また、このような性質を有する本発明の組成物は、耐ヒートショック性に優れ、ヒートサイクル時の被着体の膨張収縮に追従することが可能であるため成型用ホットメルト材として用いることが好ましい。
【0031】
〈タッキファイヤー(b)〉
上記タッキファイヤー(b)は、従来公知のタッキファイヤー(粘着付与剤)を用いることができ、具体的には、ロジン系タッキファイヤー、テルペン系タッキファイヤー、石油樹脂系タッキファイヤーが例示される。
【0032】
上記ロジン系タッキファイヤーとしては、松ヤニや松根油中のアビエチン酸を主成分とするロジン酸とグリセリンやペンタエリスリトールとのエステル、および、それらの水添物、不均化物が挙げられ、具体的には、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、変性ロジン、ロジンエステル(ロジンジオール)等が好適に例示される。
【0033】
テルペン系タッキファイヤーとしては、松に含まれるテルペン油やオレンジの皮等に含まれる天然のテルペンを重合したものが挙げられ、具体的には、テルペン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、水素添加テルペン樹脂等が好適に例示される。
【0034】
石油樹脂系タッキファイヤーとしては、石油を原料とした脂肪族、脂環族、芳香族系の樹脂が挙げられ、具体的には、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、共重合系石油樹脂、脂環族飽和炭化水素樹脂、スチレン系石油樹脂等が好適に例示される。
【0035】
これらのうち、タッキファイヤー(b)としては、得られる組成物が低粘度になり成形しやすくなる点から上記ロジン系タッキファイヤーを用いることが好ましく、具体的には、ロジンエステルであるロジンジオールを用いることが得られる成型性樹脂組成物の延伸性、ポリオレフィン、金属およびPVCに対する接着性が向上し、更に耐熱性と柔軟性のバランス、耐ガソリン性が良好となる理由からより好ましい。ロジンジオールとしては、具体的には、例えば、パインクリスタルD−6011、KE−615−3、D−6240(いずれも荒川化学工業社製)等が挙げられる。
【0036】
また、上記タッキファイヤー(b)の含有量は、上記芳香族ポリエステル(a)および上記ポリオレフィン(d)の合計100質量部に対して、1〜50質量部が好ましく、10〜40質量部がより好ましい。この範囲であると、得られる成型性樹脂組成物の延伸性、ポリオレフィン、金属およびPVCに対する接着性が向上し、更に耐熱性と柔軟性のバランス、耐ガソリン性が良好となる。
【0037】
〈ポリオール化合物(c)〉
上記ポリオール化合物(c)は、1分子中にヒドロキシ基を2個以上有するポリオール化合物であって、上記芳香族ポリエステル(a)と上記タッキファイヤー(b)とを相溶させる相溶化剤として働くものであれば特に限定されず、具体的には、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ポリカーボネートジオール、ポリカプロラクトン、ジエチレングリコール、グリセリン、ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられ、更に、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレンジオール、ポリオキシプロピレントリオール、ポリオキシプチレングリコール等のポリエーテル系ポリオール;ポリブタンジエンポリオール、ポリイソプレングリコール等のポリオレフィン系ポリオール;アジペート系ポリオール;ラクトン系ポリオール;ひまし油等のポリエステル系ポリオール等の多価アルコール類;レゾルシン、ピスフェノール等の多価フェノール類が使用可能である。これらの各ポリオールは、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0038】
これらのうち、ポリカーボネートジオール、ポリカプロラクトンを用いることが、少量で相溶化剤としての効果が得られるため好ましく、更に、ポリカーボネートジオールを用いることが、耐高温高湿性に優れるためより好ましい。
【0039】
また、各ポリオールの平均分子量は、500〜10000が好ましく、1000〜10000がより好ましく、2000〜10000が更に好ましい。
【0040】
上記ポリオール化合物(c)の含有量は、上記芳香族ポリエステル(a)および上記ポリオレフィン(d)の合計100質量部に対して、0.5〜50質量部が好ましく、1〜20質量部がより好ましく、2〜10質量部が更に好ましい。この範囲であると、上記芳香族ポリエステル(a)と上記タッキファイヤー(b)とを十分に相溶させ、ポリエステルの物性(耐熱性、柔軟性、耐ガソリン性)を低下させない。
【0041】
本発明の組成物は、上記タッキファイヤー(b)とポリオール化合物(c)とを含有するため、上述したように、延伸性ならびにポリオレフィン、金属およびPVCに対する接着性が向上し、耐熱性と柔軟性のバランス、更に、溶融時に起こる芳香族ポリエステル(a)とタッキファイヤー(b)との分離が防止され、タッキファイヤー(b)を単独で添加する場合では低下する耐油性、特に耐ガソリン性が良好となる。これは、ポリオール化合物(c)を添加することで、タッキファイヤー(b)が芳香族ポリエステル(a)の非結晶部分に優先的にとり込まれるためであると考えられる。
【0042】
〈コアシェル粒子(d)〉
コアシェル粒子(d)は、シリコン/アクリル複合ゴムからなるコアと、極性基(y)を有するビニル系化合物とからなるシェルとからなるコアシェル構造をもつ粒子である。
【0043】
本発明の成型用樹脂組成物で用いられる芳香族系ポリエステル樹脂(a)コアシェル粒子(d)との配合割合は、得られる組成物の低温柔軟性の確保の点から芳香族系ポリエステル樹脂(a)100重量部に対して1〜50質量部、好ましくは5〜20質量部である。1質量部未満では成型用樹脂組成物の低温性の改善効果が乏しく、また、50重量部を超えると組成物の粘度が高くなりすぎ、物性に悪影響があるので好ましくない。
【0044】
コアシェル粒子の平均粒径は、特に限定されないが、0.1μm〜10μmであることが好ましい。平均粒径がこの範囲であると、組成物中での分散性がよくなり、結果としてコアシェル粒子とポリエステル成分との相溶性に優れるからである。
【0045】
コアシェル粒子(d)としては、例えば、メタブレン(登録商標)SRK200を好適に使用することができる。
【0046】
コアシェル粒子(d)としては、上記の市販製品に限定されることなく、シリコン/アクリル複合ゴムに、極性基(x)を有するビニル系化合物がグラフト重合された構造をもつグラフト共重合体を使用することもできる。
【0047】
コアシェル粒子(d)としては、また、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキル(メタ)アクリレートゴムとからなるシリコン/アクリル複合ゴムに、極性基(x)を有するビニル系化合物がグラフト重合された構造をもつポリオルガノシロキサン系グラフト共重合体を使用することもできる。
【0048】
《シリコン/アクリル複合ゴム》
コアシェル粒子(d)のコアであるシリコン/アクリル複合ゴムは、いわゆるシリコン/アクリル複合ゴムであれば特に制限されないが、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキル(メタ)アクリレートゴムとからなる複合ゴムであることが好ましい。
【0049】
ここで、ポリオルガノシロキサンゴムは、オルガノシロキサンとポリオルガノシロキサンム用架橋剤およびポリオルガノシロキサンゴム用グラフト交叉剤とを重合することにより微小粒子として得られるものを用いることができる。
【0050】
ポリオルガノシロキサンゴムの調製に用いるオルガノシロキサンとしては、3員環以上の各種の環状体が挙げられ、3〜6員環のものが好ましく用いられる。このようなオルガノシロキサンの具体例として、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン等が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
ポリオルガノシロキサン用架橋剤とは、低級アルコキシ基を3または4個を有するシラン化合物、すなわちトリアルコキシアルキルシラン、トリアルコキシフェニルシランあるいはテトラアルコキシシランであり、その具体例として、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられ、これらの中ではテトラアルコキシシランが好ましく、さらにはテトラエトキシシランが特に好ましい。
【0052】
ポリオルガノシロキサンゴム用グラフト交叉剤とは、ポリオルガノシロキサンゴムを調製する際には反応せず、その後に複合ゴム調製のためのポリオルガノシロキサンゴム存在下でのポリ(メタ)アクリレートゴムの重合、あるいはグラフト重合の際に反応する官能
基を有するシロキサンであり、その具体例として、下記式(1)〜(4)で表わされる単位を形成し得る化合物を挙げることができる。
【0053】
【化1】

【0054】
【化2】

【0055】
【化3】

【0056】
【化4】

【0057】
式(1)の単位を形成し得るものとしては、メタクリロイルオキシアルキルモノ、ジまたはトリアルコキシシランが好ましく、この具体例としては、β−メタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシジメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルエトキシジエチルシラン、δ−メタクリロイルオキシブチルジエトキシメチルシラン等を挙げることができ、これらの中でも、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランがより好ましい。
【0058】
式(2)の単位を形成し得るものの例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン等を挙げることができ、式(3)の単位を形成し得るものの例としては、4−ビニルフェニルジメトキシメチルシラン、4−ビニルフェニルトリメトキシシラン等を挙げることができ、式(4)の単位を形成し得るものの例としては、γ−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルジエトキシエチルシラン等を挙げることができる。
【0059】
これらの式で示される化合物の中でも式(1)の単位を形成し得る(メタ)アクリロイルオキシ(アルキル)シランは、グラフト重合時のグラフト効率が高いために有効なグラフト鎖を形成し、耐衝撃性および曲げ性に優れたものを得ることができるので、好ましく使用できる。
【0060】
ポリオルガノシロキサンゴム中の環状オルガノシロキサンに由来する成分の量は60重量%以上、好ましくは70重量%であり、ポリオルガノシロキサンゴム用架橋剤の量は、0.1〜30重量%であり、またポリオルガノシロキサンゴム用グラフト交叉剤の量は0〜10重量%である。
【0061】
ポリオルガノシロキサンゴムは、例えば米国特許第2891920号明細書、同第3294725明細書等に記載された方法を用いてラテックスとして得ることができるが、オルガノシロキサンとポリオルガノシロキサンゴム用架橋剤および所望によりポリオルガノシロキサンゴム用グラフト交叉剤との混合液を、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸等のスルホン酸系乳化剤の存在下で、例えばホモジナイザー等を用いて水と剪断混合する方法で製造することが好ましい。
【0062】
スルホン酸系乳化剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸がオルガノシロキサンの乳化剤として作用すると同時に重合開始剤としても作用するので好ましく用いられる。この際、アルキルベンゼンスルホン酸金属塩、アルキルスルホン酸金属塩等を併用するとグラフト重合を行う際にポリマーの乳化状態を安定に維持するのに効果があるので好ましい。
【0063】
重合の停止は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ水溶液を添加することにより行うことができる。
【0064】
ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキル(メタ)アクリレートゴムからなる複合ゴムは、上述のポリオルガノシロキサンゴムラテックスに、アルキル(メタ)アクリレート、ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム用架橋剤およびポリアルキル(メタ)アクリレートゴム用グラフト交叉剤を添加してポリオルガノシロキサンゴムにこれらの成分を含浸させてから重合させることにより得られる。
【0065】
複合ゴムの調製に用いられるアルキル(メタ)アクリレートとしては、アルキル基の炭素数が1〜8の直鎖または分岐鎖アクリレートおよびアルキル基の炭素数が6〜12のアルキル(メタ)アクリレートを示すことができる。これらの具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、2−メチルブチルアクリレート、3−メチルブチルアクリレート、3−ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、2−ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等が挙げられ、これらの中ではn−ブチルアクリレートが好ましい。
【0066】
ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム用架橋剤としては、重合性不飽和結合を2つ以上有する(メタ)アクリレートが用いられ、その具体例としては、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。
【0067】
ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム用グラフト交叉剤は、ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム重合時に重合して該ゴム中に組み込まれるが少なくとも一部の重合性不飽和基は重合せずに残存し、その後のグラフト重合時にその残った不飽和基が反応してグラフト結合できる重合性不飽和結合を2つ以上有するモノマーであり、このようなグラフト交叉剤の具体例としては、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等を挙げることができる。アリルメタクリレートは、ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム重合時に、その一部が2つの重合性不飽和基の両方が反応して架橋構造を形成し、かつ残りは不飽和基の一方のみが反応し、他方の不飽和結合はポリアルキル(メタ)アクリレートゴム重合後も残存して、その後のグラフト重合時にこの残った不飽和結合が反応してグラフト結合を形成するので、架橋剤としてもグラフト交叉剤としても働く作用を有する。
【0068】
これらのポリアルキル(メタ)アクリレートゴム用架橋剤およびポリアルキル(メタ)アクリレートゴム用グラフト交叉剤は、各々単一成分のものを用いてもよく、2種以上の成分の併用であってもよい。アクリルメタクリレートを用いる場合は、これのみで架橋剤とグラフト交叉剤を兼ねさせてもよい。
【0069】
ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム用架橋剤およびポリアルキル(メタ)アクリレートゴム用グラフト交叉剤の使用量は、各々ポリアルキル(メタ)アクリルメタクリレートゴム成分中0.1〜10重量%である。アリルメタクリレートのみで架橋剤とグラフト交叉剤を兼ねさせた場合は、ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分中0.2〜20重量%用いればよい。
【0070】
複合ゴムの調製は、オルガノシロキサンを乳化重合させた後に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリの水溶液を添加して中和したポリオルガノシロキサンゴムラテックス中に、上述のアルキル(メタ)アクリレート、ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム用架橋剤およびポリアルキル(メタ)アクリレートゴム用グラフト交叉剤を添加し、これらをポリオルガノシロキサンゴム粒子中に含浸させた後、通常のラジカル重合開始剤を作用させて重合を行えばよい。こうすることにより、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキル(メタ)アクリレートゴムとが実質上分離できない程度に相互に絡み合った複合ゴムが得られる。この複合ゴムとしては、トルエンで90℃で4時間抽出して測定したときのゲル含量が80%以上のものであることが好ましい。
【0071】
複合ゴムとしては、ポリオルガノシロキサンゴム成分の主骨格がジメチルシロキサンの繰り返し単位を有し、ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分の主骨格がn−ブチルアクリレートに由来する繰り返し単位を有するものであるものが好ましい。
【0072】
複合ゴム中のポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分の比率は、前者が1〜99重量%、後者が99〜1重量%であるものが好ましい。ポリオルガノシロキサンゴム成分の割合が99重量%を超えると組成物からの成形品の表面外観が悪化し、ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分の割合が99重量%を超えると耐衝撃性および曲げ性、特に低温における耐衝撃性および曲げ性の発現が不十分となる傾向にある。
【0073】
《極性基(x)を有するビニル系単量体化合物または重合体》
ポリオルガノシロキサン系グラフト共重合体は、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキル(メタ)アクリレートゴムとからなる複合ゴムに、極性基(x)を有するビニル系単量体または重合体をグラフト重合させた構造をもつものである。
【0074】
置換基(x)としては、例えば、ハロゲン基(フッ素基、塩素基、臭素基およびヨウ素基)、ヒドロキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、グリシジル基およびカルボニル基等を挙げることができる。これらの基は、1種単独でもよいし、2種以上組み合わせてもよい。
【0075】
極性基(x)を有するビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物;メチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸エステル;メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸等の有機酸;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物などの各種ビニル系単量体の1個以上の水素基を極性基(x)で置換したビニル系単量体を挙げることができる。これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて、グラフト重合に使用することができる。また、これらに加えて、極性基(x)を有さないビニル系単量体、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物;メチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸エステル;メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸等の有機酸;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物などを同時にグラフト重合に使用してもよい。
【0076】
極性基(x)を有するビニル系重合体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物;メチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸エステル;メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸等の有機酸;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物などの各種ビニル系単量体の単独重合体または共重合体の1個以上の水素基を極性基(x)で置換したビニル系重合体を挙げることができる。これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて、グラフト重合に使用することができる。
【0077】
極性基(x)を有するビニル系重合体としては、極性基(x)を有するビニル系単量体のみ、または、極性基(x)を有するビニル系単量体と極性基(x)を有さないビニル系単量体をシリコン/アクリル複合ゴムに順次グラフト重合していくことによって、結果的に極性基(x)を有するビニル系単量体がグラフト重合された構造をもつことになってもよい。極性基(x)を有するビニル系単量体および極性基(x)を有さないビニル系単量体としては、上記のものを使用することができる。ただし、グラフト重合可能な組合せに限られることはいうまでもない。
【0078】
なお、ポリオルガノシロキサン系グラフト共重合体の平均粒子径の測定は、準弾性光散乱法(測定装置、MALVERN SYSTEM 4600、測定温度25℃、散乱角90°)を用い、ラテックスを水で希釈したものを試料液として測定できる。
【0079】
グラフト重合においては、グラフト共重合体の枝にあたる成分(ここでは極性基(x)を有するビニル系単量体または重合体に由来する成分)が幹成分(ここではポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキル(メタ)アクリレートとの複合ゴム)にグラフトせずに枝成分だけで重合して得られる、所謂フリーポリマーも副生し、グラフト共重合体とフリーポリマーの混合物として得られるが、本発明においてはこの両者を合わせてグラフト共重合体という。
【0080】
〈ポリオレフィン(e)〉
上記ポリオレフィン(e)は、特に限定されないが、具体的には、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィンの単独重合体、これらのα−オレフィンの2種以上からなる共重合体、またはこれらのα−オレフィンと他の共重合性単量体との共重合体からなるポリオレフィン樹脂等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのポリオレフィンの中でも、ポリエチレンが耐ガソリン性により優れる点から好ましい。
【0081】
また、上記ポリオレフィン(e)は極性基(y)を有する。
一般的にポリオレフィンは低極性であるのに対し、上記芳香族ポリエステル(a)は極性が高いため、極性基を含有しないポリオレフィン(e´)を用いると、本発明の組成物の製造時または製造後において本発明の組成物を長時間溶融させた状態にしたとき、芳香族ポリエステル(a)と極性基を含有しないポリオレフィン(e´)とが分離し、再度撹拌しても十分に混合できず、接着性が低下する場合がある。一方、極性基(y)を有するポリオレフィン(e)を用いたときは、長時間溶融後にも分離せず、接着性を維持できる。
【0082】
上記極性基(y)は、特に限定されず、具体的には、例えば、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、アミノ基、イソシアネート基、ヒドロキシ基、ニトロ基、スルフォン基等が挙げられる。上記ポリオレフィン(e)は、これらの極性基の1種のみ含有してもよいし、これらの極性基から2種以上を有してもよく、ポリオレフィン(e)1分子に1個または2個以上の極性基(y)を含有してもよい。
【0083】
上記極性基としては、極性物との接着性に優れる点から、エポキシ基、カルボキシ基、酸無水物基からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、エポキシ基がより好ましい。
【0084】
また、上記ポリオレフィン(e)は、エポキシ基と、カルボキシ基および/または酸無水物基とを有するのが好ましい。
【0085】
また、上記カルボキシ基がマレイン酸に由来するカルボキシ基であり、上記酸無水物基が無水マレイン酸基であるのが好ましい。
【0086】
上記極性基(y)を有するポリオレフィン(e)は、例えば、オレフィンと極性基を有する重合性単量体(例えば、グリシジルメタクリレート)とを共重合する方法等により得ることができる。また、市販品を用いてもよい。
【0087】
上記ポリオレフィン(e)の含有量は、上記芳香族ポリエステル(a)および上記ポリオレフィン(e)の合計100質量部に対して5〜40質量部である。本発明の組成物は、ポリオレフィン(e)をこの範囲で含有するので、ポリオレフィンに対する接着性と、金属およびPVCに対する接着性とのバランスに優れ、耐ガソリン性にも優れる。これらの特性により優れる点から、上記ポリオレフィン(e)の含有量は、上記芳香族ポリエステル(a)および上記ポリオレフィン(e)の合計100質量部に対して10〜40質量部がより好ましく、20〜40質量部が更に好ましい。
【0088】
本発明の組成物は、上記ポリオレフィン(e)を特定の割合で含有するので、PVCに対する接着性を維持しつつ、ポリオレフィンに対する接着性を向上することができる。特に、上記極性基(y)を有するポリオレフィン(e)を用いると、長時間溶融後にも分離せず、接着性を維持できる。
【0089】
〈その他含有してよい成分〉
本発明の組成物は、本発明の目的を損わない範囲で、必要に応じて補強剤、老化防止剤、酸化防止剤、充填剤、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等の他滑剤、ワックス類、着色剤、結晶化促進剤、補強繊維等の各種添加剤を配合してもよい。
【0090】
[製造方法]
本発明の組成物の製造方法は、特に限定されず、上記芳香族ポリエステル(a)、上記タッキファイヤー(b)、上記ポリオール化合物(c)、上記コアシェル粒子(d)、所望により上記ポリオレフィン(e)および各種添加剤を、例えばロール、ニーダ、押出し機、万能攪拌機等により混合し製造することができる。
【0091】
上述した本発明の組成物は、成形性に優れる点から、190℃における粘度が10〜500Pa・sであるのが好ましく、10〜100Pa・sであるのがより好ましい。
また、圧力が5MPa未満、好ましくは0.2〜1.0MPa、より好ましくは0.3〜0.5MPaである条件で、吐出成型が可能な成型用樹脂組成物であることが好ましい。
ここで、上記吐出成型は、120〜230℃の範囲で行われることが好ましく、180〜210℃の範囲で行われることがより好ましい。この温度範囲であれば、上記吐出成型に用いる成型用樹脂組成物の安定性が向上し、更に溶融時の粘度が上述した範囲内となる理由から好ましい。
また、圧力とは、上記吐出成型時において、吐出口から上記成型用樹脂組成物を吐出させる際の圧力のことである。
【0092】
上述した本発明の組成物は、ポリ塩化ビニルに対する接着性を保持しながら、適当な硬度を有し、低温(−40℃)での柔軟性(低温曲げ性)に優れ、しかも長時間の溶融中に成分の分離が起こらず、ホットメルト材として好適に用いることができる。
また、ポリオレフィン(e)を配合したときは、さらに、ポリオレフィンに対しても接着性を有する。
【0093】
本発明の組成物は、上述したような優れた特性を有していることから、コネクタ・ハーネス等の端部の封止剤・防水保護剤として有用であり、また、ハーネスに接続されるコードに沿って薄く成型することもできる。さらに、ポッティング材(電気回路を衝撃、振動もしくは湿気等から守るために、電気回路全体に埋め込まれる充填材)としても有用である。
【0094】
[成型用樹脂組成物の用途・使用方法]
本発明の組成物を用いた防水保護被覆の製造方法は、上述した本発明の成型用樹脂組成物を用いて電子機器端部に防水保護被覆を形成する防水保護被覆の製造方法であって、上記本発明の成型用樹脂組成物を溶融する溶融工程と、上記溶融工程後の溶融した成型用樹脂組成物を電子機器端部に5MPa未満の圧力で吐出成型または塗布する吐出成型・塗布工程とを具備することを特徴とする防水保護被覆の製造方法である。ここで、上記吐出成型時または塗布時の圧力は、0.2〜1.0MPaであることが好ましく、0.3〜0.5MPaであることがより好ましい。
【0095】
上記溶融工程は、本発明の組成物を溶融する工程であり、具体的には、上記成型性樹脂組成物を160〜230℃、好ましくは180〜210℃に加熱して溶融させる工程である。
【0096】
上記吐出成型・塗布工程は、上記溶融工程により溶融した成型用樹脂組成物を電子機器端部に5MPa未満の圧力で吐出成型または塗布する工程である。具体的には、上記吐出成型は、溶融した成型用樹脂組成物を、電子機器端部を入れたモールド内に、5MPa未満、好ましくは1〜4MPaの圧力で、ホットメルトガン、ホットメルトアプリケータ等を用いて吐出し、上記モールド内で成型する工程である。またはホットメルトガン、ホットメルトアプリケータで吐出し、ポッティングする工程である。
【0097】
また、上記塗布は溶融した成型用樹脂組成物を、電子機器端部に、5MPa未満、好ましくは1〜4MPaの圧力で、ホットメルトガンスプレー等を用いて塗布する工程である。一般的な射出成型では、圧力が40〜120MPa、溶融温度が250〜300℃と高いのに対し、本発明の組成物を用いた防水保護被覆の製造方法を用いれば、圧力が0.3〜0.5MPa、溶融温度が180〜230℃で使用できるため非常に優れている。
【0098】
したがって、上述した製造方法を用いれば、このような低温・低圧力での成型が可能であるため、図1の(A)〜(D)に示すように、はく離部1を有するポリオレフィン被覆導線2の封止は、アルミ製のモールド3およびゴムパッキン4を用いた製造装置の使用が可能となり、成型上のコストダウンも図られるため好ましい。
具体的には、(C)で示すモールドの形状(アルミ製のモールド3とゴムパッキン4で密閉された状態)で、注入部5(矢印方向)からホットメルト(HM)材料を注入し、上記HM材料を注入経路6に通し、HM成型用鋳型7に移行させる。その後、上記HM材料をHM成型用鋳型7にて成型させ、脱型させることで(D)で示す成型部8を有する成型品の形状となる。
【0099】
また、低温・低圧での成型が可能であるため、基板上の電子部品等を傷つけることなく成型できるため、基板全体を防水することができ、かつ、一液型のシリコン樹脂組成物等のように基板および電子部品をケースで覆う必要がないため、製品のコストダウンも図られるため好ましい。
【0100】
また、2液型のウレタンやエポキシの成型は加熱等を要し、さらに硬化には15〜120分程かかるのに対し、本発明の組成物を用いれば、成型後の硬化時間が自然冷却で数秒〜数十秒で終了し、数分以内にモールドより脱型することが可能であるため好ましい。
具体的には、本発明の組成物を用いれば、成型するためのHM材料の注入時間が10秒で終了し、自然冷却で1分以内にモールドより脱型することが可能であるため好ましい。
さらに、脱型後の変形がなく、養生の必要がないことから生産性にも優れている。
【0101】
上記電子機器端部としては、具体的には、例えば、コネクタ・ハーネス等の端部、コードとコードの接続部、電子機器の基板等が挙げられ、その材料は金属、PVC、ポリオレフィン等を使用している物が多い。
【0102】
したがって、上記電子機器端部に形成される防水保護被覆は、金属、PVCおよびポリオレフィンとの密着性に優れていることが、上記したコネクタ・ハーネス等の端部、コードとコードの接続部、電子機器の基板等に用いることが可能となる理由から好ましい。
【0103】
特に、アース部分等から水分が浸入してくるような自動車に用いられているハーネスにおいては、図2のハーネス20に示すように、上述した方法により製造される防水保護被覆を成型部21に用いれば、上記成型部21を介して接合部22と接合されている導線23を途中で切断したり大気開放部等を設けたりする作業の必要性がないため、デザイン等の規制も受けず、低コストで量産性に優れているため好ましい。
【実施例】
【0104】
以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0105】
〈製造方法〉
第1表上段に示す各成分を、第1表上段で各実施例または各比較例について示される組成(質量部)で、ニーダを用いて混合し、実施例1〜6および比較例1〜12に対応する成型用樹脂組成物を製造した。
【0106】
【表1】

【0107】
第1表上段において、各成分は以下のとおりである。
《芳香族ポリエステル(a)》
・ポリエステルA:ハイトレル 4057(東レ・デュポン社製)
・ポリエステルC:エリーテル UE3510(ユニチカ社製)
・ポリエステルD:エリーテル UE3320(ユニチカ社製)
なお、ポリエステルA、CおよびDの酸成分およびヒドロキシ基成分のモル比を第2表に示す。
【0108】
【表2】

【0109】
《タッキファイヤー(b)》
・タッキファイヤー1:パインクリスタル D−6011(ロジン系タッキファイヤー、荒川化学工業社製)
《ポリオール化合物(c)》
・ポリオール化合物1:プラクセル CD220(ポリカーボネートジオール、ダイセル化学工業社製)
《コアシェル粒子(d)》
・コアシェル粒子1:メタブレンSRK200(シリコン/アクリル複合ゴムに極性基を有するビニル系重合体をグラフトしたコアシェル粒子、三菱レイヨン社製)
《ポリオレフィン(e)》
・PE+GMA:ボンドファースト7L(エポキシ基を有するポリエチレン、住友化学社製)
・PE+GMA+MA:アドマーSF−715(エポキシ基とマレイン酸基とを有するポリエチレン、三井化学社製)
【0110】
《可塑剤》
・可塑剤1:テトラックス 4T(ポリイソブチレン、新日本石油社製)
・可塑剤2:LIR−30(液状ポリイソプレン、クラレ社製)
・可塑剤3:DOP(フタル酸ジオクチル、三協化学社製)
《ジエン系ゴム》
・NBR1:Nipol DN003(極高ニトリルタイプのNBR、日本ゼオン社製)
《老化防止剤》
・老化防止剤1:イルガノックス1010(ヒンダードフェノール系酸化防止剤、チバスペシャルティケミカルズ社製)
【0111】
〈試験方法〉
実施例1〜6および比較例1〜12において、以下に記載する方法により、製造した成型用樹脂組成物の特性評価を行った。評価結果は、第1表下段に示す。
【0112】
1.粘度
粘度は、製造した成型用樹脂組成物を190℃にて30分間溶融した後、B型粘度計(東京計器社製)を用い、3号ローターを用いて回転させ、10rpmにおいて、JIS K 7117−1:1999に準じて、粘度を測定し、評価を行った。
粘度が、1〜50万mPa・sの範囲内にあるものを「○」、この範囲内にないものを「×」と評価した。
なお、粘度がこの範囲内にないものについては、以下の試験を行わなかった。
【0113】
2.分離
分離は、製造した成形用樹脂組成物を200℃で72時間放置することで老化させた成形用樹脂組成物を冷却固化させたものについて、各組成成分の混合状態を目視により確認し、評価を行った。
混合状態が、相溶している状態であるものを「○」、分離している状態であるものを「×」と評価した。
【0114】
3.ブリード
ブリードは、製造した成型用樹脂組成物を20℃恒温室中に30日間静置し、組成物表面へのブリードアウトの発生を目視により確認し、評価を行った。
ブリードが発生しなかったものを「○」、ブリードが発生したものを「×」と評価した。
【0115】
4.硬度
硬度は、製造した成型用組成物を冷却固化させたもの硬度を、A型ショア硬度計を用いて、JIS Z 2246:2000に準拠して測定し、評価を行った。
ショア硬度が80〜95の範囲内にあるものを「○」、この範囲内にないものを「×」と評価した。
【0116】
5.柔軟性
柔軟性は、製造した各成型用樹脂組成物を140℃熱プレスにて3mmの厚さに成型し、25mm×100mmに切断することによって試験片を作製した後に、室温(約25℃)または低温(約−40℃)において、試験片を中心で折り曲げる(試験片の一端を他端に貼り合わせる)180°曲げ試験をすることによって評価を行った。
試験片が折れなかったものを「○」と評価し、試験片が折れたものを「×」と評価した。
【0117】
6.接着性
(1)ポリ塩化ビニル
ポリ塩化ビニル(PVC)に対する接着性は、JIS K 6256:1999に準じて180度はく離試験を行い、評価をした。
3mmの厚さのPVC(商品名:タフニール、タカフジ社製)を25mm×150mmに切り出しPVC試験片30とした。
PVC試験片30に、製造した成型用樹脂組成物31を、モールドを用いて図3(A)に示すように成型してPVC接着性試験サンプルを作成した。
次に、図3(B)に示すように、PVC試験片30と成型用樹脂組成物31とがはく離するように、それぞれに対して2つの矢印方向に引張り応力を加える180度はく離試験を、JIS K 6256:1999に準じて行った。
PVC試験片30と成型用樹脂組成物31とがはく離し始めたときの引張応力(最大引張応力)を測定した。このとき、引張り速度は、50mm/minとした。
最大引張応力が、50N/25mm以上であるものを「○」と評価し、50N/25mm未満であるものを「×」と評価した。
(2)プリプロピレン
ポリプロピレン(PP)に対する接着性は、JIS K 6256:1999に準じて90度はく離試験を行い、評価をした。
3mmの厚さのコロナ表面処理をしたポリプロピレン(新神戸電機社製:PP−N−BN)を25mm×150mmに切り出しPP試験片50とした。
PP試験片50に、製造した成型用樹脂組成物51を、モールドを用いて図4(A)に示すように成型してPP接着性試験サンプルを作成した。
次に、図4(B)に示すように、PP試験片50と成型用樹脂組成物51とがはく離するように、PP試験片50に対して矢印方向に引張り応力を加える90度はく離試験を、JIS K 6256:1999に準じて行った。
PP試験片50と成型用樹脂組成物51とがはく離し始めたときの引張応力(最大引張応力)を測定した。このとき、引張り速度は、50mm/minとした。
最大引張応力が、50N/25mm以上であるものを「○」、50N/25mm未満であるものを「×」と評価した。
【0118】
7.成型性
PVC被覆コードを図1に示すアルミ製のモールドおよびゴムパッキンでの製造装置を用いて成型を行った。
(1)モールド注入性
ホットメルトアプリケータを用い、エアー圧0.4MPaで、得られた成型用樹脂組成物を注入し、規定の形に成型されるまでの注入時間を測定した。注入時間が10秒以内であるものを「○」とした。
(2)脱型性
上記モールドを用い、得られた成型用樹脂組成物を注入後、形が変形しないようにモールドから脱型できるまでの時間を測定した。注入後、1分以内にモールドから脱型できるものを「○」とした。
【0119】
8.総合評価
本発明の課題を解決している成型用樹脂組成物については「○」、解決していないものについては「×」と評価した。
なお、実施例1〜3および比較例1〜6では、本発明の課題のうち、接着性については、ポリ塩化ビニル(PVC)に対する接着性のみが問題となり、ポリオレフィン(ポリプロピレン(PP))に対する接着性は、その評価結果のいかんに関わらず、問題とはならない。実施例1〜3および比較例1〜6では、ポリオレフィンに対する接着性は課題ではないからである。一方、実施例4〜6および比較例7〜12では、本発明の課題のうち、接着性については、ポリ塩化ビニル(PVC)に対する接着性と、ポリオレフィン(ポリプロピレン(PP))に対する接着性との両方が問題となる。接着性については、ポリ塩化ビニル(PVC)に対する接着性と、ポリオレフィン(ポリプロピレン(PP))に対する接着性との両方が課題であるからである。
【0120】
〈評価総括〉
実施例1〜3の成型用樹脂組成物は、粘度、硬度、分離、ブリード、硬度、柔軟性、接着性(PVCに対する接着性)および成型性がよく、本発明の課題(ポリオレフィン接着性を含まない。)を解決するものであった。一方、比較例1、2および5は、低温(−40℃)での柔軟性が悪く、また、比較例3、4は、低温での柔軟性は良いものの、硬度が十分でなく、本発明の課題を解決するものではなかった。また、比較例6は、粘度が高すぎたため、それ以降の試験を実施するには及ばざるものであった。
実施例4〜6の成型用樹脂組成物は、粘度、硬度、分離、ブリード、硬度、柔軟性、接着性(PVCおよびPPに対する接着性)および成型性がよく、本発明の課題(ポリオレフィン接着性を含む。)を解決するものであった。一方、比較例7、8および11は、低温(−40℃)での柔軟性が悪く、また、比較例9、10は、低温での柔軟性は良いものの、硬度が十分でなく、本発明の課題を解決するものではなかった。また、比較例12は、粘度が高すぎたため、それ以降の試験を実施するには及ばざるものであった。
【符号の説明】
【0121】
1 はく離部
2 ポリオレフィン被覆導線
3 アルミ製のモールド
4 ゴムパッキン
5 注入部
6 注入経路
7 HM成型用鋳型
8 成型部
20 ハーネス
21 成型部
22 接合部
23 導線
30 PVC試験片
31 成型用樹脂組成物
50 PP試験片
51 成型用樹脂組成物
60 ハーネス
61 かしめ部
62 接合部
63 導線
64 大気開放部
70 コネクタ
71 成型部
72 接合部
73 導線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエステル(a)と、タッキファイヤー(b)と、1分子中にヒドロキシ基を2個以上有するポリオール化合物(c)と、コアシェル粒子(d)とを含有する成型用樹脂組成物であって、該コアシェル粒子(d)がシリコン/アクリル複合ゴムからなるコアと極性基(x)を有するビニル系化合物からなるシェルとからなり、かつ、該芳香族ポリエステル(a)100質量部に対して該コアシェル粒子(d)1〜50質量部を含有する成型用樹脂組成物。
【請求項2】
前記コアシェル粒子(d)の平均粒径が0.1μm〜10μmである、請求項1に記載の成型用樹脂組成物。
【請求項3】
前記コアシェル粒子(d)が、ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とが分離できないように相互に絡み合った構造をもち、かつポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分との質量比(ポリオルガノシロキサンゴム成分/ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分)が99/1〜1/99であるシリコン/アクリル複合ゴムに、極性基(x)を有するビニル系単量体1種類以上がグラフト重合された構造をもつ、請求項1または2に記載の成型用樹脂組成物。
【請求項4】
前記コアシェル粒子(d)が、ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とが分離できないように相互に絡み合った構造をもち、かつポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分との質量比(ポリオルガノシロキサンゴム成分/ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分)が99/1〜1/99であるシリコン/アクリル複合ゴムに、極性基(x)を有するビニル系重合体1種類以上がグラフト重合された構造をもつ、請求項1または2に記載の成型用樹脂組成物。
【請求項5】
前記コアシェル粒子(d)が、ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とが分離できないように相互に絡み合った構造をもち、かつポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分との質量比(ポリオルガノシロキサンゴム成分/ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分)が99/1〜1/99であるシリコン/アクリル複合ゴムに、極性基(x)を有するビニル系単量体を包含するビニル系単量体をグラフト重合させた構造をもつ、請求項1または2に記載の成型用樹脂組成物。
【請求項6】
前記コアシェル粒子(d)が、ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とが分離できないように相互に絡み合った構造をもち、かつポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分との質量比(ポリオルガノシロキサンゴム成分/ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分)が99/1〜1/99であるシリコン/アクリル複合ゴムに、極性基(x)を有するビニル系単量体を包含するビニル系単量体をグラフト重合させた後、最終段に極性基(x)を含有しないビニル系単量体をグラフト重合させた構造をもつ、請求項1または2に記載の成型用樹脂組成物。
【請求項7】
前記極性基(x)が、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、グリシジル基およびカルボニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
【請求項8】
前記コアシェル粒子がメタブレン(登録商標)SRK200(三菱レイヨン社製)である、請求項1に記載の成型用樹脂組成物。
【請求項9】
さらに、極性基(y)を有するポリオレフィン(e)を含有する、請求項1〜8のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
【請求項10】
前記極性基(y)が、エポキシ基、カルボキシル基および酸無水物基からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である、請求項9に記載の成型用樹脂組成物。
【請求項11】
前記カルボキシ基がマレイン酸基に由来するカルボキシ基である、請求項10に記載の成型用樹脂組成物。
【請求項12】
前記酸無水物基が無水マレイン酸基である、請求項10に記載の成型用樹脂組成物。
【請求項13】
前記タッキファイヤー(b)を前記芳香族ポリエステル(a)100質量部に対して1〜50質量部含有する、請求項1〜12のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
【請求項14】
前記ポリオール化合物(b)を前記芳香族ポリエステル(a)100質量部に対して0.5〜50質量部含有する、請求項1〜12のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
【請求項15】
190℃における粘度が10〜500Pa・sである、請求項1〜14のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
【請求項16】
前記芳香族ポリエステル(a)が、テレフタル酸およびイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む酸成分と、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオールおよびポリテトラメチレンエーテルグリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むヒドロキシ基成分とを反応させて得られるポリエステルである、請求項1〜15のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
【請求項17】
前記芳香族ポリエステル(a)が、テレフタル酸およびイソフタル酸を含有する酸成分と、1,4−ブタンジールおよびネオペンチルグリコールを含有するヒドロキシ基成分とを反応させて得られるポリエステルAと、テレフタル酸およびイソフタル酸を含有する酸成分と、エチレングリコール、ネオペンチルグリコールおよび1,4−ブタンジオールとを含有するヒドロキシ基成分とを反応させて得られるポリエステルCとを含有する、請求項1〜15のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
【請求項18】
前記芳香族ポリエステル(a)が、さらに、テレフタル酸およびイソフタル酸を含有する酸成分と、エチレングリコールおよびネオペンチルグリコールを含有するヒドロキシ基成分とを反応させて得られるポリエステルDを含有する、請求項17に記載の成型用樹脂組成物。
【請求項19】
前記タッキファイヤー(b)がロジン系タッキファイヤーである、請求項1〜18のいずれかに記載の成型用樹脂組成物。
【請求項20】
前記ロジン系タッキファイヤーがロジンジオールである、請求項19に記載の成型用樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−148881(P2011−148881A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10116(P2010−10116)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】