説明

低温硬化性組成物

【課題】200℃以下程度の比較的低温で硬化可能な低温硬化性組成物を提供する。
【解決手段】下記式(1)に示すトリアザ環化合物、フェノール化合物、及びJISK7234で測定した軟化温度が60℃以上の固体状のエポキシ樹脂を含有する低温硬化性組成物を提供する。
【化1】


前記式(1)中、Rは炭素数10以下の有機基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温硬化性組成物に関する。具体的には、本発明はトリアザ環化合物を含有する低温硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ベンゾオキサジンは開環重合して熱硬化する化合物として知られており、ベンゾオキサジン及びベンゾオキサジン重合体に関する技術や、具体的な製造方法として、当該ベンゾオキサジンがフェノール成分、アミノ成分、及びホルムアルデヒドから合成されることが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、ベンゾオキサジンの他の製造方法として、アニリンとホルムアルデヒドとを反応させることにより、トリアザ環を有する化合物(1,3,5-triphenylhexahydro-1,3,5-triazine、以下、分子内にヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン環を有する化合物を「トリアザ環化合物」と略称する。)を合成し、続いてこのトリアザ環化合物とビスフェノールAとを反応させ、ベンゾオキサジンとして代表的なベンゾオキサジンモノマー(6,6'-(1-methylethyliden)bis(3,4-dihydro-3-phenyl-2H-1,3-benzoxazine)、以下、B-aと略称する。)を得る技術についての開示がなされている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
上記B−a等のベンゾオキサジンは、重合体やこれを用いた成形体が高い耐熱性を有するという利点を有している。
【0005】
【特許文献1】特開昭49−47378号公報
【非特許文献1】Zdenka Brunovska, Macromol. Chem. Phys. Vol.200, p.1745-1752 (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えばエポキシ樹脂等の汎用の熱硬化性樹脂とベンゾオキサジンとを含む組成物を熱硬化させる場合、ベンゾオキサジンの硬化温度が200℃以上と高温であるため、硬化工程においてエポキシ樹脂が劣化したり分解したりするという問題がある。
【0007】
そこで上述した従来の事情に鑑み、本発明においては、200℃以下の比較的低温条件で硬化可能な、いわゆる低温硬化性組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来技術の課題に対して鋭意研究を行った結果、トリアザ環化合物、フェノール化合物、及びエポキシ樹脂を含む組成物が、200℃以下の温度で低温硬化させることができることを見出し、本発明を完成した。
請求項1の発明においては、下記式(1)に示すトリアザ環化合物、フェノール化合物、及び常温で固体状のエポキシ樹脂を含有する低温硬化性組成物を提供する。
なお、常温とは20℃±15℃であり、固体状とは、JISK7234で測定した軟化温度が60℃以上と定義する。
【0009】
【化1】

【0010】
前記式(1)中、Rは炭素数10以下の有機基である。
【0011】
請求項2の発明においては、前記式(1)中のRがフェニル基である請求項1に記載の低温硬化性組成物を提供する。
【0012】
請求項3の発明においては、前記フェノール化合物が、レゾルシノールである請求項1に記載の低温硬化性組成物を提供する。
【0013】
請求項4の発明においては、上記式(1)中のRが、メチル、プロピル、ブチル、フルフリル、アリル、フェニルよりなる群から選択されるいずれかの有機基であり、シアノ基、イソシアネート基、ビニル基からなる群から選択される少なくともいずれかの活性水素を持たない官能基を含んでいてもよい有機基である請求項1に記載の低温硬化性組成物を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来技術において代表的なベンゾオキサジン(上記B−a)よりなる組成物に比較して飛躍的に低温条件下で硬化可能な低温硬化性組成物が提供される。
また、本発明の低温硬化性組成物を熱硬化することにより、強度の高い成形体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、本実施形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
本実施形態における低温硬化性組成物は、下記式(1)に示すトリアザ環化合物、フェノール化合物、及び常温で固体状のエポキシ樹脂を含有する。
本実施の形態においては、常温で固体状のエポキシ樹脂を用いる点に特徴を有している。
ここで、常温とは20℃±15℃を言うものとする。
また、固体状とは、流動性が無いもののことを言い、具体的には、JISK7234で測定した軟化温度が60度以上のものである。
【0017】
【化2】

【0018】
前記式(1)中、Rは炭素数10以下の有機基である。
【0019】
本実施形態における低温硬化性組成物は、上記のようにJISK7234で測定した軟化温度が60℃以上の固体状のエポキシ樹脂を含有している。軟化温度が60℃以上の固体状のエポキシ樹脂は、常温(20℃±15℃)で固体状であり、かつ、軟化点温度以上に加熱すると低粘度の液状となる性質を有する。そのため、低温硬化性組成物を、軟化温度が60℃以上の固体状のエポキシ樹脂の軟化温度以上に加熱すると、1000Pa・s以上の低粘度の液状となり、容易に注入成形等を行うことができるようになる。
すなわち、溶剤を用いずに低温硬化性組成物を溶融混合でき、環境上望ましく、また、溶剤の揮発による体積収縮が生じないため、寸法精度を高くすることができる。
また、本実施形態における低温硬化性組成物は、200℃以下で硬化が進行し、200℃程度で確実に硬化するため、組成物を構成する化合物の劣化や分解が防止できる。
以下、本実施の形態における低温硬化性組成物を構成する化合物について、詳細に説明する。
【0020】
〔トリアザ環化合物〕
トリアザ環化合物は、下記式(1)により示される。
【0021】
【化3】

【0022】
式(1)中、Rは、炭素数10以下の有機基である。
Rとしては、例えば、炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基等の飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐の炭化水素基;炭素数3〜10のシクロアルキル基等の飽和又は不飽和の環状炭化水素基;炭素数6〜10の置換又は未置換の芳香族炭化水素基;炭素数6〜10の窒素、酸素、硫黄等のヘテロ原子を含む置換又は未置換のヘテロ芳香環基等が挙げられる。
具体的には、Rは、メチル基、プロピル基、ブチル基、フルフリル基、アリル基、フェニル基よりなる群から選択されるいずれかの有機基とすることができる。これらは、シアノ基、イソシアネート基、ビニル基からなる群から選択される少なくともいずれかの活性水素を持たない官能基を含んでいてもよい。
【0023】
前記式(1)に示すトリアザ環化合物は、モノアミンとホルムアルデヒドとの反応により得られる。
モノアミンとしては、炭素数10以下の有機基のアミンであればよく、特に限定されるものではない。例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、アリルアミン、フルフリルアミン、アニリン、メチルアニリン、アミノフェニルアセチレン、及びアミノベンゾニトリル等が挙げられる。これらのうち、耐熱性に優れ、かつ低コストであるという観点から、アニリンが好ましい。
【0024】
前記式(1)に示すトリアザ環化合物の合成方法は、従来公知の方法を適用でき、特に限定されるものではないが、例えば、THF(テトラヒドロフラン)、トルエン等の溶媒中で加熱しながらモノアミンとホルムアルデヒドとを反応させる方法が挙げられる。
【0025】
〔フェノール化合物〕
フェノール化合物とは、フェノール基を分子中に含む化合物を意味する。
フェノール化合物としては、例えば、フェノール、クレゾール、及びキシレノール等のモノフェノール化合物;ハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAF、及びビスフェノールS等のビスフェノール化合物;各種ノボラック樹脂;フェノールアラルキル樹脂等が挙げられる。
上記の他、一つのベンゼン環に2つ以上のフェノール性水酸基を有するレゾルシノール、カテコール、ハイドロキノン、ピロガロールや、ナフタレン環に2つ以上のフェノール性水酸基を有するジヒドロキシナフタレンが挙げられる。
これらのうち、低温度で硬化可能な組成物が得られるという観点から、レゾルシノールが特に好ましい。
【0026】
〔エポキシ樹脂〕
エポキシ樹脂としては、常温で固体状のエポキシ樹脂を適用する。
一般的にエポキシ樹脂としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(ビスフェノールA型、ビスフェノールF型)、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、高分子型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂等があるが、本実施形態における低温硬化性樹脂組成物は、常温で固体状のエポキシ樹脂を含有している。
常温とは、(20℃±15℃)であるものとする。
固体状とは、流動性が無いことを意味する。具体的には、JISK7234で測定した軟化温度が60度以上であることを意味する。
常温で液体状のエポキシ樹脂を用いた場合、他の成分(トリアザ環化合物、フェノール化合物)が、徐々にエポキシ樹脂中へと溶解した状態となって反応進行が起こる。エポキシ樹脂が固体の場合には、3成分は、互いに混合せず、目的とする低温硬化性組成物のポットライフが保たれる。すなわち、反応の進行を抑制でき、組成物としての安定性が高くなる。
常温で固体状のエポキシとしては、多官能エポキシ樹脂や高分子エポキシ樹脂があり、具体的には、トリシクロデカンタイプの高分子エポキシ樹脂として、EPICLON EXA7200
(大日本インキ(株)製、商品名)、ナフタレン環タイプの多官能エポキシ樹脂として、EPICLON EXA9900(大日本インキ(株)製、商品名)、ノボラックタイプの高分子エポキシ樹脂として、NC-3000FH(日本化薬(株)製、商品名)等が挙げられる。
【0027】
本実施形態の低温硬化性組成物において、予想される上述した3成分の硬化機構の一例を、以下のスキーム1に具体例を挙げて説明する。
なお、エポキシ樹脂は固体状であるものとする。
(スキーム1)
【0028】
【化4】

【0029】
上記(スキーム1)における低温硬化性組成物は、上記式(1)に示すトリアザ環化合物と、下記式(2)に示すフェノール化合物と、下記式(3)に示すエポキシ樹脂とを含有する。
【0030】
【化5】

【0031】
前記式(2)中、R2は、下記群Aから選択される基である。
(群A)
【0032】
【化6】

【0033】
また、上記式(2)に示すビスフェノールに代えて、フェノール性水酸基が同一のベンゼン環についたレゾルシノール等の化合物を用いた場合においても、同様の反応が進行する。
【0034】
【化7】

【0035】
前記式(3)中、R3は、任意に選択できるが、エポキシ樹脂が固体状であることが必要である。
【0036】
上記式(1)に示すトリアザ環化合物は開環した後、上記式(2)に示すフェノール化合物のベンゼン環へ付加すると考えられる。また、その際に生成する活性化されたアミノ基と上記式(3)に示すエポキシ樹脂のエポキシ基とが反応すると考えられる。
すなわち、本実施形態における低温硬化性組成物を熱硬化することにより、上記(スキーム1)に示したような重合体が得られるものと考えられる。
【0037】
本実施形態の低温硬化性組成物においては、式(1)に示すトリアザ環化合物1モル当量に対するフェノール官能基の当量換算で、フェノール官能基の当量は、1〜5モル当量であることが好ましく、2〜4モル当量であることがより好ましいため、当該範囲を満足するように、フェノール化合物を混合することが好ましい。
フェノール官能基が1モル当量より少ない場合には、式(1)に示すトリアザ環が開環しないので、低温硬化性組成物が硬化しないおそれがある。
一方、フェノール官能基が5モル当量より多い場合には、架橋密度が低下することにより、ガラス転移点や耐熱分解性等の、耐熱物性が低下するおそれがある。
【0038】
本実施形態の低温硬化性組成物においては、式(1)に示すトリアザ環化合物1モル当量に対するエポキシ官能基の当量換算で、エポキシ官能基の当量は、1〜5モル当量であることが好ましく、2〜4モル当量であることがより好ましいため、当該範囲を満足するように、エポキシ樹脂を混合することが好ましい。
エポキシ官能基が1モル当量より少ない場合には、式(1)に示すトリアザ環が開環して生じたアミノ基と反応するエポキシ基が不足し、架橋密度が低下することにより、ガラス転移点や耐熱分解性等の耐熱物性が低下するおそれがある。
一方、エポキシ官能基が5モル当量より多い場合には、反応に寄与しないエポキシ基が残余し、耐熱物性が低下するおそれがある。
【0039】
〔製造方法〕
本実施形態における低温硬化性組成物は、上記3成分を機械的に数分間混合することにより作製できる。作製工程は、必要に応じて3成分を溶媒中で混合して行ってもよい。
溶媒としては、特に限定されるものではなく、従来公知のものを用いることができるが、例えば、トルエン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
上記3成分の混合工程においては、各種混練機を使用して行ってもよい。混練機としては、例えば、石臼式らいかい機、ボールミル、ロールミル、ニーダー、スクリュー式混練機等が挙げられる。
溶剤の揮発を抑制する観点からは、溶媒成分を加えずに上記3成分を混合することが好ましい。
【0040】
〔成形体〕
本実施形態における低温硬化性組成物は、従来公知の方法により成形加工することができる。
例えば、低温硬化性組成物を120〜200℃で30分〜2時間加熱溶融した後に所定の成形処理を施すことにより成形体が得られる。金型等を用いて所望の形状に加工してもよい。
本実施の形態における低温硬化性組成物を用いた成形体は、低温硬化性組成物の加熱硬化機構(スキーム1)に示したように、上記式(1)のトリアザ環化合物とフェノール化合物とが最初に反応し、その結果生じるアミノ基とエポキシ樹脂のエポキシ基とが次いで反応することにより3成分が化学結合し、硬化が進行すると考えられ、非常に強固なものとすることができる。
【0041】
〔成形体の用途〕
本実施形態における低温硬化性組成物を用いた成形体は、耐熱性及び機械的強度に優れるため、電気・電子部品、自動車部品、銅張り積層基板、プリント基板、耐火コーティング、複合材マトリクス樹脂等として利用できる。
【実施例】
【0042】
以下に具体的な実施例及び比較例を示して、本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下に記載の実施例によって限定されるものではない。
【0043】
後述する実施例及び比較例において適用した測定方法及び測定条件を示す。
〔測定方法〕
(1)プロトン核磁気共鳴スペクトル(1H−NMRスペクトル)
測定装置(日本電子社製、型番JNM−ECX)を用いて、1H−NMR(400MHz)、重水素クロロホルム使用し、256回積算し、緩和時間を10秒とした条件で測定を行った。
【0044】
(2)示差走査型熱分析(DSC)
熱分析装置(島津製作所社製、型番DSC−60)を用いて、昇温速度を10℃/分とし、窒素中で測定を行った。
【0045】
(3)熱重量分析(耐熱分解性)
熱重量分析装置(島津製作所社製、型番DTG−60)を用いて、昇温速度を10℃/分とし、空気中で測定を行い、5%重量減少する温度を求めた。
5%重量減少する温度は、300℃以上であれば、実用上良好であると判断した。
【0046】
(4)引張強度
インストロンユニバーサルテスト装置(メーカー名を教えてください。Model 5565)を用いて、後述する実施例1、比較例1〜3のシートを試料片(TypeV ASTM D6−38−03)とし、引張速度を1mm/分として測定した。
引張強度は、70MPa以上であれば、実用上良好であると判断した。
【0047】
〔実施例1〕
(式(1)で示されるトリアザ環化合物の製造)
還流器を取り付けた容量300mLの丸底フラスコに、アニリン(和光純薬)74.4g、37質量%ホルムアルデヒド(和光純薬)64.8g、テトラヒドロフラン(和光純薬)180.0gを加えて攪拌しながら、オイルバスの温度を90℃まで昇温させ、溶媒を還流させながら、30分間反応を継続し、その後、室温まで冷却したところ、合成されたトリアザ環化合物の沈積が確認された。得られたトリアザ環化合物は83gであり、収率は80%であった。
この溶液(沈積物を含有している液体)を、激しく攪拌している2Lのメタノール中へ投入し、析出した固体をろ過し、その後、さらにメタノールを用いて洗浄し、粉末を得た。
得られた粉末に対し、40℃に加熱した真空オーブン中で24時間の真空乾燥を施し、トリアザ環化合物を得た。
このトリアザ環化合物の1H−NMRスペクトルを上述した(1)の方法により測定したところ、図1に示す結果が得られた。
約4.9ppmの領域にトリアザ環のメチレン基の鋭い共鳴吸収が見られ、トリアザ環化合物が製造されたことが確認された。
【0048】
(低温硬化性組成物の製造)
上述のようにして製造したトリアザ環化合物10.0g、レゾルシノール(和光純薬)5.0g、及び、25℃の条件下で固体の高分子型エポキシ樹脂(エポキシ基当量281、EPICLON EXA7200HH 大日本インキ(株)製、25℃で固体状(軟化点 約90℃))25.0gを、石臼型らいかい機を用いて10分間混練し、低温硬化性組成物を作製した。
この低温硬化性組成物の熱分析を、上述した(2)の方法によって行い、硬化特性を評価した。図2に熱分析DSC曲線を示す。
また、硬化発熱のピーク温度(DSC曲線の最上部を硬化発熱のピーク温度と定義した)を測定し、下記表1に示した。
また、この低温硬化性組成物のポットライフ(保存安定時間)について、常温で所定の日数を放置後、100℃に加熱したときの流動性を目視で観察し評価した。100℃に加熱したときの流動性がなくなった場合における、上記常温での放置日数を表1に記載した。
【0049】
(低温硬化性組成物によるシートの作製)
上述のようにして製造した低温硬化性組成物を、2枚の離型処理が施されたポリイミドフィルムで挟み、180℃に制御された加熱プレス(東洋精機(株)30t加熱冷却プレス)の間に配置し、5分間放置して増粘させた。
次に、上記加熱プレスにより、10gf/cm2の圧力を加えながら30分加熱硬化処理を行い、その後冷却した。これにより、厚み0.1mmの低温硬化性組成物シートが得られた。
この低温硬化性組成物シートの耐熱分解性(5%重量減少温度)を上記(3)の方法によって測定し、引張強度を上記(4)の方法によって測定した。これらの結果を下記表1に示す。
【0050】
〔比較例1〕
ベンゾオキサジン(四国化成(株)製 B−a型ベンゾオキサジンモノマー)を比較例1とした。
ベンゾオキサジンB−aの熱分析を上述した(2)のDSCによる方法で行い、硬化特性を評価した。硬化発熱のピーク温度を下記表1に示した。
【0051】
(シートの作製)
ベンゾオキサジンB−aを、2枚の離型処理が施されたポリイミドフィルムで挟み、220℃に制御された加熱プレス(東洋精機(株)30t加熱冷却プレス)の間に配置し、5分間放置して増粘させた。
次に、上記加熱プレスにより、10gf/cm2の圧力を加えながら30分加熱硬化処理を行い、その後冷却した。これにより、厚み0.1mmのベンゾオキサジンB−aのシートが得られた。
このベンゾオキサジンB−aのシートの、耐熱分解性(5%重量減少温度)を上記(3)の方法によって測定し、引張強度を上記(4)の方法によって測定した。これらの結果を下記表1に示す。
【0052】
〔比較例2〕
(樹脂組成物の製造)
ベンゾオキサジンB−a(四国化成(株)製)10.0gとBisA型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(エポキシ基当量186、EPON828、シェル化学(株)製)10.0gとを、石臼型らいかい機を用いて10分間混練し、ペースト状の樹脂組成物を作製した。
この樹脂組成物の熱分析を、上述した(2)の方法によって行い、硬化特性を評価した。DSCにおける発熱ピーク温度を下記表1に示した。
【0053】
(樹脂組成物によるシートの作製)
上述したベンゾオキサジンB−a(四国化成(株)製)とBisA型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(エポキシ基当量186、EPON828、シェル化学(株)製)とを混合して作製した樹脂組成物を、離型処理が施され、220℃に制御された加熱プレス(東洋精機(株)30t加熱冷却プレス)の間に配置し、5分間放置して増粘させた。
次に、上記加熱プレスにより、10gf/cm2の圧力を加えながら30分加熱硬化処理を行い、その後冷却した。これにより、厚み0.1mmの樹脂組成物シートが得られた。
この樹脂組成物シートの耐熱分解性(5%重量減少温度)を上記(3)の方法によって測定し、引張強度を上記(4)の方法によって測定した。これらの結果を下記表1に示す。
【0054】
〔比較例3〕
(低温硬化性組成物の製造)
上述のようにして製造したトリアザ環化合物10.0g、レゾルシノール(和光純薬)5.0g、及びBisA型のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(常温で液状:25℃で1100mPa・s、エポキシ基当量186、EPON828、シェル化学(株)製)17.0gを、石臼型らいかい機を用いて10分間混練し、25℃でグリース状の低温硬化性組成物を作製した。
この低温硬化性組成物の熱分析を、上述した(2)の方法によって行い、硬化特性を評価した。図3に熱分析DSC曲線を示す。
硬化発熱のピーク温度を測定し、下記表1に示した。
また、この低温硬化性組成物のポットライフ(保存安定時間)について、常温で所定の日数を放置後、100℃に加熱したときの流動性を目視で観察し評価した。100℃に加熱したときの流動性がなくなった場合における、上記常温での放置日数を表1に記載した。
【0055】
(低温硬化性組成物によるシートの作製)
上述のようにして製造した低温硬化性組成物を、離型処理が施され、180℃に制御された加熱プレス(東洋精機(株)30t加熱冷却プレス)の間に配置し、5分間放置して増粘させた。
次に、上記加熱プレスにより、10gf/cm2の圧力を加えながら30分加熱硬化処理を行い、その後冷却した。これにより、厚み0.1mmの低温硬化性組成物シートが得られた。
この低温硬化性組成物シートの耐熱分解性(5%重量減少温度)を上記(3)の方法によって測定し、引張強度を上記(4)の方法によって測定した。これらの結果を下記表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示すように、従来技術で代表的なベンゾオキサジンB−a、及びベンゾオキサジンとエポキシ樹脂との混合物を用いた樹脂組成物である比較例1、2においては、いずれも硬化発熱ピーク温度が200℃以上である。
一方、実施例1の低温硬化性組成物は、硬化発熱ピーク温度が200℃以下であり、従来技術である比較例1、2の、ベンゾオキサジンB−aを用いた樹脂組成物に比較して、低温で硬化可能である。また、ポットライフが長く、組成物として安定しており取扱性が極めて良好である。
また、図2に示す実施例1のDSC曲線によると、60℃付近に固体エポキシの融解温度ピークが見られる。硬化反応はこの融解温度を超えた温度で開始するので、実施例1の低温硬化性組成物は、常温環境下での保存安定性に優れている。
液状エポキシを用いた比較例3においては、硬化発熱ピーク温度は低く低温硬化性は良好であるが、ポットライフは短く、組成物としての安定性は実施例1に比して劣っている。
【0058】
さらに、表1に示すように、実施例1の低温硬化性組成物を用いた成形体は、従来技術による樹脂組成物(比較例1〜3)を用いた成形体と比較して、実用上十分な耐熱性及び機械的強度を有している。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例1において製造したトリアザ環化合物のプロトン核磁気共鳴スペクトル(1H−NMRスペクトル)を示す。
【図2】実施例1の低温硬化性組成物の、熱分析DSC曲線を示す。
【図3】比較例3の低温硬化性組成物の熱分析DSC曲線を示す。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の低温硬化性組成物は、耐熱性及び機械的強度に優れており、電気・電子部品、自動車部品、銅張り積層基板、プリント基板、耐火コーティング、複合材マトリクス樹脂等として、産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)に示すトリアザ環化合物、フェノール化合物、及びJISK7234で測定した軟化温度が60℃以上の固体状のエポキシ樹脂を含有する低温硬化性組成物。
【化1】

前記式(1)中、Rは炭素数10以下の有機基である。
【請求項2】
前記式(1)中のRがフェニル基である請求項1に記載の低温硬化性組成物。
【請求項3】
前記フェノール化合物が、レゾルシノールである請求項1に記載の低温硬化性組成物。
【請求項4】
上記式(1)中のRが、メチル、プロピル、ブチル、フルフリル、アリル、フェニルよりなる群から選択されるいずれかの有機基であり、シアノ基、イソシアネート基、ビニル基からなる群から選択される少なくともいずれかの活性水素を持たない官能基を含んでいてもよい有機基である請求項1に記載の低温硬化性組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−77245(P2010−77245A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245923(P2008−245923)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】