説明

低置換サンドコンパクションパイル用材料

【課題】サンドコンパションパイルの透水性が低下しにくく、しかも特別な材料や工程を用いることなく低コストに得ることができる低置換サンドコンパションパイル用材料を提供する。
【解決手段】JIS
K 0058−1に規定される溶出試験条件に従い、利用有姿のままの試料に、その10倍量の蒸留水を加え、毎分200回転で6時間撹拌した後の蒸留水のpHが11.5以下である鉄鋼スラグからなる低置換サンドコンパションパイル用材料であり、特にMg(OH)の析出によるサンドコンパションパイルの透水性の低下を抑え、長期透水係数を1×10−3cm/s以上に維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼スラグからなる低置換サンドコンパクションパイル用材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粘土質の軟弱地盤の圧密促進工法として、粘土質地盤にサンドコンパクションパイル(以下、「SCP」という)を打設する工法が広く行われている。このようなSCP工法のなかでも、低置換SCP工法では、軟弱地盤に透水性のよいSCPを比較的疎な間隔で打設し、その上に透水性のよい押さえ盛り土を施して軟弱地盤に圧密荷重を加えることで、粘土質地盤の間隙水をSCPを通じて排除し(ドレン効果)、地盤の圧密化を促進するものである(サンドドレン工法)。
【0003】
従来、SCP工法用の材料としては天然の砂材が使用されてきたが、昨今では、天然砂の確保が難しくなりつつあり、これに代わるSCP工法用の材料として、製鋼スラグなどの鉄鋼スラグの利用が検討されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平8−2949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
低置換SCP工法では、ドレン効果を得るためにSCPが十分な透水性を維持する必要がある。しかし、低置換SCP材料として製鋼スラグを用い、例えば港湾などの地盤改良を行った場合、SCPの透水性が低下し、必要なドレン効果が得られなくなる問題を生じることが判った。
特許文献1では、SCP用材料に製鋼スラグを用いるとエージング処理中に空気中のCOと反応して硬化し、この硬化によりSCPが目詰まりを起こして脱水機能を果たさなくなるという問題があるとし、この問題を解決するため、溶融状態の製鋼スラグと改質材とを、複合塩基度が0.9以下になるように混合することで、スラグをSCP用材料に適した性状に改質するとしている。しかし、この技術には、(i)溶融状態の製鋼スラグを改質するには、多大なコストが発生する、(ii)塩基度の高いスラグと低いスラグを混合しただけでは、塩基度の高いスラグからアルカリが溶出し、透水性低下の問題が十分に解決されない、という問題がある。
【0005】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、SCPの透水性が低下しにくく、しかも特別な材料や工程を用いることなく低コストに得ることができる低置換SCP用材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、製鋼スラグで構成した低置換SCPの透水性が低下する原因とその対策について検討を行った。その結果、
(1)SCPの透水性低下には2つの要因があり、その1つは、海水中に含まれるMg+2イオンが、Mg(OH)として析出する反応(反応1)であり、もう1つは、海水中に含まれるHCO−1イオンが、CaCOとして析出する反応(反応2)である。
【0007】
(2)反応1、反応2ともに、スラグから海水にCa+2イオンが溶出することにより引き起こされる。Ca+2イオンが海水に溶解することで、Ca+2イオンと平衡するOH−1イオン濃度が上昇し、海水に含まれるMg+2イオンとのイオン積により反応1が生じ、Mg(OH)が析出する。一方、スラグから溶出したCa+2イオンと海水に含まれるHCO−1イオンとのイオン積により反応2が生じ、CaCOが析出する。
(3)海水中のMg+2イオン濃度とHCO−1イオン濃度は既知であることから、スラグからCa+2イオンだけが溶出したと仮定することで、反応1と反応2が、どのpH範囲生じるかを理論計算で求めることができ、この理論計算によると、反応1はpH>9.8で生じ、反応2はpH>8.4で生じる。
【0008】
(4)反応1、反応2で生じる析出物の量は、基本的には海水に含まれるMg+2イオン濃度とHCO−1イオン濃度で決まる。一般に、反応1での析出物であるMg(OH)は、反応2での析出物であるCaCOの約20倍である。なお、反応1では、[Mg+2][OH]2=一定値(イオン積)の関係があり、OHイオン濃度が高くなればなるほど、海水に溶解できるMg+2イオン濃度が小さくなり、当初の海水に含まれるMg+2イオン濃度との差分が、Mg(OH)として析出することになる。したがって、スラグから供給されるCa+2イオンによって平衡するOHイオンの多寡によっても、Mg(OH)の析出量は左右される。
【0009】
という事実が判明した。そして、これらの点から、pHが8.4以上であれば反応速度の多寡はあるものの低置換SCPの透水性が低下するが、反応1による反応が抑えられるか否かによって、透水性の低下現象が大幅に変化することを見出した。
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
【0010】
[1]JIS K 0058−1に規定される溶出試験条件に従い、利用有姿のままの試料に、その10倍量の蒸留水を加え、毎分200回転で6時間撹拌した後の蒸留水のpHが11.5以下である鉄鋼スラグからなることを特徴とする低置換サンドコンパクションパイル用材料。
[2]JIS K 0058−1に規定される溶出試験条件に従い、利用有姿のままの試料に、その10倍量の蒸留水を加え、毎分200回転で6時間撹拌した後の蒸留水のpHが11.5以下である鉄鋼スラグを選択して、低置換サンドコンパクションパイル用スラグを得ることを特徴とする低置換サンドコンパクションパイル用材料の製造方法。
[3]上記[1]に記載のサンドコンパションパイル用材料を、相対密度80%以下の締め固め度で打設することを特徴とする低置換サンドコンパション工法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の低置換サンドコンパションパイル用材料は、サンドパイルの透水性が低下しにくく、しかも特別な材料や工程を要することなく低コストに得ることができる。
また、本発明の製造方法によれば、サンドパイルの透水性が低下しにくい低置換サンドコンパションパイル用材料を、特別な材料や工程を要することなく低コストに製造することができる。
さらに、本発明の低置換サンドコンパション工法によれば、上述した本発明の低置換サンドコンパションパイル用材料を使用して、初期透水係数や長期透水係数の低下が特に生じにくい低置換サンドコンパションパイルを施工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の低置換サンドコンパションパイル(以下、「SCP」という)用材料は、JIS
K 0058−1に規定される溶出試験条件に従い、利用有姿のままの試料に、その10倍量の蒸留水を加え、毎分200回転で6時間撹拌した後の蒸留水のpHが11.5以下である鉄鋼スラグからなるものである。
ここで、本発明が対象とする低置換SCPとは、施工区面積に対するSCPの合計の面積率が50%以下であるものをいう。
【0013】
低置換SCP用材料としては、長期(数ヶ月)透水係数が天然砂相当の1×10−3cm/s以上を維持することが必要であると考えられる。そこで、鉄鋼製造プロセスで発生する製鋼スラグ(溶銑予備処理スラグ、脱炭スラグ)と電気炉スラグについて、海水での透水試験を行い、透水係数の変化を調べた。表1に、各供試スラグの化学組成と塩基度を示す。透水試験はJIS
A 1218「土の透水試験方法」に準拠し、有姿スラグの透水係数を海水を用いた定水位法にて測定した。
【0014】
【表1】

【0015】
図1は、各供試スラグについての約5ヶ月の透水試験結果を示している。これによれば、スラグDでは透水係数の低下は全く認められず、スラグA、スラグBおよびスラグCでは軽微な透水係数の低下が認められるが、これら4試料は、3ヶ月以上経過後でも透水係数が1×10−3cm/sを下回ることはない。これに対して、スラグEは30日後に、スラグFは7日後に、それぞれ透水係数が1×10−3cm/sを下回った。表1に示す各スラグの化学組成と塩基度からして、塩基度が3を超えるスラグにおいて、透水係数の低下が著しいことが判る。
【0016】
図1の試験に供したスラグA〜Fについて試験体表面を観察したところ(スラグA〜Eは30日後、スラグFは7日後)、スラグA〜Eでは、スラグに含まれる鉄分が錆びて生じた酸化鉄と推定される茶色粒子が認められ、また、スラグBでは白色析出物が極く僅かに観察され、スラグEでは白色析出物が数多く観察された。また、スラグFでは、海水と接触する表面に広範に白色析出物が観察された。スラグFから白色析出物を削り出して、分析電子顕微鏡とX線回折で析出物を調べたところ、前者ではCaイオンとMgイオンが、後者ではMg(OH)とCaCOが確認された。
すなわち、スラグから海水にCa+2イオンが溶出することによって、海水中に含まれるMg+2イオンがMg(OH)として析出する反応と、海水中に含まれるHCO−1イオンがCaCOとして析出する反応が、スラグFでは同時に生じたことより試験体に目詰りを生じ、透水係数が低下したことが判った。
【0017】
そこで、表1に記載したスラグから溶出するCa+2イオンの溶出速度を調査すべく、上記透水試験と同様の粒径を有する有姿スラグに、JIS
K 0058−1に規定される溶出試験条件に従い、その10倍量の蒸留水または海水を加え、毎分200回転で6時間撹拌した際の蒸留水または海水のpH上昇速度を調べた。
図2は蒸留水でのpHの上昇速度を、図3は海水でのpHの上昇速度をぞれぞれ示している。これによれば、図1において透水係数が変化しないスラグDのpHが最も上昇しにくく、一方、透水係数が著しく低下したスラグEとスラグFはpHの上昇が激しい。また、図3の方が、図2に較べて全体的にpHが低い。これが海水の緩衝効果と呼ばれるもので、まさに撹拌中に、海水中に含まれるMg+2イオンがMg(OH)として析出する反応と、海水中に含まれるHCO-1イオンがCaCOとして析出する反応が、生じていることによる。
【0018】
図4は、図2に示される蒸留水pHと図3に示される海水pHの6時間経過後の相関を示している。これによれば、両者は蒸留水pHが約11.7以下では非常に良い相関があるものの、蒸留水pHが約12.4のスラグFでは、直線関係から離脱する。
スラグEでは長期透水係数の低下が認められ、スラグBでは極く僅かな長期透水係数の低下しか認められなかった。この決定的な差は、透水性低下の原因には、2つの要因(反応)があることで説明することができる。
第一の反応は、海水中に含まれるHCO−1イオンがCaCOとして析出する反応であり、さきに述べたように理論計算上ではpH>8.4の領域で生じる。第二の反応は、海水中に含まれるMg+2イオンがMg(OH)として析出する反応であり、さきに述べたように理論計算上ではpH>9.8の領域で生じる。
【0019】
図4で判るように、スラグA〜Dでは、第一の反応だけが生じる領域であり、この場合には、透水係数の低下が認められない、或いは、極く軽微なものあるのに対し、スラグEとスラグFでは第二の反応まで生じてしまうことによって、急激な透水係数の低下を招いてしまう。さきに述べたように、第二の反応で析出するMg(OH)の量は、第一の反応で析出するCaCOの量の約20倍であり、したがって、第二の反応により多量のMg(OH)がスラグ間隙に析出し、スラグ間隙に目詰まりを生じさせることが、急激な透水係数の低下を招く主因である。
ここで、透水試験において白色析出物が極く僅かしか生成せず、長期透水係数の低下が軽微であったスラグBは、蒸留水での上記溶出試験(6時間後)のpHは約11.5(海水でのpHは約9.6)であり、また、さきに述べたように、海水中でMg+2イオンがMg(OH)として析出するpH領域は理論計算上pH>9.8であることから、上記溶出試験(6時間後)の蒸留水pHが11.5以下(または海水pHが9.6以下)であるスラグであれば、ほぼ確実に第一の反応だけにとどめることができると考えられる。
【0020】
このため本発明の低置換SCP用材料は、JIS
K 0058−1に規定される溶出試験条件に従い、利用有姿のままの試料に、その10倍量の蒸留水を加え、毎分200回転で6時間撹拌した後の蒸留水のpHが11.5以下(または海水のpHが9.6以下)である鉄鋼スラグからなることを条件とする。これにより、SCPの長期透水係数:1×10−3cm/s以上を維持することができる。
なお、スラグからのCa+2の溶出速度はスラグ粒度によっても左右されるので、本発明の低置換SCP用材料は、スラグ粒度を適宜調整してもよい。
【0021】
また、本発明の低置換SCP用材料の製造方法では、JIS
K 0058−1に規定される溶出試験条件に従い、利用有姿のままの試料に、その10倍量の蒸留水を加え、毎分200回転で6時間撹拌した後の蒸留水のpHが11.5以下である鉄鋼スラグを選択して、低置換SCP用の製鋼スラグを得るものである。
低置換SCPの透水係数は、打設された材料の相対密度(単位容積質量)によっても変化し、したがって、本発明の低置換SCP用材料であっても、SCPの相対密度があまりに高いと初期透水係数が低下し、長期透水係数も1×10−3cm/sを下回るおそれがでてくる。
【0022】
図5は、スラグB(本発明が規定する蒸留水pHが11.5以下のスラグ)について、さきに挙げた透水試験をスラグの相対密度Drを変えて行い、各相対密度Drでの透水係数を調べたものである。これによると、相対密度Drが80%を超えると、約1ヶ月後の透水係数が1×10−3cm/sを下回る場合がでてくる。したがって、本発明の低置換SCP用材料を用いた低置換SCP工法では、材料を相対密度80%以下の締め固め度で打設することが好ましい。
また、SCP用材料の締め固め度は、その粒度にも影響されるので、スラグの粒度調整を行うことで、相対密度が過剰に高くならないようにすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】海水を用いた透水試験におけるスラグA〜Fの透水係数の推移を示すグラフ
【図2】スラグA〜Fについて、JISK 0058−1に規定される溶出試験条件に従い、その10倍量の蒸留水を加え、毎分200回転で6時間撹拌した際の蒸留水pHの推移を示すグラフ
【図3】スラグA〜Fについて、JISK 0058−1に規定される溶出試験条件に従い、その10倍量の海水を加え、毎分200回転で6時間撹拌した際の海水pHの推移を示すグラフ
【図4】スラグA〜Fについて、図2および図3に示される6時間後の蒸留水pHと海水pHとの相関を示すグラフ
【図5】スラグBに関する海水を用いた透水試験において、相対密度Drが異なる試験体の透水係数の推移を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS K 0058−1に規定される溶出試験条件に従い、利用有姿のままの試料に、その10倍量の蒸留水を加え、毎分200回転で6時間撹拌した後の蒸留水のpHが11.5以下である鉄鋼スラグからなることを特徴とする低置換サンドコンパクションパイル用材料。
【請求項2】
JIS K 0058−1に規定される溶出試験条件に従い、利用有姿のままの試料に、その10倍量の蒸留水を加え、毎分200回転で6時間撹拌した後の蒸留水のpHが11.5以下である鉄鋼スラグを選択して、低置換サンドコンパクションパイル用スラグを得ることを特徴とする低置換サンドコンパクションパイル用材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のサンドコンパションパイル用材料を、相対密度80%以下の締め固め度で打設することを特徴とする低置換サンドコンパション工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−102801(P2009−102801A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−272748(P2007−272748)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【Fターム(参考)】