説明

低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びこれを含む固形製剤

【課題】非イオン性で安定性に優れる低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの成型性と流動性を改善し、さらに崩壊性、口腔内での服用性を改善する。
【解決手段】
広角X線回折法により測定された回折強度から、下記式(1)
結晶化度(%)={(Ic−Ia)/Ic}×100 (1)
(上式中、Icは回折角2θ=22.5度における回折強度であり、Iaは回折角2θ=18.5度における回折強度である。)
より算出される結晶化度が60%以下であり、ヒドロキシプロポキシ基置換度が5〜9質量%であり、アスペクト比が2.5未満である低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品及び食品分野において、成型性、流動性、崩壊性、服用性に優れる水不溶性で吸水膨潤性を有する低置換度ヒドロキシプロピルセルロース及びそれを用いた速崩壊性固形製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品又は食品分野においては高品質な製剤が求められている.特に医薬品分野では、新規に開発される薬物が不安定なものが増え、利用できる添加物も相互作用の観点から制約されてきている。こうした中で低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、非イオン性で安定性に優れ、成型性も兼ね備えているため、好ましい添加剤である。しかし、従来市販されている低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、繊維状粒子を多く含み、流動性に欠けるもので、直接打錠法に適用するには流動性の良いその他の添加剤と併用する必要があり、また、その添加量にも制約があった。
【0003】
そこで、特許文献1では、成型性と流動性を改善された低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを提案し、これにより直打法への適用範囲が広がった。しかしながら、崩壊性は従来の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースと同等であったため、崩壊性のさらなる改善が必要であった。
【0004】
また、通常の経口剤を服用することが困難な高齢者及び小児等の患者が容易に服用できることを目的として、特許文献2には医薬成分、糖類及びヒドロキシプロポキシル基含量が5質量%以上7質量%未満の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含有してなる速崩壊性固形製剤が開示されている。しかし、特許文献2に記載の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、繊維状で流動性に劣り、膨潤特性が低下して崩壊時間が遅くなる場合があった。
以上のことから、成型性、流動性、崩壊性、服用性に優れる添加剤の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−133432号公報
【特許文献2】特開2000−103731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の欠点を解消するためになされたものであり、非イオン性で安定性に優れる低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの成型性と流動性を改善し、さらに崩壊性、口腔内での服用性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、 広角X線回折法により測定された回折強度から、下記式(1)
結晶化度(%)={(Ic−Ia)/Ic}×100 (1)
(上式中、Icは回折角2θ=22.5度における回折強度であり、Iaは回折角2θ=18.5度における回折強度である。)
より算出される結晶化度が60%以下であり、ヒドロキシプロポキシ基置換度が5〜9質量%であり、アスペクト比が2.5未満である低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを提供する。
また、本発明は、粉末化したパルプと苛性ソーダ水溶液を、(a)該パルプ中の無水セルロースに対する苛性ソーダの質量を0.15〜0.50とし、(b)苛性ソーダの質量/水の質量比を0.45〜0.60として混合してアルカリセルロースを得る工程と、得られたアルカリセルロースをプロピレンオキシドと反応させて低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを得る工程と、得られた低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを粉砕機にて圧密後粉砕するか又は圧密しながら粉砕する圧密摩砕を行う粉砕工程とを少なくとも含んでなる低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、従来と比較して成型性、流動性を改善し、崩壊性が向上した低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを得ることができる。
また、本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、高成型性、高流動性、崩壊性、口腔内での服用性に優れるため、医薬、食品等の分野において、錠剤硬度が高く、崩壊性の優れる固形製剤の製造が可能となる。特に本発明の固形製剤は、優れた崩壊性を有しているため、高齢者、小児が水なしで手軽に服用できる口腔内速崩壊錠として、種々の疾病の治療、予防に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1〜3及び比較例1で得られた低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの最大膨潤力及び膨潤速度を示す。
【図2】実施例5、6及び比較例4〜6で得られた低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの錠剤硬度及び崩壊時間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースのヒドロキシプロポキシ基置換度は、好ましくは5〜9質量%、更に好ましくは7〜9質量%である。ヒドロキシプロポキシ基置換度は、日本薬局方における低置換度ヒドロキシプロピセルロースの定量法に準じて測定できる。5質量%未満では吸水膨潤特性が低く、崩壊性が低下し、目的の速崩壊性製剤を製造できなくなる恐れがある。一方、9質量%超過では膨潤量は大きくなるが、膨潤速度が低下し、目的の速崩壊性製剤を製造できなくなる恐れがあることから、最適な置換度範囲が存在する。
【0011】
低置換度ヒドロキシプロピセルロースの原料である天然セルロースの広角X線回折パターンはセルロースI型の結晶構造を有し、広角X線回折において、回折角2θ=14.7°、16.5°、22.5°に強い回折ピークが観察されることが知られている。特に002面の2θ=22.5°(Icとする。)のピークが最も高く、特徴的である。SegalらはText.Res.J.29,786,(1959)において、この002面の回折ピークと非晶部の回折ピークである2θ=18.5°(Iaとする。)の回折強度から、結晶化度を算出する方法を提案している。本発明における結晶化度(%)は、下記式(1)により算出できる。
結晶化度(%)={(Ic−Ia)/Ic}×100 (1)
広角X回折は、X線が結晶格子で回折する現象を利用して、結晶構造を測定できる方法であり、市販の測定装置にて測定可能である。例えば、Bruker社のMX−Labo等が利用できる。
【0012】
本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの結晶化度は、60%以下である。ヒドロキシプロポキシ基置換度が上記範囲であっても結晶化度が60%超過では膨潤力、膨潤速度が低下し、目的の速崩壊性製剤を製造できなくなる。結晶化度の下限については特に限定されないが、一般的なレーヨン等の再生セルロースが約40%といわれており、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとしても概ね40%と考えられる。
結晶領域では強固な水素結合により、水は内部まで取り込まれず、表面に吸着するのみであるが、非晶領域では吸水した水が分子内部に取り込まれ、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース分子鎖が広がり、より強い膨潤力が発生する。更に、非晶領域は結晶領域と比較して分子間結合が弱く、水分子の取り込みが速やかに行われるため、膨潤速度が速い。つまり、結晶化度は崩壊剤の膨潤特性を左右する重要な特性であり、結晶化度が低く非晶領域が多い程、膨潤力及び膨潤速度は増大したものと考えられる。
ここで、本発明の最大膨潤力は、好ましくは25N以上、更に好ましくは30N以上である。25N未満では崩壊時間が遅延し、薬物を速やかに溶出させることができず、目的の薬効を示さなくなる場合がある。上限は、崩壊剤の膨潤力が高い程、錠剤や顆粒剤の崩壊時間を短縮し、薬物を速やかに溶出させることにより、優れた薬効を示すため特に限定されないが、およそ50Nである。膨潤力の測定は、例えばSMS社製のTA−XT plus等のテクスチャーアナライザーを用いて測定することができる。
膨潤速度は、好ましくは1N/秒以上、更に好ましくは1.5N/秒以上である。1N/秒未満では崩壊時間が遅延する場合がある。上限は、膨潤速度が速い程、錠剤や顆粒剤の崩壊時間を短縮することができるため特に限定されないが、およそ5N/秒である。
【0013】
清水らは、口腔内速崩壊錠に関して添加剤の服用感が重要であり、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースのヒドロキシプロポキシ基置換度が低い程、口当たりが良いことを報告している(Chem.Pharm.Bull.51(10)1121−1127(2003))。その理由として、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが吸水膨潤するときに多くの水を取るため、紙を食したようなパサツキ感が生じる。その現象と低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの水分散液粘度に相関があり、ヒドロキシプロポキシ基置換度が低い程、水分散液粘度が低く、口腔内の服用感が改善されると報告している。
本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの水分散液粘度は50mPa・s以下が好ましい。50mPa・sを超えるとでは口腔内での服用感が低下する場合がある。なお、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの水分散液粘度の測定方法は、20℃にて純水225gにサンプル25gを添加後、撹拌羽根を用いて、およそ200rpmの速度で10分間攪拌して10質量%濃度の水分散液を調整した。20℃にてB型粘度計にて、回転数30rpmで2分後の値を測定する。
【0014】
本発明者らは、ヒドロキシプロポキシ基置換度のみではなく、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粒子の長径/短径の比であるアスペクト比も口腔内における食感に影響を与えることを見出した。すなわち、ヒドロキシプロポキシ基置換度が同一でも、アスペクト比が大きい繊維状粒子では、水分散液粘度が高く、口腔内における服用感が低下する傾向を見出した。
また、アスペクト比は、上記低置換度ヒドロキシプロピルセルロース水分散液粘度や口腔内における服用性だけではなく、粉体の流動性にも影響を与える。
本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、アスペクト比が2.5未満であり、好ましくは2.3以下である。従来の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの粒子は、原料であるパルプ形状由来の繊維状粒子が多く存在していた。信越化学工業社発行のL−HPCカタログ第5〜6頁に記載されているように従来の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースのアスペクト比は2.5〜5.0の範囲であった。長繊維が多く、アスペクト比が2.5以上では粉体の流動性に欠けるもので、直接打錠法に適用するには流動性の良いその他の添加剤と併用する必要があり、また、その添加量にも制約がでる恐れがあった。
アスペクト比の測定には、一般的な光学顕微鏡にて倍率100程度で長径、短径の長さを測定し、この比を求める。測定粒子数としては50〜200個程度測定し、その平均値で表現できる。
【0015】
粉体の粒度分布は、粉体の成型性、流動性に影響を与える指標である。粒度分布の測定には、レーザー回折法を用いた粉体粒子径測定方法により測定可能である。例えば、HELOS&RODOS(日本レーザー社製)を用いて測定できる。
本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、高成型性、高流動性、崩壊性に優れる特性を保持するために、平均粒子径の範囲は好ましくは10〜80μmであり、より好ましくは20〜60μm、更に好ましくは30〜60μmである。平均粒子径が10μm未満では、粉体の凝集性が増大し、粉体の流動性が低下し、崩壊性も低下する場合がある。また、80μmを超えると十分な比表面積が確保できず、成型性が低下してしまう場合がある。
【0016】
本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの好ましい製造方法について、以下に説明する。
本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの原料は、木材パルプ、リンターパルプ等からなり、粉末状のパルプを用いる。粉末状のパルプを得るために、何れの粉砕方式を用いても良い。その平均粒子径は、好ましくは60〜300μmである。60μm未満の粉末状パルプを調製するには工業的に非効率的であり、300μmを超えると苛性ソーダ水溶液との混合性に劣る恐れがある。
【0017】
アルカリセルロースを製造する工程は、好ましくは、上記粉末状のパルプに苛性ソーダ水溶液を滴下又は噴霧して混合することにより行う。この際、強固な結晶構造を有するセルロースが苛性ソーダ水溶液により、その結晶構造が壊れマーセル化が進行する。マーセル化されることにより、アルカリセルロースはその後のエーテル化反応性が向上する。
アルカリセルロースの製造を、好ましくは、内部撹拌型の反応機内で混合を行い、引き続いてエーテル化反応を行うか、他の混合機内で調製したアルカリセルロースを反応機内に仕込んでエーテル化反応を行うか何れの方法を用いても良い。
【0018】
アルカリセルロースは、セルロース、苛性ソーダ、水から構成されるもので、アルカリセルロース中の苛性ソーダ量と水量は、エーテル化反応効率への影響のみではなく、最終製品の膨潤特性に影響を与えることが解った。
【0019】
本発明における最適なアルカリセルロースの組成は、無水セルロース(パルプ中の水分を除いたものをいう。)に対する苛性ソーダの質量比は、0.15〜0.50、好ましくは0.19〜0.50である。苛性ソーダの質量比が0.15未満では得られた低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの結晶化度が高く、膨潤力が低下し、崩壊性が低下する場合がある。また、0.50超過では膨潤速度が低下し、苛性ソーダの質量比の増大によりエーテル化効率が低下し工業的に非効率的となる場合もある。
【0020】
水の質量に対する苛性ソーダの質量の比(苛性ソーダの質量/水の質量)は、0.45〜0.60、好ましくは0.50〜0.60である。最適なアルカリセルロースの組成は、上記苛性ソーダの質量比、苛性ソーダの質量/水の質量の比率が上記範囲にある必要がある。0.45未満又は0.60超過では、得られた低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの結晶化度が高く、膨潤力及び膨潤速度が低下し、崩壊性が低下する。
アルカリセルロース製造時に使用する苛性ソーダ水溶液の濃度は、好ましくは20〜50質量%である。
【0021】
次のエーテル化反応を行う工程は、アルカリセルロースを反応機内に仕込み、好ましくは窒素による置換後、エーテル化剤としてプロピレンオキサイドを反応機内に仕込み反応を行う。プロピレンオキシドの仕込み比は、好ましくは、無水グルコース単位1モルに対して0.1〜1.0モル程度である。好ましくは、反応温度は40〜80℃程度、反応時間は1〜5時間程度である。
【0022】
エーテル化反応を行う工程の後、必要に応じて溶解工程を行うことができる。溶解工程は、エーテル化反応後の粗反応物の一部又は全部を水又は熱水に溶解することにより行われる。水又は熱水の使用量は、粗反応物の溶解量によって異なるが、粗反応物の全部を溶解させるときの水の量は、通常、粗反応物中の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースに対して質量比で0.5〜10である。
後述の洗浄・脱水工程における負荷及び低置換度セルロースエーテルの成型性の更なる向上を考慮すると、この溶解工程を行わない方がより好ましい。
【0023】
その後の中和工程は、触媒として使用した苛性ソーダが反応生成物に残存するため、好ましくは、その苛性ソーダに対して当量の酸を含む水又は熱水中に粗反応生成物を投入し中和を行う。また、反応生成物に当量の酸を含む水又は熱水を加えて中和を行っても良い。使用する酸は、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸やギ酸、酢酸等の有機酸が挙げられる。
【0024】
次の洗浄・脱水工程では、得られた中和物を、好ましくは水又は熱水を用いて洗浄しながら、好ましくは遠心分離、減圧濾過、加圧濾過等から選ばれる方法で脱水を行う。得られた脱水物ケーキ中の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは原料パルプの形態と同様に繊維状ものとなる。また、成型性の観点から繊維状形態のものを使用して粉砕した方が得られた製品の比表面積が高く、結合性の高いものが得られる。
【0025】
上記で得られた脱水物を乾燥する乾燥工程は、好ましくは、流動層乾燥機、ドラムドライヤー等の乾燥機を用いて60〜120℃にて行うことができる。
【0026】
粉砕工程は、上記方法で得られた乾燥物を粉砕機にて圧密後、粉砕するか、又は圧密しながら粉砕する圧密摩砕を行う。この圧密摩砕には、ローラーミル、ボールミル、ビーズミル、石臼型粉砕機等の粉砕機が利用できる。ローラーミルは、ローラー又はボールが、その回転運動に伴う遠心力や重力荷重により、ミル壁の被粉砕物を圧縮・剪断しながら転がる粉砕機で、石川島播磨重工業社製ISミル、栗本鐵工所社製VXミル、増野製作所社製MSローラーミル等が利用できる。ボールミルは、鋼球、磁性ボール、玉石及びその類似物を粉砕媒体とする粉砕機で、中央化工機社製振動ボールミル、栗本鉄工社製ボールミル、大塚鉄工社製チューブミル、FRITSCH社製遊星ボールミル等が利用できる。
ビーズミルはボールミルと類似するが、使われるボールの径が小さく、機器内部が高速回転することにより、ボールの加速度をより高めることができる点で異なり、例えばアシザワ製作所社製のビーズミルが利用できる。石臼型粉砕機は、石臼が狭いクリアランスで高速回転することにより粉体を摩砕することができる機械で、例えば増幸産業社製のセレンディピターが利用できる。
【0027】
これらの粉砕機を用いることにより、長い繊維状粒子が磨り潰されることにより減少し、得られた粉体のアスペクト比は小さく、流動性に優れるものとなる。また、圧密摩砕により、一部ミクロフィブリル化することにより、比表面積が増大し、成型性が向上する効果もある。
【0028】
本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、錠剤又は顆粒剤等の固形製剤の結合剤又は崩壊剤として使用できる。錠剤は、乾式直接打錠法、湿式撹拌造粒打錠法、流動層造粒打錠法、乾式造粒打錠法等何れの製造方法によっても得ることができる。
乾式直接打錠法は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末と薬物、その他の賦形剤、滑沢剤等を乾式混合後、打錠する方法であり、造粒工程がないため製造工程が簡略化でき、生産性の高い方法である。湿式撹拌造粒打錠法は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末と薬物、その他の賦形剤等を水や水溶性結合剤溶液を用いて高速撹拌造粒装置を用いて造粒した後、乾燥して得られた粉体と滑沢剤とを混合後、打錠する方法であり、薬物の含量均一性が高い方法である。流動層造粒打錠法は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末と薬物、その他の賦形剤等を水や水溶性結合剤溶液を用いて流動層造粒装置を用いて造粒後、乾燥して得られた粉体と滑沢剤とを混合後、打錠する方法であり、湿式撹拌造粒打錠法と同様に薬物の含量均一性が高い方法である。乾式造粒打錠法は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースと薬物、その他の賦形剤等を圧縮により造粒し、打錠する方法であり、水や溶剤に対して敏感な薬物について有効な方法である。
【0029】
本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、顆粒剤の結合剤、崩壊剤としても使用できる。顆粒剤は、上記の湿式撹拌造粒、流動層造粒、乾式造粒等何れの製造方法によっても得ることができる。
なお、押出造粒により柱状の顆粒剤や押出造粒後の造粒物をマルメライザーにより球形化処理することも可能である。また、糖等からなる真球状の核に低置換度ヒドロキシプロピルセルロース粉末、薬物粉体その他の賦形剤等の混合粉末を散布しながら結合剤溶液を噴霧するレイヤリングを行なうことができる。
【0030】
また、近年盛んに開発が進められている水無し又は少量の水で口腔内において速やかに崩壊する口腔内速崩壊錠にも適応可能である。この方法は嚥下能力の低い老人、小児に有効な剤型である。
【0031】
本発明の口腔内速崩壊製剤は、例えば、薬効成分と、乳糖、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、還元澱粉糖化物、キシリトール、還元パラチノース、エリスリトール等の糖アルコール等の糖類と、本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとを混合後、さらに滑沢剤を混合し、直接打錠を行うか、又は、湿式撹拌造粒、流動層造粒等により、薬効成分と、乳糖、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、還元澱粉糖化物、キシリトール、還元パラチノース、エリスリトール等の糖アルコール等の糖類と、本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとからなる顆粒を製造後、打錠を行うか何れも適応可能である。
【0032】
薬効成分の含有量は、その薬物種により異なるが、全体の製剤中、好ましくは0.1〜30質量%、より好ましくは1〜20質量%である。
糖類の含有量は、全体の製剤中、好ましくは5〜97質量%、より好ましくは10〜90質量%である。
低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの含有量は、全体の製剤中、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは5〜10質量%である。
【0033】
本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを用いて製剤化する場合に用いられる薬物としては、特に限定されず、中枢神経系薬物、循環器系薬物、呼吸器系薬物、消化器系薬物、抗生物質及び化学療法剤、代謝系薬物、ビタミン系薬物等が挙げられる。
【0034】
中枢神経系薬物としては、ジアゼパム、イデベノン、アスピリン、イブプロフェン、パラセタモール、ナプロキセン、ピロキシカム、ジクロフェナック、インドメタシン、スリンダック、ロラゼパム、ニトラゼパム、フェニトイン、アセトアミノフェン、エテンザミド、ケトプロフェン等が挙げられる。
【0035】
循環器系薬物としては、モルシドミン、ビンポセチン、プロプラノロール、メチルドパ、ジピリダモール、フロセミド、トリアムテレン、ニフェジビン、アテノロール、スピロノラクトン、メトプロロール、ピンドロール、カプトプリル、硝酸イソソルビト等が挙げられる。
【0036】
呼吸器系薬物としては、アンレキサノクス、デキストロメトルファン、テオフィリン、プソイドエフェドリン、サルブタモール、グアイフェネシン等が挙げられる。
消化器系薬物としては、2−{〔3−メチル−4−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−2−ピリジル〕メチルスルフィニル}ペンズイミダゾール及び5−メトキシ−2−〔(4−メトキシ−3,5−ジメチル−2−ピリジル)メチルスルフィニル〕ベンズミダゾール等の抗潰瘍作用を有するベンズイミダゾール系薬物、シメチジン、ラニチジン、パンクレアチン、ビサコジル、5−アミノサリチル酸等が挙げられる。
【0037】
抗生物質及び化学療法剤としては、セファレキシン、セファクロール、セフラジン、アモキシシリン、ピバンピシリン、バカンピシリン、ジクロキサシリン、エリスロマイシン、エリスロマイシンステアレート、リンコマイシン、ドキシサイクリン、トリメトプリム/スルファメトキサゾール等が挙げられる。
【0038】
代謝系薬物としては、セラペプターゼ、塩化リゾチーム、アデノシントリフォスフェート、グリベンクラミド、塩化カリウム等が挙げられる。
ビタミン系薬物としては、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC等が挙げられる。
【0039】
本発明における口腔内速崩壊製剤の製法は、特殊な装置や特殊な技術を必要とせず、一般的に使用される造粒装置や打錠装置で、一般的に行われる方法にて製剤を製造でき、汎用性が高いものである。これは、ここで結合剤及び崩壊剤として使用される低置換度ヒドロキシプロピルセルロースに本発明の工夫が施されているためである。
【0040】
本発明の速崩壊性固形製剤は、速崩壊性又は製剤強度に支障のない限り、一般製剤の製造に用いられる種々の添加剤を含んでもよく、また、その添加量は一般製剤の製造に用いられる量で使用できる。このような添加剤としては、例えば、結合剤、酸味剤、発泡剤、人口甘味料、香料、滑沢剤、着色剤、安定化剤、賦形剤、崩壊剤等が挙げられる。
結合剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、結晶セルロース、α化デンプン、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム末、ゼラチン、プルラン等が挙げられる。これらの結合剤は、2種類以上、適宜の割合で混合して用いられてもよい。しかし、口腔内速崩壊製剤を作製するにあたっては上記水溶性結合剤を使用せず、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを結合剤として使用した方が、優れた口腔内速崩壊性を保持したままで、製剤強度のさらに高い固形製剤を得ることができるので好ましい。
【実施例】
【0041】
以下に実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
829gの粉末状のパルプ(無水換算800g)を10L内部撹拌型反応機に仕込み35質量%濃度の苛性ソーダ水溶液621.8gを反応機に仕込み45℃で30分間混合して、無水セルロースに対する苛性ソーダの質量比が0.272、苛性ソーダの質量/水の質量0.502のアルカリセルロースを得た。
次に、窒素置換を実施し、そこにプロピレンオキサイドを108g(無水セルロースに対して0.135質量部)添加して、ジャケット温度60 ℃ で反応を行い、低置換度ヒドキシプロピルセルロース粗反応物を得た。
反応機に10Lの温水に氷酢酸327gを添加し、そこに上記低置換度ヒドキシプロピルセルロース粗反応物を添加して中和を行った。この中和物をバッチ式減圧濾過機にて熱水で洗浄を行った。この脱水物を流動層乾燥機にて吸気80℃ で排気温度60℃になるまで乾燥を行った。
その後、乾燥物を振動ボールミルにて120分粉砕を実施し、粉砕物を目開き75μmの篩にて篩過してヒドロキシプロポキシ基置換度8.4質量%(無水グルコース単位あたりの置換モル数:0.194)、レーザー回折法による平均粒子径47μmの低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを得た。
【0042】
<実施例2>
829gの粉末状のパルプ(無水換算800g)を10L内部撹拌型反応機に仕込み37質量%濃度の苛性ソーダ水溶液631.6gを反応機に仕込み45℃で30分間混合して、無水セルロースに対する苛性ソーダの質量比が0.292、苛性ソーダの質量/水の質量0.547のアルカリセルロースを得た。
次に、窒素置換を実施し、そこにプロピレンオキサイドを104g(無水セルロースに対して0.13質量部)添加して、ジャケット温度60 ℃ で反応を行い、低置換度ヒドキシプロピルセルロース粗反応物を得た。
反応機に10Lの温水に氷酢酸351gを添加し、そこに上記低置換度ヒドキシプロピルセルロース粗反応物を添加して中和を行った。この中和物をバッチ式減圧濾過機にて熱水で洗浄を行った。この脱水物を流動層乾燥機にて吸気80℃で排気温度60℃ になるまで乾燥を行った。
その後、乾燥物を振動ボールミルにて120分粉砕を実施し、粉砕物を目開き75μmの篩にて篩過してヒドロキシプロポキシ基置換度8.2質量%(無水グルコース単位あたりの置換モル数:0.189)、レーザー回折法による平均粒子径49μmの低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを得た。
【0043】
<実施例3>
829gの粉末状のパルプ(無水換算800g)を10L内部撹拌型反応機に仕込み33質量%濃度の苛性ソーダ水溶液473.7gを反応機に仕込み45℃で30分間混合して、無水セルロースに対する苛性ソーダの質量比が0.195、苛性ソーダの質量/水の質量0.451のアルカリセルロースを得た。
次に、窒素置換を実施し、そこにプロピレンオキサイドを100g(無水セルロースに対して0.125質量部)添加して、ジャケット温度60℃で反応を行い、低置換度ヒドキシプロピルセルロース粗反応物を得た。
反応機に10Lの温水に氷酢酸234.5gを添加し、そこに上記低置換度ヒドキシプロピルセルロース粗反応物を添加して中和を行った。この中和物をバッチ式減圧濾過機にて熱水で洗浄を行った。この脱水物を流動層乾燥機にて吸気80℃で排気温度60℃になるまで乾燥を行った。
その後、乾燥物を振動ボールミルにて120分粉砕を実施し、粉砕物を目開き75μmの篩にて篩過してヒドロキシプロポキシ基置換度7.8質量%(無水グルコース単位あたりの置換モル数:0.179)、レーザー回折法による平均粒子径50μmの低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを得た。
【0044】
<実施例4>
829gの粉末状のパルプ(無水換算800g)を10L内部撹拌型反応機に仕込み39質量%濃度の苛性ソーダ水溶液576.7gを反応機に仕込み45℃で30分間混合して、無水セルロースに対する苛性ソーダの質量比が0.281、苛性ソーダの質量/水の質量0.591のアルカリセルロースを得た。
次に、窒素置換を実施し、そこにプロピレンオキサイドを80g(無水セルロースに対して0.10質量部)添加して、ジャケット温度60℃で反応を行い、低置換度ヒドキシプロピルセルロース粗反応物を得た。
反応機に10Lの温水に氷酢酸337.4gを添加し、そこに上記低置換度ヒドキシプロピルセルロース粗反応物を添加して中和を行った。この中和物をバッチ式減圧濾過機にて熱水で洗浄を行った。この脱水物を流動層乾燥機にて吸気80℃で排気温度60℃ になるまで乾燥を行った。
その後、乾燥物を振動ボールミルにて120分粉砕を実施し、粉砕物を目開き75μmの篩にて篩過してヒドロキシプロポキシ基置換度6.2質量%(無水グルコース単位あたりの置換モル数:0.141)、レーザー回折法による平均粒子径47μmの低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを得た。
【0045】
<実施例5>
829gの粉末状のパルプ(無水換算800g)を10L内部撹拌型反応機に仕込み35質量%濃度の苛性ソーダ水溶液1105.3gを反応機に仕込み45℃で30分間混合して、無水セルロースに対する苛性ソーダの質量比が0.484、苛性ソーダの質量/水の質量0.518のアルカリセルロースを得た。
次に、窒素置換を実施し、そこにプロピレンオキサイドを108g(無水セルロースに対して0.135質量部)添加して、ジャケット温度60℃で反応を行い、低置換度ヒドキシプロピルセルロース粗反応物を得た。
反応機に10Lの温水に氷酢酸581gを添加し、そこに上記低置換度ヒドキシプロピルセルロース粗反応物を添加して中和を行った。この中和物をバッチ式減圧濾過機にて熱水で洗浄を行った。この脱水物を流動層乾燥機にて吸気80℃で排気温度60℃ になるまで乾燥を行った。
その後、乾燥物を振動ボールミルにて120分粉砕を実施し、粉砕物を目開き75μmの篩にて篩過してヒドロキシプロポキシ基置換度6.8質量%(無水グルコース単位あたりの置換モル数:0.155)レーザー回折法による平均粒子径45μmの低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを得た。
【0046】
<比較例1>
829gの粉末状のパルプ(無水換算800g)を10L内部撹拌型反応機に仕込み35質量%濃度の苛性ソーダ水溶液138.2gを反応機に仕込み45℃で30分間混合して、無水セルロースに対する苛性ソーダの質量比が0.06、無水セルロースに対する水の質量比0.149、苛性ソーダの質量/水の質量0.407のアルカリセルロースを得た。
次に、窒素置換を実施し、そこにプロピレンオキサイドを120g(無水セルロースに対して0.15質量部)添加して、ジャケット温度60℃で反応を行い、低置換度ヒドキシプロピルセルロース粗反応物を得た。
反応機に10Lの温水に氷酢酸72gを添加し、そこに上記低置換度ヒドキシプロピルセルロース粗反応物を添加して中和を行った。この中和物をバッチ式減圧濾過機にて熱水で洗浄を行った。この脱水物を流動層乾燥機にて吸気80℃で排気温度60℃になるまで乾燥を行った。
その後、乾燥物を振動ボールミルにて120分粉砕を実施し、粉砕物を目開き75μmの篩にて篩過してヒドロキシプロポキシ基置換度8.7質量%(無水グルコース単位あたりの置換モル数:0.201)レーザー回折法による平均粒子径51μmの低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを得た。
【0047】
<比較例2>
特許文献2の実施例記載の方法と同様に、ウッドパルプを49%濃度の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬後、圧搾して無水セルロースに対する苛性ソーダの質量比が0.491、苛性ソーダの質量/水の質量0.897のアルカリセルロースを得た。
1632gの上記アルカリセルロース(無水セルロース換算800g)を10L内部撹拌型反応機に仕込み、窒素置換を実施し、そこにプロピレンオキサイドを80g(無水セルロースに対して0.1質量部)添加して、ジャケット温度60℃で反応を行い、低置換度ヒドキシプロピルセルロース粗反応物を得た。
バッチ式ニーダーに温水4000g、氷酢酸58gを張り込み上記粗反応物を全量投入して溶解を行った。その後、30%酢酸1772gを一定速度で添加して中和析出を行った。この中和物をバッチ式減圧濾過機にて熱水で洗浄を行った。この脱水物を流動層乾燥機にて吸気80℃で排気温度60℃になるまで乾燥を行った。
その後、乾燥物を高速回転型衝撃粉砕機にて粉砕を実施し、粉砕物を目開き75μmの篩にて篩過してヒドロキシプロポキシ基置換度5.8質量%(無水グルコース単位あたりの置換モル数:0.131)、レーザー回折法による平均粒子径は45μmの低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを得た。
【0048】
<比較例3>
特許文献1の実施例記載の方法と同様に、829gの粉末状のパルプ(無水換算800g)を10L内部撹拌型反応機に仕込み26質量%濃度の苛性ソーダ水溶液323.6gを反応機に仕込み45℃で30分間混合して、無水セルロースに対する苛性ソーダの質量比が0.105、無水セルロースに対する水の質量比0.336、苛性ソーダの質量/水の質量0.313のアルカリセルロースを得た。
次に、窒素置換を実施し、そこにプロピレンオキサイドを135g(無水セルロースに対して0.169質量部)添加して、ジャケット温度60℃で反応を行い、低置換度ヒドキシプロピルセルロース粗反応物を得た。
反応機に10Lの温水に氷酢酸126g を添加し、そこに上記低置換度ヒドキシプロピルセルロース粗反応物を添加して中和を行った。この中和物をバッチ式減圧濾過機にて熱水で洗浄を行った。この脱水物を流動層乾燥機にて吸気80℃で排気温度60℃になるまで乾燥を行った。
その後、乾燥物を遊星ボールミルにて60分粉砕を実施し、粉砕物を目開き75μmの篩にて篩過してヒドロキシプロポキシ基置換度11.8質量%(無水グルコース単位あたりの置換モル数:0.28)、レーザー回折法による平均粒子径は45μmの低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを得た。
【0049】
実施例1〜5、比較例1〜3によって得られた低置換度ヒドキシプロピルセルロースについて、下記に示す方法にて結晶化度、アスペクト比、水分散液粘度、最大膨潤力、膨潤速度、服用性を評価し、その結果を表1に示した。
<結晶化度の測定>
広角粉末X線回折測定装置MX−Labo(Bruker社製)にてCu−Kα線(30kV,40mA)、走査角度域2θ:10°〜40°走査速度:2°/minの条件で測定を行った。 結晶化度(%)={(Ic−Ia)/Ic}×100 (1)
2θ=22.5°(Icとする。)の002面の回折ピークと非晶部の回折ピークである2θ=18.5°(Iaとする。)の回折強度から、上記式(1)より結晶化度を算出した。
【0050】
<アスペクト比の測定>
デジタルマイクロスコープVHX−200(キーエンス社製)にて、倍率75倍で100個の粒子の長径と短径を測定し、次式によりアスペクト比を算出し、その平均値を求めた。アスペクト比は、長径/短径の比である。
【0051】
<最大膨潤力、膨潤速度の測定>
テクスチャーアナライザーTA−XTplus(SMS社製)を用いて下記条件にて膨潤力を測定し、経時的に増加した後の一定になった値を最大膨潤力として測定した。また、最大膨潤力到達までの時間を測定し、次式にて膨潤速度を算出した。
膨潤速度(N/秒)=最大膨潤力/最大膨潤力到達までの時間
試料量:1g、測定プログラム:HLDD、吸水断面積:5.31cm、プレテストスピード:2.0mm/秒、テストスピード:1.0mm/秒、ポストテストスピード:10mm/秒、フォース:20g、トリガーフォース:5g
【0052】
<水分散液粘度の測定>
20℃にて純水225gにサンプル25gを添加後10分間攪拌して10質量%濃度の水分散液を調整した。20℃にてB型粘度計にて、回転数30rpmで2分後の値を測定した。
【0053】
<服用性の評価>
健康な成人6人に試料0.5gを投与して、口当たりの良さを評価した。粉っぽく、パサツキ感を感じた人の数を評価した。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例1〜5は比較例1〜3に対して、最大膨潤力が高く、膨潤速度が速いことが分かった。
そこで、ヒドロキシプロポキシ基置換度が同等で結晶化度の異なる実施例1〜3、比較例1で最大膨潤力及び膨潤速度を比較してみると、図1のように結晶化度60%以下の実施例1〜3では比較例1と比較して高い最大膨潤力及び膨潤速度を示した。この結晶化度が最大膨潤力、膨潤速度を決定する重要な特性であることがわかった。
また、圧密摩砕方式で粉砕された実施例1〜5は、衝撃粉砕方式である比較例2(特許文献2に相当)と比較してアスペクト比が小さく、流動性に優れ、水分散液粘度が低く、口腔内での服用性に優れるものであった。また、比較例3(特許文献1に相当)は、圧密摩砕方式で粉砕されているためアスペクト比が小さいが、ヒドロキシプロポキシ基置換度が11.8%と高いため、水分散液粘度が高く、口腔内での服用性に劣るものであった。
【0056】
<実施例6>
実施例1の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを結合剤、崩壊剤として用いて流動層造粒を実施し、口腔内速崩壊錠の製造を試みた。
下記組成の実施例1の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの水分散液を粉体に下記条件にてスプレー造粒を行った。
【0057】
【表2】

【0058】
次に得られた顆粒100部に対してステアリン酸マグネシウム0.5部を添加混合後、下記条件にて連続打錠を実施した。
【0059】
【表3】

【0060】
各打錠圧で得られた錠剤の硬度を自動錠剤物性測定装置TM−5(菊水製作所社製)を用いて測定し、純水における崩壊時間を日本薬局方崩壊試験法にて評価を行った。その結果を図2に示した。また、錠剤硬度が70〜75Nになるように打錠圧を調整して錠剤を作製した。その錠剤の口腔内崩壊時間、服用性について下記方法にて評価を行った。その結果を表4に示した。
【0061】
<口腔内崩壊時間の測定及び服用性の評価>
健康な成人6人に対して錠剤を投与し、口腔内で錠剤が崩壊するまでの時間を測定し、その平均値を求めた。また、服用時の口当たりの良さも併せて評価を実施した。
【0062】
<実施例7>
実施例3の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを結合剤、崩壊剤として用いて流動層造粒を実施し、口腔内速崩壊錠の製造を試みた。
実施例6と同様の条件で実施例1の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを実施例3に代え、造粒及び打錠を実施した。
各打錠圧で得られた錠剤の硬度を自動錠剤物性測定装置TM−5(菊水製作所社製)を用いて測定し、純水における崩壊時間を日本薬局方崩壊試験法にて評価を行った。その結果を図2に示した。また、錠剤硬度が70〜75Nになるように打錠圧を調整して錠剤を作製した。その錠剤の口腔内崩壊時間、服用性について下記方法にて評価を行った。その結果を表4に示した。
【0063】
<比較例4>
比較例2の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを結合剤、崩壊剤として用いて流動層造粒を実施し、口腔内速崩壊錠の製造を試みた。
実施例6と同様の条件で実施例1の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを比較例1に代え、造粒及び打錠を実施した。
各打錠圧で得られた錠剤の硬度を自動錠剤物性測定装置TM−5(菊水製作所社製)を用いて測定し、純水における崩壊時間を日本薬局方崩壊試験法にて評価を行った。その結果を図2に示した。また、錠剤硬度が70〜75Nになるように打錠圧を調整して錠剤を作製した。その錠剤の口腔内崩壊時間、服用性について下記方法にて評価を行った。その結果を表4に示した。
【0064】
<比較例5>
比較例3の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを結合剤、崩壊剤として用いて流動層造粒を実施し、口腔内速崩壊錠の製造を試みた。
実施例6と同様の条件で実施例1の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを比較例2に代え、造粒及び打錠を実施した。
各打錠圧で得られた錠剤の硬度を自動錠剤物性測定装置TM−5(菊水製作所社製)を用いて測定し、純水における崩壊時間を日本薬局方崩壊試験法にて評価を行った。その結果を図2に示した。また、錠剤硬度が70〜75Nになるように打錠圧を調整して錠剤を作製した。その錠剤の口腔内崩壊時間、服用性について下記方法にて評価を行った。その結果を表4に示した。
図2より、実施例6、7は、比較例4、5と比較して、膨潤力が高く、膨潤速度が速いため、高い錠剤硬度においても優れた速崩壊性を示した。表4より、実施例6、7は、比較例4、5と比較して、口腔内における崩壊時間が短く、服用性にも優れるものであり、口腔内速崩壊錠として有用であることが示された。
本発明の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースはヒドロキシプロポキシ基置換度が5〜9質量%であり、結晶化度が60%以下であることにより、膨潤力が高く、膨潤速度が速いことにより、優れた崩壊性を示したものと考えられる。また、アスペクト比が2.5未満であることにより口腔内での服用性に優れるものが得られたものと考えられる。
【0065】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
広角X線回折法により測定された回折強度から、下記式(1)
結晶化度(%)={(Ic−Ia)/Ic}×100 (1)
(上式中、Icは回折角2θ=22.5度における回折強度であり、Iaは回折角2θ=18.5度における回折強度である。)
より算出される結晶化度が60%以下であり、ヒドロキシプロポキシ基置換度が5〜9質量%であり、アスペクト比が2.5未満である低置換度ヒドロキシプロピルセルロース。
【請求項2】
20℃における10質量%低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの水分散液粘度が、50mPa・s以下である請求項1に記載の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含有してなる固形製剤。
【請求項4】
口腔内速崩壊性固形製剤である請求項3に記載の固形製剤。
【請求項5】
粉末化したパルプと苛性ソーダ水溶液を、(a)無水セルロースに対する苛性ソーダの質量を0.15〜0.50とし、(b)水の質量に対する苛性ソーダの質量の比(苛性ソーダの質量/水の質量)を0.45〜0.60として混合してアルカリセルロースを得る工程と、
得られたアルカリセルロースをプロピレンオキシドと反応させて低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを得る工程と、
得られた低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを粉砕機にて圧密後粉砕するか又は圧密しながら粉砕する圧密摩砕を行う粉砕工程と
を少なくとも含んでなる請求項1又は請求項2に記載の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−195665(P2011−195665A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62484(P2010−62484)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】