説明

低融点金属ナノ粒子の製造方法

【課題】低融点金属のナノ粒子を高真空容器を必要とせず製造でき、金属組成比の安定した合金ナノ粉末の得ることができる低融点金属ナノ粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】容器中に、固体または液体の低融点金属と、非水系溶媒と、直径0.015mm〜5mmの粉砕用ボールとを入れ、混合物を得る工程と、前記混合物を前記低融点金属の融点−5℃〜前記低融点金属の融点+20℃に加熱し、攪拌する工程と、攪拌後の前記混合物から粉砕用ボールを分離して、低融点金属ナノ粒子と非水系溶媒の混合物を得る工程と、前記低融点金属ナノ粒子と非水系溶媒の混合物を固液分離して、低融点金属ナノ粒子を得る工程を有する、低融点金属ナノ粒子の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒径が微細である低融点金属ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に金属粒子は粒径を小さくし、粒径が、数十ナノメートル(10−9m)以下になると、バルク金属とは異なる特性を発現することが知られている。特に、金属粒子の場合は、融点がバルク状態のものに比べ劇的に低下することが知られている。そのため、粒径がサブミクロン(0.1μm超)である金属粒子では、高温でしか溶融しなかったようなものでも、粒径が、数十ナノメートル以下の金属粒子の場合には、より低温に加熱することで、溶融させることができる。この性質を利用して、低温で溶融し、金属配線を形成することができる銀ナノ粒子(平均粒径が数十ナノメートルの銀粒子)が実用化されている。
【0003】
前記の銀ナノ粒子粉末をペースト化し、導電性ペーストを作成し、塗布・焼成することにより、金属配線を形成することができるが、この場合、導電性の高い金属配線を得るためには、焼成温度を120℃程度以上とすることが必要であった。
【0004】
もし、100℃未満、好ましくは80℃程度以下の低い温度で焼結させることのできる導電性ペーストが簡便な手法で生産可能になれば、その用途は著しく拡大することが期待できる。例えば、ガラス転位温度が低いPET(ポリエチレンテレフタレート)基板上に微細配線を描画した安価なアンテナや、紙を素材にしたICタグなども、より容易に実現可能になると考えられる。さらに、導電性高分子へ直接金属配線を描画することも可能になると考えられ、各種電極材等の用途が広がることが期待される。
【0005】
銀ナノ粒子粉末を用いた導電ペーストでは、バルクとしての銀の融点が高いために、導電性の高い金属配線を得るために必要な焼結温度を更に低下させることは困難であることが予想される。更に低い温度で焼結させることのできる導電性ペーストを得る方法として、低融点金属のナノ粒子粉末を導電性ペーストに配合することが考えられる。低融点金属のナノ粒子を得る方法として、特許文献1にインジウム類の気体を低蒸気圧液体に接触させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−240968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の方法では、低融点金属であるインジウムのナノ粒子を得ることができるが、インジウムを気体とし、低蒸気圧液体に接触させる環境を、10−1Pa以下の高真空とする必要があり、高価な設備を必要とする。また、高真空容器が必要なことから、スケールアップすることが容易ではないと考えられ、製造コスト、生産性の点で改善の余地があった。また、2種類以上の金属元素を含む合金のナノ粒子を製造しようとする場合、固体または液体の金属を気体とする際に、安定した金属元素組成比をもつ金属気体を得ることが難しく、金属組成比の安定した合金ナノ粉末の得ることが困難であると考えられた。
【0008】
そこで、本発明の目的は、低融点金属のナノ粒子を高真空容器を必要とせず製造でき、金属組成比の安定した合金ナノ粉末の得ることができる低融点金属ナノ粒子の製造方法を提供することにある。なお、本発明では、融点が25℃以上(室温で固体)であり、300℃以下である金属を低融点金属と称する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究の結果、容器中に、固体または液体の低融点金属と、非水系溶媒と、直径0.015mm〜5mmの粉砕用ボールとを入れ、混合物を得て、前記混合物を前記低融点金属の融点と比較して5℃低い温度から20℃高い温度範囲内に加熱し、攪拌した後、前記混合物から粉砕用ボールを分離して、低融点金属のナノ粒子と非水系溶媒の混合物を得て、前記低融点金属のナノ粒子と非水系溶媒の混合物を固液分離することにより、平均粒径3nm以上、50nm未満の低融点金属のナノ粒子を得られることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かかる知見に基づく本発明によれば、容器中に、固体または液体の低融点金属と、非水系溶媒と、直径0.015mm〜5mmの粉砕用ボールとを入れ、混合物を得る工程と、前記混合物を前記低融点金属の融点−5℃〜前記低融点金属の融点+20℃に加熱し、攪拌する工程と、攪拌後の前記混合物から粉砕用ボールを分離して、低融点金属ナノ粒子と非水系溶媒の混合物を得る工程と、前記低融点金属ナノ粒子と非水系溶媒の混合物を固液分離して、低融点金属ナノ粒子を得る工程を有する、低融点金属ナノ粒子の製造方法が提供される。
【0011】
上記低融点金属ナノ粒子の製造方法において、前記低融点金属が、In、Ga、Bi、Snの群から選択される1種以上であってもよい。また、前記非水系溶媒はアルデヒド基またはヒドロキシ基を有する有機溶媒であってもよい。また、前記非水系溶媒は一級アミノ基、または二級アミノ基、または三級アミノ基の内の少なくとも一種以上を含む有機溶媒であってもよい。
【0012】
また、前記攪拌する工程は、攪拌羽根を周速200cm/秒〜200000cm/秒で回転させることにより行われてもよい。また、前記固液分離を遠心分離により行ってもよい。また、前記低融点金属のナノ粒子と非水系溶媒の混合物を固液分離した後、低融点金属のナノ粒子を沸点150℃以下の有機溶媒で洗浄してもよい。また、前記金属の体積が、前記非水系溶媒の体積の0.1体積%〜20体積%であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、平均粒径が50nm未満と小さい低融点金属のナノ粒子を高真空容器を必要とせず製造でき、金属組成比の安定した合金ナノ粉末の得ることができる低融点金属ナノ粒子の製造方法を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例1における測定結果を示す図である。
【図2】本発明の実施例1における観察結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本実施の形態は本発明を限定するものではない。
【0016】
<低融点金属ナノ粒子の金属組成>
本発明における低融点金属ナノ粒子の金属組成としては、融点が25℃〜300℃の範囲内である金属および前記金属の合金を用いることが可能である。具体的な金属元素としては、In、Ga、Bi、Sn、とこれらの金属2種以上からなる合金が挙げられる。これらの金属または合金は低融点であり、溶媒中で攪拌する本発明の製造方法を適用する上で、有利である。前記の金属または合金は、必要に応じて、融点25℃〜300℃の範囲外とならない範囲で、他の金属元素を含んでもよい。
【0017】
<低融点金属ナノ粒子の平均粒径>
低融点金属ナノ粒子の平均粒径は、3nm以上、50nm未満であることが好ましい。50nm以上の場合には、焼結温度を十分低くできない場合があり、3nm未満の低融点金属ナノ粒子は、表面活性が高く、酸化等の変質による問題が生じることがある。焼結温度を十分低くする観点から、低融点金属ナノ粒子の平均粒径は、30nm未満とすることが更に好ましく、20nm以下とすることが一層好ましい。
【0018】
本発明によれば、平均粒径50nm未満の低融点金属ナノ粒子は、以下の(1)〜(4)に示す工程を経ることにより、製造することができる。
(1)容器中に、固体または液体の金属と、非水系溶媒と、直径0.015mm〜5mmの粉砕用ボールとを入れ、混合物を得る工程。
(2)前記混合物を前記金属の融点より5℃低い温度(融点−5℃)〜前記金属の融点よ
り20℃高い温度(融点+20℃)に加熱し、攪拌する工程。
(3)前記混合物から粉砕用ボールを分離して、低融点金属ナノ粒子と非水系溶媒の混合物を得る工程。
(4)前記低融点金属ナノ粒子と非水系溶媒の混合物を固液分離して、低融点金属ナノ粒子を得る工程。
必要に応じて、得られた低融点金属ナノ粒子に対して、洗浄、乾燥等を行ってもよい。
【0019】
<原料金属>
低融点金属ナノ粒子の原料金属としては、得ようとする低融点金属ナノ粒子と同一の金属組成を持つ、例えば、In、Ga、Bi、Sn、とこれらの金属2種以上からなる合金を使用することができる。
【0020】
<非水系溶媒>
本発明での非水系溶媒とはその沸点が、原料金属(バルク)の融点以上であるものが好適である。例えば、原料金属が、Inの場合には、非水系溶媒の融点は156.6℃以上が好適であり、例えば、原料金属が、Biの場合には、非水系溶媒の融点は271.3℃以上が好適である。非水系溶媒の沸点が、原料金属(バルク)の融点と比較して10℃以上高いものが特に好適であり、20℃以上高いものが特に好適である。後述するように、低融点金属ナノ粒子を得るためには、非水系溶媒として得ようとする低融点金属ナノ粒子の融点よりも高い沸点を持つものが好ましいが、攪拌をおこなう容器に圧力容器を用いることにより、雰囲気圧力を上げ、常圧の沸点が原料金属(バルク)の融点より低い非水系溶媒でも、使用が可能である。しかしながら製造装置に耐圧性能が必要となるので、沸点は、得ようとする原料金属(バルク)の融点よりも10℃以上高いことが望ましい。更に非水系溶媒として、低融点金属ナノ粒子が酸素と反応して、表面に酸化物を形成しやすいために、還元性を有する溶媒であることが更に好ましい。
【0021】
例えば、このような非水系溶媒の一例として、沸点が150℃から400℃の範囲のアルコール系溶媒が挙げられる。具体的には、非水系溶媒として、一価アルコール、または二価アルコールのグリコールがある。一価アルコールとしては、例えば、ブチルアルコール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコール、ノニルアルコール、シクロペンタノール、ベンジルアルコール、シンナミルアルコール等がある。グリコール系の溶媒としては、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ベンズピナコール、ヒドロベンゾイル、シクロペンダジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、グリコール酸アミド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート等があり、分子量の大きいものではポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールエステル、ポリエチレングリコールエーテルがある。特にグリコール、ジオール系のものは水酸基を二つ持つものであるため、極性を持ち、粉の分散性に寄与するので望ましい。このような溶媒としては、例えば−CH2−CHOH、または−CHR−CHOH、−CR1R2−CHOH、=CHCHOH、=CRCHOH(R、R1、R2:側鎖)を分子中に含まれるもので、且つ溶媒の沸点は少なくとも100℃以上のものである。更にはアルデヒド基−CHOを持つ有機化合物も同様な効果を持ち、例えば、脂肪族飽和アルデヒドとして、ラウリンアルデヒド、トリデシルアルデヒド、ミリスチンアルデヒド、カプロンアルデヒド、ヘプトアルデヒド、ペンタデシルアルデヒド、パルミチンアルデヒド、マルガリンアルデヒド、ステアリンアルデヒドが挙げられ、脂肪族ジアルデヒドとしては例えばスクシンジアルデヒドがあり、脂肪族不飽和アルデヒドとして、クロトンアルデヒド、更には芳香族アルデヒドには、ベンズアルデヒド、トルアルデヒド、サリチルアルデヒド、シンナムアルデヒド、ナフトアルデヒド等があり、複素環式アルデヒドにはフルフラールが挙げられる。アミン系の還元性溶媒としては、ヘキシルアミン、ヘブチンアミン、オクチルアミン、ウンデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、セチルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、ナフチルアミン、トルイジン等がある。
【0022】
<粉砕用ボール>
本発明に用いる粉砕用ボールとしては、材質としてセラミックス系を用いたアルミナボール、ジルコニアボール、ムライトボール、ガラスボール、金属系のステンレスボールや鉄ボール等を使用することができ、特に材質に制限はないが、粉砕用ボールの材質として、耐久性が高く、低融点金属ナノ粒子への不純物の混入が少ない利点のある、ジルコニア、アルミナが特に好適である。
【0023】
粉砕用ボールは、粒径が0.015mm〜5mmであることが好ましい。粒径5mm超の粉砕用ボールのみを使用すると、目的とする微細な粒径を持つ低融点金属ナノ粒子を得ることが難しくなり、粒径0.015mm未満の粉砕用ボールのみを使用すると、攪拌後の固液分離に時間を要することがある。より粒径の小さい低融点金属ナノ粒子を容易に得るためには、粉砕用ボールの粒径は、0.05〜3mmが更に好ましく、0.1〜1mmが一層好ましく、0.1〜0.5mmが更に一層好ましい。粉砕用ボールを大きな粒径のものと小さな粒径のものとを組み合わせて使用することも可能である。この場合には、大きなボールサイズは特に粒径5mmにこだわる必要はなく、例えば、粒径10mmでも良い。少なくとも粒径0.015mm〜5mmの粉砕用ボールが50質量%入っていることが必要である。
【0024】
粉砕用ボールの表面に、低融点金属が付着しにくい材質であるダイヤモンドライクカーボン(DLC)やB,C,N等の化合物を形成することができる。
【0025】
<混合物の体積比>
前記混合物の体積比は、用いる非水系溶媒の体積に対して、金属原料は、0.05体積%〜20体積%が好ましく、0.1体積%〜10体積%が一層好ましい。粉砕用ボールは、用いる非水系溶媒の体積に対して、20体積%〜600体積%が好ましい。金属原料が0.1体積%未満の場合、生産性が低くなり、20体積%超の場合には、得られる低融点金属ナノ粒子の粒径が十分小さくならないことがある。粉砕用ボールが20体積%未満の場合には、得られる低融点金属ナノ粒子の粒径が十分小さくならないことがあり、600体積%超の場合は、粉砕用ボールの表面に原料用金属が多く付着した状態となることがある。前記混合物を容器中で静置したときに、前記粉砕用ボールの上面と前記非水系溶媒の上面の高さが、略同一となるように、前記粉砕用ボールの前記非水系溶媒に対する体積比率を調整することにより、低融点金属ナノ粒子が得やすくなるので、更に好ましい。
【0026】
<加熱・攪拌工程>
前記金属原料と、前記非水系溶媒と、前記粉砕用ボールの混合物を加熱・攪拌することにより、平均粒径が3nm以上、50nm未満である低融点金属ナノ粒子を生成することができる。
【0027】
加熱・攪拌する雰囲気は、不活性ガスまたは還元性ガスとすることが好ましい。雰囲気を空気とした場合、生成した低融点金属ナノ粒子の表面に厚い酸化膜が生成することがあり、雰囲気中の酸素濃度は低いほうが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等が挙げられ、還元性ガスとしては、水素または水素と不活性ガスの混合ガスが挙げられる。
【0028】
加熱・攪拌する際、混合物の加熱温度は、使用する金属原料(バルク)の融点より高い温度とすればよいが、前記融点より5℃低い温度〜前記融点より20℃高い温度に加熱することが好ましい。より好ましくは、前記融点と同じ温度〜前記融点より15℃高い温度とすればよい。また、さらに好ましくは、前記融点より5℃高い温度〜前記融点より10℃高い温度とすればよい。使用する原料金属(バルク)の融点近傍の温度で加熱・攪拌を行うことで低融点金属ナノ粒子の収率(低融点金属ナノ粒子収量/金属原料投入量)が好適なものとなる。前記加熱温度は、使用する非水系溶媒の沸点(加圧下で加熱・攪拌する場合には、該加圧下での沸点)未満の温度とする。
【0029】
攪拌は、攪拌羽根を回転することにより行うことができ、ミル等の粉砕用ボールを用いることができる粉砕機を用いて行ってもよい。回転数等の粉砕条件は、混合物の内容と得ようとする低融点金属ナノ粒子の平均粒径に応じて、適宜選択すれば良く、攪拌羽根等の回転数を上昇させることにより、得られる低融点金属ナノ粒子の平均粒径を小さくすることができる。例えば、攪拌羽根を用いる場合、その回転数は、100〜100000rpmの範囲、攪拌羽根の周速は、100〜5000cm/secの範囲に設定することができる。
【0030】
<粉砕用ボールの分離>
加熱・攪拌後、混合物は、攪拌をおこなった状態で、原料金属(バルク)の融点より10℃以上低い温度まで冷却する。その後、混合物から粉砕用ボールをメッシュを通す等の公知の手段により分離して、低融点金属ナノ粒子と非水系溶媒の混合物を得る。
【0031】
<固液分離>
前記工程で得られた低融点金属ナノ粒子と非水系溶媒の混合物の固液分離をおこなう。固液分離は、遠心分離によりおこなうことができる。なお、用いた非水系溶媒が、低融点金属ナノ粒子の分散媒として支障ない場合には、必ずしも固液分離をおこなわなくてもよい。前記固液分離で得られた固体中に、低融点金属ナノ粒子が凝集したものが存在していることがある。この場合には、前記固体を溶媒に分散させて、超音波照射することにより、凝集を分散させることができる。前記超音波照射は、超音波洗浄装置を用い、1分間以上処理することができる。前記処理は、1分間〜1時間とすることができる。また、前記固体を溶媒に分散させて、500rpm〜1500rpm程度の条件で遠心分離をおこなうことにより、低融点金属ナノ粒子が凝集したものを分離することができる。
【0032】
<洗浄・乾燥>
固液分離した金属ナノ粒子は、溶媒で洗浄することができる。前記溶媒としては、メタノール、エタノール等の低沸点であるアルコールの有機溶媒が好適な例としてあげられる。洗浄後、真空乾燥等の高温加熱をおこなわない方法で乾燥することにより、使用した非水系溶媒の残留が少ない低融点金属ナノ粒子粉末を得ることができる。
【実施例】
【0033】
実施例1〜6として本発明にかかる低融点金属ナノ粒子の製造方法によって低融点金属ナノ粒子を製造し、製造された低融点金属ナノ粒子についての測定・観察を行った。また、比較例1、2として、本発明の要件である、混合物をその混合物の材料である低融点金属の融点−5℃〜前記低融点金属の融点+20℃でもって加熱・攪拌を行うという条件を、本発明要件の範囲外に変更した状態で低融点金属ナノ粒子の製造を試みた。
【0034】
[実施例1]
6Nのインジウムを10g秤量し、このインジウムを500mLのセパラブルフラスコに投入した。前記インジウムの融点を示差走査熱量計(DSC)(株式会社リガク製、Thermoplus DSC8230)で測定した結果、融点は、157℃であった。次に0.3mmΦのジルコニアボール1kgを前記セパブルフラスコに投入し、更に、テトラエチレングリコール300mLを投入して、混合物を得た。この後、セパラブルフラスコの上蓋をして密封し、窒素ガスを100mL/minで流し、10分間ガス置換をした。次に、セパブルフラスコ内に設置してあった回転径が6cmのステンレス製の攪拌羽根を700rpm回転させることにより攪拌をおこなった状態で、混合物を161℃(加熱温度)まで加熱した。なお、混合物の温度は、セパブルフラスコ内に設置された熱電対により測定した。混合物を前記加熱温度で5時間保持した後、前記攪拌状態を維持したまま、前記混合物を5℃/minの冷却速度で冷却した。混合物が40℃以下になった段階で攪拌羽根の回転を止めた。次にこの混合物を250メッシュのナイロン生地の網を通過させて、0.3mmΦのジルコニアボールを混合物から分離した。ろ過された側には低融点金属ナノ粒子が分散した溶媒(テトラエチレングリコール)が回収された。
【0035】
テトラエチレングリコールを洗浄除去するために、前記低融点金属ナノ粒子が分散した溶媒を3500rpm、3時間の処理条件で遠心分離して固液分離し、上澄みの液体を除去して、固形分を回収した。この後、下記の要領で、洗浄を行った。回収した固形分を500mLのエタノールと1時間攪拌混合し、再分散した後、3500rpm、3時間の処理条件で遠心分離して固液分離し、上澄みの液体を除去する操作を3回繰り返し、エタノールを少量含む固形分を得た。
【0036】
前記エタノールを少量含む固形分を乾燥後、X線回折装置(株式会社リガク製、RINT−1200)を用いて、X線回折測定をおこなった。測定結果を図1に示す。検出されたピーク位置は、Inと一致しており、Inと一致していなかった。このことから、得られた粒子粉末は、In粒子粉末であることが確認された。
【0037】
前記エタノールを少量含む固形分0.1gを分取して、エタノール50mLに添加した後、超音波洗浄装置を用いて10分間処理し、分散させた。この分散液を乾燥し、TEM(透過型電子顕微鏡、40万倍)で観察した結果を図2に示す。8nm前後のナノ粒子が生成していることがわかった。
【0038】
前記で得られたTEM像から低融点金属ナノ粒子の平均粒径を求めた。本発明では、低融点金属ナノ粒子の平均粒子径としてTEM(透過型電子顕微鏡)により求まる平均粒子径DTEMを採用する。本発明では、TEMにより倍率400,000倍で観察される粒子のうち、重なっていない独立した50個の粒子径(長軸径)を計測して、平均粒子径を算出する。平均粒径の結果を表1に示す。
【表1】

【0039】
[実施例2]
加熱温度を161℃から156℃、166℃に変更した以外は、実施例1と同様に低融点金属ナノ粒子の生成と測定を試みた。得られた低融点金属ナノ粒子の平均粒径を表1に示す。156℃、166℃の場合とも、X線回折の結果は実施例1と同様であった。
【0040】
[比較例1]
加熱温度を161℃から150℃、180℃に変更した以外は、実施例1と同様に低融点金属ナノ粒子の生成を試みた。大粒径のIn粒子が生成して、混合物を250メッシュのナイロン生地の網を通過させる際に、ほとんど通過することができず、低融点金属ナノ粒子は得られなかった。
【0041】
[実施例3]
使用する原料金属を6Nのインジウムから6Nのガリウムに変更し、加熱温度を161℃から35℃に変更した以外は、実施例1と同様に低融点金属ナノ粒子の生成と測定を試みた。得られた低融点金属ナノ粒子の平均粒径を表2に示す。X線回折の結果、Gaのピーク位置と一致するピークが確認された。
【0042】
[実施例4]
加熱温度を35℃から29℃、40℃に変更した以外は、実施例3と同様に低融点金属ナノ粒子の生成と測定を試みた。得られた低融点金属ナノ粒子の平均粒径を表2に示す。
【表2】

【0043】
[比較例2]
加熱温度を35℃から24℃、50℃に変更した以外は、実施例3と同様に低融点金属ナノ粒子の生成を試みた。大粒径のGa粒子が生成して、混合物を250メッシュのナイロン生地の網を通過させる際に、ほとんど通過することができず、低融点金属ナノ粒子は得られなかった。
【0044】
[実施例5]
使用する原料金属を6Nのインジウムからビスマスに変更し、加熱温度を161℃から276℃に変更した以外は、実施例1と同様に低融点金属ナノ粒子の生成と測定を試みた。得られた低融点金属ナノ粒子の平均粒径を表3に示す。X線回折の結果、Biのピーク位置と一致するピークが確認された。
【0045】
[実施例6]
加熱温度を276℃から271℃、281℃に変更した以外は、実施例5と同様に低融点金属ナノ粒子の生成と測定を試みた。得られた低融点金属ナノ粒子の平均粒径を表3に示す。
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、粒径が微細である低融点金属ナノ粒子の製造方法に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器中に、固体または液体の低融点金属と、非水系溶媒と、直径0.015mm〜5mmの粉砕用ボールとを入れ、混合物を得る工程と、
前記混合物を前記低融点金属の融点−5℃〜前記低融点金属の融点+20℃に加熱し、攪拌する工程と、
攪拌後の前記混合物から粉砕用ボールを分離して、低融点金属ナノ粒子と非水系溶媒の混合物を得る工程と、
前記低融点金属ナノ粒子と非水系溶媒の混合物を固液分離して、低融点金属ナノ粒子を得る工程を有する、低融点金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記低融点金属が、In、Ga、Bi、Snの群から選択される1種以上である、請求項1に記載の低融点金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記非水系溶媒はアルデヒド基またはヒドロキシ基を有する有機溶媒である、請求項1または2に記載の低融点金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記非水系溶媒は一級アミノ基、または二級アミノ基、または三級アミノ基の内の少なくとも一種以上を含む有機溶媒である、請求項1または2に記載の低融点金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記攪拌する工程は、攪拌羽根を周速200cm/秒〜200000cm/秒で回転させることにより行われる、請求項1〜4のいずれかに記載の低融点金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記固液分離を遠心分離により行う、請求項1〜5のいずれかに記載の低融点金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記低融点金属ナノ粒子と非水系溶媒の混合物を固液分離した後、低融点金属ナノ粒子を沸点150℃以下の有機溶媒で洗浄する、請求項1〜6のいずれかに記載の低融点金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前記低融点金属の体積が、前記非水系溶媒の体積の0.1体積%〜20体積%である、請求項1〜7のいずれかに記載の低融点金属ナノ粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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