説明

低誘虫性基材および低誘虫性基材を用いた照明器具

【課題】比較的薄膜で、紫外線の吸収能を向上できるとともに、耐久性・耐候性の高い低誘虫性基材および低誘虫性基材を用いた照明器具を提供する。
【解決手段】アクリル樹脂系塗料と,2〜8wt%の蛍光増白剤と,10〜60wt%の紫外線吸収剤とを有する低誘虫性樹脂が、透光性基材に塗布され、波長300〜395nmの光を略100%カットし、波長405nm以上の光の平均透過率が50%以上である。この低誘虫性基材は、比較的薄膜で、可視光線の吸収率を低くでき、かつ紫外線の吸収能を向上できるとともに、耐久性・耐候性を高くできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘虫性基材および低誘虫性基材を用いた照明器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、透光性バインダ等に無機系微粉末や有機系紫外線吸収剤を混合して得られる塗料を塗装した基材で照明器具のカバー等を作製することによって、光源から出る紫外線をカットし、照明器具へ虫が誘引されることを抑制する技術が知られている。この場合、照明器具としての機能に影響を与えることなく、虫の誘引を十分に抑制するためには、低誘虫性基材の塗膜として、黄味がない、300〜405nmの波長域の紫外線光の大部分をカットする、耐久性・耐候性に優れる、可視光域(特に波長555nm付近)の光の透過率が高い等の条件が要求される。
【0003】
従来、上記のような塗膜を形成する塗料として、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤を含む窓ガラス用塗料が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、ヒンダードアミン系光安定基を有するアクリル樹脂、シランカップリング剤、そして無黄変タイプのポリイソシアネートを配合した超耐候性塗料組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
また、蛍光増白剤を含有した紫外線吸収フィルム、または蛍光増白剤とバインダーを含有するものをフィルムに塗布して紫外線を吸収するフィルム材が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−138664号公報(2頁右上欄)
【特許文献2】特許第3516833号公報(請求項1、段落0005)
【特許文献3】特許第3956007号公報(請求項1、段落0008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の特許文献1の技術においては、ベンゾンフェノン系紫外線吸収剤を含有させるだけでは、長波長紫外線の吸収能が不足し、また耐久性や耐光性が十分に得られず、また紫外線吸収剤のブリードアウトにより紫外線の吸収能が低下してしまうという問題があった。
【0006】
また、特許文献2の技術においては、樹脂と紫外線吸収剤とを共重合させ、樹脂骨格に紫外線吸収基を組み込んだ紫外線吸収樹脂を用いることも考えられるが、これは紫外線吸収剤のブリードアウトを防止することはできるものの、樹脂中に組み込める紫外線吸収基の量が制限されてしまうために、特に波長370〜405nm程度の長波長紫外線に対する十分な吸収能を付することは困難である。
【0007】
また、特許文献3の技術においては、アクリル樹脂と、0.01〜1wt%の蛍光増白剤と、0.01〜1wt%の紫外線吸収剤と、を含む紫外線吸収フィルムが開示されているが、この技術では、常態での低誘虫性は発揮できるもの、長期的な熱履歴の下では十分な低誘虫性を発揮できない虞があった。また、比較的短期間で、耐候劣化により、黄変したり、ブリードや蛍光増白剤自体が劣化し、紫外線吸収能が低下してしまう虞があった。
【0008】
本発明は、前述した課題を解決するためになされたものであり、比較的薄膜で、紫外線の吸収能を向上できるとともに、耐久性・耐候性の高い低誘虫性基材および低誘虫性基材を用いた照明器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の低誘虫性基材は、アクリル樹脂系塗料と、2〜8wt%の蛍光増白剤と、10〜60wt%の紫外線吸収剤とを有する低誘虫性樹脂が、透光性基材に塗布され、波長300〜395nmの光を略100%カットし、波長405nm以上の光の平均透過率が50%以上である。
【0010】
ここで、アクリル樹脂系塗料のガラス転移温度を、70℃以上とする。
【0011】
また、蛍光増白剤を、紫外線吸収剤を含むアクリル樹脂でカプセリングする。
【0012】
本発明の照明器具は、低誘虫性基材を、透光性基板に配置してなる光学部材を有する。
【0013】
ここで、光学部材に紫外線吸収層を積層する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、比較的薄膜で、紫外線の吸収能を向上できるとともに、耐久性・耐候性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る実施形態の低誘虫性基材の実施例を示す図
【図2】評価装置を示す図
【図3】評価装置の粘着トラップを示す図
【図4】実施例の低誘虫性基材の評価結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態の低誘虫性基材および低誘虫性基材を用いた照明器具について、図面を参照して説明する。
【0017】
(実施例1)
図1に示すように、透光性樹脂、紫外線吸収剤(トルエンにて希釈し50%品を添加)、蛍光増白剤(トルエンにて希釈し5%品を添加)を添加し、スプレー塗装にてアクリル板(厚さ2mm)に送風定温乾燥機内において80℃で20分間熱処理を施すことで、9種類の塗膜状の低誘虫性基材(No1〜9)を形成した。図1には、従来例の低誘虫性基材も示す(No1,2)。
【0018】
No9の低誘虫性基材は、上記のスプレー塗装したアクリル板(厚さ2mm)を200度で数十秒暖め、約2倍に延伸してスプレー塗装したアクリル板(延伸後の厚さ約0.8mm)とした。
【0019】
図1の実施例No1〜9における上記低誘中性基材は、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂、アクリロニトリルースチレン共重合体、メチルメタクリレート−スチレン共重合体オレフィン樹脂、およびこれらを主成分とするアロイ材料から選ばれる少なくとも一種の樹脂であることが好ましい。これらの樹脂は、透光性が高いため、特に照明器具に好適に用いられるものである。
【0020】
透光性樹脂としては、適宜のものが用いられるが、特にアクリル樹脂(イソシアネート硬化性アクリル樹脂を含む)、アルキド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アクリロニトリル‐スチレン共重合体、メチルメタクリレート−スチレン共重合体およびこれらを主成分とするアロイ材料等を用いるのが好ましい。このうち、一種または二種以上の樹脂を用いることができる。
【0021】
また、紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアルゾール系化合物、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物、トリスレゾルシノールトリアジン系化合物が挙げられる。
【0022】
ベンゾトリアルゾール系化合物としては2−(2H―ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−t−ペンチルフェノール(例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカル社製の商品名「チヌビン328」)、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、α−[3−[3−(2H−ベンゾトリアルゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]−1−オキソプロピル]―ω―ヒドロキシポリ(オキソ−1,2−エタンジイル)(例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカル社製の商品名「チヌビン1130」)等が挙げられる。
【0023】
また、ベンゾトリアゾール系化合物としては、クロル基を有するものも挙げられる。このようなクロル基を有するベンゾトリアゾール系化合物としては、具体的には、オクチル−3−[3−t−ブチル−4−ヒドロキシ5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル]プロピオネート(例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカル社製の商品名「チヌビン109」)、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(t−ブチル)フェノール(例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカル社製の商品名「チヌビン326」)、2,4−ジ−t−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール(例えばチバ・スペシャルティ・ケミカル社製の商品名「チヌビン327」)等が挙げられる。
【0024】
また、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物としては、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−トリデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−46−ビス(4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシ−4−イソ−オクチルフェニル−s−トリアジン等を挙げることができる。
【0025】
市販品としては、チバ・スペシャルティ・ケミカル社製の商品名「チヌビン400」(2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンと、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−トリデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンとの混合物)、「チヌビン411L」(2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシ−4−イソ−オクチルフェニル)−s−トリアジン)等を挙げることができる。
【0026】
また、トリスレゾルシノールトリアジン系化合物としては、イソオクチル置換トリスレゾルシノールトリアジン(例えばチバ・スペシャルティ・ケミカル社製の商品名「CGL777」)、t−ブチル置換トリスレゾルシノールトリアジン、クミル置換トリスレゾルシノールトリアジン等を挙げることができる。
【0027】
その中でも特に長波長側に吸収ピーク(330〜400nm付近)のあるチヌビン326、327、109等が望ましく、相溶性の観点から液状のチヌビン109等が望ましい。また、短波長側(280〜330nm)の吸収が不十分な場合には、短波長側を吸収する紫外線吸収剤と組み合わせてもよい。一般的に照明器具は、熱・光が多く出るため、熱・光で変化が少ない、耐熱性および耐候性が高いものが望ましい。
【0028】
また、塗料組成物中には、上記のような成分のほかに、必要に応じて顔料やその他の添加剤を含有させることもでき、例えばシリカ粉、セラミック粉、金属粉、有機色素、無機顔料、蛍光色素、光安定剤、酸化防止剤、チクソトロピー剤、レベリング剤、消泡剤、ハジキ防止剤等を含有させることができる。
【0029】
塗装方法は、スプレー、Dip、スクリーン等と特に限定されるものではない。異形な形のものに塗布する場合には、比較的安易に塗布が可能な方法としてはスプレー塗装が挙げられる。
【0030】
アクリル樹脂で蛍光増白剤をカプセリングする場合には、紫外線吸収官能基を持つアクリルポリマー、乳化剤、蛍光増白剤を入れ、乳化重合させてカプセルする方法があげられるが、特に限定するものではない。
【0031】
<昆虫の誘虫性評価>
図2は、評価装置15を示す。この評価装置15は、照明器具10として13Wコンパクト型蛍光灯(パナソニック株式会社製)を、図1のNo1〜9の誘虫性基材で形成したドーム状のグローブ13によって覆うことによって、各波長の光のカット率や透過率を調整した照明器具12に、図3に示すように、表面に粘着剤を塗布した50mm×300mmの粘着トラップ14を取り付けたものである。図2中の符号11は、ポールである。
【0032】
<評価方法・条件>
(1)昆虫の誘虫性評価
上記評価装置15を、10m四方の部屋の中に配置するとともに、この部屋の中に、ハエ、コナガの二種類の虫をそれぞれ入れ、照明器具10のランプを発光させて1時間放置した。そして、粘着トラップ14に捕集された虫の数を数え、比較例(従来例No.1)によって捕集された虫の数を100とし、これを基準として評価を行った。
【0033】
(2)耐候試験1
耐候試験は、75℃の温度環境で、水銀灯(400W:パナソニック株式会社製)を照射し、外観目視にて評価を行った。試験期間は、10日と30日である。
【0034】
図4の耐候性の欄は、耐候試験1の試験結果を示す。なお、図4中の耐候性の欄中の○、△、×は、次の評価内容を表す。
○:著しい変化なし
△:外観目視で薄っすら変色が確認出来る(黄色、茶褐色)、または、部分的にクラック、ブリードアウトが発生
×:外観目視で変色が完全に確認出来る(黄色、茶褐色)、または、クラック、ブリードアウトが発生
【0035】
(3)透過率
分光光度計U4100(積分球付、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で透過率を測定した。図4の透過率の欄には、波長365nmの紫外線における透過率の評価結果を示す。図4中の透過率の欄中の○、△、×は、次の評価内容を表す。
×:3%以上
△:1%〜3%未満
○:1%以下
【0036】
図1および図4から、低誘虫性基材として、アクリル樹脂系塗料と、2〜8wt%の蛍光増白剤と、10〜60wt%の紫外線吸収剤と、を含ませるのが好ましいと判断される。この低誘虫性基材は、波長300〜395nmの光を略100%カットし、波長405nmの光の透過率を略50%にできる。また、この低誘虫性基材は、厳しい熱履歴を受けた後でも、十分な低誘虫性を維持できる。
【0037】
更に、上記低誘虫性基材は、アクリル樹脂系塗料のガラス転移温度が70℃以上であるのが好ましい。この場合、蛍光増白剤や紫外線吸収剤のブリードアウトを抑制できる。
【0038】
また、上記低誘虫性基材は、蛍光増白剤を、紫外線吸収剤の含むアクリル樹脂でカプセリングするのが好ましい。この場合は、蛍光増白剤自体の紫外線劣化を低減できる。
【0039】
また、上記の低誘虫性基材を透光性基板に塗布することにより、照明器具を製造できる。この照明器具は、長期にわたって熱・光の影響を受ける照明器具において、長期的な紫外線カットを実現できる。
【0040】
この照明器具には、更に紫外線吸収層を積層した光学部材を備えるのが好ましい。この場合は、紫外線吸収剤で蛍光増白剤に届くまでのエネルギーの高い短波長光をカットすることによって、蛍光増白剤自体の紫外線劣化を低減できる。
【0041】
このように、本発明は、紫外線吸収剤によってできる限り波長405nmに近い領域の紫外線を吸収させ、蛍光増白剤で、それでも吸収し足りない波長390〜405nm付近の紫外線を吸収させるものである。これにより、低誘虫基材の膜厚をそれほど厚くすることなく、405nm以下の波長域の紫外線の大部分をカットすることが可能となる。また、歩留まりの低下防止、厚膜、工数アップによるコストアップも抑えつつ、耐久性のある低誘虫性基材および低誘虫性基材を用いた照明器具を提供できる。
【符号の説明】
【0042】
10 照明器具
11 ポール
12 照明器具
13 グローブ
14 粘着トラップ
15 評価装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂系塗料と,2〜8wt%の蛍光増白剤と,10〜60wt%の紫外線吸収剤とを有する低誘虫性樹脂が、透光性基材に塗布され、
波長300〜395nmの光を略100%カットし、波長405nm以上の光の平均透過率が50%以上である低誘虫性基材。
【請求項2】
請求項1に記載の低誘虫性基材において、
前記アクリル樹脂系塗料のガラス転移温度が、70℃以上である低誘虫性基材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の低誘虫性基材において、
前記蛍光増白剤を、紫外線吸収剤を含むアクリル樹脂でカプセリングした低誘虫性基材。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1項に記載の低誘虫性基材を、透光性基板に配置してなる光学部材を有する照明器具。
【請求項5】
請求項4に記載の照明器具において、
前記光学部材に紫外線吸収層を積層した照明器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−44885(P2012−44885A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187948(P2010−187948)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】