説明

体外循環回路用チャンバ

【課題】気泡の混入が少なく、血液等の液面が上昇しにくく、血液の凝固も減少し、長時間に亘って安定した体外循環ができるようにした体外循環回路用チャンバを提供する。
【解決手段】この体外循環回路用チャンバ10は、血液等の液の体外循環回路に用いられるものであり、下方に血液等の液の貯留部Cが形成され、上方に空気層Dが形成されるチャンバ本体50と、このチャンバ本体の底部に上方に向けて設けられた血液等の液の流入口54と、前記チャンバ本体の底部に設けられた血液等の液の流出口55と、前記空気層に連通するように前記チャンバ本体の上部に連結された空気圧力測定ライン56とを備えている。流出口55には、フィルタ58が設けられていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液等の液を体外循環させて処理する回路の途中に設置される体外循環回路用チャンバに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば血液透析回路、心肺用血液回路等のような体外循環回路においては、血液等の液の圧力を検出して流量を制御したり、患者に返血する際に気泡を分離するために、ドリップチャンバと呼ばれるチャンバが配置されている。
【0003】
従来、上記チャンバとしては、下方に血液が貯留され、上方が空気層となるチャンバ本体の上部に血液の流入口を設け、底部に血液の流出口を設けて、流入口から血液を流入落下させて、底部の流出口から血液を取出す構造のものが一般的であった。そして、空気層に連通して空気圧力測定ラインを連結し、チャンバ内の圧力を検出して、血液の流量を制御するようにしている。
【0004】
しかしながら、上記従来のチャンバでは、血液が落下するときに空気を抱き込むために、気泡が血液中に混入しやすく、血液貯留部の上層に泡が溜まって、血液の液面が徐々に上昇して血液が空気圧力ラインに入ってしまったりすることがあった。このため、チャンバ内に時々空気を注入して液面を下げたり、運転を一時的にストップして液面を安定させたりする必要があり、治療に支障を来たすことがあった。
また、血液が空気に触れて凝固し、血栓等が生じやすいという問題があった。
【0005】
これに対して、下記特許文献1には、チャンバの側面に血液流入口を設け、この血液流入口に血液流路管を挿入し、血液流路管の先端を血液流入口の反対側の壁面に向け、血液流路管から流出した血液が上記反対側壁面に沿って流下するようにしたドリップチャンバが開示されている。
【0006】
また、下記特許文献2には、ドリップチャンバの管本体内に、空気チャンバと血液チャンバとに区分する伸縮自在な隔膜を設け、空気チャンバに、その中の空気に対して隔膜を介して接する血液チャンバ内の血液の圧力を測定する圧力計を連通するよう接続し、血液チャンバに、血液流入口と血液流出口とを設けると共に、血液回路内に混じった空気を除去する空気除去ラインを連通するよう接続したものが開示されている。そして、管本体の上部を空気チャンバとし、その下の血液チャンバの最上部に空気除去ラインを連通するよう接続し、血液チャンバの最下部に血液流出口を設け、空気除去ラインの接続口と血液流出口との間に血液流入口を設けるようにしている。
【特許文献1】特開2002−282355号公報
【特許文献2】特開平9−56817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたような、血液がチャンバ内壁に沿って流下するようにしたチャンバでは、空気の混入が少なくなるものの、多少は混入することを避けられず、血液の液面が徐々に上昇してしまうことがあった。
【0008】
また、上記特許文献2に記載されたチャンバでは、血液流入口と血液流出口とが、共に血液貯留部に開口しているが、血液流入口がチャンバの側壁に開口し、血液流出口がチャンバの底部に開口した構造であるため、血液の流れが所定のラインに落ち着いてしまい、血液の流れに乗らない滞留部分ができて、血液が凝固したり、血漿分離したりする可能性があった。更に、血液の状態や保護フィルタにより圧力測定精度が落ちる可能性があった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、気泡の混入が少なく、血液等の液面が上昇しにくく、血液の凝固も減少し、長時間に亘って安定した体外循環ができるようにした体外循環回路用チャンバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の体外循環回路用チャンバは、血液等の液の体外循環回路におけるチャンバにおいて、下方に血液等の液の貯留部が形成され、上方に空気層が形成されるチャンバ本体と、このチャンバ本体の底部に上方に向けて設けられた血液等の液の流入口と、前記チャンバ本体の底部に設けられた血液等の液の流出口と、前記空気層に連通するように前記チャンバ本体の上部に連結された空気圧力測定ラインとを備えていることを特徴とする。
【0011】
なお、本発明において、「血液等の液」とは、血液に限らず、血液に透析液や補充液が混入したものなど、体外循環する液を総称する意味である。ただし、便宜上、以下の説明では、単に「血液」と記載することにする。
【0012】
本発明によれば、チャンバ本体の底部に設けられた流入口から、血液が上方に向けて流入し、チャンバ本体の上方に流れた後に反転して下降し、同じくチャンバ本体の底部に設けられた流出口より流出する。その結果、チャンバ本体に貯留された血液が隅々まで流動すると共に、液面は大きく乱れることがないので、上方の空気層と広い接触面積で混ざり合うことがない。このため、血液中に気泡が混入しにくく、血液の液面が上昇しにくく、血液の凝固や血漿分離も抑制されて、体外循環を長時間に亘って安定して行うことが可能となる。
【0013】
本発明の好ましい態様によれば、前記流入口と前記流出口とが、前記チャンバ本体の上下方向に沿って平行に配置されて、共に上方に向けて開口している。これによれば、血液が真っ直ぐに上方に向けて流入し、チャンバ本体の上方で反転して、180度向きを変えて流下した後、流出口から流出するので、チャンバ本体内の血液を隅々まで効果的に流動させることができ、血液の対流を防止して血液の凝固や血漿分離をより効果的に抑制できる。
【0014】
本発明の更に好ましい態様によれば、前記流出口を囲むようにフィルタが配置されている。これによれば、チャンバ本体内で血液凝固が生じたとしても、それによって形成された血栓等はフィルタを通過できないので、血栓等が流出して患者の体内に流入するのを防止できる。また、フィルタを通過するときに、血液中の気泡も除去されるので、気泡の混入も防ぐことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、チャンバ本体の底部に設けられた流入口から血液が、上方に向けて流入し、チャンバ本体の上方に流れた後に反転して下降し、同じくチャンバ本体の底部に設けられた流出口より流出するので、チャンバ本体に貯留された血液が隅々まで流動すると共に、液面は大きく乱れることがない。このため、血液中に気泡が混入しにくく、血液の液面が上昇しにくく、血液の凝固や血漿分離も抑制されて、体外循環を長時間に亘って安定して行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において、体外循環回路とは、例えば血液透析回路、心肺用血液回路等のように、体内から血液を取出して所定の処理をし、再び体内に戻す回路を意味する。本発明は、特に血液透析回路に好適であり、更には長時間かけてゆっくりとした流速で透析を行う持続的血液ろ過装置に好適である。
【0017】
図1、2には、本発明による体外循環回路用チャンバ(以下単に「チャンバ」とする)を、血液透析回路に適用した一実施形態が示されている。
【0018】
図1は、上記血液透析回路を示す概略説明図である。図において、Aは患者からの血液を流入させる部分(脱血部)、Bは浄化された血液を患者に戻す部分(返血部)である。上記血液流入部Aは、ろ過器(ダイアライザ)1の血液流入部1aに接続されるチューブ2に連結されている。チューブ2の途中には、上流側から、シリンジポンプ3、ピロー4、血液ポンプ5、第1チャンバ6が配置されている。シリンジポンプ3は、血液中に抗凝固剤などを添加するために設けられている。第1チャンバ6には、保護フィルタ7を介して圧力計8が接続されており、第1チャンバ6上部の空気層の圧力を測定し、血液ポンプ5を制御することにより、ろ過器1への送液圧力を調整するようにしている。
【0019】
上記チューブ2を通ってろ過器1に流入した血液は、ろ過器1内の図示しない中空糸内を通過し、血液流出部1bからチューブ9を通して患者への血液返血部Bに連結されている。チューブ9の途中には、第2チャンバ10が配置されている。第2チャンバ10には、上記第1チャンバ6と同様に、保護フィルタ11を介して圧力計12が連結されており、患者への送液圧力を検出できるようにしている。
【0020】
一方、透析液を供給するラインとして、透析液を充填したパック21がチューブ22を介して、ろ過器1の透析液流入部1cに接続され、この透析液は、ろ過器1内の中空糸の外側空間を通過して、透析液流出部1dからチューブ23を通して取出される。チューブ22の途中には、透析液の計量チャンバ24と、透析液ポンプ25とが配置されている。また、チューブ23には、第3チャンバ29と、ろ液ポンプ26と、ろ液計量チャンバ27とが配置されている。第3チャンバ29には、保護フィルタ30を介して圧力計31が接続されており、ろ液の送液圧力を検出できるようにしている。ろ液は、廃液容器28等に回収される。
【0021】
更に、補充液を供給するラインとして、補充液を充填したパック41が、チューブ42を介して、第2チャンバ10の上部に連結されている。そして、チューブ42の途中には、補充液の計量チャンバ43と、補充液ポンプ44とが配置されている。
【0022】
上記血液透析回路の基本的な動作については、既に周知であるため、ここではその詳細な説明を省略するが、その概略を説明すると、患者の血液取出し部Aから取出された血液が、血液ポンプ5により、チューブ2を通して、第1チャンバ6に供給され、この第1チャンバ6からろ過器1の中空糸内に流入する。
【0023】
一方、透析液は、パック21からチューブ22を通り、透析液ポンプ25によって、ろ過器1の下部から中空糸の外側空間に流入する。そして、ろ過器1内にて、中空糸膜を通して、血液中の老廃物が透析液側に移行し、血液が浄化される。
【0024】
ろ過器1を通過して浄化された血液は、チューブ9を通り、第2チャンバ10に流入する。また、パック41からチューブ42を通して、補充液ポンプ44によって供給される補充液が、第2チャンバ10に流入し、浄化された血液に補充液が添加される。こうして浄化された血液は、チューブ9を通して患者の血液返送部Bに戻される。
【0025】
上記において、第1チャンバ6、第2チャンバ10は、血液の圧力を検出するための圧力計8、12を設けるために設けられている。すなわち、血液を直接測定する構造では、圧力計が血液に接触するため、患者が変わるたびに圧力計を交換しなければならなくなるが、チャンバ6,10の上部の空気層の圧力を測定することにより、血液に接触しないで圧力の測定が可能となるのである。また、これらのチャンバ6,10は、血液中の気泡を除去する効果ももたらしている。
【0026】
この実施形態では、本発明によるチャンバが、上記第1チャンバ6、第2チャンバ10に適用されている。これらのチャンバ6,10は、血液が通過する部分となるので、気泡の混入、血液凝固などをできるだけ防ぐ必要がある。
【0027】
第1チャンバ6、第2チャンバ10は、ほぼ同様な構造をなしているので、ここでは第2チャンバ10について、図2を参照して詳しく説明する。
【0028】
このチャンバ10は、ほぼ円筒状の周壁51と、その上下に取付けられたキャップ52,53とで構成されるチャンバ本体50を有している。ただし、チャンバ本体50の形状は、上記のような円筒形状に限らず、角筒形状、三角フラスコ形状など、各種の形状を採用することができる。
【0029】
下キャップ53は、チャンバ本体50の底壁をなし、そこに血液の流入口54と、血液の流出口55とが、それぞれ平行にかつ上方に向けて開口するように設けられている。流入口54、流出口55には、それぞれ前述したチューブ9が接続されている。
【0030】
上キャップ52は、チャンバ本体50の天壁をなし、そこに、前記圧力計12(図1参照)に接続されるチューブ56と、補充液の供給チューブ42とが接続されている。チューブ56には、3方弁57が設けられており、その一つの開口57aは、前記圧力計12に連結され、もう一つの開口57bは、図示しない注射器等を連結して、チャンバ本体50内に空気等を注入できるようになっている。
【0031】
下キャップ53の内面には、前記血液の流出口55を囲むように、フィルタ58が設置されている。なお、フィルタ58は、流入口54と流出口55とを仕切るように配置されていればよく、その配置形状は特に問われない。
【0032】
なお、図2は、第2チャンバ10を示しているが、第1チャンバ6の場合は、補充液の供給チューブ42がなく、チューブ9がチューブ2になるだけで、その他の構成はほぼ同じである。
【0033】
次に、このチャンバ10の作用について説明すると、チューブ9を通して、流入口54からチャンバ本体50内に流入した血液は、上方に流れた後、血液の液面に達すると、下方に向きを変え、フィルタ58を通過した後、流出口55から再びチューブ9内に入って流出し、図1における患者への返血部Bに戻される。その結果、チャンバ本体50内の下方に血液の貯留部Cが形成され、上方に空気層Dが形成される。
【0034】
このように、血液が上方に向けて流出し、下方から流出することにより、チャンバ本体50内に貯留された血液全体が流動しやすくなり、血液が滞留してしまう部分を少なくすることができる。その結果、血液が滞留して血漿が分離したり、血液が凝固したりすることを防止できる。また、血液の液面が大きく乱れることはないので、血液と空気とが混合しにくくなり、気泡等が血液に混入することを防止できる。更に、理由はよくわからないが、従来のチャンバと比べて、透析施行中でのチャンバ10内における血液の液面の上昇が起こりにくく、長時間に亘って安定して透析を続けることができる。
【0035】
なお、血液は、フィルタ58を通して流出するので、万が一血液の凝固が生じたとしても、凝固してできた血栓等はフィルタ58を通過できずに除去されるので、患者に血栓等が流れてしまうことはない。
【0036】
一方、チャンバ10内の上方には、空気層Dが設けられており、チューブ56に血液が侵入することはないので、圧力計12等が血液で汚染されることを防止できる。
【実施例】
【0037】
市販の持続的血液ろ過装置である「JUN−505(SA102)」(商品名、株式会社ウベ循研製)と、その回路「JCH−10S」(商品名、株式会社ウベ循研製)を用い、回路中の、図1における第1チャンバ6、第2チャンバ10を、図2に示した構造のものに変えて、以下の試験を行った。
【0038】
すなわち、ビーカーに溜めた水を血液ポンプで汲み上げ、脱血チャンバ(第1チャンバ6)、返血チャンバ(第2チャンバ10)、エージングバッグを介してビーカーへと循環させるラインに持続的に通過させた。図2におけるS1の高さ15mmまで水を溜め、所定の設定流量で血液ポンプを運転し、下方より水を導入し、下方より水を抜き出して、返血チャンバへ送った。24時間血液ポンプを連続運転した後の脱血チャンバの液位を確認した。また、図2におけるS2の高さ45mmまで水を溜めてから同様に試験した。
【0039】
次に、上方より脱血チャンバに液を入れる従来の方法で同様にS1,S2の液位からスタートさせて試験した。結果を表1、表2に示す。表1は、本発明によるチャンバを用いて下から血液を流入させた結果を示し、表2は、従来のチャンバを用いて上から血液を流入させた結果を示している。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
上記表1,2に示されるように、本発明のチャンバを用いた場合には、長時間に亘って液位の変化がなく、長時間に亘り安定した運転ができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態による体外循環回路用チャンバを適用した血液透析回路を示す概略説明図である。
【図2】同体外循環回路用チャンバを示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0044】
6 第1チャンバ
10 第2チャンバ
50 チャンバ本体
51 周壁
52,53 キャップ
54 血液の流入口
55 血液の流出口
56 圧力計に接続されるチューブ
42 補充液が供給されるチューブ
58 フィルタ
C 血液の貯留部
D 空気層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液等の液の体外循環回路におけるチャンバにおいて、下方に血液等の液の貯留部が形成され、上方に空気層が形成されるチャンバ本体と、このチャンバ本体の底部に上方に向けて設けられた血液等の液の流入口と、前記チャンバ本体の底部に設けられた血液等の液の流出口と、前記空気層に連通するように前記チャンバ本体の上部に連結された空気圧力測定ラインとを備えていることを特徴とする体外循環回路用チャンバ。
【請求項2】
前記流入口と前記流出口とが、前記チャンバ本体の上下方向に沿って平行に配置されて、共に上方に向けて開口している請求項1記載の体外循環回路用チャンバ。
【請求項3】
前記流出口を囲むように、フィルタが配置されている請求項1又は2記載の体外循環回路用チャンバ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−200174(P2008−200174A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37647(P2007−37647)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(394023241)株式会社ウベ循研 (13)
【Fターム(参考)】