説明

体外循環装置のシミュレーション装置及び体外循環装置のシミュレーションモジュール

【課題】実際に起こり得るトラブルに応じた対処の練習を好適に行うことができる体外循環装置のシミュレーション装置を提供する。
【解決手段】シミュレーション装置1は、分離モジュール30の代わりに接続可能な第1のシミュレーションモジュール120と、人体の代わりに用いられる第2のシミュレーションモジュール121と、制御部122を有している。第1のシミュレーションモジュール120は、導入口と導出口を連通させる内部流路と、内部流路の流路の大きさを調整する内部流路調整弁を有している。第2のシミュレーションモジュール121は、穿刺針が穿刺可能な2か所の穿刺部を有し人体の所定の部位を模した模擬腕部と、模擬腕部の穿刺部に液体を供給する液体回路を有している。液体回路は、液体供給流路と、液体排出流路と、供給流路調整弁と、排出流路調整弁を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体外循環装置のシミュレーション装置及び体外循環装置のシミュレーションモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば患者の体内から血液を取り出し体外で処理して体内に戻す血液透析療法、血漿浄化療法、白血球除去療法などの血液浄化療法は、体外循環装置を用いて行われている。体外循環装置は、体内から採血穿刺針を通じて取り出された血液を体外で循環させて返血穿刺針を通じて人体に戻す体外循環回路を有し、当該体外循環回路には、例えば血液から、老廃物などの不要物質、血漿、白血球などの血液成分を分離する、例えば中空糸膜を用いた分離モジュールが接続されている。
【0003】
上記体外循環装置を用いた治療は、例えば医師や看護師が、体外循環回路の分離モジュールなどを装置の所定の位置に設置し、穿刺針を患者の腕に穿刺し、体外循環装置のポンプ等を作動させて行われる。この体外循環装置を用いた治療は、複雑で繊細な回路を用いるものであり、例えば分離モジュールの詰まりや、採血穿刺針の穿刺状態による採血不良、返血穿刺針の穿刺状態による返血不良などのいろんなトラブルが生じる可能性がある。医師や看護師は、これらのトラブルに迅速かつ適切に対応する必要がある。
【0004】
一般的に、医師や看護師は、体外循環装置を実際に患者に使って治療を行い経験を積むことにより、各種トラブルに応じた処置を学んでいる。また、特許文献1には、血液透析装置の操作教育用シミュレータが提案されているが、実際に起こる得る具体的なトラブルまでは想定されておらず、各種トラブルに応じた適切な処置をとる練習を行えるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−321357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、実際に起こり得るトラブルに応じた対処の訓練を行うことができる体外循環装置のシミュレーション装置及びシミュレーションモジュールを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、人体から採血穿刺針を通じて取り出された血液を体外で循環させて返血穿刺針を通じて人体に戻す体外循環回路と、前記体外循環回路に接続され、血液の成分を分離可能な分離モジュールとを有する体外循環装置のシミュレーション装置であって、前記体外循環装置の体外循環回路に対し、前記分離モジュールの代わりに接続可能な第1のシミュレーションモジュールと、前記採血穿刺針と前記返血穿刺針を穿刺可能で、人体の代わりに用いられる第2のシミュレーションモジュールと、前記第1のシミュレーションモジュールと、前記第2のシミュレーションモジュールの動作を制御する制御部と、を有し、前記第1のシミュレーションモジュールは、前記体外循環回路の前記採血穿刺針側から送られた液体が導入される導入口と、前記体外循環回路の前記返血穿刺針側に液体が導出される導出口と、前記導入口と前記導出口を連通させる内部流路と、当該内部流路の流路の大きさを調整可能な内部流路調整部と、を有し、前記第2のシミュレーションモジュールは、前記採血穿刺針と前記返血穿刺針が穿刺可能な2か所の穿刺部を有し人体の所定の部位を模した模擬人体部と、一の穿刺部に刺された前記採血穿刺針を通じて前記体外循環回路に対し液体を供給し、他の穿刺部に穿刺された前記返血穿刺針を通じて前記体外循環回路から液体を排出する液体回路と、を有し、前記液体回路は、前記一の穿刺部に液体を供給する液体供給流路と、前記他の穿刺部から液体を排出する液体排出流路と、前記液体供給流路の流路の大きさを調整可能な供給流路調整部と、前記液体排出流路の流路の大きさを調整可能な排出流路調整部と、を有し、前記制御部は、前記内部流路調整部、前記供給流路調整部及び前記排出流路調整部による前記各流路の大きさの調整を制御することを特徴とする。
【0008】
前記第1のシミュレーションモジュールは、前記導入口及び前記導出口とは別の通液口と、前記通液口に通じる他の内部流路と、前記内部流路と前記他の内部流路を接続する接続流路と、前記接続流路の流路の大きさを調整可能な接続流路調整部と、を有し、前記制御部は、前記接続流路調整部による前記接続流路の流路の大きさの調整を制御するようにしてもよい。
【0009】
前記第1のシミュレーションモジュールは、前記内部流路と前記他の内部流路を接続する他の接続流路と、前記他の接続流路の開閉を行う開閉部と、を有し、前記制御部は、前記開閉部による前記他の接続流路の開閉を制御するようにしてもよい。
【0010】
前記接続流路には、色付きの液体を透明にするフィルタが設けられていてもよい。
【0011】
前記第2のシミュレーションモジュールは、前記液体供給流路と前記液体排出流路が接続された循環回路を有し、前記循環回路には、液体供給源とポンプが接続されていてもよい。
【0012】
前記第2のシミュレーションモジュールは、前記液体供給流路にエアを導入するエア導入手段を有し、前記制御部は、前記エア導入手段によるエアの導入を制御するようにしてもよい。
【0013】
前記穿刺部には、前記採血穿刺針及び前記返血穿刺針の接触を検出するセンサが設けられていてもよい。
【0014】
別の観点による本発明は、人体から採血穿刺針を通じて取り出された血液を体外で循環させて返血穿刺針を通じて人体に戻す体外循環回路と、前記体外循環回路に接続され、血液の成分を分離可能な分離モジュールとを有する体外循環装置のシミュレーションモジュールであって、前記体外循環装置の体外循環回路に対し、前記分離モジュールの代わりに接続可能であり、前記体外循環回路の前記採血穿刺針側から送られた液体が導入される導入口と、前記体外循環回路の前記返血穿刺針側に液体が導出される導出口と、前記導入口と前記導出口を連通させる内部流路と、前記内部流路の流路の大きさを調整可能な内部流路調整部と、を有することを特徴とする。
【0015】
上記シミュレーションモジュールは、前記導入口及び前記導出口とは別の通液口と、前記通液口に通じる他の内部流路と、前記内部流路と前記他の内部流路を接続する接続流路と、前記接続流路の流路の大きさを調整可能な接続流路調整部と、をさらに有していてもよい。
【0016】
前記シミュレーションモジュールは、前記内部流路と前記他の内部流路を接続する他の接続流路と、前記他の接続流路の開閉を行う開閉部と、をさらに有していてもよい。
【0017】
前記接続流路には、色付きの液体を透明にするフィルタが設けられていてもよい。
【0018】
別の観点による本発明は、人体から採血穿刺針を通じて取り出された血液を体外で循環させて返血穿刺針を通じて人体に戻す体外循環回路と、前記体外循環回路に接続され、血液の成分を分離可能な分離モジュールとを有する体外循環装置のシミュレーションモジュールであって、前記採血穿刺針と前記返血穿刺針が穿刺可能な2か所の穿刺部を有し、人体の所定の部位を模した模擬人体部と、一の穿刺部に穿刺された前記採血穿刺針を通じて前記体外循環回路に対し液体を供給し、他の穿刺部に穿刺された前記返血穿刺針を通じて前記体外循環回路から液体を排出する液体回路と、を有し、前記液体回路は、前記一の前記穿刺部に液体を供給する液体供給流路と、前記他の穿刺部から液体を排出する液体排出流路と、前記液体供給流路の流路の大きさを調整可能な供給流路調整部と、前記液体排出流路の流路の大きさを調整可能な排出流路調整部と、を有することを特徴とする。
【0019】
上記シミュレーションモジュールは、前記液体供給流路と前記液体排出流路が接続された循環回路を有し、前記循環回路には、液体供給源とポンプが接続されていてもよい。
【0020】
前記シミュレーションモジュールは、前記液体供給流路にエアを導入するエア導入手段を有していてもよい。
【0021】
前記穿刺部には、前記採血穿刺針及び前記返血穿刺針の接触を検出するセンサが設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、実際に起こり得るトラブルに応じた対処の練習を行うことができるので、練習者の熟練度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】体外循環装置の構成を示す説明図である。
【図2】シミュレーション装置を体外循環装置に設置した状態を示す説明図である。
【図3】第1のシミュレーションモジュールの構成を示す説明図である。
【図4】第2のシミュレーションモジュールの構成を示す説明図である。
【図5】模擬腕部の穿刺部の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係るシミュレーション装置1が適用される体外循環装置2の構成の概略を示す説明図である。
【0025】
図1に示すように体外循環装置2は、人体から採血穿刺針10を通じて取り出された血液を透析し、その後返血穿刺針11を通じて人体に戻すための体外循環回路12を有している。
【0026】
体外循環回路12は、例えば血液の所定成分を分離可能な分離モジュール30と、採血穿刺針10から分離モジュール30の一次側に血液を送り、分離モジュール30の一次側を通過した血液を返血穿刺針11に戻す血液回路40と、分離モジュール30の二次側に透析液を供給する透析液供給路41と、分離モジュール30の二次側から透析後の濾液を透析液と共に排出する排液流路42と、血液回路40に補液を補充する補液供給路43を有している。
【0027】
分離モジュール30は、例えば両端が閉鎖された円筒状のハウジング50を有し、当該ハウジング50内には、分離材である中空糸膜束Aが長手方向に収容されている。ハウジング50の長手方向の一方には、血液導入口51が設けられ、他方には、血液導出口52が形成されている。この血液導入口51と血液導出口52に血液回路40の管路が接続されている。また、ハウジング50の外周側面には、透析液供給路41が接続された透析液導入口53と、排液流路42が接続された排液導出口54が形成されている。
【0028】
血液導入口51から流入した血液は、分離モジュール30の一次側である中空糸膜束Aの管内を通り、血液導出口52から流出される。また、中空糸膜束Aを通過する血液の所定成分は、中空糸膜の側壁孔を通過し、分離モジュール30の二次側である、ハウジング50内の中空糸膜束Aの外周空間Bに流出し、その外周空間Bから排液導出口54を通じて流出される。
【0029】
血液回路40には、例えば採血穿刺針10から分離モジュール30側に向けて順にポンプ60、ドリップチャンバ61が設けられている。ポンプ60とドリップチャンバ61との間には、例えば抗凝固薬注入装置62に通じる分岐路63が接続されている。また、血液回路40には、分離モジュール30から返血穿刺針11側に向けて順にドリップチャンバ70、開閉弁71が設けられている。
【0030】
透析液供給路41には、透析液容器80が接続されており、途中にポンプ81が設けられている。排液流路42には、ポンプ90が設けられており、排液容器91に通じている。補液供給路43には、補液容器100が接続されており、途中にポンプ101が設けられている。補液供給路43は、分離モジュール30とドリップチャンバ70の間の血液回路40に接続されている。
【0031】
以上の構成の体外循環装置2によれば、採血穿刺針10と返血穿刺針11を患者の腕に穿刺し、体外循環回路12内のポンプ60、90、81、101等を作動させることにより、患者の血液が、採血穿刺針10を通じて採取され血液回路40を通じて流され、分離モジュール30の一次側を通過した後、返血穿刺針11を通じて患者に戻される。その一方で、透析液が、透析液容器80から分離モジュール30の二次側の外周空間Bに供給され、外周空間Bから排液流路42を通じて排液容器91に排出される。このとき、分離モジュール30内の一次側の血液の老廃物等の不要成分が、中空糸膜の側壁孔から二次側に通過し、当該濾液が透析液と共に排液流路42に流出され、排液容器91に排出される。このように、体外循環回路12では、患者の血液が透析され浄化されて体内に戻される。
【0032】
次に、体外循環装置2のシミュレーション装置1について説明する。図2は、シミュレーション装置1の構成の概略を示す説明図である。
【0033】
シミュレーション装置1は、体外循環装置2の体外循環回路12に対し、分離モジュール30の代わりに接続可能な第1のシミュレーションモジュール120と、体外循環回路12の2つの穿刺針10、11を穿刺可能で、人体の代わりに用いられる第2のシミュレーションモジュール121と、第1のシミュレーションモジュール120と第2のシミュレーションモジュール121の動作を制御する制御部122を有している。
【0034】
第1のシミュレーションモジュール120は、例えば図3に示すように分離モジュール30と同様に両端が閉鎖された円筒状のハウジング120aを有している。第1のシミュレーションモジュール120は、長手方向の両端部に体外循環回路12の採血穿刺針10側から送られた液体が導入される導入口130と、体外循環回路12の返血穿刺針11側に液体が導出される導出口131を有している。導入口130と導出口131は、ハウジング120a内に設けられた第1の内部流路132により連通されている。
【0035】
第1の内部流路132には、当該第1の内部流路132の流路の大きさを調整可能な電磁弁などの内部流路調整部としての内部流路調整弁133が設けられている。内部流路調整弁133は、導入口130付近に設けられている。この内部流路調整弁133により第1の内部流路132の流路を狭くすることによって、第1のシミュレーションモジュール120の入口圧を上昇させることができる。これにより、分離モジュール30の中空糸膜束Aの入口端部付近の管の目詰まりを疑似的に作り出すことができる。
【0036】
また、第1のシミュレーションモジュール120は、外側面に長手方向に沿った2つの通液口140、141を有している。これらの通液口140、41は、他の内部流路としての第2の内部流路142により連通されている。第1の内部流路132と第2の内部流路142は、第1の接続流路150と、他の接続流路としての第2の接続流路151により接続されている。
【0037】
第1の接続流路150には、当該第1の接続流路150の流路の大きさを調整可能な電磁弁などの接続流路調整部としての接続流路調整弁160が設けられている。この内部流路調整弁160により第1の接続流路150の流路を狭めることによって、第1の内部流路132と第2の内部流路142の間に圧力差を形成することができる。これにより、分離モジュール30の中空糸膜束Aの一次側と二次側の間に圧力差を作り出し、中空糸膜の側壁孔の目詰り状態を疑似的に作り出すことができる。また、第1の接続流路150には、色付きの液体を透明にするフィルタ161が設けられている。
【0038】
第2の接続流路151には、第2の接続流路151の開閉を行う開閉弁162が設けられている。この開閉弁162により第2の接続流路151を開放することによって、第1の内部流路132と第2の内部流路142を連通状態にできる。これにより、分離モジュール30の中空糸膜の糸切れによる漏血状態を疑似的に作り出すことができる。
【0039】
制御部122は、例えばコンピュータにより構成され、メモリに記録されたプログラムを実行することによって、内部流路調整弁133、接続流路調整弁160及び開閉弁162の動作を制御し、第1の内部流路132及び第1の接続流路150の各流路の大きさを調整したり、第2の接続流路151の開閉を行うことができる。
【0040】
第2のシミュレーションモジュール121は、例えば図4に示すように穿刺針10、11が穿刺可能な2か所の穿刺部170a、170bを有し人体の所定の部位を模した模擬人体部としての模擬腕部170と、一の穿刺部170aに刺された採血穿刺針10を通じて体外循環回路12に対し液体を供給し、他の穿刺部170bに穿刺された返血穿刺針11を通じて体外循環回路12から液体を排出する液体回路171を有している。
【0041】
液体回路171は、例えば一の穿刺部170aに液体を供給する液体供給流路180と、他の穿刺部170bから液体を排出する液体排出流路181と、液体供給流路180と液体排出流路181が接続される循環回路182を有している。
【0042】
循環回路182は、液体供給源183とポンプ184を有している。この液体供給源183及びポンプ184により、循環回路182で液体を循環させ、液体供給流路180を通じて一の穿刺部170aに液体を供給したり、液体排出流路181を通じて他の穿刺部170bから液体を排出することができる。
【0043】
液体供給流路180には、液体供給流路180の流路の大きさを調整可能な電磁弁である供給流路調整部としての供給流路調整弁190が設けられている。この供給流路調整弁190により液体供給流路180の流路を狭くすることによって、一の穿刺部170aに供給される液体の量、つまり採血穿刺針10に流れ込む液体の量を減らすことができる。これにより、採血穿刺針10の血管への先あたりなどによる採血不良を疑似的に作り出すことができる。
【0044】
また、液体排出流路181には、液体排出流路181の流路の大きさを調整可能な電磁弁である排出流路調整部としての排出流路調整弁191が設けられている。この排出流路調整弁191により液体排出流路181の流路を狭くすることによって、他の穿刺部170bから排出される液体の量、つまり返血穿刺針11から流出する液体の量を減らすことができる。これにより、返血穿刺針11の血管への先あたりなどによる返血不良、静脈圧上昇を疑似的に作り出すことができる。
【0045】
液体供給流路180には、エアを導入するエア導入手段200が接続されている。エア導入手段200は、例えば一端が液体供給流路180に接続され、他端が大気開放されたエア流路201と、ポンプ202及び開閉弁203を有している。このエア導入手段200により液体供給流路180にエアを供給することによって、採血穿刺針10を通じて体外循環回路12内にエアを混入できる。これにより、体外循環回路12におけるチューブ接続の不具合等による体外循環回路12内への気泡の混入を疑似的に作り出すことができる。
【0046】
ポンプ184、供給流路調整弁190、排出流路調整弁191、ポンプ202及び開閉弁203などの動作は、上述の制御部122により制御される。
【0047】
一の穿刺部170aには、図5に示すように採血穿刺針10の接触を検出するセンサ210が設けられている。また、他の穿刺部170bには、返血穿刺針11の接触を検出するセンサ211が設けられている。センサ210、211は、例えば穿刺針10、11が接触すると通電し、その通電信号が制御部122に出力されるようになっている。制御部122は、例えば当該通電情報に基づいて、供給流路調整弁190を制御し、液体供給流路180における液体の供給量を増やすことができる。また、制御部122は、排出流路調整弁191を制御し、液体排出流路181における液体の排出量を増やすことができる。これにより、例えば液体供給流路180の流路を狭めて疑似的に採血不良の状態を作り出した場合に、採血穿刺針10の位置を適正な位置にずらしセンサ210を押して通電させることによって、採血不良を解消する疑似的な作業を行うことができる。また、例えば液体排出流路181の流路を狭めて疑似的に返血不良の状態を作り出した場合に、返血穿刺針11の位置を適正な位置にずらしセンサ211を押して通電させることによって、返血不良を解消する疑似的な作業を行うことができる。
【0048】
次に、以上のように構成されたシミュレーション装置1を用いた体外循環装置2のシミュレーションについて説明する。
【0049】
先ず、図2に示すように分離モジュール30の代わりに第1のシミュレーションモジュール120が体外循環回路12に接続された状態で、訓練者により、図4に示すように採血穿刺針10と返血穿刺針11が模擬腕部170の穿刺部170a、170bに穿刺される。その後、例えばポンプ184が作動され、液体供給源183の液体が液体供給流路180を通じて穿刺部170aに送られる。これにより、液体が血液の代わりに採血穿刺針10から採取され、血液回路40に流される。このときの液体には、色付きの染料(アクリルカラー絵の具)、食紅、朱墨などの液体が用いられる。当該液体は、血液回路40を通じて第1のシミュレーションモジュール120に供給され、例えば第1の内部流路132を通過し、その後血液回路40を通じて返血穿刺針11から穿刺部170bに戻される。そして、液体は、液体排出流路181を通じて循環回路182に戻され、再度液体供給流路180から穿刺部170aに供給されて循環する。一方、例えば透析液供給流路41から、第1のシミュレーションモジュール120の第2の内部流路142に透明の透析液が供給され、第2の内部流路142を通過した透析液は排液流路42を通じて排出される。このとき、接続流路調整弁160が一部開放されており、第1の内部流路132の液体が第1の接続流路150を通じて第2の内部流路142側に流れ込み、透析液と共に排液流路42から排出される。このとき、液体は、フィルタ161を通過し透明にされる。以上のように体外循環回路12において、実際に患者に対して行われる透析時と同様の流れが形成される。
【0050】
そして、透析時に起きるトラブルのシミュレーションとして、例えば第1のシミュレーションモジュール120において、内部流路調整弁133により第1の内部流路132の上流側の流路が狭められる。これにより、第1のシミュレーションモジュール120の入口圧が上昇し、分離モジュール30の中空糸膜束Aの入口端部付近における管の目詰まりが疑似的に作り出される。練習者は、これに対し適切な処置を行う練習を行う。
【0051】
また、例えば内部流路調整弁160により第1の接続流路150の流路が狭められる。これにより、第1の内部流路132と第2の内部流路142との間に圧力差が形成され、分離モジュール30の中空糸膜束Aの一次側と二次側との間の中空糸膜の側壁孔の目詰りが疑似的に作り出される。練習者は、これに対し適切な処置を行う練習を行う。
【0052】
開閉弁162により第2の接続流路151が開放される。これにより、第1の内部流路132と第2の内部流路142が連通状態になり、分離モジュール30の中空糸膜の糸切れによる漏血状態が疑似的に作り出される。練習者は、これに対し適切な処置を行う練習を行う。
【0053】
また、第2のシミュレーションモジュール121において、供給流路調整弁190により液体供給流路180の流路が狭められる。これにより、一の穿刺部170aに供給される液体の量、つまり採血穿刺針10に流れ込む液体の量が減少し、採血穿刺針10の血管への先あたりなどによる採血不良が疑似的に作り出される。練習者は、これに対し適切な処置を行う練習を行う。例えば、一の穿刺部170aにおいて採血穿刺針10の穿刺位置が移動される。採血穿刺針10が適正な位置に移動されると、採血穿刺針10がセンサ210に接触して通電する。この通電をトリガとして、供給流路調整弁190が開放され、一の穿刺部170aに流れ込む液体の供給量が上昇し、疑似的な採血不良が解消される。
【0054】
また、排出流路調整弁191により液体排出流路181の流路が狭められる。これにより、他の穿刺部170bから排出される液体の量、つまり返血穿刺針11から排出する液体の量が減少し、返血穿刺針11の血管への先あたりなどによる返血不良、静脈圧上昇が疑似的に作り出される。練習者は、これに対し適切な処置を行う練習を行う。例えば、他の穿刺部170bにおいて返血穿刺針11の穿刺位置が移動される。返血穿刺針11が適正な位置に移動されると、返血穿刺針11がセンサ211に接触して通電する。この通電をトリガとして、排出流路調整弁191が開放され、他の穿刺部170bに流れ込む液体の供給量が上昇し、疑似的な返血不良が解消される。
【0055】
エア導入手段200により液体供給流路180にエアが供給される。これにより、採血穿刺針10を通じて体外循環回路12内にエアが混入され、体外循環回路12におけるチューブ接続の不具合等による体外循環回路12内への気泡の混入が疑似的に作り出される。練習者は、これに対し適切な処置を行う練習を行う。
【0056】
以上の実施の形態によれば、第1のシミュレーションモジュール120において、内部流路調整弁133により第1の内部流路132の上流側の流路を狭めて、第1のシミュレーションモジュール120の入口圧を上昇させ、分離モジュール30の中空糸膜束Aの入口端部付近における管の目詰まりを疑似的に作り出すことができる。また、第2のシミュレーションモジュール121において、供給流路調整弁190により液体供給流路180の流路を狭めて、採血穿刺針10に流れ込む液体の量を減少させ、採血穿刺針10の血管への先あたりなどによる採血不良を疑似的に作り出すことができる。また、排出流路調整弁191により液体排出流路181の流路を狭めて、返血穿刺針11から流出する液体の量を減少させ、返血穿刺針11の血管への先あたりなどによる返血不良、静脈圧上昇を疑似的に作り出すことができる。これにより、実際に起こり得るトラブルに応じた対処の練習を好適に行うことができる。
【0057】
また、上記実施の形態によれば、第1のシミュレーションモジュール120において、内部流路調整弁160により第1の接続流路150の流路を狭めて、第1の内部流路132と第2の内部流路142との間に圧力差を形成し、分離モジュール30の中空糸膜束Aの一次側と二次側との間の中空糸膜の側壁孔の目詰りを疑似的に作り出すことができる。また、開閉弁162により第2の接続流路151を開放し、第1の内部流路132と第2の内部流路142を連通状態にして、分離モジュール30の中空糸膜の糸切れによる漏血状態を疑似的に作り出すことができる。よって、より多くのトラブルの対処の練習を行うことができる。
【0058】
また、第1の接続流路150には、色付きの液体を透明にするフィルタ161が設けられているので、第1の接続流路150を通じて第1の内部流路132から第2の内部流路142に流れる液体が透明にされる。こうすることにより、第1の接続流路150からは色付きの液体が第2の内部流路142に流れ込まないので、例えば第2の接続流路151を通じた第1の内部流路132から第2の内部流路142への液体の漏れを目視で確認することができる。これにより、上述の分離モジュール30の中空糸膜の糸切れの漏血状態のシミュレーションを好適に行うことができる。
【0059】
第2のシミュレーションモジュール121は、液体供給流路180と液体排出流路181が接続される循環回路182を有し、循環回路182は、液体供給源183とポンプ184を有しているので、シミュレーションを行うための液体の供給、循環を適正に行うことができる。
【0060】
第2のシミュレーションモジュール121は、液体供給流路180にエアを導入するエア導入手段200を有しているので、液体供給流路180にエアを供給して、採血穿刺針10を通じて体外循環回路12内にエアを混入し、体外循環回路12におけるチューブ接続の不具合等による体外循環回路12内への気泡の混入を疑似的に作り出すことができる。よって、より多くのトラブルの対処の練習を行うことができる。
【0061】
穿刺部170a、170bには、穿刺針10、11の接触を検出するセンサ210、211が設けられているので、例えば液体供給流路180の流路を狭めて疑似的に採血不良を作り出し、採血穿刺針10の位置を適正な位置にずらしセンサ210との接触を検出することによって、採血不良を解消する作業の練習を行うことができる。また、液体排出流路181の流路を狭めて疑似的に返血不良を作り出し、返血穿刺針11の位置を適正な位置にずらしセンサ211との接触を検出することによって、返血不良を解消する作業の練習を行うことができる。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0063】
例えば上述の分離モジュール30は、中空糸膜Aを用いたものであったが、血液の所定成分を吸着して分離する吸着材を用いたものなど他の分離モジュールであってもよく、第1のシミュレーションモジュール120は、その分離モジュールの代わり体外循環回路12に接続されるものであってもよい。また、透析療法を行う体外循環装置に限られず、血液濾過療法、血漿浄化療法、白血球除去療法などの他の血液浄化療法などを行う体外循環装置にも本発明は適用できる。
【符号の説明】
【0064】
1 シミュレーション装置
2 体外循環装置
10 採血穿刺針
11 返血穿刺針
12 体外循環回路
30 分離モジュール
120 第1のシミュレーションモジュール
121 第2のシミュレーションモジュール
122 制御部
132 第1の内部流路
133 内部流路調整弁
170 模擬腕部
180 液体供給流路
181 液体排出流路
190 供給流路調整弁
191 排出流路調整弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体から採血穿刺針を通じて取り出された血液を体外で循環させて返血穿刺針を通じて人体に戻す体外循環回路と、前記体外循環回路に接続され、血液の成分を分離可能な分離モジュールとを有する体外循環装置のシミュレーション装置であって、
前記体外循環装置の体外循環回路に対し、前記分離モジュールの代わりに接続可能な第1のシミュレーションモジュールと、
前記採血穿刺針と前記返血穿刺針を穿刺可能で、人体の代わりに用いられる第2のシミュレーションモジュールと、
前記第1のシミュレーションモジュールと、前記第2のシミュレーションモジュールの動作を制御する制御部と、を有し、
前記第1のシミュレーションモジュールは、前記体外循環回路の前記採血穿刺針側から送られた液体が導入される導入口と、前記体外循環回路の前記返血穿刺針側に液体が導出される導出口と、前記導入口と前記導出口を連通させる内部流路と、当該内部流路の流路の大きさを調整可能な内部流路調整部と、を有し、
前記第2のシミュレーションモジュールは、前記採血穿刺針と前記返血穿刺針が穿刺可能な2か所の穿刺部を有し人体の所定の部位を模した模擬人体部と、一の穿刺部に刺された前記採血穿刺針を通じて前記体外循環回路に対し液体を供給し、他の穿刺部に穿刺された前記返血穿刺針を通じて前記体外循環回路から液体を排出する液体回路と、を有し、
前記液体回路は、前記一の穿刺部に液体を供給する液体供給流路と、前記他の穿刺部から液体を排出する液体排出流路と、前記液体供給流路の流路の大きさを調整可能な供給流路調整部と、前記液体排出流路の流路の大きさを調整可能な排出流路調整部と、を有し、
前記制御部は、前記内部流路調整部、前記供給流路調整部及び前記排出流路調整部による前記各流路の大きさの調整を制御することを特徴とする、体外循環装置のシミュレーション装置。
【請求項2】
前記第1のシミュレーションモジュールは、前記導入口及び前記導出口とは別の通液口と、前記通液口に通じる他の内部流路と、前記内部流路と前記他の内部流路を接続する接続流路と、前記接続流路の流路の大きさを調整可能な接続流路調整部と、を有し、
前記制御部は、前記接続流路調整部による前記接続流路の流路の大きさの調整を制御することを特徴とする、請求項1に記載の体外循環装置のシミュレーション装置。
【請求項3】
前記第1のシミュレーションモジュールは、前記内部流路と前記他の内部流路を接続する他の接続流路と、前記他の接続流路の開閉を行う開閉部と、を有し、
前記制御部は、前記開閉部による前記他の接続流路の開閉を制御することを特徴とする、請求項2に記載の体外循環装置のシミュレーション装置。
【請求項4】
前記接続流路には、色付きの液体を透明にするフィルタが設けられていることを特徴とする、請求項3に記載の体外循環装置のシミュレーション装置。
【請求項5】
前記第2のシミュレーションモジュールは、前記液体供給流路と前記液体排出流路が接続された循環回路を有し、
前記循環回路には、液体供給源とポンプが接続されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の体外循環装置のシミュレーション装置。
【請求項6】
前記第2のシミュレーションモジュールは、前記液体供給流路にエアを導入するエア導入手段を有し、
前記制御部は、前記エア導入手段によるエアの導入を制御することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の体外循環装置のシミュレーション装置。
【請求項7】
前記穿刺部には、前記採血穿刺針及び前記返血穿刺針の接触を検出するセンサが設けられていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の体外循環装置のシミュレーション装置。
【請求項8】
人体から採血穿刺針を通じて取り出された血液を体外で循環させて返血穿刺針を通じて人体に戻す体外循環回路と、前記体外循環回路に接続され、血液の成分を分離可能な分離モジュールとを有する体外循環装置のシミュレーションモジュールであって、
前記体外循環装置の体外循環回路に対し、前記分離モジュールの代わりに接続可能であり、
前記体外循環回路の前記採血穿刺針側から送られた液体が導入される導入口と、
前記体外循環回路の前記返血穿刺針側に液体が導出される導出口と、
前記導入口と前記導出口を連通させる内部流路と、
前記内部流路の流路の大きさを調整可能な内部流路調整部と、を有することを特徴とする、体外循環装置のシミュレーションモジュール。
【請求項9】
前記導入口及び前記導出口とは別の通液口と、
前記通液口に通じる他の内部流路と、
前記内部流路と前記他の内部流路を接続する接続流路と、
前記接続流路の流路の大きさを調整可能な接続流路調整部と、をさらに有することを特徴とする、請求項8に記載の体外循環装置のシミュレーションモジュール。
【請求項10】
前記内部流路と前記他の内部流路を接続する他の接続流路と、
前記他の接続流路の開閉を行う開閉部と、をさらに有していることを特徴とする、請求項9に記載の体外循環装置のシミュレーションモジュール。
【請求項11】
前記接続流路には、色付きの液体を透明にするフィルタが設けられていることを特徴とする、請求項10に記載の体外循環装置のシミュレーションモジュール。
【請求項12】
人体から採血穿刺針を通じて取り出された血液を体外で循環させて返血穿刺針を通じて人体に戻す体外循環回路と、前記体外循環回路に接続され、血液の成分を分離可能な分離モジュールとを有する体外循環装置のシミュレーションモジュールであって、
前記採血穿刺針と前記返血穿刺針が穿刺可能な2か所の穿刺部を有し、人体の所定の部位を模した模擬人体部と、
一の穿刺部に穿刺された前記採血穿刺針を通じて前記体外循環回路に対し液体を供給し、他の穿刺部に穿刺された前記返血穿刺針を通じて前記体外循環回路から液体を排出する液体回路と、を有し、
前記液体回路は、前記一の前記穿刺部に液体を供給する液体供給流路と、前記他の穿刺部から液体を排出する液体排出流路と、前記液体供給流路の流路の大きさを調整可能な供給流路調整部と、前記液体排出流路の流路の大きさを調整可能な排出流路調整部と、を有することを特徴とする、体外循環装置のシミュレーションモジュール。
【請求項13】
前記液体供給流路と前記液体排出流路が接続された循環回路を有し、
前記循環回路には、液体供給源とポンプが接続されていることを特徴とする、請求項12に記載の体外循環装置のシミュレーションモジュール。
【請求項14】
前記液体供給流路にエアを導入するエア導入手段を有することを特徴とする、請求項12又は13に記載の体外循環装置のシミュレーションモジュール。
【請求項15】
前記穿刺部には、前記採血穿刺針及び前記返血穿刺針の接触を検出するセンサが設けられていることを特徴とする、請求項12〜14のいずれかに記載の体外循環装置のシミュレーションモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−259525(P2010−259525A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111152(P2009−111152)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000116806)旭化成クラレメディカル株式会社 (133)
【出願人】(502218570)株式会社メディカルシード (5)
【Fターム(参考)】