説明

体外血液処理のためのバスキュラーアクセスを監視する装置及び方法

本発明は、体外血液循環路を備える体外血液処理器具の患者へのアクセスを監視する装置及び方法に関する。さらに、本発明は、バスキュラーアクセスを監視する装置を備える体外血液処理器具に関する。本発明による装置及び本発明による方法は、血液の特有の性質、特に、体外血液処理器具Aの体外血液循環路Iの動脈血液管路内を流れる血液におけるヘモグロビンの濃度の監視に基づいている。不適切なバスキュラーアクセスのときには、体内及び体外血液循環系の連絡における流れの状況が変化する。流れの状況におけるこれら変化は、ヘモグロビン濃度の変化として検出され得る。患者へのアクセスのための静脈穿刺カニューレ8の抜け外れが、動脈血液管路6内の血液のヘモグロビン濃度の減少によって確認される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体外血液循環路を備える体外血液処理器具の患者へのアクセスを監視する装置に関する。また、本発明は、体外血液処理における患者へのアクセスを監視する方法に関する。また、本発明は、バスキュラーアクセスを監視する装置を備える体外血液処理器具に関する。
【背景技術】
【0002】
医療技術の分野では、体外血液循環路を含むさまざまな体外血液処理器具が知られている。該公知の体外血液処理器具は、例えば、患者の血管系へのアクセスを必要とする透析器具を含む。体外血液処理において、血液は、動脈穿刺カニューレで動脈ホース管路を通して患者から取り出され、その血液は、静脈穿刺カニューレで静脈ホース管路を通して再び患者へ戻される。これらの体外血液処理器具は、体外血液循環路における血液を移送するための血液ポンプを含む。
【0003】
体外血液処理の間に、病院職員によってバスキュラーアクセスの定期的監視が行われるにもかかわらず、患者の血管から抜け外れる静脈穿刺カニューレに気付かないという恐れが原理上ある。動脈カニューレの抜け外れは、動脈ホース管路内への空気の吸引に結び付くのに対して、静脈カニューレの抜け外れは、血液が周辺に自由に流れる恐れを引き起こす。このため、静脈カニューレの抜け外れが速やかに気付かれない場合には、患者が出血死する恐れがある。
【0004】
バスキュラーアクセスを監視するために、異なる設計のさまざまな装置が知られている。該公知の監視装置は、一般的に、血液処理器具における規格として存在している安全装置に頼っており、該安全装置は、不適切なバスキュラーアクセスの場合には、体外血液循環路内の血流の即時遮断を動作させる。
【0005】
バスキュラーアクセスのための監視装置は、国際公開第99/29356A1号で知られており、ここでは、ホース管路内の流体に流れる電流の強さが測定される。米国第2004/0254513A1号は、監視装置を記載しており、ここでは、動脈ホース管路及び静脈ホース管路に配置された二つの電極間のインピーダンスが測定される。該公知の装置は、ホース管路内を流れる流体への電気的接続の創出を必要とするという欠点がある。
【0006】
穿刺箇所における血液の流出を検出することのできる監視装置は、国際公開第2006/008866A1号及び米国第2005/0038325A1号で知られている。これらの装置は、湿度センサーを含む。
【0007】
患者の血液中における特定の成分の濃度、例えば、血液中のヘモグロビン濃度又はヘマトクリット値を測定するためのさまざまな方法が知られている。従来技術として、血液試料の採取を必要とする血液成分の濃度を測定するための方法が知られている。しかしながら、ホース管路を通って流れる血液中の成分の濃度が非侵襲的に測定される測定方法も知られている。これらの方法は、体外血液処理において、血液が体外血液循環路のホース管路を通って流れるときに、特に用いられている。
【0008】
国際公開第2008/000433A1号は、体外血液処理器具の体外血液循環路の血液で満たされた透明ホース管路内における特定の血液成分の濃度を測定する方法及び装置を記載している。該公知の方法及び該公知の装置は、血液の全容積中のヘモグロビン濃度と赤い血球(赤血球)の割合との測定を特に可能にする。測定の間に、ホース管路は、二つの平行な接触面の間で締め付けられる。ヘモグロビン濃度又はヘマトクリット値の測定は、血液中における電磁放射の散乱又は透過に基づいている。光放出器によって、特定波長の光が透明ホース管路を通って血液中へ伝達される一方で、光検出器によって、散乱又は透過された光が測定される。その後、ヘマトクリット値は、血液中へ入る光の強度と血液から出て行く光の強度との比から測定される。
【0009】
体外血液処理法、例えば、血液透析法、血液濾過法及び血液透析濾過法においては、患者の血管系へのアクセスとして、動静脈フィステルが外科的にしばしば使用される。インプラントの使用もまた可能である。以下で「フィステル」について言えば、これは、バスキュラーアクセスを作り出すための静脈と動脈との間における任意の種類の接続を意味すると理解される。
【0010】
透析が行われない期間において、フィステル内の血流は、機能的な左/右のシャントに対応しており、動脈血の一部は、毎分心拍出量(HMV)から、末梢での使用を迂回して静脈系及び心臓へ直接送り込まれる。フィステル流は、心臓と肺とを通って再循環される。毎分心拍出量におけるフィステル流の端数部分は、心肺再循環量として規定される。透析処理の間に、心臓の左心室から出た血液は、大部分が全ての臓器の毛細血管系内へ流れ、少量がフィステル内へ流れる。体外血液循環路内の血流がフィステルの内又は外へ流れる血液の流れよりも少ない場合には、フィステルの血液の一部が体外血液循環路を通って流れ、他の部分がフィステルを通って流れる。体外血液、即ち、フィステルを通って流れる血液と、毛細血管系から来る血液とは、最終的に、心臓への帰還流の中で再び一体化される。これに対して、体外血流がフィステル流、即ち、体外血液循環路からの血液よりも多い場合、流れは、フィステルを通って、静脈接続部から動脈接続部へ通過する。
【0011】
フィステル内の再循環量又は心肺再循環量を測定する方法及び装置は、国際公開第2009/065611A1号で知られている。該公知の方法及び該公知の装置は、フィステル再循環量(R)と心肺再循環量部分(RCP)との総計、即ち、総再循環量(R)が異なる二つの血流比について測定されるという事実に基づいている。国際公開第2009/065611A1号は、フィステル再循環及心肺再循環の効果の理論的背景もまた記載している。これらの効果は、EDTNA−ERCA誌のXIX巻、第3(1993)におけるKraemer及びPolascheggによる技術論文「Automatic Measurement of Recirculation」にも記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の根底にある課題は、血液処理器具に大規模な変更を伴うことなく、また、別の構成要素を使用することなく、患者の血管へのアクセスを高度の信頼度で監視することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この課題への解決策は、独立請求項に記載された特徴を備える本発明によって行われる。本発明の好適な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0014】
本発明による装置及び本発明による方法は、体外血液循環路の動脈血液管路内を流れる血液の特有の性質、特に、体外血液循環路内を流れる血液中のヘモグロビン濃度の監視に基づいている。
【0015】
不適切なバスキュラーアクセスの場合には、流れの状況は、体内及び体外血液循環系間の連絡で変化する。流れの状況におけるこれらの変化は、血液パラメータの変化として検出され得る。一つの血液パラメータだけが監視されても、十分である。しかしながら、本発明による測定の信頼度を増加するために、複数の血液パラメータが監視され、監視された全ての血液パラメータが変化するときに不適切なバスキュラーアクセスがあると断定されてもよい。
【0016】
本発明による装置及び本発明による方法にとって、血液の特有の性質の測定が動脈血液管路の内で又は接触して、即ち、透析器と動脈カニューレとの間で行われることは、明白である。
【0017】
フィステルを備えていない患者の場合には、全ての血液は、心臓及び肺を通過する経路や、内臓器官の全ての毛細血管系、筋肉及び皮膚などを通って流れ、その後、再び心臓へ還流する。フィステルを備える透析器による患者の場合には、循環する血液の一部は、もはや毛細血管系を通って流れることはないが、後者を迂回し、そして、毛細血管系に対して平行に適用されたフィステルを経由する経路をとる。このいわゆる「心肺再循環」は、フィステルを備える患者、より正確には、透析処理の間と患者が体外血液循環路に接続されていないときとの両方の場合には、常に存在する。したがって、体外血液循環路が接続されているとき、透析器内で処理されて静脈針を経由してフィステル内へ還流した血液の一部は、毛細血管系を迂回し、心臓及び肺を経由してフィステル内へ直接移送される。この心肺再循環は、常に存在し、そして不可避である。該心肺再循環とは無関係に、フィステル内におけるフィステル再循環の存在が可能である場合には、処理されて静脈カニューレを経由してフィステル内へ帰還した血液の一部は、この直接的経路において動脈カニューレの中へ再び入ってもよい。
【0018】
両方の再循環処理は、動脈管路におけるさまざまな血液パラメータの測定値に関する効果を有する。静脈針がフィステルから引き抜かれるときには、静脈血液管路を流れる新鮮に処理された血液は、突然、フィステル内へ進入しなくなる。一方で、存在することのあるフィステル再循環の短絡経路を経由する既に処理された血液の、動脈管路内への混合は、結果として非存在であり、そして、他方で、心肺再循環の迂回路を経由する動脈管路内への、新鮮に処理された血液の混合は、常に非存在である。
【0019】
透析器の後方の下流、即ち、静脈管路内で、例えば、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値及び粘度が、透析の間に、透析器内の水分除去のために、動脈管路における対応測定値に比べて増加する、即ち、濃度の増加が透析器内で起きる。静脈針の抜け外れのときには、より濃く濃縮された血液の、動脈側におけるフィステル内への混合の非存在は、対応測定値の減少をもたらす。
【0020】
静脈針の抜け外れのときには、心肺再循環の経路と存在することのあるフィステル再循環の経路とを経由する動脈血液管路への、透析器内で既に処理された血液の混合は、非存在である、ということが示されている。それゆえ、静脈針の抜け外れのときには、体外血液循環路の動脈血液管路内のさまざまな血液パラメータにおける変化は、検出され得る。心肺再循環が常に存在するので、患者へのアクセスの監視は、フィステル再循環が非存在であるときでさえも、可能である。
【0021】
原理上、全ての血液パラメータは、動脈血液管路内におけるパラメータの検出可能な増加又は減少の何れか一方をもたらす測定された変数として使用され得る。該血液パラメータは、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値、粘度、酸素飽和度、温度、pH値、イオン濃度、例えば、Na、Cl、Ca++、K、Mg++から少なくとも一つのイオン濃度、重炭酸塩濃度又はグルコース濃度を含んでいるリストからのパラメータであってもよい。
【0022】
監視された血液パラメータの対応測定値の減少が体外血液循環路の動脈血液管路内で測定され、そこで、正常なバスキュラーアクセスと仮定して、透析器の後方における箇所での同じ血液パラメータの対応値が透析器の前方におけるものよりも大きい場合、静脈針の抜け外れがある、と断定し得る。
【0023】
同様に、監視された血液パラメータの対応測定値の増加が体外血液循環路の動脈血液管路内で測定され、そこで、正常なバスキュラーアクセスと仮定して、透析器の後方における箇所での同じ血液パラメータの対応値が透析器の前方におけるものよりも小さい場合、静脈針の抜け外れがあると、断定し得る。
【0024】
したがって、測定値が透析器の前方及び後方で異なった値を表示する血液パラメータは、本発明による静脈針の抜け外れの監視のために好適である。
【0025】
透析器内の血液パラメータの変化は、例えば、限外濾過による透析器内の水分除去による血液の「濃縮」に起因して、生じ得る。しかしながら、血液側及び透析物側間に存在する熱移動は、パラメータの変化をもたらし得る。
【0026】
例えば、体外血液循環路内における可能な血液パラメータとしての血液温度の特性は、透析物側における加熱形態に依存する。微量の熱が透析器内における血液から引き出されるときには、正常なバスキュラーアクセスにおける血液温度は、透析器の下流では、動脈側における対応温度の僅か下方に存在する。したがって、より冷たい血液は、フィステル内で混合され、心肺再循環とフィステル再循環との経路を経由して動脈管路内へ移送される。静脈針の抜け外れのときには、より冷たい血液の、動脈管路内への混合が、非存在であり、そこで温度の適度な増加をもたらす。反対に、微量の熱が透析器内の血液へ送られるときには、そのときにより温かい血液の、動脈管路内への混合が、非存在であるので、静脈針の抜け外れは、動脈管路内における血液温度の降下によって検出され得る。
【0027】
ヘモグロビン濃度の測定は、ヘモグロビン濃度が迅速に測定され得る従来技術の公知の方法を使用できるという利点を有する。ヘモグロビン濃度を測定するための全ての測定方法は、原理上、使用され得る。公知の光学的方法が使用されることは、好適である。しかしながら、ヘモグロビン濃度は、公知の超音波方法を用いても測定され得る。ヘモグロビン濃度の測定が非侵襲的に行われる場合、好適である。
【0028】
患者へのアクセスを監視する本発明による装置は、体外血液循環路の動脈血液管路内を流れる血液中のヘモグロビン濃度を測定するための手段と、設定量を超える量のヘモグロビン濃度の減少が存在する場合には、不適切なバスキュラーアクセスがあると断定するように設計された制御・演算ユニットと、を含む。設定量を超える量までのヘモグロビン濃度の減少は、さまざまな数学的評価方法によって確認され得る。
【0029】
本発明の好ましい実施形態において、制御・演算ユニットは、測定されたヘモグロビン濃度を設定閾値と比較するための手段と、測定されたヘモグロビン濃度と設定閾値との差の値がゼロよりも大きい場合、制御信号を生成するための手段と、を含む。
【0030】
別の好ましい実施形態において、制御・演算ユニットは、先行する第1時刻で測定された第1ヘモグロビン濃度をその後の第2時刻で測定された第2ヘモグロビン濃度と比較するための手段を含む。制御信号は、第1及び第2ヘモグロビン濃度間の差の量が設定閾値よりも大きい場合、生成される。他の状況に起因するヘモグロビン濃度の変化がある場合でも、針の抜け外れに起因するヘモグロビン濃度の減少は、高い信頼度で検出されことができ、二つの測定間の時間間隔がそのように短い時間間隔内で選択される場合、他の状況に起因するヘモグロビン濃度の変化が予想されることがない、ということは好適である。例えば、測定は、血流速度及び/又は限外濾過速度が変化しない二つの時点で行われるべきである。連続する二つの時点での測定は、好ましくは、全血処理の間に行われる。
【0031】
本発明による測定方法の信頼度を増加するために、心肺再循環量が測定されて設定上方及び下方閾値と比較されてもよく、そのとき、ヘモグロビン濃度が設定量を超える量まで減少する場合には、測定された心肺再循環量が設定上方及び下方閾値間にある場合、不適切なバスキュラーアクセスがあると断定される。しかしながら、数値範囲の代わりに、測定された心肺再循環量の比較のために単に上方又は下方閾値を設定することも可能である。
【0032】
本発明による監視装置のさらに好ましい実施形態は、制御・演算ユニットが不適切なバスキュラーアクセスを確認するとき、聴覚的及び/又は視覚的及び/又は触覚的な警報を発する警報ユニットを備える。
【0033】
本発明による体外血液処理器具は、バスキュラーアクセスを監視するための本発明による装置を含む。本発明による装置及び本発明による方法が付加的な操作を必要としたり又は患者の動きの自由度を不必要に制限したりする外部構成要素を使用しない、ということは好適である。
【0034】
本発明による血液処理器具の好ましい実施形態は、不適切なバスキュラーアクセスがあるときに監視装置の制御・演算ユニットが制御信号を生成する場合、血液処理器具の制御ユニットが機械制御の中への介入を始める、用意をしている。制御ユニットは、好ましくは、体外血液循環路内に配置された血液ポンプが機械制御の中への介入として停止されるように設計される。さらに、静脈血液管路内に配置された遮断要素は、好ましくは、閉鎖される。これは、不適切なバスキュラーアクセスのときに、例えば、静脈穿刺カニューレが抜け外れる又はホース管路における漏洩があるとき、血液が周辺に流れることを効果的に防止する。
【0035】
本発明の実施形態の一例が、以下に、図面を参照してより詳しく説明される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】バスキュラーアクセスを監視するための本発明による装置を備える、本発明による体外血液処理器具の主要構成要素を簡素化された略図で示す。
【図2】ヘモグロビン濃度の変化を限外濾過速度の関数として示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明によるバスキュラーアクセスを監視する装置は、別のユニットから形成してもよく又は体外血液処理器具の構成要素であってもよい。本発明による監視装置が血液処理器具の構成要素である場合は、本発明による監視装置は、どのような場合にも血液処理器具に存在している特定の部品組立品又は構成要素を使用できる。
【0038】
以下に説明される体外血液処理器具Aは、バスキュラーアクセスを監視する装置Bを含む。血液処理器具、例えば、血液透析器具、血液濾過器具又は血液透析濾過器具が当業者にそのようなものとして知られているため、図面は、血液処理器具の主要構成要素だけを略図で示している。
【0039】
血液処理器具は、公知の血液透析器具であって、半透膜2によって血液チャンバ3と透析用流体チャンバ4とに分けられている透析器1を含む。動脈穿刺カニューレ5によって患者のフィステルFの動脈部5Aへ接続されているのは、透析器の血液チャンバ3の入口へ導かれる動脈ホース管路6である。透析器の血液チャンバ3の出口から引き出されているのは、静脈穿刺カニューレ8によってフィステルFの静脈部8Aへ接続されている静脈ホース管路7である。血液は、動脈ホース管路6に設けられた血液ポンプ9によって、体外血液循環路I内を移送される。
【0040】
血液透析器具の透析用流体循環路IIは、透析器の透析用流体チャンバ4の入口へ導く透析用流体供給管路11が接続された透析用流体源10を含む。透析器の透析用流体チャンバ4の出口から引き出されているのは、排液管13へ導く透析用流体排出管路12である。透析用流体は、透析用流体排出管路12に設けられた透析用流体ポンプ14によって、透析用流体循環路II内を移送される。
【0041】
透析器具の制御は、血液ポンプ9及び透析用流体ポンプ14を制御管路16,17によって制御する中央制御ユニット15によって担われる。血流速度Qは、血液ポンプ9で調節される。
【0042】
静脈ホース管路7において透析器1の血液チャンバ3の下流に配置されているのは、電磁的に動作するホースクランプ18であって、さらに別の制御管路19を用いて、中央制御ユニット15によって開放又は閉鎖され得るホースクランプ18である。静脈ホースクランプ18が閉鎖されるとき、流体の流れが体外血液循環路I内において遮断されるので、血液が周辺に流れることができない。
【0043】
図に示された構成要素の他に、透析器具は、他の部品組立品も含むが、それらは、明瞭さのために示されていない。これらは、例えば、新鮮な透析用流体と消費された透析用流体との平衡を保つための平衡装置と、設定された限外濾過速度QUFで患者から透析用流体を取り出すことを可能にするための限外濾過装置と、を含む。
【0044】
静脈バスキュラーアクセスを監視する装置Bは、図では別のユニットとして表示されている制御・演算ユニット20を含む。しかしながら、制御・演算ユニット20は、血液処理器具の中央制御ユニット15の構成要素であってもよい。
【0045】
さらにまた、監視装置Bは、体外血液循環路Iの動脈血液管路内を流れる血液中のヘモグロビンの濃度を測定するための手段を含む。しかしながら、ヘモグロビン濃度を測定するための手段の代わりに、ヘモグロビン濃度以外の血液パラメータを測定するための手段が設けられてもよい。その場合には、例として、ヘモグロビン濃度について以下に言及がされるとき、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値、酸素飽和度、粘度、温度、pH値、イオン濃度、重炭酸塩濃度又はグルコース濃度が含まれるリストからの一つ以上のパラメータに関係してもよい。
【0046】
ヘモグロビン濃度HBを測定するための手段は、非侵襲的な光学的測定ユニット21であって、動脈穿刺カニューレ5の下流であって血液ポンプ9の上流における動脈血液管路6に配置されている光学的測定ユニット21を含む。測定ユニット21の測定値は、データライン22を経て制御・演算ユニット20によって受信される。ヘモグロビン濃度の非侵襲的な光学的測定のための装置は、当業者に知られている。しかしながら、光学的測定装置の代わりに、超音波測定に基づいてヘモグロビン濃度を測定するための公知の装置を使用されてもよい。ヘモグロビン濃度がどのようにして測定されるかは、本発明にとって無関係である。
【0047】
例えば、国際公開第2008/000433A1号は、ヘモグロビン濃度を測定するための公知の装置であって、動脈血液管路6を通して血液中に所定の波長で光を結合や分離することを可能にするために、光放出器21A及び光検出器21Bを含む測定ユニット21を含む装置を記載しており、前記血液管路は、例えば、赤外線を透過する透明ホース管路である。ヘモグロビン濃度は、結合及び分離された光の強度の比から確認される。結合及び分離された光の強度の比とヘモグロビン濃度との間の割当は、演算・評価ユニット20のメモリCに記憶されてもよい。
【0048】
ヘモグロビン濃度を測定するために、欧州第1748292A1号で知られている光学的血液容量モニタ(OBVM)を使用されてもよい。
【0049】
第1実施形態において、監視装置の制御・演算ユニット20は、測定されたヘモグロビン濃度を設定閾値と比較するための手段20Aを含む。さらに、制御・演算ユニット20は、データライン23を経て中央制御ユニット15によって受信される制御信号を生成するための手段20Bを含む。
【0050】
特定の血流速度Q及び特定の限外濾過速度QUFは、体外血液処理のために担当の医師によって設定される。血液処理器具の中央制御ユニット15は、体外血液循環路I内の血液が設定された流速Qで移送されるように、血液ポンプ9の速度nを設定する。限外濾過装置(図示せず)は、流体が設定された限外濾過速度QUFで患者から取り出されることを保証する。
【0051】
ヘモグロビン濃度HBは、体外血液処理の間に連続的に監視される。測定されたヘモグロビン濃度は、ヘモグロビン濃度の減少を確認することを可能にするために、設定閾値と常に比較される。測定されたヘモグロビン濃度と設定閾値との差の量がゼロよりも大きい場合には、制御・演算ユニット20は、現在の不適切なバスキュラーアクセス、即ち、静脈穿刺カニューレが抜け外れたことを確認する。設定閾値は、血流速度Q及び限外濾過速度QUFから独立している。したがって、異なった血流速度及び限外濾過速度を割り当てられた異なった閾値が、制御・演算ユニットのメモリC内に記憶できるので、制御・演算ユニット20は、瞬時の血流速度Q及び限外濾過速度QUFについての適切な閾値を選択できる。
【0052】
ヘモグロビン濃度又は別の血液パラメータについての閾値は、処理の開始前又は開始時に固定的に設定された閾値であってもよい。しかしながら、それは、処理の間に又は特定の時間間隔で連続して確認され且つ更新される動的閾値であって、血流速度Q及び限外濾過速度QUFに依存する動的閾値であってもよい。本発明によれば、血液パラメータの測定値の比較は、その時の更新された閾値で行われる。これにより、評価の信頼度は、さらに改善される。ヘモグロビン濃度を血液パラメータとした実施形態の例では、次式は、ヘモグロビン濃度についての設定された閾値Threshの計算及び更新の結果をもたらす。
【0053】
【数1】

【0054】
ここで、Rは、フィステル内の再循環量であり、RCPは、体外血液循環路内の心肺再循環量部分である。RBTMは、透析の間に測定された総再循環量である。総再循環量は、当業者に知られた測定装置で測定されてもよい。そのような測定装置は、例えば、国際公開第2009/065611A1号で知られている。この測定装置26は、公知の透析器具の構成要素であって、図において表示の目的で示されている。測定装置26は、データライン27を経由して制御・演算ユニット26へ接続されている。
【0055】
監視装置Bは、データライン25を経由して制御・演算ユニット20の制御信号を受信する警報ユニット24を含む。警報ユニット24は、次いで、聴覚的及び/又は視覚的及び/又は触覚的な警報を発する。しかしながら、警報ユニットは、血液処理器具の構成要素であってもよい。血液処理器具の中央制御ユニット15が制御・演算ユニット20の制御信号を受信するとき、中央制御ユニット15が血液ポンプ9を即座に停止すると共にホースクランプ18を即座に閉鎖するので、血液は、周辺に流れることができない。
【0056】
別の実施形態において、二つの連続する時点で測定されたヘモグロビン濃度は、不適切なバスキュラーアクセスの結果としてのヘモグロビン濃度HBの減少を確認するために、互いに比較される。制御・演算ユニット20の手段20Aは、先行する第1時刻tで測定された第1ヘモグロビン濃度HBt1と、その後の第2時刻tで測定された第2ヘモグロビン濃度HBt2とを比較する。第1ヘモグロビン濃度HBt1と第2ヘモグロビン濃度HBt2との差の量が設定閾値よりも大きい場合、制御・演算ユニット20が制御信号を生成するので、透析器具の中央制御ユニット15は、機械制御の中への介入として血液ポンプ9を停止させると共に、静脈ホースクランプ18を閉鎖する。別の実施形態の例において、複数の閾値を事前に選択することは、原則として必要でない。なぜなら、ヘモグロビン濃度が全処理期間にわたって変化する場合には、静脈穿刺カニューレ8の抜け外れの結果によるヘモグロビン濃度の突然の減少は、静脈カニューレの抜け外れ前の時点tにおけるヘモグロビン濃度と静脈カニューレの抜け外れ後の時点tにおけるヘモグロビン濃度HBt2との比較によって確実に検出することができるからである。
【0057】
さらなる別の実施形態は、測定の信頼度を増加するために、心肺再循環の監視を提供する。
【0058】
正常な患者へのアクセスによる通常の透析操作では、患者へ還流した血液のうち少ない一部の流れであって、清浄されて「濃縮され」ている流れは、患者の毛細管系内へ連続的に進入しないが、心肺再循環と可能なフィステル再循環との理由で、未処理の血液と共にフィステルを経由して動脈血液管路内へ再び進入する。したがって、静脈針の抜け外れの場合には、「濃縮され」た血液は、もはや動脈側へ至ることがないが、患者からの未処理血液だけが至る。それゆえ、概して、濃度の降下は、動脈ホース管路において測定することができる。静脈針の抜け外れを検出するための本発明による測定の信頼度をさらに増加するために、心肺再循環量が予測された値の範囲内に実際にあるかどうかを測定値で確認することが可能である。
【0059】
心肺再循環量は、測定装置26によって測定される。制御・演算ユニット26は、測定装置26によって測定された心肺再循環量を設定された上方及び下方閾値と比較する。設定量を超える量だけヘモグロビン濃度の減少がある場合には、本実施形態における制御・演算ユニットは、測定された心肺再循環量が設定上方及び下方閾値間にある時にだけ、制御信号を生成する。
【0060】
静脈穿刺カニューレ8の抜け外れの結果としてのヘモグロビン濃度の減少への理論的背景が、以下で詳しく説明される。
【0061】
静脈穿刺カニューレ8の抜け外れは、体外血液循環路Iの遮断を引き起こすので、ヘモグロビン濃度が上昇した血液の、心肺再循環及び可能なフィステル再循環の経路を経由する動脈血液管路内への混合は、非存在である。これは、動脈血液管路6内のヘモグロビン濃度の降下(ΔHB)を引き起こし、それは、本発明による監視装置Bによって検出される。
【0062】
動脈穿刺カニューレ8でのヘマトクリット値は式(1)から計算される。
【0063】
【数2】

【0064】
Hct=Hct/(1−α)であり、かつ、α=QUF/Qであれば、次の結果が得られる。
【0065】
【数3】

【0066】
変換と、R=R+RCPの代入との後に、次の結果が得られる。
【0067】
【数4】

【0068】
【表1】

【0069】
式(3)は、ヘモグロビン濃度が上昇した血液の、心肺再循環及び可能なフィステル再循環の経路を経由する動脈血液管路内への混合の停止によって引き起こされたヘマトクリット値の変化(ΔHct)を示している。次の計算例は、変化の大きさの範囲を示している。
【0070】
以下で、静脈穿刺カニューレの抜け外れがヘモグロビン濃度のかなりの降下ΔHBをもたらすことを示している。この計算例において、フィステル内における再循環量R=2%であり、そして、心肺再循環量部分RCP=10%であると仮定されている。以下の表に示された値は、200ml/分と300ml/分との異なる血流速度、及び500〜4000ml/時の異なる限外濾過速度についての結果である。
【0071】
【表2】

【0072】
上記の表では、経験式ΔHB〔g/dlによる〕=ΔHct〔%による〕/3は、ヘモグロビン濃度中のヘマトクリット値の変換のために用いられており、これは数値式(「特殊用途数量方程式」)である。
【0073】
上記表及び図2は、二つの選択された一定血流速度Q=200ml/分(上側のグラフ)及びQ=300ml/分(下側のグラフ)について、静脈針の抜け外れによる動脈血液管路内におけるヘモグロビン濃度HBの降下量ΔHBを、限外濾過速度QUFの関数として示しており、ここで、ヘモグロビン濃度の降下量ΔHBは、清浄化された血液の「濃縮」が限外濾過速度の増加につれて大きくなるので、限外濾過速度が増加するにつれて大きくなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体外血液循環路を備える体外血液処理器具の患者へのアクセスを監視する装置であって、動脈患者接続部を有する動脈血液管路と、静脈患者接続部を有する静脈血液管路とを含み、前記体外血液循環路内における血液を移送するための血液ポンプが前記動脈又は静脈血液管路内に配置され、
バスキュラーアクセスを監視する前記装置は、
前記体外血液循環路の前記動脈血液管路内を流れる血液の特有の性質を測定するための手段(21)と、
前記動脈血液管路内を流れる血液の特有の性質が設定量を超える量まで変化したときには、不適切なバスキュラーアクセスがあると断定するように設計される制御・演算ユニット(20)と、
を含むことを特徴とする装置。
【請求項2】
血液の前記特有の性質は、前記体外血液循環路内を流れる血液におけるヘモグロビン濃度であり、前記制御・演算ユニットは、前記動脈血液管路内を流れる血液のヘモグロビン濃度が設定量を超える量まで減少したときには、不適切なバスキュラーアクセスがあると断定するように設計されている、ことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記制御・演算ユニット(20)は、測定されたヘモグロビン濃度を設定閾値と比較するための手段(20A)と、測定された前記ヘモグロビン濃度と前記設閾値との差の量がゼロよりも大きいときに、制御信号を生成するための手段(20B)とを含む、ことを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記制御・演算ユニット(20)は、先行する第1時刻で測定された第1ヘモグロビン濃度をその後の第2時刻で測定された第2ヘモグロビン濃度と比較するための手段(20A)と、前記第1ヘモグロビン濃度と前記第2ヘモグロビン濃度との差の量が設定閾値よりも大きいときに、制御信号を生成するための手段(20B)とを含む、ことを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項5】
バスキュラーアクセスを監視する前記装置は、心肺再循環量を測定するための手段(26)を含み、前記制御・演算ユニット(20)は、測定された前記心肺再循環量を設定上方及び下方閾値と比較するための手段を含み、前記制御・演算ユニット(20)は、前記ヘモグロビン濃度が設定量を超える量まで減少したときには、測定された前記心肺再循環量が前記設定上方及び下方閾値間にあるときに不適切なバスキュラーアクセスがあると断定するように設計されている、ことを特徴とする請求項2〜4の何れか1項に記載の装置。
【請求項6】
バスキュラーアクセスを監視する前記装置は、前記制御・演算ユニット(20)が不適切なバスキュラーアクセスを確認するときに、聴覚的及び/又は視覚的及び/又は触覚的な警報を発する警報ユニット(24)を含む、ことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の装置。
【請求項7】
ヘモグロビン濃度を測定するための前記手段(21)は、前記動脈血液管路内を流れる血液におけるヘモグロビン濃度の非侵襲的な測定のための手段である、ことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の装置。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか1項に記載の、患者へのアクセスを監視するための装置(B)を含む、ことを特徴とする体外血液処理器具。
【請求項9】
前記体外血液処理器具は、バスキュラーアクセスを監視するための前記装置(B)の前記制御・演算ユニット(20)が不適切なバスキュラーアクセスを確認するときに前記制御ユニットが機械制御の中への介入を実行するように設計されている中央制御ユニット(15)を含む、ことを特徴とする請求項8に記載の器具。
【請求項10】
前記血液処理器具(A)の前記制御ユニット(15)は、前記体外血液循環路(I)内に配置された前記血液ポンプ(9)が機械制御の中への介入として停止されるように設計されている、ことを特徴とする請求項9に記載の器具。
【請求項11】
前記血液処理器具(A)の前記制御ユニット(15)は、前記血液処理器具の前記静脈血液管路(7)を遮断するための遮断要素(18)が機械制御の中への介入として閉鎖されるように設計されている、ことを特徴とする請求項9又は10に記載の器具。
【請求項12】
動脈患者接続部を有する動脈血液管路と静脈患者接続部を有する静脈血液管路とを含み、体外血液循環路内における血液を移送するための血液ポンプが前記動脈又は前記静脈血液管路内に配置されている体外処理器具を用いて、体外血液処理における患者へのアクセスを監視する方法であって、
前記体外血液循環路の前記動脈血液管路内を流れる血液の特有の性質が測定され、そして、
前記動脈血液管路内を流れる血液の特有の性質が設定量を超える量まで変化したときには、不適切なバスキュラーアクセスがあると断定する、
ことを特徴とする方法。
【請求項13】
血液の前記特有の性質は、前記体外血液循環路内を流れる血液におけるヘモグロビン濃度であり、前記ヘモグロビン濃度が設定量を超える量まで減少したときには、不適切なバスキュラーアクセスがあると断定される、ことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
測定された前記ヘモグロビン濃度が設定閾値と比較され、そして、測定された前記ヘモグロビン濃度と前記設定閾値との差の量がゼロより大きい場合、不適切なバスキュラーアクセスが確認される、ことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
先行する第1時刻で測定された第1ヘモグロビン濃度がその後の第2時刻で測定された第2ヘモグロビン濃度と比較され、そして、前記第1ヘモグロビン濃度と前記第2ヘモグロビン濃度との差の量が設定閾値よりも大きい場合、不適切なバスキュラーアクセスが確認される、ことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
心肺再循環量が測定されると共に設定上方及び下方閾値と比較され、前記ヘモグロビン濃度が設定量を超える量まで減少したときには、測定された前記心肺再循環量が前記設定上方及び下方閾値間にあるときに、不適切なバスキュラーアクセスがあると断定される、ことを特徴とする請求項13〜15の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
不適切なアクセスが確認されるときに、聴覚的及び/又は視覚的及び/又は触覚的な警報が発せられる、ことを特徴とする請求項13〜16の何れか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記動脈血液管路内を流れる血液における前記ヘモグロビン濃度は、非侵襲的に測定される、ことを特徴とする請求項13〜17の何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
不適切なバスキュラーアクセスの確認の後に、前記体外血液処理器具の機械制御の中への介入が実行される、ことを特徴とする請求項13〜18の何れか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記静脈血液管路内の血流は、機械制御の中への介入として遮断される、ことを特徴とする請求項19に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−519405(P2013−519405A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552303(P2012−552303)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【国際出願番号】PCT/EP2011/000560
【国際公開番号】WO2011/098243
【国際公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(502207286)フレゼニウス メディカル ケア ドイチラント ゲー・エム・ベー・ハー (12)
【Fターム(参考)】