説明

体液試料濾過分離装置及び方法

【課題】体液試料成分から不溶性の生体成分を除去するための、操作が容易でかつ経済的な体液試料濾過分離装置、及び体液試料濾過分離方法並びにメンブレンアッセイキットを提供する。
【解決手段】筒状の体液試料収容容器2と、前記収容容器の容器開口部に気密的な装着及びスライド可能な側面及びフィルター部材を有する体液試料濾過ユニット3からなり、該体液試料濾過ユニット3を前記収容容器2の内側に挿入し、該ユニットを引き出すことで体液試料を濾過分離する体液試料濾過分離装置により、操作が容易でかつ迅速に体液試料の濾過を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンブレンアッセイ法を用いた検体の簡易検査法において、検体試料から固形不純物及び/又は粘性不純物を濾過分離する装置、及び該装置を用いた試料の濾過分離方法並びに該装置を含むメンブレンアッセイキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抗原抗体反応や酵素反応等を利用した、ウイルスや細菌等の病原体への感染、妊娠の有無、血糖値など様々な測定項目を数分から数十分の短時間で検出あるいは定量する簡易検査試薬またはキットが開発されている。病原体構成蛋白質、ヒト繊毛性ゴナドトロピン(hCG)、血糖等が検出あるいは定量の対象である。簡易検査試薬の多くは、特別な設備を必要とせず操作も簡単で安価であるという特徴を有しており、例えば、妊娠診断のための簡易検査試薬はOTCとして一般薬局で販売されている。また病原体への感染を測定する簡易検査試薬は、他の検査試薬と異なり、大病院や医療検査センター以外にも一般の病院や診療所で広く使用されている。特にインフルエンザウイルスについても、その感染の有無を患者が最初に訪れる医療機関で、患者から採取した検体についてその場で感染の有無や何型に感染しているかが判明し、症状が早期のうちに治療措置を施すことができるため、簡易検査試薬の医療における重要性は益々高まってきている。
【0003】
現在、簡易検査方法として、免疫測定法、すなわち免疫凝集法やイムノメンブレンアッセイ法、特にニトロセルロース等の膜やフィルター等のメンブレンを用いたアッセイ方法が一般に知られており、フロースルー式とラテラルフロー式メンブレンアッセイ法に大別される。前者は被検出物を含む溶液を被検出物に対する検出用物質が塗布された膜を垂直方向に通過させるものであり、後者は水平方向に展開させるものである。いずれの場合も被検出物に特異的に結合する膜固相物質、被検出物、被検出物に特異的に結合する標識物質の複合体を膜上に形成させて、標識を検出あるいは定量することで被検出物の検出あるいは定量を行うという点で共通しているが、最近ではより簡便で、より短時間での検出が可能であることから、ラテラルフロー式メンブレンアッセイ法(イムノクロマト法ともいう)が主流になっている。
【0004】
このような検査を行う際に、ウイルスや細菌等の病原体に感染した体液等の検体試料又は該検体試料を希釈した溶液等から、固形不純物及び/又は粘性不純物等の不溶性の生体成分を除去し、確実に測定対象物質を取得することが求められ、その方法として、従来から遠心分離器を用いる遠心法が知られている。しかしながら遠心法を実施するには装置が大型となり、長い処理時間を必要とし、また操作が極めて煩雑であった。そこで例えば血液について比較的手軽に全血から血漿あるいは血清を分離する器具として、図2に示すようなものが知られている(特許文献1参照)。この装置は、第1の濾過材ユニットaと第2の濾過材ユニットbとが筒状容器cに収納されている。全血から血漿を分離する際には、筒状容器cの注入口に全血を供給し、ピストンdを注入口から挿入して圧力をかけることにより、濾過材ユニットを全血が透過するようにして、血球が分離濾過されて血漿Aを排出口側から採取するようにしている。
【0005】
一方で特許文献2には、端部に体液試料を導入するための容器開口を有し、変形可能な容器側面を備える筒状の体液試料収容容器と、排出口及び前記収容容器の容器開口に気密的に装着可能なホルダー開口部を有すると共に、前記ホルダー開口部と排出口との間に濾過材を収容した体液試料濾過ユニットとを有してなる体液試料分離装置が記載されており、このような濾過装置を用いたアッセイ法については例えば特許文献3にも記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−338103号公報 (第6頁、図4)
【特許文献2】特開2004−109105号公報
【特許文献3】特開2004−028875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した特許文献1の分離装置は、簡便な体液成分の前処理を可能とするものではあるが、筒状容器、ピストン等の部材は、ディスポーザブルの注射器に匹敵する加工精度及び材料を用いているために、このような反復使用が不適当な分離装置としては経済性にやや難がある。また、加工精度が低い場合には体液試料がピストンと容器の隙間から漏れる場合もある。特許文献2や3の装置を用いる場合には、体液試料を導入した後、容器にフィルターを取り付ける手間がかかり、また体液試料収納容器の側面を指で強く圧迫して圧力をかけて体液試料を濾過する必要があるため、その作業性および簡便性に難点があった。
本発明は、ディスポーザブルの濾過分離装置として、簡便かつ操作性が安定しており、かつ経済的にも有利な分離装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明の濾過分離装置を用いた濾過分離方法で、極めて迅速かつ簡便に体液試料の濾過分離を行えることを見出し、本発明に至った。
即ち本発明は、
(I)収容容器側面(22)及び端部に収容容器開口部(21)を有する筒状の体液試料収容容器(2)と、
前記収容容器開口部(21)に気密的にスライド可能な濾過ユニット外側面(32)、体液試料を導入するための濾過ユニット開口部(31)、並びに端面に濾液排出口(33)、濾過フィルター収納部(34)及び濾過フィルター(35)を有する体液試料濾過ユニット(3)とを有する、
体液試料濾過分離装置、である。
上記体液試料濾過分離装置の収容容器(2)の収容容器開口部(21)から、体液試料濾過ユニット(3)を収容容器(2)に気密的に装着し、希釈液と体液試料を体液試料濾過ユニット(3)に入れた後、体液濾過ユニット(3)を体液試料収容容器(2)の収容容器開口部(21)側に引き上げることにより、収容容器(2)の中が陰圧となり、希釈検体液が濾過フィルター(35)を通過して収容容器(2)内に濾過分離される。
(II)また、本発明は、体液試料収容容器(2)が更に開閉可能な体液試料排出口(23)を有する、上記(I)記載の体液試料濾過分離装置、に関する。
(III)また、本発明は、体液試料が鼻腔ぬぐい液または鼻腔吸引液である、上記(I)または(II)記載の体液試料濾過分離装置、に関する。
(IV)また、本発明は、上記(I)または(II)に記載した体液試料濾過分離装置の体液試料濾過ユニット(3)を体液試料収容容器開口部(21)に気密的にスライド可能なように装着し、体液試料濾過ユニット(3)に入れた希釈液中に採取した体液試料を溶解又は分散させたのち、体液濾過ユニット(3)を体液試料収容容器(2)の収容容器開口部(21)側に引き上げることにより、体液試料収容容器(2)の中を陰圧とし、希釈体液試料を濾過フィルター(35)を通過させて体液試料収容容器(2)内に移行させる体液試料の濾過分離方法、に関する。
(V)また、本発明は、更に、収容容器(2)内に移行させた体液試料を、開閉可能な体液試料排出口(23)から排出させる事を含む、上記(IV)に記載の体液試料の濾過分離方法、に関する。
(VI)また、本発明は、体液試料が鼻腔ぬぐい液または鼻腔吸引液である、上記(IV)または(V)記載の体液試料濾過分離方法、に関する。
(VII)また、本発明は、上記(I)〜(III)のいずれか一に記載の体液試料濾過分離装置と、メンブレンアッセイ装置を含むアッセイキット、に関する。
(VIII)また、本発明は、メンブレンアッセイ装置が、ラテラルフロー式アッセイ装置である上記(VII)記載のアッセイキット、に関する。
(IX)また、本発明は、インフルエンザウイルスまたはRSウイルス検出用である、上記(VII)または(VIII)記載のイムノアッセイキット、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の体液試料濾過分離装置によれば、少量の試料であっても容易でかつ安全に濾過操作を行うことができ、検体希釈液を確実に検査試薬またはキットに供給することが可能となる。しかも、収容容器及び体液試料濾過ユニットは、高度な加工精度を要求されること無く安価な樹脂材料により製造することが可能であることから、再使用が不適当な分離装置であっても、経済的に有利に提供することが可能となる。また、陰圧を発生させて急速に濾過を行うため、目詰まりが発生しにくく、従来の濾過方法よりも操作が簡便であり、短時間に行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明による濾過分離装置1の基本的な構成は、例えば図1に示すように、体液試料収容容器2と体液試料濾過ユニット3からなる構成である。体液試料収容容器2と体液試料濾過ユニット3は、両者を一体化して体液試料濾過分離装置1として供給しても良いし、それぞれを別個のユニットとして供給し、検査の際に体液試料収容容器2の内側に体液試料濾過ユニット3を挿入して用いても良い。
【0011】
体液試料収容容器2は、上面が平面で収容容器開口部21を備えたほぼ筒状の形状を有している。収容容器開口部21は、後述する体液成分濾過ユニット3の濾過ユニット開口部31の外径とほぼ同一な内径を有し、体液成分濾過ユニット3の濾過ユニット外側面32が気密的に装着可能でかつ気密的にスライド可能な形状である。
また、本発明の濾過分離装置は、濾過された体液試料をアッセイするアッセイ装置の種類によって、構造を適宜変えてもよい。例えば、体液試料濾過ユニット3に設置した濾過フィルターで濾過されて体液試料収容容器に移された希釈体液試料液を、更にアッセイ装置に滴下して供給するか、又はストリップ状の検査試薬を体液試料収容容器2の中に浸漬して検査を行なってもよい。後者の場合には特に必要ではないが、前者の場合には、体液試料収容容器2(例えば、収容容器開口部21の反対側端部)に開閉可能な体液試料排出口23を有することが好ましい。そしてこの場合、前記収容容器2の収容容器側面22は、変形可能であることが好ましい。変形可能な容器側面とすることにより、前記収容容器2に収容された濾液に軽い圧力を加えて、体液試料排出口23から導出させることもできる。さらに、前記収容容器2の容器底部に最終濾過フィルター25を設置してもよい。このような最終濾過フィルター25を設けることにより、前記収容容器2に収容された濾液に軽い圧力をかけて、体液試料排出口23から排出させる時に、体液試料をさらに濾過することもできる。
【0012】
体液試料濾過ユニット3は、体液試料収容容器2の収容容器開口部21に装着可能な濾過ユニット開口部31および濾過ユニット外側面32、並びに端面に濾液排出口33、濾過フィルター収納部34、及び濾過フィルター35を有する。この収容容器開口部21と濾過ユニット開口部31および濾過ユニット外側面32とは着脱可能でかつ気密的にスライドできる形状であれば、ねじ込み構造、挿入する構造などの形状のいずれでもよい。
濾液排出口33、濾過フィルター収納部34、及び濾過フィルター35は、体液試料収容容器2に装着された状態において、体液試料収容容器2側の端面側に設置されていればよい。
体液試料濾過ユニット3内部の濾過フィルター収納部34には、濾過フィルター35が内壁に密着するように収容されている。
この体液試料濾過ユニット3は、体液試料収容容器2に装着した状態で供給してもよく、また個別のユニットとして供給してもよい。また、体液試料濾過ユニット3中に希釈液を入れて、開口部31に蓋36をしたものを供給してもよい。
【0013】
本発明の体液試料濾過分離装置1の体液試料収容容器2と体液試料濾過ユニット3の材料にはどちらも、ガラス、合成樹脂、天然樹脂、金属などから選択して使用することができる。例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の合成樹脂は、加工が容易であり、また安価であり、殊に体液試料収容容器2の収容容器側面22が変形容易な構成とするために好ましい。またこれらの材料はそれぞれの部品で適宜選択し、複合材料として使用することもできる。
【0014】
前記体液試料濾過ユニット3の濾過フィルター35および、体液試料収容容器2に場合によって設ける最終濾過フィルター25としては、例えばセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテートなどのセルロース誘導体、グラスウール、グラスフィルターなどのガラス誘導体、アクリロニトリルなどの化学繊維を単独または混合した材料をフィルター状若しくは圧縮して用いることができる。これらは各種フィルター、濾過材料等の市販品の中から選択して用いることができ、濾過を行う成分や測定対象物質に対応して適宜選択して使用することができる。例えば、全血を濾過して血漿を得る場合には、グラスフィルターを用い、一般的に赤血球の直径が10〜30μm、白血球の直径が7〜8μm、血小板の直径が2〜4μmであるという数字を基に、血球の直径より小さい孔径のフィルターであればよく、好ましくは1.5μm程度の孔径もしくは保留粒子径を有するフィルターを用いるか、完全に血球成分を除く場合は、0.2〜7μmの孔径もしくは保留粒子径を有するフィルターを用いることができる。また、鼻腔のぬぐい液などを溶解した体液試料では、濾過対象物および測定対象物に応じて孔径もしくは保留粒子径を適宜選択し、セルロースなどの各種フィルターを必要に応じて積層して用いることができる。
【0015】
本発明の体液試料濾過分離装置1を用いる分離方法は、体液試料濾過ユニット3を濾液排出口33側から体液試料収容容器2に装着した状態もしくは個別のユニットとして供給し、前記濾過ユニット3には、希釈液を予め入れておくか、もしくは直前に入れ、これに採取した体液試料を溶解又は分散させる。この後、前記濾過ユニット3を前記収容容器2の開口部21側に引き出すことにより、前記収容容器2の内部が陰圧となり、この圧力によって、前記濾過ユニット3に入った体液試料を含む希釈液を前記濾過ユニット3の濾過フィルター収納部34に収められた濾過フィルター35を通して濾過分離することができる。
【0016】
さらに、体液試料収容容器2の底部に気密的に開閉可能な体液試料排出口23を設ける場合、体液試料濾過ユニット3を濾液排出口33側から変形可能な収容容器側面22を有する体液試料収容容器2に装着した状態もしくは個別のユニットとして供給し、前記濾過ユニット3には、希釈液を予め入れておくか、もしくは直前に入れ、これに採取した体液試料を溶解又は分散させる。この後、前記開閉可能な体液試料排出口23を気密的に閉じた状態で、体液試料収容容器2より体液試料濾過ユニット3を引き出す。これにより前記収容容器2の内部は陰圧となり、この圧力によって、希釈液が体液試料濾過ユニット3の濾過フィルター収納部34に収められた濾過フィルター35を通して濾過分離される。この後、前記排出口23を開放し、変形可能な収容容器側面22を軽く押して加圧することにより、濾過された希釈液をから導出できる。場合によって、体液試料収容容器2の最終濾過フィルター収納部24および最終濾過フィルター25を設置してもよく、これにより濾過された希釈液をさらに濾過しながら導出できる。以上のように、濾過分離装置および濾過分離方法を用いることにより、従来の濾過方法に比べて、部品点数が少なく経済的に有利であり、さらに操作性が簡便かつ安定しており、操作時間も短縮することができる。
【0017】
本発明の装置で濾過された試料は、各種診断の試料として用いることができる。
本発明の装置で濾過を行う対象である体液試料としては、例えば全血、尿、便、鼻腔ぬぐい液、鼻腔吸引液、咽頭ぬぐい液、肺胞洗浄液、喀痰、鼓膜切開・貯留液、スワブ検体として収集された分泌物などを挙げることができる。濾過される固形物は、例えば、全血の場合、濾過される固形物は、例えば赤血球、白血球などの血球成分であり、濾過して得られる液体成分は血漿または血清に相当する成分である。各種ぬぐい液などの場合、試料に混在する生体成分が剥離または分解して凝集した細胞成分などがある。また、これらの試料中には、プロテオグリカン、糖脂質等の粘性物質をはじめ、様々な生体成分が含まれる場合や細菌などの微生物が混在する場合があり、これらの成分の一部はあるいは全てはアッセイ装置によっては、非特異的な反応を誘導する場合があり、上記の成分も本発明の装置で濾過を行う対象となる。本発明の体液試料濾過分離装置を用いると、鼻腔ぬぐい液、鼻腔吸引液のように粘稠で不溶物が多く、従来の濾過分離装置では迅速に濾過できない体液試料も迅速に濾過することができる。
【0018】
体液試料の希釈液は、濾過分離された体液試料をアッセイする方法により適宜用いることができるが、通常、水、生理食塩水、緩衝液、更に必要に応じて界面活性剤や体液試料の安定剤等を添加したものである。緩衝液としては、りん酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、グッドの緩衝液等が挙げられる。
【0019】
本発明の体液試料濾過分離装置は上述のとおり様々なアッセイ方法の試料の濾過分離に用いることができるが、特に迅速さを要求されるアッセイにおいて用いると効果的である。そのようなアッセイの例としてはフロースルー式あるいはラテラルフロー式等のメンブレンを用いたアッセイが挙げられる。本発明において、メンブレンアッセイとは、後述する紙やニトロセルロース等のメンブレン上に、被検出物に特異的に結合する捕捉物質、例えば抗体を検出する場合にはその抗原となる物質を固定化し、被検出物の存在を検出しようとする試料液をメンブレン上に流し、前記捕捉物質により前記試料液中の被検出物を捕捉して、標識物質の使用(例えばサンドイッチイムノアッセイ)など何らかの方法により捕捉された被検出物を検出する方法である。本発明において、メンブレンアッセイ装置とは、被検出物に特異的に結合する捕捉物質が固定化されたメンブレンを少なくとも含み、上記アッセイ方法に用いられる装置を意味する。
本発明の1つの好ましい態様として、上述した体液濾過分離装置と、メンブレンアッセイ装置とを共に含むイムノアッセイキットが挙げられる。
【0020】
メンブレンアッセイの例として、ラテラルフロー式メンブレンアッセイ(イムノクロマト法)について説明する。ラテラルフロー式メンブレンアッセイ法を利用するアッセイ装置の具体例は、例えば図3及び4に示されるような装置である。
図3は装置の平面図であり、図4は、図3のI−I’切断端面である。図3及び4において、(a)は調製した検体試料を滴下するために設置されたサンプル滴下パッドである。(b)は標識物質が乾燥化されて保持される標識物質乾燥パッドである。(c)は滴下された溶液を吸収するためのサンプル吸収パッドである。(d)は被検出物に特異的に結合する捕捉物質が結合したメンブレンであり、(e)、(f)及び(g)は被検出物に特異的に結合する捕捉物質が(d)上でライン状に結合している位置を示す。さらに捕捉物質が結合している位置の下流の位置(h)に標識物質を結合することができる物質、例えば被検出物と同等の反応性を有する物質又は標識物質に結合する抗体を固相してもよい。これにより標識物質が標識物質乾燥パッドから捕捉物質が結合したメンブレン上を流れたことを試験ごとに確認することができる。(h)の位置には発色が認められない場合にはアッセイは無効と判断される。(i)は部材を固定し、強度を増すためのプラスチック製バッキングシートである。(j)はサンプル滴下パッドの一部、標識物質乾燥パッド、サンプル吸収パッド及びメンブレンを被覆する透明プラスチックラミネートである。
【0021】
メンブレンアッセイ装置中のメンブレンとしては、紙やニトロセルロースなどの多孔質物質、又は繊維状マトリクス、薄層クロマトグラフに用いられるシリカ、微細顆粒セルロース、ナイロン6,6などの担体からできたメンブレンを挙げることができる。感度・特異性が高いラテラルフロー式メンブレンアッセイを行うために好ましい多孔質物質としては、微多孔質セルロースエステル、たとえばアルカンカルボン酸などの脂肪族カルボン酸とのセルロースエステルが挙げられ、特に好ましくはニトロセルロースから作られた微多孔質物質が挙げられる。また、前記セルロースエステルとニトロセルロースの混合物も好適に用いることができる。上記メンブレンの平均孔径は0.5〜15μmが用いられることが多い。
【0022】
以下に、本発明をラテラルフロー法メンブレンアッセイに適用する場合の具体的な手順の一例を示す。
(1)ウイルスや細菌等に感染した疑いがある患者の咽頭、鼻腔あるいは直腸等から綿棒等の検体採取器具を用いて直接採取した検体試料を、適当な検体浮遊液に浮遊させる。あるいは患者から採取した鼻腔吸引液、尿、便等の被分析対象物から綿棒等の検体採取器具を用いて採取した検体試料を、後述するような検体浮遊液に浮遊させる。
(2)この浮遊液を、本発明の体液試料濾過分離装置を用いて濾過する。
(3)この濾過液を、メンブレンを備えたアッセイ装置中の被検出物に特異的に結合して被検出物を捕捉する捕捉物質が結合したメンブレンに滴下等により添加して、被検出物をメンブレン上に捕捉させる。この際、濾過液をサンプル滴下パッドに滴下することにより、毛細管現象により被検出物がメンブレンに流れていく。
(4)前記メンブレン上に、被検出物に特異的に結合する検出試薬である標識物質を滴下等により添加し、捕捉物質/被検出物/標識物質の複合体を形成させる。この際、標識物質はあらかじめアッセイ装置に組み込んでおいてもよい。この場合、検体試料を含む浮遊液をアッセイ装置に添加することにより、該浮遊液がアッセイ装置上を流れ、検出試薬を含むパッド部分に到達すると、検出試薬が前記浮遊液に溶解し、被検体とともにメンブレンに到達し、メンブレンの捕捉物質との間で複合体を形成する。
(5)前記複合体中の標識物質により、複合体の存在を検出することにより、検体試料中の被検出物の有無を測定する。
【実施例】
【0023】
実施例1
図1に示した本発明の体液試料濾過分離装置と図2に示す装置を用いた場合について、体液試料(鼻腔ぬぐい液)採取、体液試料の濾過、濾液を得るまでの一連の操作時間の測定を行った。
本発明の装置として、図1に示されるような、4μmの保留粒子径を持つセルロース製の粘調液用濾紙No.63(ADVANTEC社製)を濾過フィルターとして装着した体液試料濾過ユニット3を予め体液試料収容容器2に装着し、希釈液300μLを予め前記濾過ユニット3に入れ、蓋をした状態の体液試料濾過分離装置1を用意した。
【0024】
図2に示す体液試料濾過分離装置として、1mLシリンジ(TERUMO社製)の中に、4μmの保留粒子径を持つセルロース製の粘調液用濾紙No.63(ADVANTEC社製)を濾過フィルターとして装着したものを用意し、これとは別に、希釈液300μLを入れた体液試料を採取するための容器(体液試料採取容器)として1.5mLエッペンドルフチューブ(Treff社製)を、また濾液を収容するための容器(濾液収容容器)として1.5mLエッペンドルフチューブ(Treff社製)を用意した。
【0025】
滅菌綿棒(日本綿棒社製)を用いて5人の被験者から鼻腔ぬぐい液を各2本採取した。
本発明の装置を用いた場合、採取した鼻腔ぬぐい液の1本を前記濾過ユニットに入れた希釈液300μLに浸して、前記濾過ユニットの内壁に押し付けながら、10回回転させ、体液試料を希釈液に分散し、その後、前記濾過ユニットを前記収容容器より引き抜き、希釈液に分散した体液試料を濾過し、前記収容容器にその濾液を得た。
【0026】
図2に示す体液試料濾過分離装置を用いた場合、採取した残りの1本の鼻腔ぬぐい液を、体液試料採取容器に入れた希釈液300μLに浸して、前記採取容器の内壁に押し付けながら、10回回転させ、体液試料を希釈液に分散し、その後、体液試料の分散された希釈液を前記1mLシリンジに移し、濾液を収容するための濾液収容容器を用意し、ピストンを用いて体液試料を濾過し、その濾液を前記濾液収容容器に濾液を得た。
以上の装置、方法を用いて、体液試料採取から体液試料を濾過し、濾液を得るまでの一連の操作時間の測定を行った結果を下表1に示す。
【0027】
表1 操作時間

【0028】
以上のように本発明の体液試料濾過分離装置によれば、少ない部品数からなる経済的に有利な装置でありながら、従来の濾過分離装置を使用するよりもはるかに早い操作時間で体液試料を濾過分離することができた。
【0029】
実施例2
図1に示した本発明の装置と図2に示す体液試料濾過分離装置について、標準粒子を用いて、濾過性能を確認した。
実施例1において述べたものと同じ構成を有する本発明の装置と図2に示す装置を用意した。
【0030】
本発明の装置を用いた場合、標準粒子8μm(DUKE Scientific Corporation製)を濾過ユニット3に入れた希釈液300μLに15μL添加し、その後、前記濾過ユニット3を収容容器2より引き抜き、標準粒子分散液を濾過し、収容容器2にその濾液を得た。
図2に示す体液試料濾過分離装置を用いた場合、標準粒子8μm(DUKE Scientific Corporation製)を体液試料採取容器に入れた希釈液300μLに15μL添加し、その後、標準粒子の分散された希釈液を前記1mLシリンジに移し、ピストンを用いて標準粒子分散液を濾過し、その濾液を濾液収容容器に得た。
各濾液の吸光度OD630nmを分光光度計(HITACHI U−3010)で測定し、濾過前後の吸光度OD630nmから透過率を算出した結果を以下に示す。
【0031】
表2 標準粒子を用いた濾過性能確認試験

以上のように本発明の体液試料濾過分離装置が、従来の濾過分離装置を使用するのと同様の濾過性能を有することが確認できた。
【0032】
実施例3
ラテラルフロー式メンブレンアッセイによる鼻腔吸引液中のインフルエンザウイルス及びRSウイルスの検出
1.モノクローナル抗体の作製
(1)抗A型インフルエンザウイルスNP(Nucleoprotein;核蛋白)モノクローナル抗体(マウス)の作製
精製A型インフルエンザウイルス抗原を免疫し、一定期間維持したBALB/cマウスから脾臓を摘出し、ケラーらの方法(Kohler et al., Nature, vol, 256, p495-497(1975))によりマウスミエローマ細胞(P3×63)と融合した。得られた融合細胞(ハイブリドーマ)を、37℃インキュベーター中で維持し、A型インフルエンザウイルスNP抗原固相プレートを用いたELISAにより上清の抗体活性を確認しながら細胞の純化(単クローン化)を行った。取得した該細胞2株をそれぞれプリスタン処理したBALB/cマウスに腹腔投与し、約2週間後、抗体含有腹水を採取した。得られた腹水をそれぞれProteinAカラムクロマトグラフィー(アマシャム社製)を用いたアフィニティ精製によってIgGを精製し、2種類の精製抗A型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体を得た。
【0033】
(2)抗B型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体(マウス)
精製B型インフルエンザウイルス抗原を免疫源としてBALB/cマウスを免疫し、上記抗A型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体と全く同様にして、2種類の精製抗B型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体を得た。
【0034】
(3)RSウイルスFPモノクローナル抗体(マウス)
ヒトRSウイルスのFP(Fusion Protein)のアミノ酸配列の一部を合成したポリペプチドを免疫源としてBALB/cマウスを免疫し、上記抗A型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体と全く同様にして、2種類の精製抗RSウイルスFPモノクローナル抗体を得た。
【0035】
2.標識抗インフルエンザウイルス抗体(標識物質)の作製
(1)ラテックス標識抗A型インフルエンザウイルス抗体の調製
抗A型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体のうち1種類を50mM MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid,monohydrate;同仁化学社)緩衝液(pH6.0)溶液で透析後、赤色ポリスチレンラテックス粒子(粒径0.394μm,表面修飾基はカルボキシル基;メルク社)と混合し、反応させた。次に、EDAC(N-(3-Dimethlaminopropyl)-N’-ethylcarbodiimide hydrochloride;Sigma社)を最終濃度0.1%になるように添加した後、2時間反応させた。洗浄後、最終浮遊液(50mM Tris, 1(W/V)% BSA(ウシ血清アルブミン))中に浮遊し、超音波分散装置(オリンパス社)にかけ、ラテックス粒子を分散させてラテックス標識抗A型インフルエンザウイルス抗体を調製した。
【0036】
(2)ラテックス標識抗B型インフルエンザウイルス抗体の調製
抗B型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体のうち1種類を50mM MES緩衝液(pH6.0)溶液で透析後、青色ポリスチレンラテックス粒子(粒径0.394μm,表面修飾基はカルボキシル基;メルク社)と混合し、反応させ、ラテックス標識抗A型インフルエンザウイルス抗体と同様に処理して、ラテックス標識抗B型インフルエンザウイルス抗体を調製した。
【0037】
(3)ラテックス粒子標識抗RSウイルス抗体の調製
抗RSウイルスFPモノクローナル抗体のうち1種類を50mM MES緩衝液(pH6.0)溶液で透析後、緑色ポリスチレンラテックス粒子(粒径0.394μm,表面修飾基はカルボキシル基;メルク社)と混合し、反応させ、ラテックス標識抗A型インフルエンザウイルス抗体と同様に処理して、ラテックス粒子標識抗RSウイルス抗体を調製した。
【0038】
3.ラテックス粒子標識抗体の乾燥化
(1)ラテックス粒子標識抗体の混合
上記2.(1)、(2)、(3)で作製したラテックス粒子標識抗A型インフルエンザウイルス抗体、ラテックス粒子標識抗B型インフルエンザウイルス抗体及びラテックス粒子標識抗RSウイルス抗体をラテックス濃度がそれぞれ等量になるように、上記2.(1)記載の最終浮遊液で希釈後、室温下にて150rpmで5分間撹拌して等量混合した。
(2)ラテックス粒子標識抗体乾燥パッドの作製
3.(1)で作製したラテックス標識抗体を陽圧噴霧装置(BioJet;BioDot社)を用いてリール状に巻いた幅15mmのセルロース不織布全面に噴霧した。噴霧後、50℃の温風を60分間吹きつけ乾燥させ、ラテックス標識抗体パッドを作製した。
【0039】
4.メンブレン固相用抗体の調製
(1)固相用抗A型インフルエンザウイルス抗体の調製
上記1.(1)で作製した精製抗A型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体のうち標識に用いなかった方を0.22μm濾過し、ミリQ水で希釈して固相用抗A型インフルエンザウイルス抗体を調製した。
(2)固相用抗B型インフルエンザウイルス抗体の調製
上記1.(2)で作製した精製抗B型インフルエンザウイルスNPモノクローナル抗体のうち標識に用いなかった方を0.22μm濾過し、ミリ水で希釈して固相用抗B型インフルエンザウイルス抗体を調製した。
(3)固相用抗RSウイルス抗体の調製
上記1.(3)で作製した精製抗RSウイルスFPモノクローナル抗体のうち標識に用いなかった方を0.22μm濾過し、ミリ水で希釈して固相用抗RSウイルス抗体を調製した。
【0040】
5.A型及びB型インフルエンザウイルス及びRSウイルス検出用ラテラルフロー式メンブレンアッセイ装置の作製
A型及びB型インフルエンザウイルス及びRSウイルス検出用ラテラルフロー式メンブレンアッセイ装置は、図3及び図4に示すものと同様の構成のものを用いた。
メンブレンは、幅3cm×長さ10cmのニトロセルロースメンブレン(孔径12μm;ワットマン社製)シート(白色)を用いた(図3及び図4の(d))。その長軸側の一端(この端を上流端、反対側を下流端とする)から6mm離れた(e)の位置に固相用抗A型インフルエンザウイルス抗体を陽圧噴霧装置(BioJet;BioDot社)を用いて線状に塗布し、10mm離れた(f)の位置に固相用抗B型インフルエンザウイルス抗体を陽圧噴霧装置(BioJet;BioDot社)を用いて線状に塗布し、14mm離れた(g)の位置に固相用抗RSウイルス抗体を陽圧噴霧装置(BioJet;BioDot社)を用いて線状に塗布した。22mm離れた(h)の位置に抗マウスIgG抗体を陽圧噴霧装置(BioJet;BioDot社)を用いて線状に塗布した。塗布後、50℃の温風を90分間吹き付けて乾燥した。
【0041】
次に、部材を固定し、かつ強度を増すため、メンブレンの抗体塗布面(この面を上面とする)の反対側(この面を下面とする)にプラスチック製バッキングシート(BioDot社製)を接着した(図4の(i))。
次に、上記3(2)で作製したラテックス粒子標識抗体乾燥パッド(図3及び図4の(b))を幅15mm×長さ10cmに切断し、メンブレンの上面に、メンブレンの上流端が2mm重なる様に配置して貼り付け、さらに幅23mm×長さ10cmのセルロースろ紙(ワットマン社)をラテックス粒子標識抗体乾燥パッドの上面に13mm重なる様に配置して貼り付け、サンプル滴下パッド(図3及び図4の(a))とした。
次に、幅30mm×長さ10cmのセルロースろ紙(ワットマン社)をメンブレンの上面に、メンブレンの下流端と5mm重なる様に配置して貼り付け、サンプル吸収パッド(図3及び図4の(c))とした。
次にサンプル滴下パッドの上流端の幅5mmを除いて、上面全面を透明プラスチックラミネート(Adhesive Research社)で被覆した(図4の(j))。
最後に長軸方向に沿って、5mmずつ切断し、図3及び図4に示すメンブレンアッセイ装置を作製した。
【0042】
6.体液試料濾過分離装置の作製
図1に示す本発明の装置として、4μmの保留粒子径を持つセルロース製の粘調液用濾紙No.63(ADVANTEC社製)を濾過フィルターとして装着した体液試料濾過ユニットと体液試料収容容器を用意した。
図2に示す体液試料濾過分離装置として、1mLシリンジ(TERUMO社製)の中に、4μmの保留粒子径を持つセルロース製の粘調液用濾紙No.63(ADVANTEC社製)を濾過フィルターとして装着したものを用意した。
【0043】
7.A型及びB型インフルエンザウイルス及びRSウイルスの検出
(1)検体の採取と検体試料の調製
臨床的にA型またはB型インフルエンザウイルスあるいはRSウイルス感染が疑われる患者から鼻腔吸引液を採取した。まず、そのうち一部を2mLのウイルス分離用培地に浮遊し、この浮遊液を用いてRT−PCR法により検体中にA型またはB型インフルエンザウイルス遺伝子あるいはRSウイルス遺伝子が存在するかを確認した。なおRT−PCR法は特定の遺伝子部位を増幅する方法であり、一般的に抗原抗体反応を利用した検査法と比較して高感度な方法であることが知られており、信頼性の高い方法である。A型及びB型インフルエンザウイルス遺伝子検出のためのRT−PCR法は、清水の方法(感染症学雑誌、第71巻、第6号、p522−526)で実施した。またRSウイルス遺伝子検出のためのRT−PCR法はStockton等の方法(Journal of Clinical Microbiology、第36巻、p2990−2995、1998年)で実施した。その結果より、A型インフルエンザウイルス遺伝子が検出された鼻腔吸引液を5検体、B型インフルエンザウイルス遺伝子が検出された鼻腔吸引液を5検体、RSウイルス遺伝子が検出された鼻腔吸引液を5検体及びいずれの遺伝子も検出されなかった鼻腔吸引液を5検体それぞれ選び出し、以後の試験に用いた。
【0044】
選択した鼻腔吸引液に2本の滅菌綿棒(日本綿棒社製)を10秒間浸した後に引き上げ、1本を図1に示す本発明の装置の体液試料濾過ユニット3にあらかじめ分注した検体浮遊液(20mM MES緩衝液(pH6.0)、0.5(W/V)% TritonX−100、50mM NaCl、1.0(W/V)%ウシ血清アルブミン)0.3mL中に浮遊した。残りの1本を1.5mLエッペンチューブ検体浮遊液0.3mL中に浮遊した。その後、本発明の装置を用いた場合には前記濾過ユニットを前記収容容器より引き抜き、収容容器に得た濾液を体液試料とした。一方、図2に示す体液試料濾過分離装置を用いた場合には1.5mLエッペンチューブに分注した検体浮遊液0.3mL中に浮遊した前記試料を前記1mLシリンジに移し、濾液を収容するための濾液収容容器を用意し、ピストンを用いて濾過し、その濾液を体液試料とした。
【0045】
(2)メンブレンアッセイ法による検出
図1に示す本発明の装置にて濾過して調製した体液試料と図2に示す体液試料濾過分離装置を用いて濾過して調製した体液試料に、それぞれ上記5.で作製したインフルエンザ及びRSウイルス検出用ラテラルフロー式メンブレンアッセイ装置のサンプル滴下パッド側を浸した。5分後、アッセイ装置を上記体液試料から引き上げて試験を終了させた後、アッセイ装置を観察し、図3あるいは図4の(h)の位置(コントロールライン)に発色が認められた場合を有効とし、(e)の位置に標識に用いた着色ラテックスの色調の発色(この場合、赤色)が認められた場合にはA型インフルエンザウイルス陽性、(f)の位置に着色ラテックスの色調の発色(この場合、青色)が認められた場合にはB型インフルエンザウイルス陽性、(g)の位置に着色ラテックスの色調の発色(この場合、緑色)が認められた場合はRSウイルス陽性、いずれの位置にも発色が認められない場合は陰性と判定した。また(h)の位置に発色が認められない場合を無効とした。
試験の結果を表3に示す。
【0046】
表3 イムノクロマト法による試験結果

【0047】
判定内容の説明
A型インフルエンザ陽性数:RT−PCRにてA型インフルエンザウイルス遺伝子が検出された鼻腔吸引液から調製された検体試料数(5検体:分母)と、各方法でA型インフルエンザ陽性と判断された数(分子)。
B型インフルエンザ陽性数:RT−PCRにてB型インフルエンザウイルス遺伝子が検出された鼻腔吸引液から調製された検体試料(5検体:分母)と、各方法でB型インフルエンザ陽性と判断された数(分子)。
RSウイルス陽性数:RT−PCRにてRSウイルス遺伝子が検出された鼻腔吸引液から調製された検体試料(5検体:分母)と、各方法でRSウイルス陽性と判断された数(分子)。
陰性数:RT−PCRにて陰性と判定された検体試料(5検体:分母)と、各方法で陰性と判断された数(分子)。
無効数:図3及び図4における(h)の位置に発色が認められなかった検体試料数
【0048】
図2の体液試料濾過分離装置を使用して無効と判定されたケースは、いずれも体液試料が十分量ではなく、標識物質が5分以内に図3及び4の(h)の位置まで到達しなかったために発色が認められなかった場合であった。体液試料の減少は濾過フィルターが目詰まりを起こし、試料全量をろ過できなかったためであると考えられる。
本発明による体液試料濾過分離装置を用いることにより、目詰まりを起こさずに、迅速かつ精度よくラテラルフロー式イムノアッセイを行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】体液試料収容容器2と体液試料濾過ユニット3から構成される、本発明の体液試料濾過分離装置1の断面図である。
【図2】ピストンを用いた従来の体液試料濾過装置の断面図である。
【図3】ラテラルフロー式メンブレンアッセイ装置の模式平面図である。
【図4】図3のアッセイ装置のI−I’切断端面である。
【符号の説明】
【0050】
1:体液試料濾過分離装置
2:体液試料収容容器
21:収容容器開口部
22:収容容器側面
23:検体適下口
24:最終濾過フィルター収納部
25:最終濾過フィルター
3:体液試料濾過ユニット
31:濾過ユニット開口部
32:濾過ユニット外側面
33:濾液排出口
34:濾過フィルター収納部
35:濾過フィルター
36:蓋
a:ろ過材ユニット1
b:ろ過材ユニット2
c:筒状容器
d:ピストン
A:血漿
(a):サンプル滴下パッド
(b):ラテックス粒子標識抗体乾燥パッド(標識物質乾燥パッド)
(c):サンプル吸収パッド
(d):ニトロセルロースメンブレン
(e)〜(g):被検出物に特異的に結合する捕捉物質が(d)上でライン状に結合している位置
(h):標識物質を結合することができる物質が(d)上でライン状に結合している位置
(i):バッキングシート
(j):透明プラスチックラミネート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容容器側面(22)及び端部に収容容器開口部(21)を有する筒状の体液試料収容容器(2)と、
前記収容容器開口部(21)に気密的にスライド可能な濾過ユニット外側面(32)、体液試料を導入するための濾過ユニット開口部(31)、並びに端面に濾液排出口(33)、濾過フィルター収納部(34)及び濾過フィルター(35)を有する体液試料濾過ユニット(3)とを有する、
体液試料濾過分離装置。
【請求項2】
体液試料収容容器(2)が更に開閉可能な体液試料排出口(23)を有する、請求項1記載の体液試料濾過分離装置。
【請求項3】
体液試料が鼻腔ぬぐい液または鼻腔吸引液である、請求項1または2記載の体液試料濾過分離装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載した体液試料濾過分離装置の体液試料濾過ユニット(3)を体液試料収容容器開口部(21)に気密的にスライド可能なように装着し、体液試料濾過ユニット(3)に入れた希釈液中に採取した体液試料を溶解又は分散させたのち、体液濾過ユニット(3)を体液試料収容容器(2)の収容容器開口部(21)側に引き上げることにより、体液試料収容容器(2)の中を陰圧とし、希釈体液試料を濾過フィルター(35)を通過させて体液試料収容容器(2)内に移行させる体液試料の濾過分離方法。
【請求項5】
更に、収容容器(2)内に移行させた体液試料を、開閉可能な体液試料排出口(23)から排出させる事を含む、請求項4に記載の体液試料の濾過分離方法。
【請求項6】
体液試料が鼻腔ぬぐい液または鼻腔吸引液である、請求項4または5記載の体液試料濾過分離方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の体液試料濾過分離装置と、メンブレンアッセイ装置を含むアッセイキット。
【請求項8】
メンブレンアッセイ装置が、ラテラルフロー式アッセイ装置である請求項7記載のアッセイキット。
【請求項9】
インフルエンザウイルスまたはRSウイルス検出用である、請求項7または8記載のアッセイキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−199050(P2007−199050A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311273(P2006−311273)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(591125371)デンカ生研株式会社 (72)
【Fターム(参考)】