説明

体熱産生効果を有する飲料水

【課題】本発明の目的は、生体の代謝活性を高めるために、日常的に無理なく摂取できる量で生体の熱産生を促進することが可能な飲料水を提供することである。
【解決手段】硬度を60〜2000に調整し、所望により摂氏20度における炭酸ガス内圧を1.0〜3.8kg/cmをすることにより、日常的に無理のない摂取量で生体熱産生を促進する飲料水を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の熱産生促進効果を示す飲料水、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性的な運動不足や高カロリー食を原因とする太りすぎや肥満は、いまや全世界的な問題となっている。世界保健機構(WHO)によれば、2005年における世界の15歳以上人口のうち、太りすぎ(BMIが25以上)はおよそ16億人、肥満(BMIが30以上)はおよそ4億人と見積もられ、2015年には、太りすぎ人口が23億人、肥満人口が7億人を超えると予想されている。脂肪の過剰な蓄積に由来する太りすぎや肥満は、循環器系疾患や糖尿等のさまざまな疾患における大きなリスクファクターであり、その対策が急務である。
【0003】
人体の60〜70%は水で構成され、成人で1日約2.5リットルの水が体を出入りする。水自体のエネルギーはゼロであるが、Boschmannらは、飲水後に交感神経活動亢進とともに熱産生が生じる現象を、飲水誘発性熱産生(Water-induced thermogenesis; WIT)として報告し(非特許文献1)、水がマイナスカロリーとして抗肥満効果を有する可能性を示唆して注目を集めた。
【0004】
しかし、その後WITには否定的な報告が多く(例えばBrown et al.(非特許文献2))、現在も論争の最中にある。Brownらは、人において飲水が熱産生効果を有するか否かを検討する目的で実験を行い、室温にて蒸留水を飲むことはエネルギー消費を増加させないと結論づけている。
【0005】
さらに、上記Boschmannらの報告では、一回の水の飲用量は500mlと大量であり、一度にこれだけの水を摂取することは難しい上に、用いた水の種類が記載されていないため、どのような種類の水が効果的にWITを促進するかについては何ら知られていない。
【非特許文献1】Boschmann M, Steiniger J, Hille U, Tank J, Adams F, Sharma AM, Klaus S, Luft FC, Jordan J. Water-induced thermogenesis. J Clin Endocrinol Metab88:6015-6019, 2003
【非特許文献2】Brown CM, Dulloo AG, Montani JP. Water-induced thermogenesis reconsidered: the effects of osmolality and water temperature on energy expenditure after drinking. J Clin Endocrinol Metab 91:3598-3602, 2006
【発明の開示】
【0006】
本発明は、以上の背景から、無理のない実用的な摂取量で、効果的に生体の熱産生を促進し、代謝効率を高めることのできる飲料水を提供することを目的とする。
本発明者は、上記目的を達成すべく、実験条件を厳密にコントロールし、より精度の高い呼吸代謝サンプリングシステムを開発することにより、種々の硬度の水を用いてWIT測定実験を行った。その結果、1回の摂取量が250mlという無理なく摂取できる量の飲水によって、高い体熱産生効果が得られることがわかった。驚くべきことに、この効果は、炭酸水を用いた場合、顕著に高まることが明らかになり、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、硬度が60〜2000の水を含む体熱産生促進効果を有する飲料水である。
また、本発明は、硬度が60〜2000であり、さらに炭酸ガスを摂氏20度における内圧として1.0〜3.8kg/cmで含む体熱産生促進効果を有する飲料水である。
【0008】
また、本発明は、硬度が60〜2000であり、さらに炭酸ガスを摂氏20度における内圧として1.0〜3.8kg/cmで含む飲料水の容器詰め飲料である。
さらに、本発明は、硬度を60〜2000に調整し、所望により摂氏20度における炭酸ガス内圧を1.0〜3.8kg/cmに調整し、さらに容器に詰める工程を含む体熱産生促進効果を有する容器詰めの飲料水の製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、硬度が60〜2000であり、所望により炭酸ガスを摂氏20度における内圧として1.0〜3.8kg/cmで含む体熱産生促進効果を有する飲料水、またはその製造方法である。
体熱産生促進効果を有する飲料水
本発明の飲料水は、硬度が60〜2000の範囲である。体熱産生効果は、水の硬度が高いほど大きくなる。従って、より大きい体熱産生効果を得るには硬度の高い飲料水が好ましく、例えば硬度90〜1500、より好ましくは硬度500〜1500、さらに好ましくは硬度1000〜1500である。
【0010】
硬度とは、水の中に含まれるミネラル類のうちカルシウムとマグネシウムの合計含有量の指標である。計算法によってアメリカ硬度、ドイツ硬度、フランス硬度、イギリス硬度等の種類があるが、本明細書および特許請求の範囲では、アメリカ硬度に基づいて標記している。アメリカ硬度とは、水1リットル中に含まれるカルシウムおよびマグネシウムの量を、炭酸カルシウムの量に換算する。計算式は、カルシウムの原子量は40、マグネシウムの原子量は24.3、炭酸カルシウムは100であるので、アルカリ硬度(mg/L)=カルシウム量(mg/L)×2.5+マグネシウム量(mg/L)×4.1となる。
【0011】
本発明の飲料水は、より大きな体熱産生を得るには炭酸ガスを含んでいるのが好ましい。炭酸量は、ある温度における炭酸ガス内圧として表示することができる。本発明の飲料水は、炭酸ガスを摂氏20度における内圧として1.0〜3.8kg/cmで含む。好ましくは、摂氏20度における内圧として1.5〜3.5kg/cm、より好ましくは摂氏20度における内圧として2.0〜3.5kg/cmで含む。
【0012】
本発明の体熱産生促進用飲料水に用いる原料水は、硬度が60〜2000に調整しうるものであれば、特に限定はされず、硬度が明らかな種々の天然水を用いても良いし、蒸留水やイオン交換水、または天然水に適宜ミネラルを添加して調整しても良い。添加するミネラルの種類および量は、硬度が60〜2000に制御されれば特に限定はされないが、好ましくは硬度が90以上になるように、カルシウムおよび/またはマグネシウムが添加される。
【0013】
本発明の飲料水に炭酸ガスを含める方法については、摂氏20度におけるガス内圧が1.0〜3.8kg/cmに調整することができれば特に限定はされず、当業者が通常用いる方法を適宜適用して所望のガス内圧に調整しても良いし、天然の炭酸ガスを含んだ天然水を用いても良い。
【0014】
本発明の飲料水によって、効果的に体熱産生促進用効果を得るには、液温は0〜30度が適している。さらに好ましくは10〜25度である。
本発明の飲料水は、一回の飲水量では250ml以下にて、効果的に体熱産生促進効果をもたらすことができる。従って、本発明の飲料水は、50ml以上250ml以下の容量で容器詰めとされるのが好ましい。
【0015】
以上のようにして得られた飲料水は、体熱産生促進用飲料水としてそのまま用いることができ、実質的に0キロカロリーであり好ましい。また、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で、甘味料、酸味料、香料、酸化防止剤等を適宜加えて用いても良いし、果汁、乳、乳成分をさらに加えた飲料としても良い。また、ビタミン類、ポリフェノール類、アミノ酸、ペプチド、タンパク質等を添加した健康補助飲料としても良いし、適正な瓶に充填したドリンク剤とすることもできる。飲料水への添加物の添加法や、容器への充填法は、製品の性質等を考慮しつつ、当業者が適宜選択し、実施することができる。
【0016】
本発明の飲料水は、体熱産生促進効果を有する。体熱産生促進効果は、例えば、酸素摂取量及び炭酸ガス排出量を測定し、Luskの表を用いてエネルギー消費量と呼吸商を求め、飲水誘発性熱産生(WIT)はコントロール(CT)試行のデータを基線として、台形公式にて各サンプル試行時のエネルギー消費量の積算値として求めることができる。
体熱産生促進効果を有する飲料水の製造方法
本発明の体熱産生促進効果を有する飲料水の製造方法は、飲料水の硬度を60〜2000に調整する工程、所望により摂氏20度における炭酸ガス内圧を1.0〜3.8kg/cmに調整する工程、さらに容器に詰める工程を含む。
【0017】
硬度は、上述のように本明細書および特許請求の範囲では、アメリカ硬度に基づいて標記している。用いる原料水は、硬度が60〜2000に調整しうるものであれば、特に限定はされず、硬度が明らかな種々の天然水を用いても良いし、蒸留水やイオン交換水、または天然水に適宜ミネラルを添加して調整しても良い。添加するミネラルの種類および量は、硬度が60〜2000に制御されれば特に限定はされない。
【0018】
摂氏20度におけるガス内圧の1.0〜3.8kg/cmへの調整は、当業者が通常用いる方法を適宜適用して、所望のガス内圧に調整することができる。
得られた飲料水の容器への充填は、製品の性質等を考慮しつつ、当業者が適宜選択し、実施することができる。
【実施例】
【0019】
本発明を実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
〔実施例1〕 試験水を用いた飲水誘発性熱産生(WIT)の測定
(対象)
被験者は健康な若年女性とし、1)非肥満・非喫煙者で代謝性疾患を有していない、2)呼気ガス測定の経験者で測定データが安定している、の2条件を満たす10名を対象とした。
(試験サンプル)
試験サンプルとして、サンプルA(硬度94mg/L)、サンプルB(硬度94mg/L、炭酸入り)、サンプルC(硬度1468mg/L)の3種を用い、水の温度は15℃、量は250mlとした。各サンプルの組成を表1に示した。
【0020】
【表1】




























【0021】
(試験方法)
何も飲まない日をコントロール(CT)試行とした。一人の被験者につき4試行をランダムな順序で、3週間以内の異なる日の同時刻に実施した。
【0022】
各被験者には、検査日前日にはカフェイン、香辛料、かんきつ類、油の多い食事、激しい運動を避けること、および前夜10時からの絶食と実験開始2時間前からの絶飲を依頼した。4試行とも午前中の同時刻(8:30または9:30)に室温を25−26℃に調整した実験室に来室してもらい、トイレを済ませて検査衣に着替えた後、脚伸展座位にて、安静時、飲水負荷直後、および15、30、45、60分後の計6回、呼気ガスを8分ずつサンプリングした。
(呼吸代謝測定システム)
呼気ガス測定装置(ミナトエアロモニターAE-300S)より出力される換気量と酸素、二酸化炭素濃度の原信号をアンプで増幅(あるいはプログラム上で1Vあたりのサンプリング濃度を上限まで調節)し、さらに高性能のカード型A/D変換器を介して最大限の分解能でのサンプリングを行った(図1)。また、呼気をミキシングチューブに2呼吸分貯留させ、呼気のガス濃度が最も安定したチューブ末端にサンプリングセンサーを差し込み,測定ポイントとした。呼吸判定レベル値は1呼吸あたり100mLとし、測定中はオシロスコープで吸気と呼気の振幅が±5Vレンジに納まっていることを確認した。得られた酸素摂取量及び炭酸ガス排出量(15秒間の平均値)よりLuskの表を用いてエネルギー消費量と呼吸商を求めた。
【0023】
飲水誘発性熱産生(WIT)は、コントロール(CT)試行のデータを基線として、台形公式にて各サンプル試行時のエネルギー消費量の積算値として求めた(図2)。つまり、飲水なしでは1時間安静にしている間にエネルギー消費量は経時的に低下するが、飲水試行後はエネルギー消費量レベルが維持、または若干の上昇が認められるため、CT試行との差分を、“飲水により産生されたエネルギー量”として算出した。
【0024】
(結果)
表2に、各試行のエネルギー消費量の経時変化を示した。また、図3はエネルギー消費量を、測定前(REST)を100とした変化率で表し、同じく経時変化をみたものである。飲水なしのコントロール試行では、エネルギー消費量は経時的に低下し、60分後では約7%低下した。サンプルA試行ではエネルギー消費量の低下はなく、サンプルBとCではエネルギー消費量は経時的に上昇し、グループ間で有意な差異が認められた(p=0.015)。コントロールとの比較では、30分後にはサンプルC、45分後にはサンプルA、BおよびC、60分後にはサンプルAとCで有意な消費エネルギー量の上昇が認められた。
【0025】
【表2】

【0026】
各試験サンプルの60分間のWITを、コントロールを基線として計算すると、サンプルではA3.6±1.5kcal、サンプルBでは4.8±1.9kcal、サンプルCでは5.5±1.4kcalであった。試行間での有意な差異が認められるとともに(ANOVA、p=0.038)、サンプルCではコントロール試行と比較して有意に高値を示した(p<0.05)(図4)。
発明の効果
本発明の飲料水は、硬度が60〜2000、さらに所望によりその摂氏20度における炭酸ガス内圧が1.0〜3.8kg/cmに制御されることにより、日常的に無理のない摂取量で生体熱産生を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、呼吸代謝サンプリングシステムを示す。
【図2】図2は、WIT(飲水誘発性熱産生)算出方法の例(サンプルBの場合)を示す。
【図3】図3は、各試験水の飲用時および非飲用時(CT)のエネルギー消費量(変化率)を示す。測定前(REST)を100としたときの変化率で表した(平均値±標準誤差)。グループ効果は二元配置分散分析(反復あり)で検定した。
【図4】図4は、各試験水のWIT(単位、キロカロリー/時間)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬度が60〜2000の水を含む、体熱産生促進効果を有する飲料水。
【請求項2】
さらに炭酸ガスを摂氏20度における内圧として1.0〜3.8kg/cmで含む、請求項1記載の飲料水。
【請求項3】
硬度が90〜1500である、請求項1または2記載の飲料水。
【請求項4】
摂氏20度における炭酸ガス内圧が1.5〜3.5kg/cm以下である、請求項2または3記載の飲料水。
【請求項5】
摂氏0〜25度に保たれた、請求項1〜4のいずれか一項記載の飲料水。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項記載の飲料水を含む容器詰め飲料。
【請求項7】
50ml〜250mlの容量である、請求項6記載の容器詰め飲料。
【請求項8】
体熱産生促進効果を有する容器詰めの飲料水の製造方法であって、
硬度を60〜2000に調整し、
所望により摂氏20度における炭酸ガス内圧を1.0〜3.8kg/cmに調整し、
さらに容器に詰める工程を含む、前記方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−274981(P2009−274981A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127060(P2008−127060)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】