説明

体重および脂肪を調節するためのインスリン様成長因子1受容体拮抗薬

本発明は、肥満の処置のためのインスリン様成長因子受容体拮抗薬の使用に関する。IGF−IR拮抗薬は、単独または他の抗肥満薬物と組み合わせて投与される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(相互参照)
本出願は、2006年11月29日に出願された米国仮特許出願第60/861,827号の優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、体重の維持、減量、および肥満の処置のためのインスリン様成長因子受容体拮抗薬の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
肥満はその割合が高まっており、世界中で11億人より多い過体重の成人が存在し、そのうち3億1200万人が肥満であるとみなされている(非特許文献1)。2000年に米国において100,000−300,000人の死亡が、肥満に起因するものであった。死亡の危険性を増加させる原因となる肥満に関連する合併症としては、虚血性心疾患、高血圧、脳卒中、糖尿病、変形性関節症、および癌が挙げられる(非特許文献1)。肥満のまん延の現在の状態は、患者を処置する際の努力不足によるものではない。数十億ドルが、肥満患者における体重減少を誘発するために、毎年費やされている。これらの努力により、多くの肥満患者において体重減少がもたらされているという事実があるが、しかし、不可避的に、大多数の患者は、体重が再び増加する(非特許文献2;非特許文献3)。
【0004】
肥満において重要であると考えられる生理学的経路の1つは、成長ホルモン−インスリン様成長因子−1(GH/IGF−I)軸である。ヒト内分泌系は、異なる機能を果たす軸に体系づけられる。GH/IGF−I軸は、正常な成熟成長および発育に重要であり(非特許文献4;非特許文献5)、代謝を調節する役割を果たす可能性があるとも考えられる(非特許文献6;非特許文献7)。この軸は、ストレス、運動、栄養および睡眠を含む要因によって調節される。これらの要因に応答する脳の視床下部におけるニューロンは、下垂体における成長ホルモン分泌細胞によって成長ホルモン分泌を調節する(非特許文献8)。GH分泌は、視床下部ニューロンによる成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)の放出後に増加することができ、ソマトスタチンの放出後に減少することができる。下垂体から放出された成長ホルモンは、その受容体を発現する組織に直接的な作用、またはGHが肝臓によってIGF−I放出を誘発させた後に間接的な作用を及ぼすことができる。GHおよびIGF−Iは、GH/IGF−I軸における活性のパターンを調節するために軸に負のフィードバックを与える。
【0005】
発育成長におけるGH/IGF−I軸の重要性は明確であるが、成人におけるこの軸の役割は、十分に知られていない。多くのホルモンおよび成長因子と同様に、GHおよびIGF−I分泌は、潜在的に成長の低下を反映して、年をとるとともに減少する(非特許文献9;非特許文献10)。しかしながら、インスリン感受性の増加および体脂肪/筋肉比の減少のような、代謝機能における成長ホルモンおよびIGF−Iの潜在的な役割を示す証拠が存在する。
【0006】
肥満患者において、成長ホルモン放出は、著しく減少し、IGF−Iレベルは、健常者に比べて減少する(非特許文献11)。肥満患者がインスリン抵抗性であり、高い体脂肪/筋肉比を有するという事実に起因して、外因性成長ホルモンまたはIGF−Iをこれらの患者に投与することが、肥満またはその合併症の処置として提案されている(非特許文献12)。外因性成長ホルモンは、患者において試験されており、血糖または血清インスリンに影響を与えずに、肥満患者における体脂肪の総量を減少させる(非特許文献12)。外因性IGF−Iもまた、患者において試験されており、重症のインスリン抵抗性患者においてインスリン感受性を増加させ、グルコースを減少させる。有益な結果にも関わらず、肥満およびその合併症の処置のために外因性成長因子を用いてGH/IGF−I軸の活性を増加させる戦略の開発は、IGF−Iレベルと癌の危険性との間の正の相関関係の発見によって妨げられてきた(非特許文献13)。
【0007】
インスリン様成長因子受容体(IGF−IR)は、正常な胎児ならびに出生後の成長および発育に必須である偏在する膜貫通チロシンキナーゼ受容体である。IGF−IRは、細胞増殖、細胞分化を刺激し、細胞の大きさを変化させ、アポトーシスから細胞を保護することができる。それはまた、細胞形質転換にある程度不可欠(quasi−obligatory)であるとみなされている(非特許文献14;非特許文献15に概説されている)。IGF−IRは、ほとんどの細胞型の細胞表面に位置し、成長因子IGF−IおよびIGF−II(合わせてこれ以降IGFと呼ぶ)のためのシグナル伝達分子として機能する。IGF−IRはまた、それがIGFに結合するより3桁低い大きさの親和性ではあるが、インスリンに結合する。IGF−IRは、ジスルフィド結合によって共有結合した2つのα鎖および2つのβ鎖を含むヘテロ四量体を前もって形成する。受容体サブユニットは、180kdの単一のポリペプチド鎖の部分として合成され、次いで、それは、α(130kd)およびβ(95kd)サブユニットにタンパク質分解的に処理される。α鎖全体は細胞外にあり、リガンド結合のための部位を含む。β鎖は、膜貫通領域、チロシンキナーゼ領域、ならびに細胞分化および形質転換に必要なC末端伸張を有するが、マイトジェンシグナル伝達およびアポトーシスからの保護には必要ではない。
【0008】
IGF−IRは、インスリン受容体(IR)、特に、β鎖配列内で非常に類似(70%相同)している。この相同性のため、1つのIR二量体および1つのIGF−IR二量体を含むハイブリッド受容体を形成することができる(非特許文献16)。ハイブリッドの形成は、正常な細胞および形質転換細胞の両方で生じ、そのハイブリッド含有量は、細胞内の2つのホモ二量体受容体(IRおよびIGF−IR)の濃度に依存する。39の乳癌検体に関する一研究において、IRおよびIGF−IRの両方は、全ての腫瘍サンプルにおいて過剰に発現したが、ハイブリッド受容体含有量は、常に、両方のホモ受容体のレベルを約3倍超えた(非特許文献17)。ハイブリッド受容体は、IRとIGF−IRとの対から構成されるが、このハイブリッドは、IGF−IRの親和性と同様の親和性を有し、IGFに選択的に結合し、インスリンには弱く結合するだけである(非特許文献18)。従って、これらのハイブリッドは、正常な細胞および形質転換細胞の両方において、IGFに結合し、シグナルを伝達することができる。
【0009】
IGF−Iの内分泌発現は、成長ホルモンによって主に調節される。IGF−Iは、肝臓において主に産生されるが、最近の証明では、多くの他の組織型もまた、IGF−Iを発現することができると示唆されている。従って、このリガンドは、内分泌およびパラクリン調節の対象となり、多くの腫瘍細胞型によっても産生される(非特許文献19)。
【0010】
リガンド(IGF)の結合の際に、IGF−IRは、β鎖の触媒領域内の保存されたチロシン残基で自己リン酸化を受ける。続いて、β鎖内のさらなるチロシン残基のリン酸化により、シグナル伝達カスケードに重要な下流分子の動員のためのドッキング部位が与えられる。IGFシグナル伝達のための主要経路は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)およびホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3K)である(非特許文献20に概説されている)。MAPK経路は、主に、IGF刺激後に誘発された細胞増殖シグナルに関与し、PI3Kは、抗アポトーシスまたは生存プロセスのIGF依存性誘発に関与する。
【0011】
IGF−IRシグナル伝達の重要な役割は、その抗アポトーシスまたは生存機能である。活性化IGF−IRは、PI3KおよびAktの下流のリン酸化またはプロテインキナーゼBにシグナルを伝達する。Aktは、リン酸化を介して、プログラムされた細胞死の開始に必須であるBADのような分子を効果的に遮断することができ、アポトーシスの開始を阻害することができる(非特許文献21)。アポトーシスは、正常な発生プロセスに不可欠な重要な細胞機構である(非特許文献22)。それは、激しく損傷した細胞の除去をもたらし、腫瘍形成を促進する可能性がある突然変異誘発性損傷の潜在的な残留を減少させるのに重要な機構である。そのため、IGFシグナル伝達の活性化は、トランスジェニックマウスモデルにおいて自然発生癌の形成を促進する可能性があることが示されている(非特許文献23)。さらに、IGFの過剰発現は、化学療法によって誘発される細胞死から細胞を救うことができ、腫瘍細胞の薬物耐性において重要な因子である場合がある(非特許文献24)。従って、IGFシグナル伝達経路の抑制的調節は、化学療法剤に対する腫瘍細胞の感受性を増加させることが示されている(非特許文献25)。
【0012】
多数の調査および臨床研究は、癌の発生、維持および進行におけるIGF−IRおよびそのリガンド(IGF)の関与を示している。腫瘍細胞において、受容体の過剰発現は、しばしば、IGFリガンドの過剰発現と合わせて、それらのシグナルの相乗作用を導き、結果として、細胞増殖および生存を高める。IGF系の活性化はまた、末端肥大症(非特許文献26)、網膜血管新生(非特許文献27)、および乾癬(非特許文献28)を含む癌以外のいくつかの病的状態に関与している。この最近の研究において、IGF−IRを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド調製は、マウスモデルにおけるヒトの乾癬皮膚移植において上皮細胞の過剰増殖を著しく阻害するのに効果的であり、抗IGF−IR治療が、この慢性疾患の効果的な処置である可能性を示唆している。
【0013】
様々な戦略が、細胞内のIGF−IRシグナル伝達経路を阻害するために開発されている。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、乾癬について上で示したようにインビトロおよび実験マウスモデルにおいて効果的である。いくつかの低分子のIGF−IR阻害剤が開発されている。さらに、インビトロおよびインビボにおいて抗増殖作用を有する、IGF−IRを標的とする阻害性ペプチドが生成されている(非特許文献29;非特許文献30)。IGF−IRのC末端からの合成ペプチド配列は、アポトーシスを誘発し、腫瘍増殖を著しく阻害することが示されている(非特許文献31)。IGF−IRのいくつかのドミナントネガティブ突然変異体もまた、生成されており、それは、腫瘍細胞株における過剰発現の際に、リガンドについて野生型IGF−IRと競合し、インビトロおよびインビボにおいて腫瘍細胞増殖を効果的に阻害する(非特許文献32;非特許文献33)。さらに、IGF−IRの可溶性形態もまた、インビボにおいて腫瘍増殖を阻害することが示されている(非特許文献34)。ヒトIGF−IRに対する抗体もまた、インビトロにおいて腫瘍細胞増殖ならびにインビボにおいて、乳癌(非特許文献35)、ユーイング骨肉腫(非特許文献36)、および黒色腫(非特許文献37)由来の細胞株を含む腫瘍形成を阻害することが示されている。抗体は、魅力的な治療法である。その理由は主に、それらは、1)特定のタンパク質抗原に高い選択性を有することができ、2)その抗原に対して高親和性結合を示すことができ、3)インビボにおいて長い半減期を有し、そして、それらは、天然の免疫産物であるため、4)インビボにおいて低い毒性を示すはずだからである(非特許文献38)。繰り返し適用した後、非ヒト源(例えば、マウス)由来の抗体は、治療抗体に対して向けられた免疫反応に作用し、それによって、抗体の有効性を無効にする場合がある。完全なヒトの抗体は、ヒトの治療方法として成功するための最も高い可能性を与える。なぜなら、それらは、天然に生じる免疫反応抗体と同様に、ヒトにおけるマウスまたはキメラ抗体よりほとんど免疫原性がないようだからである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Haslam,D.W.ら、「Lancet」,2005年,366,p.1197−1209
【非特許文献2】Goodrick,G.K.ら、「J Am Diet Assoc.」,1991年,91,p.1243−1247
【非特許文献3】Weinsier,R.L.ら、「Am J Clin Nutr.」,2000年,72,p.1088−1094
【非特許文献4】Woods,K.A.ら、「N Engl J Med.」,1996年,335,p.1363−1367
【非特許文献5】Laron Z.,「J Clin Endocrinol Metab.」,1999年,84,p.4397−4404
【非特許文献6】Franco,C.ら、「J Clin Endocrinol Metab.」,2005年,90,p.1466−1474
【非特許文献7】Yakar,S.ら、「Pediatr Nephrol.」,2005年,20,p.251−254
【非特許文献8】Mullis PE.,「Eur J Endocrinol.」,2005年,152,p11−31
【非特許文献9】Rosen,C.J.ら、「J Clin Endocrinol Met.」,1997年,82,p.3919−3922
【非特許文献10】Toogood,A.A.ら、「Horm Res.」,2003年,60(補遺1),p.105−111
【非特許文献11】Johannsson,G.ら、「J Clin Endocrinol Met」,1997年,82,p.727−734
【非特許文献12】Johannssonら、「Endocrinology」,2002年,142,p.3964−3973
【非特許文献13】Jerome,L.ら、「Endocr Relat Cancer」,2003年,10,p.561−578
【非特許文献14】Adamsら、「Cell.Mol.Life Sci.」,2000年,57,p.1050−93
【非特許文献15】Baserga,「Oncogene」,2000年,19,p.5574−81
【非特許文献16】Pandiniら、「Clin.Canc.Res.」,1999年,5,p.1935−19
【非特許文献17】Pandiniら、「Clin.Canc.Res.」,1999年,5,p.1935−44
【非特許文献18】SiddleおよびSoos,「The IGF System」,Humana Press,1999年,p.199−225
【非特許文献19】Yu,H.およびRohan,J.,「J.Natl.Cancer Inst.」,2000年,92,p.1472−89
【非特許文献20】Blakesleyら、「The IGF System」,Humana Press,1999年,p.143−163
【非特許文献21】Dattaら、「Cell」,1997年,91,p.231−41
【非特許文献22】Oppenheim,「Annu.Rev.Neurosci.」,1991年,14,p.453−501
【非特許文献23】DiGiovanniら、「Cancer Res.」,2000年,60,p.1561−70
【非特許文献24】Goochら、「Breast Cancer Res.Treat.」,1999年,56,p.1−10
【非特許文献25】Beniniら、「Clinical Cancer Res.」,2001年,7,p.1790−97
【非特許文献26】DrangeおよびMelmed,「The IGF System」,Humana Press,1999年,p.699−720
【非特許文献27】Smithら、「Nature Med.」,1999年,12,p.1390−95
【非特許文献28】Wraightら、「Nature Biotech.」,2000年,18,p.521−26
【非特許文献29】Pietrzkowskiら、「Cancer Res.」,1992年,52,p.6447−51
【非特許文献30】Haylorら、「J.Am.Soc.Nephrol.」,2000年,11,p.2027−35
【非特許文献31】Reissら、「J.Cell.Phys.」,1999年,181,p.124−35
【非特許文献32】Scotlandiら、「Int.J.Cancer」,2002年,101,p.11−6
【非特許文献33】Seelyら、「BMC Cancer」,2002年,2,p.15
【非特許文献34】D'Ambrosioら、「Cancer Res.」,1996年,56,p.4013−20
【非特許文献35】ArtegaおよびOsborne,「Cancer Res.」,1989年,49,p.6237−41
【非特許文献36】Scotlandiら、「Cancer Res.」,1998年,58,p.4127−31
【非特許文献37】Furlanettoら、「Cancer Res.」,1993年,53,p.2522−26
【非特許文献38】ParkおよびSmolen,「Advances in Protein Chemistry」,Academic Press,2001年,p.360−421
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、体重を調節するための新規の治療法を提供する。さらに、本発明は、そのような治療に使用するための組成物を提供する。現在の定説(Johannsson,G.ら)ならびにGH/IGF−I軸の活性化に焦点を合わせた文献および臨床における取り組みとは対照的に、本発明は、肥満およびその合併症の処置のためにIGF−IRシグナル伝達を遮断することに重点を置いている。
【0016】
従って、本発明は、インスリン様成長因子受容体(IGF−IR)拮抗薬を、それを必要とする哺乳動物に投与することによってIGF−IRシグナル伝達を遮断することを含むプロセスにおいて、哺乳動物、例えば、ヒトにおける体重を調節するための方法を提供する。体重の調節により、前記哺乳動物における減量、体重の維持、または体重の減少後の体重の増加の最小化をもたらすことができる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、GH/IGF−I軸に対する拮抗薬、特にIGF−IR拮抗薬が、減量、体重の維持、または体重の減少後の体重増加の最小化、もしくは防止に使用される。IGF−IR拮抗薬はまた、身体組成を調節するため(例えば、体脂肪の割合を減少させるため)に使用される。本発明は、個体の体重または組成を調節するのに効果的であり、特に、過体重または肥満の個体の処置に利点がある、IGF−IR媒介性シグナル伝達を調節するための方法および組成物を提供する。
【0018】
IGF−IR拮抗薬は、IGF−IRによって媒介されるシグナル伝達を遮断、調節または阻害する分子であり、抗体、低分子、タンパク質、ポリペプチド、IGF模倣剤、アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド、アンチセンスRNA、阻害的低分子RNA、トリプルヘリックス形成性核酸、ドミナントネガティブ突然変異体、および可溶性受容体発現を含むが、これらに限定されない。
【0019】
本発明の一実施形態において、IGF−IR拮抗薬は、IGF−IRに結合して、リガンド結合を遮断する。本発明の別の実施形態において、IGF−IR拮抗薬は、IGF−IRに結合して、IGF−IR表面受容体の減少を促進する。本発明のさらに別の実施形態において、IGF−IR拮抗薬は、IGF−IRに結合して、IGF−IR媒介性シグナル伝達を阻害する。
【0020】
本発明の一実施形態において、IGF−IR拮抗薬は、抗体である。特定の実施形態において、IGF−IR拮抗薬は、約10−9−1未満または約10−10−1未満または約3×10−10−1未満であるKでIGF−IRに結合する抗体である。抗IGF−IR抗体の非限定的な例としては、A12および2F8(以下に記載される)、ならびにIGF−IRとの結合の面でA12および/または2F8と競合する抗体が挙げられる。本発明に従って使用することができる抗体としては、キメラ抗体またはヒト化抗体が挙げられる。好ましい実施形態において、抗体はヒト抗体である。別の実施形態において、IGF−IR拮抗薬は、受容体に結合するがそれを活性化しないIGF−IRリガンドの模倣剤である。さらに別の実施形態において、IGF−IR拮抗薬は、IGF−IRのリガンド結合領域に結合して、IGF−IRリガンドの結合を遮断する低分子(例えば、コンビナトリアルケミストリーライブラリーの要素、あるいは低分子量の天然産物もしくは合成産物または天然代謝産物もしくは合成代謝産物)である。本発明の別の実施形態において、IGF−IR拮抗薬は、IGF−IRとその基質IRS−1との相互作用を遮断する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】抗IGF−IR抗体の結合および遮断を示す。(A)固定した組み換えIGF−IRへのA12および2F8の結合。(B)抗体2F8またはA12、あるいはリガンドIGF−IまたはIGF−IIによる固定したIGF−IRへの125I−IGF−I結合の遮断。(C)MCF7細胞における天然IGF−IRへの125I−IGF−I結合の遮断。
【図2】IGF−IRリン酸化およびIGF−IR媒介性シグナル伝達の阻害を示す。(A)抗体A12および2F8によるMCF7乳癌細胞におけるIGF−IRのIGF−I誘導性リン酸化反応の阻害。(B)抗体A12によるMCF7細胞における下流エフェクター分子のIGF−IおよびIGF−II媒介性リン酸化の阻害。MCF7細胞溶解物のウェスタンブロットが、リン酸化IRS−1(pIRS−1)、MAPK(pMAPK)、およびAkt(pAkt)について調べられた。
【図3】A12によるインスリン受容体(IR)結合および遮断活性の欠失を示す。(A)固定したIRへのA12の結合。抗IR抗体47−9を、ポジティブコントロールとして使用した。(B)インスリン、IGF−I、A12、または抗IR抗体49−7による固定したIRへの125I−インスリン結合の遮断。
【図4】組み換えマウスおよびヒトIGF−IRへのA12の結合を示す。
【図5】痩せたBalb/cマウスの体重へのA12の効果を示す。雌のBalb/cマウスを、140mg/kgの負荷用量を用いて、および用いないで、40mg/kgにて、M−W−F(月−水−金)にA12で処置した。コントロールマウスを、40mg/kgにて、M−W−F(月−水−金)にヒトIgGで、または0.5ml/用量にて、M−W−F(月−水−金)にTBSで処置した。マウスは、未成熟(A)またはより成熟(B)の体重で処置を開始した。処置は、表示した時間で停止した。平均体重±標準偏差をプロットする(1群あたりn=5)。
【図6】肥満のob/obマウスにおける食物摂取を示す。ob/obマウスは、未処置のままであるか、または齧歯動物用食餌の量を減らした餌を毎日与えることにより食餌制限を受けさせた。食餌制限の後、これらのマウスを、火曜日、金曜日のスケジュールで30mg/kgにてヒトIgGまたはA12で処置した。平均食物摂取±標準偏差をプロットする(1群あたりn=7)。*は、新鮮な食物を不断給餌のマウスに与えた時点を示し、その結果、食物摂取において一時的な急増を生じた。
【図7】肥満のob/obマウスの体重へのA12の効果を示す。ob/obマウスは、未処置のままであるか、または齧歯動物用食餌の量を減らした餌を毎日与えることにより食餌制限を受けさせた。食餌制限の後、これらのマウスは、火曜日、金曜日のスケジュールで30mg/kgにてヒトIgGまたはA12で腹腔内処置を開始してから5時間後に不断給餌を開始した。最終処置を、食餌制限の開始25日後に施した。平均体重±標準偏差をプロットする(1群あたりn=7)。
【図8】食餌制限を受けた肥満マウスおよび不断給餌の肥満マウスの体重へのA12の効果を示す。食餌制限されたマウスは、13日間、食物の量を減らされ、次いで、30mg/kgにてヒトIgGで、または3、10もしくは30mg/kgにてA12で腹腔内処置を開始してから3時間後に不断給餌を開始した。さらに、食餌制限されたマウスと同じスケジュールで、食餌制限されていないマウスを、30mg/kgのA12で処置した。平均体重±標準偏差をプロットする(1群あたりn=4−12)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、減量させるため、および体重を維持するため、および体重増加を減少させるためのIGF−IR拮抗薬の使用に関する。本発明の特定の実施形態において、IGF−IR拮抗薬は、過体重または肥満である個体を処置するために使用される。
【0023】
標準体重は、性別、身長、および年齢で変化し、個体を標準、過体重、または肥満と定義する基準は、時間とともに変化する。さらに、脂肪の重量と除脂肪体重との割合のような身体組成パラメーターは、疾患の危険性の有意な決定因子である。従って、過体重および肥満について特定の測定手段を使用することが有用である。
【0024】
体脂肪含有量を測定するための1つの方法は、密度測定による。脂肪組織は、筋肉および骨より密度が小さいため、平均密度を得るために、水中でヒトの体重を量ることにより、ヒトの脂肪含有量を推定することは可能である。次いで、体脂肪の割合を、平均密度に基づいて計算することができる。一般に使用される式は、体脂肪率=(4.95/ρ−4.50)×100である(Siri,W.E.,1961,Techniques for Measuring Body Composition.J.BrozekおよびA.Henschel,編,National Academy of Sciences,Washington,D.C.,pp.223−244)。全脂肪量は、全体重×体脂肪率として計算することができる。除脂肪体重(LBM)は、全体重と脂肪量との差である。
【0025】
体脂肪を測定するための別の非観血的アプローチは、二重エネルギーX線吸収法(DEXA)である。DEXAを、全体脂肪および特定の解剖領域における脂肪を推量するために使用することができる。体脂肪を測定するための簡単だが、あまり信頼できない試験は、皮下脂肪試験であり、それによって、皮下脂肪層の厚さを測定するために身体上のいくつかの基準化した点においてカリパスで皮膚をつまんで測定する。
【0026】
身体組成(すなわち、脂肪過多症)は、疾患および死亡の危険性に、体重より密接に関連するが、身長で補正した体重の指数は、ほとんどの個人で脂肪含有量の十分な近似値を与えることができる。肥満度指数(BMI)は、簡単に測定されて、比較的信頼できる測定手段である。体重がポンド(1ポンド=約453g)で、身長がインチ(1インチ=約25.4mm)で測定される場合、BMI(単位=kg/m)は、(体重(lb)/身長(in))×703として計算される。体重がキログラムで、身長がメートルで測定される場合、この式は、BMI(単位=kg/m)=体重(kg)/身長(m)である。この指数は、広範囲の身長について身長で補正した体重を与え、身体の脂肪含有量に関する信頼できる推量近似値である。成人肥満の現在の診断基準は、疾患および死亡の危険性に関する疫学データに基づいている。肥満は、現在、BMI≧30kg/mによって示される。病的な肥満は、40kg/m以上のBMI、または100ポンド(約45.3kg)の過体重と相関する。罹患率および死亡率は、BMIとともに徐々に増加し、30kg/mより下でもBMIと関連する危険性が増加する。従って、BMI=25から30kg/m未満は、「過体重」の症状とみなされる。
【0027】
BMIと肥満との相関関係は、かなり強いが、性別、人種、年齢および状態によって変わる。従って、BMIは、過体重または肥満関連の疾患を発症させる可能性に関する1つの要因にすぎないことを覚えておくことは重要である。別の重要な予測材料は、個体の腰周りである(なぜなら、腹部脂肪は、肥満関連の疾患の危険性を予測する判断材料だからである)。
【0028】
本発明は、被験体における脂肪量(または体脂肪率)またはBMIの増加を減少するため、予防するため、あるいは最小化するために使用される。本発明の特定の実施形態において、処置される被験体の体脂肪率は、約10以上、または約20以上、または約30以上である。本発明の他の実施形態において、処置される被験体のBMIは、約20kg/m以上、または約25kg/m以上、または約30kg/m以上、または約40kg/m以上である。
【0029】
IGF−IR拮抗薬は、IGF−IR媒介性シグナル伝達を阻害する任意の物質を含む。従って、IGF−IR拮抗薬は、細胞外拮抗薬および細胞内拮抗薬を含む。細胞外拮抗薬は、通常、受容体−リガンド相互作用を減少または遮断する物質である。細胞外拮抗薬はまた、細胞表面受容体を下方制御するように機能することができる。細胞外拮抗薬は、IGF−IRに結合する抗体および他のタンパク質またはポリペプチド、ならびにIGF−IRリガンドに特異的な抗体または他のタンパク質またはポリペプチドを含む。
【0030】
天然に存在する抗体は、通常、2つの同一の重鎖および2つの同一の軽鎖を有し、各々の軽鎖は、鎖間ジスルフィド結合によって重鎖に共有結合し、複数のジスルフィド結合はさらに、2つの重鎖を互いに結合する。個々の鎖は、同様のサイズ(110−125アミノ酸)および構造、しかし異なる機能を有する領域に折り畳むことができる。軽鎖は、1つの可変領域(V)および/または1つの定常領域(C)を含むことができる。重鎖もまた、1つの可変領域(V)および/または抗体のクラスもしくはアイソタイプに依存して、3つもしくは4つの定常領域(C1、C2、C3およびC4)を含むことができる。ヒトにおいて、このアイソタイプは、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMであり、IgAおよびIgGはさらに、サブクラスまたはサブタイプ(IgA1−2およびIgG1−4)に細かく分けられる。
【0031】
一般に、可変領域は、1つの抗体ごとに、特に抗原結合部位の位置において多数のアミノ酸配列可変性を示す。超可変または相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つの領域が、VおよびVの各々に見出され、それらは、フレームワーク(FW)と呼ばれるさほど変化しない領域によって支持される。
【0032】
およびV領域からなる抗体の一部は、Fv(可変フラグメント)に指定され、抗原結合部位を構成する。一本鎖Fv(scFv)は、1つのポリペプチド鎖上にV領域およびV領域を含む抗体フラグメントであり、ここで、1つの領域のN末端および他の領域のC末端は、可動性リンカーによって連結される(例えば、米国特許第4,946,778号(Ladnerら);国際公開第88/09344号(Hustonら)を参照のこと)。国際公開第92/01047号(McCaffertyら)は、可溶性組み換え遺伝子ディスプレイパッケージ(例えば、バクテリオファージ)の表面におけるscFvフラグメントの表示を記載している。
【0033】
一本鎖抗体を生成するために使用されるペプチドリンカーは、VとV領域の適切な三次元フォールディング及び結合を確保するように選択されるフレキシブルペプチドであってもよい。リンカーは、一般に、10〜50アミノ酸残基である。好ましくは、リンカーは、10〜30アミノ酸残基である。より好ましくは、リンカーは、12〜30アミノ酸残基である。最も好ましくは、15〜25アミノ酸残基のリンカーである。そのようなリンカーペプチドの非限定的な例は、(Gly−Gly−Gly−Gly−Ser)(配列番号33)である。
【0034】
Fab(フラグメント、抗原結合)とは、V−CおよびV−C1領域からなる抗体のフラグメントをいう。パパインで全抗体を消化することによって生成されるこのようなフラグメントは、通常2つの重鎖が連結される抗体ヒンジ領域を保有しない。このフラグメントは一価であり、単にFabといわれる。あるいは、ペプシンでの消化は、ヒンジ領域を保有するフラグメントを生じる。2つの重鎖に連結するインタクトな鎖間ジスルフィド結合を有するこのようなフラグメントは、二価であり、F(ab’)といわれる。一価のFab’は、F(ab’)のジスルフィド結合が還元され、重鎖が離れる場合に生じる。それらは二価であるため、インタクトな抗体およびF(ab’)フラグメントは、一価のFabまたはFab’フラグメントより、抗原に高い親和性を有する。国際公開第92/01047号(McCaffertyら)は、可溶性組み換え遺伝子ディスプレイパッケージ(例えば、バクテリオファージ)の表面におけるFabフラグメントの表示を記載している。
【0035】
Fc(フラグメント結晶化)とは、対をなす重鎖定常領域からなる抗体の一部またはフラグメントを指定する。例えば、IgG抗体において、Fcは、重鎖C2およびC3領域からなる。IgAまたはIgM抗体のFcはさらに、C4領域を含む。Fcは、Fc受容体結合、相補体媒介性細胞毒性および抗体依存性細胞障害性(ADCC)の活性化に関連する。複数のIgG様タンパク質の複合体であるIgAおよびIgMのような抗体に関しては、複合体形成はFc定常領域を必要とする。
【0036】
最終的に、ヒンジ領域は、抗体のFabおよびFc部分を分け、Fab間の可動性およびFcに対するFabの可動性を与え、2つの重鎖が共有結合するためにジスルフィド結合を与える。
【0037】
結合特異性を保持するが望ましい他の特性も有する抗体型が開発されている。望ましい他の特性とは、例えば、二重特異性、多価性(3つ以上の結合部位)、および小型(例えば、結合領域単独)などである。
【0038】
一本鎖抗体は、それらが由来する全抗体の定常領域のいくらかまたは全てを欠く。従って、一本鎖抗体は、全抗体の使用に伴ういくらかの問題を克服できる。例えば、一本鎖抗体は、重鎖定常領域と他の生体分子との間の特定の好ましくない相互作用を含まない傾向がある。加えて、一本鎖抗体は、全抗体よりかなり小さく、全抗体より大きい透過性を持つことができるので、一本鎖抗体を、より効果的に標的抗原結合部位に集めて結合させることが可能である。さらに、比較的小型の一本鎖抗体は、全抗体より、レシピエントにおける好ましくない免疫反応をほとんど誘発させない。
【0039】
各々の一本鎖が、最初のペプチドリンカーによって共有結合された1つのVおよび1つのV領域を有する、複数の一本鎖抗体は、少なくとも1つ以上のペプチドリンカーによって共有結合されて、多価の一本鎖抗体を形成することができ、その多価の一本鎖抗体は、単一特異性であっても、多重特異性であってもよい。多価の一本鎖抗体の各々の鎖は、可変軽鎖フラグメントおよび可変重鎖フラグメントを含み、少なくとも1つの他の鎖にペプチドリンカーによって連結される。ペプチドリンカーは、一般に、少なくとも15アミノ酸残基からなる。アミノ酸残基の最大数は、約100である。
【0040】
2本の一本鎖抗体は結合して、二重特異性抗体(別名、二価二量体)を形成してもよい。二重特異性抗体は、2つの鎖および2つの結合部位を有し、単一特異性であっても、二重特異性であってもよい。二重特異性抗体の各々の鎖は、V領域に結合するV領域を含む。この領域は、同じ鎖における領域間で対になるのを防止するのに十分短いリンカーで結合され、それによって、異なる鎖における相補性領域間の対合を駆動して、2つの抗原結合部位を再形成する。
【0041】
3本の一本鎖抗体は結合して、三重特異性抗体(別名、三価三量体)を形成してもよい。三重特異性抗体は、VまたはV領域のカルボキシル末端に直接結合する(すなわち、リンカー配列を1つも含まない)VまたはV領域のアミノ酸末端を用いて構築される。三重特異性抗体は、環状の頭−尾様式で配列されたポリペプチドであり、3つのFvヘッドを有する。三重特異性抗体の可能な構造は平面状であり、3つの結合部位が、互いに120度の角度で1つの平面に位置している。三重特異性抗体は、単一特異性、二重特異性または三重特異性であってもよい。
【0042】
従って、本発明の抗体およびそのフラグメントとしては、抗原に特異的に結合する天然に存在する抗体、(Fab’)のような二価フラグメント、Fabのような一価フラグメント、一本鎖抗体、一本鎖Fv(scFv)、単一領域抗体、多価一本鎖抗体、二重特異性抗体、三重特異性抗体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
本発明の抗体およびその特定の可変領域は、当該分野において公知の方法によって得ることができる。これらの方法としては、例えば、KohlerおよびMilstein,Nature 256:495−497(1975)ならびにCampbell,Monoclonal Antibody Technology,The Production and Characterization of Rodent and Human Hybridomas,Burdonら編,Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology,第13巻,Elsevier Science Publishers,Amsterdam(1985)に記載される免疫学的方法、およびHuseら,Science 246,1275−81(1989)に記載される組み換えDNA法が挙げられる。抗体はまた、scFvまたはFabの形態でVとV領域との組み合わせを保有するファージディスプレイライブラリーから得ることができる。VおよびV領域は、合成された、部分的に合成された、または天然に由来するヌクレオチドによってコードされてもよい。特定の実施形態において、ヒト抗体フラグメントを保有するファージディスプレイライブラリーが好ましい場合がある。ヒト抗体の他の起源は、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現するように操作されたトランスジェニックマウスである。
【0044】
抗体フラグメントは、全抗体を開裂することによって、またはそのフラグメントをコードするDNAを発現させることによって生成してもよい。抗体のフラグメントは、Lamoyiら,J.Immunol.Methods 56:235−243(1983)およびParham,J.Immunol.131:2895−2902(1983)に記載される方法によって調製されてもよい。そのようなフラグメントは、1つまたは両方のFabフラグメントあるいはF(ab’)フラグメントを含んでもよい。そのようなフラグメントはまた、一本鎖フラグメントの可変領域抗体(すなわち、scFV)、二重特異性抗体、または他の抗体フラグメントを含んでもよい。そのような機能的等価物を生成する方法は、PCT出願第93/21319号、欧州特許出願第239,400号;PCT出願第89/09622号;欧州特許出願第338,745号;および欧州特許出願第332,424号に開示されている。
【0045】
本発明の抗体またはそのフラグメントは、IGF−IRに特異的である。抗体特異性とは、抗原の特定のエピトープについての抗体の選択的認識をいう。本発明の抗体またはそのフラグメントは、例えば、単一特異性または二重特異性であってもよい。二重特異性抗体(BsAbs)は、2つの異なる抗原結合特異性または部位を有する抗体である。抗体が2つ以上の特異性を有する場合、認識されるエピトープは、単一の抗原または2つ以上の抗原と結合してもよい。従って、本発明は、IGF−IRについての少なくとも1つの特異性を有し、2つの異なる抗原に結合する二重特異性抗体またはそのフラグメントを提供する。
【0046】
本発明の抗体またはそのフラグメントのIGF−IRについての特異性は、親和性および/または結合活性に基づいて測定されてもよい。抗原と抗体との解離についての平衡定数(Kd)によって表される親和性は、抗原決定基と抗体結合部位との間の結合強度を測定する。結合活性は、抗体とその抗原との間の結合強度の尺度である。結合活性は、エピトープと、抗体におけるその抗原結合部位との間の親和性、および抗体の価数(特定のエピトープに特異的である抗原結合部位の数をいう)の両方に関連する。抗体は、通常、10−5〜10−11リットル/モルまたはそれよりも優れた解離定数(Kd)で結合する。10−4リットル/モル超のKdは、一般に、非特異的結合を示すとみなされる。Kdが小さければ小さい程、抗原決定基と抗体結合部位との間の結合強度がより強くなる。
【0047】
本発明の抗体またはそのフラグメントはまた、定方向突然変異、親和性成熟法、ファージディスプレイ、または鎖シャフリング(chain shuffling)によって改良された結合特性のものも含む。親和性および特異性は、CDRおよび/またはFW残基を変異し、所望の特性を有する抗原結合部位をスクリーニングすることによって修飾または改良されてもよい(例えば、Yangら、J.Mol.Biol.254:392−403(1995)を参照のこと)。1つの方法は、個々の残基または残基の組み合わせをランダム化することであり、それによって、本来は同一の抗原結合部位集団において、2〜20アミノ酸のサブセットが特定の位置に見出される。あるいは、変異は、エラープロンPCR法によって種々の残基にわたって誘発されてもよい(例えば、Hawkinsら、J.Mol.Biol.226:889−96(1992)を参照のこと)。別の例において、重鎖および軽鎖可変領域遺伝子を含むファージディスプレイベクターを、E.coliの突然変異誘発株において増殖してもよい(例えば、Lowら、J.Mol.Biol.250:359−68(1996)を参照のこと)。これらの突然変異生成法は、当業者に公知の多くの方法を例示したものである。
【0048】
保存アミノ酸置換は、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質あるいはそれらのフラグメントの1つまたは2つのアミノ酸の変更によるアミノ酸構成の変化と定義される。この置換は、一般に、類似の性質(例えば、酸性、塩基性、芳香族、サイズ、正または負電荷、極性、非極性)を有するアミノ酸の置換であり、それによって、置換は、実質的に、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質の特性(例えば、電荷、等電点、親和性、結合活性、構造、溶解度)または活性を変化させない。このような保存アミノ酸置換のために実施され得る典型的な置換は、以下のような一群のアミノ酸であってもよい。
グリシン(G)、アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)およびイソロイシン(I);
アスパラギン酸(D)およびグルタミン酸(E);
アラニン(A)、セリン(S)およびトレオニン(T);
ヒスチジン(H)、リジン(K)およびアルギニン(R);
アスパラギン(N)およびグルタミン(Q);
フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)およびトリプトファン(W)。
【0049】
保存アミノ酸置換は、例えば、分子、および分子の他の部分(例えば、可変重鎖カセット)の選択的および/または特異的結合特性に主に関与する超可変領域に隣接する領域でなされてもよい。
【0050】
本発明の抗体の各々の領域は、重鎖または軽鎖可変領域を有する完全な抗体であってもよいし、機能的等価物または変異体または天然に存在する領域の誘導体、または例えば、国際公開第93/11236号(Griffithsら)に記載される技術を用いてインビトロにおいて構築された合成領域であってもよい。例えば、少なくとも1つのアミノ酸を欠失している抗体可変領域に相当する領域を結合することは可能である。重要な特徴付けられる特性は、相補領域と結合して抗原結合部位を形成する各領域の能力である。従って、用語、可変重鎖および軽鎖フラグメントは、特異性に重要な作用を及ぼしていない変異体を排除するものと解釈されるべきではない。
【0051】
好ましい実施形態において、本発明の抗IGF−IR抗体は、いくつかの特性のうちの1つ以上を示すヒト抗体である。一実施形態において、抗体は、IGF−IRの外部領域に結合して、IGF−IRへのIGF−IまたはIGF−IIの結合を阻害する。阻害は、例えば、精製された受容体または膜結合受容体を用いて直接結合アッセイによって測定することができる。この実施形態において、本発明の抗体またはそのフラグメントは、好ましくは、IGF−IRの天然のリガンド(IGF−IおよびIGF−II)と少なくとも同じ強さでIGF−IRに結合する。
【0052】
本発明の実施形態において、抗体は、IGF−IRを無効化する。IGF−IRの外部である、細胞外領域へのリガンド(例えば、IGF−IまたはIGF−II)の結合は、βサブユニットの自己リン酸化ならびにMAPK、Akt、およびIRS−1を含むIGF−IR基質のリン酸化を刺激する。IGF−IRの無効化は、通常、シグナル伝達に関連するそれらの活性のうちの1つ以上の阻害、減少、不活性化および/または崩壊を含む。IGF−IRの無効化は、IGF−IR/IRヘテロ二量体およびIGF−IRホモ二量体の阻害を含む。従って、IGF−IRを無効化することは、成長(増殖および分化)、血管形成(血管補充(blood vessel recruitment)、侵襲および転移))、ならびに細胞運動および転移(細胞接着および侵襲性)の阻害、減少、不活性化および/または崩壊を含むが、これらに限定されない種々の作用を有する。
【0053】
IGF−IR無効化の1つの尺度は、受容体のチロシンキナーゼ活性の阻害である。チロシンキナーゼ阻害は、周知の方法、例えば、組み換えキナーゼ受容体の自己リン酸化レベル、および/または天然もしくは合成基質のリン酸化を測定することにより決定できる。従って、リン酸化アッセイは、本発明の文脈において抗体の無効化を測定する際に有用である。リン酸化は、例えば、ELISAアッセイまたはウェスタンブロットにおいてホスホチロシンに特異的な抗体を用いて検出することができる。チロシンキナーゼ活性についてのいくつかのアッセイは、Panekら、J.Pharmacol.Exp.Thera.283:1433−44(1997)およびBatleyら、Life Sci.62:143−50(1998)に記載されている。本発明の抗体は、リガンドに応答する細胞においてIGF−IRのチロシンリン酸化を少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約85%、およびより好ましくは少なくとも約90%減少させる。
【0054】
IGF−IR無効化の別の尺度は、IGF−IRの下流基質のリン酸化の阻害である。従って、MAPK、AktまたはIRS−1のリン酸化のレベルを測定することができる。基質リン酸化の減少は、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約65%、より好ましくは少なくとも約80%である。
【0055】
さらに、タンパク質発現の検出方法を、IGF−IR無効化を測定するのに利用でき、ここで、測定されるタンパク質は、IGF−IRチロシンキナーゼ活性によって調節されている。これらの方法としては、タンパク質発現を検出するための免疫組織化学(IHC)、遺伝子増幅を検出するための蛍光インサイチュハイブリダイゼーション法(FISH)、競合放射性リガンド結合試験、固体マトリクスブロッティング技術(例えば、ノーザンブロットおよびサザンブロット)、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)およびELISAが挙げられる。例えば、Grandisら、Cancer,78:1284−92(1996);Shimizuら、Japan J.Cancer Res.,85:567−71(1994);Sauterら、Am.J.Path.,148:1047−53(1996);Collins,Glia 15:289−96(1995);Radinskyら、Clin.Cancer Res.1:19−31(1995);Petridesら、Cancer Res.50:3934−39(1990);Hoffmannら、Anticancer Res.17:4419−26(1997);Wikstrandら、Cancer Res.55:3140−48(1995)を参照のこと。
【0056】
インビボアッセイもまた、IGF−IR無効化を測定するのに利用できる。例えば、受容体チロシンキナーゼ阻害を、阻害剤の存在および非存在下において受容体リガンドで刺激される細胞株を用いてマイトジェンアッセイによって観察することができる。例えば、IGF−IまたはIGF−IIで刺激されたMCF7(アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)、ロックビル、メリーランド州)を、IGF−IR阻害のアッセイに用いることができる。別の方法は、IGF−IR発現腫瘍細胞またはIGF−IRを発現するためにトランスフェクトされた細胞の増殖の阻害試験に関する。阻害は、腫瘍モデル、例えば、マウスに注入されたヒト腫瘍細胞を用いても観察することができる。本発明は、特定のIGF−IR無効化の機構によって制限されるものではない。
【0057】
本発明の実施形態において、抗体は、IGF−IRを下方調節する。細胞表面に存在するIGF−IRの量は、受容体タンパク質生成、内在化、および分解に依存する。細胞表面に存在するIGF−IRの量は、受容体または受容体に結合された分子の内在化を検出することによって、間接的に測定されてもよい。例えば、受容体の内在化は、IGF−IRを発現する細胞を標識抗体と接触させることによって測定してもよい。膜結合抗体は剥がされ、回収され、カウントされる。内在化抗体は、細胞を溶解して、溶解物の標識を検出することによって測定される。
【0058】
下方調節を測定するための別の方法は、抗IGF−IR抗体または他の基質で処理した後の細胞に存在する受容体の量を、例えば、IGF−IRの表面発現のために染色された細胞を蛍光活性化細胞分類解析することによって、直接、測定することである。染色された細胞は、37℃でインキュベートされ、蛍光強度を経時的に測定する。コントロールとして、染色された集団の一部を、4℃(受容体の内在化が停止する条件下)でインキュベートしてもよい。細胞表面IGF−IRは、IGF−IRに特異的で試験される抗体の結合を遮断または競合しない異なる抗体を用いて検出および測定してもよい(Burtrumら、Cancer Res.63:8912−21(2003))。
【0059】
本発明の抗体でIGF−IR発現細胞を処理することにより、細胞表面IGF−IRの減少が生じる。好ましい実施形態において、この減少は、本発明の抗体での処理に応答して、少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約90%である。顕著な減少を、わずか4時間で観察することができる。
【0060】
下方調節の別の尺度は、細胞に存在する全受容体タンパク質の減少であり、これにより内部受容体の分解が示される。従って、本発明の抗体で細胞(特に癌細胞)を処理することにより、細胞IGF−IRの総量の減少が生じる。好ましい実施形態において、この減少は、少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約90%である。
【0061】
好ましい実施形態において、本発明の抗体は、約10−9−1以下のK、または約3×10−10−1以下のK、または約1×10−10−1以下のK、または約3×10−11−1以下のKでIGF−IRに結合する。
【0062】
本発明に適切な抗体または抗体のフラグメントの例は、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28、および配列番号30からなる群より選択される1、2、3、4、5および/または6の相補性決定領域(CDR)を有するヒト抗体である。好ましくは、本発明の抗体(またはそのフラグメント)は、配列番号14、配列番号16および配列番号18のCDRを有する。あるいは、そしてまた好ましくは、本発明の抗体またはそのフラグメントは、配列番号20、配列番号22および配列番号24のCDRを有する。あるいは、そしてまた好ましくは、本発明の抗体またはそのフラグメントは、配列番号26、配列番号28および配列番号30のCDRを有する。CDRのアミノ酸配列は、以下の表1に記載される。
【0063】
【表1】

【0064】
別の実施形態において、本発明の抗体またはそのフラグメントは、配列番号2の重鎖可変領域および/または配列番号6もしくは配列番号10から選択される軽鎖可変領域を有してもよい。A12は、本発明の抗体の一例である。この抗体は、ヒトVおよびヒトVフレームワーク領域(FW)ならびにCDRを有する。A12のV可変領域(配列番号2)は、配列番号14、16および18に相当する3つのCDRを有し、V領域(配列番号10)は、配列番号26、28および30に相当する3つのCDRを有する。2F8は、本発明の抗体の別の例である。この抗体もまた、ヒトVおよびヒトVフレームワーク領域(FW)ならびにCDRを有する。2F8のV可変領域は、A12のV可変領域と同一である。2F8のV領域(配列番号6)は、配列番号20、22および24に相当する3つのCDRを有する。
【0065】
別の実施形態において、本発明の抗体は、IGF−IRへの結合に関して、A12および/または2F8と競合する。つまり、この抗体は、同じまたは類似の重複しているエピトープと結合する。
【0066】
本発明はまた、上記の抗体またはそのフラグメントをコードする単離されたポリヌクレオチドを提供する。本発明は、表2に記載される1、2、3、4、5および/または全ての6のCDRをコードする配列を有する核酸を含む。
【0067】
【表2】

【0068】
ヒト抗体をコードするDNAは、実質的または独占的に、対応するヒト抗体領域に由来するCDR以外のヒト定常領域および可変領域をコードするDNA、ならびにヒト由来のCDRをコードするDNA(例えば、重鎖可変領域CDRについて配列番号13、15および17ならびに軽鎖可変領域CDRについて配列番号19、21および23または配列番号25、27および29)を組み換えることによって調製してもよい。
【0069】
抗体のフラグメントをコードするDNAの他の適切な起源としては、完全長の抗体を発現する細胞、例えば、ハイブリドーマおよび脾臓細胞のような細胞が挙げられる。フラグメントを、抗体等価物としてそれ自体用いてもよいし、上記の等価物に組み換えてもよい。この節に記載されるDNA組み換えおよび他の技術は、公知の方法によって実施してもよい。DNAの他の起源は、当該分野において公知のファージディスプレイライブラリーから生成された一本鎖抗体またはFabである。
【0070】
本発明は、完全長の抗IGF−IR抗体の可変または超可変領域のアミノ酸配列と実質的に同じアミノ酸配列を有する抗体も含む。実質的に同じアミノ酸配列とは、PearsonおよびLipman(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444−8(1998))のFASTA検索法によって測定した場合、別のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%、好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%の相同性を有する配列であると、本明細書において定義される。
【0071】
さらに、本発明は、発現配列、プロモーターおよびエンハンサー配列に作動可能に連結される上記のポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターを提供する。細菌のような原核生物、ならびに酵母および哺乳動物細胞培養系を含むが、それらに限定されない真核生物系におけるポリペプチド抗体の効果的な合成のための様々な発現ベクターが、開発されている。本発明のベクターは、染色体、非染色体および合成DNA配列のセグメントを含んでもよい。
【0072】
任意の適切な発現ベクターを用いることができる。例えば、原核生物クローニングベクターとしては、E.coli由来のプラスミド、例えば、colE1、pCR1、pBR322、pMB9、pUC、pKSMおよびRP4が挙げられる。また、原核生物ベクターとして、ファージDNAの誘導体、例えば、M13および他の糸状一本鎖DNAファージも挙げられる。酵母に有用なベクターの例は、2μプラスミドである。哺乳動物細胞における発現に適切なベクターとしては、SV−40の周知の誘導体、アデノウイルス、レトロウイルス由来DNA配列および上記のような機能的哺乳動物ベクターの組み合わせ由来のシャトルベクターならびに機能的プラスミドおよびファージDNAが挙げられる。
【0073】
さらなる真核生物発現ベクターは、当該分野において公知である(例えば、P.J.SouthernおよびP.Berg,J.Mol.Appl.Genet.1:327−41(1982);Subramaniら、Mol.Cell.Biol.1:854−64(1981);KaufmannおよびSharp,「Amplification And Expression of Sequences Cotransfected with a Modular Dihydrofolate Reductase Complementary DNA Gene」,J.Mol.Biol.159:601−21(1982);KaufmannおよびSharp,Mol.Cell.Biol.159:601−64(1982);Scahillら、「Expression And Characterization Of The Product Of A Human Immune Interferon DNA Gene In Chinese Hamster Ovary Cells」,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 80,4654−59(1983);UrlaubおよびChasin,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 77:4216−20,(1980))。
【0074】
本発明に有用な発現ベクターは、発現されるDNA配列またはフラグメントに作動可能に連結される少なくとも1つの発現制御配列を含む。制御配列は、クローニングされたDNA配列の発現を制御および調節するためにベクターに挿入される。有用な発現制御配列の例は、lac系、trp系、tac系、trc系、ラムダファージの主要オペレーターおよびプロモーター領域、fdコートタンパク質の制御領域、酵母の解糖プロモーター(例えば、3−ホスホグリセリン酸キナーゼについてのプロモーター)、酵母酸性ホスファターゼのプロモーター(例えば、Pho5)、酵母α−接合因子のプロモーター、ならびにポリオーマ、アデノウイルス、レトロウイルス、およびシミアンウイルス由来のプロモーター(例えば、初期プロモーターおよび後期プロモーターまたはSV40)、ならびに原核細胞もしくは真核細胞およびそれらのウイルスの遺伝子の発現を制御することが公知の他の配列、あるいはそれらの組み合わせである。
【0075】
酵母において遺伝子構築物を発現させることが所望される場合、酵母での使用に適切な選択遺伝子は、酵母プラスミドYRp7に存在するtrp1遺伝子である(Stinchcombら、Nature,282:39(1979);Kingsmanら、Gene,7:141(1979))。trp1遺伝子は、トリプトファンにおいて増殖する能力を欠く酵母の変異株(例えば、ATCC番号44076またはPEP4−1)の選択マーカーを与える(Jones,Genetics,85:12(1977))。次いで、酵母宿主細胞ゲノムにおけるtrp1損傷の存在は、トリプトファンの非存在下での増殖による形質転換を検出するための効果的な環境を与える。同様に、Leu2−欠損酵母株(ATCC20,622または38,626)は、Leu2遺伝子を保有する公知のプラスミドによって補われる。
【0076】
本発明はまた、上記の発現ベクターを含む組み換え宿主細胞を提供する。本発明の抗体は、ハイブリドーマ以外の細胞株において発現されてもよい。本発明に従うポリペプチドをコードする配列を含む核酸を、適切な哺乳動物宿主細胞の形質転換のために使用することができる。
【0077】
特に好ましい細胞株は、高レベルの発現、目的のタンパク質の構成的発現、および宿主タンパク質由来の雑菌混入の最小化に基づいて選択される。発現のための宿主として利用可能な哺乳動物細胞株は、当該分野において周知であり、多くの不死化細胞株、例えば、非限定的であるが、COS−7細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞およびリンパ系起源(例えば、リンパ腫、骨髄腫)の細胞株またはハイブリドーマ細胞を含む多くの他のものが挙げられる。適切なさらなる真核細胞としては、酵母および他の菌類が挙げられる。有用な原核細胞宿主としては、例えば、E.coli(例えば、E.coli SG−936、E.coli HB101、E.coli W3110、E.coli X1776、E.coli X2282、E.coli DHI、およびE.coli MRCl)、Pseudomonas、Bacillus(例えば、Bacillus subtilis)、およびStreptomycesが挙げられる。
【0078】
組み換え宿主細胞を、抗体または抗体フラグメントの発現を可能にし、宿主細胞または宿主細胞周囲の培地から抗体または抗体フラグメントを精製する条件の下で細胞を培養することによって、抗体またはそのフラグメントを生成するために用いることができる。組み換え宿主細胞で分泌させるために行う、発現させた抗体またはフラグメントの標的化は、目的の抗体コード遺伝子の5’末端にシグナルまたは分泌リーダーペプチドコード配列を挿入することによって促進できる(Shokriら、Appl Microbiol Biotechnol.60:654−64(2003)Nielsenら、Prot.Eng.10:1−6(1997)およびvon Heinjeら、Nucl.Acids Res.14:4683−90(1986)を参照のこと)。これらの分泌リーダーペプチド要素は、原核細胞または真核細胞配列のいずれに由来してもよい。従って、抗体鎖のN末端に連結されるアミノ酸である適切な分泌リーダーペプチドは、宿主細胞サイトゾルから抗体鎖を直接培地に分泌させるのに使用される。
【0079】
形質転換宿主細胞は、同化できる炭素源(グルコースまたはラクトースのような炭水化物)、窒素源(アミノ酸、ペプチド、タンパク質またはそれらの分解産物(例えば、ペプトン)、アンモニウム塩など)、および無機塩源(ナトリウム、カリウム、マグネシウムおよびカルシウムの硫酸塩、リン酸塩および/または炭酸塩)を含む液体培地において、当該分野に公知の方法によって培養される。さらに、培地は、例えば、微量元素(例えば、鉄、亜鉛、マンガンなど)のような増殖促進物質を含む。
【0080】
本発明の抗体を調製するための別の方法は、トランスジェニック動物において抗体をコードする核酸を発現させることである。有用なトランスジェニック動物としては、マウス、ヤギおよびウサギが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の一実施形態において、抗体をコードする遺伝子は、動物の乳腺において発現され、抗体は、泌乳の間に母乳に産生される。
【0081】
本発明による高親和性の抗IGF−IR抗体は、ヒト可変領域を表示するファージディスプレイライブラリーから単離してもよい。一実施形態において、可変領域は、一本鎖Fvs(scFvs)として表示される。別の実施形態において、可変領域は、Fabsとして表示される。完全な可変領域をコードする生産的に再構成された遺伝子は、末梢血リンパ球から得てもよい。あるいは、可変領域は、部分的または完全に合成されてもよい。一実施形態において、ヒトV遺伝子セグメントは、合成DおよびJセグメントと結合される。別の実施形態において、異なる起源由来のヒトCDRおよびFWは、組み換えられる。例えば、CDRは、ヒト配列から増幅され、コンセンサスヒトFWに組み換えられてもよい。
【0082】
単一領域抗体は、天然に存在する抗体またはハイブリドーマからVまたはV領域を選択することによって得てもよいし、V領域のライブラリーまたはV領域のライブラリーから選択してもよい。単一領域抗体の結合の主要な決定基であるアミノ酸残基は、Kabatによって規定されるCDR内にあってもよいが、他の残基、例えば、V−Vヘテロ二量体のV−V接合部分に本来埋められている残基を含んでもよいことは、理解されている。
【0083】
以下の実施例において、3ラウンドの選択後に回収されたFabクローンの90%以上が、IGF−IRに特異的であった。スクリーニングされたFabのIGF−IRへの結合親和性は、nM範囲内であり、これは、ハイブリドーマ技術を用いて生成された多くの二価の抗IGF−IRモノクローナル抗体と同じくらい高い。
【0084】
本発明の抗体はまた、定方向突然変異、親和性成熟法、または鎖シャフリングによって結合特性が改良されているものも含む。例えば、親和性および特異性は、CDRを変異させ、所望の特性を有する抗原結合部位をスクリーニングすることによって修飾または改良してもよい(例えば、Yangら、J.Mol.Biol.,254:392−403(1995)を参照のこと)。CDRは、種々の方法で変異させる。1つの方法は、個々の残基または残基の組み合わせをランダム化することであり、それによって、本来同一の抗原結合部位の集団において、全ての20アミノ酸が特定の位置に見出される。あるいは、変異は、エラープロンPCR法によって、様々なCDR残基にわたって誘発される(例えば、Hawkinsら、J.Mol.Biol.,226:889−896(1992)を参照のこと)。例えば、重鎖および軽鎖可変領域遺伝子を含むファージディスプレイベクターは、E.coliの変異株において増殖されてもよい(例えば、Lowら、J.Mol.Biol.,250:359−368(1996)を参照のこと)。これらの突然変異誘発方法は、当業者に公知の多くの方法の例証例である。
【0085】
本発明のIGF−IR結合抗体を同定するために使用されるタンパク質は、好ましくはIGF−IRであり、より好ましくはIGF−IRの細胞外領域である。IGF−IR細胞外領域は、遊離しているか、または別の分子に結合していてもよい。
【0086】
IGF−IR特異的抗体の他の例としては、ヒト抗体CP−751871由来のXenoMouse(登録商標)(Cohen,B.ら、2005,Clin.Cancer Res.11:2063−73)、ヒト化抗体EM164(Maloney,E.K.ら、2003,Cancer Res.63:5073−83)、ヒト化抗体h7C10(Goetsch,L.ら、2005,Int.J.Cancer 113:316−28)、AMG−479(Amgen)およびscFv−Fc−IGF−IR(Sachdev,D.ら、2003,Cancer Res.,63:627−35)が挙げられる。
【0087】
本発明の抗体は、さらなるアミノ酸残基と融合してもよい。そのようなアミノ酸残基は、おそらく単離を容易にするためにペプチドタグであってもよい。
【0088】
他の実施形態において、IGF−IRのリガンドに結合するIGF−IR拮抗薬が使用されてもよい。そのような拮抗薬の例としては、IGF−IまたはIGF−IIに結合する抗体、およびそれらのリガンドに結合する可溶性IGF−IRフラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
IGF−IR媒介性シグナル伝達を遮断するための別の手段は、IGF−IRの低分子阻害剤を介することである。低分子とは、小さい有機化合物、例えば、複素環、ペプチド、サッカライド、ステロイドなどをいう。低分子モジュレータは、好ましくは約2000ダルトン未満、好ましくは約1000ダルトン未満、およびより好ましくは約500ダルトン未満の分子量を有する。この化合物は、効力、安定性、薬学的適合性などを高めるために修飾されてもよい。低分子阻害剤としては、受容体チロシンキナーゼのATP結合領域、基質結合領域、またはキナーゼ領域を遮断する低分子が挙げられるが、それらに限定されない。受容体チロシンキナーゼに加えて、低分子は、IGF−IRシグナル伝達経路の他の成分の阻害剤であってもよい。別の実施形態において、低分子阻害剤は、IGF−IRのリガンド結合領域に結合して、IGF−IRリガンドによる受容体活性化を遮断する。
【0090】
低分子ライブラリーは、ハイスループット生化学、酵素、または細胞ベースのアッセイを用いて阻害活性についてスクリーニングしてもよい。このアッセイは、IGF−IRリガンドまたは基質IRS−1へのIGF−IRの結合を阻害するか、またはIGF−IR二量体からの機能的受容体の形成を阻害する試験化合物の能力を検出するように策定されてもよい。IGF−IRの低分子拮抗薬としては、例えば、インスリン様成長因子−I受容体選択的キナーゼ阻害剤NVP−AEW541(Garcia−Echeverria,C.ら、2004,Cancer Cell 5:231−9)およびNVP−ADW742(Mitsiades,C.ら、2004,Cancer Cell 5:221−30)、IGF−IRおよびHER2を選択的に阻害すると報告されているINSM−18(Insmed Incorporated)、ならびに基質結合を遮断することによってリン酸化を阻害し、IRリン酸化よりIGF−IRリン酸化の阻害に著しく低いIC50を有するチロシンキナーゼ阻害剤トリホスチン(tryphostin)AG1024およびAG1034(Parrizas,M.ら、1997,Endocrinology 138:1427−33)が挙げられる。シクロリグナン(cyclolignan)誘導体ピクロポドフィリン(picropodophyllin)(PPP)は、IR活性を阻害せずにIGF−IRリン酸化を阻害する別のIGF−IR拮抗薬である(Girnita,A.ら、2004,Cancer Res.64:236−42)。他の低分子IGF−IR拮抗薬としては、IGF−IRおよびIRをほとんど等しい強さで阻害するベンズゾイミダゾール誘導体BMS−536924(Wittman,M.ら、2005,J.Med.Chem.48:5639−43)およびBMS−554417(Haluska P.ら、2006,Cancer Res.66:362−71)が挙げられる。IGF−IRに加えて受容体を阻害する化合物に関して、直接結合アッセイにおいてインビトロで測定されたIC50値は、エキソビボまたはインボビ(すなわち、インタクトな細胞または生物体)で測定されたIC50値を反映しない場合があることは、留意されるべきである。例えば、IRの阻害を回避することが所望される場合、インビトロにおいてIRを阻害する化合物を、IGF−IRを効果的に阻害する濃度でインビボで使用しても、受容体の活性に顕著な効果を与えない場合がある。
【0091】
アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド、アンチセンスRNA、および阻害的低分子RNA(siRNA)は、mRNAの標的化した分解を与え、それによって、タンパク質の翻訳を防止する。従って、受容体チロシンキナーゼおよびIGFシグナル伝達に重要な他のタンパク質の発現は、阻害される。遺伝子発現を抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチドの能力は、25年以上前に発見されている(ZamecnikおよびStephenson,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.75:280−284(1978))。mRNAおよびプレmRNAとのアンチセンスオリゴヌクレオチド塩基対は、スプライシング、ポリアデニル化、輸送、安定性、およびタンパク質翻訳を含む、RNAプロセシングならびにメッセージ翻訳のいくつかの段階を潜在的に阻害することができる(SazaniおよびKole,J.Clin.Invest.112:481−486(2003))。しかしながら、2つの最も強力かつ広範に使用されるアンチセンス戦略は、RNaseHによるmRNAまたはプレmRNAの分解、および異常スプライス部位の標的化によるスプライシングの変更である。RNaseHは、DNA/RNAヘテロ二重鎖を認識し、DNAオリゴヌクレオチドの5’末端と3’末端との間のおおよそ中間でRNAを開裂する。アンチセンスオリゴヌクレオチドによるIGF−IRの阻害は、Wraight,Nat.Biotechnol.18:521−6に例示される。
【0092】
固有のRNA媒介機構は、mRNAの安定性、メッセージ翻訳、およびクロマチン構成を調節することができる(MelloおよびConte Nature.431:338−342(2004))。さらに、外部から導入された長い二本鎖RNA(dsRNA)は、種々の下等生物における遺伝子サイレンシングの効果的なツールである。しかしながら、哺乳動物において、長いdsRNAは、ウイルス感染およびインターフェロン生産の作用に関連する高い毒性反応を引き起こす(Williams Biochem.Soc.Trans.25:509−513.(1997))。これを回避するために、Elbashirおよび共同研究者(Elbashirら、Nature.411:494−498(2001))は、各々の鎖の5’にリン酸および3’に2塩基の突出を有する19量体二重鎖からなるsiRNA(これは、細胞内への導入の際に標的化したmRNAを選択的に分解する)の使用を開始した。
【0093】
哺乳動物におけるdsRNA干渉作用は、通常、2つの酵素段階に関与している。最初に、Dicer、RNase III型酵素が、dsRNAを21−23量体siRNAセグメントに開裂する。次に、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)が、RNA二重鎖をほどき、一本鎖を同族mRNAにおける相補領域と対にし、siRNA鎖の5’末端の10ヌクレオチド上流の部位において開裂を開始する(Hannon Nature.418:244−251(2002))。短く、化学的に合成された19−22量体の範囲のsiRNAは、Dicer段階を必要とせず、RISC機構に直接、入ることができる。RNA二重鎖のいずれかの一本鎖は、RISC複合体上に負荷される可能性があるが、オリゴヌクレオチドの構成が鎖の選択に影響を及ぼし得ることは留意されるべきである。従って、特定のmRNA標的の選択的分解を達成するためには、二重鎖は、その5’末端に比較的弱い塩基対を有することによって、アンチセンス鎖要素を負荷する方をむはずである(Khvorova Cell.115:209−216(2003))。外因性siRNAは、合成されたオリゴヌクレオチドとして与えられてもよいし、プラスミドもしくはウイルス性ベクターから発現されてもよい(PaddisonおよびHannon Curr.Opin.Mol.Ther.5:217−224(2003))。後者の場合において、前駆体分子は、通常、4−8ヌクレオチドのループおよび19−30ヌクレオチドのステムを含む短いヘアピンRNA(shRNA)として発現され;これらは、次いで、Dicerによって開裂されて、機能的siRNAを形成する。
【0094】
IGF−IR媒介性シグナル伝達を阻害するための他の手段としては、受容体に結合するが活性化しないIGF−IまたはIGF−II模倣剤、ならびにIGF−IRレベルまたは活性を減少させる遺伝子またはポリヌクレオチド(例えば、トリプルヘリックス阻害因子、およびドミナントネガティブIGF−IR突然変異体)の発現が挙げられるが、これらに限定されない。
【0095】
本発明によれば、哺乳動物における体重および身体組成の調節は、治療的に有効な量のIGF−IR拮抗薬を投与することによって成される。「治療的に有効な量」とは、体重または身体組成を調節する効果を有するIGF−IR拮抗薬の量をいう。また、治療的に有効な量とは、体重または身体組成の調節に効果的であると示されている標的血清濃度を意味する。IGF−IR拮抗薬の治療的に有効な量の決定は、当業者の技術の範囲内であり、慣用の実験以外は必要としない。
【0096】
当業者は、処置の用量および頻度が、個々の患者の許容範囲ならびに使用されるIGF−IR拮抗薬の薬理学的および薬物動態学的特性に依存することは理解されている。飽和可能な薬物動態を達成するためには、抗IGF−IR抗体の負荷用量は、例えば、約10〜約1000mg/m、好ましくは約200〜約400mg/mの範囲であってよい。この後、例えば、約200〜約400mg/mの範囲の投与を一日または一週間単位でさらに数回与えてもよい(ヒトおよび他の哺乳動物のmg/kgとmg/mの変換に関しては、Freireich,E.J.ら、1996,Cancer Chemother.Rep.50:219−44を参照のこと)。患者は、副作用について監視され、そのような副作用がひどい場合、処置は停止される。所望の結果次第では、飽和速度は所望しなくてもよい。
【0097】
本発明において、任意の適切な方法または経路が、本発明のIGF−IR拮抗薬を投与するのに使用されてもよく、必要に応じて、抗肥満薬物または薬剤との同時投与が使用されてもよい。本発明に従って利用される抗肥満薬剤レジメンは、患者の肥満状態の処置のために最も適すると考えられる任意のレジメンを含む。投与経路としては、例えば、経口、静脈内、腹腔内、皮下または筋肉内投与が挙げられる。投与される拮抗薬の用量は、例えば、拮抗薬の種類、処置される肥満の種類および重症度、ならびに拮抗薬の投与経路を含む、多数の要因に依存する。しかしながら、本発明は、いずれかの特定の方法または投与経路に限定されないことは重視されるべきである。
【0098】
予防または処置の目的のために哺乳動物において使用される場合、本発明のIGF−IR拮抗薬は、薬学的に許容できる担体をさらに含む組成物の形態で投与されると理解されている。適切な薬学的に許容できる担体としては、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、およびそれらの組み合わせのうちの1つ以上が挙げられる。薬学的に許容できる担体は、結合タンパク質の保存期間または有効性を高める少量の補助物質(例えば、湿潤剤または乳化剤、防腐剤または緩衝剤)をさらに含んでもよい。注入組成物は、当該分野において周知であり、哺乳動物への投与後に、活性成分の迅速、持続または遅延放出を与えるように処方されてもよい。
【0099】
本発明によれば、1つ以上のIGF−IR拮抗薬を組み合わせて、および他の抗肥満薬剤もしくは薬物、行動修正または外科的介入と組み合わせて使用してもよい。
【0100】
抗肥満薬物の例としては、脂肪の身体吸収を遮断するオーリスタット(orlistate)(ゼニカル(Xenical))、セチリスタット(cetilistat)(ATL−962)、およびペプティミューン(Peptimmune)のGT389−255のようなリパーゼ阻害剤(すなわち、炭水化物遮断薬または脂肪遮断薬)、代謝を向上させるAOD9604(hGH177−191)、ならびに脂肪組織の消費を誘導するオレオイルエストロン(oleoyl−estrone)(OE)が挙げられる。オーリスタット、セチリスタットおよびGT389−255は、食事脂肪の吸収を阻害することによって作用するリパーゼ阻害剤である。オーリスタットは、胃および膵リパーゼの活性セリン残基部位と共有結合を形成し、それによって、トリグリセリドが、吸収可能な脂肪酸およびモノグリセリドに加水分解するのを防止する。セチリスタットは、オーリスタットと同様に作用するが、GT389−255は、リパーゼ阻害剤と脂肪結合ポリマーとの複合体である。単独またはリパーゼ阻害剤と組み合わせて本発明の遮断IGF−IRを、肥満を減少させるため、および肥満の再発の防止の処置に使用することができる。併用治療に使用できる抗脂肪薬物の別のクラスは、シブトラミン(Meridia)のような食欲を抑制する薬物である。シブトラミンは、ノルエピネフリン、セロトニン、および程度は小さいが、満腹を生じさせてカロリー摂取を減少させる脳内のドーパミンと呼ばれる特定の化学物質の活性を増加させることによって作用すると考えられる。食欲を抑制する際にシブトラミンと同様に作用する他の薬物は、リモナバント(rimonabant)(Acomplia)、APD356、プラムリンチド(Pramlintide)/AC137(Symlin)、PYY3−36、AC162352、オキシントモジュリンおよびTM30338がある。本発明の別の実施形態は、IGF−IR軸の遮断と一緒に使用される併用治療であり、ヒト生理学において満腹および空腹を制御するのに役立つホルモンであるレプチンおよび/またはグレリンの操作に関する。抗グレリンワクチンを、身体におけるグレリンの生理的レベルを操作するのに使用できる。メトホルミン(グルコファージ)は、肥満への効果を有する別の薬物である。メトホルミンを、II型糖尿病の処置の際に、血糖(糖)レベルを調節するために使用することができる。これを、ヒトの胃を通して食物から吸収されたグルコースの量を減少させることによって、肥満を処置するために使用することができる。リパーゼ阻害剤および食欲抑制剤に加えて、多くのアンフェタミン製品が、肥満の処置のためにFDAに認可されており、従って、肥満を処置するために併用治療に使用することができる。そのリストとしては、フェンテルミン、フェンジメトラジン、メタンフェタミン、ベンズフェタミン、およびジエチルプロピオンが挙げられ、フェンテルミンが最も一般的に処方されている(Stafford R.S.,Radley,D.C.Arch Intern.Med 163:1046−50(2003))。特定の実施形態において、他の薬物と共に、または他の薬物を用いないIGF−IR拮抗薬は、食生活の改善(例えば、低カロリー)、運動および/または行動修正を含む、肥満の総合的な治療の一部である。他の実施形態において、IGF−IR拮抗薬は、外科的介入を含む処置の一部である。外科的介入の例としては、内臓脂肪の除去が挙げられ、IGF−IR拮抗薬を、病的肥満の処置のための肥満手術(例えば、胃バイパス、胃緊縛術、および垂直胃切除を含む)と組み合わせることもできる。
【0101】
併用治療において、IGF−IR拮抗薬は、別の薬剤と共に治療開始前、治療開始中または治療開始後、およびその任意の組み合わせ、すなわち、抗肥満剤治療の開始前と開始中、開始前と開始後、開始中と開始後、または開始前、開始中と開始後に投与される。例えば、IGF−IR拮抗薬は、抗肥満薬の投与開始前の1〜30日の間、好ましくは3〜20日の間、より好ましくは5〜12日の間に投与されてもよい。本発明の好ましい実施形態において、抗肥満剤は、抗体治療と共に、またはより好ましくは抗体治療の後に投与される。
【0102】
本発明はまた、治療的に有効な量のIGF−IR拮抗薬を含む、肥満を処置または改善するためのキットを含む。このキットはさらに、IGF−IR拮抗薬と同時投与するための任意の適切な抗肥満剤を含んでもよい。
【0103】
本発明のIGF−IR拮抗薬は、当該分野において周知の調査または診断法のためにインビボおよびインビトロにおいて使用することができる。この診断法は、本発明のIGF−IR拮抗薬を含むキットを含む。
【0104】
もちろん、本明細書に開示される本発明の原理のバリエーションが、当業者によって成し得ることは理解および予想されており、そのような改変が、本発明の範囲内に含まれることは、意図されている。
【0105】
以下の実施例はさらに本発明を例示するが、決して本発明の範囲を制限すると解釈されるべきではない。ベクターおよびプラスミドの構築、そのようなベクターおよびプラスミド内へのポリペプチドをコードする遺伝子の挿入、宿主細胞内へのプラスミドの導入、その遺伝子および遺伝子産物の発現および測定、ならびに免疫学的技術において使用されるような従来の方法の詳細な説明を、Sambrook,J.ら、(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版,Cold Spring Harbor Laboratory Press;およびColigan,Jら、(1994)Current Protocols in Immunology,Wiley & Sons,Incorporatedを含む、多数の刊行物から得ることができる。本明細書中に記載される全ての参考文献は、その全体を参照によって援用する。
【実施例】
【0106】
(実施例1 抗ヒトIGF−IRモノクローナル抗体の選択および操作)
【0107】
ヒトIGF−I受容体に対する高親和性抗体を単離するために、ヒトIGF−IRの組み換え細胞外部分(ジェンバンク受託番号NP_000866;Ullrich,A.ら、1986,EMBO J.5:2503−12を参照のこと)を、3.7×1010の固有のクローンを含むヒトの実験に使われていない(免疫化されていない)バクテリオファージFabライブラリー(de Haardら、J.Biol.Chem.274:18218−30(1999))をスクリーニングするために使用した。可溶性IGF−IR(50μg/ml)をチューブにコーティングして、37℃で1時間、3%ミルク/PBSで遮断した。ファージを、対数期培養までライブラリーストックを増殖させ、M13K07ヘルパーファージで救出し、アンピシリンおよびカナマイシン選択を含む2YTAK培地において30℃で一晩増幅させることによって調製した。得たファージ調製物を、4%PEG/0.5M NaClで沈殿させて、3%ミルク/PBSに再懸濁した。次いで、固定した受容体を、室温で1時間、ファージ調製物と共にインキュベートした。その後、チューブをPBST(0.1%Tween−20を含むPBS)で10回洗浄した後、PBSで10回洗浄した。結合したファージを、室温で10分間、100mMトリエチルアミンの1mlの新たに調製した溶液で溶出した。溶出したファージを、37℃で30分間静置し、30分間撹拌しながら10mlの対数期中ごろのTG1細胞と共にインキュベートした。感染させたTG1細胞をペレットにし、数枚のラージ2YTAGプレート上にプレーティングし、30℃で一晩インキュベートした。プレート上で増殖させた全てのコロニーを、3〜5mlの2YTA培地に収集し、グリセロール(最終濃度:10%)と混合し、アリコートし、−70℃で保存した。2回目のラウンド選択のために、100μlのファージストックを、25mlの2YTAG培地に加え、対数期中ごろまで増殖させた。培養物を、M13K07ヘルパーファージで救出し、増幅させ、沈殿させ、上記の手順だが、チューブに固定したIGF−IRの濃度を減らして(5μg/ml)、結合プロセス後の洗浄の回数を増やした後に、選択のために使用した。合計で2ラウンドの選択を実施した。
【0108】
個々のTG1クローンを選び、96ウェルプレートにおいて37℃で増殖させ、上記のようにM13K07ヘルパーファージで救出した。増幅させたファージ調製物を、室温で1時間、18%ミルク/PBSの1/6容量で遮断し、IGF−IR(1μg/ml×100μl)でコーティングしたマキシソルブ(Maxi−sorb)96ウェルマイクロタイタープレート(Nunc)に加えた。室温で1時間のインキュベーション後、プレートをPBSTで3回洗浄し、マウス抗M13ファージHRP結合体(Amersham Pharmacia Biotech、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)と共にインキュベートした。プレートを5回洗浄し、TMBペルオキシダーゼ基質(KPL、ゲーサーズバーグ、メリーランド州)を加え、マイクロプレートリーダー(Molecular Device、サニーベール、カリフォルニア州)を用いて450nmで吸光度を読み取った。2ラウンドの選択から、80%の独立クローンが、IGF−IRへの結合に陽性だった。
【0109】
2回目のラウンドの選択後、抗IGF−IR Fabクローンの多様性を、制限酵素消化パターン(すなわち、DNAフィンガープリント)によって分析した。個々のクローンのFab遺伝子挿入を、プライマー:PUC19リバース(5’−AGCGGATAACAATTTCACACAGG−3’;配列番号31)およびファージベクター内の固有のFab遺伝子領域に隣接する配列に特異的なfdtet seq(5’−GTCGTCTTTCCAGACGTTAGT−3’;配列番号32)を用いてPCR増幅した。各々の増幅した生成物を、頻繁切断酵素、BstN Iで消化して、3%アガロースゲル上で分析した。合計で25の別個のパターンを同定した。各々の消化パターンから得た代表的なクローンのDNA配列を、ジデオキシヌクレオチド塩基配列決定法によって決定した。
【0110】
IGF−IRに対して陽性の結合を示す個々のクローン由来のプラスミドおよび固有のDNAプロファイルを、ノンサプレッサーE.coli宿主HB2151を形質転換するために使用した。HB2151におけるFabフラグメントの発現を、30℃で、1mMイソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(IPTG,Sigma)を含む2YTA培地において細胞を培養することによって誘導した。細胞の周辺質の抽出物を、20%(w/v)スクロース、200mM NaCl、1mM EDTAおよび0.1mM PMSFを含む25mM Tris(pH7.5)に細胞ペレットを再懸濁することによって調製し、その後、4℃で1時間、緩やかに撹拌しながら、インキュベートした。15分間、15,000rpmで遠心分離した後、可溶性Fabタンパク質を、製造者の指示書(Amersham Pharmacia Biotech)に従って、プロテインGカラムを用いてアフィニティクロマトグラフィーによって上清から精製した。
【0111】
候補の結合Fabクローンを、96ストリップウェルプレート上にコーティングした固定IGF−IR(100ng/ウェル)に対する放射線標識ヒトIGF−Iリガンドの競合的遮断を対象にスクリーニングした。Fab調製物を希釈して、PBS/0.1%BSA中で室温で0.5〜1時間、IGF−IRプレートと共にインキュベートした。次いで、40pMの125I−IGF−Iを加え、プレートをさらに90分、インキュベートした。次いで、ウェルを氷冷のPBS/0.1%BSAで3回、洗浄し、乾燥し、次に、ガンマシンチレーションカウンターでカウントした。シングルポイントアッセイにおいて、コントロールの放射性標識したリガンド結合を30%超阻害した候補を選択して、インビトロで遮断力価を測定した。4つのクローンを同定した。これらのうちのFabクローン2F8だけが、約200nMのIC50を有し、50%超でリガンド結合を阻害することを示し、これを、完全長のIgG1型に変換するために選択した。2F8についての重鎖可変領域ヌクレオチドおよび翻訳されたアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号1および配列番号2と規定した。完全長のIgG1として操作された2F8重鎖のヌクレオチドおよび翻訳されたアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号3および配列番号4と規定した。Fab 2F8は、ラムダ軽鎖定常領域を保有する。2F8軽鎖可変領域のヌクレオチドおよび翻訳されたアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号5および配列番号6と規定した。完全長のラムダ軽鎖の配列を、それぞれ、配列番号7および配列番号8と規定した。結合動態学分析を、BIAコアユニットを用いて2F8 IgGで実施した。この抗体は、0.5〜1nM(0.5〜1×10−9M)の親和性でIGF−IRに結合すると測定された。
【0112】
この抗体の親和性を改良するために、2世代のFabファージライブラリーを生成し、2F8の重鎖を保存し、軽鎖を、固有種の10より高い多様性に変化させた。この方法は、軽鎖シャフリングと呼ばれ、所定の標的抗原用の親和性成熟選択抗体に成功裏に使用されている(Chamesら、J.Immunol.169:1110−18(2002))。次いで、このライブラリーを、上記の手順後に、ヒトIGF−IR(10μg/ml)への結合についてスクリーニングし、パニングプロセスを、高親和性結合Fabの濃縮のためにIGF−IRの濃度を減少させて(2μg/ml)、さらに3ラウンド繰り返した。4ラウンド後に7つのクローンを分析した。7つ全てが、同じDNA配列および制限消化プロファイルを含んでいた。単一の単離したFabはA12と指定され、ラムダ軽鎖定常領域を保有することを示した。2F8軽鎖可変領域のヌクレオチドおよび翻訳されたアミノ酸配列を、それぞれ、配列番号9および配列番号10と規定した。完全長のラムダ軽鎖の配列を、それぞれ、配列番号11および配列番号12と規定した。2F8およびA12の軽鎖可変領域のアミノ酸配列を比較すると、11のアミノ酸の相違が明らかになった。この相違のうちの9つはCDR内であり、大多数(6アミノ酸残基)はCDR3内で生じた。
【0113】
ヒトIGF−IRへの2つの抗体(完全なIgG)の親和性と、それらのリガンド遮断活性との比較を表3に示す。結合活性を、ヒトIGF−IRベースのELISAによって測定した(図1A)。親和性を、製造者の仕様書(Pharmacia BIACORE 3000)に従って、BIAコア分析によって測定した。可溶性IGF−IRを、センサーチップに固定して、抗体結合動態を測定した。
【0114】
【表3】

【0115】
A12はまた、固定IGF−IRへの放射性標識IGF−Iリガンドの結合を遮断した(図1B)。このアッセイにおいて、A12は、約1nM(0.15μg/ml)のIC50を有する冷IGF−Iと同様の遮断活性を有し、2F8またはIGF−II(IC50=6nM)より高いリガンド遮断活性であった。
【0116】
(実施例2 Fabクローン由来の完全なヒトIgG1抗IGF−IR抗体の操作および発現)
【0117】
Fab 2F8およびA12の重鎖および軽鎖遺伝子をコードするDNA配列を、製造者の指示書に従って、Boerhinger Mannheim Expandキットを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅させた。フォワードおよびリバースプライマーは、哺乳動物の発現ベクターにクローニングするための制限エンドヌクレアーゼ部位の配列を含んでいた。重鎖の受容ベクターは、強力な真核生物プロモーターおよび3’ポリアデニル化配列に隣接する完全なヒトガンマ1定常領域cDNA配列を含んでいた。2F8またはA12の完全長のラムダ軽鎖配列を、哺乳動物細胞における発現のための真核生物調節要素のみを保有する二次ベクターに各々クローニングした。選択可能なマーカーも、哺乳動物細胞内へのプラスミドのトランスフェクション後安定なDNA組み込み体の選択を行うため、このベクターに存在した。フォワードプライマーも、発現した抗体の適切な分泌のために、強力な哺乳動物のシグナルペプチド配列をコードする配列を用いて操作した。適切にクローニングした免疫グロブリン遺伝子配列の同定後、DNAの塩基配列を決定し、一過性トランスフェクションにおける発現を試験した。一過性トランスフェクションを、製造者の仕様書に従って、リポフェクションを用いてCOS7霊長類細胞株で実施した。トランスフェクション後、24または48時間で、完全なIgG抗体の発現を、抗ヒトFc結合ELISAによって調整培養物の上清において検出した。ELISAプレート(96ウェル)を、100ng/ウェルのヤギ抗ヒトFc特異的ポリクローナル抗体(Sigma)でコーティングすることによって調製し、4℃で一晩、5%ミルク/PBSで遮断した。次いで、このプレートを、PBSで5回洗浄した。調整上清をウェルに加え、室温で1.5時間、インキュベートした。結合した抗体を、ヤギ抗ヒトラムダ軽鎖HRP抗体(Sigma)で検出して、TMB試薬および上記のマイクロプレートリーダーで視覚化した。抗IGF−IR抗体のラージスケール調製を、COS細胞内へのラージスケール一過性トランスフェクション、リポフェクション法のスケールアップ、または適切な宿主細胞(例えば、マウス骨髄腫細胞株(NS0,Sp2/0)またはチャイニーズハムスター卵巣細胞株(CHO))内への安定なトランスフェクションのいずれかによって達成した。抗IGF−IR抗体をコードするプラスミドを、エレクトロポレーションによって宿主細胞内にトランスフェクトし、約2週間、適切な薬物選択培地で選択した。安定に選択したコロニーを、抗Fc ELISAによって抗体発現についてスクリーニングし、陽性クローンを、無血清細胞培地中に増幅させた。安定にトランスフェクトされた細胞からの抗体産生を、2週間までの期間、スピナーフラスコまたはバイオリアクター中の懸濁培養で実施した。一過性または安定なトランスフェクションのいずれかによって生成した抗体を、ProAアフィニティクロマトグラフィー(HarlowおよびLane.Antibodies.A Laboratory Manual.Cold Spring Harbor Press.1988)によって精製し、中性の緩衝生理食塩水中に溶出し、定量した。
【0118】
(実施例3 抗IGF−IRモノクローナル抗体のリガンド遮断活性)
【0119】
抗IGF−IR抗体を、ヒト腫瘍細胞の天然IGF−IRへの放射性標識リガンド結合の遮断について試験した(図1C)。アッセイ条件は、少しの修正を加えて、ArteagaおよびOsborne(Cancer Res.49:6237−41(1989))に従って、実施した。MCF7ヒト乳癌細胞を、24ウェルディッシュに播種し、一晩、培養した。サブコンフルエント(sub−confluent)な単層を、結合緩衝液(イスコフ培地(Iscove’s Medium)/0.1%BSA)で2〜3回洗浄し、結合緩衝液に抗体を加えた。室温で、抗体と一緒に短時間インキュベートした後、40pM125I−IGF−I(約40,000cpm/ウェル)を各ウェルに加え、さらに1時間、緩やかに撹拌しながらインキュベートした。次いで、ウェルを、氷冷PBS/0.1%BSAで3回洗浄した。次いで、単層を、200μlの0.5N NaOHで溶解し、ガンマカウンターでカウントした。ヒト腫瘍細胞において、抗体A12は、3nM(0.45μg/ml)のIC50でIGF−IRへのリガンド結合を阻害した。これは、冷IGF−Iリガンド(IC50=1nM)の阻害活性よりわずかに低かったが、冷IGF−II(IC50=9nM)の阻害活性よりも良かった。2つのIGFリガンドについて観察された相違は、IGF−IRへのIGF−IIの結合反応速度がリガンドIGF−Iより遅いからのようだ(Janssonら、J.Biol.Chem.272:8189−97(1997))。抗体2F8についてのIC50は、30nM(4.5μg/ml)と測定された。抗体A12はまた、乳房、膵臓、および結腸直腸組織由来の種々の他のヒト腫瘍細胞株において、内因性細胞IGF−IRへの結合、および内因性細胞IGF−IRへのリガンド結合の阻害において有効であることを示した(表4)。
【0120】
【表4】

【0121】
(実施例4 IGF−I誘導性受容体リン酸化および下流のシグナル伝達の抗体媒介性阻害)
【0122】
IGF−Iシグナル伝達における抗IGF−IR抗体の阻害効果を視覚化するために、受容体自己リン酸化および下流のエフェクター分子リン酸化分析を、抗体A12または2F8の存在下または非存在下において実施した。MCF7ヒト乳癌細胞株の使用を、その高IGF−IR濃度の故に選択した。細胞を、10cmまたは6ウェルの培養ディッシュにプレーティングし、70〜80%コンフルエンスまで増殖させた。次いで、単層をPBS中で2回洗浄し、無血清の規定培地において一晩、培養した。次いで、抗IGF−IR抗体を、新鮮な無血清培地(100nM〜10nM)に加え、リガンド(10nM)の添加前に30分間、細胞と共にインキュベートした。細胞を10分間、リガンドと共にインキュベートし、次いで、氷浴に入れ、氷冷PBSで洗浄した。細胞を、溶菌液(50mM Tris−HCl、pH7.4、150mM NaCl、1%TritonX−100、1mM EDTA、1mM PMSF、0.5mM NaVO、1μg/mlロイペプチン、1μg/mlペプスタチンおよび1μg/mlアプロチニン)の添加によって溶解し、この細胞を遠心分離管に収集し、氷浴に15分間、維持した。次いで、溶解物を、4℃で遠心分離によって浄化した。次いで、可溶化IGF−IRを、溶解物から免疫沈降(IP)させた。4μg/mlでA12を、4℃で一晩、400μlの溶解物と共にインキュベートした。次いで、免疫複合体を、4℃で2時間、プロテインAアガロースビーズを添加することによって沈殿させ、ペレットにし、溶菌緩衝液で3回洗浄した。プロテインAビーズに結合したIPを、変性ゲルランニング緩衝液中に剥がした。溶解物またはIPを、変性ゲル電気泳動で処理して、4〜12%アクリルアミドゲル上で流し、Towbinら(Biotechnology 24:145−9(1992))に従って、ウェスタンブロットによってナイロンまたはニトロセルロース膜にブロットした。チロシンリン酸化受容体タンパク質を、抗pチロシン抗体(Cell Signaling #9411)および抗マウスHRP二次抗体を用いて検出した。IGF−IR−βを、モノクローナル抗体C−20(Santa Cruz Biotech.)で検出した。リン酸−Aktおよび全Aktを検出するための抗体は、Pharmingen(BD Biosciences:カタログ番号#559029、#559028)から得た。MAPKリン酸化に関して、リン酸−p44/42および全p44/42を、Cell Signaling Technology(ベバリー、マサチューセッツ州;カタログ番号#9101と#9102)から提供される抗体で検出した。リン酸−IRS−1および全IRS−1を、それぞれ、Cell Signalingから提供される#2381および2382で検出した。バンドを、X線フィルム上にECL試薬で視覚化した。
【0123】
図2Aに示すように、MCF7細胞におけるIGF−IRの自己リン酸化を、血清枯渇後に停止させた。2F8またはA12単独のいずれかの添加は、受容体リン酸化を誘導せず、検出可能なアゴニスト活性の欠失を示した。10nMのIGF−Iの添加の際に、IGF−IRリン酸化は、強力に誘導された。抗体2F8は、IGF−IRリン酸化を約50%減少させたのに対して、高親和性抗体A12は、ほとんど完全にリン酸化を遮断した。
【0124】
A12は、IGF−IまたはIGF−IIによるシグナル伝達を遮断する。ウェスタンブロットを、A12前処理の存在下または非存在下においてリガンドで処理した細胞で実施した。図2Bに示すように、IGF−IおよびIGF−IIの両方に反応して、リン酸化した下流のエフェクター分子IRS−1、Akt、およびMAPKのレベルが、A12で前処理した細胞において著しく減少した。エフェクター分子阻害の程度は、両方のリガンドで同様であり、A12が、IGF−IRに対する両方のリガンドのシグナル伝達を遮断するのに等しく有能であることを示唆している。
【0125】
(実施例5 A12は、IGF−IRの選択的拮抗薬であり、インスリン受容体を遮断しない)
【0126】
IGF−IRは、インスリン受容体(IR)とかなりの構造的相同性を共有する。IGF−IRへのA12の選択性を示すために、抗体を、ヒトIR結合および遮断アッセイで試験した。A12を、1μMの濃度から固定したIR上で滴定した。市販の抗ヒトIR抗体を、IRへの結合のためのポジティブコントロールとして使用した。少なくとも1μMまでの濃度で、IRに結合したA12は検出されなかった(図3A)。ヒトIGF−IRへのA12の結合のED50は0.3nMであり、IRと比較して、3,000倍より高いIGF−IRへのA12の選択性を示した。従って、A12は、100nMの抗体濃度でさえ、IRへのインスリンの結合を遮断しなかった(図3B)。このアッセイにおいて、冷インスリンは、約0.5nMのIC50で効果的に競合したが、市販の抗IR遮断抗体、47−9は、適度な活性(50%の最大阻害)を示し、冷IGF−Iが、高濃度でのみ競合した。
【0127】
(実施例6 A12は、ヒトおよびマウスIGF−IRを認識する)
【0128】
マウスに対する種交差反応を試験するために、組み換えマウスIGF−IR(mIGF−IR)を発現させ、結合アッセイを実施した。この実験により、A12は、0.3〜0.5nMのED50でELISAにおいて固定した組み換えmIGF−IRを認識し、結合することが示された(図4)。比較のために、ヒトIGF−IR結合ELISAを、このサンプルA12で繰り返し、0.3〜0.5nMのED50を得た。これは以前の結果(図1A)と一致した。これらの結果により、A12は、mIGF−IRと完全に交差反応し、ヒトIGF−IRと同様の動態で結合することが示唆された。従って、A12は、患者のIGF−IRの遮断効果のモデル化にあたり、マウスで使用することができる。
【0129】
(実施例7 A12は、マウスの体重に効果を発揮する)
【0130】
雌のBalb/cマウス(Charles River Laboratories)および雌のob/ob肥満マウス(Jackson Laboratories、バーハーバー、メイン州)を、少なくとも1週間、動物施設に順化させた。通常、約18gで体重が安定するBalb/cマウスを、約14.5gでA12を用いて処置を開始した(図5A)。マウスを、TRIS緩衝生理食塩水(TBS)、ヒトIgG(Equitech Bio Inc.)、またはA12(ImClone Systems Inc.)のいずれかで腹腔内処置した。抗体をTBSで希釈し、最初の処置として140mg/kgの負荷容量を与えるか、または与えずに、40mg/kgで月−水−金に投与した。体重を、週に1度、1〜2回測定した。コントロールマウスを普通に発育させると、50日間で約18gまで体重が増加した。A12処置の45日間、試験マウスは、体重を減らさずに約15gの体重のままであった。次いで、処置を停止し、A12処置したマウスを、それらの通常の年齢に関連した体重まで回復させた。
【0131】
別の実験において、Balb/c雌のマウスを、処置前に18gの体重まで成熟させた。この研究において、コントロールマウスは、約20gまで体重を増加させ続けた(図5B)。A12は再び、体重減少させずに、この体重増加を防止した。処置の42日後に処置を停止したとき、A12処置したマウスは、それらの通常の年齢に関連した体重まで回復させた。
【0132】
肥満個体における体重減少後の望ましくない体重増加もまた、A12での処置によって減少した。順化させたob/ob肥満マウス(レプチン欠損肥満モデル;Pelleymounter,M.Aら、Science 269:540−543(1995)を参照のこと)に、最初に、8日間毎日、食物(Lab Diet#5001,W.F.Fisher and Son,Inc.)の量を制限した餌を与え(図6)、次に、不断給餌に戻した。不断給餌に戻す約5時間前に、マウスに、火曜日および金曜日に、30mg/kgで、USP生理食塩水(Braun)で希釈したヒトIgG(Equitech Bio Inc.)またはA12のいずれかで腹腔内処置を開始した。体重を、週に1〜2回測定し、測定間のケージ上の重量差を測定日数によって割って、一日の食物摂取をob/obマウスで推量した(図6)。
【0133】
最初の食餌制限により、約18%の体重減少が生じた。ヒトIgGコントロールは、それらの通常の年齢に関連した体重まで回復した。対照的に、A12は、食餌制限後に達成した体重と比較して、体重を減少させずに、この体重増加を防止した(図7)。さらに、体重へのA12の有益な効果は、処置を停止した後、少なくとも55日間依然として存在した。
【0134】
本発明の実施形態において、IGF−IR拮抗薬は、単独治療で使用した場合、体重減少または肥満減少を促進する。別の実施形態において、IGF−IR拮抗薬は、脂肪遮断剤と組み合わせた場合、体重減少または肥満減少を促進する。肥満減少を促進するとは、有効量の抗体、または有効量の抗体と脂肪遮断剤との組み合わせの投与が、肥満減少を生じることを意味する。本発明の好ましい実施形態において、肥満減少は、少なくとも約20日間、より好ましくは少なくとも約40日間、より好ましくは少なくとも約60日間、観察され、継続する。肥満減少を、特定の処置レジメンを受けた被験体の群全体の平均として測定してもよいし、肥満が減少した処置群における被験体の数によって測定してもよい。
【0135】
(実施例8 マウスの体重増加へのA12効果の用量反応効果)
【0136】
この実験は、i)食餌制限後のob/obマウスの体重増加を最小化させ、ii)不断給餌のob/obマウスにおける体重減少に作用するA12の能力を試験した。
【0137】
雌のob/obマウス(n=47)を、順応化の期間に約45gまで到達させた。少なくとも1週間にわたる毎日の測定に基づいて、マウスの体重が安定したとき、食物を36匹のマウスのケージの上部から除去した。これらの食餌制限したマウスに、13日間、1日約0.1〜0.2gの食物を与えた。残っているマウスを不断給餌にさせ、食餌制限していないとみなした。
【0138】
食餌制限したマウスが、最初の体重と比較して、平均約22%の体重減少に到達したとき、次いで、これらのマウスを、4つの処置群:1)ヒトIgG、30mg/kg、腹腔内;2)A12、3mg/kg、腹腔内;3)A12、10mg/kg、腹腔内;および4)A12、30mg/kg、腹腔内、に体重によってランダム化した。それらが最初の処置を受けてから3時間後、動物に食物を自由に与えた。用量を、53日間、1週間に2回、腹腔内投与した。
【0139】
食餌制限していないマウスもまた、処置群に体重によってランダム化し、この群からの5匹のマウスを他の食餌制限した群と同時に、30mg/kgのA12を用いて腹腔内処置した。残っている食餌制限していないマウスは、未処置のままにした。体重を、この研究期間を通して、1週間に2回、監視した。体重のプロットにより再び、A12は、ヒトIgG処置したマウスにおいて観察された食餌制限前の体重に戻るのを防止することが、示された(図8)。食餌制限したA12処置マウスは、体重を減少しなかったが、食餌制限していないA12処置肥満マウスは、A12処置の約30日後に体重を減少し始めた。従って、IGF−IRシグナル伝達の阻害は、体重増加を防止するだけではなく、食餌制限していない肥満マウスにおける体重減少も誘発する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物において体重を調節するための方法であって、当該方法は、インスリン様成長因子受容体(IGF−IR)拮抗薬を、それを必要とする哺乳動物に投与することによってIGF−IRシグナル伝達を遮断する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記体重の前記調節が、前記哺乳動物において、体重の減少、体重の維持、または体重の減少後の体重の増加の最小化をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記IGF−IR拮抗薬が、抗体またはそのフラグメント、低分子、タンパク質、ポリペプチド、IGF模倣剤、アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド、アンチセンスRNA、阻害的低分子RNA、トリプルヘリックス形成性核酸、ドミナントネガティブ突然変異体、および可溶性受容体発現からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記IGF−IR拮抗薬が、IGF−IRに結合し、リガンド結合を遮断する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記IGF−IR拮抗薬が、IGF−IRに結合し、IGF−IR表面受容体の減少を促進する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記IGF−IR拮抗薬が、IGF−IRに結合し、IGF−IR媒介性シグナル伝達を阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記IGF−IR拮抗薬が、抗体またはそのフラグメントである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記IGF−IR拮抗薬が、約10−9−1未満であるKでIGF−IRに結合する抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記IGF−IR拮抗薬が、約10−10−1未満であるKでIGF−IRに結合する抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記IGF−IR拮抗薬が、約3×10−10−1未満であるKでIGF−IRに結合する抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記IGF−IR拮抗薬が、A12である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記IGF−IR拮抗薬が、2F8である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体が、キメラであるか、またはヒト化される、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体が、ヒト化される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記IGF−IR拮抗薬が、前記受容体に結合するが、活性化しないIGF−IRリガンドの模倣剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記IGF−IR拮抗薬が、3〜30mg/kg/日の範囲の量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記抗体またはそのフラグメントが、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28および配列番号30からなる群より選択される1〜6の相補性決定領域(CDR)を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項18】
前記抗体またはそのフラグメントが、配列番号14、配列番号16および配列番号18のCDRを有する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記抗体またはそのフラグメントが、配列番号20、配列番号22および配列番号24のCDRを有する、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記抗体またはそのフラグメントが、配列番号26、配列番号28および配列番号30のCDRを有する、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記抗体またはそのフラグメントが、配列番号2の重鎖可変領域および/または配列番号6もしくは配列番号10から選択される軽鎖可変領域を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項22】
A12が、配列番号14、配列番号16および配列番号18に対応する3つのCDRを有する配列番号2のヒトVフレームワーク領域、ならびに配列番号26、配列番号28および配列番号30に対応する3つのCDRを有する配列番号10のヒトVフレームワーク領域を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項23】
2F8が、配列番号14、配列番号16および配列番号18に対応する3つのCDRを有する配列番号2のヒトVフレームワーク領域、ならびに配列番号20、配列番号22および配列番号24に対応する3つのCDRを有する配列番号6のヒトVフレームワーク領域を有する、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−505333(P2011−505333A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539468(P2009−539468)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際出願番号】PCT/US2007/085844
【国際公開番号】WO2008/067427
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(508188662)イムクローン・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (23)
【氏名又は名称原語表記】Imclone LLC
【Fターム(参考)】