説明

体重を減少させる方法としてのCPT−1の促進

【課題】体重減少の誘導、及び適切な体重を維持する方法及び組成物の提供。
【解決手段】カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼー1(CPT−1)活性を促進する薬剤を投与する。脂肪酸合成の阻害を必要とせず、(CPT−1)活性の薬理学的な促進により、除脂肪体重を維持する一方で、脂肪酸酸化を選択的に増強し、エネルギー産生を増大し、そして、肥満性を減少させることができる。好ましくは、脂肪酸酸化を増加させるのに十分である量が投与され、更にCPT−1のマロニルCoA阻害と拮抗するのに十分である量が投与される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
背景
発明の属する分野
本発明は、CPT-1活性の薬理学的な促進によって、除脂肪体重を維持しながら、選択的
に脂肪酸酸化を促進し、エネルギー産生を増加させ、そして、肥満性を減少させる治療薬を開発するための方法に向かっている。
【0002】
関連分野の総説
in vitroにおけるヒト乳がん細胞MCF-7のセルレニン処理は、おそらくマロニルCoAレベルの増加により、脂肪酸酸化を有意に阻害する(Loftus、ら (2000) Science, 288: 2379-2381)。C75は脂肪酸合成酵素(FAS)の阻害剤として知られる、α-メチレン-γ-ブチロラクトンのファミリーの構成物質である(Kuhajda、ら (2000) Proc. Natl. Acad. Sci USA, 97: 3450-3454)。マウスへのC75の処理は、肝臓の脂肪酸合成の阻害、及び、高いマロニルCoAレベルを引き起こす(Loftus、ら (2000);Pizer、ら(2000) Cancer Res., 60:
213-218)。脳においてC75は、視床下部ニューロペプチド-Y(NPY)を減少させ、可逆的な栄養失調を引き起こす(Loftus、ら、2000)。in vivoにおけるob/obマウスへのC75の
処理の間は、肝臓でのマロニルCoAレベルの増加にもかかわらず、肝臓及び末梢組織での
大幅に脂肪が減少した(Loftus、ら、2000)。
【0003】
マロニルCoAは、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-1(CPT-1)の阻害剤としてのその効果により、脂肪酸酸化の強力な阻害剤である(Witters、ら(1992)J. Biol. Chem., 267:2864-2867)。CPT-1は、脂肪酸酸化のための、長鎖アシルCoAのミトコンドリア内への取り込みを可能にする。FAS阻害剤で処理がされたとき、遺伝的及び食餌により誘
導された肥満マウスでは、FAS阻害により誘導される高いマロニルCoAレベルにもかかわらず、選択的かつ有意な脂肪組織の減少が生じる。マロニルCoAはそのカルニチンパルミト
イルトランスフェラーゼ-1(CPT-1、E.C.2.3.1.21)の阻害により、脂肪酸酸化の強力な
阻害剤であるので、迅速かつ選択的な脂肪組織の減少は驚きだった。全身に及ぶ高いマロニルCoAレベルにより脂肪酸酸化が阻害され、代わりに、C75で誘導された栄養失調の間、選択的な除脂肪体重の減少が引きおこされることが予想された。
【0004】
発明の概要
脂肪酸合成の阻害を必要とせず、体重減少を誘導し、適切な体重を維持するための方法、及び、組成物を提供することが本発明の目的である。この目的及び他の目的は、一つあるいはそれ以上の、以下の態様により達成される。
【0005】
一つの態様において、本発明は、ヒト患者を含む必要とする患者にカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-1(CPT-1)活性を促進する薬剤を投与することを含む、体重減少を誘導する方法を提供する。好ましい様式において、その薬剤は、脂肪酸酸化を増加するのに十分な量で投与される。別の好ましい様式において、その薬剤は、CPT-1のマロニルCoA阻害に拮抗するのに十分な量で投与される。さらに別の好ましい様式において、その薬剤はマロニルCoAレベルの増加に十分な量で投与される。さらに別の好ましい様式において、その薬剤の投与に際して、マロニルCoAレベルは実質上は増加しない。本明細書中で意図されるマロニルCoAの実質的な増加は、CPT-1のマロニルCoA阻害のKiの約2分の1と等しい。さらに好ましい様式において、CPT-1活性を促進するその薬剤はまた、脂肪酸合成酵素(FAS)を阻害する。他の様式において、FASは有意に阻害されない。本明細書で意図される有意でない阻害は、15%より少なく、好ましくは10%より少なく、そしてさらに好ましくは5%阻害より少ない。FAS活性のアッセイの方法は、本明細書中で参考文献として援用される、アメリカ合衆国特許番号5,981,575に開示されている。上記態様の好ましい様式において、CPT-1活性を促進するその薬剤は、以下の化学式の化合物であり、
【0006】
【化1】

【0007】
式中、Rは以下からなる基から選択された置換基である:
【0008】
【化2】

【0009】
式中、
R1及びR2は同じか異なるものであり、H、CH3、C2H5、C3H7、C4H9、CF3、OCH3、F、ClまたはBrであり;
R3はH、CH3、C2H5、C3H7、C4H9、COOH、COOCH3、COOC2H5、COOC2H5、または、COOC4H9
あり;
R4はH、CH3、C2H5、C3H7、または、C4H9であり;
XはNH、S、または、Oであり;
ZはCH2、O、NH、またはSであり;
iは1から5であり;
jは0から10であり;
kは1から10であり;
mは1から13であり;そして、
nは1から15でありである。
【0010】
別の態様において、本発明はCPT-1活性を促進する薬剤を、FASを有意に阻害しない量で慢性的に投与することを含む、体重を安定させる方法を提供する。好ましい様式において、その薬剤は脂肪酸酸化を増加するのに十分な量で投与される。別の好ましい様式において、その薬剤は、CPT-1のマロニルCoA阻害に拮抗するのに十分な量で投与される。さらに別の好ましい様式において、その薬剤はマロニルCoAレベルの増加に十分な量で投与され
る。さらに別の好ましい様式において、その薬剤の投与に際して、マロニルCoAレベルは
実質的には増加しない。本明細書中で意図されるマロニルCoAの実質的な増加は、CPT-1のマロニルCoA阻害のKiの約2分の1と等しい。
【0011】
さらに別の態様において、本発明は体重減少の候補薬剤がCPT-1活性を促進するかを決
定し、そして、CPT-1活性を促進する薬剤を選択することを含む、体重減少を誘導する薬
剤をスクリーニングする方法を提供する。好ましくは、本方法はさらに、体重減少の候補薬剤がCPT-1のマロニルCoA阻害のアンタゴニストであるかを決定することを含み、また、CPT-1のマロニルCoA阻害を除去する、体重減少の候補薬剤が選択される。
【0012】
さらに別の態様において、本発明は、CPT-1活性を促進する薬剤及びL-カルニチンを含
む治療用の組成物を提供する。好ましくは、治療用の組成物は、CPT-1のマロニルCoA阻害のアンタゴニストを含む。
【0013】
さらに別の態様において、本発明は、栄養的に十分な量の脂肪、炭水化物、及び、アミノ酸を含む栄養的な組成物であって、CPT-1のマロニルCoA阻害のアンタゴニスト、及び、L-カルニチンをさらに含む、前記組成物を提供する。
【0014】
C75処理の間、肝臓のマロニルCoAレベルが高い設定において、逆説的な脂肪肝の減少へと導いた作用機序を調べるため、C75のCPT-1活性への効果を調査した。驚くべきことに、C75及び関連化合物は、in vitroにおいて、FASを阻害する一方で、CPT-1活性及び脂肪酸
酸化を同時に促進した。CPT-1の全体的なアロステリックな活性化に加え、C75はin vitroにおいてマロニルCoAのCPT-1活性への阻害効果を消去した。脂肪酸酸化増加の結果として、C75は細胞のATPレベルを増加させた。
【0015】
in vivoにおけるC75の脂肪酸酸化への効果を試すため、動物全体の熱量測定を利用してC75処理をしたマウスの呼吸交換比(RER)を測定した。C75治療に続いて、RERは2時間以
内に0.7の範囲まで落ちたが、これは脂肪酸酸化の指標である。このRERの減少率は、マウス通常餌を無制限に与えた動物からの餌を取り上げたのと同様であった。これらの調査は、高い肝臓マロニルCoAレベルにもかかわらず、C75処理動物が自由に脂肪酸酸化をしたことを示す。
【0016】
これらのデータは、in vivoにおいて、C75が、マロニルCoAのCPT-1活性に対する阻害作用を遮断し、FAS阻害の間、脂肪肝及び脂肪重量の減少に導くことを示唆する。本発明は
、CPT-1活性の薬理学的な促進により、除脂肪体重を維持する一方で、選択的に肥満性を
減少させる治療を開発するための方法を記述する。
【0017】
好ましい態様の詳細な説明
in vivoにおける脂肪酸合成酵素(FAS)の阻害は、迅速かつ大幅な体重減少を引き起こすことが知られてきた。天然物であるセルレニン、及び、合成低分子であるC75の両方は
、ラットへの脳室内投与(i.c.v.)の場合、同様の体重減少を引き起こす。全身的に(例えば、腹腔内に)処理した場合、C75はより大幅な体重減少を引き起こし、それどころか
絶食させた動物よりも体重減少が大きい。これらのデータは、セルレニンよりC75の、体
重減少へのより大きい末梢性の(CNSではない)効果を証明する。
【0018】
C75のこの末梢性の強い効果の作用機序を調査する間に、最近、発明者はFASの阻害に加えて、C75及びそのα-メチレン-γ-ブチロラクトンのファミリーが、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ(CPT-1)を直接促進し、ミトコンドリアの脂肪酸酸化を増加さ
せることを発見した。それに対してセルレニンは、FAS阻害による高レベルのマロニルCoA産生により、CPT-1活性を減少させ、そして、脂肪酸酸化を減少させる。
【0019】
in vitroにおけるMCF-7細胞のC75処理は、CPT-1活性を150〜160%促進した。脂肪酸酸
化もまた、同時に増加した。C75アナログの中では、C6〜C16の炭素鎖の長さが、CPT-1促
進活性には最適であった。C75存在下、もはやマロニルCoAはCPT-1活性を阻害できないこ
とから、C75は、その促進活性に加えて、CPT-1のマロニルCoA阻害をも防ぐことが示唆さ
れる。CPT-1とC75との間には検出可能な共有結合はない。
【0020】
このように、C75の末梢性の(CNSではない)体重減少効果は、少なくとも一部は、CPT-1促進と、脂肪酸合成阻害と同時に起こる脂肪酸酸化の増加によるものである。これらの
データはα-メチレン-γ-ブチロラクトンのファミリーはマロン酸(malonate)またはマ
ロニルCoAの類似体であり、また、CPT-1は体重減少治療の標的であると証明する。さらに広くは、他のマロン酸(malonate)またはマロニルCoAの類似体が、効果的な体重減少薬
剤として機能するように設計、及び、合成され得ることを、我々のデータは示す。
【0021】
C75及びα-メチレン-γ-ブチロラクトンのファミリーがCPT-1と直接相互作用し、CPT-1酵素活性及び脂肪酸酸化を増加させることを、データは証明する。C75及び多数のアナロ
グの化学構造はこれらのアナログの合成方法と同様に、本明細書中に参考文献として援用される、アメリカ合衆国特許番号5,981,575に開示される。C75の促進効果は飽和炭素側鎖の長さと関連があり、最適な長さは6〜18炭素原子の間である。本発明の議論に関しては
、C75はCPT-1を促進する薬剤の典型である;以下のC75の参照は、文脈により別のことが
示されている場合を除いて、CPT-1活性を促進する他の適切な薬剤を含む。
【0022】
CPT-1に対するその直接的な効果に加え、C75はマロニルCoAのCPT-1活性に対する阻害効果を止める。C75は精製されたFASに対して緩結合性(slow-binding)な阻害剤の動力学的特徴を示すが(1)、そのCPT-1との相互作用は、迅速かつ競合的であるようである。従って、脂肪酸酸化へのC75の促進効果は、CPT-1活性のその直接的な促進、CPT-1のマロニルCoA阻害のその妨害、または、それら両方のためである可能性がある。興味深いことに、ヒトCPT-1も同様の効果を受けたことから、C75の効果はマウスCPT-1に限定されない。脂肪
酸酸化の増加の結果、C75はまた、ヒト及びマウスの細胞の両方においてATPレベルを増加させた。
【0023】
in vivoにおける脂肪酸代謝に対するC75の効果は、細胞レベルにおいて見られた変化を反映した。やせたマウスへのC75処理は、in vivoにおいてC75により産生された高レベル
のマロニルCoAにもかかわらず、大幅かつ迅速な脂肪酸酸化の増加を導いた。このようにC75及びそのα-メチレン-γ-ブチロラクトンのファミリーは、CPT-1の競合的なアゴニストとして作用するようである。このC75のアゴニスト活性は、同酵素に対するマロニルCoAの阻害効果を打ち消すようである。C75により誘導される脂肪酸酸化の増加は、マウスへのC75処理時に見られる、肥満性の明らかな減少を説明する重要な機構である。
【0024】
要約すると、本発明は、CPT-1活性の薬理学的な促進により、除脂肪体重を維持する一
方で、脂肪酸酸化を選択的に増強し、エネルギー産生を増加し、そして、肥満性を減少させる治療薬を開発するための方法を記述する。
【0025】
CPT-1を促進する、C75及び/または他の薬剤を含有する治療用の組成物の製剤化、及び、前記薬剤を投与する方法は、当分野の技術内で、特に、アメリカ合衆国特許番号5,981,575の記述を考慮しており、その文書は本明細書中に参考文献として援用される。
【0026】
脂肪酸または脂肪酸残基を含有する化合物と共に、CPT-1を促進する薬剤を投与するこ
とによる、エネルギー産生を増加させるためのその薬剤の使用もまた、当分野の技術内で、特に、アメリカ合衆国特許番号4,434,160に開示される、栄養的な組成物を考慮してお
り、その文書は本明細書中に参照として援用される。
【実施例】
【0027】
本発明のより完全な理解を促すために、いくつもの実施例が下記に提供される。しかしながら、本発明の範囲は、例証のみがその目的である、これらの実施例に開示される、特定の態様に限定されない。
【0028】
実施例1 脂肪酸合成阻害の逆説的な効果
FAS阻害剤であるセルレニンは、MCF-7細胞内のマロニルCoA量を増加させる(3)。マロニルCoAの大幅な増加の結果、CPT-1のマロニルCoA阻害により、セルレニンは脂肪酸酸化
の阻害を引き起こす(Thupari、ら (2001) Biochem. Biophys. Res. Comm., 285: 217-223)。以前に、MCF-7細胞へのC75処理は、C75の脂肪酸合成酵素(FAS)阻害によりマロニ
ルCoAが>5倍増加という結果であることが示された(3)。脂肪酸酸化に対するC75の効果は以下のように試験された。
【0029】
ヒト乳がん細胞株MCF-7はAmerican Type Culture Collectionより入手した。1×106
のMCF-7細胞をT-25フラスコに3対播き、そして、37℃で一晩インキュベートした。次に、薬剤をDMSO中5 mg/mlのストックから、示された希釈となるように加えた。2時間後、薬剤を含む培地を除き、そして、細胞を1.5 mlの以下のバッファー(114 mM NaCl、4.7 mM KCl、1.2 mM KH2PO4、1.2 mM MgS04、グルコース11 mM)で、30分間、プレインキュベート
した。プレインキュベートの後、114 mM NaCl、4.7 mM KCl、1.2 mM KH2PO4、1.2 mM MgS04、グルコース11 mM、([1-14C]パルミチン酸10μCiを含有する)アルブミンに結合したパルミチン酸2.5 mM、0.8 mM L-カルニチンを含有する、アッセイバッファー200μlを
加え、そして、細胞を37℃で2時間インキュベートした。インキュベートに続いて、400μlの塩酸ベンゼトニウムを、放出された14CO2を回収するため、真ん中のウェルに加えた。速やかに7%過塩素酸500μlを細胞に加えることにより、反応を停止した。ウェルのある
フラスコを次に37℃で2時間インキュベートし、その後、塩酸ベンゼントニウムを除き、
そして、14Cを計測した。ブランクは、アッセイバッファーと共に2時間インキュベーションする前に、7%過塩素酸500μlを細胞に加えることにより調製した。
【0030】
脂肪酸酸化を測定する前に細胞をC75で2時間処理したとき、対照と比較してC75処理で
は脂肪酸酸化が156%増加する結果となった(図1参照;p=0.0012、両側t検定、Prism 3.0)。逆に、脂肪酸酸化の阻害剤かつCPT-1の非競合的阻害剤として知られるEtomoxirは、
脂肪酸酸化を対照の32%に減少させた(p=0.0006、両側t検定、Prism 3.0)。MCF-7細胞
のC75処理では、5〜20μg/mlの用量において脂肪酸酸化の増加の結果が繰り返し得られた。
【0031】
セルレニンにより誘導されるのと同様のマロニルCoAの増加にもかかわらず、逆説的に
、MCF-7細胞においてC75処理は、脂肪酸酸化を減少させるのではなくむしろ増加させた。これはカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-1(CPT-1)に対するC75の直接的な効果を意味している。
【0032】
実施例2 C75はヒトCPT-1活性を促進する
MCF-7細胞におけるCPT-1活性は、以下に公開される手順により分析した:MCF-7細胞を10%仔牛血清を含むDMEM中、24ウェルプレートに106個の細胞を3対播いた。37℃で一晩イ
ンキュベートした後、培地を除き、そして、50 mMイミダゾール、70 mM KC1、80 mMスク
ロース、1 mM EGTA、2 mM MgCl2、1 mM DTT、1 mM KCN、1 mM ATP、0.1%脂肪酸非含有ウシ血清アルブミン、70μMパルミトイル-CoA、0.25μCi[メチル-14C]L-カルニチン、40
μgジギトニン、20μMマロニルCoA添加または無添加、からなるアッセイ培地700μlに置
換した。37℃で6分間インキュベートした後、氷冷4 M過塩素酸を500μl加えることにより反応を停止した。次に細胞を回収し、そして、13,000×gで5分間遠心した。沈殿を500μlの氷冷2 mM過塩素酸で洗浄し、そして、再び遠心した。得られた沈殿を蒸留水800μlに再懸濁し、そして、150μlブタノールで抽出した。ブタノール相は液体シンチレーションにより計測され、また、アシルカルニチン誘導体を示す。
【0033】
CPT-1活性をアッセイする前に、10または20μg/mlのC75で1時間、MCF-7細胞を、処理した。アッセイは示された濃度のC75及びマロニルCoAで行われた("M"は20μMのマロニルCoAを示す)。マロニルCoA処理のみでは、以前の実験同様46%のCPT-1活性の減少を引き起
こした(図2参照;p=0.02、両側t検定、Prism 3.0)。CPT-1のマロニルCoA阻害のレベル
は、MCF-7細胞におけるCPT-1の肝臓アイソフォームの活性と矛盾しない。CPT-1の肝臓ア
イソフォームに対するマロニルCoAのKiは〜7μMであり、一方CPT-1の筋肉アイソフォームに対するKiは0.07μMである。従って、MCF-7細胞は主に(免疫ブロット分析と一致して)CPT-1の肝臓アイソフォームを発現する。
【0034】
C75、または、C75及びマロニルCoAで処理された細胞間に、統計的に有意なCPT-1活性の差はなかった(図2)。つまり、C75が存在すると、マロニルCoAはそのCPT-1に対する阻害効果を失った;逆に、C75のCPT-1促進はマロニルCoAの存在にかかわらず生じた。このよ
うに、C75の存在下、通常のマロニルCoAの阻害活性は失われる。CPT-1のマロニルCoA活性阻害は、C75及び関連化合物が、マロニルCoAによって阻害することができないCPT-2活性
ではなく、むしろCPT-1を活性化していることを証明した。
【0035】
続く実験では(図3中のデータ)、MCF-7細胞は無処理(左のバー)、または、CPT-1活
性の測定前に、20μg/mlのC75で1時間処理した(中央及び右のバー)。CPT-1アッセイの6分の間、C75はアッセイバッファーから除かれ、バッファーによって置換された(中央の
バー)、または、20μMマロニルCoAが加えられた(左&右のバー)。アッセイの間、マロニルCoA処理のみでは、CPT-1活性の〜70%の阻害という結果となった(左のバー)(p=0.0045、両側t検定、Prism 3.0)。C75を先に処理し、アッセイバッファーにはC75を含まない場合、C75をアッセイバッファー中に維持した場合の結果と同様に、CPT-1活性は対照の158%という結果となった(p=0.028、両側t検定、Prism 3.0)(上記実験参照)。しかしながら、C75を反応バッファーから除き、マロニルCoAに取り換えられた場合、C75の促進
活性は失われる(右のバー)。このように、C75は検出可能な様にCPT-1と共有結合することはなく、そして、マロニルCoAの競合的アンタゴニストのようである。これらのデータ
はまた、C75がCPT-1と、そのマロニルCoA結合サイトにおいて相互作用することを示唆す
る。
【0036】
実施例3 効果的なCPT-1促進剤の構造
飽和炭素“尾部"の長さのみが異なるα-メチレン-γ-ブチロラクトンのアナログは、本明細書中で参考文献として援用される、アメリカ合衆国特許番号5,981,575に記載される
とおり調製された。C75は8炭素尾部をもち、C12、及び、C16はそれぞれ12、及び、16炭素の尾部をもつ。CPT-1活性を測定する前に、細胞を、20μg/mlのC75及びC75のアナログで
、1時間、処理した。完全な(whole)細胞にはマロニルCoAは浸透しないため、マロニルCoAは反応バッファーのみに加えた。C75は、20μg/mlの用量で、対照の166%にCPT-1の活
性を促進した(図4参照;p=0.0092、両側t検定、Prism 3.0)。C12アナログは対照の186
%促進し(p=0.0099、両側t検定、Prism 3.0)、そして、C16アナログは138%促進した(p=0.055、両側t検定、Prism 3.0)。CPT-1の細胞内の競合阻害剤であるマロニルCoAは、20 mMで対照の64%にCPT-1活性を減少させた(p=0.023、両側t検定、Prism 3.0)。CPT-1
活性化に最適な炭素鎖の長さは、6から16炭素の間である。
【0037】
実施例4 CPT-1促進により増加した脂肪酸酸化はATPを産生する
脂肪酸酸化の増加の結果、MCF-7細胞においてC75処理の後に、ATPが増加した。1×105
個のMCF-7細胞を96ウェルプレートに播いた。細胞をC75またはビヒクルとともに処理した。2時間後、ATP Bioluminescense Kit CLS(Roche)を製造業者のプロトコールに従って
使用し、ルシフェラーゼアッセイを用いて、ATPを測定した。Perkin Elmer Wallac Victor2 1420ルミノメーターによりプレートを読み取った。10μg/ml、及び、20μg/mlのC75の処理は両方とも、細胞全体のATPの有意な増加という結果となった(図5参照;p=0.0001、p<0.0001対照と比較、両側t検定、Prism 3.0)。C75とインキュベーション1時間後においても、同様の結果が得られた。このように、C75による脂肪酸酸化の増加の結果、細胞の
エネルギー産生が増加した。
【0038】
実施例5 C75は筋肉型CPT-1の活性を促進する
脂肪酸代謝に対するC75の効果の研究を、がん細胞株から正常脂肪細胞へと拡大するた
め、分化させた(形質転換させない)マウスNIH 3T3-L1脂肪細胞を、MCF-7細胞で行った
のと同様のアッセイに使用した。3T3-L1細胞はAmerican Type Culture Collectionから入手し、そして、高グルコース(4.5 g/l)(Gibco 12100-046)、10%仔牛血清、及び、ビオチン(Sigma B-4639)0.008 g/Lを含むDMEMで培養した。細胞がコンフルエントになっ
た3日後、標準培養培地を分化培地と交換した際、分化を開始した。分化培地は、標準培
養培地を含み、それに対して最終濃度に達するように以下のものを加えた:メチルイソブチルキサンチン(MIX)0.5 mM、デキサメタゾン(DEX)1μM、及び、インシュリン10μg/ml。48時間後、分化培地を、MIX及びDEXは含まず、インシュリンを上記濃度で含有する、分化後培地に交換した。分化した細胞は、7〜10日目に、実験に使用する準備ができた。
【0039】
脂肪細胞に分化させたNIH 3T3-L1細胞において、C75はCPT-1活性及び脂肪酸代謝を増加させた。分化後1週間後に、細胞をビヒクル対照、またはC75のいずれかで、下に示す用量で2時間処理した。CPT-1活性、脂肪酸酸化、及び、全細胞ATPは、実施例2、1、及び、4に記述のとおり測定した。3T3-L1脂肪細胞のC75処理は、CPT-1活性を対照より377%増大さ
せた(p<0.0001、両側t検定、Prism 3.0)。CPT-1活性の増大の結果、20μg/ml、または、それ以上の用量において、C75は脂肪酸酸化を有意に増加させた。(図6参照;20μg/ml、p=0.007;<20μg/ml、p<0.0001;両側t検定、Prism 3.0)。さらに、脂肪酸酸化の増加は、20μg/ml、または、それ以上の用量のC75において、ATPレベルを有意に増大させた(図7参照;20μg/ml、p=0.05;30μg/ml、p<0.007;40μg/ml、p<0.0001;両側t検定
、Prism 3.0)。C75により誘導された脂肪酸酸化の増加は、in vivoにおけるC75の投与で見られる脂肪組織重量の顕著な減少に応答しているようである。
【0040】
実施例6 in vivoにおけるCPT-1の促進は、代謝を脂肪酸酸化へと移行させる
ヒトとマウス両方のCPT-1、及び、脂肪酸代謝に対するC75の効果にしたがって、C75はin vivoにおいて、大幅かつ迅速な脂肪酸酸化の促進を誘導する。マウスをOxymax熱量計(Oxymax Equal Flow System(登録商標)、Columbus Instruments、Columbus, OH)中に維持した。酸素消費及びCO2産生を、間接的熱量計を使用してマウス4匹まで同時に測定した。実験の全経過にわたり、15分ごとに測定を記録した。呼吸交換比(RER)はOxymax(登
録商標)Software version 5.9により計算した。RERは、平衡に達したかにかかわらず、
どのような与えられた時間においても、CO2のO2に対する比として決定される。マウスは
無制限の水およびマウス餌のもとに維持された。対照マウスでは(図8A)、動物の食事及
び休息のサイクルを示すRERの日周の変化に注目すべきである。RERが1であるのは、糖の
酸化と合致するのに対して、0.7は、脂肪酸の酸化を示す。C75で処理し、そして、Oxymax熱量計中で維持したマウスは、呼吸交換比(RER)が〜0.7への迅速な減少を示した(図8B)。30 mg/kgのC75処理は、対照マウスでの日周パターンを崩したことから、約2時間以内に、脂肪酸の酸化を完了するため、RERが急速に低下することを示す。同様に、20 mg/kg
のC75処理は、延長させる効果はないが、同様のRERの低下比を示す(図8C)。重要であることに、RERの減少比は餌を取り上げた動物に見られるものと同様であった(データは示
さない)。
【0041】
in vivoにおいてC75により産生されたマロニルCoAレベルの増加にもかかわらず、C75処理は、RERにより測定されたとおり、迅速、大幅な脂肪酸酸化の増加を導いた。従って、C75処理された動物は、in vivoでのFAS阻害のあいだに、産生される高レベルのマロニルCoAにかかわらず、脂肪酸酸化を起こすことにより、脂肪重量を有意に減少させ、脂肪肝を
逆行させることができる。
【0042】
前述の発明は、明確な理解を目的とした、説明及び実施例として、ある程度詳細に記載されたが、ある一定の変化及び修正は、添附された請求項の範囲内で実施され得ることは明白であろう。医学、免疫学、ハイブリドーマ技術、薬理学、及び/または、関連する分野の技術者には明らかである、本発明の実行のための、上に記載の様式での修正は、以下の請求項の範囲内であることを意図している。
【0043】
本明細書中で言及されたすべての発行物および特許出願は、本発明が関係する当業者の技術のレベルにおいて表示される。すべての前記発行物及び特許出願は、各発行物あるいは特許出願が、特別に、また、個々に参考文献として援用されることが示されたのと同様の範囲で、本明細書中に参考文献として援用される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、MCF-7細胞における脂肪酸酸化へのC75の効果を、Etomoxirの効果と比較して示す。
【図2】図2は、C75によるCPT-1活性の濃度依存的な促進、及び、マロニルCoAによる阻害を示す。
【図3】図3は、C75によるCPT-1の可逆的な促進を示す。
【図4】図4は、様々なC75アナログによるCPT-1の促進を示す。
【図5】図5は、MCF-7細胞におけるC75による細胞内ATPレベルの濃度依存的な増加を示す。
【図6】図6は、マウス脂肪細胞におけるC75による脂肪酸酸化の濃度依存的な促進を示す。
【図7】図7は、マウス脂肪細胞におけるC75による細胞内ATPレベルの濃度依存的な増加を示す。
【図8】図8は、C75なし(A)、及び、有り(B、C)の条件下での、マウスの、間接的な熱量測定により測定された呼吸交換比(RER)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-1(CPT-1)活性を促進する薬剤の投与を
含む、体重減少を誘導する方法。
【請求項2】
FASを有意に阻害しない量のCPT-1活性を促進する薬剤を、慢性的投与することを含む、体重を安定させる方法。
【請求項3】
体重減少の候補薬剤がCPT-1活性を促進するかを決定し;そして、CPT-1活性を促進する薬剤を選択することを含む、体重減少を誘導する薬剤をスクリーニングする方法。
【請求項4】
CPT-1活性を促進する薬剤、及び、L-カルニチンを含む、治療用の組成物。
【請求項5】
栄養的に十分な量の脂肪、炭水化物、及び、アミノ酸を含む栄養的な組成物であって、さらにL-カルニチン、及び、CPT-1のマロニルCoA阻害のアンタゴニストを含む、前記組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−47594(P2010−47594A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−241309(P2009−241309)
【出願日】平成21年10月20日(2009.10.20)
【分割の表示】特願2003−565467(P2003−565467)の分割
【原出願日】平成15年2月10日(2003.2.10)
【出願人】(504303274)ジョーンズ・ホプキンス・ユニバーシティ・スクール・オブ・メディシン (3)
【Fターム(参考)】