説明

作業手順書作成支援システム

【課題】作業手順書の作成のための雛形文書を高い精度で抽出可能な作業手順書作成支援システムを提供する。
【解決手段】作成中の作業手順書に付加すべき作業手順を示す少なくともひとつのキーワードの入力に応じて、蓄積されている作業手順書例の中からキーワードを含む作業手順書を雛形文書の候補として検索する検索手段と、検索された雛形文書の候補それぞれと作成中の作業手順書とのシーケンスマッチングを行ってシーケンス類似度を評価する過程評価手段と、雛形文書の候補それぞれが適用されたネットワーク構成と作成中の作業手順書が適用されるネットワーク構成とのネットワーク類似度を評価する構成評価手段と、雛形文書の候補についてそれぞれ得られたシーケンス類似度とネットワーク類似度とに基づいて雛形文書の候補をランキングして、作業手順書の作成作業に供するランキング手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワーク設備の導入(新設)・増設・変更・撤去などの保守作業を行うネットワーク保守者が必要な作業手順を確認するために用いる作業手順書を作成するための作業手順書作成支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
通信事業者のネットワーク保守作業者は、ネットワーク設備に対する保守作業を行う際には、必要な作業を確実かつ迅速に実施するために、作業手順書に基づいて作業を進めている。例えば、物理的に離れた場所に設置された施設間で通信経路の変更や増設など保守作業は、それぞれの施設に派遣されたネットワーク保守者により、共通の指針に沿った作業手順書に従って、互いの施設間で連絡を取りながら進められる。
【0003】
ネットワーク設備の保守作業では、対象となる施設や作業の種類および機器の種類などの組み合わせによって保守作業の手順は千差万別であるため、一般に、保守作業のたびに新たな作業手順書が作成されている。
【0004】
従来の作業手順書の作成作業では、作成者は、資料や記憶を頼りに過去の作業手順書を検索し、必要な部分を複写したり修正したりしながら作業手順書の作成が行われており、このような作成作業を支援するツールも提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
従来の作成支援ツールでは、所望の作業を記述する際の雛形文書を、キーワード検索やシーケンスマッチング技術(非特許文献1参照)を用いて抽出し、抽出した雛形文書を適宜並べ替えるなどして作成作業を支援している。
【特許文献1】特開2005−056276号公報
【非特許文献1】J.Pei, J.Han, B.Mortazavi-Asl, H.Pinto, Q.Chen, U.Dayal, and M.-C. Hsu, "PrefixSpan: Mining Sequential Patterns Efficiently by Prefix-Projected Pattern Growth", Proc. of The 17th Int'l Conf. on Data Engineering, pp.215-224 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ネットワーク保守作業の手順書の作成では、使用される用語の種類が限られているので、単なるキーワード検索では、指定したキーワードが使用されている膨大な作業手順書が候補として検索されてしまう。
【0007】
また、ネットワーク保守作業では、対象となる施設の種類などに応じて、作業手順の一部が異なる場合が非常に多い。したがって、シーケンスマッチングを単純に適用したのでは、膨大な数の類似したシーケンスが検索されるか、逆に、類似したシーケンスがまったく見つからないかのどちらかになる可能性が高い。
【0008】
キーワード検索とシーケンスマッチングとを組み合わせて適用する場合でも、雛形として適切な作業手順書の候補を検索によって抽出することは困難であり、結局、作成者がデータベースなどから抽出された膨大な候補の中から選択する作業が必要になってしまう。
【0009】
本発明は、作業手順書の作成のための雛形文書を高い精度で抽出可能な作業手順書作成支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下に開示する第1の作業手順書作成支援システムは、以下の各手段を備えて構成される。
【0011】
検索手段は、作成中の作業手順書に付加すべき作業手順を示す少なくともひとつのキーワードの入力に応じて、蓄積されている作業手順書例の中からキーワードを含む作業手順書を雛形文書の候補として検索する。過程評価手段は、検索された雛形文書の候補それぞれと作成中の作業手順書とのシーケンスマッチングを行ってシーケンス類似度を評価する。構成評価手段は、雛形文書の候補それぞれが適用されたネットワーク構成と作成中の作業手順書が適用されるネットワーク構成とのネットワーク類似度を評価する。ランキング手段は、雛形文書の候補についてそれぞれ得られたシーケンス類似度とネットワーク類似度とに基づいて雛形文書の候補をランキングして、作業手順書の作成作業に供する。
【0012】
このように構成された第1の作業手順書作成支援システムでは、検索手段によって得られた雛形文書の候補について、過程評価手段によって得られたシーケンス類似度と構成評価手段によって得られたネットワーク類似度との双方を考慮したランキング処理がランキング手段によって行われ、このランキング結果が作業手順書の作成作業に供される。
【0013】
以下に開示する第2の作業手順書作成支援システムは、上述した第1の作業手順書作成支援システムに備えられた検索手段に、以下の各手段を備えて構成される。
【0014】
類義語辞書は、入力されうるキーワードそれぞれに対応する類義語を蓄積する。類義語検索手段は、キーワードの入力に応じて、類義語辞書から当該キーワードに対応する類義語を検索する。抽出手段は、入力されたキーワードを含む作業手順書例に加えて、類義語検索手段によって検索された類義語を含む作業手順書例を過去の作業手順書の蓄積から抽出する。
【0015】
このように構成された第2の作業手順書作成支援システムでは、キーワードの入力に応じて、類義語検索手段により、類義語辞書からキーワードの類義語の検索が行われ、検索された類義語が、入力されたキーワードとともに抽出手段の処理に供される。したがって、キーワードを含む作業手順書に加えてキーワードの類義語を含む作業手順書が検索手段による検索結果として、過程評価手段および構成評価手段の処理に供される。
【0016】
以下に開示する第3の作業手順書作成支援システムは、上述した第1の作業手順書作成支援システムに備えられた構成評価手段に、以下の各手段を備えて構成される。
【0017】
構成照合手段は、検索手段によって検索された各候補に添付された構成情報で示される候補ネットワーク構成と作成中の作業手順書が適用される対象ネットワーク構成とを照合し、同一の機能を果たすノードの連なりが共通に分布している共通範囲を抽出する。算出手段は、各候補について抽出された共通範囲の大きさに基づいて、各候補に対応するネットワーク類似度を算出する。
【0018】
このように構成された第3の作業手順書作成支援システムでは、構成照合手段により、同一の機能を果たすノードの連なりに着目して、作成対象となる対象ネットワーク構成と検索された候補に対応する候補ネットワーク構成との共通範囲が各候補に対応して抽出され、算出手段により、この共通範囲の大きさに基づいてネットワーク類似度が算出される。
【0019】
以下に開示する第4の作業手順書作成支援システムは、上述した第3の作業手順書作成支援システムに備えられた構成照合手段に、各候補ネットワーク構成に含まれるノードと対象ネットワーク構成に含まれるノードとについて、ネットワーク機器としての種別とともに設置場所の種類を判別し、双方が一致した場合に同一の機能を果たすノードとして抽出する配置判別手段を備えて構成される。
【0020】
このように構成された第4の作業手順書作成支援システムでは、配置判別手段により、例えば、加入者回線を直接収容する収容ビルに配置されたルータと、複数の収容ビルからの回線を統合する集合ビルに配置されたルータとが区別されるので、ネットワーク機器が設置された場所の特徴をも考慮して、ネットワークにおいて果たす機能が同一とみなせるノードの連なりを抽出することができる。
【0021】
以下に開示する第5の作業手順書作成支援システムは、上述した第3の作業手順書作成支援システムに備えられた構成照合手段に、各候補ネットワーク構成に含まれるノードと対象ネットワーク構成に含まれるノードとについて、ネットワーク機器としての種別とともにその供給元およびまたは機種を判別し、双方が一致した場合に同一の機能を果たすノードとして抽出する機種判別手段を備えて構成される。
【0022】
このように構成された第5の作業手順書作成支援システムでは、配置判別手段により、例えば、加入者回線を直接収容する収容ビルに配置されたルータと、複数の収容ビルからの回線を統合する集合ビルに配置されたルータとが区別されるので、ネットワーク機器が設置された場所の特徴をも考慮して、ネットワークにおいて果たす機能が同一とみなせるノードの連なりを抽出することができる。
【0023】
以下に開示する第6の作業手順書作成支援システムは、上述した第1の作業手順書作成支援システムに備えられたランキング手段に、以下の各手段を備えて構成される。
【0024】
順位決定手段は、各候補について得られたシーケンス類似度とネットワーク類似度とにそれぞれに対応する重み係数をつけて合計して得られた合計値の大小で順位を決定する。調整手段は、作成中の作業手順書への反映のために選択された候補の順位に基づいて、シーケンス類似度およびネットワーク類似度にそれぞれ適用する重みを調整する。
【0025】
このように構成された第6の作業手順書作成支援システムでは、作業手順書の作成を進めていく過程で、直前の手順に対応する部分の雛形として選択された候補が検索された全ての候補についてのランキングにおいて占めていた位置に応じて、調整手段により、順位決定手段においてシーケンス類似度とネットワーク類似度にそれぞれ適用される重みの値が調整される。
【発明の効果】
【0026】
以上に説明した作業手順書作成支援システムでは、キーワードに基づいて検索された雛形文書の候補について、作成中の作業手順書との手順の連なりとしての類似性と適用されるネットワーク構成についての類似性との双方を考慮したランキングがなされるので、高い精度で有用な雛形文書を判別し、これらの雛形文書に高いランクを与えて利用者に提示することができることができる。
【0027】
また、指定されたキーワードの類義語を用いた検索で得られた候補をふくめて、上述した過程についての類似性とネットワーク構成についての類似性との双方を考慮したランキング処理に供することにより、蓄積された作業手順書における用語の揺らぎにかかわらず、雛形文書として適切な作業手順書をもれなく利用者に提示することができる。
【0028】
更に、ネットワーク構成についての類似性と手順の連なりとしての類似性とにそれぞれ与える重みを調整することにより、雛形文書の候補についてのランキング精度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面に基づいて、課題を解決するための手段の項において基本構成を開示した作業手順書作成支援システムの実施形態について詳細に説明する。
【0030】
図1に、作業手順書作成支援システムの実施形態の一つを示す。
【0031】
図1に示した作業手順書作成支援システムでは、利用者が作成クライアント装置210を介して作業手順書を作成する過程で、作成クライアント装置210からネットワークを経由して作成支援サーバ装置220に検索条件が送出され、この検索条件に基づいて、作成支援サーバ220により、作業手順書データベース201に蓄積された過去の作業手順書からの検索が行われる。また、この検索で得られた候補は、後述するようにして並べ替えられ、作成クライアント装置210に返送されて、作成クライアント装置210における作業手順書の編集作成作業に供される。
【0032】
図1に示した作成クライアント装置210において、構成情報保持部212には、保守作業の対象となるネットワーク構成を表すネットワーク構成情報が、例えば、入力部211を介して入力され、このネットワーク構成情報が検索条件の一つとして保持される。
【0033】
また、利用者が入力部211を介して入力したキーワードは、キーワード受付部213を介して検索要求部215に渡され、上述したネットワーク構成情報、手順書編集処理部214による処理中の作業手順書における各手順の並びを示すシーケンス情報および検索要求とともに、ネットワークを介して作成支援サーバ装置220に送出される。
【0034】
図1に示した作成支援サーバ装置220において、検索受付部221は、検索要求とともに受け取ったキーワードをキーワード検索部222に渡して、作業手順書データベース201からの検索を指示するとともに、ネットワーク構成情報とシーケンス情報とをそれぞれネットワーク類似度算出部224とシーケンス類似度算出部223とに渡す。
【0035】
キーワード検索部222によって作業手順書データベース201から検索された作業手順書は、シーケンス類似度算出部223に渡され、検索条件の一つとして渡されたシーケンス情報との類似度(シーケンス類似度)の算出に供される。一方、検索された作業手順書に対応するネットワーク構成を表す構成情報は、ネットワーク類似度算出部224に渡され、作成クライアント装置210側から渡されたネットワーク構成情報で示されるネットワーク構成との類似度(ネットワーク類似度)の算出に用いられる。
【0036】
図1に示したランキング処理部225は、シーケンス類似度算出部223で得られたシーケンス類似度およびネットワーク類似度算出部224で得られたネットワーク類似度とに基づいて、キーワード検索部222によって作業手順書データベースから検索された候補手順書をランキングする。
【0037】
このランキング結果は、検索受付部221を介して作成クライアント装置210に返送され、図1に示した候補表示処理部216を介して表示部217に表示され、利用者による選択が促される。そして、利用者が、入力部211を介して入力した選択に応じて、手順書編集処理部214により、選択された候補手順書に基づいて作成中の作業手順書に新たな手順が追加される。
【0038】
以下に、図1に示した作業手順書作成支援システムの動作および各部の詳細構成について説明する。
【0039】
図2に、作業手順書作成動作を表す流れ図を示す。また、図3に、作成支援サーバ装置の詳細構成を示す。
【0040】
まず、作業対象のネットワーク構成を表すネットワーク構成情報が入力部211を解して入力され(図2のステップ301)、図1に示した構成情報保持部212に保持される。
【0041】
次いで、作成対象の作業手順書に追加すべき手順にかかわるキーワードが入力されると(ステップ302)、このキーワードと構成情報保持部212に保持されたネットワーク構成情報とを含む検索条件が、検索要求とともに作成支援サーバ装置220に渡される(ステップ303)。
【0042】
なお、作成を開始する場合には、作成済みの作業手順がまだないので、最初の手順にかかわるキーワードとネットワーク構成情報のみが検索条件として作成支援サーバ装置220に渡される。
【0043】
作成支援サーバ装置220では、ステップ304のキーワード検索処理の一部として、まず、キーワード検索部222に備えられた類義語抽出部232により、検索要求とともに受け取ったキーワードについて類義語データベース(DB)231の検索処理が行われる。この検索処理によって得られたキーワードの類義語は、上述したキーワードとともに検索処理部233に渡され、これに応じて、検索処理部233により、作業手順書データベース201から、キーワードおよびその類義語を含む作業手順書が検索される。
【0044】
図3に示した類義語データベース231に、例えば、キーワード「回線」の類義語として「ケーブル」、「パス」、「伝送経路」、「経路」などを登録しておくことにより、作業手順書データベース201に蓄積された過去の作業手順書における用語のゆれにかかわらず、所望の手順を含む可能性のある作業手順書を漏れなく候補手順書として検索することができる。
【0045】
このようにして作業手順書データベース201から検索された候補手順書およびこれらに対応して作業手順書データベース201に蓄積されたネットワーク構成情報は、それぞれシーケンス類似度およびネットワーク類似度の算出処理に供される。
【0046】
図2に示したステップ305において、シーケンス類似度算出部223は、検索受付部221から受け取った作成中の作業手順書における手順の並びと各候補手順書における手順の並びとを照合し、その類似度を評価する。このとき、シーケンス類似度算出部223は、シーケンスマッチングの技術を利用して、作成中の作業手順書においてすでに作成済みとなっている手順の並びと候補手順書においてキーワードで示される手順の直前までの手順の並びとの類似度を求め、これをその候補手順書に対応するシーケンス類似度とすることができる。
【0047】
例えば、図4(a)に示すように、作成中の作業手順書に追加しようとしているk番目の作業手順を示すキーワードに基づいて、図4(b)、(c)に示す候補手順書C1,C2が検索された場合に、候補手順書C1、C2において上述したキーワードで示される作業手順(図4(b)、(c)において、符号Pkで示した)の直前の手順までのシーケンスと、作成中の作業手順書のk−1番目の作業手順までのシーケンスとの類似度が算出される。なお、作業手順書の最初の手順を作成する場合には、作成済みの手順がまだないので、シーケンス類似度算出部223により、例えば、全ての候補手順書に同等のシーケンス類似度が設定される。
【0048】
同じく、図2に示したステップ305において、ネットワーク類似度算出部224は、検索受付部221から受け取った作業対象のネットワーク構成情報Nsと、各候補手順書に対応するネットワーク構成情報NC1,…、NCnとを照合し、その類似度を評価する。
【0049】
図3に示したネットワーク類似度算出部224において、等価ノード判別部234は、例えば、ネットワーク構成情報Nsで示されるネットワークにおける作業対象のノードおよびこれに直接あるいは間接に接続する各ノードと、ネットワーク構成情報NC1,…、NCnで示されるネットワークにおける作業対象のノードおよびこれに直接あるいは間接に接続する各ノードが等価である否かをそれぞれ判別する。この判別結果に基づいて、共通範囲特定部235は、各候補手順書に対応するネットワーク構成と作成対象の作業手順書に対応するネットワーク構成との共通範囲をそれぞれ特定し、特定した範囲を類似度決定部236の処理に供する。
【0050】
例えば、等価ノード判別部234により、ネットワーク情報で示される接続関係を順にたどって、各ノードのネットワーク機器としての種別が一致するか否かを判別すれば、共通範囲特定部25により、図5(a)に示した作業対象のネットワーク構成と各候補文書に対応するネットワーク構成とに共通する範囲として、図5(b)、(c)に網掛けを付して示した範囲を特定することができる。図3に示した類似度決定部236は、このようにして特定された共通範囲に含まれている共通ノード数を求め、この共通ノード数に応じて、作業対象のネットワーク構成との類似度を示すネットワーク類似度を決定することができる。例えば、各候補手順書について得られた共通ノード数を作業対象のネットワーク構成に含まれるノード総数で除算し、この除算結果をネットワーク類似度としてランキング処理部225の処理に供することができる。
【0051】
上述したようにして各候補手順書について求められたシーケンス類似度およびネットワーク類似度に基づいて、図2に示したステップ306において、ランキング処理部225により、キーワード検索部222によって検索された候補手順書のランキング処理が行われる。このランキング処理部225では、例えば、各候補手順書について求められたシーケンス類似度とネットワーク類似度との和がそれぞれの候補手順書の有用性を示す指標として求められ、全ての候補手順書の順位は、この指標の値の大きい順に決定される。
【0052】
これにより、例えば、同程度のシーケンス類似度が得られた多数の候補手順書の中から、ネットワーク類似度の高い候補手順書に選択的に上位の順位を与え、図1に示した作成クライアント装置210の表示部217に優先的に表示させて(図2のステップ307)、利用者の選択に供することができる。
【0053】
利用者による入力部211の操作に応じて、上述したようにして表示された候補手順書の中の一つが選択されると、選択された候補手順書の中の上述したキーワードで特定される作業手順が手順書編集処理部214によって抽出され、作成中の作業手順書に追加される(ステップ308)。その後、作業手順書にまだ追加すべき作業手順が残っている場合は、ステップ309の否定判定とされてステップ302に戻り、新たに追加すべき作業手順を特定するためのキーワードの入力に応じて、作成支援サーバ装置220による作成支援処理が行われる。
【0054】
本出願人は、上述したようなシーケンス類似度とネットワーク類似度との双方を考慮したランキングとシーケンス類似度のみに基づくランキングとをそれぞれ施した候補手順書のリストを利用者に提供し、利用者によって選択された候補手順書の順位が上位10位以内に入っていた比率を比較する実験を行った。この実験の結果、シーケンス類似度とネットワーク類似度との双方を考慮したランキングでは、利用者が実際に選択した候補手順書が上位にランキングされている確率が、シーケンス類似度のみに基づくランキングに比べて明らかに高いことが確認された。
【0055】
このように、図1に示した作業手順書作成支援システムでは、利用者が上位にランキングされた候補を選択する可能性が高いリストを利用者に提供することができる。したがって、図1に示した作業手順書作成支援システムを適用することにより、利用者が膨大な候補手順書のリストの中から所望の候補手順書を選択する作業の負担を大幅に軽減することができる。
【0056】
なお、図1に示した作業手順書作成支援システムでは、ネットワークを介して作成クライアント装置210と作成支援サーバ装置220とを接続する構成とすることにより、複数の作成クライアント装置210が作成支援サーバ装置220側に備えられた作業手順書データベース201の共用化を図ることができる。その一方、作成クライアント装置と作成支援サーバ装置とを一体化した作成支援装置によって、図1に示した作業手順書作成支援システムと同等の機能を実現することも可能である。
【0057】
また、ネットワークを構成する各ノードに関する更に詳細な情報を考慮して、ネットワーク類似度をより精密に求めることもできる。
【0058】
ネットワーク構成情報は、ネットワークを構成する各ノードについて、少なくとも、ネットワーク機器としての種別を示すノードタイプ(図6参照)、機種名および設置場所を示す情報を格納するノードテーブルと、各ノードの接続関係を示す接続テーブル(図示せず)とから形成されている。
【0059】
より厳密なネットワーク類似度は、上述したステップ305においてネットワーク類似度を求める際に、図3に示した等価ノード判別部234により、例えば、候補手順書に対応するネットワーク構成の注目ノードが、作業対象のネットワークの対応するノードとノードタイプに加えて設置場所およびまたは機種名が一致した場合にのみ等価なノードとして判別し、この判別結果を共通範囲特定部235の処理に供することによって求めることができる。
【0060】
ここで、ネットワーク機器の保守作業の分野では、同一のタイプのネットワーク機器(例えばルータ)であっても、加入者線を直接収容する収容ビルに設置されている場合と複数の収容ビルを集約する集合ビルに設置されている場合とで、そのネットワーク機器に関する保守作業において必要とされる作業手順が異なる場合が多い。また、ネットワーク機器を提供しているベンダーごとに、あるいは、同一のベンダーであっても製品ごとに、必要とされる作業手順が異なる場合もある。
【0061】
したがって、上述したように、ノードタイプのみならず、設置場所や機種を考慮に入れてネットワーク類似度を求めることにより、作業対象に極めて類似した構成のネットワークを対象として適用された候補手順書に高い順位を与えたリストを利用者に提供することにより、利用者が適切な雛形文書を選択する作業をより容易にすることができる。
【0062】
特に、ノードタイプのみに着目して等価ノードを判別した結果に基づいて求められたネットワーク類似度が、多数の候補手順書について高い値を示している場合に、設置場所や機種を考慮に入れて等価ノードを限定することにより、ネットワーク構成が極めて近い候補文書に選択的に高い順位を与えることができるので、大きな効果が期待できる。
【0063】
また、利用者が選択した候補手順書が作成支援サーバ装置220から返されたリストにおいて与えられていた順位に応じて、ランキング処理部225によるランキング処理を制御することも可能である。
【0064】
図7に、作業手順書作成支援システムの別実施形態を示す。
【0065】
なお、図7に示した構成要素のうち、図1に示した構成要素と同等のものについては、同一の符号を付して示し、その説明は省略する。
【0066】
図7に示した作成クライアント装置210において、順位通知部218は、手順書編集処理部214を介して、利用者が入力部211を操作して選択した候補手順書のリストにおける順位を受け取り、ネットワークを介してこの順位を作成支援サーバ装置220に送出する。
【0067】
図7に示した作成支援サーバ装置220において、係数調整部226は、上述したようにして作成クライアント装置210から渡された順位に応じて、後述するようにして、ランキング処理部225においてランキングのための指標をネットワーク類似度とシーケンス類似度との重みつき加算によって算出する際に、ネットワーク類似度とシーケンス類似度とにそれぞれ与える重みを調整する。
【0068】
この係数調整部226は、例えば、上述した順位通知部218によって通知された順位が、所定の順位(例えば、10位)よりも低い場合、すなわち、通知された順位を示す数値Mpが所定の順位を示す数値(例えば、数値「10」)よりも大きい場合に、重みの調整が必要であると判断し、ネットワーク類似度に与える重みαを変更し、この変更に応じてシーケンス類似度に与える重み(1−α)を変更する。
【0069】
係数調整手法の一例としては、ネットワーク類似度の重みαに初期値「1」を与え、重みの調整が必要であると判断したときに、重みαに調整値β(0<β<1)を乗じた値を新たな重みαとする方法が考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上に説明したように、実施形態として開示した作業手順書作成支援システムでは、シーケンス類似度に加えて、ネットワーク類似度を考慮してキーワード検索で得られた候補文書をランキングすることにより、作成対象の作業手順書の雛形文書として適切な候補手順書をリストの上位に配置される確率を向上し、利用者が適切な候補手順書を選択する際の作業負担を大幅に軽減することができる。これにより、ネットワーク設備の保守作業ごとに行われる作業手順書の作成作業を格段に容易にすることができるので、ネットワーク設備の保守管理分野においてきわめて有用である。
【0071】
特に、ネットワーク設備の保守作業では、作業手順を特徴付けるキーワードの種類が少ない反面、キーワードが示す対象それぞれを表す用語は様々である場合が多いので、類義語を含んだキーワード検索結果をシーケンス類似度とネットワーク類似度とを用いてランキングすることで、所望の手順を含んでいる可能性を持つ候補手順書を漏れなく抽出した上で適切な順位を付与して提示するこの作業手順書作成支援システムの有用性は明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】作業手順書作成支援システムの一実施形態を示す図である。
【図2】作業手順書作成動作を表す流れ図である。
【図3】作成支援サーバ装置の詳細構成図である。
【図4】シーケンス類似度の算出を説明する図である。
【図5】ネットワーク類似度の算出を説明する図である。
【図6】ネットワーク構成情報の例を示す図である。
【図7】作業手順書作成支援システムの別実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0073】
201 作業手順書データベース
210 作成クライアント装置
211 入力部
212 構成情報保持部
213 キーワード受付部
214 手順書編集処理部
215 検索要求部
216 候補表示処理部
217 表示部
218 順位通知部
220 作成支援サーバ装置
221 検索受付部
222 キーワード検索部
223 シーケンス類似度算出部
224 ネットワーク類似度算出部
225 ランキング処理部
226 係数調整部
231 類義語データベース(DB)
232 類義語抽出部
233 検索処理部
234 等価ノード判別部
235 共通範囲特定部
236 類似度決定部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
作成中の作業手順書に付加すべき作業手順を示す少なくともひとつのキーワードの入力に応じて、蓄積されている作業手順書例の中から前記キーワードを含む作業手順書を雛形文書の候補として検索する検索手段と、
検索された雛形文書の候補それぞれと前記作成中の作業手順書とのシーケンスマッチングを行ってシーケンス類似度を評価する過程評価手段と、
前記雛形文書の候補それぞれが適用されたネットワーク構成と前記作成中の作業手順書が適用されるネットワーク構成とのネットワーク類似度を評価する構成評価手段と、
前記雛形文書の候補についてそれぞれ得られたシーケンス類似度とネットワーク類似度とに基づいて前記雛形文書の候補をランキングして、前記作業手順書の作成作業に供するランキング手段と
を備えたことを特徴とする作業手順書作成支援システム。
【請求項2】
請求項1に記載の作業手順書作成支援システムにおいて、
前記検索手段は、
入力されうるキーワードそれぞれに対応する類義語を蓄積する類義語辞書と、
前記キーワードの入力に応じて、前記類義語辞書から当該キーワードに対応する類義語を検索する類義語検索手段と、
前記入力されたキーワードを含む作業手順書例に加えて、前記類義語検索手段によって検索された類義語を含む作業手順書例を過去の作業手順書の蓄積から抽出する抽出手段とを備えた
ことを特徴とする作業手順書作成支援システム。
【請求項3】
請求項1に記載の作業手順書作成支援システムにおいて、
前記構成評価手段は、
前記検索手段によって検索された各候補に添付された構成情報で示される候補ネットワーク構成と前記作成中の作業手順書が適用される対象ネットワーク構成とを照合し、同一の機能を果たすノードの連なりが共通に分布している共通範囲を抽出する構成照合手段と、
前記各候補について抽出された共通範囲の大きさに基づいて、前記各候補に対応するネットワーク類似度を算出する算出手段とを備えた
ことを特徴とする作業手順書作成支援システム。
【請求項4】
請求項3に記載の作業手順書作成支援システムにおいて、
前記構成照合手段は、前記各候補ネットワーク構成に含まれるノードと前記対象ネットワーク構成に含まれるノードとについて、ネットワーク機器としての種別とともに設置場所の種類を判別し、双方が一致した場合に同一の機能を果たすノードとして抽出する配置判別手段を備えた
ことを特徴とする作業手順書作成支援システム。
【請求項5】
請求項3に記載の作業手順書作成支援システムにおいて、
前記構成照合手段は、前記各候補ネットワーク構成に含まれるノードと前記対象ネットワーク構成に含まれるノードとについて、ネットワーク機器としての種別とともにその供給元およびまたは機種を判別し、双方が一致した場合に同一の機能を果たすノードとして抽出する機種判別手段を備えた
ことを特徴とする作業手順書作成支援システム。
【請求項6】
請求項1に記載の作業手順書作成支援システムにおいて、
前記ランキング手段は、
前記各候補について得られたシーケンス類似度とネットワーク類似度とにそれぞれに対応する重み係数をつけて合計して得られた合計値の大小で順位を決定する順位決定手段と、
前記作成中の作業手順書への反映のために選択された候補の順位に基づいて、前記シーケンス類似度およびネットワーク類似度にそれぞれ適用する重みを調整する調整手段とを備えた
ことを特徴とする作業手順書作成支援システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−181170(P2009−181170A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17499(P2008−17499)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】