説明

作業用履物

【課題】簡単に脱ぎ履きでき、しかも良好にフィットできるうえ、作業者の足を確りと保持できるようにする。
【解決手段】足首部(2)の上方に胴部(3)を備え、胴部(3)の上端に履口(4)を開口してある。足甲部(5)と胴部(3)はゴム材料または合成樹脂材料からなる外層(6)を備える。足首部(2)の前面側から足甲部(5)にかけての部位と足首部(2)の背面側の部位との少なくともいずれかに、伸縮部(11)を形成してある。伸縮部(11)は、外層(6)に代えて、独立気泡構造のクロロプレンスポンジからなる伸縮層(12)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業用長靴や地下足袋などの、足首部の上方に胴部を備える作業用履物に関し、さらに詳しくは、簡単に脱ぎ履きでき、しかも良好にフィットできるうえ、作業者の足を確りと保持できる、作業用履物に関する。
【背景技術】
【0002】
作業用長靴は、一般に、メリヤス等の布地の外側にゴム材料からなる外層を一体に設けてあり、足首部の上方に胴部を備え、胴部の上端に履口を開口してある。この作業用長靴は、泥の粘着力などに抗して作業できるように作業者の足を確りと保持する必要があり、作業者の足や下肢にフィットするのが好ましい。しかしながら、上記の外層は、作業者の足を確りと保持し他物との接触から十分に保護する必要から、伸縮性の小さいゴム材料が使用される。このため、この作業用長靴の履き脱ぎの際に、足首部の内部を作業者の足が通過し難い。胴部や足首部の内部を広めに形成すると、作業用長靴の履き脱ぎを容易にできるが、この場合には作業者の下肢へのフィット性が低下してブカブカした状態になる問題があり、また、履口が広く形成されて泥や小石などが靴内へ侵入し易い問題もある。
【0003】
上記の問題を解消するため、従来の作業用長靴には、胴部の側面に履口から足首に亘ってファスナーを設け、これを開くことにより履き脱ぎを容易にするとともに、ファスナーを閉じることでフィット性を確保するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平06−233701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来の作業用長靴は、胴部の側面にファスナーと補助シートを取り付ける工程が必要となり、安価に実施できないうえ、農作業など各種作業においてこのファスナーに泥やごみを噛み込み易く、開閉作業が容易でなくなって作業用長靴の履き脱ぎに手間取ることとなる問題があり、しかもこのファスナーが破損し易い問題がある。
【0006】
本発明の技術的課題は、上記の問題点を解消し、簡単に脱ぎ履きでき、しかも良好にフィットできるうえ、作業者の足を確りと保持できる、作業用履物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題を解決するために、例えば、本発明の実施の形態を示す図1から図5に基づいて説明すると、次のように構成したものである。
即ち、本発明は作業用履物に関し、足首部(2)の上方に胴部(3)を備え、この胴部(3)の上端に履口(4)を開口し、足甲部(5)と上記の胴部(3)はゴム材料または合成樹脂材料からなる外層(6)を備える、作業用履物であって、上記の足首部(2)の前面側から足甲部(5)にかけての部位と足首部(2)の背面側の部位との少なくともいずれかに伸縮部(11)を形成してあり、この伸縮部(11)は、上記の外層(6)に代えて伸縮性に優れた材料からなる伸縮層(12)を備えることを特徴とする。
【0008】
上記の作業用履物を履き脱ぎする際、作業者の足は、足の甲の足首寄り部位と踵とが、作業用履物の内面のうち、足首部の前面側から足甲部にかけての部位と、足首部の背面側の部位とにつかえる。これらの部位は少なくともいずれかに伸縮部が形成してあるので、作業者の足がこれらの部位の内面に当たるとこの伸縮部の伸縮層が伸びて拡がり、作業者の足は履物の足首部内を円滑に通過する。
【0009】
作業者の足は、履物の足首部内を円滑に通過できるので、履物の胴部は過剰に広く形成する必要がなく、従って履物を履いた際にブカブカせず、この胴部の内面が作業者の下肢に良好にフィットする。しかも、履物の足甲部の先端側部位と履物の踵部とは、いずれも伸縮層を形成する必要がなく、外層が伸縮性の低いゴムなどの材料で形成されるので、これらの部位により作業者の足が確りと保持される。
【0010】
上記の伸縮部は、足首部の前面側から足甲部にかけての部位と、足首部の背面側の部位との、いずれか一方または両方に設けることができる。しかしながら、例えば草刈作業など、作業の種類によっては小石などが飛んで作業用履物の正面側に衝突する場合がある。そこで、上記の足首部の前面側から足甲部にかけての部位は上記の外層で構成し、上記の伸縮部は、足首部の背面側にのみ形成するとより好ましい。
【0011】
上記の伸縮性に優れた材料とは、上記の外層を形成するゴム材料などに比べて伸縮性が良好であるものをいう。この伸縮性は、伸縮部の大きさによっても異なるが、例えば、内面にメリヤス生地を一体に形成した状態で一定荷重を加えたときの伸度が、外層を形成する材料に比べて1.5〜2.5倍程度が好ましく、1.7〜2.0倍程度であるとより好ましい。この伸縮性に優れた材料としては、例えばクロロプレンスポンジなどの、独立気泡構造のスポンジ材料を用いることができる。
【0012】
また、上記の履口は、周囲全体を上記のゴム材料からなる外層で形成してもよいが、この履口の少なくとも一部に第2の伸縮部を形成し、この第2伸縮部に、上記の外層に代えて伸縮性に優れた材料からなる第2伸縮層を設けると、履き脱ぎの際に履口を広げて作業者の足を通し易くできるうえ、作業者の下肢の太さ、特に脹脛の太さに違いがあっても、この第2伸縮層の伸縮によりこれを吸収することができ、いずれの作業者の下肢にも良好にフィットさせることができて好ましい。なお、この第2伸縮層は、上記の外層よりも伸縮性に優れておればよく、上記の伸縮層と同じ材料と異なる材料とのいずれの材料で形成してもよい。
【0013】
上記の第2伸縮部は、履口の周囲のいずれの部位に設けても良く、履口から下方へ延設することが可能である。例えばこの第2伸縮部を胴部の背面側に設けて足首部の上端部まで延設し、上記の第2伸縮層を前記の伸縮層に連続させて形成することができる。この場合はこの伸縮層と第2伸縮層とを同じ材料で一度に形成すると、個別に形成する場合に比べて製造工程を簡略にでき、安価に実施できて好ましい。しかもこの場合には、胴部の上端から足首部に亘って伸縮可能な層が形成されるので、一層容易に履き脱ぎできるうえ、この胴部が作業者の下肢へ一層良好にフィットでき、より好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は上記のように構成され作用することから、次の効果を奏する。
【0015】
(1)作業用履物を履き脱ぎする際、作業者の足が足首部の内面に当たると上記の伸縮層が伸びて拡がることから、作業者の足はこの足首部内を円滑に通過することができ、簡単に脱ぎ履きできる。
【0016】
(2)作業者の足は履物の足首部内を円滑に通過できるので、履物の胴部を過剰に広く形成する必要がないことから、この胴部の内面を作業者の下肢に良好にフィットさせることができる。
【0017】
(3)しかも、履物の足甲部の先端側部位と履物の踵部とは、いずれも伸縮層を設ける必要がなく、伸縮性の低い材料で外層を形成できるので、これらの部位で作業者の足を確りと保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1から図3は本発明の第1実施形態を示し、図1は斜め後方から見た状態の作業用長靴の斜視図、図2は伸縮部近傍の横断端面図、図3は作業者が履く際の中間状態を示す、作業用長靴の縦断面図である。
【0019】
図1に示すように、この作業用長靴(1)は、足首部(2)の上方に胴部(3)を備え、この胴部(3)の上端に履口(4)を開口してある。上記の胴部(3)や足甲部(5)は、外層(6)が天然ゴム材料からなり、この外層(6)の内面にメリヤスの布地(7)が一体に設けてある。なお、爪先部(8)の内部には、親指と他の指とを区画する指股部(9)が設けてある。また踵部(10)の後方には、親指側寄り位置に踏押部(18)が突設してあり、作業用長靴(1)を脱ぐ際に、他方の足などでこの踏押部(18)を押さえつけることにより、この作業用長靴(1)を簡単に脱げるようにしてある。但し本発明の作業用履物(1)は、この指股部(9)や踏押部(18)を省略したものであってもよいことは、言うまでもない。
【0020】
上記の作業用長靴(1)は踵部(10)の上方、即ち足首部(2)の背面側の部位に伸縮部(11)が形成してある。
図2に示すように、上記の伸縮部(11)は、上記の天然ゴム材料からなる外層(6)に代えて、独立気泡構造のクロロプレンスポンジからなる伸縮層(12)を備える。この伸縮層(12)は周縁部(19)を上記の外層(6)に重ね合わせてあり、この周縁部(19)を保護テープ(20)で覆ってある。上記の伸縮部(12)を構成するクロロプレンスポンジは、上記の外層(6)を構成する天然ゴム材料に比べて優れた伸縮性を有している。具体的には、上記のメリヤスの布地(7)を一体に付設した状態で、外層(6)部分の伸度が120%であるのに対し、上記の布地(7)を一体に付設した伸縮層(12)の部分では、伸度が210%であり、約1.75倍の伸縮性を備えている。
【0021】
上記の胴部(3)には、上記の履口(4)の周囲のうちの背面側部位に第2の伸縮部(13)が形成してある。この第2伸縮部(13)は、上記の天然ゴム材料からなる外層(6)に代えて、上記の伸縮層(12)と同じ材料からなる第2伸縮層(14)を備えている。この第2伸縮部(13)は、上記の胴部(3)の背面側で履口(4)から足首部(2)の上端部まで延設してあり、上記の第2伸縮層(14)は上記の伸縮層(12)に連続させてある。
【0022】
上記の作業用長靴(1)は、内部が足首部(2)で略直角に曲がっているため、これを履く場合、図3に示すように、作業者の足(15)が足首部(2)でつかえて踵(16)が内面を後方へ押圧する。この足首部(2)の背面側には上記の伸縮部(11)が形成してあり、伸縮性に優れた材料からなる伸縮層(12)を備えるので、作業者の踵(16)に押圧された伸縮部(11)は伸びて拡がり、これによりこの足首部(2)内を作業者の足(15)が円滑に通過する。
【0023】
上記の胴部(3)の背面側には、上端の履口(4)から足首部(2)までに亘って第2伸縮部(13)が形成してあり、前記の伸縮部(11)と連続させてある。このため、作業者は上記の履口(4)を拡げることができて履き易いうえ、この作業用長靴(1)を履いた状態では、下肢(17)に胴部(3)の内面を良好にフィットさせることができる。
一方、この作業用長靴(1)の足甲部(5)と踵部(10)は、いずれも上記の天然ゴム材料からなる外層(6)で形成されているので、この両部位により作業者の足(15)が確りと保持される。
【0024】
上記の実施形態では、上記の伸縮部(11)と第2伸縮部(13)とを略同じ幅で連結した。しかし本発明では、この伸縮部や第2伸縮部は特定の大きさに限定されない。
例えば、図4(a)に示す変形例1では、第2伸縮部(13)を下に向かって徐々に広く形成したものであり、図4(b)に示す変形例2では、第2伸縮部(13)の幅を下に向かって徐々に狭く形成したものである。
【0025】
図5は本発明の第2実施形態を示す、作業用長靴の斜視図である。
この第2実施形態では、作業用長靴(1)の足首部(2)の前面側から足甲部(5)にかけての部位に伸縮部(11)を形成したものであり、この伸縮部(11)は、上記の第1実施形態と同様、上記のゴム材料からなる外層(6)に代えて、伸縮性に優れた材料からなる伸縮層(12)を備えるものである。作業者がこの作業用長靴(1)を履く場合には、作業者の足が足首部(2)を通過する際に、足の甲が上記の伸縮部(11)の内面に押し当るので、この伸縮部(11)の伸縮層(12)が伸びて広がり、これにより、上記の第1実施形態と同様、作業者の足が足首部(2)内を円滑に通過する。
【0026】
上記の各実施形態で説明した作業用履物は、本発明の技術的思想を具体化するために例示したものであり、各部位の材質や形状、配置などをこの実施形態のものに限定するものではなく、本発明の特許請求の範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【0027】
例えば上記の各実施形態では、作業用履物が作業用長靴である場合について説明した。しかし本発明の作業用履物は、地下足袋などであってもよい。また上記の各実施形態では外層が天然ゴム材料からなる場合について説明したが、本発明ではこの外層を合成ゴム材料や合成樹脂材料など他の材料で形成してもよい。さらに、本発明では上記の履口に、作業者の下肢を締め付ける保護カバーなどを設けたものであってもよい。
また上記の実施形態では、上記の伸縮層と第2伸縮層とを同じ材料で形成したので簡便で安価に製造できるが、本発明では両者の材料を異ならせても良く、また第2伸縮部は省略することも可能である。なお、これらの伸縮層や第2伸縮層は、ラテックススポンジなど、クロロプレンスポンジ以外の材料で構成してもよいことは、言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の作業用履物は、簡単に脱ぎ履きでき、しかも良好にフィットできるうえ、作業者の足を確りと保持できるので、農作業や土木作業をはじめ、各種作業に用いる長靴や地下足袋に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態を示す、斜め後方から見た状態の作業用長靴の斜視図である。
【図2】第1実施形態の、作業用長靴の伸縮部近傍の横断端面図である。
【図3】第1実施形態の、作業者が履く際の中間状態を示す、作業用長靴の縦断面図である。
【図4】本発明の変形例を示し、図4(a)は変形例1の作業用長靴の背面図であり、図4(b)は変形例2の作業用長靴の背面図である。
【図5】本発明の第2実施形態を示す、作業用長靴の斜視図である。
【符号の説明】
【0030】
1…作業用履物(作業用長靴)
2…足首部
3…胴部
4…履口
5…足甲部
6…外層
11…伸縮部
12…伸縮層
13…第2伸縮部
14…第2伸縮層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
足首部(2)の上方に胴部(3)を備え、この胴部(3)の上端に履口(4)を開口し、足甲部(5)と上記の胴部(3)はゴム材料または合成樹脂材料からなる外層(6)を備える、作業用履物であって、
上記の足首部(2)の前面側から足甲部(5)にかけての部位と足首部(2)の背面側の部位との少なくともいずれかに伸縮部(11)を形成してあり、
この伸縮部(11)は、上記の外層(6)に代えて伸縮性に優れた材料からなる伸縮層(12)を備えることを特徴とする、作業用履物。
【請求項2】
上記の伸縮部(11)を、足首部(2)の背面側にのみ形成した、請求項1に記載の作業用履物。
【請求項3】
上記の伸縮層(12)が独立気泡構造のスポンジ材料からなる、請求項1または請求項2に記載の作業用履物。
【請求項4】
上記の伸縮層(12)が独立気泡構造のクロロプレンスポンジからなる、請求項3に記載の作業用履物。
【請求項5】
上記の履口(4)の周囲の少なくとも一部に第2の伸縮部(13)を形成し、この第2伸縮部(13)は、上記の外層(6)に代えて伸縮性に優れた材料からなる第2伸縮層(14)を備える、請求項1から4のいずれか1項に記載の作業用履物。
【請求項6】
上記の第2伸縮層(14)を、上記の伸縮層(12)に連続させて形成した、請求項5に記載の作業用履物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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