説明

作業車両の変速操作装置

【課題】変速レバー組付後にもレバーガイドが簡単に取付けられる作業車両の変速操作装置を提供する。
【解決手段】この発明は、運転席8の側方に変速切換用の変速レバー9を揺動自在に立設し、該変速レバー9を挿通し動作を案内するガイド孔14を備えたプレート状のレバーガイド16を運転席フレーム13側に取付けてなる作業車両の変速操作装置において、上記ガイド孔14とレバーガイド外周との間に変速レバー9をガイド孔14に挿通するための開放溝14aを形成している。
さらに、レバーガイド16を運転席フレーム13側に取付けるためにボルトを挿通する取付孔又は切欠からなる取付部20をレバーガイド16に複数箇所配設したものであって、運転席等の仕様変更に応じてレバーガイド16の取付位置を左右方向に変更可能に各取付部20を複数個設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はトラクタ等の作業車両の変速操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来トラクタの運転席側方に走行変速を切換える変速レバーを左右及び前後方向に揺動可能に立設し、この変速レバーを挿通しレバーの揺動方向を案内するガイド孔を備えたプレート状のレバーガイドを、運転席フレーム側に取付けた変速操作部が例えば特許文献1に示すように公知である。
【特許文献1】実開昭63−84623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし上記ガイド孔はレバーの杆部を挿通するのに必要な幅の溝状の孔で、しかも孔の内周はレバーガイドの外周に対しては閉鎖されているため、車両の機体側に変速レバーを組付けた後にレバーガイドを取付けるためには、大きい径のレバーグリップや各種操作用のスイッチ等を付設したレバーグリップの場合、レバー孔に対してレバーの杆部を先に挿通してレバーグリップを後付けするか、特許文献1に示すようにレバーの杆部を途中で分割して、上半部だけを後付けする必要があった。
この発明は、上記のように変速レバーの先端からはガイド孔を介しての下向きにはレバーガイドを挿入できない事情がある場合でも、レバーの杆部の分割構成にしたり、レバーグリップを後付けにする必要のないレバーガイドを備えた走行変速操作装置を提供することを主たる目的としている。
また運転席の使用の変更等により、レバーガイドを左右方向に移動させて取付位置を変更する場合にも対応できる変速操作装置を提供することを二次的な目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するための本発明は、第1に運転席8の側方に変速切換用の変速レバー9を揺動自在に立設し、該変速レバー9を挿通し動作を案内するガイド孔14を備えたプレート状のレバーガイド16を運転席フレーム13側に取付けてなる作業車両の変速操作装置において、上記ガイド孔14とレバーガイド外周との間に変速レバー9をガイド孔14に挿通するための開放溝14aを形成してなることを特徴としている。
【0005】
第2に、レバーガイド16を運転席フレーム13側に取付けるためにボルトを挿通する取付孔又は切欠からなる取付部20をレバーガイド16に複数箇所配設したものにおいて、運転席等の仕様変更に応じてレバーガイド16の取付位置を左右方向に変更可能に各取付部20を複数個設けてなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
変速レバーを車両の機体側に組付けて変速装置との連係を確保した後、ガイド板の開放溝を介して変速レバーの桿部を挿通させながら運転席フレーム側にレバーガイドを後付けすることができる。その結果大きい径のグリップや各種スイッチが設けられたグリップ付の変速レバーガイドであってもグリップを後付したり、変速レバーの杆部を分割型にする必要がなく、組立作業が容易になる。
【0007】
また孔や切欠からなるレバーガイドの取付部をそれぞれ複数個設けることにより、運転席等の仕様変更に応じてレバーガイドの取付位置を左右に移動変更できるので、レバーガイドに汎用性をもたせて部品点数の増加を抑制することができる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下図示する実施形態につき説明すると、図1は本発明が適用される農業用トラクタの1例を示す側面図で、機体1は前後輪2,3によって支持され、エンジンを内蔵するボンネット4と運転席を覆うキャビン6とで構成されている。ボンネット4と左右のドア付のキャビン6の下部には機体フレームの一部を構成するトランスミッション7が設置されている。
【0009】
図2,図3はキャビン6内の運転席(座席シート)8の側方に本発明の対象となる副変速機切換用の変速レバー9が前後及び左右揺動操作可能に立設された状態を示している。
キャビン6内の左右両側には後輪を覆うフェンダー10が形成されている。この例では運転席8の左右両側にアームレスト11aを備え、進行方向右側には後方(退避)回動可能な補助アームレスト11bが設けられている。運転席下方には運転席8を弾力的に支持する支持機構12が運転席フレーム13との間に介設されており、変速レバー9は運転席8の幅広のサイズに応じて(図10に示すスタンダードタイプのものに比して)運転席フレーム13のやや左寄りに設けられている。
【0010】
図4は運転席フレーム13の上面より突出した変速レバー9と、運転席フレーム13側に取付けられ、低速(L),中速(M),高速(H),ニュートラル(N)の変速パターンに対応して変速レバー9の杆部9aを挿通して揺動を案内する複数に分岐したガイド孔14を形成してなるプレート状のレバーガイド16の取付状態を示す左前方斜視図である。
【0011】
この例では変速レバー9の上端には、後述する主変速装置を切換えるスイッチ17等のスイッチ類を付設したレバーグリップ18が装着されており、後述するように変速レバー9は予めレバーグリップ18を取付けた状態で機体フレーム側に取付けられる。
【0012】
また変速レバー9のレバーグリップ18の下方は、図5,図6に示すようにフレキシブルな材料よりなる蛇腹筒状のレバーカバー19で被覆され、該レバーカバー19は、前記レバーガイド16の上方を覆うように運転席フレーム13側に取付けられた前後方向のボックス状のパネルカバー21(図6,図2参照)に対して取付けられる。
【0013】
したがって変速レバー9はパネルカバー21の図示しない切欠窓に前後左右揺動可能な状態で挿通されており、上記切欠窓を塞ぐ状態でレバーカバー19は前後左右に変形可能に取付プレート23を介してパネルカバー21に取付けられている(図5,図6参照)。
22は、レバー杆9aの途中に設けられ、レバーカバー19とレバー杆9aを嵌合して接合する接合部である。
【0014】
次に図5〜図8に基き変速レバー9の機体フレーム側への取付構造と変速操作機構について説明する。
図示するように変速レバー9のレバーガイド16下方への挿入端には正面視で杆部9aとL字形をなすように長方形の取付プレート24が一体的に取付けられている。
【0015】
これに対し、その下方には上記取付プレート24を重ね合わされる略同形の受けプレート26が、L字形の棒状材からなる中継杆27の上辺部に沿って取付けられており、上記取付プレート24と受けプレート26が上下に重ね合わされた状態でボルト締着されて一体的に着脱可能に連結されている。
【0016】
さらに中継杆27の下端には図7,図8に示すように側面視U字形のジョイント28が開放端が下向きになるように固設されており、ジョイント28の開放端には直方体のジョイントブロック29が(変速レバー9の)左右方向の揺動支点軸(リーマーボルト)31によって左右揺動自在に取付けられている。上記ジョイントブロック29は支点取付プレート32を介してトランスミッション7の側面に取付けられる(変速レバー9の)前後方向の揺動支点軸33の中央に前後回動自在に嵌合されて軸支されている。
【0017】
そして上記支点軸33の左右端には、回動自在に軸支されたボス部34,34に下端が固着され、上端が内側に向き合うように屈曲された側面視三角形状のレバープレート36a,36bが上方に向かって互に平行に且つ前後揺動自在に組み付けられている。該レバープレート36a,36bの互に向き合った上端には、前記中継杆27を係脱可能に収容する切欠状の係合部37a,37bがそれぞれ形成されている。
【0018】
またレバープレート36a,36bの前方に突出した三角形の頂点側には、ロッドエンド38,38を介して下向きのロッド39a,39bの上端が連結されており、該ロッド39a,39bの下端は、図6に示すようにトランスミッション7の側面に突出した中・低速用のシフタ軸41a,41bに一体的に嵌合固定されたシフトアーム42a,42bにそれぞれ連結されている。
【0019】
上記機構により変速レバー9は、レバーガイド16のガイド孔14の中立(N)位置から左右いずれかに揺動することにより、左右いずれかのレバープレート36a,36bの係合部37a,37bのいずれかに選択的に係合し、この状態でガイド孔14の中・低速位置M又はL若しくは高速位置Hで前後方向に揺動することにより、中継杆27,レバープレート36a,36b,ロッド39a,39b,シフトアーム42a,42b,シフタ軸41a,41bを介して高速,中速,低速に切換操作することができる。
【0020】
図9は上記変速レバー9によりロッド39a,39b,シフトアーム42a,42b等を介して変速操作されるトラクタのトランスミッション7の伝動系を示す展開平断面図であり、以下その機構の概要と変速機構部について説明する。
トランスミッション7はエンジン(図示しない)の動力を入力して変速機構を経て前後輪2,3の走行系と、連結された図示しない作業機にPTO軸S1を介して伝動する。
【0021】
トランスミッション7は、入切によって走行伝動系への動力を断続させる主クラッチ43と、複数段(図示する例では4段)の変速切換を行う主変速装置44と、操縦部に設けられた切換レバー(前後進切換操作具)の前後進切換操作によって本トラクタの前後進切換を行う前後進切換装置46、操縦部に設けられた変速レバー9の変速切換操作(変速指令)によって複数段(図示する例では低速、中速、高速の3段)の変速切換を機械的に行う速度切換装置(速度切換部,速度切換機構)47と、高速と低速の変速切換を行う副変速装置48と、前輪2への動力の断続及び変速を行う前輪駆動切換装置(前輪駆動切換部,前輪駆動切換機構)49と、作業機側に動力を出力するPTO軸(出力軸)S1への動力を入切作動によって断続させる油圧クラッチである作業機クラッチ51とを備えている。S2,S3,S4,S5はそれぞれ走行駆動軸,作業機動力伝動軸,走行伝動軸を示す。
【0022】
このうち速度切換装置47は、主変速装置44よって変速されて前後進切換装置46による前後進切換後の動力が伝動される前後進切換軸S7に回転自在に(遊転状態で)支持されて自身の動力を常時速度切換軸S8に伝動する変速ギヤ52と、前後進切換軸S7からの動力が常時伝動されて速度切換軸S8に回転自在に(遊転状態で)支持される一対の変速ギヤ53,54と、入切作動によって前後進切換軸S7から変速ギヤ54への動力を断続する同期噛合い式(シンクロメッシュ式)の変速クラッチ56と、速度切換軸S8に支持された変速クラッチ57とを備えている。
【0023】
この変速クラッチ57は、速度切換軸S8上での軸方向の往復微動によって、変速ギヤ53の動力を速度切換軸S8に伝動するとともに変速ギヤ54から速度切換軸S8への動力伝動を遮断する状態と、変速ギヤ54の動力を速度切換軸S8に伝動するとともに変速ギヤ53から速度切換軸S8への動力伝動を遮断する状態と、該一対の変速ギヤ53,54の何れの動力も速度切換軸S8に伝動させない状態とを切換える同期噛合い式クラッチである。
【0024】
本トラクタは、上記変速レバー9のガイド孔14の左右いずれかの位置での前後揺動操作(変速切換操作)により2つの変速クラッチ56,57を作動させ、3つの変速ギヤ52,53,54の何れか1つの動力を走行切換軸S8に、低速と中速と高速との3段階で、伝動するように構成されている。そして、速度切換軸S8の動力は、副変速装置48に伝動される。
【0025】
次に本発明の要部である変速操作装置の特にレバーガイド16のガイド孔14につきさらに詳細に説明すると、図4,図5に示すようにレバーガイド16は走行方向に向かって右側には高速域Hを有する溝が、左側には中低速域M,Lを有する溝が、ニュートラル域Nの溝を介して双方向に通過するように形成されている。
【0026】
さらに高速域H側の溝では前端に高速域Hを備え、中低速域側の溝では前端に中速域Mを備え後端に低速域Lを備えており、H,N,M,Lの各ポジションに変速レバー9を移動(揺動)することにより、前述したトランスミッション7内の変速クラッチが操作されて高速,中立,中速,低速に切換えられる。
【0027】
そして上記レバーガイド16のガイド孔14は、レバーガイド16の外周との間に(本実施例では左側の低速域(ポジション)Lの位置に)外側に向かって開放された開放溝14aが形成され、この開放溝14aは予め機体フレーム側に変速レバーが取付けられた後にレバーガイド16を運転席フレーム13側に取付ける際に、変速レバー9の杆部9aをこの開放溝14aに収容しながら通過させて、ガイド孔14内に変速レバー9を納めた後、レバーガイド16を運転席フレーム13側に取付けるためのものである。逆に取付け後レバーガイド16を取り外す際にも同様に変速レバー9を開放溝14aで通過させて取り外すことが可能である。
【0028】
上記レバーガイド16の上面にはゴム又はプラスチック材等の、望ましくは弾力性を備えた部材からなるプレート状のラバー15がビス止め又は接着剤等によって取付けられ、このラバー15には上記ガイド孔14より周縁が僅かに突出する大きさのガイド孔14bが形成され、変速レバー9の揺動操作時に、レバー杆部9aが直接金属板からなるレバーガイド16に当接するのを防止している。
【0029】
また上記レバーガイド16は既述のように運転席フレーム13に対して直接又は何らかの部材を介してビス止め等によって変速レバー9挿通用の切欠窓13aを塞ぐように着脱自在に取付けられるが、その取付孔(取付部)20は(本実施例では前後の左右端に設けられている)、取付位置を前後調節できるように前後方向に長孔となっているほか、各取付孔20は各位置において(本実施例では)左右2ヶ所ずつ配設されている。この取付孔(部)20は図示するように一部又は全部が外側に向かって開放された切欠部であってもよい。
【0030】
これは運転席の座席シートのサイズや高さ等の仕様の違いに応じてレバーガイド16の取付位置を左右にずらして調節しながら取付けることを可能にするものであり、左右いずれの列の取付孔20を使用するかにより左寄り又は右寄りの位置を選択して取付けることを可能にするものである。
【0031】
図10は本発明のレバーガイド16の外側の取付部20を利用してレバーガイド16の取付位置を内側にずらして取付けた(したがって変速レバー9も内側にずらされて取付けられる)場合の実施例を示している。このケースでは運転席(座席シート)8にアームレスト11a,11bがなく全体として幅狭である点と、運転席8の下方の支持部12は弾力性を備えていない高さの低いものが使用されている点及び運転席8の座席高さが異なることにより変速レバー9の突出高さ(長さ)も高い(長い)ものが使用されている点が異なる。
【0032】
このようにこの発明によれば取付部20を左右方向に複数個設けることにより、運転席の仕様変更に応じてレバーガイド16の取付位置を左右にずらすことによって対応できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明が実施されるトラクタの側面図である。
【図2】本発明の運転席まわりのキャビン内の構成を示す正面図である。
【図3】運転席まわりのキャビン内の構成を示す平面図である。
【図4】ガイドプレートと変速レバーの取付状態を示す正面斜視図である。
【図5】ガイドプレートと変速レバーの取付状態を示す背面斜視図である。
【図6】変速レバーと操作系の全体構造を示す側面斜視図である。
【図7】変速レバーの左右揺動による高速、中低速の切換機構を示す正面斜視図である。
【図8】変速レバーの操作系と前後切換レバーの操作系を示す背面斜視図である。
【図9】本発明の操作装置が適用されるトランスミッションの1例を示す展開平面図である。
【図10】本発明の別の実施例を示す運転席まわりの正面図である。
【符号の説明】
【0034】
8 運転席
9 変速レバー
13 運転席フレーム
14 ガイド孔
14a 開放溝
16 レバーガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転席(8)の側方に変速切換用の変速レバー(9)を揺動自在に立設し、該変速レバー(9)を挿通し動作を案内するガイド孔(14)を備えたプレート状のレバーガイド(16)を運転席フレーム(13)側に取付けてなる作業車両の変速操作装置において、上記ガイド孔(14)とレバーガイド外周との間に変速レバー(9)をガイド孔(14)に挿通するための開放溝(14a)を形成してなる作業車両の変速操作装置。
【請求項2】
レバーガイド(16)を運転席フレーム(13)側に取付けるためにボルトを挿通する取付孔又は切欠からなる取付部(20)をレバーガイド(16)に複数箇所配設したものにおいて、運転席等の仕様変更に応じてレバーガイド(16)の取付位置を左右方向に変更可能に各取付部(20)を複数個設けてなる請求項1の作業車両の変速操作装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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