説明

作業車両

【課題】排気ガス中に含まれる微粒子状物質を捕捉して除去するフィルタ装置を該エンジンの上方側に配置した作業車両において、エンジンを冷却するラジエータ側からのエアの流動を妨げることなく、フィルタ装置側の熱が上方側の各種部材に伝導することも抑制される作業車両を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、ディーゼル式のエンジン4からの排気ガス中に含まれる微粒子状物質を捕捉して除去するフィルタ装置34を該エンジン4の上方側に配置し、エンジン4を冷却するラジエータ28を該エンジン4の前方側に設けた作業車両であって、エンジン4後部の中央部上方側にフィルタ装置34を配置し、該フィルタ装置34の上方及び後方を覆う遮熱カバー38を設け、該遮熱カバー38によって、前方側からフィルタ装置34側に流動してきたエアを後方且つ下方に案内する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ディーゼル式のエンジンからの排気ガス中に含まれる微粒子状物質を捕捉して除去するフィルタ装置を備えた作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル式のエンジンからの排気ガス中に含まれる微粒子状物質を捕捉して除去するフィルタ装置を該エンジンの上方側に配置し、エンジンを冷却するラジエータを該エンジンの前方側に設けた特許文献1に示す作業車両が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−31955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記文献の作業車両では、フィルタ再生等により高温となるフィルタ装置側の熱が、エンジン及びフィルタ装置の上方側に配置されたボンネット等の部材に伝わるのを防止するため、該ボンネット等の部材に別途断熱材を設ける必要があるとともに、エンジンの上方側に配置されたフィルタ装置がラジエータ側からのエアの流動を妨げ、エンジン等の冷却効率が低下する場合がある。
本発明は、排気ガス中に含まれる微粒子状物質を捕捉して除去するフィルタ装置を該エンジンの上方側に配置した作業車両において、エンジンを冷却するラジエータ側からのエアの流動を妨げることなく、フィルタ装置側の熱が上方側の各種部材に伝導することも抑制される作業車両を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、第1に、ディーゼル式のエンジン4からの排気ガス中に含まれる微粒子状物質を捕捉して除去するフィルタ装置34を該エンジン4の上方側に配置し、エンジン4を冷却するラジエータ28を該エンジン4の前方側に設けた作業車両であって、エンジン4後部の中央部上方側にフィルタ装置34を配置し、該フィルタ装置34の上方及び後方を覆う遮熱カバー38を設け、該遮熱カバー38によって、前方側からフィルタ装置34側に流動してきたエアを後方且つ下方に案内することを特徴としている。
【0006】
第2に、前方側のエアをラジエータ28側に吸引する冷却ファン29及び該冷却ファン29のファンシュラウド31を、該ラジエータ28の後方に配置し、エンジン4の作動を制御する制御部27を前記ファンシュラウド31の側部に設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
遮熱カバーによって、フィルタ再生等により高温となるフィルタ装置側の熱が、上方側に伝導されることが抑制されるため、エンジンの上方側を覆うボンネットの内面側等に断熱材を設ける必要がなく、さらに、該遮熱カバーによって、前方側からフィルタ装置側に流動してきたエアを後方且つ下方に案内するため、エアの滞留による冷却効率の低下を効率的に防止できる。
【0008】
また、前方側のエアをラジエータ側に吸引する冷却ファン及び該冷却ファンのファンシュラウドを、該ラジエータの後方に配置し、エンジンの作動を制御する制御部を前記ファンシュラウドの側部に設ければ、比較的温度が上昇し難いファンシュラウドの側部に設けられた制御部を安定的に動作させることが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の作業車両を適用した農業用のトラクタの正面図である。
【図2】本発明の作業車両を適用した農業用のトラクタの平面図である。
【図3】本発明の作業車両を適用した農業用のトラクタの側面図である。
【図4】閉状態のエンジンルームの構成を示す側面図である。
【図5】ボンネットを省略した状態のエンジンルームの構成を示す側面図である。
【図6】DPF及びその周辺の拡大側面図である。
【図7】ECUの配置構成を示す平面図である。
【図8】ECUの配置構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1乃至図3は、本発明の作業車両を適用した農業用のトラクタの正面図、平面図及び側面図である。このトラクタは、左右一対の前輪1,1及び後輪2,2によって支持されたシャーシーフレーム3上における前側半部に、各部を駆動するエンジン4が収納されたエンジンルーム6が形成され(図4、図5等参照)、このエンジンルーム6は、ボンネット7によって開閉自在にカバーされており、このボンネット7の後方に操縦部8が設置されることにより、走行機体9を構成されており、この走行機体9の後部に昇降リンク11を介してロータリ耕耘装置等の作業機(図示しない)が昇降自在に連結されている。
【0011】
ボンネット7は、エンジンルーム6の上方を覆う天板12と、エンジンルーム6の左右両側を覆う左右一対のサイドカバー13,13と、エンジンルーム6の前方を覆うフロントグリル14とを、互いに一体的に接合させることにより構成されている。フロントグリル14の上部及び下部には、穿設された多数の通気孔からなる通気部14aがそれぞれ設けられ、この上部の通気部14aと、下部の左右の通気部14a,14aとの間には、左右一対の前照灯16を設けられている。
【0012】
そして、このボンネット7は、自身の後端側且つ上端側の左右方向の軸回りに上下回動自在に走行機体9側に支持されている。このボンネット7が前方斜め上方を向いた最上方位置に上方回動することによって、エンジンルーム6が開状態になる一方で、このボンネット7が水平方向を向いた最下方位置に下方回動することによって、エンジンルーム6が閉状態になる。
【0013】
操縦部8は、平面視左右の後輪用のフェンダ17,17間に位置する座席18と、座席18の前方のフロント操作パネル19と、座席18と左右のフェンダ17,17との間に配置されたサイド操作パネル21,21と、座席18とフロント操作パネル19との間に形成された床面であるフロアステップ22とを備えている。フロント操作パネル19にはステアリングハンドル23が設けられ、左右のサイド操作パネル21,21の一方側には作業機の昇降操作を行う昇降レバー24等が支持され、他方側には、走行変速操作を行う変速レバー26等が配置されている。
【0014】
このトラクタの操縦部8の座席18に着座したオペレータは、下降させた作業機を駆動させながら、走行機体9を前進走行させることにより、圃場等での耕耘作業等を行う。
【0015】
図4は、閉状態のエンジンルームの構成を示す側面図であり、図5は、ボンネットを省略した状態のエンジンルームの構成を示す側面図である。エンジンルーム6の後部には、シャーシーフレーム3上面側に強固に取付支持された状態で、エンジン4が配置されている。該エンジン4は、マイコンから構成された制御部であるECU27(図7、図8参照)によって、高圧化された燃料の噴射タイミングを適切に制御するコモンレール式ディーゼルエンジンである。
【0016】
このエンジン4の前方には、正面視方形状をなして前後方向に厚みを有するラジエータ28が配置され、ラジエータ28の後方且つエンジン4の前方には、エンジン動力によって回転駆動される冷却ファン29と、該冷却ファン29の左右及び上下を囲繞する導風体であるファンシュラウド31とが設けられており、このラジエータ28の後端部には、エンジンルーム6を前後に仕切って熱の伝導を遮断する仕切板32が配置されている。
【0017】
そして、フロントグリル14の通気部14a等からエンジンルーム6内に流入したエアは、回転駆動する冷却ファン29によって、ラジエータ28の正面側から吸込まれ、ラジエータ28の背面側から排出されることにより、ラジエータ28内の冷却水を冷却する。
【0018】
このため、エンジン4を冷却して高温になった冷却水は、ラジエータ28の上部側に送られる。ラジエータ28の上部に送られた冷却水は、ラジエータ28の下部に移動する過程で、上記エアの吹抜けにより冷却され、再び、エンジン4側に戻されて、該エンジン4を再度冷却し、以下、この冷却循環サイクルを繰返す。
【0019】
また、エンジン4側に送る空気を浄化する円筒状のエアクリーナ33が、左右方向に向けられた姿勢で、ラジエータ28上部の前方に設置されるとともに、該エンジン4の上方には、近接状態で、このエンジン4からの排気ガス中に含有された煤や黒鉛等のパティキュレート(微粒子状物質,微小固形物)を捕捉するフィルタ装置であるDPF(登録商標)34が配設されている。
【0020】
エアクリーナ33によって浄化された空気は、エアクリーナ33からエンジン4に向かって配管された吸気マニホールド36を介して、エンジン4側に送られ、燃料の燃焼に用いられる。ちなみに、燃料が収容された燃料タンク(図示しない)は、エンジンルーム6と操縦部8との間のスペースに収容配置されている。
【0021】
図6は、DPF及びその周辺の拡大側面図である。図4乃至図6に示す通り、円筒状に形成されたDPF34は、左右方向をくように横置きされた状態で、エンジン4上面側の後部における左右方向中央部に設置されている。
【0022】
この左右方向に延びる円筒状のDPF34のケースは、左右分割形成され、左右の分割ケース37における互いの接合端部には、フランジ部37aが一体的に形成され、このフランジ部37a同士をボルト固定することにより、両分割ケース37が連結固定される。このフランジ部37aには後述する遮熱板(遮熱カバー)38が共締め固定されている。
【0023】
DPF34内には、図示しない酸化触媒及びフィルタが設けられ、DPF34の左右一端(流入端)寄り箇所に排気マニホールド39の終端部が接続され、左右他端(流出端)寄り箇所にテールパイプ41の始端部が接続されている。
【0024】
排気マニホールド39は、エンジン4における上述した流入端に近い側の側面(図示する例では左側面)から、DPF34側に向かって配管されている。DPF34の流出端寄り箇所からのテールタイプ41は、エンジン4上面側において、DPF34の正面側を通過して、エンジン4における上述した流入端に近い側の側面に至り、それから該側面に沿ってシャーシーフレーム3側まで下方に延び、続いて、前方に延びるように配管されている。
【0025】
エンジン4において、浄化された空気中で燃料を燃焼させさせた際に発生する排気ガスは、排気マニホールド39を介して、短い経路で、DPF34に送られる。DPF34内に流入した排気ガスは酸化触媒→フィルタの順に流動する過程で浄化され、上述した排気ガス中のパティキュレートは、フィルタの上流側の面に捕捉される。このようにして、パティキュレートが除去されて浄化された排気ガスは、テールパイプ41を介して、外部に排気される。ちなみに、このDPF34はある程度の消音機能も備えている。
【0026】
ところで、このDPF34では、時間経過とともに、フィルタにパティキュレート等の異物が付着して蓄積し、通気性や除去性能等が低下する。このため、このフィルタに付着した異物を除去し、DPF34の浄化機能を再生する再生手段が設けられている。ちなみに、このフィルタに付着した異物の量は、フィルタの上流側と下流側との圧力差を検知する圧力センサ等によって検出することが可能であり、圧力差が所定以上になった場合には、再生手段によってDPFの再生を行う
【0027】
再生手段は、エンジン4を高い回転数で駆動させて高温になった排気ガスや、直接的な燃料の燃焼等によって、DPF34内の温度を所定以上の上昇させることにより、フィルタに付着した異物を除去するように構成されている。
【0028】
また、上述の遮熱板38は、このDPF34の上方及び後方を覆うように、側面視逆L字状に湾曲して左右方向に延設され、この遮熱板38の前端部は上方又は下方(図示する例では上方)に屈曲形成されることにより、ガイド部38aとして機能している。このガイド部38aは、DPF34側に向かって後方に流動してくるエアを、上下に分岐させる。この分岐したエアは、遮熱板38によって、側面視DPF34に沿って、後方且つ下方に案内される。
【0029】
また、遮熱板38の前記フランジ部37aと対抗する側の面における複数箇所(図示する例では3箇所)には、該フランジ部37aに向かって突出する取付座38bが一体的に延出され、該複数の取付座38bが上述した一対のフランジ部37aに共締め固定されることにより、遮熱板38と、DPF34の周面との間に所定の隙間が形成された状態で、該遮熱板38が取付固定されている。
【0030】
図7及び図8は、ECUの配置構成を示す平面図及び側面図である。前記ECU27は、方形板状に成形され、ファンシュラウド31の側面側に取付支持されている。具体的には、このファンシュラウド31は、仕切板32の背面側に取付支持され、エンジン4に近い位置に配置されているが、冷却ファン29によって、低温状態で保持される。このファンシュラウド31の側面に沿ってECU27が縦置き状態で、設置されている。
【0031】
このため、ECU27は適温に保持され、別途冷却装置を設ける必要がなくなるとともに、ECU27を、エンジン4に近づいた仕切板32の後方に配置するため、ECU27からエンジン4への配線をシンプルに構成できる。
【0032】
以上のように構成される本トラクタによれば、DPF34を、エンジン4の上面側の後部に配置しているため、ボンネット7の中途部及び前部の対地高さを高くする必要がなくなり、操縦部8の座席18に着座したオペレータの前方視界の妨げになることが防止される他、DPF34を、エンジン4の上面側の後部且つ左右方向中央部に位置させているため、重量バランスも良好になる。
【0033】
また、高温になるDPF34を、ラジエータ28から離れた位置であるエンジン4後部側に、横置き状態で、配置しているため、エンジン4の冷却の妨げになることが防止されるとともに、DPF34の温度を所定以上に維持させることが可能であるため、フィルタへのパティキュレートの付着を最小限に抑制できる他、高温状態になるDPF34の再生作業を円滑に行うことが可能である。ちなみに、DPF34が、排気マニュホールド39を介して、短い距離でエンジン4と接続され、エンジン4からの排気ガスが低温になることなく、DPF34に達するため、この点からも、フィルタの詰りを防止できるとともに、DPF34の再生を効率的に行うことが可能である。
【0034】
さらに、DPF34の上方から後方に至る範囲を覆う遮熱板38によって、ボンネット7側への熱伝導が抑制されるので、ボンネット7自体に断熱材を設ける必要がないとともに、この遮熱板38が、エアの案内するようにも機能し、ラジエータ28側からのエアが、遮熱板38の表裏両面に沿って、DPF34の上方を通った後に下方に移動するため、エアの流れに乱れが生じ難く、ラジエータ28側の冷却性能に悪影響を及ぼすことを防止できる。
【符号の説明】
【0035】
4 エンジン
27 ECU(制御部,マイコン)
28 ラジエータ
29 冷却ファン
31 ファンシュラウド(導風板)
34 DPF(フィルタ装置)
38 遮熱板(遮熱カバー)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼル式のエンジン(4)からの排気ガス中に含まれる微粒子状物質を捕捉して除去するフィルタ装置(34)を該エンジン(4)の上方側に配置し、エンジン(4)を冷却するラジエータ(28)を該エンジン(4)の前方側に設けた作業車両であって、エンジン(4)後部の中央部上方側にフィルタ装置(34)を配置し、該フィルタ装置(34)の上方及び後方を覆う遮熱カバー(38)を設け、該遮熱カバー(38)によって、前方側からフィルタ装置(34)側に流動してきたエアを後方且つ下方に案内する作業車両。
【請求項2】
前方側のエアをラジエータ(28)側に吸引する冷却ファン(29)及び該冷却ファン(29)のファンシュラウド(31)を、該ラジエータ(28)の後方に配置し、エンジン(4)の作動を制御する制御部(27)を前記ファンシュラウド(31)の側部に設けた請求項1記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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