説明

作業車

【課題】静油圧式無段変速装置の戻り側回路に有効な機構を追加することによって、大きな変速ショックを低減し、かつ、閉回路における負圧発生を未然に抑制できる作業車を提供する。
【解決手段】静油圧式無段変速装置12における油圧モータMから油圧ポンプPへの戻り側回路bに戻り側チャージ回路cを連結し、戻り側回路bから戻り側チャージ回路cに流入するのを許容するリリーフ弁48と絞り弁49Aとを並列に介装する。油圧ポンプPから油圧モータMへの供給側回路aに供給側チャージ回路cを連結し、供給側回路aから供給側チャージ回路cに流入するのを許容するリリーフ弁を介装し、供給側回路aに、回路圧がブレーキ操作に起因して負圧になることを阻止する逆止弁64を設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ポンプと油圧モータとを閉回路で接続するとともに、閉回路に対して外部より作動油を補給するチャージ回路を接続している油圧回路に対して、油圧ポンプの斜板を操作して無段変速を行うことができる油圧式無段変速装置を備えている作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の作業車において、前記した油圧式無段変速装置を構成するに、油圧モータから油圧ポンプへの戻り側回路に戻り側チャージ回路を連結し、前記戻り側チャージ回路に前記戻り側回路から前記戻り側チャージ回路に流入するのを阻止する逆止弁、前記戻り側回路から前記戻り側チャージ回路に流入するのを許容するリリーフ弁とを並列に介装していた。前記油圧ポンプから前記油圧モータへの供給側回路に供給側チャージ回路を連結し、前記供給側チャージ回路に前記供給側回路から前記供給側チャージ回路に流入するのを阻止する逆止弁、前記供給側回路から前記供給側チャージ回路に流入するのを許容するリリーフ弁を介装していた(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−257447号公報(図9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で示された従来構造では、下り坂道等でブレーキ操作を行い急にそのブレーキ操作を開放すると、慣性移動する走行機体によって油圧モータが逆駆動されて、大きなエンジンブレーキが作用する。この場合には、戻り側油路が高圧となり、供給側油路が高圧である通常の走行時と逆転する現象が起こる。
この場合には、エンジンブレーキによって走行機体が急減速し、大きな変速ショックが発生することがある。
【0005】
本発明の目的は、戻り側回路に有効な機構を追加することによって、大きな変速ショックを低減し、かつ、閉回路における負圧発生を未然に抑制できる作業車を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔構成〕
請求項1に係る発明の特徴構成は、油圧式無段変速装置における油圧モータから油圧ポンプへの戻り側回路に戻り側チャージ回路を連結し、前記戻り側チャージ回路に前記戻り側回路から前記戻り側チャージ回路に作動油が流入するのを阻止する逆止弁、前記戻り側回路から前記戻り側チャージ回路に作動油が流入するのを許容するリリーフ弁と絞り弁とを並列に介装し、供給側チャージ回路又は供給側回路の少なくとも一方に、回路圧がブレーキ操作に起因して負圧になることを阻止する負圧防止弁を設けてある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0007】
〔作用〕
前記戻り側回路から前記戻り側チャージ回路に作動油が流入するのを許容するリリーフ弁と絞り弁とを並列に介装し、絞り弁によって戻り側回路から戻り側チャージ回路へ作動油の戻りを許容し、戻り側回路が高圧になることを阻止する。
絞り弁で対応できない高圧状態に対しては、リリーフ弁を介して戻り側チャージ回路に高圧油を戻すことにした。
このような構成によって、ブレーキ操作してその後にブレーキを開放した場合にも、戻り側回路での高圧化を未然に回避できるので、走行機体の移動によって油圧モータが逆駆動される事態を回避でき、急激な変速ショックを回避できる。
ただし、戻り側回路にリリーフ弁と絞り弁とを接続して、その戻り側回路が低圧化し過ぎることを阻止する構成を採っているが、リリーフ弁の設定圧を低くし過ぎると、変速ショックの緩和は十分に行えるが、閉回路自体が負圧化する虞もある。
そこで、本願発明においては、供給側回路又は供給側チャージ回路に負圧防止弁を設けることによって、負圧発生を抑制した。
【0008】
〔効果〕
戻り側回路に絞り弁及びリリーフ弁を設けることによって、エンジンブレーキの作動による変速ショックを低減できるとともに、戻り側回路に絞り弁及びリリーフ弁を設けることによって却って回路圧が負圧状態となることを、供給側回路又は供給側チャージ回路に負圧防止弁を設けることによって、未然に防止できる油圧式無段変速装置を装備した作業車を提供することができた。
【0009】
〔構成〕
請求項2に係る発明の特徴構成は、前記負圧防止弁として、前記供給側チャージ回路又は前記供給側回路と前記油圧タンクとを接続するタンク油路に、前記供給側チャージ回路又は前記供給側回路から前記油圧タンクへの作動油の流入を阻止し前記油圧タンクから前記供給側チャージ回路又は前記供給側回路への作動油の流入を許容する逆止弁を設けてある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0010】
〔作用効果〕
負圧防止弁を逆止弁で構成した。これによって、前記供給側チャージ回路又は供給側回路が負圧になる状態であれば、一定の圧を維持している油圧タンク側から前記供給側チャージ回路又は供給側回路に作動油が流入して、負圧状態を解消する。
このように、逆止弁という簡単な部品を追加構成するだけで、油圧式無段変速装置の作動を円滑なものにできた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
作業車の一例である多目的車両について説明する。図1に示すように、作業車は、左右一対の操向自在な前輪1、左右一対の後輪2を備え、前後輪間にエンジン3、走行機体4の前部に座席5、日除けフレーム6を備えて運転部7を設け、走行機体4の後部に、油圧シリンダ8によって上下に揺動されるダンプ荷台9を設けて構成してある。
【0012】
図1及び図2に示すように、前後車輪1,2の間には、ミッションケース11が配置されており、ミッションケース11の前端部側面にエンジン3が装着されている。ミッションケース11におけるエンジン3の装着面とは反対側には、静油圧式無段変速装置12が装着されており、エンジン出力を受けて無段に変速し、変速出力を副変速装置13に出力するように構成してある。副変速装置13は、正転方向に2段、逆転方向に1段変速可能である。
副変速装置13からの出力は、後輪デフ機構14を介して左右の車軸15に伝達されて、後輪駆動に用いられる。
【0013】
前輪1への伝動系、および、後輪2への伝動系にはそれぞれ多板式のブレーキ45,46が装備されている。図7に示すように、前輪用のブレーキ45は、内装されたピストン(図示せず)を油圧操作で変位させることで摩擦板群の圧接操作を行うよう構成されている。後輪用のブレーキ46はブレーキ操作レバー40を操作シリンダ41によって揺動操作して、内装されたカム(図示せず)を回動することで摩擦板群の圧接操作を行うよう構成されている。前輪用のブレーキ45および操作シリンダ41は、運転部7の足元に配備されたブレーキペダル42によって操作されるマスターシリンダ43に配管接続されており、ブレーキペダル42を踏み込んでマスターシリンダ43から圧油を送出することで、前輪用のブレーキ45が操作油圧に応じて制動作動するとともに、操作シリンダ41が退入作動して後輪用のブレーキ46が操作油圧に応じて制動作動し、ブレーキペダル42の踏み込みを解除することで操作油圧が消滅して各ブレーキ45,46が制動解除状態に復帰するよう構成されている。
【0014】
なお、前記ブレーキ操作レバー40は運転部7に備えられた駐車レバー44にワイヤ連係されており、駐車レバー44を「駐車」位置に操作保持することで、左右の後輪2のブレーキ46のみを制動しての駐車が行われるようになっている。
【0015】
エンジン3から静油圧式無段変速装置12への伝動構造について説明する。図2及び図3に示すように、エンジン3の第1出力軸3Aにフライホイール3Bを取付け、フライホイール3Bから第2出力軸3Cを延出し、この第2出力軸3Cと静油圧式無段変速装置12の入力軸12Aとの間に第1ギヤ伝動機構17を設けてある。フライホイール3B、第1、第2出力軸3A、3Cはエンジン3を連結する出力ケース11A内に位置しており、出力ケース11Aの静油圧式無段変速装置12に向けて突出させた突出部11aに第1ギヤ伝動機構17の出力ギヤ17Aを配置してある。
【0016】
つまり、図2に示すように、出力ギヤ17Aを第2出力軸3Cに取り付けた状態で、ベアリングを介して回転自在に突出部11a内に支持してある。出力ケース11Aの前記突出部11aに隣接して、外向きボス部11bを形成してあり、この外向きボス部11bに第1ギヤ伝動機構17の入力ギヤ17Bをベアリング支持してある。この入力ギヤ17Bは、静油圧式無段変速装置12から延出された入力軸12Aに外嵌装着してあり、エンジン動力を静油圧式無段変速装置12に伝動すべく構成してある。
【0017】
静油圧式無段変速装置12の構成について説明する。図2に示すように、静油圧式無段変速装置12は、主油圧モータM、及び、副油圧モータSM、それらに圧油を供給する油圧ポンプPとを備えている。主油圧モータMは、ミッションケース11の一側面から外向きに突出形成されたボス部11B内に収納されている。副油圧モータSMは、主油圧モータMを収納したボス部11Bの開口端を塞ぐ状態に取付られた油圧ポートブロック18を介して取付固定されているモータケース19に収納される。油圧ポンプPは、モータケース19とともに油圧ポートブロック18に取付固定されたポンプケース20に取付固定される。
【0018】
油圧ポンプPは、アキシャルプランジャ式の可変容量型ポンプであり、主油圧モータMは、アキシャルプランジャ式の固定型モータであり、副油圧モータSMは、アキシャルプランジャ式の可変容量型モータである。油圧ポンプPは、前記した油圧ポートブロック18を貫通して出力ケース11Aに達する入力軸12Aに取付けてあり、主副油圧モータM、SMは、副変速装置13への共通出力軸16に取り付けてある。
【0019】
副変速装置13について説明する。図2及び図3に示すように、副変速装置13の入力軸31をミッションケース11内に架設するとともに、入力軸31を共通出力軸16と同芯位置に配置して、共通出力軸16の軸端を入力軸31の軸端内に嵌入させてスプライン係合し、入力軸31へ静油圧式無段変速装置12から動力供給すべく構成する。
入力軸31には、高速用の大径ギヤ部31A、低速用の小径ギヤ部31B、後進用ギヤ部31Cとを一体形成してある。
【0020】
入力軸31と平行に第1伝動軸32が架設してある。第1伝動軸32には、入力軸31に形成した大径ギヤ部31Aと常咬する小径入力ギヤ32Aと入力軸31に形成した小径ギヤ部31Bと常咬する大径入力ギヤ32Bと後進用入力ギヤ32Cとを遊転状態で取り付けてある。小径入力ギヤ32Aと大径入力ギヤ32B、大径入力ギヤ32Bと後進用入力ギヤ32Cとの間には、シンクロメッシュ形式で切り換え操作する第1、第2クラッチスリーブ32D、32Eが設けてあり、小径入力ギヤ32Aに第1クラッチスリーブ32Dを咬合させることによって、前進2速用の大径ギヤ部31Aから前進2速動力を導入することができる。大径入力ギヤ部32Aに第1クラッチスリーブ32Dを咬合させることによって、前進1速用の小径ギヤ部32Aから前進1速動力を導入することができる。後進用入力ギヤ32Cに第2クラッチスリーブ32Eを咬合させることによって、後進動力を取り出すことができる。
【0021】
図2、図3、及び、図5に示すように、第1伝動軸32と平行に後進軸33をミッションケース11内に架設し、この後進軸33に反転用ギヤ33Aをベアリング支承して、この反転用ギヤ33Aを前記した後進用入力ギヤ32Cと入力軸31の後進用ギヤ部31Cとに咬合させて、後進出力を伝達すべく構成してある。
【0022】
第1伝動軸32と車軸15との間に平行に第2伝動軸34を架設するとともに、第2伝動軸34に大径の伝動ギヤ34Aを遊嵌支承し、伝動ギヤ34Aに隣接して、小径出力ギヤ部34Bが一定形成してある。第1伝動軸32に出力ギヤ32Fがスプライン外嵌してあり、この出力ギヤ32Fと第2伝動軸34の伝動ギヤ34Aとを常咬状態に咬合させることによって、第1伝動軸32から第2伝動軸34に動力伝達可能に構成してある。
【0023】
左右車軸15、15との突合せ位置には、後輪デフ機構14が設けてあり、後輪デフ機構14のデフケース14Aに一体的に取り付けた入力ギヤ14Bを、第2伝動軸34の小径出力ギヤ部34Bに常咬式に係合させて、第2伝動軸34から車軸15に動力伝達するように構成してある。図2における、51は、デフロック操作具である。
【0024】
次に、副変速装置13の変速操作構造について説明する。図3及び図5に示すように、第1伝動軸32と平行に回転操作軸35を架設するとともに、回転操作軸35に平行にドラム操作軸36を架設し、このドラム操作軸36を操作する連動操作軸37を設けてある。回転操作軸35には、第1クラッチスリーブ32D、第2クラッチスリーブ32Eに係合する第1シフタ35Aと第2シフタ35Bとが取り付けてある。
【0025】
ドラム操作軸36には、外周面における軸線方向の二箇所に螺旋溝36aが刻設してあり、二つの螺旋溝36aが夫々第1シフタ35Aと第2シフタ35Bとに係合している。一方、第1シフタ35Aと第2シフタ35Bとは、ドラム操作軸36の軸線方向にスライド自在で回転不能に取り付けてある。
【0026】
連動操作軸37は副変速操作具に連係してあり、図4及び図5に示すように、連動操作軸37には、扇形駆動ギヤ37Aが取付固定してある。一方、ドラム操作軸36には、扇形駆動ギヤ37Aに咬合する受動ギヤ36Aが一体回転可能に取り付けてあり、連動操作軸37が自身の軸芯周りで駆動回転されると、扇形駆動ギヤ37Aが回転し、受動ギヤ36Aが回転してドラム操作軸36が回転する。ドラム操作軸36が回転すると、螺旋溝36aに係合している第1シフタ35Aと第2シフタ35Bとが回転操作軸35の軸線方向に沿って駆動移動される。
【0027】
第1シフタ35Aと第2シフタ35Bとが駆動移動されると、各シフタ35A、35Bに係合したクラッチスリーブ32D、32Eが大径入力ギヤ32A、小径入力ギヤ32B、後進入力ギヤ32Cに咬合する状態を作り出し、副変速装置13の変速操作が可能になる。
具体的には、次のようになる。図4及び図5に示すように、連動操作軸37に取付固定された出力アーム37Bをエンジン3に近づく後進用の操作位置に設定すると、第2シフタ35Bがスライド移動して第2クラッチスリーブ32Eを後進用入力ギヤ32Cに係合させて、後進状態を現出する。
出力アーム37Bをエンジン3から遠ざかる方向に操作する毎に、中立、高速、低速に切り換えることができる。
【0028】
副変速装置13の変速操作位置を位置決めする機構について説明する。図4及び図5に示すように、ドラム操作軸36には、星形をした位置決めギヤ38を一体回転可能に取付固定するとともに、回転操作軸35に揺動アーム39を取付け、揺動アーム39の先端にカムフォロア39aが取り付けてあり、位置決めギヤ38の外周面に形成した凹部38aにカムフォロア39aが係合することによって、変速操作位置を位置決めするように構成してある。揺動アーム39は、トーションバネ39bによって係合方向に付勢されている。
【0029】
静油圧式無段変速装置12の油圧回路について説明する。図6に示すように、油圧ポンプPの斜板52は、変速操作具53に油圧サーボ機構54を介して連係されている。変速操作具53への操作が解除されると、斜板52は中立(斜板角度0°)に復帰維持されて圧油の供給が停止されて走行停止状態がもたらされる。反対に変速操作具53を大きく操作するにつれて斜板52の傾斜角度が大きくなって供給量が多くなり、主油圧モータMの共通出力軸16が高速回転状態となる。
【0030】
油圧ポンプPと主副油圧モータM、SMは油圧ポートブロック18の内部に形成された閉回路a、bで連通接続されている。閉回路a、bの一部aは油圧ポンプPからの圧油が主副油圧モータM、SMに供給される高圧側の供給側回路であり、閉回路a、bの他部bは主副油圧モータM、SMから油圧ポンプPに作動油を戻す低圧側の戻り側回路となっている。この閉回路a、bには、漏洩分を補給するためのチャージ油路cが接続されて、エンジン3動力によって駆動されるチャージポンプCPからの圧油が供給油路eを介してチャージ油路cに供給されるようになっている。チャージ油路cに補充される油圧はリリーフ弁55によって設定値に維持されている。
【0031】
図6に示すように、静油圧式無段変速装置12における油圧モータMから油圧ポンプPへの戻り側回路bに戻り側チャージ回路cを連結する。戻り側チャージ回路cに戻り側回路bから戻り側チャージ回路cに作動油が流入するのを阻止する逆止弁65、戻り側回路bから戻り側チャージ回路cに作動油が流入するのを許容するリリーフ弁48と絞り弁49Aとを並列に介装してある。一方、油圧ポンプPから油圧モータMへの供給側回路aに供給側チャージ回路cを連結する。供給側チャージ回路cに供給側回路aから供給側チャージ回路cに作動油が流入するのを阻止する逆止弁21、供給側回路aから供給側チャージ回路cに作動油が流入するのを許容するリリーフ弁22を介装してある。
【0032】
油圧サーボ機構54について説明する。図6に示すように、変速操作具53がサーボバルブ56に機械的に連動連結されるとともに、サーボバルブ56がサーボシリンダ57に連通接続されている。サーボシリンダ57が油圧ポンプPの斜板操作部に連動連結されるとともに、サーボシリンダ57の変位がフィードバック機構58によってサーボバルブ56にフィードバックされるように構成されており、変速操作具53への操作位置に対応して油圧ポンプPの斜板52が操作されるようになっている。油圧サーボ機構54の一次側油路fはチャージ油路cに接続されており、油圧サーボ機構54のシステム圧がチャージ圧と同一となっている。
【0033】
副油圧モータSMの斜板62は、制御ピストン59の先端と、復帰バネ60によって前方に付勢された復帰ピストン61とで前後から挾持されており、図6に示すように、制御ピストン59が前方移動限界まで後退している時、副油圧モータSMにおける斜板62の角度が中立(斜板角度0°)となり、制御ピストン59が復帰バネ60に抗して後方に進出するに連れて斜板62の角度が大きくなって、副油圧モータSMの容量が増大するよう構成されている。復帰バネ60は初期圧縮をかけて組み込んであり、斜板62が予め設定されたバネ荷重で中立側に付勢されている。
【0034】
制御ピストン59は、油圧ポンプPからの圧油を主副油圧モータM、SMに供給する高圧側の供給側回路aに制御用油路hを介して接続されており、供給側回路aの圧力と復帰バネ60のバネ力とが均衡したところで斜板62の角度が安定するようになっている。
【0035】
以下に制御ピストン59を利用しての自動変速制御作動について説明する。
変速操作具53を操作すると、油圧ポンプPにおける斜板52の角度が大きくなり、斜板角度に応じた量の圧油が主油圧モータM及び副油圧モータSMに供給される。この場合、走行負荷が設定以下の範囲にあって供給側回路a及び制御用油路hの圧が設定以下であると、制御用油路hの圧を受ける制御ピストン59の進出力よりも復帰バネ60の初期バネ力の方が大きいものとなり、副油圧モータSMの斜板62は中立(斜板角度0°)に維持され、油圧ポンプPからの圧油の全量が主油圧モータMに供給され、共通出力軸16は主油圧モータMのみによって駆動されることとなる。
【0036】
走行負荷が設定範囲を越えて、供給側回路a及び制御用油路hの圧が設定値を上回ると、制御用油路hの圧を受ける制御ピストン59の進出力が復帰バネ60の初期バネ力より大きくなって、副油圧モータSMの斜板62の角度が大きくなって副油圧モータSMにモータ容量が発生し、油圧ポンプPからの圧油が主油圧モータMと副油圧モータSMとに供給される。つまり、走行負荷が設定範囲を越えて大きくなると、自動的にモータ側の全容量が大きくなって出力軸32が減速駆動され、出力トルクが増大される。
【0037】
走行負荷の増大に伴って副油圧モータSMの斜板角度が最大になった後に、更に走行負荷が高まると、供給側回路aの圧が更に高いものとなる。ここで、その一部aの圧力は、油圧ポンプPの斜板52を中立側に押し戻す反力として作用しており、通常負荷時には、この反力は油圧サーボ機構54におけるサーボシリンダ57で支持されているのであるが、上記のように供給側回路aの圧力が特に高くなって斜板52にかかる油圧反力が大きくなると、チャージ圧と同一の低圧のシステム圧で作動するサーボシリンダ57で斜板角度を維持することができなくなり、斜板52は油圧反力によって自動的に斜板角度が減少する方向、つまり、減速側に強制変位させられ、供給側回路aの圧が高められて出力トルクが増大される。
【0038】
なお、静油圧式無段変速装置12を操作する変速操作具53は、エンジン3の回転速度を変更する調速機構(図示せず)にも連動連結されてアクセルレバーとしの機能をも備えており、変速操作具53を操作しない停止状態ではエンジン3はアイドリング回転速度にあり、変速操作具53を操作して走行速度を増大するに連れてエンジン回転速度が高められるようになっている。
【0039】
エンジンブレーキ操作時の負圧発生を抑制する構成について説明する。図6に示すように、戻り側回路bへの戻り側チャージ回路cに設けられているリリーフ弁48のリリーフ圧を供給側回路aへの供給側チャージ回路cに設けられているリリーフ弁のリリーフ圧に比べて略60パ-セントの圧にするとともに、供給側回路aから供給側チャージ回路cへの作動油の流入を阻止する逆止弁65を迂回するバイパス路49を設け、このバイパス路49に絞り弁としてのオリフィス49Aを設けて、静油圧式無段変速装置12のエンジンブレーキ力を緩和し、ショックの無い円滑な減速を実現することができる。
【0040】
より詳細に説明すると、リリーフ弁48とオリフィス49Aを設けることによって、エンジンブレーキが円滑に効いてくる。つまり、通常の走行時においては、供給側回路aが高圧側回路となり、戻り側回路bが低圧側回路(チャージ回路圧と同一)となっている。ここに、ブレーキペダル42を踏み込みその後ブレーキペダル42を戻し操作した場合に、油圧モータM等が走行機体4によって逆駆動されることとなり、戻り側回路bが高圧側で供給側回路aが低圧側となる逆転現象が起こる。そうすると、走行機体4に対して急激なエンジンブレーキ力が作用することとなり、変速ショックが発生する。
【0041】
そこで、上記したように、リリーフ弁48とオリフィス49Aを設け、戻り側回路bに発生する圧をオリフィス49Aによって、常時排出して高圧化を抑制している。オリフィス49Aによって排出でき難い高圧に対してはリリーフ弁48で対応することにしている。
このような構成によって、戻り側回路bの急激な昇圧が抑制でき、エンジンブレーキが急激に作用することを阻止できる。
また、戻り側回路bのリリーフ圧を供給側回路aより低く設定できるのは、本静油圧式無段変速装置12が正転状態でのみ使用されているからであり、逆転状態は副変速装置13で現出するように構成してある。
【0042】
ただし、上記したように、オリフィス49Aとリリーフ弁48とによって、戻り側油路bの回路圧急上昇を緩和するために、リリーフ弁49Aのリリーフ圧を供給側回路aのリリーフ圧の60パーセントに設定してある。
そうすると、リリーフ圧が低圧であるので、閉回路a、b及びチャージ回路c内の回路圧が低下し過ぎることも考えられる。
そこで、エンジンブレーキ操作時に、負圧になる虞のある供給側回路aに対して、油圧タンクTに連通させるタンク油路63を設け、このタンク油路63に負圧防止弁64を設けることによって、油圧タンクTの作動油をタンク油路63に吸入して、負圧状態を未然に防止することができる。
【0043】
負圧防止弁64としては、逆止弁を使用し、供給側回路aから油圧タンクTへの作動油の流入を阻止し、油圧タンクTから供給側回路aへの流入を許容すべく、付勢バネ64Aでピボットを付勢する構成を採っている。
【0044】
〔別実施形態〕
(1) 図示してはいないが、負圧防止弁64を設ける対象としては、供給側回路aに接続されている供給側チャージ回路cを選定してもよい。つまり、供給側チャージ回路cから油圧タンクTに向けてタンク油路を設け、タンク油路に負圧防止弁64を設けてもよい。
(2) 戻り側チャージ回路cに設ける絞り弁としては、オリフィス以外に小径の絞り路であってもよい。
(3) 前記供給側チャージ回路cを設けなくてもよく、戻り側回路bにのみ、チャージ回路cを連結するだけでもよい。
(4) 油圧モータとしては、容量固定式の油圧モータMか又は容量可変式の油圧モータSMかのいずれか一方だけを採用してもよい。
(5) ブレーキ操作具42としては、ペダル方式以外に操作レバー方式のものでもよい。
(6) 作業車として、多目的作業車を代表させて説明したが、農用トラクタ等の他の作業車であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】作業車の全体側面図
【図2】ミッション構造を示す縦断背面図
【図3】副変速装置を示す縦断背面図
【図4】副変速装置の位置決め機構を示す側面図
【図5】副変速装置の変速操作構造を示す横断平面図
【図6】静油圧式無段変速装置の油圧回路図
【図7】ブレーキ操作構造を示す構成図
【符号の説明】
【0046】
12 静油圧式無段変速装置
48 リリーフ弁
49A オリフィス(絞り弁)
63 タンク油路
64 逆止弁(負圧防止弁)
65 逆止弁
M 主油圧モータ
SM 副油圧モータ
P 油圧ポンプ
T 油圧タンク
a 供給側回路
b 戻り側回路
c 供給側チャージ回路、戻り側チャージ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧式無段変速装置における油圧モータから油圧ポンプへの戻り側回路に戻り側チャージ回路を連結し、前記戻り側チャージ回路に前記戻り側回路から前記戻り側チャージ回路に作動油が流入するのを阻止する逆止弁、前記戻り側回路から前記戻り側チャージ回路に作動油が流入するのを許容するリリーフ弁と絞り弁とを並列に介装し、供給側チャージ回路又は供給側回路の少なくとも一方に、回路圧がブレーキ操作に起因して負圧になることを阻止する負圧防止弁を設けてある作業車。
【請求項2】
前記負圧防止弁として、前記供給側チャージ回路又は前記供給側回路と前記油圧タンクとを接続するタンク油路に、前記供給側チャージ回路又は前記供給側回路から前記油圧タンクへの作動油の流入を阻止し前記油圧タンクから前記供給側チャージ回路又は前記供給側回路への作動油の流入を許容する逆止弁を設けてある請求項1記載の作業車。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate