説明

使い捨て式流体導入装置

【課題】 構造的に極めて簡単であり、製作も極めて容易であり、流体の交換、追加に対応することができ、流体のデッドロスを最小にし、しかも、マイクロ流路チップの再利用も可能にする使い捨て式流体導入装置を提供する。
【解決手段】 筒体と、該筒体の下端内側に挿入された多孔栓と、該多孔栓の下面側を封止する底面シールと、該多孔栓の上部に充填された流体と、前記筒体の上端部を封止する可撓性フィルムとからなることを特徴とする使い捨て式流体導入装置。本発明の使い捨て式流体導入装置は構造的に極めて簡単であり、製作も極めて容易であり、流体の交換、追加に容易に対応することができ、流体のデッドロス量を最小にし、しかも、マイクロ流路チップの再利用も可能にすることができる。更に、本発明の使い捨て式流体導入装置は、種々の反応に必要な試薬類を単独でも、或いは混合して保管することもできるので、分析用流体試薬キットとしても有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は使い捨て式流体導入装置に関する。更に詳細には、本発明はマイクロ流路チップなどに所定量の流体を供給するための使い捨て式流体導入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、マイクロ・トータル・アナリシス・システムズ(μTAS)又はラブ・オン・チップ(Lab-on-Chip)などの名称で知られるように、基板内に所定の形状の流路を構成するマイクロチャネル及びポートなどの微細構造を設け、該微細構造内で物質の化学反応、合成、精製、抽出、生成及び/又は分析など各種の操作を行うことが提案され、一部実用化されている。このような目的のために製作された、基板内にマイクロチャネル及びポートなどの微細構造を有する構造物は総称してマイクロ流路チップとか、マイクロ流体チップ、マイクロ流路チップ又はマイクロ化学チップなどと呼ばれる。
【0003】
マイクロ流路チップは遺伝子解析、臨床診断、薬物スクリーニング及び環境モニタリングなどの幅広い用途に使用できる。常用サイズの同種の装置に比べて、マイクロ流路チップは(1)サンプル及び試薬の使用量が著しく少ない、(2)分析時間が短い、(3)感度が高い、(4)現場に携帯し、その場で分析できる、及び(5)使い捨てできるなどの利点を有する。
【0004】
マイクロ流路チップ100の構造は種々提案されており、多層構造や複合構造と言った複雑な構造も存在するが、その構造の全体又は少なくともその一部において、図8及び図9に示されるような2枚の基板102及び108を貼り合わせた構造を有している。貼り合わせを行う必要性は、形成すべき微細なマイクロチャネル(流路)104や、流体貯留室及び/又は反応室を封止することにある。第1の基板102及び/又は第2の基板108の各貼り合わせ面側に、流路104、流体貯留室及び/又は反応室などを構成する元となる微細構造を有し、第1の基板と第2の基板を貼り合わせることにより、流体を流したり溜めておくことができる、流路、流体貯留室及び/又は反応室などが形成される。流路104の少なくとも一端には流体を送出入させるためのポート105が形成されている。用途に応じて、反対側の端部にもポート106を形成させることができる。 図8及び図9に示されるようなマイクロ流路チップの材質や構造及び製造方法は例えば、特許文献1及び特許文献2などに提案されている。
【0005】
ポート105を介してマイクロチャネル104に流体を送入するには、例えば、図10に示されるように、ポート105の開口部にアダプター114を配設し、このアダプター114に送液チューブ116を接続し、送液チューブ116を介して流体供給タンク(図示されていない)から圧送する。この方法の場合、マイクロチャネル104内に送液される流体の量は極僅かであるのに対して、送液チューブ116を介して送液するために大量の流体を準備しなければならず、また、送液チューブ116内に残留した流体は廃棄せざるを得ず、分析コストを増大させる原因となっていた。別法として、アダプター114を使用せず、ポート105に送液チューブ116を直接接続する形態も実施可能であるが、送液チューブ116を使用するので流体を大量に準備しなければならない点及び送液チューブ116内に残留した流体を廃棄する点では同じである。
【0006】
特許文献3には、図11に示されるような、ポート105内に予め流体118を充填しておき、ポート105の開口上面を覆うように弾性で柔軟性を有する隔壁120を配設した送液機構が記載されている。この送液機構によれば、図12に示されるように、隔壁120の上面に治具122を当接させ、治具122に押圧力を加えると、弾性で柔軟性を有する隔壁120が変形し、その変形量に応じた量の流体118がマイクロチャネル104内に送入される。しかし、この送液機構では、ポート105内に予め流体118を充填し、更にその後、隔壁120でポート105の開口上面を被覆するので、作製は極めて煩雑である。しかも、ポート105の開口上面を隔壁120で被覆してしまうので、流体118の交換や追加は不可能である。従って、ポート105内の流体が全てマイクロチャネル104側へ送液されてしまうと、このマイクロ流路チップ100は再使用することができず、後は廃棄されるだけとなる。
【特許文献1】特開2001−157855号公報
【特許文献2】米国特許第5965237号明細書
【特許文献3】特開2004−226207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、構造的に極めて簡単であり、製作も極めて容易であり、流体の交換、追加に対応することができ、流体のデッドロスを最小にし、しかも、マイクロ流路チップの再利用も可能にする使い捨て式流体導入装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段として、請求項1における発明は、筒体と、該筒体の下端内側に挿入された多孔栓と、該多孔栓の下面側を封止する底面シールと、該多孔栓の上部に充填された流体と、前記筒体の上端部を封止する可撓性フィルムとからなることを特徴とする使い捨て式流体導入装置である。
【0009】
この発明によれば、底面シールを剥離し、多孔栓の下面側を露出させた後、可撓性フィルム上面に押圧治具を当接させ、押圧治具を筒体内へ押し下げることにより、筒体内の流体を体外へ押し出すことができるので、マイクロ流路チップのマイクロチャネルなどへ無駄なく所望の流体を送入することができる。しかも、別の流体を送入する場合には、当該流体が充填された別の筒体を準備するだけで、連続的にマイクロ流路チップのマイクロチャネルへ所望の流体を送入することができる。
【0010】
前記課題を解決するための手段として、請求項3における発明は、熱可塑性の可撓性素材から形成された筒体と、該筒体の下端内側に挿入された多孔栓と、該多孔栓の下面側を封止する底面シールと、該多孔栓の上部に充填された流体とからなり、前記筒体の上端部がヒートシールにより封止されていることを特徴とする使い捨て式流体導入装置である。
【0011】
この発明によれば、筒体の上端開口部を封止するために可撓性フィルムを使用する代わりに、筒体の上端部をヒートシールにより封止するので、使い捨て式の流体導入装置の製造が容易になる。使用する場合、底面シールを剥離し、多孔栓の下面側を露出させた後、筒体の胴部を二本の指などで圧搾することにより、筒体内の流体を体外へ押し出すことができるので、マイクロ流路チップのマイクロチャネルなどへ無駄なく所望の流体を送入することができる。しかも、別の流体を送入する場合には、当該流体が充填された別の筒体を準備するだけで、連続的にマイクロ流路チップのマイクロチャネルへ所望の流体を送入することができる。
【0012】
前記課題を解決するための手段として、請求項4における発明は、熱可塑性の可撓性素材から形成され、下端部に先端が封止された吐出ノズルが突出するように形成されている筒体と、該筒体の内部に挿入された多孔栓と、該多孔栓の上部に充填された流体とからなり、前記筒体の上端部がヒートシールにより封止されていることを特徴とする使い捨て式流体導入装置である。
【0013】
この発明によれば、吐出ノズルの先端の封止部分を鋏又はナイフなどにより横方向に切断することにより吐出ノズルを開口させ、吐出ノズルをマイクロ流路チップのポート内へ差し入れ、筒体の胴部を二本の指などで圧搾することにより、筒体内の流体を体外へ押し出すことができるので、マイクロ流路チップのマイクロチャネルなどへ無駄なく所望の流体を送入することができる。しかも、別の流体を送入する場合には、当該流体が充填された別の筒体を準備するだけで、連続的にマイクロ流路チップのマイクロチャネルへ所望の流体を送入することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の使い捨て式流体導入装置は構造的に極めて簡単であり、製作も極めて容易であり、流体の交換、追加に容易に対応することができ、流体のデッドロス量を最小にし、しかも、マイクロ流路チップの再利用も可能にすることができる。更に、本発明の使い捨て式流体導入装置は、種々の反応に必要な試薬類を単独でも、或いは混合して保管することもできるので、分析用流体試薬キットとしても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は本発明の使い捨て式流体導入装置の一例の概要断面図である。図2は図1に示された使い捨て式流体導入装置の使用状態を示す模式図である。図3は図1に示された使い捨て式流体導入装置の製造方法の一例を示す工程図である。
【0016】
図1に示されるように、本発明の使い捨て式流体導入装置1は、筒体3と、筒体3の下端内側に挿入された多孔栓5と、多孔栓5の下面側を封止する底面シール7と、多孔栓5の上部に充填された流体9と、筒体3の上端部を封止する可撓性フィルム11とからなる。
【0017】
筒体3は例えば、内部に充填される流体の特性に悪影響を及ぼすことがなく、大気中の酸素、二酸化炭素、一酸化炭素などガス成分が透過することができず、あるいは、外部の紫外線などから流体を保護することができ、しかも、外部の全ての微生物が透過することができない材料から形成されている。筒体3は可撓性又は柔軟性を有していても良く、あるいは硬質であってもよい。このような条件を満たす筒体形成材料は例えば、ステンレス、アルミニューム、鉄、銅及び真鍮などの金属類、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、シリコーンゴム、ポリカーボネート、ポリプロピレン及びテロン(登録商標)などの合成樹脂類、ガラス、石英及びシリコンなどのセラミック類などである。筒体3の容量は内部に充填するべき流体の容量、すなわち、流体の使用量に応じて適宜変更することができる。
【0018】
多孔栓5は気孔率が高く、毛細管力が大きい材料から形成されている。多孔栓5を使用することにより筒体3の内部に充填された流体9は多孔栓5によりストッピングされ、底面シール7を剥離しても、筒体3に外部から圧力を加えない限り、筒体3から漏出することはない。多孔栓5は流体中の異物を濾過し、マイクロチャネル内が異物で閉塞されることも防止する。多孔栓5の形成材料は例えば、フエルト、コットン、絹及び紙などの天然繊維類、ポリエステルファイバー、ナイロンファイバー、アクリルファイバー、エラスティック・プラスチック、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリアセタールコポリマー、ポリアセタールホモポリマー、ポリエステルエラストマー及び熱可塑性エラストマーなどの合成樹脂類などである。多孔栓5の厚さは一般的に、500μm〜1cmの範囲内である。多孔栓5の厚さが500μm未満の場合、筒体3への挿入作業が困難になるばかりか、流体のストッピング効果が不十分となる。一方、多孔栓5の厚さが1cm超の場合、筒体3への挿入作業は容易になるが、流体のストッピング効果が飽和するばかりか、多孔栓5に吸収される流体のデッドロス量が増大し、不経済となる。
【0019】
底面シール7は、筒体3の内部の流体9が多孔栓5から滲み出たり、多孔栓5の露出面から蒸発したりすることを防止するために使用されている。底面シール7は例えば、アルミなどの金属箔、プラスチックフィルムなどである。底面シール7は図示されているような扁平の配設状態に限定されない。筒体3の外壁面に周回させるように配設することもできる。従って、底面シール7の多孔栓5との接合面側には公知常用の粘着剤などを塗布しておくことが好ましい。
【0020】
筒体3の内部に充填される流体9自体は特に限定されない。流体9は多孔栓5を通過させることができるものであれば、その性状又は粘度自体は筒体3に充填される流体の使用制限事項にならない。従って、流体は気体の他、液体であることもでき、液体は溶液だけでなく、懸濁液、乳濁液、乳化液など溶液以外のものも充填可能である。
【0021】
可撓性フィルム11は、その上面から適当な治具(図示されていない)を当接させて変形させ、筒体3内部の流体9を多孔栓5から押し出すために使用されている。このような目的に使用可能な材料は例えば、シリコーンゴムフィルム、ブチルゴムフィルム、ポリウレタンフィルム、ラテックスゴムフィルムなどの可撓性フィルム類などである。可撓性フィルム11の厚さは一般的に、10μm〜500μmの範囲内である。可撓性フィルム11の厚さが10μm未満の場合、治具(図示されていない)を当接させて変形させたとき破れてしまう可能性がある。一方、可撓性フィルム11の厚さが500μm超の場合、治具(図示されていない)を当接させて変形させるのが困難となる。
【0022】
本発明の使い捨て式流体導入装置1を使用する場合、図2に示されるように、先ず、底面シール7を剥離し、マイクロ流路チップ100のポート105の位置に筒体3の多孔栓5側を位置合わせして当接させる。底面シール7を剥離しても、多孔栓5が存在するので、筒体3内部の流体9が外部に漏れ出すことはない。次いで、可撓性フィルム11の上面から適当な押圧治具122を押し当て、治具122を筒体3内に押し下げる。可撓性フィルム11の変形により筒体3の内容積が減少するので、筒体3内部に充填されていた流体9は多孔栓5を通過してポート105内に入り、次いで、マイクロチャネル104内に進入し、所定位置まで送入される。しかし、筒体3内部に直接空気圧でも印加しない限り、治具122を筒体3内に押し下げただけでは、多孔栓5に吸収された流体は多孔栓5内に留まり、マイクロチャネル104に押し出すことは困難である。従って、多孔栓5に吸収された流体はデッドロスとなる。しかし、このデッドロス量は従来の送液チューブ116によるデッドロス量に比べたら遙かに小さな値である。筒体3内の流体9が押し出されたら使い捨て式流体導入装置1をマイクロ流路チップ100のポート105から外し、そのまま廃棄する。第2の流体を続けて送入するには、第2の流体が充填されている別の筒体3を準備し、前記と同様にしてマイクロチャネル104内に送入させればよい。斯くして、本発明の使い捨て式流体導入装置1を使用すれば、一枚のマイクロ流路チップ100において、様々な流体を次々に送入して種々の反応や分析などを実施させることができる。その結果、マイクロ流路チップ100の使用効率を飛躍的に向上させることができる。なお、治具13の使用自体は本発明の使い捨て式流体導入装置1の構成要件ではない。治具13を使用せず、筒体3の胴部を外面から二本の指などで圧搾することによっても筒体3内部に充填されている流体9を多孔栓5を介してポート105内に送入することができる。この場合、筒体3自体が可撓性の素材から形成されていることが好ましい。筒体3が硬質の素材から形成されている場合、筒体3の胴部を外面から二本の指などで圧搾することはできない。
【0023】
次に、図3を参照しながら図1に示された本発明の使い捨て式流体導入装置1の製造方法の一例について説明する。先ず、ステップ(A)において、両端が開口した筒体3と、下面側に底面シール7が接合された多孔栓5とを準備し、多孔栓5の上面側から筒体3を挿入する。次いで、ステップ(B)で、筒体3の上端開口部から目的の流体を筒体3内部に充填する。この際、流体の充填量は多孔栓5による吸収量も考慮し、筒体3の形状(体積)を勘案して制御する。最後に、ステップ(C)で、筒体3の上端開口部を可撓性フィルム11で覆い、可撓性フィルム11の外縁を筒体3の外壁面に接着させ、筒体3の上端開口部を封止する。言うまでもなく、前記以外の製造方法も当然使用できる。例えば、筒体3の下面側から予め多孔栓5を挿入しておいたものを使用し、多孔栓5の下面側に底面シール7を接合させることもできる。或いは、筒体3の上面側が予め可撓性フィルム11で封止された筒体3を天地を逆にし、上面となった開口側から流体を充填した後、筒体3の開口側に底面シール付き多孔栓5を挿入し、最後に元の状態に戻すことによっても使い捨て式流体導入装置1を製造できる。また、底面シール7は図示された矩形形状に限定されず。円形の形状であることもできる。
【0024】
図4は、本発明の別の実施態様の使い捨て式流体導入装置1Aの製造工程図である。ステップ(i)及び(ii)までは図3におけるステップ(A)及び(B)と同じであるが、ステップ(iii)では、流体充填の完了した筒体3の上端開口部周辺を常用のヒートシーラーなどを用いて熱溶着し、ヒートシール部13を形成することにより密閉する。この使い捨て式流体導入装置1Aの場合、筒体3内部の流体を筒体3外部に出すには、筒体3の胴部を外面から二本の指などで圧搾することにより行う。従って、筒体3自体が熱可塑性で可撓性の素材から形成されていることが好ましい。筒体3が熱可塑性素材から形成されていないと、ヒートシールが困難になる。
【0025】
図5は、本発明の更に別の実施態様の使い捨て式流体導入装置1Bの概要断面図である。この実施態様では底面シール7を使用しない。筒体3’の下部には所定の長さの吐出ノズル15が突出するように形成されており、吐出ノズル15の先端には封止部17が形成されている。この封止部17が底面シール7の代わりになる。従って、使い捨て式流体導入装置1Bを使用する場合、吐出ノズル15の先端の封止部17を鋏又はナイフなどにより横方向に切断することにより吐出ノズル15を開口させる。また、この実施態様では図4に示された使い捨て式流体導入装置1Aと同様に、筒体3の上端開口部周辺には熱溶着によるヒートシール部13が形成されている。吐出ノズル15の外径は例えば、マイクロ流路チップの流体送入用ポート(例えば、ポート105)の内径よりも小さいことが好ましい。吐出ノズル15の先端封止はヒートシールでもよく、あるいは、例えば、筒体3’を射出成形などにより形成する場合、先端が初めから封止された吐出ノズル15を有するように筒体3’を射出成形することもできる。
【0026】
図5に示された使い捨て式流体導入装置1Bを使用する場合、図6に示されるように、先ず、吐出ノズル15の先端の封止部17を横方向に切断し、吐出ノズル15を開口させ、次いで、吐出ノズル15をマイクロ流路チップ100のポート105内に差し入れる。この状態では、多孔栓5が存在するため、筒体3内部の流体は吐出ノズル15が開口していても筒体3の外部には漏出しない。可撓性素材からなる筒体3の胴部を二本の指で挟んで圧搾すると、筒体3の容積が減少し、それに伴い、多孔栓5を介して流体9はポート105からマイクロチャネル104内に送入される。この使い捨て式流体導入装置1Bは吐出ノズル15の外径がポート105の内径よりも小さいので、吐出ノズル15のポート105への差し入れは比較的容易であるばかりか、吐出ノズル15がポート105内に進入し、筒体3の下部壁面でポート105が遮蔽されるので、流体9がポート105外へ漏出することは殆ど無い。従って、使い捨て式流体導入装置1Bの場合、筒体3の外径はポート105の内径よりも大きいことが好ましい。
【0027】
図7は使い捨て式流体導入装置1Bの製造方法の一例を説明するための工程図である。先ず、ステップ(a)において、先端が封止された吐出ノズル15を下端側に有する筒体3’を準備し、この筒体3’の上端開口部から多孔栓5を筒体3’の最奥部にまで挿入する。次いで、ステップ(b)で、筒体3’の上端開口部から目的の流体を筒体3’内部に充填する。この際、流体の充填量は多孔栓5による吸収量も考慮し、筒体3’の形状(体積)を勘案して制御する。最後に、ステップ(c)で、流体充填の完了した筒体3’の上端開口部周辺を常用のヒートシーラーなどを用いて熱溶着し、ヒートシール部13を形成することにより筒体3’を密閉する。
【実施例1】
【0028】
図5に示されるような使い捨て式流体導入装置1Bを製作し、送液実験を行った。先端に外径1mm、長さ2mmの封止吐出ノズルを有するポリプロピレン製の筒体3’を射出成形により製造した。筒体3’の内径は5mm、外径は6mm、長さは1.5cmであった。この筒体3’の上端開口部から直径5mmのフェルト製多孔栓を挿入し、筒体3’の底部に着底させた。次いで、筒体3’の上端開口部から赤色に着色された水を適量充填した。筒体3’の上端部から3mmの幅部分をヒートシールし、筒体3’を密閉した。下部基板がガラス製で、上部基板がPDMS製のマイクロ流路チップを準備した。上部基板には内径2mm、深さ2mmのポートと、このポートに連通する高さ200μm、幅300μmのマイクロチャネルが形成されており、マイクロチャネルの他端は内径2mm、深さ2mmの別のポートにも連通していた。吐出ノズルの封止部分を鋏で切断して吐出ノズルを開口させてから、吐出ノズルをポートに差し入れ、筒体3’の胴部を二本の指で圧搾すると、筒体3’内部の赤色水は多孔栓を介してポートに入り、更にマイクロチャネルを通って別のポートから溢れ出るのが目視された。この結果から、本発明の使い捨て式流体導入装置はマイクロ流路チップ内のマイクロチャネルなどへ目的とする流体を送入する手段として申し分なく使用できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上、本発明の使い捨て式流体導入装置の好ましい実施態様について具体的に説明してきたが、本発明は開示された実施態様にのみ限定されず、様々な改変を行うことができる。例えば、筒体の形状を円筒形でなく、角柱状にすることもできる。
【0030】
本発明の使い捨て式流体導入装置によれば、マイクロ流路チップへの流体供給を極めて容易かつ安価に実施することができるので、その実用性及び経済性が飛躍的に向上される。その結果、本発明の使い捨て式流体導入装置は、医学、獣医学、歯科学、薬学、生命科学、食品、農業、水産、警察鑑識など様々な分野で好適に有効利用することができる。特に、本発明の使い捨て式流体導入装置は、蛍光抗体法、in situ Hibridization等に最適なマイクロ流路チップとして、免疫疾患検査、細胞培養、ウィルス固定、病理検査、細胞診、生検組織診、血液検査、細菌検査、タンパク質分析、DNA分析、RNA分析などの広範な領域で安価に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の使い捨て式流体導入装置の一例の概要断面図である。
【図2】図1に示された使い捨て式流体導入装置の使用状態を示す模式図である。
【図3】図1に示された使い捨て式流体導入装置の製造方法の一例を説明する工程図である。
【図4】本発明の別の実施態様の使い捨て式流体導入装置1Aの製造工程図である。
【図5】本発明の更に別の実施態様の使い捨て式流体導入装置1Bの概要断面図である。
【図6】図5に示された使い捨て式流体導入装置1Bの使用状態を示す模式図である。
【図7】図5に示された使い捨て式流体導入装置1Bの製造方法の一例を説明する工程図である。
【図8】従来のマイクロ流路チップの一例の概要平面図である。
【図9】図8におけるIX−IX線に沿った断面図である。
【図10】図8に示される従来のマイクロ流路チップへの流体送入方法の一例を説明する概要断面図である。
【図11】特開2004−226207号公報の図2(a)に示されたマイクロ流路チップの概要断面図である。
【図12】特開2004−226207号公報の図2(b)に示されたマイクロ流路チップにおける送液方法を説明する概要断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1,1A,1B 本発明の使い捨て式流体導入装置
3,3’ 筒体
5 多孔栓
7 底面シール
9 充填流体
11 可撓性フィルム
13 ヒートシール部
15 吐出ノズル
17 封止部
100 従来のマイクロ流路チップ
102 第1の基板
104 マイクロチャネル
105,106 ポート
108 第2の基板
114 アダプター
116 送液チューブ
118 流体
120 隔壁
122 押圧治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒体と、該筒体の下端内側に挿入された多孔栓と、該多孔栓の下面側を封止する底面シールと、該多孔栓の上部に充填された流体と、前記筒体の上端部を封止する可撓性フィルムとからなることを特徴とする使い捨て式流体導入装置。
【請求項2】
前記筒体は硬質素材又は熱可塑性で可撓性を有する素材から形成されていることを特徴とする請求項1記載の使い捨て式流体導入装置。
【請求項3】
熱可塑性の可撓性素材から形成された筒体と、該筒体の下端内側に挿入された多孔栓と、該多孔栓の下面側を封止する底面シールと、該多孔栓の上部に充填された流体とからなり、前記筒体の上端部がヒートシールにより封止されていることを特徴とする使い捨て式流体導入装置。
【請求項4】
熱可塑性の可撓性素材から形成され、下端部に、先端が封止された吐出ノズルが突出するように形成されている筒体と、該筒体の内部に挿入された多孔栓と、該多孔栓の上部に充填された流体とからなり、前記筒体の上端部がヒートシールにより封止されていることを特徴とする使い捨て式流体導入装置。
【請求項5】
前記上端部のヒートシール前の筒体は射出成形により成型され、吐出ノズルの先端は初めから封止された状態で射出成形されることを特徴とする請求項4記載の使い捨て式流体導入装置。
【請求項6】
前記上端部のヒートシール前の筒体は射出成形により成型され、射出成形後に吐出ノズルの先端をヒートシールすることにより前記吐出ノズルが封止されていることを特徴とする請求項4記載の使い捨て式流体導入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−151716(P2010−151716A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332007(P2008−332007)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000100861)アイダエンジニアリング株式会社 (153)
【Fターム(参考)】