説明

使用済み材料から金または白金族元素を回収する方法

【課題】 回収率が高く、大量の化学薬品を要さず、エネルギー消費量を軽減しつつ使用済み材料等から白金族元素や金を回収する。
【解決手段】
白金族元素や金を含有する物質、例えば自動車排ガス浄化用廃触媒等の使用済み材料から白金族元素または金を回収するために、最初に0.5〜1.0モル/リットルのシュウ酸溶液のように熱分解する酸の溶液によって触媒の担体材料等を溶かして未溶解の白金族元素と分離した懸濁液をホウケイ酸ガラス材料に吸収させる。その懸濁液に、予めホウケイ酸ガラス内で酸化銅を還元剤(ケイ素)により還元析出させた金属銅の微粒子を含むホウケイ酸ガラスを加える。そして、懸濁液を電気炉内で1400℃以下の温度で加熱して、自動車排ガス浄化用廃触媒等の使用済み材料に含まれる白金族元素や金を溶融銅に吸収させ濃縮することで高収率、低コストで白金族元素や金を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的には使用済み材料から金属を回収する方法に関する。本発明は特に、白金族元素や金を含有する物質、例えば使用済みの石油化学系触媒、自動車排ガス浄化用廃触媒、使用済みの電子基板やリードフレーム、使用済みの各種燃料電池電極等から白金族元素または金を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の使用済み自動車用排ガス浄化用触媒等の白金族元素(Ru、Rh、Pd、Os、IrまたはPt)を含む廃棄物から白金族元素を回収する方法には、湿式法と乾式法とがある。湿式法には、従来から王水等の酸に酸化剤を加えた溶液で白金族元素を抽出する方法や、硫酸等を用いて逆に触媒の担体材料を溶かして未溶解の白金族元素を分離する方法等がある。しかし、これらの湿式法は、白金族元素の抽出率が悪く、担体を溶かすのに大量の酸を必要とする上、廃液処理も必要となるなど、回収率やコストの点で問題が多く、実用性が低い等の欠点があった。
【0003】
一方、乾式法は、自動車排ガス浄化用廃触媒等に含まれる金や白金族元素を溶融銅に吸収させ、これを濃縮することで高収率、低コストで白金族元素を回収する方法である。乾式法の従来技術として、例えば、特開平4−317423号公報(特許文献1)やこの方法をさらに改良した特開2000−248322号公報(特許文献2)の方法が知られている。
【0004】
特許文献1や2の方法は、高い回収率でかつ短時間で白金族元素を回収できる点で湿式法に比べて優れており、とりわけ、白金族元素中のロジウム(Rh)の回収率が湿式法と比べて高い点で有利な特徴がある。しかし、電気炉において、炉内の装入物を主としてカルシウムやシリカを含むフラックス材料とともに加熱溶融して、主として金属銅からなるメタル溶融中に白金族元素を吸収させる際に、1400℃以上の高温が必要であり、電気炉の加熱と温度維持に多くのエネルギーを消費するという欠点があった。
【0005】
【特許文献1】特開平4−317423号公報
【特許文献2】特開2000−248322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述した湿式法の回収率が低く大量の化学薬品とその廃液処理を要するという問題を解決、軽減することができる、使用済み材料等から金または白金族元素を回収する方法を提供することである。
【0007】
また、本発明の目的は、上述した乾式法の電気炉の高温加熱とその温度維持に多くのエネルギーを消費するという問題を解決、軽減することができる、使用済み材料等から金または白金族元素を回収する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、金または白金族元素と、担体材料としてアルミナを含む使用済み触媒から金または白金族元素を回収する方法であって、使用済み触媒を裁断し、裁断した使用済み触媒をシュウ酸溶液に浸し、所定の温度で攪拌して、そのシュウ酸溶液に未溶解な金または白金族元素を含む粒子が混在する懸濁液を得て、懸濁液をろ過して、金または白金族元素を含む未溶解な粒子とろ過液とを分離することを含む方法が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、得られたろ過液に、粉末銅とホウケイ酸ガラス原料を混ぜて混合液とし、その混合液から水分を除去して混合体を得て、その混合体を1100度から1400度の範囲の温度で加熱して、銅塊とホウケイ酸ガラスを得て、その銅塊から金または白金族元素を分離することを含む方法が提供される。なお、粉末銅とホウケイ酸ガラス原料を混ぜて混合液を得る代わりに、ろ過液に銅粒子が分散して含有されたホウケイ酸ガラスの粉末を混ぜて混合液を得ることもできる。
【発明の効果】
【0010】
【0011】
白金族や金を含む触媒等を担体ごとすべて電気炉内で加熱する場合、加熱や温度維持に要する電気エネルギーが大きくなるので、本発明では、シュウ酸水溶液を使用して、触媒の担体材料であるアルミナを溶解して未溶解の金や白金属を懸濁液の中に回収することにより、電気炉内で加熱すべき対象となる物質の質量を低減して、加熱に要する電気エネルギーの低減を図ることができる。
【0012】
従来用いられているフラックス材料は主成分がカルシウムやシリカであり、溶融するためには1400℃以上の高温を必要としていたが、本発明では、溶融温度を下げるため、予め調整したホウケイ酸ガラスまたはホウケイ酸ガラスを形成するガラス原料を用いることで、電気炉内で必要な溶融温度を1400℃以下に低下できる。その結果、白金族や金を回収するために炉内挿入物の加熱あるいは温度維持に要する電気エネルギーの低減を図ることができる。
【0013】
さらに、本発明では、自動車排ガス浄化用廃触媒等に含まれる白金族や金を溶融銅に吸収させる効果を高めるために、ホウケイ酸ガラス中であらかじめケイ素等の還元剤を用いて酸化銅を還元して微粒金属銅を形成したガラスを従来の金属銅に代わって用いることで、電気炉内で金属銅と白金族や金との接触効率が増大し、電気炉の炉内挿入物の維持温度を低下しても十分な白金族や金の回収率を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
発明を実施するための最良の形態について、実施例を示しながら説明する。なお、以下の実施例では、自動車排ガス浄化用廃触媒を用いた場合について説明しているが、本発明はこれに限られるものではなく、他の材料についても適用可能であり、また本発明の趣旨を逸脱しない範囲でいかなる変形も可能であることは当業者には明らかであろう。
【0015】
最初に本発明の実施形態の概要を説明する。白金族元素や金を含有する物質、例えば使用済みの石油化学系触媒、自動車排ガス浄化用廃触媒、使用済みの電子基板やリードフレーム、使用済みの各種燃料電池電極等から白金族または金を回収するために、最初に0.5〜1.0モル/リットルのシュウ酸溶液のように熱分解する酸の溶液によって、触媒の担体材料等を溶かして未溶解の白金族元素が分離された懸濁液をホウケイ酸ガラス材料に吸収させる。その懸濁液に、予めホウケイ酸ガラス内で酸化銅を還元剤(ケイ素)により還元析出させた金属銅の微粒子を含むホウケイ酸ガラスを加える。その後、懸濁液を、電気炉内で1400℃以下の温度で加熱して、自動車排ガス浄化用廃触媒等に含まれる白金族や金を溶融銅に吸収させ濃縮することで高収率、低コストで白金族元素を回収する。
【実施例1】
【0016】
自動車排ガス浄化用廃触媒を0.5〜5mmのチップ状に粉砕した。このうちの1gを10mlの濃度1モル/リットルのシュウ酸水溶液に浸漬し、60℃に溶液を加温し、6時間超音波を印加しながら攪拌して懸濁液を得た。ここで得られた粉砕された廃触媒を含む懸濁液を公称口径0.1 mmのガラスフィルターで濾過し、未溶解の廃触媒を除去した。廃触媒を少量の蒸留水で3回すすぎ、洗浄液は濾過液に加えた。フィルター上に残ったチップ状の廃触媒の乾燥重量を測定することにより、濾液に移行した廃触媒の重量を算出したところ表1の結果を得た。
【0017】
【表1】

【0018】
この結果から、60℃に保温した濃度1モル/リットルのシュウ酸水溶液に自動車排ガス浄化用廃触媒を、超音波を印加しながら6時間浸漬することにより、後工程である電気炉における加熱において、白金族を含む電気炉内への挿入物の重量を約75%少なくすることが可能であることがわかった。
【実施例2】
【0019】
実施例1で得た濾過後の浸出液をアルミナ製の坩堝に移し、ホウケイ酸ガラス原料である3gのホウ酸(B)、1.5gの炭酸ナトリウム(NaCO)と回収剤である粉末金属銅を0.5gだけ加えて混合した。ホットプレート上で100℃に加熱して坩堝内の水分を蒸発させた後、試料を電気炉内で坩堝ごと試料を1100℃および1150℃で加熱しその温度を維持した。電気炉内の気体は乾燥したアルゴンを使用した。1150℃での保持時間は2時間であった。2時間後に坩堝を電気炉から取り出して冷却すると銅は塊状となっており、シュウ酸は分解して存在が認められず、銅の塊をホウケイ酸ガラスと分離して取り出すことができた。ここで取り出した銅中に含まれる白金族元素の量を、王水で銅の固まりを溶解して元素分析したところ、表2の結果を得た。
【0020】
【表2】

【0021】
この結果から、1150℃で回収することにより約80%の回収率で自動車排ガス浄化用廃触媒に含まれる白金族の回収が可能であることがわかった。このように、ホウ酸と炭酸ナトリウムを用いることで、自動車排ガス浄化用廃触媒の担体に含まれるシリカとシュウ酸水溶液に移行したアルミニウムとが加わってホウケイ酸ガラスを形成し、その中に分散した白金族が銅によって吸収され濃縮する現象を1150℃で効率よく起こすことができるので、比較的低温で乾式法による効率的な白金族元素の回収ができることが明らかになった。
【実施例3】
【0022】
表3に実験に使用した試薬を示す。使用したガラスの組成はホウケイ酸ガラスであり、その成分はSiOが57%、Bが25%、NaOが18%であった。SiOの粒径は、篩いによって選別して、粒径45μm以下のものを使用した。
【0023】
【表3】

【0024】
実験に使用した試薬の調製量を表4に示す。最初に、ガラス粉末と酸化銅(CuO)を混合して1473度(K)の温度で1時間溶融して、CuOをガラスに均一に含有させた。冷却したガラスを100μm以下に粉砕(Fritsch社製 Pulverisette7を使用した)し、SiおよびSiCと均一に混合した。Siの添加量は下記の反応式(1)において当量とし、SiCの添加量は下記の式(2)において2倍当量とした。混合物をアルミナ坩堝に入れ、チューブ型電気炉(光洋サーモシステム社製 KTF434N)を使用して1323度(K)の温度で1時間加熱して、CuOをCuに還元させた。加熱はAr雰囲気下で行った。
2CuO + Si → 2Cu + SiO (1)
4CuO + SiC → Cu + SiO + CO (2)
【0025】
【表4】

【0026】
Siによる還元で作製したガラスは、20μm以下の粉末にした後、X線回折測定(リガク社製ミニフレックスを使用)により、金属銅の分散を確認した。また、高エネルギー加速器研究機構ビームライン27Bにおいて、XANESスペクトルを測定して銅が金属状態にあることを確認した。還元後のガラスの吸光スペクトル測定より、595nmにCuの表面プラズモンの吸収ピークを観測されたことから、分散している銅の微粒子が600nm以下であることを確認した。定量的には、X線回折の結果から、シェラーの式を適用して回折ピークの半値幅からCuの粒径を計算したところ、100nm程度であることがわかった。このようにして、100nm程度の銅の微粒子をホウケイ酸ガラス中に分散させたガラスを作製することができた。
【実施例4】
【0027】
実施例3で作製したガラスを用いて、実施例1の処理を施した自動車排ガス浄化用廃触媒試料に対して、実施例2の方法を適用して、白金族の回収を行った。使用した試薬の調整量等を表5に示す。ガラス試料は、粉砕機(Fritsch社製 Pulverisette7)で100μm以下の粉末にした後、他の試薬と混合して使用した。実験で得られた金属塊の重量および白金族の抽出率を表6に示す。
【0028】
【表5】

【0029】
【表6】

【0030】
表6の結果から、白金族元素を、試料中に存在した全量に近い90%以上の回収率で、銅の塊に吸収させ濃縮できたことがわかる。このように、100nmすなわち0.1μm程度の微細な金属銅を分散させたホウケイ酸ガラスを用いることによって、効率的に白金族元素を銅中に吸収し、回収することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金または白金族元素と、担体材料としてアルミナを含む使用済み触媒から金または白金族元素を回収する方法であって、
使用済み触媒を裁断する工程と、
裁断した前記使用済み触媒をシュウ酸溶液に浸し、所定の温度で攪拌して、当該シュウ酸溶液に未溶解な金または白金族元素を含む粒子が混在する懸濁液を得る工程と、
前記懸濁液をろ過して、前記未溶解な金または白金族元素を含む粒子とろ過液とを分離する工程とを含む、方法。
【請求項2】
前記懸濁液を得る工程は、前記シュウ酸溶液を60℃に加温し、6時間程度超音波を印加しながら攪拌することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記未溶解な粒子とろ過液とを分離する工程は、裁断後の前記使用済み触媒は透過できず、前記未溶解な粒子は透過できるフィルター用いてろ過することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ろ過液に、粉末銅とホウケイ酸ガラス原料を混ぜて混合液を得る工程と、
前記混合液から水分を除去して混合体を得る工程と、
前記混合体を1100度から1400度の範囲の温度で加熱して、銅塊とホウケイ酸ガラスを得る工程と、を含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記銅塊から前記金または白金族元素を分離する工程を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記混合液を得る工程に代わって、
前記ろ過液に、銅粒子が分散して含有されたホウケイ酸ガラスの粉末を混ぜて混合液を得る工程を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記銅粒子は600nm以下の粒径を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記銅粒子が分散して含有されたホウケイ酸ガラスは、
ホウケイ酸ガラスの粉末と酸化銅の粉末を混合する工程と、
混合したホウケイ酸ガラスの粉末と酸化銅の粉末を溶融する工程と、
溶融後に冷やされて固形化したホウケイ酸ガラスと酸化銅を粉砕し、ケイ素と炭化ケイ素を混合して混合体を得る工程と、
前記混合体を加熱して、酸化銅を銅に還元する工程と
により得られる、請求項6に記載の方法。

【公開番号】特開2009−249740(P2009−249740A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120014(P2008−120014)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(506214460)株式会社スリー・アール (7)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】