説明

例えばT細胞受容体V/D/J遺伝子内の反復配列によるクローン細胞の同定

本発明は核酸領域の特性解析方法、特にマーカー核酸領域の解析方法に関する。本発明の方法はマーカー核酸領域に近接する片側または両側核酸領域の同定を基礎とし、またクローン細胞集団に特有のマーカー核酸領域を解析する手段を提供する。本発明の方法は、クローン細胞集団の存在を特徴とする疾患(腫瘍性疾患など)の進行の監視、1つまたは複数のクローン細胞集団のレベルの監視、被検者の寛解状態から疾患状態への再発可能性の予見、既存治療薬および/または新治療薬の有効性の評価、およびマーカー領域の存在の確認などを非限定的に含む様々な応用分野の開拓に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は核酸領域の特性解析方法、特にマーカー核酸領域の解析方法に関する。本発明の方法はマーカー核酸領域に近接する片側または両側核酸領域の同定を基礎とし、またクローン細胞集団に特有のマーカー核酸領域を解析する手段を提供する。本発明の方法は、クローン細胞集団の存在を特徴とする疾患(腫瘍性疾患など)の進行の監視、1つまたは複数のクローン細胞集団のレベルの監視、被検者の寛解状態から疾患状態への再発可能性の予見、既存治療薬および/または新治療薬の有効性の評価、およびマーカー領域の存在の確認などを非限定的に含む様々な応用分野の開拓に有用である。
【背景技術】
【0002】
本明細書での先行技術への言及は該先行技術がオーストラリア国内で周知であることの承認または示唆ではないし、そのように解されてもならない。
【0003】
クローンは一般に共通の前駆細胞に由来する細胞集団として理解される。被検者にクローン細胞(または生物)集団が存在するかどうかの診断および/または検出は一般に比較的問題の多い方法となっている。特にクローン集団は大きな細胞(または生物)集団内の小部分を構成するにすぎないという可能性がある。たとえば哺乳生物ではクローン細胞集団の検出が求められるのは一般的に、がんなどのような腫瘍の診断および/または検出の場合である。しかし、骨髄形成異常または真性赤血球増多症などのような疾患の診断でも、さらには免疫系によって生成される抗原依存性クローンの検出でも、1つまたは複数のクローン集団の検出がやはり重要かもしれない。
【0004】
一般に、クローン生成の場となる細胞集団は特定の体組織または体区画内の細胞集団に対応する。そうした細胞集団のサンプリングにより選別対象が下位の細胞(または生物)集団へと効果的に狭められるにもかかわらず、それでもなお臨床医が大きなバックグラウンド集団をなす非クローン細胞(または生物)を相手にし、そこからクローン集団を特定しなければならないことに変わりはない。
【0005】
クローン集団のメンバーが変異DNA配列などのような分子マーカーの存在を特徴とするとしたら、検出の問題はみな同じ分子配列を有する分子集団を、それと異なる配列(みな同じ異なる配列、または多かれ少なかれ不均一である配列)を有するもっと大きな分子集団の中から検出するという問題に置き換えることができよう。実現可能なマーカー分子検出レベルは検出方法の感度および特異性に依存するところがきわめて大きいが、たいてい、より大きな分子集団中の標的分子の比率が小さくなると、そのより大きな集団に由来する信号雑音のために標的分子に由来する信号の検出が不可能になる。
【0006】
従って、任意の生物学的環境内で(すなわちバックグラウンドをなす非クローン細胞性物質のレベルに関係なく)クローン細胞集団の存在を定性的および/または定量的に検出するための、高感度ながらも簡単な、日常的に実施するのに適した改良方法が求められている。
【0007】
本発明につながる研究では、検出対象の着目のマーカー配列は単一ゲノム領域の中に位置し、また通常は特有の近接配列を有することが分かった。特に、着目のマーカーはしばしば片側または両側に、反復配列ファミリーの1または2メンバーに対応する特有の近接配列を有することが分かった。各対象反復配列ファミリーの異なるメンバー自体が配列を異にする限りで、それらの配列は着目のマーカー配列を解析(たとえば特性解析、検出、単離または定量)する特有の手段となることが分かった。また、そうした配列は任意の好適な方法たとえばマイクロアッセイ関連の方法またはPCRなどにより日常的に簡単に同定することができることも分かった。たとえばPCRに関しては、使用プライマー対をそれぞれ異にする多数の増幅反応を行わせることができる。特に、プライマー対の設計に際して一方のプライマーはすべての反応に共通し、かつ一方の近接配列の保存領域たとえばコンセンサス配列を対象とするのに対し、他方のプライマーは、その各個別メンバーが反復配列ファミリーの各個別メンバーに対して特異的であるようなプライマー群より選択されるようにすることで、着目のクローン集団に特有のマーカー核酸分子に近接しているのは反復配列ファミリーのどの2メンバーかを明確かつ容易に決定することができる。そうした原理は他の基盤技術たとえば反復配列ファミリーの各メンバーに特異的に対応する一群のプローブを収めたマイクロアレイチップによるマイクロアッセイ法などにも応用可能である。従って、本方法の開発は本発明の方法に従って同定されるプライマーを使用して該マーカー配列を特異的に濃縮する手段を提供することにより、対象クローン細胞集団を、たとえ大きな非対象クローン・バックグラウンド細胞集団の中にあっても、検出および/または診断する手段を実現し易くする。
【発明の開示】
【0008】
本発明の概要
用語「含む」とその活用形は本明細書と付属の特許請求の範囲では終始、文脈上別段の解釈が必要な場合を除き、表示の完全体(群)またはステップ(群)の包含を示唆するものとするが、任意の他の完全体(群)またはステップ(群)の排除を示唆するものではない。
【0009】
後述の具体的な実施態様はもっぱら例示を目的とし、本発明の範囲を限定するものではない。機能的に等価の生成物、組成物および方法は本明細書で開示の本発明の範囲内に明確に包含される。
【0010】
用語「に由来する」は、特定の完全体または完全体群はその源が明記した種にあるものの、明記した源から直接獲得したとは限らないことを示すものとする。
【0011】
本明細書はコンピュータープログラムPatentIn Ver. 3.1を使用して作成したヌクレオチド配列情報を、参考文献一覧の後に収めている。各ヌクレオチド配列は配列表では数値標識<210>とそれに続く配列識別子(たとえば<210>1、<210>2など)によって識別する。各ヌクレオチド配列に対応する配列の長さ、タイプ(DNAなど)および由来生物は数値標識フィールド<211>、<212>および<213>にそれぞれ記載する情報で示す。本明細書で言及するヌクレオチド配列は標識配列番号と後続の配列識別子(たとえば配列番号1、配列番号2など)によって識別する。本明細書で言及する配列識別子は配列表中の数値標識フィールド<400>に記載の情報と後続の配列識別子(たとえば<400>1、<400>2など)に対応する。すなわち本明細書で詳述する配列番号1は配列表中の<400>1と表記した配列に対応する。
【0012】
本発明の一態様はクローン細胞集団に特有でありかつ片側または両側に特徴的反復配列ファミリーのメンバーを近接させているマーカー核酸領域を解析する方法であって、該マーカー核酸領域に近接する1つまたは複数の核酸配列領域を同定するステップを含む方法に関する。
【0013】
別の態様では、クローン細胞集団に特有であり、かつ、片側または両側に特徴的反復DNA配列ファミリーのメンバーを近接させているマーカーDNA領域を解析する方法であって、該マーカーDNA領域に近接する1つまたは複数のDNA配列領域を同定するステップを含む方法が提供される。
【0014】
さらに別の態様では、本発明はリンパ系細胞クローン集団に特有の可変領域遺伝子断片を解析する方法であって、VおよびD遺伝子ファミリーのメンバーを同定するステップを含む方法を提供する。
【0015】
さらになお別の態様では、本発明はリンパ系細胞クローン集団に特有の可変領域遺伝子断片を解析する方法であって、VおよびJ遺伝子ファミリーのメンバーを同定するステップを含む方法を提供する。
【0016】
さらになお別の態様では、本発明はリンパ系細胞クローン集団に特有の可変領域遺伝子断片を解析する方法であって、DおよびJ遺伝子ファミリーのメンバーを同定するステップを含む方法を提供する。
【0017】
さらになお別の態様では、本発明はクローン細胞集団に特有でありかつ片側または両側に特徴的反復配列ファミリーのメンバーを近接させているマーカー核酸配列領域を解析する方法であって、
(i) 該クローン細胞集団に由来する核酸分子の多数の増幅反応を促進するステップであって、該増幅反応には、第1プライマーがすべての反応に共通しかつ上流側近接配列の保存領域を対象とし、また第2プライマーが下流側反復配列ファミリーのメンバーに対して各々特異的であるようなプライマーの群より選択されることを特徴とするプライマー対が使用されるステップ;
(ii) 該第2プライマーのうち該近接配列の増幅を促進するものを同定するステップ;
(iii) ステップ(i)および(ii)を反復するステップであって、第1プライマーがすべての反応に共通しかつ下流側近接配列の保存領域を対象とし、また第2プライマーが該反復配列ファミリーの上流側メンバーに対して各々特異的であるようなプライマーの群より選択されることを特徴とするステップ;
を含む方法を提供する。
【0018】
さらなる態様では本発明は、クローン細胞集団に特有でありかつ片側または両側に特徴的反復配列ファミリーのメンバーを近接させているマーカー核酸配列領域を解析する方法であって、
(i) 該クローン細胞集団に由来する核酸分子の多数の増幅反応を促進するステップであって、該増幅反応には、第1プライマーが上流側反復配列ファミリーのメンバーに対して各々特異的であるようなプライマーの群より選択され、また第2プライマーが下流側反復配列ファミリーのメンバーに対して各々特異的であるようなプライマーの群より選択されることを特徴とするプライマー対が使用されるステップ;
(ii) 該第1および第2プライマーのうち該近接配列の増幅を促進するものを同定するステップ;
を含む方法を提供する。
【0019】
さらに別の態様では、クローン細胞集団に特有でありかつ片側または両側に特徴的反復配列ファミリーのメンバーを近接させているマーカー核酸配列領域を解析する方法であって、
(i) 該クローン細胞集団に由来する核酸分子の多数のポリメラーゼ連鎖増幅反応を促進するステップであって、該増幅反応には、第1プライマーがすべての反応に共通しかつ上流側近接配列の保存領域を対象とし、また第2プライマーが下流側反復配列ファミリーのメンバーに対して各々特異的であるようなプライマーの群より選択されることを特徴とするプライマー対が使用されるステップ;
(ii) 該第2プライマーのうち該近接配列の増幅を促進するものを同定するステップ;
(iii) ステップ(i)および(ii)を反復するステップであって、第1プライマーがすべての反応に共通しかつ下流側近接配列の保存領域を対象とし、また第2プライマーが該反復配列ファミリーの上流側メンバーに対して各々特異的であるようなプライマーの群より選択されることを特徴とするステップ;
を含む方法が提供される。
【0020】
さらに別の態様では本発明は、クローン細胞集団に特有でありかつ片側または両側に特徴的反復配列ファミリーのメンバーを近接させているマーカー核酸配列領域を解析する方法であって、
(i) 該クローン細胞集団に由来する核酸分子の多数のポリメラーゼ連鎖増幅反応を促進するステップであって、該増幅反応には、第1プライマーが上流側反復配列ファミリーのメンバーに対して各々特異的であるようなプライマーの群より選択され、また第2プライマーが下流側反復配列ファミリーのメンバーに対して各々特異的であるようなプライマーの群より選択されることを特徴とするプライマー対が使用されるステップ;
(ii) 該第1および第2プライマーのうち該近接配列の増幅を促進するものを同定するステップ;
を含む方法を提供する。
【0021】
さらになお別の態様では、前述のような方法に従って哺乳動物のクローン細胞集団を監視する方法であって、該クローン細胞はマーカー核酸分子の存在を特徴とし、また該マーカー核酸分子は片側または両側に特徴的反復配列ファミリーのメンバーを近接させていることを特徴とする方法が提供される。
【0022】
発明の詳細な説明
本発明は、マーカー核酸領域、特に着目のクローン細胞集団に特有のマーカー核酸領域を解析する単純ながらもきわめて正確な方法の開発を土台にしている。特にマーカー核酸領域は該マーカー領域に近接する核酸領域から正確に特性解析することができるし、その日常的に解析するのも容易になると判明している。この方法は、マーカー核酸領域が特徴的反復配列ファミリーのメンバーを近接させていて、該メンバーが実際の核酸配列を互いに異にするような場合に、特に有益である。その場合にはこれは、試験サンプル中に存在する可能性のある非マーカー・バックグラウンド配列を減らし、もってクローン細胞集団の増殖を特徴とする疾患の進行の監視、被検者の寛解状態から疾患状態への再発可能性の予見、または既存治療薬および/または新治療薬の有効性の評価を容易にする手段をもたらす。
【0023】
従って、本発明の一態様はクローン細胞集団に特有でありかつ片側または両側に特徴的反復配列ファミリーのメンバーを近接させているマーカー核酸領域を解析する方法であって、該マーカー核酸領域に近接する1つまたは複数の核酸配列領域を同定するステップを含む方法に関する。
【0024】
「細胞」は任意の種のあらゆる形態の細胞およびその突然変異体または変異体をいうものとする。本発明を何らかの特定の作用理論または形態に限定することなく、細胞は生物を構成してもよいし(単細胞生物の場合)、また個別細胞が特定の機能に多かれ少なかれ特化(分化)している多細胞生物のサブユニットでもよい。生物はみな1つまたは複数の細胞からなる。対象細胞は同系、同種または異種環境内で、試験対象としての生物学的サンプルの一部を構成してもよい。同系過程はクローン細胞集団と該クローン細胞集団の存在の場である生物学的サンプルとが同じMHC遺伝子型を共有することを意味する。これが起こる可能性がもっと大きいのは、たとえば個体を対象に腫瘍選別を行う場合であろう。「同種」過程は、対象クローン集団が実際に、生物学的サンプルを採取した当の個体のそれとは異なるMHCを発現する場合である。これは、移植片-宿主拒絶反応などの症状との関係で移植ドナー細胞集団(免疫正常骨髄移植)の定着を選別する場合などに起ころう。「異種」過程では、対象クローン細胞は、生物学的サンプルを採取した当の被検者のそれとはまったく異なる種の細胞である。これはたとえば、潜在的に腫瘍性であるドナー細胞集団が異種移植に由来する場合などに起ころう。
【0025】
対象細胞の「変異体」の非限定的な例は、元の細胞の形態学的または表現型特性または機能活性の全部ではなく一部を示す細胞などである。天然型または非天然型変異細胞たとえば遺伝子組換え細胞などもまた「変異体」の非限定的な例に含まれる。
【0026】
「クローン(の)」は、対象細胞集団が共通の起源細胞に由来していることを意味する。たとえば腫瘍細胞集団は、特定の分化段階で形質転換をこうむった単一細胞に由来する。これとの関連で、腫瘍細胞がさらなるDNA再編成または突然変異をこうむって生み出す遺伝子的に別個のクローン細胞集団は、別個のクローン細胞集団ではあるもののやはり「クローン」細胞集団である。別の例では、急性または慢性の感染症あるいは免疫刺激に反応して増加するTまたはBリンパ球もまた、ここでの定義にあてはまる「クローン」細胞集団である。さらに別の例では、クローン細胞集団はクローン微生物集団たとえばより大きな微生物集団の内部に発生した薬剤耐性クローンである。好ましくは、対象クローン細胞集団は腫瘍細胞集団またはクローン免疫細胞集団である。
【0027】
対象細胞は「マーカー核酸領域」の存在を特徴とする。対象クローン細胞集団の特徴をなす「マーカー核酸領域」は、クローン細胞には見られるが非クローン細胞では見られないまたは非クローン細胞では意味のある数が見られない核酸分子配列(たとえば独特の遺伝子配列または遺伝子領域配列など)をいう。「意味のある」とは対象マーカーの検出により対象サンプル中に存在するクローン細胞の有用な標識がなおもたらされることを意味する。該マーカーは好ましくは不連続の核酸分子領域に対応しており、従ってまた1つまたは複数の遺伝子または遺伝子部分に対応してもよい。対象遺伝子は必ずしもタンパク質をコードしなくてもよいが、それでもなお対象クローン細胞に特有の非コード配列に対応しよう。
【0028】
マーカー領域はまた、特定の遺伝子再編成に対応してもよい。たとえばマーカーはT細胞受容体(以下、TCR)鎖または免疫グロブリン鎖の再編成ゲノム可変領域核酸分子に対応してもよい。本発明をなんら限定することなく、各リンパ系細胞は特定の再編成遺伝子に応じてその生殖細胞系可変領域遺伝子断片(VおよびJまたはV、DおよびJ断片)の体細胞組換えを受けることにより、約1016個の別個の可変領域構造からなる全抗原多様性を生み出す。T細胞またはB細胞などのような任意のリンパ系細胞では、TCRまたは免疫グロブリン分子を含む2本の分子鎖のうちの2つ以上、特にTCRのα、β、γまたはδ鎖および/または免疫グロブリン分子H鎖またはL鎖の再編成のために、少なくとも2つの別個の可変領域遺伝子断片再編成が起こりそうである。任意の免疫グロブリンまたはTCR遺伝子のVJまたはVJD断片の再編成に加えて、断片間の接合部でヌクレオチドのランダムな削除および/または挿入も行われる。これは途方もない多様性をもたらす。
【0029】
マーカー領域はDNAまたはRNAたとえばmRNA、もしくはそれらの誘導体または類似体でもよい。マーカー領域がタンパク質性分子をコードするDNA分子である場合には、その発現は構成的でもよいし、誘導的であって、その転写および翻訳には細胞による刺激信号の受容を必要としてもよい。本発明の方法はゲノムDNAを検出対象とするマーカー核酸領域自体のスクリーニングに関するので、マーカーが発現するかどうかは重要ではない。しかし、本方法がmRNAの検出に関し、また該マーカーによってコードされるタンパク質が構成的に産生されない場合には、スクリーニングの前に対象細胞を適当に刺激する必要があろう。そうした刺激は対象細胞を含む生物学的サンプルを哺乳動物から採取した後にin vitroで行ってもよいし、また生物学的サンプルを採取する前に哺乳動物に与えてもよい。さらに、マーカー核酸領域はクローン増殖前の対象細胞に通常見られるものでもよい。あるいは、該マーカーはクローン増殖時の対象細胞に起こる突然変異でもよい。たとえば非腫瘍細胞のウイルス感染による腫瘍性形質転換を誘導する場合には、対象マーカーはウイルス由来またはウイルス特異的分子でもよい。
該マーカー核酸領域は好ましくはマーカーDNA領域である。
【0030】
本発明は従って特に、クローン細胞集団に特有でありかつ片側または両側に特徴的反復DNA配列ファミリーのメンバーを近接させているマーカーDNA領域を解析する方法であって、該マーカーDNA領域に近接する1つまたは複数のDNA領域を同定するステップを含む方法を提供する。
【0031】
本発明の方法は対象マーカー領域に近接する核酸配列領域の同定に関する。「近接」配列はマーカー核酸領域に近接して位置する核酸配列をいう。「に近接して」は、該配列のマーカー領域に対する位置関係が該配列の同定により対象クローン集団を解析または研究する有用な手段が得られるような関係であることを意味する。該近接配列は好ましくは、対象マーカー領域の両末端の近傍に、または両末端に隣接して、位置する。当然ながら、マーカー領域が不連続の遺伝子または遺伝子領域である限りで近接配列は該遺伝子に近接して位置する。しかし当然ながら、マーカー領域がゲノム再編成によって画定される限りで、対象近接配列は再編成遺伝子(たとえばTまたはB細胞の再編成VJまたはVDJ遺伝子)群に近接する配列を含んでよいし、あるいは近接配列は再編成遺伝子自体たとえばたとえばVJまたはVDJ遺伝子に対応してもよい。この場合、マーカーは再編成VJ、VDまたはDJ遺伝子の間に創出される独特の接合物に対応するものとして考えることもできる。対象近接配列は遺伝子でも遺伝子の一部でもよい。
【0032】
前述のように、本発明の方法に従う同定の対象としての近接配列は特徴的反復配列ファミリーのメンバーである。「特徴的反復配列ファミリー」は、単一遺伝子クラスのメンバーとして分類するに足る高レベルの相同性を示すものの、実際の核酸配列では独特の差異を示すような一群の核酸配列(好ましくは遺伝子)をいう。当然、当の近接配列が2つ存在する場合には、それらは同じ反復配列ファミリーのメンバーでもよし、2つの異なる反復配列ファミリーのメンバーでもよい。好ましくは、対象ファミリー配列は免疫グロブリンまたはT細胞受容体の可変領域遺伝子ファミリーのメンバー(すなわち種々のV、DおよびJメンバー)、リボソームRNA遺伝子、HOX遺伝子、反復エレメント(たとえばAluまたはMHC遺伝子)などである。
好ましくは、該クローン細胞はリンパ系細胞であり、該マーカーは再編成可変領域遺伝子断片である。
【0033】
従って、本発明の好ましい実施態様は、リンパ系細胞クローン集団に特有の可変領域遺伝子断片を解析する方法であって、該VおよびD遺伝子ファミリー・メンバーを同定するステップを含む方法を提供する。
【0034】
本発明の別の好ましい実施態様は、リンパ系細胞クローン集団に特有の可変領域遺伝子断片を解析する方法であって、該VおよびJ遺伝子ファミリーのメンバーを同定するステップを含む方法を提供する。
【0035】
本発明のさらに別の好ましい実施態様は、リンパ系細胞クローン集団に特有の可変領域遺伝子断片を解析する方法であって、該DおよびJ遺伝子ファミリーのメンバーを同定するステップを含む方法を提供する。
【0036】
当然ながら、「リンパ系細胞」は少なくとも1組の生殖細胞系免疫グロブリンまたはTCR可変領域遺伝子断片をすでに再編成している任意の細胞をいう。再編成される可能性のある免疫グロブリン鎖可変領域コード化ゲノムDNAはH鎖またはκ型またはλ型L鎖に関連する可変領域を含むが、再編成される可能性のあるTCR鎖可変領域コード化ゲノムDNAはα、β、γまたはδ鎖を含む。これとの関連で当然ながら、細胞は、該細胞が少なくとも1つの免疫グロブリンまたはTCR遺伝子断片領域の可変領域コード化DNAをすでに再編成している限りで、「リンパ系細胞」の範囲内に包摂される。該細胞は必ずしも再編成DNAを転写翻訳する必要はない。これとの関連で、「リンパ系細胞」はその範囲内に、TCRまたは免疫グロブリン可変領域遺伝子断片をすでに再編成しているが再編成鎖(TCR胸腺細胞など)をまだ発現していない未熟TおよびB細胞、またはTCRまたは免疫グロブリン可変領域遺伝子断片の両鎖をまだ再編成してない未熟TおよびB細胞などを非限定的に含む。こうした定義は、少なくともある程度のTCRまたは免疫グロブリン可変領域再編成をすでに受けているが、成熟TおよびB細胞に通常見られるような形質または機能特性をすべて示すとは限らないようなリンパ球様細胞にもあてはまる。従って本発明の方法は、任意の分化段階におけるリンパ系細胞、活性化リンパ系細胞、または非リンパ系/リンパ球様細胞を非限定的に含む細胞の腫瘍形成を、少なくとも1つの可変領域遺伝子断片の再編成がすでに起きている限りで、監視するために使用することができる。本発明の方法は、特異性抗原に応答して起こるクローン増殖の監視にも使用することができる。
【0037】
当然ながら、少なくとも1つの可変領域遺伝子断片の再編成がすでに完了しているのが好ましいとはいえ、本発明の方法は部分的な再編成を示すにすぎない腫瘍細胞の監視にも適用可能である。たとえばDJ組換えを経ただけのB細胞は部分的な再編成を経ただけの細胞である。完全な再編成はDJ組換え断片がV断片とのさらなる組換えを経て初めて実現する。従って本発明の方法は、このマーカー配列に対して相補的である基準分子を使用して片方のTCR鎖または免疫グロブリン鎖の部分的なまたは完全な可変領域再編成を検出するように設計することができるし、また、さらに大きな特異性が要求されていて、しかも腫瘍細胞が両方のTCR鎖または免疫グロブリン鎖の可変領域をすでに再編成している場合には、両形態の再編成を目的としたプライマー分子を使用することができる。
【0038】
前述のように、「核酸」はデオキシリボ核酸とリボ核酸の両方、もしくはそれらの誘導体または類似体を意味するが、それにはDNA(cDNAまたはゲノムDNA)、RNA、mRNAまたはtRNAなどを含むリボ核酸および/またはデオキシリボ核酸のリン酸エステルも包摂されることは言うまでもない。マーカーおよび近接配列を含む核酸分子は天然型でもよいし、対象クローン細胞たとえば以前に遺伝子治療の対象となっていた細胞の遺伝子組換えなどのような非天然事象の結果でもよい。近接配列の同定に使用される可能性が大きいプローブまたはプライマー分子に関しては、これらの核酸分子はその誘導体または類似体を包摂する。
【0039】
「誘導体」はその元となる天然体、合成体または組換え体の断片、成分、部分、化学的等価体、類似体、変異体、相同体および模倣体を含むものとする。「機能的誘導体」は当然、該ヌクレオチドまたは核酸配列の1つまたは複数の機能活性を示す誘導体をいう。該ヌクレオチドまたは核酸配列の誘導体(たとえばマーカー領域またはプライマーなど)は、他のタンパク質性または非タンパク質性分子と融合した該ヌクレオチドまたは核酸配列のエピトープまたは成分を有する断片を含む。対象(プライマー用)核酸分子は、該分子の単離または検出を容易にするタグに融合させてもよい。本明細書で想定される類似体は該ヌクレオチドまたは核酸配列の変更たとえば化学的構成または全体構造の変更を非限定的に含む。これはたとえば該ヌクレオチドまたは核酸配列が他のヌクレオチドまたは核酸配列と、骨格形成または相補性塩基対ハイブリダイゼーションのレベルなどで、相互作用する仕方の変更を含む。ビオチン標識したヌクレオチドまたは核酸配列は前述のような「機能的誘導体」の例である。核酸配列の誘導体は単一または複数の置換、欠失および/または付加に由来してもよい。用語「機能的誘導体」はまた当然、あるヌクレオチドまたは核酸配列の任意の1つまたは複数の機能活性を示すヌクレオチドまたは核酸配列類たとえば天然生成物のスクリーニングを経て得られた生成物を、また骨格を異にするヌクレオチド配列たとえばペプチド核酸を、包摂するものとする。
【0040】
マーカー核酸領域に近接する核酸配列領域の同定という文脈での「同定」は、該マーカー領域、ひいては着目のクローン細胞集団の同定および/または単離/濃縮および/または定量を容易にするに足る、対象近接領域の核酸配列に関する情報の確定をいう。対象近接領域は次の手法を非限定的に含む任意の好適な手法により同定してもよい:
(i) 固体表面たとえばチップまたはスライド上に配列された一連のプローブに対する多数の並行ハイブリダイゼーション反応を利用するマイクロアレイ技術。各個別プローブ、またはプローブのサブセットは近接配列ファミリーの異なる個別メンバーに対し特異性を有する。マーカー配列に近接するファミリー・メンバーはハイブリダイゼーションのパターンを判定することにより、通常はハイブリダイゼーションを示す最端3’ Vファミリープローブとして、ハイブリダイゼーションを示す最端5’ Jファミリープローブとして、また最大のハイブリダイゼーションを示すDプローブとして、同定することができる。
【0041】
(ii) 近接および/または核酸領域の同定を目的とした核酸配列解析時術。パイロシーケンス法やミニシーケンス法を非限定的に含む任意の好適な配列解析技術を用いてよい。
【0042】
(iii) 多数の増幅反応を利用する核酸増幅技術(PCR法など)。個々の増幅反応は、着目のマーカー核酸領域に近接する片側または両側の領域を同定するために、推定近接領域ファミリーの特定メンバーまたはそのコンセンサス配列を対象とするプライマー分子の独自の組み合わせを使用することを特徴とする。
【0043】
たとえば多数の増幅反応は、第1プライマーがすべての反応に共通しかつマーカー領域の上流側近接配列の保存領域を対象とし、また第2プライマーがマーカー領域の下流側反復配列ファミリーのメンバーに対して各々特異的であるようなプライマーの群より選択されることを特徴とするプライマー対を使用して行ってもよい。これらの反応は、第1プライマーが下流側近接配列を対象とし、第2プライマーが上流側近接配列を対象とするように逆に設計して行ってもよい。あるいは、上流側近接配列ファミリーの特定メンバーおよび下流側近接配列ファミリーの特定メンバーをそれぞれ対象とする第1および第2プライマーの使用を伴う多数の増幅反応を行うことにより前記ステップを結合することもできる。この種の増幅設計では、増幅反応は全体として上流側および下流側プライマーの異なる組み合わせを網羅する。2ファミリーの個別メンバーの諸々の組み合わせを含む単一実験を設計、実施することにより、PCR反応の数は多くなるが、これらの反応は単一ステップで実施されるので、より小さなクローン集団を相手にする場合よりも著しく有利である。
(iii) 近接配列を直接決定するDNA配列解析。
【0044】
本手法は核酸増幅技術であるのが好ましい。
好ましい一実施態様では、本発明は、クローン細胞集団に特有でありかつ片側または両側に特徴的反復配列ファミリーのメンバーを近接させているマーカー核酸配列領域を解析する方法であって、
(i) 該クローン細胞集団に由来する核酸分子の多数の増幅反応を促進するステップであって、該増幅反応には、第1プライマーがすべての反応に共通しかつ上流側近接配列の保存領域を対象とし、また第2プライマーが下流側反復配列ファミリーのメンバーに対して各々特異的であるようなプライマーの群より選択されることを特徴とするプライマー対が使用されるステップ;
(ii) 該第2プライマーのうち該近接配列の増幅を促進するものを同定するステップ;
(iii) ステップ(i)および(ii)を反復するステップであって、第1プライマーがすべての反応に共通しかつ下流側近接配列の保存領域を対象とし、また第2プライマーが該反復配列ファミリーの上流側メンバーに対して各々特異的であるようなプライマーの群より選択されることを特徴とするステップ;
を含む方法を提供する。
【0045】
別の好ましい実施態様では本発明は、クローン細胞集団に特有でありかつ片側または両側に特徴的反復配列ファミリーのメンバーを近接させているマーカー核酸配列領域を解析する方法であって、
(i) 該クローン細胞集団に由来する核酸分子の多数の増幅反応を促進するステップであって、該増幅反応には、第1プライマーが上流側反復配列ファミリーのメンバーに対して各々特異的であるようなプライマーの群より選択され、また第2プライマーが下流側反復配列ファミリーのメンバーに対して各々特異的であるようなプライマーの群より選択されることを特徴とするプライマー対が使用されるステップ;
(ii) 該第1および第2プライマーのうち該近接配列の増幅を促進するものを同定するステップ;
を含む方法を提供する。
【0046】
好ましい実施態様によれば、該クローン細胞はリンパ系細胞であり、また該マーカーは再編成された可変領域遺伝子断片である。
【0047】
最も好ましくは、該特徴的反復配列ファミリーはVおよびD配列ファミリー、VおよびJ配列ファミリー、またはDおよびJ配列ファミリーである。これとの関連で当然ながら、上流および下流側の近接配列は同じ反復配列ファミリーの同じまたは異なるメンバーでもよいし、異なる反復配列ファミリーのメンバーでもよい。
【0048】
本発明の好ましい実施態様の方法に従う近接配列の同定は、特徴的反復配列ファミリーの一特定メンバーが着目のクローン集団のマーカー領域に近接するメンバーに対応するかどうかの判定を各々の反応の目的とした一連の増幅反応の実施を土台とする。これとの関連で、「増幅」は技術上周知の任意の核酸増幅法をいう。該増幅法は好ましくはポリメラーゼ連鎖反応法である。
【0049】
この好ましい実施態様では、クローン細胞集団に特有でありかつ片側または両側に特徴的反復配列ファミリーのメンバーを近接させているマーカー核酸配列領域を解析する方法であって、
(i) 該クローン細胞集団に由来する核酸分子の多数のポリメラーゼ連鎖増幅反応を促進するステップであって、該増幅反応には、第1プライマーがすべての反応に共通しかつ上流側近接配列の保存領域を対象とし、また第2プライマーが下流側反復配列ファミリーのメンバーに対して各々特異的であるようなプライマーの群より選択されることを特徴とするプライマー対が使用されるステップ;
(ii) 該第2プライマーのうち該近接配列の増幅を促進するものを同定するステップ;
(iii) ステップ(i)および(ii)を反復するステップであって、第1プライマーがすべての反応に共通しかつ下流側近接配列の保存領域を対象とし、また第2プライマーが該反復配列ファミリーの上流側メンバーに対して各々特異的であるようなプライマーの群より選択されることを特徴とするステップ;
を含む方法が提供される。
【0050】
別の好ましい実施態様では、本発明はクローン細胞集団に特有でありかつ片側または両側に特徴的反復配列ファミリーのメンバーを近接させているマーカー核酸配列領域を解析する方法であって、
(i) 該クローン細胞集団に由来する核酸分子の多数のポリメラーゼ連鎖増幅反応を促進するステップであって、該増幅反応には、第1プライマーが上流側反復配列ファミリーのメンバーに対して各々特異的であるようなプライマーの群より選択され、また第2プライマーが下流側反復配列ファミリーのメンバーに対して各々特異的であるようなプライマーの群より選択されることを特徴とするプライマー対が使用されるステップ;
(ii) 該第1および第2プライマーのうち該近接配列の増幅を促進するものを同定するステップ;
を含む方法を提供する。
【0051】
以上の好ましい実施態様では、該クローン細胞はリンパ系細胞であり、また該マーカーは再編成された可変領域遺伝子断片である。
【0052】
最も好ましくは、該特徴的反復配列ファミリーはVおよびD配列ファミリー、VおよびJ配列ファミリー、またはDおよびJ配列ファミリーである。これとの関連で当然ながら、上流および下流側の近接配列は同じ反復配列ファミリーの同じまたは異なるメンバーでもよいし、異なる反復配列ファミリーのメンバーでもよい。
【0053】
本発明のこの好ましい実施態様での増幅はプライマー対の使用を土台とする。「プライマー」核酸配列は、ヌクレオチド配列またはその機能的誘導体を含む任意の分子であって、その機能が該ヌクレオチド配列の少なくとも1領域と標的核酸分子とのハイブリダイゼーションなどであることを特徴とする分子をいう。誘導体の例は、ハイブリダイゼーションを増進または減退させるように修飾を施した(DNAまたはRNAの)ロックされた核酸(LNA)などのような誘導体である。よって「標的核酸分子」は、任意の着目の分子、特に近接配列であり、従ってヌクレオチド配列またはその機能的誘導体を含む任意の分子であって、事実上の当初プローブ・ステップによる同定の対象をいう。核酸プライマーも標的核酸配列も非核酸成分を含んでよい。たとえば核酸プライマーは蛍光タグなどのような検出用の非核酸タグ、または増幅過程または増幅産物解析のある種の側面を促進するような他の非核酸成分を含んでもよい。同様に、標的核酸配列もまた非核酸成分を含んでよい。たとえば標的核酸配列は抗体に結合していてもよい。これはたとえば、標的核酸配列すなわち近接配列が、該近接配列に対して免疫反応たとえば核レベルでの自己免疫反応を起こしている個体から単離された生物学的サンプル中に存在するような場合に見られる。別の例では、核酸プライマーはペプチド骨格に核酸側鎖の付いたタンパク質核酸でもよい。
【0054】
プライマーは好ましくは一本鎖ヌクレオチド配列であり、また線状構造または開環状(すなわち実質的に環状ではあるが、末端領域がつながっていない)構造など任意の構造を有してよい。核酸プライマーの「末端領域」はプライマーの各末端部の領域をいう。
【0055】
プライマーを該クローン集団に由来する核酸分子集団に接触させて、試験サンプル中に存在する任意の近接配列との相互作用を促進するようにするには、任意の好適な方法を用いてよい。これらの方法は技術上周知であろう。これとの関連で、「相互作用」は任意の相互作用形態たとえば相補的ヌクレオチド塩基対間のハイブリダイゼーションまたは他の相互作用形態たとえば対象核酸分子の核酸部分間の結合形成などをいうものとする。該相互作用は共有結合、水素結合、ファンデルワールス結合または他の任意の相互作用機構などを非限定的に含む結合の形成を介して起きてよい。2核酸分子間の「ハイブリダイゼーション」はすべて該分子間の任意の相互作用形態をいうものとする。この相互作用を促進するためは、プライマーと標的核酸分子の両方を一時的に、かつ一本鎖プライマーと一本鎖近接配列の間のハイブリダイゼーションを起こすに足る条件下で、部分または完全一本鎖にするのが好ましい。
【0056】
本発明の作動理論または形態を何ら限定しないが、着目のクローン集団に由来する核酸分子集団をプライマー分子とハイブリダイゼーション条件下で接触させると結果として二本鎖が形成され、それが使用増幅法に応じて近接配列の増幅を、また定義により介在マーカー配列の増幅を、もたらすであろう。これとの関連で、本発明は上流側および/または下流側の近接配列の同定を目的とした一連の別々の増幅反応(「多数」の増幅反応)の設計を土台とする。「下流」または「上流」は近接配列のマーカー領域に対する相対的な位置をいう。これとの関連で一般に、下流側配列はマーカー領域の3’末端側に現れる配列をいい、また上流側配列はマーカー領域の5’末端側に現れる配列をいう。
【0057】
プライマーと標的核酸分子とのハイブリダイゼーションに続き、酵素DNAポリメラーゼの作用の結果として伸張反応が起こる。反復配列ファミリーのうちどのメンバーがマーカー配列に近接するかを最適に同定するためには、プライマーの結合および伸長反応を可能な限り特異的にして問題のファミリー・メンバーを同定するのが好ましい。特異性を強化し非特異的ハイブリダイゼーションおよび伸長反応を抑制するための対策は技術上周知である。そうした対策は増幅反応条件の最適化などを含むし、LNAの、特にプライマー3’末端での使用を含んでもよい。
【0058】
着目のクローン集団のマーカー領域に近接する特定核酸領域を簡単ながらも効率的なやり方で同定するためには、上流側近接配列の性質を特定するために一連の増幅反応が行われ、下流側近接配列の性質を特定するために一連の並行的な反応が行われるように、増幅反応を設計する。上流側近接配列に関しては、最初に述べた本発明の好ましい実施態様では、各反応が下流側近接配列の保存領域を対象とする共通プライマーを含むように増幅反応を設計する。「保存領域」は近接配列が所属するファミリーの全メンバーに共通する領域をいう。対象保存領域はコンセンサス配列であるのが好ましい。本発明の近接領域は周知の配列ファミリーであるため、コンセンサス配列の決定は当業者には常法の問題である。
【0059】
上流側近接配列の性質を特定するために、実際にはこれらの(共通の下流側プライマーを使用する)増幅反応は各々、上流側近接配列が所属するファミリーの特定メンバーを対象とするプライマーを別個に使用することになろう。好ましくは、該ファミリーの各メンバーを対象とするプライマーが着目の核酸集団との関連で試験されるように十分な増幅反応が設計されよう。これらの増幅反応の後は、唯一、上流側近接配列に対して特異的なプライマーを含む反応だけが増幅産物を生成する結果となっていよう。該上流側配列の源となるファミリーの他メンバーを対象とするプライマーを使用した反応は増幅産物を生成しないであろう。二番目に述べた本発明の好ましい実施態様も原理は同じであるが、どの使用プライマーも反復配列ファミリーの特定メンバーを対象とする点が異なる。しかし当然ながら本発明の方法は任意の近接配列ファミリーの各メンバーをことごとくスクリーニングする多数の増幅反応を使用して行うのが好ましいとはいえ、多数の増幅反応をそうした大規模に設計する必要が必ずしもあるわけではない。たとえばある種の遺伝子ファミリーは選択的に該ファミリーの一部のメンバーを他メンバーよりも高頻度に発現することが知られている。従って当業者は当初、最も高頻度に発現する遺伝子メンバーを試験することを目的とした一連の増幅反応を設計し、その後で、最初の一連の反応から陽性の結果が得られない場合に、発現頻度の低いメンバーを試験するための一連の反応をさらに設計するようにしてもよい。
【0060】
前述の方法は上流側反復配列の特異的な性質を特定する手段を提供する。しかし上文で詳述したように、上流側と下流側の両方の近接配列を同定してこれらの特定の遺伝子配列を近接させているマーカー領域を発現する細胞集団を日常的に監視する手段を提供しうるようにすることが本発明の目的である。従って、本発明は前述のものとは逆に設計されるさらなる一連の増幅反応の設計と実施を包摂する。つまり、このさらなる一連の反応は、これらの増幅反応の各々に上流側近接配列の保存領域を対象とするプライマーを、下流側近接配列の同定を目的とした反復配列ファミリーの一メンバーを特異的に対象とするプライマーと共に使用することにより、下流側反復配列の、反復配列ファミリーのメンバーへの対応という点での、特異的な性質を特定することが目的である。上流側近接配列の同定との関連で詳述したように、反復配列ファミリーの各メンバーをことごとく試験するよう一連の増幅反応を設計するのが好ましいとはいえ、一部のメンバーだけを最初に試験するように増幅反応を設計しても差し支えないのは言うまでもない。
【0061】
またマーカー配列の上流側と下流側の両方の近接配列を同定するのが好ましいとはいえ、片方の近接配列だけを同定する方法も本発明に含まれるのは言うまでもない。それはたとえば、マーカー領域が片側だけに反復配列ファミリーのメンバーを近接させている場合などである。
増幅反応を実施しどの反応が増幅産物を生成する結果になったかを特定するための手段は技術上周知であろう。
【0062】
本発明はクローン細胞集団に由来する核酸集団の解析を土台とする。種々の解析方法があるが、純粋なクローン細胞集団を、または少なくとも実質的に純粋なクローン細胞集団を調べることで近接配列の同定が最も簡単に行われよう。「実質的に純粋な」は不純物としての任意の非クローン細胞が十分に低レベルであって、本発明の方法がなお正確な結果をもたらしうることを意味する。クローン集団の単離に関しては、好適な生物学的サンプルを採取するとクローン増殖細胞集団だけを含む細胞集団を事実上採取する結果になるような疾患も多いことは言うまでもない。たとえば種々の白血病は、患者から採取された診断サンプル中に実質的に純粋な白血病細胞集団が存在することを特徴とする。本発明の用途次第では、本発明の方法を実施する前に細胞サンプルを精製するステップを1回または複数回行う必要があるかもしれない。たとえばある血液サンプルが腫瘍性骨髄性細胞の集団を正常非骨髄性細胞の不均一集団と共に含む限りで、該血液サンプルをCD34発現に従って選別することにより、予備精製ステップで骨髄性細胞を非骨髄性細胞から分離するようにしてもよい。そうした分離はFACSなどのような手法を使用することにより日常的に行うことができる。
【0063】
それにもかかわらず、細胞サンプル中に存在する複数の異種クローンを対象とするようなタイプの解析では、純粋なクローン集団は必ずしも必要ではない。各クローンのマーカー領域に近接する配列は該クローンのマーカー核酸の増幅を招く各特異的プライマー対によって同定することができる。実はそうした特定の近接配列は該マーカー配列の一部分を形成しているが、もし必要なら、近接配列の内側にあるマーカー配列を増幅後にまたは同じ増幅反応の一部として解析するという形で、増幅産物を対象にした追加の解析を行うことができる。
【0064】
本発明の方法に従って試験する細胞サンプルはin vitroおよびin vivoの源を含む好適な源に由来してよい。クローン細胞集団はin vivo源に由来する限りで任意の生物に由来してよい。これとの関連で生物学的サンプルは任意のヒト生物または非ヒト生物に由来してよい。本発明で想定される非ヒト生物は霊長類、家畜(例: ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ)、実験動物(例:マウス、ハムスター、ウサギ、ラット、モルモット)、ペット(例:イヌ、ネコ)、鳥類(例: ニワトリ、ガチョウ、アヒルおよび他の家禽類、狩猟鳥、エミュー、ダチョウ)、捕獲(野生または調教)動物(例: キツネ、カンガルー、ディンゴ)、爬虫類、魚類または原核生物などである。非ヒト生物にはまた、イネ、コムギ、トウモロコシ、オオムギまたはカノーラなどの植物も含まれる。植物性生物に関しては、本発明の方法は望ましいまたは望ましくない細胞集団の植物への定着または細胞下位集団の自律性増幅の検出に特に有効である。
【0065】
当然ながら生物学的サンプルは生物由来の任意のサンプルでよい。これはたとえば哺乳動物の組織や体液(リンパ標本、血液、リンパ液、糞便または気管支分泌物など)のような生物体内に天然存在するサンプルとたとえば肺洗浄後に肺から、または浣腸後に結腸から、それぞれ回収される生理食塩水などのような生物体内に導入された後に排出されるサンプルの両方をいう。対象生物学的サンプルが植物性生物である限りで、その育種資源も生物学的サンプルに含まれる。
【0066】
本発明の方法に従って試験する生物学的サンプルは直接試験してもよいし試験前に何らかの処理を必要としてもよい。たとえば生検サンプルは試験前にホモジナイズ処理を必要としてもよい。サンプルが細胞物質を含む場合には、該細胞物質中に存在する核酸物質を抽出するかまたは別の方法で露出させて、該核酸物質を解析しやすくする必要があるかもしれない。試験がmRNAマーカー近接配列の検出を目的とする場合には、サンプルは試験前に何らかの刺激を必要としてもよい。さらに別の例では、サンプルは解析前に部分的に精製するかまたは別の方法で濃縮してもよい。たとえば生物学的サンプルがきわめて雑多な細胞集団を含む限りで、特に着目の下位集団を選別するのが望ましい場合もある。たとえば、前述のように急性骨髄性白血病の発症を選別する限りで、CD34+濃縮血液サンプルは血液サンプル中の骨髄性細胞成分を精密選別用に単離する手段を提供してくれる。これは非骨髄性細胞を除外することにより解析対象の細胞型の数を機能的に問題外のレベルまで減らすことになる。別の例では、特異的プライマーが使える場合には試験前にマーカー核酸集団を増幅するのが、または汎用プライマーを使用して試験サンプルの核酸集団を丸ごと増幅するのが、より大きな核酸分子集団から出発するという意味で、好ましいかもしれない。
【0067】
本発明の方法に従う試験にはどのようなタイプのサンプルを選択するのが最も適しているかは監視対象の疾患の性質に依存しよう。たとえば腫瘍性疾患がリンパ性白血病であれば、血液サンプル、リンパ液サンプルまたは骨髄穿刺液が好適な試験サンプルとなりそうである。腫瘍性疾患がリンパ腫であれば、リンパ節生検サンプルまたは血液/骨髄サンプルが好適な試験用組織の源となりそうである。監視対象が腫瘍細胞の原発巣なのか、原発巣からの転移巣または他の拡散形態なのかを考慮する必要もあろう。これとの関連では、任意の一生物から多種多様なサンプルを採取して試験するのが望ましいであろう。別の例では、リンパ球クローンの正常な増殖を選別しようとする限りで、生物学的サンプルを二次リンパ器官から優先的に採取することになるか、または免疫反応が進んで増殖クローン集団が循環中に放出されている場合には血液またはリンパ液サンプルを採取してもよい。
【0068】
本発明の方法は、マーカー領域に近接する特異的な形態の配列が規定遺伝子ファミリーに属する遺伝子または遺伝子領域に対応する限りで、それらの近接配列の同定を土台としてクローン細胞集団を解析するための簡単で効率的かつ正確な手段を提供する。これとの関連で、「解析(する)」は最広義に理解されるものとし、マーカー領域の特性解析、検出、単離、増幅または定量を非限定的に含む。こうして本発明の方法に従ったこれらの近接領域の解析は次のような用途を非限定的に含む一連の潜在的用途に道を開く:
(i) これによって同定される近接配列を従えた核酸物質を得るために、生物学的サンプルに由来する核酸集団を濃縮する手段。そうした濃縮技術は、生物学的サンプルが高度に不均一の細胞型を含む場合に特に有益である。
【0069】
「濃縮」は試験サンプル中の、マーカー核酸領域を発現する核酸分子のバックグラウンド非マーカー核酸分子に対する比率を高めることをいう。濃縮は、たとえばこれによって同定される特定の近接配列の組み合わせを発現しない核酸分子を分解し、除去し、または別の方法で減らすことにより、実現することができる。着目の核酸集団をやむを得ず増幅するのではなく、試験サンプルから非関連核酸分子を減らすように設計しうる濃縮ステップを設けることで、本検出方法は非特異的増幅が起きるリスクを排除した高感度の手段を提供する。「濃縮」は諸々の非関連核酸分子を試験サンプルから除去する濃縮ステップに限定されず、むしろ非関連核酸分子の濃度を引き下げることをいうものする。従って、この濃度は種々変化してもよい。
【0070】
マーカー配列を含む核酸分子の濃縮は、本発明の方法に従って同定された近接配列を対象とするプローブ分子へのタグの組み込みなどを非限定的に含む多数の好適技術のうちの1つまたは複数の技術を使用して実施することができる。該タグは、固相に対して分子を共有結合または非共有結合によってカップリングさせて、無用の分子を洗浄等の手段で簡単に除去しうるようにするために使用することができる。濃縮はまた、最初のステップとは別のステップで、または追加のステップとして、核酸増幅法で片側または両側の近接配列を対象とするプライマーを使用して行うこともできる。
【0071】
(ii) 被検者内のクローン細胞集団の増殖を監視する手段を提供すること。これは、クローン細胞集団の増殖を特徴とする患者の疾患または非疾患の進行を監視する場合に求められそうである。本発明の方法には、たとえば悪性および非悪性腫瘍患者との関係で、潜在的な適用分野がかなりある。しかし、種々の免疫不全症の患者との関係でも、該患者の免疫系によって開始される可能性のある免疫細胞増殖の性質を選別しようとする場合に、本発明を適用する余地があろう。そうした監視はたとえば前記(i)の濃縮技術によって行ってもよい。
【0072】
(iii) 本発明の方法に従って同定される近接配列は細胞集団をマークする簡単かつ効率的な手段を提供する。たとえばこれらの配列がひとたび同定されると、その特定のマーカーを発現する細胞集団の存在を(定性的および/または定量的に)確認するために細胞集団を日常的にスクリーニングすることができる。これは、任意の後続濃縮ステップを欠いたままでも可能である。腫瘍性クローンなどのようなクローン細胞集団が発現する独特の突然変異の同定はきわめて複雑で実現しにくいとも考えられるが、本発明の方法はクローン細胞集団の特性を解析し、もって現行の検出/監視用途にマーカーを提供するための比較的日常的な手段を提供する。
【0073】
(iv) 本発明の方法は、「コンセンサス」プライマーを使用しても実現し得なかったクローン細胞集団の検出を容易にする。各配列ファミリーの個別メンバーを対象とした個別プライマーの使用により核酸増幅を試験サンプルに対して試みることにより、またプライマーを個別に、または多重に、使用することにより、クローン細胞集団の存在を首尾よく示してもよいし、またそうした集団の同定と近接配列の特定により、該集団のその後の監視を可能にしてもよい。
【0074】
(v) 悪性集団中に複数の悪性クローンが存在するときは、多数の核酸増幅反応を行わせて、その各々が異なるプライマー対を使用し、また異なるプライマー対の使用が全体として2つの近接配列の個別メンバーを対象とするプライマーの組み合わせを網羅するようにすることで、また核酸の増幅を定量的に行うことで、種々の悪性下位集団の相対的な大きさを測定してもよい。これはリンパ性がん患者の随伴性悪性クローンなどを非限定的に含む数多くの状況において重宝であろう。
【0075】
(vi) ポリクローン集団中の正常免疫クローンなどのように、ある集団中に複数のクローンが存在するときは、多数の核酸増幅反応を行わせて、その各々が異なるプライマー対を使用し、また異なるプライマー対の使用が全体として2つの近接配列の個別メンバーを対象とするプライマーの組み合わせを網羅するようにすることで、また核酸の増幅を定量的に行うことで、種々のクローンの相対的な大きさを測定してもよい。これは生理的または病理的な条件下での免疫系の研究などを含む状況において重宝であろう。
【0076】
従って別の態様では、哺乳動物のクローン細胞集団の、すなわちマーカー核酸分子の存在によって特徴付けられ、また該マーカー核酸分子が前述のような方法に従って同定される特徴的反復配列ファミリーのメンバーである配列を近接させている哺乳動物のクローン細胞集団の、診断および/または監視方法であって、該哺乳動物に由来する生物学的サンプルの核酸分子を対象に該近接配列の存在を選別するステップを含むことを特徴とする方法が提供される。該クローン細胞集団は腫瘍細胞集団、免疫細胞集団または微生物集団であるのが好ましい。該免疫集団はT細胞集団またはB細胞集団であるのがなお好ましい。
【0077】
本発明のこの態様に関して、「監視」は被検者を対象とする対象クローン細胞集団に関する有無の初期診断後の該集団の有無またはレベルの試験をいう。「監視」は孤立した1回限りの試験の実施と一連の試験の数日、数週、数か月または数年の期間にわたる実施の両方を含む。それら試験の実施には、寛解期にある哺乳動物が再発する可能性についての予測、治療プロトコールの有効性の監視、寛解期にある患者の状態の点検、治療計画の適用前または適用後の疾患の進行の監視、好適な治療に関する決定の補助手段、または新治療法の試験などを非限定的に含む任意数の理由があってよい。本発明の方法は従って、臨床手段としても研究手段としても有用である。
【0078】
さらに別の態様では、クローン細胞集団の存在によって特徴付けられる哺乳動物の疾患を診断および/または監視する方法であって、該クローン細胞はマーカー核酸分子の存在によって特徴付けられ、該マーカー核酸分子は請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法に従って同定される特徴的反復配列ファミリーのメンバーである配列を片側または両側に近接させており、また該方法は該哺乳動物に由来する生物学的サンプルの核酸分子を対象に該近接配列の存在を選別するステップを含むことを特徴とする方法が提供される。
【0079】
該クローン細胞集団は腫瘍細胞集団、免疫細胞集団または微生物集団であるのが好ましい。該免疫集団はT細胞集団またはB細胞集団であるのがなお好ましい。
該細胞集団は腫瘍細胞集団であり、該疾患は悪性または非悪性腫瘍性疾患であるのが最も好ましい。
別の最も好ましい実施態様では、該細胞集団は免疫細胞集団であり、該疾患は望ましいまたは望ましくない免疫反応または免疫不全疾患たとえばAIDSである。
さらに別の好ましい実施態様では、該クローン集団は微生物集団であり、該疾患は感染症である。
【0080】
本発明のそうした好ましい態様に従って、また該クローン集団はT細胞集団またはB細胞集団である限りで、該マーカー核酸領域は再編成された免疫グロブリンまたはT細胞受容体の可変領域遺伝子断片であり、該特徴的反復配列はV、DまたはJ遺伝子断片であるのが好ましい。
【0081】
本発明のさらに別の態様は、生物学的サンプル中の核酸分子集団を濃縮する方法であって、該核酸分子はマーカー核酸分子の存在によって特徴付けられ、該マーカー核酸分子は請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法に従って同定される特徴的反復配列ファミリーのメンバーである配列を片側または両側に近接させており、また該方法は該近接配列を含まない核酸分子に対する該近接配列を含む核酸分の比率を上昇させるステップを含むことを特徴とする方法に関する。
本発明のさらなる特徴を以下の非限定的な実施例でもっと詳しく説明する。
【実施例】
【0082】
実施例1
治療時の白血病定量化を説明するための流れ図:
出発物質−1個〜非常に多数個の細胞にわたる多様な大きさのポリクローン性リンパ球集団。各クローンは1/>50個のV断片、1/>30個のD断片および1/6個の J断片を特徴とする。解析用の白血性クローンは未知のV、DおよびJ断片(たとえば引数V23、D7およびJ4)を有する。
【0083】
診断での比較的純粋なクローン集団である白血病細胞の使用が、近接J、DおよびV断片(この場合はJ4 、V23およびD7)を決定する。
【0084】
上記出発物質の解析
出発物質を対象とした、V23およびJ4プライマーによる増幅反応。

V23およびJ4増幅物質を対象とした、D7およびJ4プライマーによる増幅反応。

増幅物質は大体が、または全部が、V23、D7およびJ4を特徴とするクローンだけに由来する。従って、白血病細胞由来の物質が大幅に濃縮される結果となる。

定量的PCR法により、および/または電気泳動法またはクロマトグラフィーなどのような方法を用いた鎖長および/または配列の解析により、増幅物質のマーカー領域を解析して出発物質中の白血性クローンを検出および/または定量する。
【0085】
近接配列が未知であるときの多数のクローンの定量化を説明する流れ図:
解析対象の物質から多数の増幅反応を設計するが、各反応には異なるプライマー対を使用する(通常、各プライマー対はV、J各1個であるが、V、D各1個でも、D、J各1個でもよい)。

定量的PCR法により、および/または電気泳動法またはクロマトグラフィーなどのような方法を用いた鎖長および/または配列の解析または異なるプライマー対を使用するさらなる多重増幅反応により、増幅を示す各反応の増幅物質のマーカー領域を解析する。
【0086】
実施例2
J、VおよびD領域同定のためのプロトコール
J領域のスクリーニング:
- TaqManプローブMJB2
- チューブ(各チューブ×2)あたり10ngの診断用DNAを使用
- 3A-J1, J1dup, J2, J2dup,……J6, J6dup
- チューブは対照を含めて28本
- ファイルに従い92℃15秒、58℃1分を45サイクルの設定で定量的PCRを実施
- 関連トラックをゲル電気泳動にかけてサイズを検証
・ 27〜35サイクル程度のCt値が優性クローンのJ領域を示す。
特異的J領域を同定したら、V領域のスクリーニングに移る。
【0087】
V領域のスクリーニング:
- TaqManプローブMJB2
- チューブ(各チューブ×2)あたり10ngの診断用DNAを使用
- Vspecific(41プライマー)-Jspecific
- チューブは対照を含めて90本
- ファイルに従い92℃15秒、58℃1分を45サイクルの設定で定量的PCRを実施
- 関連トラックをゲル電気泳動にかけてサイズを検証
・ 25〜30サイクル程度のCt値が優性クローンのV領域を示す。
【0088】
D領域のスクリーニング:
- TaqManプローブMJB2
- V領域スクリーニングにおけるV特異的-J特異的に由来する約1/100,000の希釈液を使用する
- Dspecific (31プライマー)-Jspecific
- チューブは対照を含めて65本
- ファイル40℃×2サイクル(92℃15秒、40℃1分)に従い定量的PCRを実施
44℃×2
48℃×2
52℃×2
54℃×2
58℃×30
- 関連トラックをゲル電気泳動にかけてサイズを検証
・ 20〜25サイクル程度のCt値が優性クローンのD領域を示す。
【0089】
実施例3
近接配列に結合するプライマーの使用による白血病の定量化
実施例2に示したプロトコールによって同定される近接配列およびプライマーと共に、実施例1で概略を示したような近接配列に結合するプライマーを使用することによる白血病の定量化の結果。白血病細胞は正常血液細胞と既知の比率で混合し、次に混合物中の該比率の白血病細胞を本方法の使用により定量化した。各記号は異なるサンプル混合物に由来する結果を示す。細胞混合比率から推測される「真の」結果と本方法によって得られた測定値とがぴったりと合致することに注目。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
【表4】

【0094】
【表5】

【0095】
【表6】

【0096】
【表7】

【0097】
【表8】

【0098】
当業者には自明であろうが、開示の発明は変異や変更を明記したもの以外にも許容することができる。本発明がそうした変異や変更をすべて包含することは言うまでもない。本発明はまた、本明細書で個別にまたは一括して言及または示唆した諸々のステップ、特徴、組成物および化合物、それに任意の複数の該ステップまたは特徴の一切の組み合わせを包含する。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】近接配列に結合するプライマーの使用による白血病の定量化グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クローン細胞集団に特有であり、かつ、片側または両側に特徴的反復配列ファミリーのメンバーを近接させているマーカー核酸領域の解析方法であって、上記マーカー核酸領域に近接する1つまたは複数の核酸配列領域を同定するステップを含む前記方法。
【請求項2】
前記マーカー核酸領域がDNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マーカー核酸領域が免疫グロブリンまたはT細胞受容体の可変領域遺伝子ファミリーのメンバーであり、かつ、特徴的反復配列ファミリーがV、Dおよび/またはJ遺伝子断片に対応する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記特徴的反復配列ファミリーが、リボソームRNA遺伝子、HOX遺伝子、Alu遺伝子またはMHC遺伝子である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記クローン細胞集団が腫瘍細胞集団である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記クローン細胞集団が免疫細胞集団である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記免疫細胞集団がT細胞集団である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記免疫細胞集団がB細胞集団である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記クローン細胞集団がクローン微生物集団である、請求項1また2に記載の方法。
【請求項10】
前記マーカー核酸領域が再編成された免疫グロブリンまたはT細胞受容体可変領域遺伝子断片であり、かつ、前記特徴的反復配列がVおよびD遺伝子断片に対応する、請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記マーカー核酸領域が再編成された免疫グロブリンまたはT細胞受容体可変領域遺伝子断片であり、かつ、前記特徴的反復配列がVおよびJ遺伝子断片に対応する、請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記マーカー核酸領域が再編成された免疫グロブリンまたはT細胞受容体可変領域遺伝子断片であり、かつ、前記特徴的反復配列がDおよびJ遺伝子断片に対応する、請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記同定方法が増幅反応である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記同定方法が、以下の:
(i) クローン細胞集団に由来する核酸分子の多数の増幅反応を促進するステップであって、上記増幅反応には、第1プライマーがすべての反応に共通し、かつ、上流側近接配列の保存領域を対象とし、そして第2プライマーが前記下流側反復配列ファミリーのメンバーに対して各々特異的であるようなプライマーの群より選択されるプライマー対が使用される前記ステップ;
(ii) 上記第2プライマーのうち上記近接配列の増幅を促進するものを同定するステップ;
(iii) ステップ(i)および(ii)を反復するステップであって、第1プライマーがすべての反応に共通し、かつ、上記下流側近接配列の保存領域を対象とし、そして第2プライマーが上記反復配列ファミリーの上流側メンバーに対して各々特異的であるようなプライマーの群より選択される前記ステップ;
を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記同定方法が、以下の:
(i) クローン細胞集団に由来する核酸分子の多数の増幅反応を促進するステップであって、上記増幅反応には、第1プライマーが上流側反復配列ファミリーのメンバーに対して各々特異的であるようなプライマーの群より選択され、そして第2プライマーが下流側反復配列ファミリーのメンバーに対して各々特異的であるようなプライマーの群より選択されるプライマー対が使用される前記ステップ;
(ii) 上記第1および第2プライマーのうち上記近接配列の増幅を促進するものを同定するステップ;
を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記増幅反応がポリメラーゼ連鎖反応である、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記同定方法が、マイクロアレイとの関連で実施される核酸ハイブリダイゼーション・ステップを含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記同定方法が核酸配列解析ステップを含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記核酸配列解析法がパイロシーケンス法である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記核酸配列解析法がミニシーケンス法である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
哺乳動物を対象とした、マーカー核酸分子によって特徴付けられ、かつ、上記マーカー核酸分子が請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法に従って同定される特徴的反復配列ファミリーのメンバーである配列を片側または両側に近接しているクローン細胞集団の検出または監視方法であって、そして上記哺乳動物に由来する生物学的サンプルの核酸分子について上記近接配列の有無を選別するステップを含む前記方法。
【請求項22】
前記クローン細胞集団が腫瘍細胞集団である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記クローン細胞集団が免疫細胞集団である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記免疫細胞集団がT細胞集団である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記免疫細胞集団がB細胞集団である、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記クローン細胞集団がクローン微生物集団である、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記マーカー核酸領域が再編成された免疫グロブリンまたはT細胞受容体可変領域遺伝子断片であり、かつ、前記特徴的反復配列がVおよびD遺伝子断片に対応する、請求項23〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記マーカー核酸領域が再編成された免疫グロブリンまたはT細胞受容体可変領域遺伝子断片であり、かつ、前記特徴的反復配列がVおよびJ遺伝子断片に対応する、請求項23〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記マーカー核酸領域が再編成された免疫グロブリンまたはT細胞受容体可変領域遺伝子断片であり、かつ、前記特徴的反復配列がDおよびJ遺伝子断片に対応する、請求項23〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記特徴的反復配列ファミリーがリボソームRNA遺伝子、HOX遺伝子、Alu遺伝子またはMHC遺伝子である、請求項21に記載の方法。
【請求項31】
クローン細胞集団によって特徴付けられる哺乳動物の疾患の診断および/または監視方法であって、上記クローン細胞がマーカー核酸分子によって特徴付けられ、かつ、上記マーカー核酸分子が請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法に従って同定される特徴的反復配列ファミリーのメンバーである配列を片側または両側に近接させており、そして上記方法が上記哺乳動物に由来する生物学的サンプルの核酸分子を対象に上記近接配列の有無を選別するステップを含む前記方法。
【請求項32】
前記クローン細胞集団が腫瘍細胞集団である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記クローン細胞集団が免疫細胞集団である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記免疫細胞集団がT細胞集団である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記免疫細胞集団がB細胞集団である、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記クローン細胞集団がクローン微生物集団である、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
前記マーカー核酸領域が再編成された免疫グロブリンまたはT細胞受容体可変領域遺伝子断片であり、かつ、前記特徴的反復配列がVおよびD遺伝子断片に対応する、請求項33〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記マーカー核酸領域が再編成された免疫グロブリンまたはT細胞受容体可変領域遺伝子断片であり、かつ、前記特徴的反復配列はVおよびJ遺伝子断片に対応する、請求項33〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記マーカー核酸領域が再編成された免疫グロブリンまたはT細胞受容体可変領域遺伝子断片であり、かつ、特徴的反復配列がDおよびJ遺伝子断片に対応する、請求項33〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記特徴的反復配列ファミリーが、リボソームRNA遺伝子、HOX遺伝子、Alu遺伝子またはMHC遺伝子である、請求項31に記載の方法。
【請求項41】
前記疾患が腫瘍性疾患である、請求項31に記載の方法。
【請求項42】
前記腫瘍性疾患が悪性腫瘍性疾患である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記腫瘍性疾患が非悪性腫瘍性疾患である、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記疾患が免疫不全であり、かつ、前記選別が特異的免疫細胞の増殖の検出に向けられる、請求項31に記載の方法。
【請求項45】
前記疾患が免疫反応であり、かつ、前記選別が特異的免疫細胞の増殖の検出に向けられる、請求項31に記載の方法。
【請求項46】
生物学的サンプル中の核酸分子集団の濃縮方法であって、上記核酸分子がマーカー核酸分子によって特徴付けられ、かつ、上記マーカー核酸分子が請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法に従って同定される特徴的反復配列ファミリーのメンバーである配列を片側または両側に近接させており、そして上記近接配列を含まない核酸分子に対する上記近接配列を含む核酸分の比率を上昇させるステップを含む前記方法。
【請求項47】
前記マーカー核酸領域が再編成された免疫グロブリンまたはT細胞受容体可変領域遺伝子断片であり、かつ、前記特徴的反復配列がVおよびD遺伝子断片に対応する、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記マーカー核酸領域が再編成された免疫グロブリンまたはT細胞受容体可変領域遺伝子断片であり、かつ、前記特徴的反復配列はVおよびJ遺伝子断片に対応する、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記マーカー核酸領域が再編成された免疫グロブリンまたはT細胞受容体可変領域遺伝子断片であり、かつ、前記特徴的反復配列はDおよびJ遺伝子断片に対応する、請求項46に記載の方法。
【請求項50】
前記特徴的反復配列ファミリーが、リボソームRNA遺伝子、HOX遺伝子、Alu遺伝子またはMHC遺伝子である、請求項46に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−515154(P2007−515154A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529437(P2006−529437)
【出願日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【国際出願番号】PCT/AU2004/000625
【国際公開番号】WO2004/101815
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(505420220)モノクワント プロプライアタリー リミティド (2)
【Fターム(参考)】