説明

供給側流路材、及びスパイラル型分離膜エレメント

【課題】構成糸どうしの隙間領域においても、十分な抗菌作用が得られるため効果的にバイオファウリングを防止することができる供給側流路材および当該供給側流路材を用いたスパイラル型分離膜エレメントを提供する。
【解決手段】スパイラル型分離膜エレメントに用いる供給側流路材であって、ネット状の供給側流路材を構成するネット構成糸1,2が、クロロフェノール系抗菌剤を含有する供給側流路材、並びに分離膜、供給側流路材及び透過側流路材の単数又は複数が、有孔の中空状中心管の周りに巻きつけられているスパイラル型分離膜エレメントにおいて、前記供給側流路材は、前記供給側流路材であることを特徴とするスパイラル型分離膜エレメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中に存在している成分を分離するスパイラル型分離膜エレメントに用いる供給側流路材、並びに、当該供給側流路材を用いたスパイラル型分離膜エレメントに関し、より詳しくは、スパイラル型分離膜エレメントに抗菌性を付与する技術に関する。
する。
【背景技術】
【0002】
従来、スパイラル型分離膜エレメントの構造としては、分離膜、供給側流路材及び透過水側流路材の単数または複数が、有孔の中心管の周りに巻きつけられたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなスパイラル型分離膜エレメントでは、供給側流体(原水)が供給側流路材によって分離膜表面へ導かれ、分離膜を透過して分離された後、透過側流体(透過水)が透過側流路材に沿って中心管(集水管)まで導かれる。この供給側流路材としては、ポリプロピレン等の樹脂製のネットが主に使用されてきた。
【0003】
一般に分離膜エレメントの供給液には、細菌や微生物が含まれるため、長期間にわたる運転においては、原水側流路材の周りに微生物が増殖し、生物膜を形成してバイオファウリングと呼ばれる状態となる。この状態においては、原水側流路材の流れ抵抗が増大するため、供給ポンプの負荷が増大するほか、膜面に付着した生物膜が抵抗となり膜性能が低下するなどの弊害が生じる。そのためバイオファウリングが進行するとユーザーは化学的な洗浄を行う必要が生じ、コストおよび労力の面で大きな負担となっている。
【0004】
このため、塩素等の殺菌剤を用いて原水の殺菌を行う方法に加えて、分離膜エレメント自体に殺菌作用を付与する方法がこれまで知られている。例えば、下記の特許文献2には、分離膜の支持膜層を形成する際のドープ(製膜溶液)中に、トリクロサン系の抗菌剤を添加する製法によって、分離膜中に抗菌剤を導入した分離膜エレメントが知られている。
【0005】
しかし、分離膜中に抗菌剤を導入する方法では、処理水は膜内を一方向に透過していくので、透過水の微生物制御には効果があるものの、抗菌剤接触前の原水側への抗菌効果が生じにくい。このため、細菌等の堆積は特に生じ易い分離膜の表面や供給側流路材に、細菌や微生物が付着して繁殖することを防止する直接的な効果はなかった。
【0006】
更に、実際のスパイラルエレメント構成から考えると、その単位面積当たりのボリューム(体積)は供給側流路材の方が多く、分離膜中に抗菌剤を導入する方法では、抗菌剤が保持される絶対量を多くすることができないため、抗菌効果を長期間保持することが困難であった。
【0007】
また、下記の特許文献3には、供給側流路材に抗菌剤を分散又はコーティングしてなる分離膜エレメントが知られている。この抗菌剤としては、銀ゼオライト、アミジン基若しくはグアニジン基を有する化合物、又は第4級アンモニウム塩等が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−42378号公報
【特許文献2】米国特許第6540915号明細書
【特許文献3】特開平8‐332489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3に記載された上記抗菌剤は、供給側流路材に使用した場合、いずれも大腸菌に対する増殖抑制効果が十分とは言えないことが判明した。即ち、供給側流路材は、一般にネット状に形成されているため、ネットの構成糸どうしの隙間領域においても、抗菌作用が必要になるところ、上記の抗菌剤では、このような隙間領域における抗菌効果が十分得られないことが判明した。
【0010】
特に、特許文献3に記載された有機系抗菌剤を用いた場合、溶解性が大きすぎるため保持期間を長くすることが困難であった。また、銀系抗菌剤のような無機系の抗菌剤は徐放性や拡散作用が低いため、抗菌エリアが狭く、必要とされるスペース全体にその効果が及びにくいという問題があった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、構成糸どうしの隙間領域においても、十分な抗菌作用が得られるため効果的にバイオファウリングを防止することができる供給側流路材および当該供給側流路材を用いたスパイラル型分離膜エレメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究した結果、クロロフェノール系抗菌剤をネット構成糸に含有させることで上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明の供給側流路材は、スパイラル型分離膜エレメントに用いる供給側流路材であって、ネット状の供給側流路材を構成するネット構成糸が、クロロフェノール系抗菌剤を含有することを特徴とする。
【0014】
本発明の供給側流路材によると、実施例の結果が示すように、クロロフェノール系抗菌剤をネット構成糸に含有させることで、構成糸どうしの隙間領域においても、十分な抗菌作用が得られるため効果的にバイオファウリングを防止することができる供給側流路材を提供することができる。
【0015】
本発明では、前記ネット構成糸の交点間隔が4〜15mmである場合でも、構成糸どうしの隙間領域において、十分な抗菌作用が得られる。
【0016】
本発明では、前記クロロフェノール系抗菌剤が、トリクロサン(2,4,4’‐trichloro−2’−hydroxy diphenyl ether)又はその誘導体であることが好ましい。
【0017】
また、前記クロロフェノール系抗菌剤の含有量が、全重量中0.005〜10重量%であることが好ましい。このような抗菌剤の含有量であると、構成糸どうしの隙間領域においても、十分な抗菌作用が得られ、かつ流路材の強度等を十分維持することができる。
【0018】
更に、前記クロロフェノール系抗菌剤が、ネット構成糸を形成する樹脂中に分散していることが好ましい。スパイラル型分離膜エレメントのように高圧での水流が生じる用途では、コーティングの場合、経時劣化が生じやすく、このため抗菌効果の耐久性の点で、ネット構成糸を形成する樹脂中に分散させていることが好ましい。
【0019】
一方、本発明のスパイラル型分離膜エレメントは、分離膜、供給側流路材及び透過側流路材の単数又は複数が、有孔の中空状中心管の周りに巻きつけられているスパイラル型分離膜エレメントにおいて、前記供給側流路材が上記記載の供給側流路材であることを特徴とする。
【0020】
本発明のスパイラル型分離膜エレメントによると、本発明の供給側流路材を用いるため、構成糸どうしの隙間領域においても、十分な抗菌作用が得られるため効果的にバイオファウリングを防止することができるスパイラル型分離膜エレメントが提供できる。
【0021】
上記において、前記分離膜は無機系抗菌剤を含有することが好ましい。一般に、無機系抗菌剤は、毒性等に関する安全性や持続性は高く、適応菌種の範囲は広いが、抗菌可能領域が著しく狭いなど、抗菌力や殺菌力は弱い。逆に有機系は徐放性や拡散性が高いため、抗菌力や殺菌力は高いが、持続性が低く、適応菌種の範囲が狭いなどの問題点がある。例えば、有機系抗菌剤であるトリクロサンは、緑膿菌、黒麹黴、カンジダ酵母などに対して、抗菌効果が小さいか又は比較的小さいが、無機系抗菌剤であるノバロン(銀系抗菌剤)は、緑膿菌、カンジダ酵母等に対しても十分な抗菌効果を示す。
【0022】
したがって、水が透過する分離膜には無機系抗菌剤、水が表面を通過する供給側流路材には抗菌範囲が広い有機系抗菌剤を用いることで、効果的に菌の堆積を抑制することができる。原水中には多種の菌が存在するが、複数種類の抗菌剤を用いることで影響する抗菌範囲(抗菌スペクトル)が広くなり、1種の場合よりも多くの菌の繁殖を抑制できる。また、菌の変性による耐性菌が発生することも抑制できる。
【0023】
特に、前記分離膜は、多官能アミン成分と多官能酸ハライド成分とを反応させてなるポリアミド系樹脂を含むスキン層が多孔性支持体の表面に形成されている複合半透膜であって、スキン層上に直接又は他の層を介して銀系抗菌剤及びポリマー成分を含有する抗菌層が形成されていることが好ましい。
【0024】
この複合半透膜を用いる場合、銀系抗菌剤及びポリマー成分を含有する抗菌層を有しており、該抗菌層により耐微生物汚染特性を長期間持続することができる。特に、抗菌層中の銀系抗菌剤とポリマー成分との重量比を55:45〜95:5(銀系抗菌剤:ポリマー成分)に調整し、ポリマー成分に比べて銀系抗菌剤を過剰に添加することにより、抗菌層表面に銀系抗菌剤の一部を露出させることができ、それにより優れた耐微生物汚染特性が発現する。また、スキン層上に直接又は他の層を介して抗菌層を形成し、スキン層中に抗菌剤を分散させていないためスキン層の緻密性が維持されている。それにより、スキン層の性能の低下を抑制でき、耐汚染特性だけでなく水透過性能及び塩阻止率を高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の供給側流路材の製造方法に用いられるノズルの一例を示す一部破断した斜視図
【図2】ノズル孔の動作を説明する説明図
【図3】本発明の供給側流路材の一例を示す図
【図4】抗菌性評価試験1で得られた結果を示す写真
【図5】抗菌性評価試験2で得られた結果を示す写真
【図6】抗菌性評価試験3で得られた結果を示すグラフ
【図7】本発明のスパイラル型分離膜エレメントの一例を示す部分破断した斜視図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0027】
本発明の供給側流路材は、図3に示すように、スパイラル型分離膜エレメントに用いる供給側流路材であって、ネット状の供給側流路材を構成するネット構成糸1,2が、クロロフェノール系抗菌剤を含有することを特徴とする。ネット状の供給側流路材は、ネット構成糸1,2同士が接合されていなくてもよいが、ネット構成糸1,2同士が接合されていることが好ましい。
【0028】
クロロフェノール系抗菌剤とは、フェノール化合物であって塩素基を有する抗菌剤を指す。クロロフェノール系抗菌剤としては、トリクロサン(2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテル)、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール、2,4−ジクロロフェノールペンタクロロフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、4−クロロ−m−クレゾール、2,3,6−トリクロロフェノール、2,3−ジクロロフェノール、2,4,5−トリクロロフェノール、2,4,6−トリクロロフェノール、2,3,4,6−テトラクロロフェノール、4−クロロ−3,5−キシレノール、2,4−ジクロロ−3,5−キシレノール、4−クロロ−3−メチル−6−イソフプロピルベンゼン、P−クロロ−o,n−アミルフェノール、P−クロロ−o,n−ヘキシルフェノール、p−クロロ−o,n−オクチルフェノール、p−クロロ−o−チクロヘキシル・フェノール、p−クロロ−o−チクロペンチル・フェノール、p−クロロ−o−ベンジル・フェノール、p−クロロ−o−ベンジル−m−クレゾール、ジクロロ−(p−クロロベンジル)−m−クレゾール、p−クロロ−o−フェニル・フェノールジクロロフェン、ブロムクロロフェン、ヘキサクロロフェン、ビチオノールや、その誘導体など、その抗菌作用に応じて限定されることなく用いることができる。なかでも、抗菌効果や保持性能とのバランスから、ベンゼン環を1個または2個有するものが良く、特に水処理に用いる場合のその保持性能からベンゼン環2個のものが好ましい。
【0029】
なかでも、化学式(化1)に示すトリクロサン(2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシジフェニルエーテル)又はその誘導体を好適に用いることができる。
【0030】
【化1】

【0031】
トリクロサン誘導体としては、トリクロサンの塩素基が水素原子もしくは他のハロゲン基で置換されたものや、それらの置換位置が異なる同族体、またはトリクロサンのリン酸エステル、ホスホン酸エステル、硫酸エステル、グルクロン酸エステル、コハク酸エステルまたはグルタミン酸エステル等が挙げられる。
【0032】
クロロフェノール系抗菌剤を供給側流路材へ含有させる方法としては、流路材の押し出し成形を行う際の原料ペレットに予め混入しておいて全体に均一に分散させる方法、あるいは押し出し成形後、抗菌剤を含むコーティング材で表面に後加工する方法などがある。
【0033】
本発明では、抗菌剤を供給側流路材の形成材料に混合して練りこんで、ネット構成糸を形成する樹脂中に分散させていることが好ましい。抗菌剤溶液を表面に塗布して加熱乾燥等で固定することで本願の目的を達することは可能だが、スパイラル型分離膜エレメントのように高圧での水流が生じる用途では経時劣化が生じやすく、抗菌効果の耐久性の点で、ネット構成糸を形成する樹脂中に分散させていることが好ましい。
【0034】
抗菌剤の含有量は、構成糸どうしの隙間領域においても、十分な抗菌作用が得られ、かつ流路材の強度等を維持する観点から、全重量中、0.005〜10重量%が好ましい。特に、濃度が高すぎると過剰に溶出した抗菌剤成分が膜面に付着して透過量を低下させたり、供給側流路材を成形加工する際に抗菌剤を混合する場合には、供給側流路材の強度や作業時に不具合が生じやすくなるため、1重量%以下が好ましく、0.75重量%以下がより好ましい。一方で濃度が低すぎると十分な抗菌効果が得られにくくなるため、水処理膜用途の供給側流路材に用いる場合、抗菌性が供給側流路材の領域全体に及ぶ0.020重量%以上が好ましく用いられる。
【0035】
コーティング材で表面に後加工する場合、同様の観点から、コーティング材の全重量中、0.005〜1重量%が好ましく、0.01〜0.1重量%がより好ましい。
【0036】
ネット状の供給側流路材又はコーティング前の基材を構成する樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、ポリエステル等の樹脂が挙げられ、特にポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0037】
本発明の供給側流路材又はコーティング前の基材は、例えば剪断法成形や融着法成形にて作製することができ、図3に示すように、ネット構成糸1,2同士が交差部Cで接合されたネット状物を得ることができる。以下、剪断法成形を例にとり説明する。
【0038】
剪断法成形を行う場合、ポリプロピレン等の樹脂のJIS K7210:1999によるMFRは、1.5g/10min以上が好ましく、より好ましくは、1.7〜4.0g/10minである。MFRが低すぎると、交差部に水掻き状の変形が生じやすくなる。また、逆にMFRが高すぎるとネットの成形が難しくなる。
【0039】
樹脂のMFRは、一般的に、重量平均分子量、分子量分布、樹脂に添加された添加剤の種類や量などによって調整することができる。
【0040】
剪断法成形にて得られたネットは、後述するように、ノズル孔から樹脂が押し出される際に交差部で予め一体化した状態で押し出されるため、ネット構成糸1,2に融着界面が存在しない構造となる。
【0041】
なお、融着法成形では、ノズル孔から樹脂が押し出される際に、交差部で一体化せずに押し出された後に融着するため、ネット構成糸1,2に融着界面が存在する構造となる。また、融着法成形によると、上記のように、交差部に水掻き状の変形が生じにくくなる。
【0042】
また、剪断法成形によりネットを製造する上で、得られるネットの全厚み0.3〜2mmが好ましく、構成糸の径(幅)0.08〜1mmが好ましく、交差角度30〜150°が好ましい。これらはノズル形状と押出条件を調整することで達成できる。
【0043】
なお、ネットの厚みは、薄くすれば、膜面の線速度が大きくなり濃度分極を抑制できるが、あまり薄くすると供給液中の浮遊成分が流路を閉塞させるという問題や供給液を送水するポンプの必要動力が大きくなるという問題がある。
【0044】
本発明において、ネット構成糸1,2の各々の糸間隔や径の比率などは自由に変えることができるが、本発明では、交点間隔(糸間隔)が4〜15mm、径の比率は1/2〜2/1が好ましく、交点間隔(糸間隔)が5〜7mm、径の比率は2/3〜3/2がより好ましい。
【0045】
剪断法成形は、例えば図1〜図2に示すようなノズルを備える押出機を用いて、押出機のダイスの内外2つの円周上に配置した多数のノズル孔14,10から各々のネット構成糸1,2を押出しながら、ネット構成糸の交差部で両者のノズル孔14,10が重なって1つのノズルとなるようにノズル孔14,10を相対回転させて交差部でネット構成糸1,2を互いに融着させつつネットを成形するものである。
【0046】
ここで、図1の(a)は、本発明の供給側流路材の製造方法に用いられるノズルの一例を示す一部破断した斜視図であり、(b)は内側の円周上に配置したノズル孔の拡大図である。図2の(a)はノズル孔の回転動作を示す底面図であり、(b)〜(c)はノズル孔の回転動作を示す要部図であり、(d)はこの回転動作で得られるネットの平面図である。
【0047】
上記のノズルは、内側の円周上に配置したノズル孔14を形成した内側回転ダイ12と、外側の円周上に配置したノズル孔10を形成した外側回転ダイ6とを備え、内側回転ダイ12の外周面13と外側回転ダイ6の内周面9とが、当接しつつ両者が逆回転できるようになっている。内側回転ダイ12は回転軸4により駆動され、外側回転ダイ6はこれに連結されたギヤ11により駆動される。外側回転ダイ6はダイハウジング5,7に回転自在に保持されている。
【0048】
押出機から押し出された樹脂は、ダイハウジング5の内面5aと内側回転ダイ12の外面12aとの間の間隙を経由して、ノズル孔14,10から押出され、各々のネット構成糸1,2となる。その際、ノズル孔14,10を相対回転させており(図2(b)参照)、両者のノズル孔14,10が重なって1つのノズル(図2(c)参照)となる位置が、ネットの交差部Cとなり、ネット構成糸1,2が互いに融着した状態となる。このとき、樹脂のMFRが低いと、図3(b)に示すように水掻き部3が生じ易くなる。
【0049】
ノズル孔14,10から樹脂が押し出される際の温度としては、230〜300℃が好ましく、250〜270℃がより好ましい。押し出される際の温度が230℃未満では、樹脂の流動性が不十分でネット形成が困難となり、水掻き変形が生じ易くなる傾向がある。また、押し出される際の温度が300℃を超えると、糸の形成が困難になるほど流動性が高くなる、あるいは熱分解によりネットの強度が低下する傾向がある。
【0050】
押し出されたネットは、一般には、水中等で冷却され、巻き取られた後、適当なサイズに切断される。
【0051】
以上のような剪断法成形において、原料ペレットに予め抗菌剤を混入しておくことで、流路材の全体に均一に抗菌剤を分散させることができる。また、原料ペレットの一部にだけ予め抗菌剤を混入しておく方法(マスターバッチ方式)や、抗菌剤を予め多孔性の微粒子などに担持させておき、この担持体を原料ペレットに混合することも可能である。多孔性の微粒子としては、シリカ、ゼオライトなどの無機微粒子、又は多孔性ポリマー粒子などが挙げられる。
【0052】
一方、コーティング材で表面に後加工して、ネット構成糸に抗菌剤を含有させる場合、コーティングの方法としては、樹脂等のコート材と抗菌剤との混合物の溶液や溶融液を用いて、浸漬塗布、スプレー塗布などにより、コーティングする方法が好ましい。
【0053】
コート材としては、流路材の基材との接着性が良好なものが好ましい。例えば、基材樹脂としてポリオレフィン系樹脂を用いる場合、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂をコート材として用いることが好ましい。
【0054】
本発明のスパイラル型分離膜エレメントは、分離膜、供給側流路材及び透過側流路材の単数又は複数が、有孔の中空状中心管の周りに巻きつけられている構造を有する。かかる膜エレメントの詳細は、前記の特許文献1などにも詳細に記載されており、供給側流路材の以外に関しては、従来公知の分離膜、透過側流路材、中空状中心管などが何れも採用できる。例えば、供給側流路材と透過側流路材が複数用いられる場合には、複数の膜リーフが中空状中心管の周りに巻きつけられた構造となる。
【0055】
図7は、従来(本発明)のスパイラル型分離膜エレメントの一例を示す部分破断した斜視図である。この例では、分離膜21、供給側流路材22、および透過側流路材23が積層状態で、有孔の中心管25の周囲にスパイラル状に巻回された円筒状巻回体Rを備えると共に、供給側流体と透過側流体の混合を防ぐための封止部が設けられている。封止部には、例えば、両端封止部31と外周側封止部32が含まれ、また、中心管25の周囲の封止を行うために封止部33を形成してもよい。
【0056】
このようなスパイラル型分離膜エレメントは、分離膜21と供給側流路材22と透過側流路材23とを積層状態で有孔の中心管25の周囲にスパイラル状に巻回して円筒状巻回体Rを形成する工程と、供給側流体と透過側流体の混合を防ぐための封止部31,32を形成する工程とを含む方法で製造することができる。
【0057】
本発明のスパイラル型分離膜エレメントは、用途をなんら限定するものではないが、大腸菌に対する抗菌作用が特に大きいことから、排水処理、かん水脱塩、海水淡水化などの分離処理に使用される分離膜エレメントに用いられる際に、その効果が特に発揮される。
【0058】
本発明では、用いられる分離膜が無機系抗菌剤を含有することが好ましい。無機系抗菌剤としては、後に詳述する銀系抗菌剤の他、抗菌性ガラス、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩などが例示される。分離膜としては、限外ろ過膜、ルーズ逆浸透膜、逆浸透膜などが好ましく用いられる。
【0059】
無機系抗菌剤を含有させる方法としては、分離膜自体(例えば逆浸透膜のスキン層)に無機系抗菌剤を含有させる方法や、分離膜表面上に直接又は他の層を介して抗菌剤及びポリマー成分を含有する抗菌層を形成する方法等が挙げられる。本発明では、分離膜表面上に直接又は他の層を介して抗菌層を形成する方法が、該抗菌層により耐微生物汚染特性を長期間持続することができると共に、スキン層の性能の低下を抑制でき、耐汚染特性だけでなく水透過性能及び塩阻止率を高く維持することができるので好ましい。
【0060】
本発明では、特に前記分離膜が、多官能アミン成分と多官能酸ハライド成分とを反応させてなるポリアミド系樹脂を含むスキン層が多孔性支持体の表面に形成されている複合半透膜であって、スキン層上に直接又は他の層を介して銀系抗菌剤及びポリマー成分を含有する抗菌層が形成されていることが好ましい。
【0061】
また、分離膜自体(例えば逆浸透膜のスキン層)に無機系抗菌剤を含有させる方法としては、多官能アミン成分と多官能酸ハライド成分とを反応させてなるポリアミド系樹脂及び銀塩化合物を含むスキン層を多孔性支持体の表面に形成する工程、及び前記銀塩化合物を還元して前記スキン層中及び/又は表面に金属銀を析出させる工程を含む方法が好ましい。その際、銀塩化合物を活性エネルギー線で還元することが好ましく、銀塩化合物として硝酸銀を用いることが好ましい。
【0062】
多官能アミン成分とは、2以上の反応性アミノ基を有する多官能アミンであり、芳香族、脂肪族及び脂環式の多官能アミンが挙げられる。
【0063】
芳香族多官能アミンとしては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、N,N’−ジメチル−m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノアニソール、アミドール、キシリレンジアミン等が挙げられる。
【0064】
脂肪族多官能アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、n−フェニル−エチレンジアミン等が挙げられる。
【0065】
脂環式多官能アミンとしては、例えば、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、4−アミノメチルピペラジン等が挙げられる。
【0066】
多官能酸ハライド成分とは、反応性カルボニル基を2個以上有する多官能酸ハライドである。多官能酸ハライドとしては、芳香族、脂肪族及び脂環式の多官能酸ハライドが挙げられる。
【0067】
芳香族多官能酸ハライドとしては、例えば、トリメシン酸トリクロライド、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド、ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸トリクロライド、ベンゼンジスルホン酸ジクロライド、クロロスルホニルベンゼンジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。
【0068】
脂肪族多官能酸ハライドとしては、例えば、プロパンジカルボン酸ジクロライド、ブタンジカルボン酸ジクロライド、ペンタンジカルボン酸ジクロライド、プロパントリカルボン酸トリクロライド、ブタントリカルボン酸トリクロライド、ペンタントリカルボン酸トリクロライド、グルタリルハライド、アジポイルハライド等が挙げられる。
【0069】
脂環式多官能酸ハライドとしては、例えば、シクロプロパントリカルボン酸トリクロライド、シクロブタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタントリカルボン酸トリクロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロヘキサントリカルボン酸トリクロライド、テトラハイドロフランテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタンジカルボン酸ジクロライド、シクロブタンジカルボン酸ジクロライド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、テトラハイドロフランジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。
【0070】
スキン層を支持する多孔性支持体は、スキン層を支持しうるものであれば特に限定されず、通常平均孔径10〜500Å程度の微孔を有する限外濾過膜が好ましく用いられる。多孔性支持体の形成材料としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンのようなポリアリールエーテルスルホン、ポリイミド、ボリフッ化ビニリデンなど種々のものをあげることができる。かかる多孔性支持体の厚さは、通常約25〜125μm、好ましくは約40〜75μmであるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。なお、多孔性支持体は織布、不織布等の基材による裏打ちにて補強されている。
【0071】
ポリアミド系樹脂を含むスキン層を多孔性支持体の表面に形成する方法は特に制限されず、あらゆる公知の手法を用いることができる。例えば、界面縮合法、相分離法、薄膜塗布法などが挙げられる。界面縮合法とは、具体的に、多官能アミン成分を含有するアミン水溶液と、多官能酸ハライド成分を含有する有機溶液とを接触させて界面重合させることによりスキン層を形成し、該スキン層を多孔性支持体上に載置する方法や、多孔性支持体上での前記界面重合によりポリアミド系樹脂のスキン層を多孔性支持体上に直接形成する方法である。かかる界面縮合法の条件等の詳細は、特開昭58−24303号公報、特開平1−180208号公報等に記載されており、それらの公知技術を適宜採用することができる。
【0072】
多孔性支持体上に形成したスキン層の厚みは特に制限されないが、通常0.05〜2μm程度であり、好ましくは、0.1〜1μmである。
【0073】
スキン層を多孔性支持体の表面に形成した後、該スキン層上に直接又は他の層を介して銀系抗菌剤及びポリマー成分を含有する抗菌層を形成する。抗菌層中の銀系抗菌剤とポリマー成分との重量比は、55:45〜95:5(銀系抗菌剤:ポリマー成分)であることが好ましく、より好ましくは60:40〜90:10である。
【0074】
本発明で用いる銀系抗菌剤は、銀成分を含む化合物であれば特に制限されず、例えば、金属銀、酸化銀、ハロゲン化銀、銀イオンを含有する担持体などが挙げられる。これらのうち、特に銀イオンを含有する担持体を用いることが好ましい。担持体としては、例えば、ゼオライト、シリカゲル、リン酸カルシウム、及びリン酸ジルコニウムなどが挙げられる。これらのうち、リン酸ジルコニウムを用いることが好ましい。リン酸ジルコニウムは、他の担持体よりも疎水性が強く、水処理時において銀イオンの抗菌効果を長期間持続させることができる。
【0075】
銀系抗菌剤の平均粒子径は、1.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは1μm以下である。なお、平均粒子径の測定方法は実施例の記載による。
【0076】
ポリマー成分は、スキン層及び多孔性支持体を溶解せず、また水処理操作時に溶出しないポリマーであれば特に制限されず、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、及びケン化ポリエチレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。これらのうち、ポリビニルアルコールを用いることが好ましく、特にケン化度が99%以上のポリビニルアルコールを用いることが好ましい。
【0077】
抗菌層は、前記銀系抗菌剤及び前記ポリマー成分を含有する水溶液をスキン層上に直接又は他の層(例えば、親水性樹脂を含む保護層など)を介して塗工し、その後乾燥することにより形成する。塗工方法としては、例えば、噴霧、塗布、シャワーなどが挙げられる。溶媒としては、水の他、スキン層等の性能を低下させない有機溶媒を併用してもよい。
水溶液中の銀系抗菌剤の濃度は、0.1〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5重量%である。また、水溶液中のポリマー成分の濃度は、0.01〜1重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.7重量%である。
【0078】
抗菌層の厚さは特に制限されないが、通常0.05〜5μmであり、好ましくは0.1〜3μm、より好ましくは0.1〜2μmである。抗菌層の厚さが薄すぎると抗菌性が十分に発揮されず、またスパイラルエレメントを巻き付ける際に擦れにより膜に傷が付きやすく塩阻止率が低下するおそれがある。一方、抗菌層の厚さが厚すぎると水透過流束が実用範囲以下にまで低下するおそれがある。
【0079】
抗菌層中の銀の含有量は、30mg/m以上であることが好ましく、より好ましくは35mg/m以上である。銀の含有量が30mg/m未満の場合には、長期間優れた抗菌特性を維持することが困難になる。また、抗菌層中の銀の含有量は、コスト及び膜の傷付き防止の観点から1000mg/m以下であることが好ましく、より好ましくは500mg/m以下である。
【実施例】
【0080】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。
【0081】
(透過流束及び塩阻止率の測定)
作製した平膜状の複合半透膜を所定の形状、サイズに切断し、平膜評価用のセルにセットする。約1500mg/LのNaClを含みかつNaOHを用いてpH6.5〜7.5に調整した水溶液を25℃で膜の供給側と透過側に1.5MPaの差圧を与えて膜に接触させる。この操作によって得られた透過水の透過速度および電導度を測定し、透過流束(m/m・d)および塩阻止率(%)を算出した。塩阻止率は、NaCl濃度と水溶液電導度の相関(検量線)を事前に作成し、それらを用いて下式により算出した。
塩阻止率(%)={1−(透過液中のNaCl濃度[mg/L])/(供給液中のNaCl濃度[mg/L])}×100
実施例1
図1に示すノズルを備えた押出機を用いて、ポリプロピレン樹脂(三井化学製、F122G)に抗菌剤としてトリクロサンを0.025重量%含有するペレットを導入し、260℃で溶融押出しすることで、剪断法成形にてネット状の供給側流路材を形成した。このとき、得られるネットが、全厚み0.79mm、構成糸の径(幅)0.3mm、糸間隔5mm、交差角度90°になるようにノズル形状と押出条件を調整した。
【0082】
比較例1
実施例1において、抗菌剤を含有しないペレットを用いたこと以外は、実施例1と同じ条件で流路材を作製した。
【0083】
比較例2
実施例1において、抗菌剤として銀ゼオライト(カネボウ化成(株)製、バクテキラー、銀含有量30重量%)2重量%含有するペレットを用いたこと以外は、実施例1と同じ条件で流路材を作製した。
【0084】
抗菌性評価試験1
大腸菌K−12をLB培地に植菌し35℃×24時間培養した。流路材への大腸菌を付着させるために、大腸菌10〜10cfu/ml生理食塩水溶液を調製し、菌液20mlを遠沈管に入れ、各流路材を1枚ずつ入れ、1時間振盪した。流路材を取り出し生理食塩水10mlで3回洗浄後、SCDA培地上に置き、35℃で2〜5日培養した。
【0085】
その結果を図4に示す。実施例1のトリクロサン入り流路材は、菌の増殖が見られなかった。比較例1の抗菌剤の入っていないものは5日目において多くの菌の増殖が見られた。また、比較例2の銀系抗菌剤を入れたものは抗菌剤なしよりは菌の増殖は少ないものの、菌の増殖が見られた。
【0086】
抗菌性評価試験2
大腸菌K−12をLB培地に植菌し35℃×24時間培養した。阻止円形成試験として、大腸菌10〜10cfu/ml生理食塩水溶液を調製し、SCDA培地上に塗沫した。各流路材をその上に置き、35℃で2日間培養した。
【0087】
その結果を図5に示す。実施例1のトリクロサン入りの流路材は、流路材の内部(構成糸どうしの隙間領域)と周囲に、コロニー形成を阻止する領域があった。一方、比較例1の抗菌剤の入っていないものでは、流路材の周辺および内部に菌の増殖が見られた。
【0088】
抗菌性評価試験3
大腸菌K−12をLB培地に植菌し35℃×24時間培養した。抗菌力試験として、準備した流路材を滅菌シャーレ上に置き、調整した大腸菌10cfu/ml(500倍希釈LB培地)菌液を400μl滴下し、ポリエチレンフィルムをかぶせて、液体が乾かないようにした。35℃(湿度90%以上)24H培養する。培養後菌液を回収し、その菌数をSCDA培地にて計数した。
【0089】
その結果を図6に示す。比較例1の抗菌剤無しに比べ、実施例1のトリクロサン入りで菌数は1/1000になった。一方、比較例2の銀系抗菌剤入りでは、菌数は1/10程度であり、実施例1で用いたトリクロサンに比べ、効果が低かった。
【0090】
実施例2
平均粒子径0.9μmの銀系抗菌剤(東亜合成社製、ノバロンAG1100)1.0重量%、及びポリビニルアルコール(ケン化度:99%)0.5重量%を含む水溶液を、超低圧逆浸透複合膜(日東電工社製、型式:ES20、スキン層:ポリアミド系樹脂、性能:前記測定方法で透過流束1.2(m/m・d)、塩阻止率99.6(%))のスキン層上に塗布し、その後オーブンにて130℃で3分間乾燥させて抗菌層を形成して複合半透膜を作製した。この複合半透膜と、実施例1で得られた供給側流路材と、透過側流路材(PET樹脂製、厚み0.3mm)とを用いて図7に示したスパイラル型分離膜エレメントを作製した。
【0091】
このエレメントに対して、福岡県箱崎サイトにおける工業排水を活性汚泥処理およびMF膜処理した水(SDI値3〜6)を透過流束0.3〜0.4(m/m・d)、回収率15〜20%で約1カ月間流した前後に、NaClを1500ppm含有しpH6.5〜7.0の評価水を用いて1.5MPaの圧力を加えて、評価試験を行ったところ、透過流束の保持率は90%以上であった。
【0092】
実施例3
不織布基材上にポリスルホン(Solvay社製、P−3500)18重量%をN,N一ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、Wet厚み200μmで均一に塗布した後、40〜50℃の水浴中に浸漬させることで凝固、洗浄して多孔性支持体を作製した。この多孔性支持体上にm−フェニレンジアミン3重量%、ラウリル硫酸ナトリウム0.15重量%、トリエチルアミン3重量%、カンファースルホン酸6重量%、イソプロピルアルコール5重量%、及び硝酸銀0.5重量%を含有するアミン水溶液を塗布し、その後余分なアミン水溶液を除去することにより水溶液被覆層を形成した。次に、前記水溶液被覆層の表面にトリメシン酸クロライド0.2重量%及びナフテン系炭化水素(新日本石油株式会社製、ナフテゾール160)を含有する有機溶液を塗布した。その後、120℃の熱風乾燥機中で3分間保持して、多孔性支持体上にポリアミド系樹脂及び硝酸銀を含むスキン層を形成した。その後さらにスキン層表面に高圧水銀ランプの紫外線(UV−A(320〜390nm):280mJ/cm、UV−B(280〜320nm):200mJ/cm、UV−C(250〜260nm):150mJ/cm、UV−V:70mJ/cm、を照射して、硝酸銀を還元してスキン層中及び/又は表面に金属銀を析出させて複合半透膜を作製した。作製した複合半透膜の透過流束は1.2(m/m・d)、塩阻止率は99(%)であった。また、作製した複合半透膜は抗菌性を有していた。
【0093】
この複合半透膜と、実施例1で得られた供給側流路材と、透過側流路材(PET樹脂製、厚み0.3mm)とを用いて、図7に示したスパイラル型分離膜エレメントを作製した。このエレメントに対して実施例2と同様の評価を行ったところ、透過流束の保持率は80%以上であった。
【0094】
実施例4
実施例1で作製した供給側流路材と、実施例2において銀系抗菌剤を用いずに作製した複合半透膜と、透過側流路材(PET樹脂製、厚み0.3mm)とを用いてスパイラル型分離膜エレメントを作製した。このエレメントに対して実施例2と同様の評価を行ったところ、透過流束の保持率は75%以上であった。
【0095】
比較例3
比較例1の供給側流路材と、実施例2において銀系抗菌剤を用いずに作製した複合半透膜と、透過側流路材(PET樹脂製、厚み0.3mm)とを用いてスパイラル型分離膜エレメントを作製した。このエレメントに対して実施例2と同様の評価を行ったところ、透過流束の保持率は約60%程度であった。
【符号の説明】
【0096】
1 ネット構成糸
2 ネット構成糸
3 水掻き部
10 ノズル孔(外側)
14 ノズル孔(内側)
C 交差部
21 分離膜
22 供給側流路材
23 透過側流路材
25 中空状中心管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパイラル型分離膜エレメントに用いる供給側流路材であって、ネット状の供給側流路材を構成するネット構成糸が、クロロフェノール系抗菌剤を含有する供給側流路材。
【請求項2】
前記ネット構成糸の交点間隔が4〜15mmである請求項1記載の供給側流路材。
【請求項3】
前記クロロフェノール系抗菌剤が、トリクロサン(2,4,4’‐trichloro−2’−hydroxy diphenyl ether)又はその誘導体である請求項1又は2に記載の供給側流路材。
【請求項4】
前記クロロフェノール系抗菌剤の含有量が、全重量中0.005〜10重量%である請求項1〜3いずれかに記載の供給側流路材。
【請求項5】
前記クロロフェノール系抗菌剤が、ネット構成糸を形成する樹脂中に分散している請求項1〜4いずれかに記載の供給側流路材。
【請求項6】
分離膜、供給側流路材及び透過側流路材の単数又は複数が、有孔の中空状中心管の周りに巻きつけられているスパイラル型分離膜エレメントにおいて、前記供給側流路材は、請求項1〜5いずれかに記載の供給側流路材であることを特徴とするスパイラル型分離膜エレメント。
【請求項7】
前記分離膜は無機系抗菌剤を含有する請求項6に記載のスパイラル型分離膜エレメント。
【請求項8】
前記分離膜は、多官能アミン成分と多官能酸ハライド成分とを反応させてなるポリアミド系樹脂を含むスキン層が多孔性支持体の表面に形成されている複合半透膜であって、スキン層上に直接又は他の層を介して銀系抗菌剤及びポリマー成分を含有する抗菌層が形成されている請求項7に記載のスパイラル型分離膜エレメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−89081(P2010−89081A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205789(P2009−205789)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】