説明

便器からの立ち上がり補助装置

【課題】立ち上がり時の要介護者等の前方への重心移動を補助すると同時に要介護者等の後方への転倒を防止することが可能で、かつ便器と干渉し難い便器からの立ち上がり補助装置を提供する。
【解決手段】便器1の使用者の腰部を前方へ押圧する押圧部材10aと、便器1の後方に設けられて押圧部材10aを便器1に対し進退移動させる押圧部材進退移動部10bと、便器1の後方に設けられて押圧部材10aを昇降移動させる押圧部材昇降移動部10cと、押圧部材進退移動部10bおよび押圧部材昇降移動部10cの作動を互いに連動するように制御する押圧作動制御手段8とを具える、便器からの立ち上がり補助装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として便器を利用した後の要介護者等の立ち上がりを介助する立ち上がり補助装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
要介護者等が便器を利用する際、便座に着座する時には体の重心が足よりも後方に移動しており、便器を利用した後にその重心が後方に移動した状態から立ち上がるのは、足腰に負担がかかるため要介護者には容易ではない。そこで、便器を利用した後の要介護者等の立ち上がりを介助する装置として従来、例えば特許文献1に記載の便座を水平なまま昇降移動させる便座持ち上げ装置が提案されている。
【0003】
また、上述の如き介助装置として従来、例えば特許文献2に記載の便座を上昇附勢スプリングで前傾させる便座持ち上げ装置、および特許文献3に記載の便座を左右で支持する四節非平行リンク機構を電動式直線駆動機構で附勢して便座を持ち上げながら前傾させて臀部を押し上げ、重心移動を容易にした便座持ち上げ装置が提案されている。
【0004】
その他にも、要介護者の着座および起立補助装置として、例えば特許文献4に記載の着座・起立補助装置が提案されており、この装置では流体圧シリンダの先端にホルダを取付け、該ホルダで要介護者の臀部を下側から支持すると共に要介護者の臀部の移動軌跡に沿ってそのホルダを昇降移動させることにより要介護者の着座および起立動作を補助可能としている。
【特許文献1】特許3684303号公報
【特許文献2】特開平09−084720号公報
【特許文献3】特開2002−291653号公報
【特許文献4】特開2003−175081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の便座持ち上げ装置では便座を持ち上げることにより要介護者等の臀部の持ち上げを補助可能であるものの、便座の上昇位置までしか立ち上がり補助を行うことが出来ない。また、便座の上昇位置から要介護者等が立ち上がるに際しては、要介護者等が自分の重心を前方へと移動させて立ち上がる必要があり、また、要介護者等の後方への転倒を防止する機構が具えられていなかった。
【0006】
また、上記従来の着座および起立補助装置では要介護者等の臀部をホルダで下側から支持して該ホルダを臀部の移動軌跡に沿って昇降移動させることで要介護者等の着座および起立補助が可能であるものの、要介護者等の上体の後方への倒れ(ふらつき)を防止する機構が具えられておらず、また、臀部の下側からホルダを昇降させる構成のために便器とホルダ昇降機構との干渉が発生し易いという問題があった。
【0007】
それゆえこの発明は、立ち上がり時の要介護者等の前方への重心移動を補助すると共に要介護者等の後方への転倒を防止することが可能で、かつ便器と干渉し難い便器からの立ち上がり補助装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、この発明の便器からの立ち上がり補助装置は、便器の使用者の腰部を前方へ押圧する押圧部材と、前記便器の後方に設けられて前記押圧部材を前記便器に対し進退移動させる押圧部材進退移動手段と、前記便器の後方に設けられて前記押圧部材を昇降移動させる押圧部材昇降移動手段と、前記押圧部材進退移動手段および前記押圧部材昇降移動手段の作動を互いに連動するように制御する押圧作動制御手段とを具えるものである。
【発明の効果】
【0009】
かかる便器からの立ち上がり補助装置にあっては、要介護者等が便座に着座する際には、押圧作動制御手段による制御に基づき、押圧部材進退移動手段が押圧部材を便器の前方へ移動させると共に、それと連動して押圧部材昇降移動手段が押圧部材を便器の上方へ移動して要介護者等の腰部に押圧部材を当接させる。その後、押圧作動制御手段による制御に基づき、押圧部材進退移動手段が押圧部材を便器の後方へ移動させると共に、それと連動して押圧部材昇降移動手段が押圧部材を下方に移動することにより、要介護者等の腰部に押圧部材を当接させながら要介護者等の着座を補助することができる。一方、要介護者等が便座から起立する際には、押圧部材進退移動手段が押圧部材を前方に移動させて要介護者等の腰部を前方に押し出すと共に、押圧部材が要介護者等の腰部を確実に押すことが出来るように要介護者等の立ち上がり動作に対応して押圧部材昇降移動手段が押圧部材を昇降させる。
【0010】
従って、この発明の便器からの立ち上がり補助装置にあっては、要介護者等の後方への転倒および上体の後方への倒れ(ふらつき)を防止しつつ、便器からの立ち上がり時および便器への着座時における要介護者等の重心の前後方向への移動を補助することが出来る。また、このような立ち上がり補助装置は腰部を後方から押圧する構成となっており便器下方に設ける必要が無いので、便器との干渉が起こり難い。その上、腰部を押圧部材で保持しているため、押圧部材で要介護者等を保持した状態で要介護者の着衣の着脱ができる。
【0011】
なお、この発明の便器からの立ち上がり補助装置においては、前記押圧部材進退移動手段は、前記押圧部材を支持し、前記押圧部材昇降移動手段は、前記押圧部材進退移動手段を昇降移動させても良い。このようにすれば、押圧部材進退移動手段と前記押圧部材昇降移動手段とを一体に構成することができ、コンパクトな装置を提供することができる。
【0012】
また、この発明の便器からの立ち上がり補助装置においては、前記押圧部材に連結されて使用者の臀部を保持する臀部保持部材をさらに具えても良い。このようにすれば、要介護者等の腰部だけでなく臀部も保持されるので、要介護者等を臀部、つまり下方からも保持して安定して着座および起立させることができると共に、着座および起立時の前後方向の重心移動のみならず上下方向の重心移動についても補助することができ、より安全で便利な補助装置を提供することができる。
【0013】
さらに、この発明の便器からの立ち上がり補助装置においては、前記押圧部材に連結されて、使用者の腰部を使用者の左右側方から保持する腰部保持部材をさらに具えても良い。このようにすれば、要介護者等の後方への転倒だけでなく側方への転倒も防止しつつ、その起立および着座を補助することができる。
【0014】
その上、この発明の便器からの立ち上がり補助装置においては、便座を前記便器に隣接する下降位置とその上方の上昇位置との間で昇降移動させる便座昇降移動手段と、前記便座を水平姿勢と前傾姿勢との間で揺動させる便座揺動手段と、前記便座昇降移動手段および前記便座揺動手段の作動を互いに連動するように制御する持ち上げ作動制御手段とを具えてなる便座持ち上げ装置をさらに具えても良い。このようにすれば、上記の押圧部材による補助に加えて、要介護者等が便座に着座する際には、持ち上げ作動制御手段による制御に基づき、便座昇降移動手段が便座を便器に隣接する下降位置からその上方の上昇位置へ持ち上げるとともに、それと連動して便座揺動手段が便座を水平姿勢に維持し、上昇位置に位置する水平な便座への着座を可能にし、その後、便座昇降移動手段が便座を便器に隣接する下降位置に下降させて、便器の利用を可能にする。そして、要介護者等が立ち上がる際には、持ち上げ作動制御手段による制御に基づき、便座昇降移動手段が便座を便器に隣接する下降位置からその上方の上昇位置へ持ち上げるとともに、それと連動して便座揺動手段が便座を水平姿勢から前傾姿勢に揺動させて、要介護者等の臀部を押し上げ、重心移動をより容易かつ安全にすることができる。ここで上記便座昇降移動手段と便座揺動手段との連動は、便座を持ち上げながら前傾させるのでも良く、持ち上げてから前傾させるのでも良い。
【0015】
ここで、上述の便座持ち上げ装置を備えた、この発明の便器からの立ち上がり補助装置においては、前記便座昇降移動手段は、前記便座を昇降移動させる平行リンク機構を有し、前記便座揺動手段は、前記平行リンク機構の一方のリンクの、前記便座への連結軸を前記便座に対し移動させて、前記便座を揺動させる連結軸移動機構を有しても良い。このようにすれば、連結軸移動機構は平行リンク機構の連結軸を移動させるだけなので、便座の揺動をコンパクトな構成で容易に行うことができる便器からの立ち上がり補助装置を提供できる。
【0016】
また、上述の便座持ち上げ装置を備えた、この発明の便器からの立ち上がり補助装置においては、前記便座持ち上げ装置による便座の移動と、前記押圧部材進退移動手段および前記押圧部材昇降移動手段による前記押圧部材の移動とが連動するように制御する総合制御手段を具えても良い。これにより、押圧部材と便座とが連動して要介護者等の立ち上がりを違和感無く滑らかに補助することができる。
【0017】
さらに、この発明の腰掛便器においては、前記押圧作動制御手段は、前記押圧部材の進退移動位置と昇降移動位置とを任意に設定されて記憶し、前記持ち上げ作動制御手段は、前記上昇位置と前記前傾姿勢とを任意に設定されて記憶しても良い。このようにすれば、便器を利用する要介護者等の体格、身長等に対応させて、便座の上昇位置および前傾姿勢、並びに押圧部材の移動位置を設定して記憶させることができるので、装置をより使い易くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、この発明の実施の形態を実施例によって、図面に基づき詳細に説明する。ここに、図1は、この発明の便器からの立ち上がり補助装置の一実施例を適用した自走式トイレの全体を示す斜視図、図2(a),(b)は、その自走式トイレの全体を示す側面図およびその自走式トイレの後部の構成を示す説明図、図3(a),(b),(c),(d)は、上記実施例における便座持ち上げ装置を示す平面図、正面図、側面図および斜視図、図4(a),(b)は、便座持ち上げ装置の便座揺動機構を示す一部切り欠き断面図およびその図4(a)のA−A線に沿う断面図、図5A,図5B,図5Cは、上記実施例における便座持ち上げ装置を便座が下降位置、上昇位置での水平姿勢および上昇位置での前傾姿勢にそれぞれ位置する状態で示す説明図、図6A,図6B,図6Cは、上記実施例における押圧部材、押圧部材進退移動手段、および押圧部材昇降移動手段(腰部押圧装置)の動作状態を内部の構造と共に示す説明図、そして図7A,図7B,図7Cは、上記実施例における着座者の起立動作の様子を示す説明図である。また、図8(a),(b)は、上記実施例の便器からの立ち上がり補助装置の一変形例について、その臀部保持部材および腰部保持部材の形状を腰部押圧部材と共に示す平面図および側面図である。
【0019】
図1および図2に示すように、上記自走式トイレは、その自走式トイレの前後方向へ延在する図示しないシャシーの前部の上方に、洋式の便器1と、その便器1の上方に配置された便座2と、便座持ち上げ装置3とを具えるとともに、そのシャシーの前部の下方に左右二個の首振り自在のキャスタ4を具え、またそのシャシーの側方に左右二本のパッド付きバンパ5を具え、さらにそのシャシーの後部に、左右二本の駆動輪6と、それらの駆動輪6を独立に駆動するモータおよび伝動機構等の駆動系7と、その駆動系7の作動を制御する、マイクロコンピュータを有する通常の制御装置8と、それら駆動系7および制御装置8の電源となるバッテリ9と、腰部押圧装置10とを具えており、ここでは便座持ち上げ装置3と腰部押圧装置10とが上記実施例の便器からの立ち上がり補助装置を構成している。
【0020】
かかる構成により上記自走式トイレは、図示しないコントローラから制御装置8に操作命令を入力されることで、二本の駆動輪6の回転速度をそれぞれ制御して任意の方向へ自走で移動することができる。
【0021】
そしてこの実施例の便器からの立ち上がり補助装置の便座持ち上げ装置3は、図3(a)〜(d)に示すように、便座2を便器1に隣接する下降位置(図5A参照)とその上方の上昇位置(図5B参照)との間で昇降移動させる、便座昇降移動手段としての便座昇降移動機構12と、便座2を水平姿勢(図5B参照)と前傾姿勢(図5C参照)との間で揺動させる、便座揺動手段としての便座揺動機構13とを具えるとともに、それら便座昇降移動機構12および便座揺動機構13の作動を互いに連動するように制御する持ち上げ作動制御手段として、上記制御装置8を上記自走式トイレの駆動系7と共用で具え、さらに上記シャシーの上方に配置されてそのシャシーに固定され、前後方向に延在する左右二本の固定フレーム14を具えている。
【0022】
ここで、便座昇降移動機構12は、左右の固定フレーム14に二本ずつそれぞれ基端部を左右方向に延在する水平軸線回りに揺動可能に枢支されたリンク部材15,16と、それらのリンク部材15,16の先端部を、上側のリンク部材15に関しては便座揺動機構13を介して、また下側のリンク部材16に関しては直接、それぞれ左右方向に延在する水平軸線回りに揺動可能に枢支して四節リンク機構を構成する左右の脚板18aおよびそれらの脚板18aの上端部に左右端部を結合されてヒンジ17を介し便座2を側方開閉可能に支持する上板18bを持つ正面視で門型の昇降フレーム18と、上記シャシーに固定されるブラケット19に本体20aの後端部を揺動可能に支持されるとともに、本体20aの前端部から突出させたロッド20bの先端部を上記下側のリンク部材16の中間部に連結された左右二台の電動式直線駆動機構20とを有しており、各電動式直線駆動機構20は、本体20aの内部に図示しないボールナットとボールねじ軸とモータとを持つとともに、そのボールナットに上記ロッド20bを結合し、そのボールナットを回転不能かつ進退移動可能に支持するとともに上記ボールねじ軸に螺合させている。
【0023】
これにより各電動式直線駆動機構20は、ボールねじ軸をモータで回転させてボールナットを軸線方向へ移動させ、そのボールナットでロッド20bを本体20aに対し進退移動させることで、下側のリンク部材16を上下方向に揺動させ、昇降フレーム18ひいては便座2を、図5Aに示す、便器1に隣接する下降位置と、図5Bに示す、その下降位置の上方の上昇位置との間で昇降移動させる。
【0024】
また便座揺動機構13は、図4(a),(b)に示すように、昇降フレーム18の左右の脚板18aにそれぞれ取り付けられた二台の電動式連結軸移動機構21を有し、各電動式連結軸移動機構21は、左右方向に延在する水平軸線回りに脚板18bに回動可能に枢支されるとともに一端部にアーム21aを一体に持つ回動軸21bと、その回動軸21bに結合された円弧状のウオームホイール21cと、そのウオームホイール21cに噛合したウオームギヤ21dに出力軸を結合されたモータ21eと、ウオームホイール21cの歯のない部分にそのウオームホイール21cと同一軸線となるよう埋設された平歯車21fと、その平歯車21fに噛合したピニオン21gに入力軸を結合されたポテンショメータ21hとを持っており、アーム21aの先端部には図示しないピン孔が形成され、脚板18bの、アーム21aの先端部のピン孔に対応する位置には回動軸21bと同一軸線の円弧状の長孔18cが形成され、ウオームホイール21cの、アーム21aの先端部のピン孔に対応する位置にはねじ孔21iが形成されている。そして図5A〜図5Cに示すように、上側のリンク部材15の先端部の図示しないピン孔と上記アーム21aの先端部のピン孔とに挿通されたピン21jが、長孔18cを通されてねじ孔21iに螺着されて、上側のリンク部材15の先端部を枢支している。
【0025】
これにより、各電動式連結軸移動機構21は、モータ21eでウオームギヤ21dを回転させてウオームホイール21cひいては回動軸21bを回動させることで、アーム21aを揺動させて、図5A,図5Bに示すように、脚板18aに対し、上側のリンク部材15と下側のリンク部材16とが四節平行リンク機構を構成して上板18bひいては便座2を水平姿勢に維持する位置にピン21jを移動させるとともに、図5Cに示すように、脚板18aに対し、上側のリンク部材15と下側のリンク部材16とが四節非平行リンク機構を構成して上板18bひいては便座2を前傾姿勢にする位置にピン21jを移動させ、このピン21jの移動により便座2を水平姿勢と前傾姿勢との間で揺動させる。また、左右の電動式連結軸移動機構21は、ポテンショメータ21hで回動軸21bの回動角度を検出して制御装置8に送り、これらの回動角度を互いに一致させるように制御装置8はモータ21eを作動させるので、左右の電動式連結軸移動機構21による便座2の前傾姿勢への傾動角度は一致する。なお、左右の電動式直線駆動機構20も同様にポテンショメータでモータの回動角度ひいてはロッド20bの進退位置を検出して制御装置8に送り、これらの回動角度を互いに一致させるように制御装置8はモータを作動させるので、左右の電動式直線駆動機構20による便座2の昇降位置は一致する。そして便座2の前傾姿勢への傾動角度と上昇位置とをそれぞれ示す値は、上記コントローラにより任意に複数種類指定して、制御装置8のメモリ内に記憶させることができる。
【0026】
また、この実施例の便器からの立ち上がり補助装置の腰部押圧装置10は、図1および図2に示すように、押圧部材10aと、押圧部材進退移動手段としての押圧部材進退移動部10bと、押圧部材昇降移動手段としての押圧部材昇降移動部10cと、上下スライドフレーム10dと、上下スライドガイド10eとを具え、さらに、それら押圧部材進退移動部10bおよび押圧部材昇降移動部10cの作動を互いに連動するように制御する押圧作動制御手段として、上記制御装置8を上記自走式トイレの駆動系7と共用して具える。
【0027】
ここで、上下スライドフレーム10dはコ字状に組合された円柱体よりなり、その直立する左右柱状部の下端は図示しないシャシーに固定されている。また、上下スライドガイド10eは両端に上下スライドフレーム10dを挿入可能な筒状部を有する四角柱よりなり、上下スライドフレーム10dの両柱状部に摺動可能に取付けられている。さらに、押圧部材昇降移動部10cは円柱状でシャシーの後部に取付けられると共に上下スライドガイド10eの下面略中央に連結されている。そして、円柱状のクッションよりなる押圧部材10aは、上下スライドガイド10eの中心部を水平方向に直交して貫通する押圧部材進退移動部10bと連結されている。
【0028】
なお、押圧部材進退移動部10bおよび押圧部材昇降移動部10cは同一の構成を有し、図6A〜図6Cに示すように、円柱状の本体30の内部に円筒状のロッド31と、ボールナット32と、ボールねじ軸33と、モータ34と、エンコーダ35とを持つとともに、そのボールナット32にロッド31を結合し、そのボールナット32を回転不能かつ進退移動可能に支持すると共にボールネジ軸33に螺合させている。
【0029】
これにより押圧部材進退移動部10bおよび押圧部材昇降移動部10cは、ボールねじ軸33をモータ34で回転させてボールナット32を軸線方向へ移動させ、そのボールナット32でロッド31を本体30に対し進退移動させることで、上下スライドガイド10eおよび押圧部材進退移動部10bを上下に昇降させ、また、押圧部材10aを前後に進退させることができる。さらに、エンコーダ35によりボールねじ軸33の回転角度を検出することにより、制御装置8による制御に基づき事前に制御装置8のメモリ内に記憶された位置まで押圧部材進退移動部10bおよび押圧部材昇降移動部10cのロッド31を進退および昇降移動させることができる。
【0030】
かかる実施例の便器からの立ち上がり補助装置を適用した自走式トイレにおいては、図7A〜図7Cに示すように、要介護者50が便座2に着座する際には、制御装置8による制御に基づき、便座持ち上げ装置3の便座昇降移動機構12が左右の電動式直線駆動機構20を作動させて、便座2を便器1に隣接する上述した下降位置からその上方の上述した上昇位置へ持ち上げるとともに、それと連動して便座揺動機構13が、左右の電動式連結軸移動機構21により便座2を水平姿勢に維持して、上昇位置に位置する水平な便座2への着座を可能にする。また同時に、制御装置8による制御に基づき、腰部押圧装置10の押圧部材昇降移動部10cが押圧部材進退移動部10bを上昇させると共に押圧部材進退移動部10bが押圧部材10aを前方に移動させて要介護者50の腰部に押圧部材10aを当接させる(図7C参照)。
【0031】
そして、その要介護者50の腰部を押圧部材10aで保持しつつ、押圧部材進退移動部10bにより押圧部材10aを後方に移動させながら押圧部材昇降移動部10cで押圧部材進退移動部10bを下方に移動させることにより、要介護者50の着座を補助する(図7B参照)。また、その要介護者50の着座後は、便座昇降移動機構12が左右の電動式直線駆動機構20を作動させて便座2を便器1に隣接する下降位置に下降させて、便器1の利用を可能にする(図7A参照)。
【0032】
一方、要介護者50が立ち上がる際には、制御装置8による制御に基づき、便座昇降移動機構12が左右の電動式直線駆動機構20を作動させて、上記と同様に便座2を便器1に隣接する下降位置からその上方の上昇位置へ持ち上げるとともに、それと連動して便座揺動機構13が左右の電動式連結軸移動機構21を作動させて、便座2を水平姿勢から上述した前傾姿勢に揺動させて、要介護者50の臀部を押し上げ、重心移動を容易にする(図7B参照)。また同時に、制御装置8による制御に基づき、押圧部材進退移動部10bが押圧部材10aを前方に移動させて要介護者50の腰部を押圧部材10aで前方へ押し出すと共に、その要介護者の立ち上がりに伴う腰部の位置変化に応じて押圧部材昇降移動部10cが押圧部材進退移動部10bを上昇させる(図7C参照)。
【0033】
従って、この実施例の便器からの立ち上がり補助装置を適用した自走式トイレによれば、便座2に着座する際には便座2を上昇位置で水平にして座り易くすることができるとともに、立ち上がる際には便座2を上昇位置で前傾にして立ち上がり易くすることができる。また、要介護者50の腰部を押圧部材10aで保持しながら着座させ、または押圧部材10aで前方に押し出しながら起立させることが出来るので、起立および着座動作をより容易にすることができるだけでなく、要介護者50の後方への転倒やふらつきを防止し、また押圧部材で要介護者50の腰部を保持したまま着衣の脱着を行うことも出来る。
【0034】
しかもこの実施例の便器からの立ち上がり補助装置によれば、便座昇降移動機構12は左右それぞれで二本のリンク部材15,16により便座2を昇降移動させる平行リンク機構を構成し、便座揺動機構13は、それらの平行リンク機構の上側のリンク15の、昇降フレーム18ひいては便座2への連結軸であるピン21jを、昇降フレーム18ひいては便座2に対し移動させて便座2を揺動させる連結軸移動機構21を有しており、連結軸移動機構21は平行リンク機構のピン21jを移動させるだけなので、便座2の揺動をコンパクトな構成で容易に行うことができる。
【0035】
さらにこの実施例の便器からの立ち上がり補助装置によれば、制御装置8が、上昇位置および前傾姿勢、並びに押圧部材10aの進退移動位置および昇降移動位置を任意に設定されて記憶することから、便器1を利用する要介護者50の体格、身長等に対応させて便座2の上昇位置および前傾姿勢、並びに押圧部材10aの移動位置を設定して記憶させることができるので、便座持ち上げ装置をより使い易くすることができる。
【0036】
その上、この実施例の便器からの立ち上がり補助装置によれば、コンパクトな腰部押圧装置10を便器1の後方に設けることにより要介護者50の立ち上がりの補助が可能であるので、コンパクトで便器と干渉することのない便器からの立ち上がり補助装置を提供することができる。
【0037】
図8(a),(b)は、この発明の便器からの立ち上がり補助装置の一変形例について、その臀部保持部材および腰部保持部材の形状を腰部押圧部材と共に示す平面図および側面図である。
【0038】
この変形例では、臀部保持部材10fおよび腰部保持部材10gが腰部押圧部材10aに連結されて設けられている点において先の実施例と異なり、他の点で先の実施例と同様に構成されている。
【0039】
ここで臀部保持部材10fは、平面略馬蹄形状で、後部で上方に立ち上がって腰部押圧部材10aの底面に連結されており、要介護者50の臀部を保持可能に取付けられている。また、腰部保持部材10gは、腰部押圧部材10aの両側方に連結された二本の円柱体よりなり、要介護者50の腰部を側方から保持可能となっている。
【0040】
従ってこの変形例では、先の実施例で記載した効果に加え、着座時および起立時に臀部保持部材10fにより要介護者50の臀部を保持することにより、着座動作および起立動作をより容易なものとできる。また、腰部保持部材10gにより要介護者50の側方への転倒も防止することができるので、より安全な装置を提供することができる。
【0041】
以上、図示例に基づき説明したが、本発明は上述した実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更することができるものであり、例えば、便座揺動手段の駆動部を便座側でなくシャシー側に設け、その駆動部で別のリンク機構を介して便座を揺動させるようにしても良い。また本発明の便器からの立ち上がり補助装置は、建物内に固設されたトイレの壁面等に固定して設けても良い。更に、便座昇降移動機構、便座揺動機構、並びに押圧部材昇降移動手段および押圧部材進退移動手段の動作は、それぞれ同時に動くように制御しても良く、また別個に動くように制御しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0042】
かくして本発明の便座持ち上げ装置によれば、立ち上がり時の要介護者50の前方への重心移動を補助すると同時に要介護者50の後方への転倒を防止することが可能で、かつ便器と干渉し難い便器からの立ち上がり補助装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】この発明の便器からの立ち上がり補助装置の一実施例を適用した自走式トイレの全体を示す斜視図である。
【図2】(a),(b)は、上記自走式トイレの全体を示す側面図およびその自走式トイレの後部の構成を示す説明図である。
【図3】(a),(b),(c),(d)は、上記実施例の便器からの立ち上がり補助装置の便座持ち上げ装置を示す平面図、正面図、側面図および斜視図である。
【図4】(a),(b)は、上記実施例の便器からの立ち上がり補助装置の便座持ち上げ装置の便座揺動機構を示す一部切り欠き断面図およびその(a)のA−A線に沿う断面図である。
【図5A】上記実施例の便器からの立ち上がり補助装置の便座持ち上げ装置を便座が下降位置にある状態で示す説明図である。
【図5B】上記実施例の便器からの立ち上がり補助装置の便座持ち上げ装置を便座が上昇位置での水平姿勢にある状態で示す説明図である。
【図5C】上記実施例の便器からの立ち上がり補助装置の便座持ち上げ装置を便座が上昇位置での前傾姿勢にある状態で示す説明図である。
【図6A】上記実施例の便器からの立ち上がり補助装置の押圧部材、押圧部材進退移動部、および押圧部材昇降移動部(腰部押圧装置)の動作状態を内部の構造と共に示す説明図である。
【図6B】上記実施例の便器からの立ち上がり補助装置の押圧部材、押圧部材進退移動部、および押圧部材昇降移動部(腰部押圧装置)の動作状態を内部の構造と共に示す説明図である。
【図6C】上記実施例の便器からの立ち上がり補助装置の押圧部材、押圧部材進退移動部、および押圧部材昇降移動部(腰部押圧装置)の動作状態を内部の構造と共に示す説明図である。
【図7A】上記実施例の便器からの立ち上がり補助装置における着座者の起立動作の様子を示す説明図である。
【図7B】上記実施例の便器からの立ち上がり補助装置における着座者の起立動作の様子を示す説明図である。
【図7C】上記実施例の便器からの立ち上がり補助装置における着座者の起立動作の様子を示す説明図である。
【図8】(a),(b)は、この発明の便器からの立ち上がり補助装置の一変形例について、その臀部保持部材および腰部保持部材の形状を腰部押圧部材と共に示す平面図および側面図である。
【符号の説明】
【0044】
1 便器
2 便座
3 便座持ち上げ装置
4 キャスタ
5 パッド付きパンパ
6 駆動輪
7 駆動系
8 制御装置
9 バッテリ
10 腰部押圧装置
10a 押圧部材
10b 押圧部材進退移動部
10c 押圧部材昇降移動部
10d スライドフレーム
10e 上下スライドガイド
10f 臀部保持部材
10g 腰部保持部材
12 便座昇降移動機構
13 便座揺動機構
14 固定フレーム
15 リンク部材
16 リンク部材
17 ヒンジ
18 昇降フレーム
18a 脚板
18b 上板
18c 長孔
19 ブラケット
20 電動式直線駆動機構
20a 本体
20b ロッド
21 電動式連結軸移動機構
21a アーム
21b 回動軸
21c ウオームホイール
21d ウオームギヤ
21e モータ
21f 平歯車
21g ピニオン
21h ポテンショメータ
21i ねじ孔
21j ピン
30 本体
31 ロッド
32 ボールナット
33 ボールねじ軸
34 モータ
35 エンコーダ
50 要介護者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器の使用者の腰部を前方へ押圧する押圧部材と、
前記便器の後方に設けられて前記押圧部材を前記便器に対し進退移動させる押圧部材進退移動手段と、
前記便器の後方に設けられて前記押圧部材を昇降移動させる押圧部材昇降移動手段と、
前記押圧部材進退移動手段および前記押圧部材昇降移動手段の作動を互いに連動するように制御する押圧作動制御手段と、
を具える、便器からの立ち上がり補助装置。
【請求項2】
前記押圧部材進退移動手段は、前記押圧部材を支持し、
前記押圧部材昇降移動手段は、前記押圧部材進退移動手段を昇降移動させることを特徴とする、請求項1に記載の便器からの立ち上がり補助装置。
【請求項3】
前記押圧部材に連結されて使用者の臀部を保持する臀部保持部材をさらに具えることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の便器からの立ち上がり補助装置。
【請求項4】
前記押圧部材に連結されて、使用者の腰部を使用者の左右側方から保持する腰部保持部材をさらに具えることを特徴とする、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の便器からの立ち上がり補助装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の便器からの立ち上がり補助装置であって、さらに
便座を前記便器に隣接する下降位置とその上方の上昇位置との間で昇降移動させる便座昇降移動手段と、
前記便座を水平姿勢と前傾姿勢との間で揺動させる便座揺動手段と、
前記便座昇降移動手段および前記便座揺動手段の作動を互いに連動するように制御する持ち上げ作動制御手段と、
を具えてなる便座持ち上げ装置を備える、便器からの立ち上がり補助装置。
【請求項6】
前記便座昇降移動手段は、前記便座を昇降移動させる平行リンク機構を有し、
前記便座揺動手段は、前記平行リンク機構の一方のリンクの、前記便座への連結軸を前記便座に対し移動させて、前記便座を揺動させる連結軸移動機構を有することを特徴とする、請求項5に記載の便器からの立ち上がり補助装置。
【請求項7】
前記便座持ち上げ装置による便座の移動と、前記押圧部材進退移動手段および前記押圧部材昇降移動手段による前記押圧部材の移動とが連動するように制御する総合制御手段を具えた、請求項5または請求項6に記載の便器からの立ち上がり補助装置。
【請求項8】
前記押圧作動制御手段は、前記押圧部材の進退移動位置と昇降移動位置とを任意に設定されて記憶し、
前記持ち上げ作動制御手段は、前記上昇位置と前記前傾姿勢とを任意に設定されて記憶することを特徴とする、請求項5乃至請求項7の何れかに記載の便器からの立ち上がり補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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