説明

便器用便座装置

【課題】便器に対して回転可能であって、適宜位置決めをすることができ、或いは回転位置に加えて便器に対して平行移動可能な便座を有する便座装置を提供する。
【解決手段】便器10の開口部102の上端部101に載置される第2の基体2には、レール体23a〜23dを備え、レール体23a〜23dにガイドされる移動体34a〜34dが第1の基体3の下面に設けられ、第1の基体3は、レール体23a〜23dに沿って、前後左右に移動可能となる。さらに、座体4は、ローラ43によって、第1の基体3に対して回動自在に設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、便器用便座装置にかかり、詳しくは、便座が便器に対して回転可能に設けられている便器用便座装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の腰掛式大便器の便座は、蝶番を介して便器に対して揺動自在にセットされ、腰掛ける際には、便器の上に便座を下ろして使用し、男性が小便をする場合には、便座をあげて使用されることは、周知である。
ところで、車椅子で移動しなければならない身体障害者などは、車椅子から腰掛式便器へ移動し、便座を使用する必要があり、用を足した後では、同様に車椅子に戻る必要がある。このような場合、便座が適宜回転すると便利である。
このような問題を解決するため、座の部分が回転可能に構成された便座(特許文献1)が提案されている。
【特許文献1】特開平7−204125号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような特許文献1に記載の発明は、便器上端部に転接するローラを備え、便座を回転させる場合には、このローラが転動することにより、滑らかに便座が回転する構成となっている。しかし、便器の開口上端部は、真円ではないため、便座を360度回転させることはできないといった問題があった。また、身体動作が緩慢な高齢者や身障者の場合には、便座が回転する以外に、便器に対する位置を移動可能に構成されていると、より利便性が向上する。
一方、便座がフリー回転可能に構成されていると、便座に座った際に身体が安定せず、かえって好ましくないといった問題もあった。
【0004】
この発明は、便器に対して回転可能であって、適宜位置決めをすることができ、或いは回転位置に加えて便器に対して平行移動可能な便座を有する便座装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上のような問題を解決する本発明は、以下のような構成を有する。
(1) 腰掛式の大便器に取り付けられる便器用便座装置であって、
前記腰掛式大便器の開口端の上側に載置され、前記開口端に沿った円環状をなす第1の基体と、
前記第1の基体上に載置され、前記第1の基体の円環状の側面に沿って閉じた円環状に形成された環状案内部によって案内される被案内部を備え、前記第1の基体に沿った環形状を有する座体と、
前記便座と前記第1の基体との間に位置し、前記第1の基体の円環と同心円周上に配置され、前記座体又は前記第1の基体の一方に支持され、他方に転接する複数の転動体とを備え、
前記便座は前記第1の基体に対して360度回動可能に設置されていることを特徴とする便器用便座装置。
【0006】
(2) 前記第1の基体と前記腰掛式大便器の開口端との間に配置され、開口端に沿って配置される環状又は弧状の第2の基体と、
前記第1の基体と前記第2の基体との間に設けられ、前記腰掛式大便器の開口に対して平行移動可能に、前記第1の基体を支持するガイド装置とを備える上記(1)に記載の便器用便座装置。
【0007】
(3) 前記便座を、前記第1の基体に対して、回転可能なフリー状態と、回転不能な固定状態とに変更可能な回転角度位置決め手段を有する上記(1)又は(2)に記載の便器用便座装置。
【0008】
(4) 前記第2の基体を、前記第1の基体に対して、移動可能なフリー状態と、移動不能な固定状態とに変更可能な移動位置位置きめ手段を有する上記(2)又は(3)に記載の便器用便座装置。
【0009】
(5) 前記ガイド装置は、直交する2方向への移動を案内する案内部材と、前記案内部材によって直線方向に往復動する被案内部材とを備え、前記第1の基体又は前記第2の基体の一方に前記案内部材が、他方に前記被案内部材が固定されている上記(2)〜(4)のいずれか1に記載の便器用便座装置。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、座体は、閉じた円環状の第1の基体上を、転動体を介して回転移動可能に構成されているので、360度フリー回転可能となる。これにより、使用者の身体の状況に応じた回動位置を変更し得る範囲をより広範囲とすることができる。
請求項2記載の発明によれば、座体は、回転移動に加えて、便器に対して平行移動が可能となり、使用者の身体の状況に応じた位置移動可能な範囲を、さらに広範囲に拡張させることが可能となる。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、回転角度位置決め手段を設けることにより、座体を回転しないように固定することができ、座体に座った使用者の姿勢を安定させることができる。
請求項4に記載の発明によれば、移動位置位置きめ手段を設けることにより、座体をスライド移動しないように固定することができ、座体に座った使用者の姿勢を安定させることができる。
請求項5に記載の発明によれば、案内部材内を被案内部材が移動することによって、案内部材によって設定された軌道上を座体が平行移動することができる。また、移動方向を直行する2方向とすることによって、移動範囲を、さらに広範囲に拡張することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適実施形態について、添付図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の便器用便座装置1の分解斜視図である。図2は、同じく便器10に取り付けた状態の全体図である。便器用便座装置1は、腰掛式便器10の開口部102の上端部101に載置される第2の基体2と、第2の基体2の上に載置される第1の基体3と、さらに第1の基体3の上に載置される座体4とを備えている。
【0013】
第2の基体2は、板状に形成され、開口部102の形状に沿った円環状に形成された環状部21と、その内側の開口22と、環状部21の後側基端部24に設けられた一対の回動接続部241a、241bとを備えている。開口22は、便器10の開口102に重なり、座体4上に座った使用者が排便する際に便が通過する。環状部21は、開口部102の上端部101上に載り、回動接続部241a、241bは、便器10の後端部に設けられた支持部103a、103bに揺動自在に支持されている。この回動接続部241a、241bを介して、第2の基体2は、開口部102の上端部101に載置された状態と、上方へ揺動して持ち上げられた状態とに姿勢変更可能に構成されており、便器用便座装置1全体の姿勢を変更することができる。
【0014】
環状部21上には、ガイド装置を構成する案内部材としてのレール体23a〜23dが固定されている。レール体23a〜23dは、4つ設けられ、開口22を内側に含む矩形の4つの頂点の位置に、それぞれ配置されている。図3は、レール体23a〜23dの内の1つを示す平面図である。レール体23は、開口側が対向するコ字断面を有する1対のレール232、232で構成されたガイド部231f、231b、231h、231mを直交する4方向に接続して構成されている。レール232、232の間には、被案内部材としての移動体34が摺動自在に収容されている。ガイド部231fは、移動体34を前方へ案内し、ガイド部231bは、後方へ、ガイド部231hは、左方へ、ガイド部231mは、右方へ案内し、各ガイド部231f、231b、231h、231mの交差する位置に移動体34が位置すると、座体4の中央が、便器10の開口部102の中央に重なる位置となり、ホームポジションとなるように構成されている。移動体34の中心には、後述する係止ピンが嵌入されるピン孔341が形成されている。
【0015】
第1の基体3は、板状に構成され、真円に形成された真円環状部31を備えている。真円環状部31の内側には開口32が形成され、開口32の内側面には、周方向に連続して突出形成され凸状部からなる案内レール321が設けられている。真円環状部31の下側面には、前記各レール体23a〜23dにそれぞれ収容される被案内部材としての移動体34a〜34dが固定されている。このレール体23a〜23dと移動体34a〜34dによってガイド装置が構成される。
【0016】
移動体34a〜34dがそれぞれレール体23a〜23dによって案内されつつ移動することによって、第1の基体3は、第2の基体2に対して平行移動可能となる。また、移動方向と移動量は、レール体23a〜23dによって規定される。レール体23a〜23dは、それぞれ移動体34a〜34dを一対のレール232、232の内側に収容することにより、第1の基体3と第2の基体2とが離れることなく、相対的に平行移動し得るような構成となっている。
【0017】
図4に示されているように、4つのレール体23a〜23dの内、少なくとも1つ(図4では、レール体23c)には、移動位置位置決め手段としての位置決め装置35が設けられている。この位置決め装置35は、レール体23cと第2の基体2との間に設けられ、スライド自在に支持されたスライド体351と、レール体23c側に上下方向出没自在に支持された5つの係止ピン36、36、36(図中には3つ表示されている。)とを備えている。係止ピン36は、移動体34がレール体23cの中心に位置した場合と、各ガイド部の端に位置した場合のそれぞれの位置に対応した位置に配置されている。つまり、中心位置、各ガイド部の端部の合計5つの場所に、係止ピン36が配置される。
【0018】
スライド体351は、一方向に往復動自在に設けられ、5つの係止ピン36の下端が当節するテーパー部355が、係止ピン36の配置位置に対応して、それぞれ配置されている。スライド体351の端部には、レバー352が設けられ、レバー352の先端部には、摘み353と、挿入部354がスライド体351に平行に形成されている。挿入部354は、第1の基体3側に形成された挿入溝322に挿入され、スライド体351と一体として挿入溝322内を入出する。レバー352は、スライド体351の下方へ延出させ、第2の基体2側に設けられた挿入溝に挿入部354が挿入される構成としてもよい。
【0019】
このような構成において、レバー352を操作してスライド体351をスライドさせることにより、各係止ピン36が上下に昇降する。係止ピン36が上方へ突出することにより、移動体34のピン孔341に先端が挿入され、移動体34が固定される。これにより、第1の基体3の移動位置が位置決めされる。
【0020】
図5は、座体4の平面図である。ガイド装置によって座体4は、最も前方に位置した4Fの位置、最も後方に位置した4Bの位置、最も左側に位置した4Lの位置、最も右側に位置した4Rの位置の範囲で、直交する2方向へ移動可能に構成される。
また、ガイド装置によって、第1の基体3と第2の基体2が一体とされる。第1の基体3の真円環状部31の上面は、真円形状の平滑面33が形成されている。平滑面33上には、座体4が載置される。座体4は、本体部4aと、座部4bとから構成される。
【0021】
図6は、座体4の側面断面図である。座体4は、中央部に開口42を有する環状部41を備え、後端部には凹部411が形成されている。この凹部411は、使用者が排泄後、肛門を清掃処理するための手の挿入を容易にするためのものである。
本体部4aと座部4bは、共に平面視において同一形状に形成されている。相互に分離可能に組み付けられている。本体部4aには、円周方向に転動体としてのローラ43が複数個、等間隔で配置されている。ローラ43は、第1の基体3の平滑面33に転接する。ローラ43の配置位置は、平滑面33に沿った円周上に位置し、各ローラ43の回転軸431の延長線は、円環状の平滑面33及び案内レール321の中心点で交差するように配置されている。
【0022】
また、本体部4aの内周部には、断面コ字形状の係合部421が設けられ、係合部421には、第1の基体3の案内レール321が収容される。係合部421は案内レール321に対して摺動自在であり、この係合部421と案内レール321とによって、第1の基体3と座体4とが、相互に回動自在でかつ、重なった状態で一体とされる。また、ローラ43が転動することにより、座体4は、第1の基体3に対して滑らかに回動することができる。
【0023】
図7は、位置決め機構5の側面断面図である。本体部4aの下側には、回動角度位置決め手段としての回動位置決め機構5が設けられてる。座体4は線対称形状に構成され、その中心線上の前端には、位置決め機構5が設けられている。本体部4aの下面には、支持部52が下方に突出し、該支持部52には、レバー51が軸511を介して揺動自在に支持されている。また、支持部52には、位置決めピン53が、円環状の平滑面33の中心方向へ向けて、往復動可能に保持されている。位置決めピン53の先端部は、拡径されたスプリング受部551となっており、位置決めピン53に外装された付勢手段としての圧縮スプリング54の一端が、スプリング受部551に当節する。圧縮スプリング54の他端は、レバー51の作用面512又は513との間に介挿された、スプリング受部材521に当接している。
【0024】
位置決めピン53の先端面には、球面状に突出する凸部によって係止部55が設けられている。一方、図1に示されているように、第1の基体3の外周面311には、凹状に形成された係合部312が形成されている。係合部312は、等間隔で複数個設けられている。係合部312には、位置決めピン53の係止部55が係合する。
【0025】
レバー51の軸511の近傍には、相互に直交する解除作用面512とロック作用面513が設けられている。ロック作用面513は、軸511から作用面までの距離が長く構成され、解除作用面512は、短く構成されている。図6及び図7における想像線で示されている状態は、レバー51が下方に向けてセットされ、解除作用面512がスプリング受部材521に当接した状態を示すものである。この状態では、圧縮スプリング54は、伸びた状態となっており、位置決めピン53を、第1の基体3の外周面311へ向けて付勢する力が小さい。この状態で、第1の基体3に対して座体4を回動させると、位置決めピン53の先端は、容易に係合部312から外れ、隣接する次の係合部312に係合する。このように、座体4は、位置決めんピン53が複数の係合部312に係合するたびに、回動抵抗を受け、座体4が慣性により空回りすることがない。つまり、いずれかの係合部312に位置きめピン53の先端が係合することで、座体4は、一時的に固定されることとなる。このような構成とすることで、座体4の回動位置を決めて、排泄のために服を脱いでいる際に、誤って座体4に服が触れて、座体4が動いてしまうなどの不都合が抑制される。
【0026】
また、図7の実線で示されているように、レバー51を水平姿勢に回動させると、ロック作用面513がスプリング受部材521を位置決めピン53方向へ押込んだ状態となる。これにより、圧縮スプリング54は、さらに圧縮され、位置決めピン53を、係合部312へ強く押圧させる。
これにより、座体4は第1の基体3に対して回動不能となり、座体4が固定される。即ち、便座に座った状態で、座体4の姿勢が固定されるので、使用者は安定した姿勢で使用することができる。
【0027】
本体部4a上には、座部4bが載置固定される。座部4bが本体部4aに対して別部材となっていることにより、例えば、弾性部材などの衝撃を吸収可能な材料で構成し、座り心地を向上させるよう、本体部4aとは異なる材料で構成することができる。また、肌が直接接触する部分であるため、抗菌コート等の施工や、或いは発熱体を内蔵した構造を別途作成して取り付けることが可能となる。
【0028】
なお、ローラ43は、第1の基体3側に支持され、座体4下面に転接する構成としてもよい。さらに、レール体23a〜23dを、第1の基体3側に設け、移動体34a〜34dを第2の基体2側に設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の便器用便座装置の分解斜視図である。
【図2】本発明の便器用便座装置を便器に取り付けた状態の全体図である。
【図3】レール体の構成を示す平面図である。
【図4】移動位置位置きめ手段を示す側面断面図である。
【図5】座体の全体平面図である。
【図6】座体の側面断面図である。
【図7】座体の側面断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 便器用便座装置
10 便器
2 第2の基体
3 第3の基体
4 座体
5 回転角度位置決め手段
43 ローラ(転動体)
23a〜23d レール体(案内部材)
34a〜34d 移動体(被案内部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腰掛式の大便器に取り付けられる便器用便座装置であって、
前記腰掛式大便器の開口端の上側に載置され、前記開口端に沿った円環状をなす第1の基体と、
前記第1の基体上に載置され、前記第1の基体の円環状の側面に沿って閉じた円環状に形成された環状案内部によって案内される被案内部を備え、前記第1の基体に沿った環形状を有する座体と、
前記便座と前記第1の基体との間に位置し、前記第1の基体の円環と同心円周上に配置され、前記座体又は前記第1の基体の一方に支持され、他方に転接する複数の転動体とを備え、
前記便座は前記第1の基体に対して360度回動可能に設置されていることを特徴とする便器用便座装置。
【請求項2】
前記第1の基体と前記腰掛式大便器の開口端との間に配置され、開口端に沿って配置される環状又は弧状の第2の基体と、
前記第1の基体と前記第2の基体との間に設けられ、前記腰掛式大便器の開口に対して平行移動可能に、前記第1の基体を支持するガイド装置とを備える請求項1に記載の便器用便座装置。
【請求項3】
前記便座を、前記第1の基体に対して、回転可能なフリー状態と、回転不能な固定状態とに変更可能な回転角度位置決め手段を有する請求項1又は2に記載の便器用便座装置。
【請求項4】
前記第2の基体を、前記第1の基体に対して、移動可能なフリー状態と、移動不能な固定状態とに変更可能な移動位置位置きめ手段を有する請求項2又は3に記載の便器用便座装置。
【請求項5】
前記ガイド装置は、直交する2方向への移動を案内する案内部材と、前記案内部材によって直線方向に往復動する被案内部材とを備え、前記第1の基体又は前記第2の基体の一方に前記案内部材が、他方に前記被案内部材が固定されている請求項2〜4のいずれか1に記載の便器用便座装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−75212(P2010−75212A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−243426(P2008−243426)
【出願日】平成20年9月23日(2008.9.23)
【出願人】(593227109)株式会社ミクロン・エンジニアリング (3)
【出願人】(504082036)ヒューテック株式会社 (3)
【出願人】(307042167)株式会社渡辺製作所 (3)
【出願人】(307042156)東京メディカル・ケア株式会社 (3)
【Fターム(参考)】