説明

便座昇降装置および洋式トイレ

【課題】便座ユニットを電動で昇降させる場合でも便座ユニットが横幅方向で大きく傾くことのない便座昇降装置およびそれを備えた洋式トイレを提供すること。
【解決手段】便座昇降装置1では、可動部材4の横幅方向において、可動部材4に便座ユニット10を取り付けた状態での重心位置Gに対して、電動駆動装置5から可動部材4への動力伝達部50とは反対側に第1の付勢部材81を配置し、動力伝達部50に対して、可動部材4に便座ユニット10を取り付けた状態での重心位置Gとは反対側に第2の付勢部材82を配置してある。このため、便座ユニット10を上昇させる際、電動駆動装置5のパワーが小さくてよい。また、便座ユニット10を取り付けた状態おける可動部材4の幅方向の重心位置Gと、動力伝達部50の位置が横幅方向でずれているが、可動部材4および便座ユニット10は、横幅方向で傾くことなく上昇させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋式の便器の便座を昇降させるための便座昇降装置、およびこの便座昇降装置を備えた洋式トイレに関するものである。
【背景技術】
【0002】
洋式トイレにおいては、便座や便蓋が奥の方を中心に回転して便器本体上で平伏姿勢および起立姿勢となる。このため、便器本体上面の奥の方を清掃しようとしても便器本体と便座との間には極めて狭い隙間しか空いておらず、その部分を掃除したくても手が届かない。そこで、小型のステッピングモータ等を動力として、便座ユニットを便器本体から浮かせた状態にすることが可能な電動式の便座昇降装置が案出されている(例えば、特許文献1、2)。
【特許文献1】特開2004−350892号公報
【特許文献2】特開2005−211106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、便座ユニットにおいては、近年、洗浄機能、防臭機能、暖房機能、便蓋の自動開閉機能等の付加により、便座ユニットの構造が複雑化および高密度化するに従って、便座ユニットの重量が大きくなってきている。このため、特許文献1、2に記載の便座昇降装置のように、小型のステッピングモータを用いた場合には、パワーが不足し、便座ユニットを昇降させることができないという問題点がある。
【0004】
また、便座ユニットの構造が複雑化および高密度化すると、便座昇降装置を構成する部材の配置位置などが制限されるため、便座ユニットを搭載した状態での可動部材の重心位置(例えば、可動部材の横幅方向の中心位置)と、電動駆動装置から便座ユニットへの動力伝達部の位置とを横幅方向において一致させることが難しい。このため、便座ユニットを昇降させる際、便座ユニットに対して横幅方向で傾かせる方向のモーメントが作用し、便座ユニットが横幅方向で大きく傾くという問題点がある。このような斜め姿勢で便座ユニットが昇降すると、便座ユニットに対するガイド軸に偏った力が加わる結果、ガイド軸での磨耗の発生、動力損失の増大、見栄えの低下等が発生するため好ましくない。
【0005】
このような傾きを解消可能な構成として、便座ユニットを搭載した状態での可動部材の重心位置の真下位置あるいは真上位置にモータから便座ユニットへの動力伝達部を配置する構成も考えられるが、このような構成を採用すると、便座昇降装置の高さ寸法が増大するため、洋式トイレへの便座昇降装置の搭載が困難となる。また、便座ユニットを搭載した状態での可動部材の重心位置の前方位置あるいは後方位置に電動駆動装置から便座ユニットへの動力伝達部を配置する構成も考えられるが、このような構成を採用すると、便座昇降装置の前後方向の寸法が増大するため、洋式トイレへの便座昇降装置の搭載が困難となる。
【0006】
以上の問題点に鑑みて本発明の課題は、便座ユニットを電動で昇降させる場合でも便座ユニットが横幅方向で大きく傾くことのない便座昇降装置およびそれを備えた洋式トイレを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、洋式の便器本体に固定される固定部と、便座ユニットが取り付けられる可動部材と、該可動部材を上下方向に案内するガイド機構とを備えた便座昇降装置において、前記可動部材を電動により昇降させる電動駆動装置と、前記可動部材の横幅方向において、当該可動部材の横幅方向の中心位置に対して前記電動駆動装置から前記可動部材への動力伝達部とは反対側位置で前記可動部材を上方に付勢する第1の付勢部材とを備えていることを特徴とする。
【0008】
本発明の別の形態では、洋式の便器本体に固定される固定部と、便座ユニットが取り付けられる可動部材と、該可動部材を上下方向に案内するガイド機構とを備えた便座昇降装置を有する洋式トイレにおいて、前記便座昇降装置は、前記可動部材を電動により昇降させる電動駆動装置と、前記可動部材の横幅方向において、前記便座ユニットを取り付けた状態における当該可動部材の横幅方向の重心位置に対して前記電動駆動装置から前記可動部材への動力伝達部とは反対側位置で前記可動部材を上方に付勢する第1の付勢部材とを備えていることを特徴とする。
【0009】
本発明では、可動部材を上方に付勢する第1の付勢部材が配置されているため、便座ユニットを上昇させる際、電動駆動装置は小さなパワーを発揮すればよい。また、便座ユニットを取り付けた状態おける可動部材の幅方向の重心位置が、例えば、可動部材の横幅方向の中心位置にあって、この中心位置と電動駆動装置から可動部材への動力伝達部の位置が横幅方向でずれていると、便座ユニットを上昇させる際、便座ユニットに対して横幅方向で傾かせる方向のモーメントが加わるが、本発明では、便座ユニットを取り付けた状態おける可動部材の幅方向の重心位置の両側で電動駆動装置および第1の付勢部材が可動部材を各々押し上げるため、可動部材および便座ユニットが横幅方向で傾くことを防止することができる。特に、動力伝達部において、可動部材および便座ユニットの重力と、第1の付勢部材の付勢力とを調整して、可動部材および便座ユニットに加わる各力のモーメントを相殺すれば、可動部材および便座ユニットが横幅方向で傾くことを確実に防止することができる。
【0010】
本発明の便座昇降装置では、前記可動部材の横幅方向において、前記動力伝達部に対して前記可動部材の横幅方向の中心位置とは反対側位置で前記可動部材を上方に付勢する第2の付勢部材を備えていることが好ましい。また、本発明における洋式トイレでは、前記可動部材の横幅方向において、前記動力伝達部に対して、前記便座ユニットを取り付けた状態における当該可動部材の横幅方向の重心位置とは反対側位置で前記可動部材を上方に付勢する第2の付勢部材を備えていることが好ましい。このように構成すると、可動部材を上方に付勢する際、電動駆動装置はさらに小さなパワーを発揮すればよいことになる。また、便座ユニットを上昇させる際、便座ユニットを取り付けた状態おける可動部材の幅方向の重心位置(例えば、可動部材の横幅方向の中心位置)の一方側で電動駆動装置および第2の付勢部材が可動部材を押し上げ、他方側では第1の付勢部材が可動部材を押し上げるため、可動部材および便座ユニットが横幅方向で傾くことを防止することができる。特に、動力伝達部において、可動部材および便座ユニットの重力と、第1の付勢部材の付勢力と、第2の付勢部材の付勢力とを調整して、可動部材および便座ユニットに加わる各力のモーメントを相殺すれば、可動部材および便座ユニットが横幅方向で傾くことを確実に防止することができる。
【0011】
本発明において、前記ガイド機構は、前記可動部材の横幅方向で離間する位置で起立して当該可動部材を支持する第1のガイド軸および第2のガイド軸を備え、前記第1のガイド軸は、前記第1の付勢部材より前記動力伝達部に近い位置に配置され、前記第2のガイド軸は、前記動力伝達部より前記第1の付勢部材に近い位置に配置されていることが好ましい。このように構成すると、可動部材および便座ユニットが横幅方向で傾くことをより確実に防止することができる。
【0012】
本発明において、前記動力伝達部および前記付勢部材は、各々前記便座ユニットの横幅方向の範囲内に配置されていることが好ましい。このように構成すると、便座昇降装置の小型化を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、可動部材を上方に付勢する第1の付勢部材が配置されているため、便座ユニットを上昇させる際、電動駆動装置は小さなパワーを発揮すればよい。従って、電動駆動装置の駆動源として、小型でパワーの小さなステッピングモータなどを用いることができる。また、便座ユニットを取り付けた状態おける可動部材の幅方向の重心位置の両側で電動駆動装置および第1の付勢部材が可動部材を各々押し上げるため、可動部材および便座ユニットが横幅方向で傾くことを防止することができる。また、便座ユニットを上昇させる際、便座ユニットを取り付けた状態おける可動部材の幅方向の重心位置の一方側で電動駆動装置および第2の付勢部材が可動部材を押し上げ、他方側で第1の付勢部材が可動部材を押し上げる構成を採用した場合も、可動部材および便座ユニットが横幅方向で傾くことを防止することができる。特に、可動部材および便座ユニットの重力と、付勢部材の付勢力とを調整して、可動部材および便座ユニットに加わる各力のモーメントを相殺すれば、可動部材および便座ユニットが横幅方向で傾くことを確実に防止することができる。それ故、斜め姿勢の状態で便座ユニットが昇降することを回避できるので、便座ユニット10に対するガイド軸などに偏った力が加わることがない。よって、ガイド軸での磨耗の発生、動力損失の増大、見栄えの低下等が発生することを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図面を参照して、本発明を適用した便座昇降装置の一例を説明する。
【0015】
(洋式トイレの構成)
図1(a)、(b)は各々、本発明を適用した便座昇降装置を用いた洋式トイレユニットにおいて、便座ユニットを下降させた状態の説明図、および便座ユニットを上昇させた状態を示す斜視図である。
【0016】
図1(a)、(b)に示すように、本形態の洋式トイレユニットは、洋式の便器本体11と、この便器本体11上で開閉される便座12と、この便座12上で開閉される便蓋13とを有しており、便座12および便蓋13は、奥の方を中心に回転して平伏姿勢および起立姿勢となる。便座12および便蓋13は、便座ユニット10として一体化されており、この便座ユニット10には、必要に応じて、便座12および便蓋13が自重で平伏する際の速度を緩和するダンパー装置や便蓋を電動で開閉するための電動装置が内蔵される場合がある。本形態の洋式トイレユニットには、便座12(便座ユニット10)を電動で便器本体11から浮き上がらせて、便器本体11の上面を奥まで清掃可能とする便座昇降装置1が構成されている。
【0017】
(便座昇降装置の構成)
図2(a)、(b)は各々、本発明を適用した便座昇降装置において、便座ユニットが連結される可動部材を下降させた状態の説明図、および可動部材を上昇させた状態を示す斜視図である。図3(a)、(b)は各々、本発明を適用した便座昇降装置において、可動部材を下降させた状態における横断面図およびD−D′断面図である。
【0018】
図2(a)、(b)および図3(a)、(b)に示すように、便座昇降装置1は、図1に示す便器本体11の上面部分に連結される固定部材2(固定部)と、便座ユニットが取り付けられる可動部材4と、この可動部材4を上下方向に案内するガイド機構3とを備えている。ガイド機構3は、可動部材4の横幅方向で離間する位置で固定部材2から起立する第1のガイド軸31および第2のガイド軸32を備えており、可動部材4は、昇降可能に第1のガイド軸31および第2のガイド軸32に支持された状態にある。
【0019】
固定部材2は、便器本体11の上面にネジなどで固定されるSUS製の座板21と、座板21の後端部の一部分から起立する背板22と、背板22の上端部の一部分より前方に折れ曲がって座板21と対向する上板23とを有しており、座板21から立ち上がった第1のガイド軸31および第2のガイド軸32の上端部は、上板23に形成された軸穴によって各々支持されている。背板22は、第1のガイド軸31の後方には形成されているが、第2のガイド軸32の後方には配置されていない。
【0020】
可動部材4は、スライダ40と、スライダ40の前面にネジ410により取り付けられた可動板6とを備えており、スライダ40には、第1のガイド軸31が差し込まれた軸受41が形成されている。可動板6は、便座ユニット10が取り付けられる水平板部60と、水平板部60の幅方向の中央部分で後端部から上方に折れ曲がった第1の垂直板部61とを備えている。第1の垂直板部61はスライダ40との連結部分になっており、水平板部60には、必要に応じて、便座ユニット10への取り付け穴(図示せず)が複数、形成される。また、水平板部60は可動部材4の横幅寸法を規定している。可動板6において、第1の垂直板部61の左右両側では、水平板部60の後端部から上方に折れ曲がった第2の垂直板部62および第3の垂直板部63が形成されており、第2の垂直板部62および第3の垂直板部63の上端部分は後方に折れ曲がって第1の水平支持板部64および第2の水平支持板部65を構成している。
【0021】
(電動駆動装置の構成)
本形態の便座昇降装置1では、便座ユニット10が取り付けられた可動部材4を電動により昇降させるために、固定部材2の背板22の前面には電動駆動装置5が取り付けられている。電動駆動装置5は、正逆双方向への回転が可能なステッピングモータ55(駆動源)と、ステッピングモータ55の回転駆動力を伝達する減速輪列(図示せず)とを備えおり、減速輪列の最終段には出力ピニオン51が接続されている。また、スライダ40の側面には、出力ピニオン51とラック−ピニオン機構を構成するラック45が形成されている。このため、電動駆動装置5は、出力ピニオン51とラック45との噛合位置を動力伝達部50として、可動部材4を便座ユニット10とともに昇降させる。電動駆動装置5には、ポテンショメータなどを備えた位置検出機構(図示せず)が内蔵されており、ポテンショメータでの検出結果に基づいて、ステッピングモータ55への給電が制御される。
【0022】
(ガイド機構およびストッパ機構)
図4(a)、(b)、(c)は各々、本発明を適用した便座昇降装置において、可動部材を下降させた状態におけるA−A′断面図、可動部材を上昇させた状態におけるA−A′断面図、および可動部材を下降させた状態におけるB−B′断面図である。
【0023】
図4(a)に示すように、第1のガイド軸31が形成されている側において、可動部材4のスライダ40には第1のガイド軸31が差し込まれた軸受41が形成されている。スライダ40の背面側には、固定部材2の背板22と対向する部分で突出する筒状の突出部47が形成されている。突出部47の内部には、係合部材95が水平方向に進退可能に配置され、その奥には、係合部材95を固定部材2の背板22に向けて付勢するバネ96が配置されている。また、固定部材2の背板22には、スライダ40を上下したときに係合部材95が通過する線上のうち、その下方位置に、係合部材95の先端部が入り込む下側凹部97が形成されている一方、上方位置には、係合部材95の先端部が入り込む上側凹部98が形成されている。
【0024】
このため、係合部材95およびバネ96と、下側凹部97とは、便座ユニット10を下降させたときのスライダ40の保持位置を規定する第1のストッパとして機能する。また、係合部材95およびバネ96と、上側凹部98は、図4(b)に示すように、便座ユニット10を上昇させたときのスライダ40の保持位置を規定する第2のストッパとして機能する。また、第1のストッパおよび第2のストッパのいずれにおいても、係合部材95は、下側凹部97および上側凹部98に係合したときにクリック感を発生させる。
【0025】
これに対して、図4(c)に示すように、第2のガイド軸32が形成されている側では、第1の水平支持板部64の裏面に補強板66がネジにより固定されており、第1の水平支持板部64および補強板66には、第1のガイド軸31が位置する側が開放端になっているU字溝67が形成されている。U字溝67にはU字形状の摺動キャップ68が嵌められており、摺動キャップ68の内側に第2のガイド軸32が緩く嵌っているだけである。従って、第2のガイド軸32は、主に、第1のガイド軸31周りに可動部材4が前後方向に揺れるのを防止する機能を担っている。
【0026】
(付勢部材の構成)
図5(a)、(b)は各々、本発明を適用した便座昇降装置に搭載した第1の付勢部材および第2の付勢部材の説明図である。
【0027】
再び図2(a)、(b)および図3(a)、(b)において、本形態の便座昇降装置1では、可動部材4に便座ユニット10を取り付けた状態で、その重心位置Gは、例えば、可動部材4(可動板68水平板部60)の横幅方向(矢印Wで示す方向)の中心にある。また、可動部材4の横幅方向において、電動駆動装置5から可動部材4への動力伝達部50(出力ピニオン51とラック45との噛合位置)は、便座ユニット10を取り付けた状態での可動部材4の重心位置Gに対して、図2および図3に向かって左側にずれている。本形態では、便座ユニット10を取り付けた状態での可動部材4の重心位置Gは、可動部材4の横幅方向における中心位置にある場合を例示してある。
【0028】
このような構成では、便座ユニット10を上昇させる際、可動部材4および便座ユニット10に対して横幅方向で傾かせるモーメントが加わり、図2(b)に矢印Rで示すように、可動部材4および便座ユニット10が横幅方向で傾くおそれがある。
【0029】
そこで、本形態では、可動部材4の横幅方向において、可動部材4に便座ユニット10を取り付けた状態での重心位置Gに対して、動力伝達部50とは反対側(図2および図3に向かって右側)に、可動部材4を上方に付勢する圧縮コイルバネからなる第1の付勢部材81が配置されている。
【0030】
このような第1の付勢部材81を搭載するにあたって、本形態では、図5(a)に示すように、固定部材2の座板21の上面に円筒状の下ガイド811をネジで取り付ける一方、第1の水平支持板部64の下面には、下ガイド811の内側に嵌る円柱状の上ガイド812をネジで固定し、下ガイド811と上ガイド812との間に構成された環状の隙間内にコイルバネからなる第1の付勢部材81を配置してある。ここで、第1の付勢部材81は、下ガイド811の底部811aと上ガイド812のフランジ部813との間で圧縮された状態で配置されており、可動部材4を上方に付勢する。なお、第1の水平支持板部64と上ガイド812とは、第1の水平支持板部64に形成された位置決め穴64aと上ガイド812に形成された位置決め突起812aとによって位置決めされている。
【0031】
さらに、本形態では、図2(a)、(b)および図3(a)、(b)に示すように、可動部材4の横幅方向において、動力伝達部50に対して、可動部材4に便座ユニット10を取り付けた状態での重心位置Gとは反対側(図2および図3に向かって左側)には、可動部材4を上方に付勢する圧縮コイルバネからなる第2の付勢部材82が配置されている。
【0032】
このような第2の付勢部材82を搭載するにあたっても、第1の付勢部材81と同様、図5(b)に示すように、固定部材2の座板21の上面に円筒状の下ガイド821をネジで取り付ける一方、第2の水平支持板部65の下面には、下ガイド821の内側に嵌る円柱状の上ガイド822をネジで固定し、下ガイド821と上ガイド822との間に構成された環状の隙間内にコイルバネからなる第2の付勢部材82を配置してある。ここで、第2の付勢部材82は、下ガイド821の底部821aと上ガイド822のフランジ部823との間で圧縮された状態で配置されており、可動部材4を上方に付勢する。なお、第2の水平支持板部65と上ガイド822とは、第2の水平支持板部65に形成された位置決め穴65aと上ガイド822に形成された位置決め突起822aとによって位置決めされている。
【0033】
このようにして、第1の付勢部材81および第2の付勢部材82を配置すると、第1の付勢部材81および第2の付勢部材82は、便座ユニット10の横幅方向の範囲内に配置され、かつ、電動駆動装置5も便座ユニット10の横幅方向の範囲内に配置されることになる。
【0034】
(便座の昇降動作の説明)
本形態の便座昇降装置1は、座板21を便器本体11(図1を参照)の上面部分に固定する一方、可動板6の水平板部60に便座ユニット10を取り付けた状態で使用される。
【0035】
通常使用時は、図1(a)、図2(a)、図3(a)、(b)、および図4(a)に示すように、便座ユニット10を下降させた状態で使用する。この状態で、係合部材95が固定部材2の背板22の下側凹部97に嵌ることで、第1のストッパは便座ユニット10を最下位置にて保持する。従って、この位置では、第1のストッパの係合力、ステッピングモータ55のディテントトルク、および便座ユニット10の自重により、便座ユニット10が不用意に上昇することはなく、第1の付勢部材81および第2の付勢部材82は、圧縮された状態に維持される。また、この状態において、ポテンショメータは、便座ユニット10が最下位置にある旨の出力を行う。
【0036】
この状態から、清掃を開始するため便座ユニット10を浮かせたい場合に、所定のスイッチ動作を行うと、ステッピングモータ55は、所定のステップ数、あるいは所定の時間、正方向に回転する。その結果、ステッピングモータ55の回転運動力は、減速輪列を介して出力ピニオン51に伝達され、出力ピニオン51は、図1(b)、図2(b)および図4(b)に示すように、ラック45を介して可動部材4を上昇させる。従って、第1のストッパでの係合が解除され、可動部材4および便座ユニット10は一体に上昇する。その際、可動板6の第1の水平支持板部64および第2の水平支持板部65が各々、第1の付勢部材81および第2の付勢部材82によって上方に付勢されているため、可動部材4および便座ユニット10は容易に上昇する。
【0037】
そして、第2のストッパにおいて、係合部材95が上側凹部98に係合するまで、便座ユニット10が上昇した後、ステッピングモータ55は停止する。それまでの間に、ポテンショメータの出力が変化するので、その出力から、便座ユニット10が所定の位置まで上昇したことを検出できる。また、便座ユニット10が所定の位置まで上昇したことは、第2のストッパで発生するクリック音で報知することができる。さらに、便座ユニット10が最上位置で停止した状態では、第2のストッパの係合力、ステッピングモータ55のディテントトルク、第1の付勢部材81の付勢力、および第2の付勢部材82の付勢力によって、便座ユニット10の位置が保持され、便座ユニット10が自重で落下することはない。
【0038】
なお、清掃が終了して便座ユニット10を下降させたい場合は、所定のスイッチ動作を行うと、ステッピングモータ55は、所定のステップ数、あるいは所定の時間、逆方向に回転する。その結果、ステッピングモータ55の回転駆動力は、出力ピニオン51に伝達され、出力ピニオン51は、ラック45を介して可動部材4を下降させる。従って、第2のストッパでの係合が解除され、可動部材4および便座ユニット10は一体に下降する。
【0039】
そして、第1のストッパにおいて、係合部材95が下側凹部97に係合するまで、便座ユニット10が下降した後、ステッピングモータ55は停止する。それまでの間に、ポテンショメータの出力が変化するので、その出力から、便座ユニット10が所定の位置まで下降したことを検出できる。また、便座ユニット10が所定の位置まで下降したことは、第1のストッパで発生するクリック音で報知することができる。
【0040】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態の便座昇降装置1および洋式トイレでは、可動部材4を上方に付勢する第1の付勢部材81が配置されているため、便座ユニット10を上昇させる際、電動駆動装置5は小さなパワーを発揮すればよい。
【0041】
また、本形態では、便座ユニット10を取り付けた状態おける可動部材4の幅方向の重心位置Gが、例えば、可動部材4の横幅方向の中心位置にあって、この重心位置G(中心位置)と電動駆動装置5から可動部材4への動力伝達部50の位置が横幅方向でずれているが、便座ユニット10を取り付けた状態おける可動部材4の幅方向の重心位置Gの両側で、電動駆動装置5および第1の付勢部材81が可動部材4を各々押し上げるため、可動部材4および便座ユニット10が横幅方向で傾くことを防止することができる。特に、動力伝達部50において、可動部材4および便座ユニット10の重力位置Gと、第1の付勢部材81の付勢力とを調整して、可動部材4および便座ユニット10に加わる各力のモーメントを相殺すれば、可動部材4および便座ユニット10が横幅方向で傾くことを確実に防止することができる。
【0042】
さらに、本形態の便座昇降装置1および洋式トイレでは、可動部材4の横幅方向において、動力伝達部50に対して、便座ユニット10を取り付けた状態おける可動部材4の幅方向の重心位置G(可動部材4の横幅方向の中心位置)とは反対側位置で可動部材4を上方に付勢する第2の付勢部材82が用いられている。このため、可動部材4を上方に付勢する際、電動駆動装置5はさらに小さなパワーを発揮すればよいことになる。
【0043】
さらにまた、便座ユニット10を上昇させる際、便座ユニット10を取り付けた状態における可動部材4の幅方向の重心位置Gの一方側で電動駆動装置5および第2の付勢部材82が可動部材4を押し上げ、他方側では第1の付勢部材81が可動部材4を押し上げるため、可動部材4および便座ユニット10が横幅方向で傾くことを防止することができる。特に、動力伝達部50において、可動部材4および便座ユニット10の重力と、第1の付勢部材81の付勢力と、第2の付勢部材82の付勢力とを調整して、可動部材4および便座ユニット10に加わる各力のモーメントを相殺すれば、可動部材4および便座ユニット10が横幅方向で傾くことを確実に防止することができる。
【0044】
それ故、本形態によれば、斜め姿勢の状態で便座ユニット10が昇降することを回避できるので、便座ユニット10に対する第1のガイド軸31および第2のガイド軸32に偏った力が加わることがない。よって、第1のガイド軸31および第2のガイド軸32での磨耗の発生、動力損失の増大、見栄えの低下等が発生することを防止することができる。
【0045】
また、第1のガイド軸31は、第1の付勢部材81より動力伝達部50に近い位置に配置され、第2のガイド軸32は、動力伝達部50より第1の付勢部材81に近い位置に配置されているため、可動部材4および便座ユニット10が横幅方向で傾くことをより確実に防止することができる。
【0046】
さらに、動力伝達部50、第1の付勢部材81および第2の付勢部材82は、各々便座ユニット10の横幅方向の範囲内に配置されているため、便座昇降装置10の小型化を図ることができる。
【0047】
(その他の実施の形態)
上記実施の形態では、可動部材4の横幅方向において、可動部材4に便座ユニット10を取り付けた状態での重心位置Gに対して、動力伝達部50とは反対側に第1の付勢部材81を配置し、動力伝達部50に対して、可動部材4に便座ユニット10を取り付けた状態での重心位置Gとは反対側に第2の付勢部材82を配置したが、図6に示すように、可動部材4に便座ユニット10を取り付けた状態での重心位置Gに対して、動力伝達部50とは反対側に第1の付勢部材81のみを配置し、第2の付勢部材82を省略した構成を採用してもよい。また、第1の付勢部材81および第2の付勢部材82に加えて、第3の付勢部材を配置するなど、3つ以上の付勢部材を用いてもよい。
【0048】
上記形態においては、第1の付勢部材81および第2の付勢部材82として、圧縮コイルバネを用いたが、圧縮コイルバネの他、引っ張りコイルバネ、渦巻きバネ、板バネ、あるいは竹の子バネを用いてもよい。また、第1の付勢部材81および第2の付勢部材82として圧縮コイルバネなどを用いた場合、その圧縮状態で付勢力が変化するが、可動部材4および便座ユニット10が例えば高さ方向の中間位置にある状態で第1の付勢部材81および第2の付勢部材82の付勢力を設定すれば、第1のガイド軸31および第2のガイド軸32での磨耗の発生、動力損失の増大、見栄えの低下等を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】(a)、(b)は各々、本発明を適用した便座昇降装置を用いた洋式トイレユニットにおいて、便座ユニットを下降させた状態の説明図、および便座ユニットを上昇させた状態を示す斜視図である。
【図2】(a)、(b)は各々、本発明を適用した便座昇降装置において、便座ユニットが連結される可動部材を下降させた状態の説明図、および可動部材を上昇させた状態を示す斜視図である。
【図3】(a)、(b)は各々、本発明を適用した便座昇降装置において、可動部材を下降させた状態における横断面図およびD−D′断面図である。
【図4】(a)、(b)、(c)は各々、本発明を適用した便座昇降装置において、可動部材を下降させた状態におけるA−A′断面図、可動部材を上昇させた状態におけるA−A′断面図、および可動部材を下降させた状態におけるB−B′断面図である。
【図5】(a)、(b)は各々、本発明を適用した便座昇降装置に搭載した第1の付勢部材および第2の付勢部材の説明図である。
【図6】本発明を適用した別の便座昇降装置の説明図である。
【符号の説明】
【0050】
1 便座昇降装置
2 固定部
3 ガイド機構
4 可動部材
5 電動駆動装置
6 可動部材の可動板
10 便座ユニット
31 第1のガイド軸(ガイド機構)
32 第2のガイド軸(ガイド機構)
40 可動部材のスライダ
45 ラック
50 動力伝達部
51 出力ピニオン
55 ステッピングモータ
81 第1の付勢部材
82 第2の付勢部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洋式の便器本体に固定される固定部と、便座ユニットが取り付けられる可動部材と、該可動部材を上下方向に案内するガイド機構とを備えた便座昇降装置において、
前記可動部材を電動により昇降させる電動駆動装置と、前記可動部材の横幅方向において、当該可動部材の横幅方向の中心位置に対して前記電動駆動装置から前記可動部材への動力伝達部とは反対側位置で前記可動部材を上方に付勢する第1の付勢部材とを備えていることを特徴とする便座昇降装置。
【請求項2】
前記可動部材の横幅方向において、前記動力伝達部に対して前記可動部材の横幅方向の中心位置とは反対側位置で前記可動部材を上方に付勢する第2の付勢部材を備えていることを特徴とする請求項1に記載の便座昇降装置。
【請求項3】
前記ガイド機構は、前記可動部材の横幅方向で離間する位置で起立して当該可動部材を支持する第1のガイド軸および第2のガイド軸を備え、
前記第1のガイド軸は、前記第1の付勢部材より前記動力伝達部に近い位置に配置され、前記第2のガイド軸は、前記動力伝達部より前記第1の付勢部材に近い位置に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の便座昇降装置。
【請求項4】
洋式の便器本体に固定される固定部と、便座ユニットが取り付けられる可動部材と、該可動部材を上下方向に案内するガイド機構とを備えた便座昇降装置を有する洋式トイレにおいて、
前記便座昇降装置は、前記可動部材を電動により昇降させる電動駆動装置と、前記可動部材の横幅方向において、前記便座ユニットを取り付けた状態における当該可動部材の横幅方向の重心位置に対して前記電動駆動装置から前記可動部材への動力伝達部とは反対側位置で前記可動部材を上方に付勢する第1の付勢部材とを備えていることを特徴とする洋式トイレ。
【請求項5】
前記便座昇降装置は、前記可動部材の横幅方向において、前記動力伝達部に対して、前記便座ユニットを取り付けた状態における当該可動部材の横幅方向の重心位置とは反対側位置で前記可動部材を上方に付勢する第2の付勢部材を備えていることを特徴とする請求項4に記載の洋式トイレ。
【請求項6】
前記動力伝達部および前記付勢部材は、各々前記便座ユニットの横幅方向の範囲内に配置されていることを特徴とする請求項4または5に記載の洋式トイレ。
【請求項7】
前記ガイド機構は、前記可動部材の横幅方向で離間する位置で起立して当該可動部材を支持する第1のガイド軸および第2のガイド軸を備え、
前記第1のガイド軸は、前記第1の付勢部材より前記動力伝達部に近い位置に配置され、前記第2のガイド軸は、前記動力伝達部より前記第1の付勢部材に近い位置に配置されていることを特徴とする請求項4乃至6の何れか一項に記載の洋式トイレ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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