説明

係合機構の制御装置

【課題】カム機構を持つ係合機構が非係合状態の際に誤係合されることを防止できる係合機構の制御装置を提供する。
【解決手段】係合機構30が非係合状態の場合に第2カム部材36が摩擦部42に接触することによって発生する誤係合を第1カム部材35に入力される各加速度又は軸線Axの方向の角加速度に基づいて予測する。誤係合の発生を予測した場合には電磁コイル43に通電する電流の方向を逆にして電磁コイル43と永久磁石44との間に斥力を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カム機構を利用した係合機構に適用される制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関及び電動機を備えた駆動装置の動力伝達経路に設けられ、係合状態と非係合状態との間で切り替えることにより電動機のロック及びその解除を行う係合機構が知られている(特許文献1)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2及び3が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−52517号公報
【特許文献2】特開2005−264953号公報
【特許文献3】特開2007−153003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の係合機構は、軸線方向の間隔が相対回転により広がるように互いに組み合わされた一対のカム部材を有するカム機構を備え、一対のカム部材の相対回転が制限された非係合状態から、一方のカム部材を電磁力によって軸線方向に引き寄せつつ相対回転を許容して他部材に係合させる係合状態へ切り替えるものである。この係合機構は、非係合状態を維持するために、一対のカム部材が互いに接近する方向にリターンスプリングにて付勢されて相対回転が制限されている。しかし、非係合状態において一対のカム部材の間隔を広げようとする外力と相関する物理量、例えば軸線回りの角加速度や軸線方向の加速度が一対のカム部材に入力した場合、その大きさがリターンスプリングの弾性力に打ち勝つほど大きければ意図せずに非係合状態から係合状態へ移行して誤係合されるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、カム機構を持つ係合機構が非係合状態の際に誤係合されることを防止できる係合機構の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の係合機構の制御装置は、共通の軸線の回りに相対回転可能に組み合わされ、その相対回転に伴って前記軸線方向に関する間隔が拡大するように構成された一対のカム部材と、前記間隔が狭まる方向に前記一対のカム部材を付勢することにより前記一対のカム部材が所定の係合対象と離れている非係合状態に維持するための付勢部材と、前記非係合状態から、前記一対のカム部材の少なくとも一方が前記係合対象に押し付けられた係合状態へ移行するように電磁力を利用して前記一対のカム部材の前記間隔を前記付勢部材の付勢力に抗して拡大させる電磁力発生手段と、前記一対のカム部材の少なくとも一方に設けられ、前記電磁力発生手段が前記非係合状態から前記係合状態へ移行させるべく電磁力を発生させた場合に前記間隔が拡大する方向に前記一対のカム部材を付勢する永久磁石と、を備えた係合機構に適用され、前記非係合状態の際に前記一対のカム部材の前記間隔が拡大することを原因とした誤係合の発生を予測する誤係合予測手段と、前記誤係合予測手段が誤係合の発生を予測した場合に、前記非係合状態から前記係合状態へ移行させる際に発生する電磁力と極性が反対向きの電磁力が発生するように前記電磁力発生手段を制御する誤係合防止制御手段と、を備えるものである(請求項1)。
【0007】
この制御装置によれば、非係合状態での誤係合が予測された場合は、非係合状態から係合状態へ移行させる際に発生させる電磁力と極性が反対の電磁力が電磁力発生手段から発生するので、永久磁石と電磁力発生手段との間に存在する極性の関係が逆転し、非係合状態に維持する力、即ち一対のカム部材の間隔を狭める方向の力が発生する。これにより、一対のカム部材の間隔が広がることが抑えられるので、非係合状態での誤係合を防止することができる。また、付勢部材の付勢力を高めることによって誤係合を防止する場合に比べて、付勢部材が発生する付勢力を高めずに誤係合を防止できる利点があるので付勢部材の軽量化や小型化等の簡素化に貢献できる。更に、付勢部材の簡素化により付勢力が低減され、しかも非係合状態から係合状態へ移行させる際に永久磁石の付勢力を利用できるので、非係合状態から係合状態へ移行させる際に必要な電磁力を低減できる。従って、電磁力発生手段の消費電力の低減及びその簡素化にも貢献し得る。なお、永久磁石と電磁力発生手段との間に引力を生じさせて非係合状態から係合状態へ移行させる係合機構の場合には、誤係合の発生が予測されると永久磁石と電磁力発生手段との間に斥力が生じて非係合状態に維持されることになる。反対に、永久磁石と電磁力発生手段との間に斥力を生じさせて非係合状態から係合状態へ移行させる係合機構の場合、誤係合の発生が予測されると永久磁石と電磁力発生手段との間に引力が生じて非係合状態に維持されることになる。
【0008】
誤係合の発生は、一対のカム部材の間隔を広げようとする外力と相関する物理量に基づいて予測することができる。例えば、発明の制御装置の一態様においては、前記一対のカム部材に入力される前記軸線の回りの角加速度を検出する角加速度検出手段を更に備え、前記誤係合予測手段は、前記角加速度検出手段の検出結果に基づいて誤係合の発生を予測してもよい(請求項2)。この態様によれば、角加速度検出手段が検出する角加速度の大きさに閾値を設け、その閾値を超える場合を誤係合が発生する場合として扱うことにより、誤係合の発生を予測することができる。また、本発明の制御装置の一態様において、前記一対のカム部材に入力される前記軸線方向の加速度を検出する加速度検出手段を更に備え、前記誤係合予測手段は、前記加速度検出手段の検出結果に基づいて誤係合の発生を予測してもよい(請求項3)。この態様も上記態様と同様に、加速度検出手段が検出する加速度の大きさに閾値を設け、その閾値を超える場合を誤係合が発生する場合として扱うことにより、誤係合の発生を予測することができる。
【0009】
また、誤係合の発生は、一対のカム部材の間隔を広げようとする外力が入力される原因となる事象の発生に基づいて予測することも可能である。例えば、本発明の制御装置の一態様において、前記誤係合予測手段は、前記軸線の回りの角加速度又は前記軸線方向の加速度が所定レベルを超えて前記一対のカム部材に入力される原因となり得る所定の事象が起こった場合に、誤係合の発生を予測してもよい(請求項4)。この態様によれば、所定の事象の発生に基づいて誤係合の発生を予測できるので、一対のカム部材に入力される角加速度や加速度を検出する検出手段を用いる必要がない。所定の事象としては係合機構が使用される環境に応じて適宜に設定できる。例えば、係合機構が内燃機関及び電動機を有する車両の駆動装置の動力伝達経路内に組み込まれて使用される場合には、軸線の回りの角加速度の変動を生じさせる内燃機関の始動時や停止時を所定の事象として設定できる。また、軸線方向の加速度を変動させる車両の急ブレーキ時や急旋回時等の急操作時を所定の事象として設定することもできる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明の制御装置によれば、非係合状態での誤係合が予測された場合は、永久磁石と電磁力発生手段との間に存在する極性の関係が逆転して、非係合状態に維持する力が発生するため、一対のカム部材の間隔が広がることが抑えられる。これにより、非係合状態での誤係合を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一形態に係る係合機構及びその制御装置を含む駆動装置が組み込まれた車両の全体構成を概略的に示した図。
【図2】図1の係合機構の詳細を示した図。
【図3】第1カム部材を軸線方向から見た状態を示した図。
【図4】各カム部材を半径方向から見た状態を示した図であって、各カム部材の位相が一致している状態を示した図。
【図5】各カム部材を半径方向から見た状態を示した図であって、各カム部材が相対回転してこれらの位相がずれている状態を示した図。
【図6】第1の形態に係る誤係合防止制御の制御ルーチンの一例を示したフローチャート。
【図7】第2の形態に係る誤係合防止制御の制御ルーチンの一例を示したフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の形態)
図1は本発明の一形態に係る係合機構及びその制御装置を含む駆動装置が組み込まれた車両の全体構成を概略的に示している。車両1はいわゆるハイブリッド車両として構成されている。周知のようにハイブリッド車両は、内燃機関を走行用の駆動力源として備えるとともに、電動機を他の走行用の駆動力源として備えた車両である。車両1は、駆動輪と内燃機関とが車両前部に位置するFFレイアウトの車両として構成されている。
【0013】
駆動装置2は、内燃機関3と、第1モータ・ジェネレータ4と、内燃機関3及び第1モータ・ジェネレータ4がそれぞれ連結された動力分割機構5と、車両1の駆動輪10に動力を出力するための出力ギア6とを備えている。また、駆動装置2には減速機構7を介して出力ギア6に連結された第2モータ・ジェネレータ8が設けられている。出力ギア6の動力は中間ギア9及び差動装置11を介して左右の駆動輪10に伝達される。
【0014】
内燃機関3は、火花点火型の多気筒内燃機関として構成されており、その動力は軸線Axの方向(以下、軸線方向という。)に延びる入力軸15を介して動力分割機構5に伝達される。入力軸15と内燃機関3との間には不図示のダンパが介在しており、そのダンパにて内燃機関3のトルク変動が吸収される。第1モータ・ジェネレータ4と第2モータ・ジェネレータ8とは同様の構成を持っていて、電動機としての機能と発電機としての機能とを兼ね備えている。第1モータ・ジェネレータ4は、固定部材であるケース17に固定されたステータ4aと、そのステータ4aの内周側に同軸に配置されたロータ4bとを備えている。第2モータ・ジェネレータ8も同様に、ケース17に固定されたステータ8aと、そのステータ8aの内周側に同軸に配置されたロータ8bとを備えている。
【0015】
動力分割機構5は、相互に差動回転可能な3つの回転要素を持つシングルピニオン型の遊星歯車機構として構成されており、外歯歯車であるサンギアSu1と、そのサンギアSu1に対して同軸的に配置された内歯歯車であるリングギアRi1と、これらのギアSu1、Ri1に噛み合うピニオン20を自転かつ公転自在に保持するキャリアCr1とを備えている。この形態では、入力軸15がキャリアCr1に、第1モータ・ジェネレータ4が連結部材21を介してサンギアSu1に、出力ギア6がリングギアRi1にそれぞれ連結されている。
【0016】
減速機構7は、第2モータ・ジェネレータ8の回転を減速して出力ギア6に伝達するための機構であり、相互に差動回転可能な3つの要素を持つシングルピニオン型の遊星歯車機構として構成されている。減速機構7は外歯歯車であるサンギアSu2と、そのサンギアSu2に対して同軸的に配置された内歯歯車であるリングギアRi2と、これらのギアSu2、Ri2に噛み合うピニオン25を自転かつ公転自在に保持するキャリアCr2とを備えている。本形態では、サンギアSu2が第2モータ・ジェネレータ8に、リングギアRi2が出力ギア6にそれぞれ連結されており、キャリアCr2はケース17に固定されている。これにより、第2モータ・ジェネレータ8の回転が減速されて出力ギア6に伝達されるとともに、第2モータ・ジェネレータ8の動力が増幅されて出力ギア6に伝達される。
【0017】
駆動装置2には、駆動モードを変更する係合機構30が設けられている。この係合機構30を操作することにより、第1モータ・ジェネレータ4を使用した電気的な無段変速を実現する無段変速比モードと、第1モータ・ジェネレータ4を使用せずに動力分割機構5の持つ変速比にて変速する固定変速比モードとを選択的に実行できる。係合機構30は、第1モータ・ジェネレータ4(サンギアSu1)と一体回転可能な連結部材21に接続された機構部31と、その機構部31とケース17との間に介在するようにしてケース17に固定された駆動部32とを備えている。係合機構30は非係合状態と係合状態との間で切り替えることができる。係合機構30の切り替えによって連結部材21をケース17に対して停止(固定)させて第1モータ・ジェネレータ4をロックする状態と、そのロックを解放する状態とを切り替えることができる。
【0018】
図2は係合機構30の詳細を示した図である。この図には非係合状態の係合機構30が示されている。機構部31は、互いに相対回転可能な状態で同軸に組み合わされた第1カム部材35及び第2カム部材36を有している。これら一対のカム部材35、36の間には球状の介在部材37が介在している。各カム部材35、36は円板状に構成されていて、各カム部材35、36の対向面には介在部材37を保持するV字溝38、39が形成されている。第1カム部材35は連結部材21と一体回転するように連結部材21の外周にスプライン結合されるとともに、連結部材21の外周に装着されたスナップリング33にて軸線方向の移動が規制されている。
【0019】
図3は第1カム部材35を軸線方向から見た状態を示しており、図4及び図5は各カム部材35、36を半径方向から見た状態を示している。図4は各カム部材35、36の位相が一致している状態を、図5は各カム部材35、36が相対回転してこれらの位相がずれている状態をそれぞれ示している。図3から明らかなように、第1カム部材35に設けられたV字溝38は、周方向に等間隔に複数個並べられている。第2カム部材36に形成された他方のV字溝39は、第1カム部材35のV字溝38と対向するようにして周方向に等間隔に複数個並べられている。各V字溝38、39は、第1カム部材35の中心線を含む断面で切断した場合には断面半円形をなしている(図2参照)。また、図3に示すように、第1カム部材35を軸線方向から見ると、各V字溝38、39は、第1カム部材35の中心寄りの内側縁部と中心から離れた外側縁部とが同心の円弧をなすように湾曲している。更に、図4及び図5に示すように、各カム部材35、36を半径方向から見ると、各V字溝38、39はV字状に形成されていて、回転方向(図の上又は下方向)に関して深さが徐々に浅くなっている。
【0020】
図2に示すように、係合機構30が非係合状態の場合、機構部31の第2カム部材36と駆動部32との間には所定の隙間Gが形成されている。第2カム部材36と駆動部32との間には、駆動部32から離れる方向に、換言すれば一対のカム部材35、36の間隔Xを狭める方向に第2カム部材36を付勢する付勢部材としてのリターンスプリング40が設けられている。そのため、非係合状態においては、第1カム部材35と第2カム部材36とが供回りしてこれらの相対回転が抑えられている。リターンスプリング40は一端が第2カム部材36に突き当てられるとともに他端が連結部材21に固定されたスナップリング41に突き当てられるようにして軸線方向への移動が規制された状態で連結部材21の外周に装着されている。
【0021】
駆動部32には第2カム部材36と接触し得る摩擦部42と、摩擦部42に組み込まれた電磁力発生手段としての電磁コイル43とが設けられている。摩擦部42はケース17に対して固定されている。また、第2カム部材36には電磁コイル43と対向するようにして永久磁石44が設けられている。この永久磁石44は非係合状態から係合状態へ移行させるべく電磁コイル43が電磁力を発生させた場合に間隔Xが広がる方向に第2カム部材36を付勢する。つまり、非係合状態から係合状態への移行時においては、電磁コイル43と永久磁石44との間に引力が生じる。これにより、第2カム部材36はリターンスプリング40の弾性力(付勢力)に抗して駆動部32側に引き寄せられて軸線方向に移動する。そして、第2カム部材36が摩擦部42に接触した場合には、第2カム部材36と摩擦部42との間に摩擦力が生じるとともに、図5に示すように、第1カム部材35に負荷されたトルクTによって、各カム部材35、36が相対回転することで位相がずれて、介在部材37がV字溝38、39内の浅い位置に移動して、第2カム部材36を摩擦部42に押し付ける力Fが発生する。これにより、第2カム部材36が摩擦部42に押し付けられて固定された状態となるので、第1カム部材35はトルクTの方向に回転不能となって固定される。こうして、係合機構30は非係合状態から係合状態へ切り替えられる。
【0022】
上述したように、非係合状態においては、カム部材35、36間の相対回転は原則としてリターンスプリング40にて抑制されている。しかし、一対のカム部材35、36の間隔Xを拡大させようとする外力がこれらカム部材35、36の少なくともいずれか一方に入力され、その外力が許容範囲を超えて大きい場合はカム部材35、36間に相対回転が生じて又は相対回転が生じずに第2カム部材36がリターンスプリング40の弾性力に逆らって軸線方向に移動して意図しない誤係合が発生する。そこで、図1に示したように、駆動装置2には、こうした誤係合を防止するための誤係合防止制御を係合機構30に対して行うことができる制御装置45が設けられている。制御装置45は駆動装置2の各部を制御するコンピュータとして構成されており、誤係合防止制御の他にも、内燃機関3の出力制御、係合機構30の操作による駆動モードの切り替え制御、車両走行時の各モータ・ジェネレータ4、8の出力制御等の種々の制御を実行できる。
【0023】
制御装置45にはこれらの制御を行うため車両1の運転状態を取得する各種のセンサが接続されている。例えば、各モータ・ジェネレータ4、8の回転速度を検出する2つのレゾルバ46、47、車両1の車速に応じた信号を出力する車速センサ48及び図1の左右方向に相当する車両1の車幅方向(軸線方向)の加速度に応じた信号を検出する加速度センサ49等が制御装置45に対して電気的に接続されている。なお、以下においては、本発明に関連する制御を主に説明し、その他の制御については説明を省略する。
【0024】
図6は、制御装置45が行う誤係合防止制御の制御ルーチンの一例を示したフローチャートである。このルーチンのプログラムは制御装置45に設けられた不図示の記憶装置に保持されており適時に読み出されて所定間隔で繰り返し実行される。まず、ステップS1では係合機構30が非係合状態か否かを判定する。非係合状態である場合はステップS2に進み、そうでない場合は以後の処理をスキップして今回のルーチンを終える。
【0025】
ステップS2及びステップS3は、上述した誤係合の発生を予測するための予測処理である。ステップS2では第1カム部材35に入力される角加速度が閾値を超えたか否かを判定する。本形態では角加速度検出手段としてのレゾルバ46によって第1カム部材35(連結部材21)の角加速度を検出し、その検出された角加速度を閾値と比較する。この閾値は第1カム部材35と第2カム部材36との間に非係合状態で相対回転が生じる限界の角加速度として設定されている。ステップS3では軸線方向の加速度が閾値を超えたか否かを判定する。本形態では加速度検出手段としての加速度センサ49によって軸線方向の加速度を検出し、その検出された加速度を閾値と比較する。この閾値は第1カム部材35と第2カム部材36との間隔Xが非係合状態で拡大する限界の加速度として設定されている。
【0026】
ステップS2又はステップS3のいずれかで肯定判定された場合は誤係合の発生が予測されるので、ステップS4に進んで係合機構30の駆動部32を操作する。この操作では、非係合状態から係合状態へ移行させる際に発生する電磁力と極性が反対向きの電磁力が電磁コイル43から発生するように、非係合状態から係合状態への移行時に電磁コイル43に通電する電流と逆方向の電流を電磁コイル43に通電する。これにより、電磁コイル43と永久磁石44との間に存在する極性の関係が逆転してこれらの間に斥力が発生し、この斥力が第1カム部材35と第2カム部材36との間隔Xを狭める方向に働く。従って、誤係合の発生が予測される場合に、カム部材35、36の間隔Xを広げようとする外力に対抗できるので誤係合の発生を防止することができる。ステップS4で電磁コイル43に通電する電流は一定であってもよいが、入力される角加速度又は加速度の大きさが大きいほど大きくなるように電流値を変化させてもよい。このように電流値を変化させた場合は、誤係合の防止に要する電流値が過剰にならないため、電流を一定にする場合に比べて消費電力を低減できる利点がある。
【0027】
本形態によれば、リターンスプリング40の弾性力を高めずに誤係合を防止できるので、リターンスプリング40の性能を下げることが可能である。つまり、リターンスプリング40として軽量で小さな簡素なものを用いることができる。リターンスプリング40として簡素なものを使用できるため、非係合状態から係合状態へ移行させるために必要な電磁力を低減できる。従って電磁コイル43の消費電力の低減及びその簡素化にも貢献できる。
【0028】
制御装置45は、図6のステップS2又はステップS3の少なくともいずれか一方を実行することにより、本発明に係る誤係合予測手段として、図6のステップS4を実行することにより本発明に係る誤係合防止制御手段としてそれぞれ機能する。なお、図6の制御ルーチンは、ステップS2又はステップS3のいずれか一方のみを行う制御に変更して実施することも可能である。
【0029】
(第2の形態)
次に、図7を参照して本発明の第2の形態を説明する。第2の形態は誤係合防止制御の制御内容を除いて第1の形態と共通である。従って、以下では第1の形態と共通の構成についての説明を省略する。第2の形態の物理的構成に関しては図1〜図5が適宜参照される。図7は、制御装置45が行う誤係合防止制御の制御ルーチンの一例を示したフローチャートである。このルーチンのプログラムは制御装置45に設けられた不図示の記憶装置に保持されており適時に読み出されて所定間隔で繰り返し実行される。
【0030】
まず、ステップS21では係合機構30が非係合状態か否かを判定する。非係合状態である場合はステップS22に進み、そうでない場合は以後の処理をスキップして今回のルーチンを終える。ステップS22〜ステップS24は、誤係合の発生を予測するための予測処理である。
【0031】
ステップS22は、内燃機関3の運転制御に利用され、その始動要求に応じてON/OFFされる機関始動フラグがONされているか否かを判定する。内燃機関3の始動時には駆動装置2の動力伝達経路にトルク変動が生じることにより誤係合を招くような所定レベルを超えた角加速度が第1カム部材35に入力される原因となり得るためである。同様の趣旨で、ステップS23は内燃機関3の運転制御に利用され、その停止要求に応じてON/OFFされる機関停止フラグがONされているか否かを判定する。従って、ステップS22又はステップS23によって内燃機関の始動時又は停止時を検出することで誤係合の発生を予測できる。
【0032】
ステップS24は車両1に対する急操作、例えば不図示のブレーキペダルが急に踏み込まれる急ブレーキ操作、不図示のステアリングホイールが急に操作される急旋回操作の有無を判定する。車両1に対して急操作が行われた場合、車両1の挙動の変化によって誤係合を招くような所定レベルを超えた軸線方向の加速度が入力される原因となり得るためである。従って、ステップS24で急操作を検出することにより誤係合の発生を予測できる。こうした急操作の検出は、車両1に搭載されたアンチロックブレーキシステムやスキッドコントロールシステム等の周知のシステムで利用する不図示のセンサに基づいて行うことができる。このように、ステップS22〜ステップS24の各処理を行うことで誤係合の発生を予測できるので、内燃機関3の始動及び停止並びに車両1に対する急操作が本発明に係る所定の事象に相当する。
【0033】
ステップS22〜ステップS24のいずれかで肯定判定された場合は誤係合の発生が予測されるため、ステップS25に進んで係合機構30の駆動部32を操作する。ステップS25における操作は図6のステップS4の操作と同じであり、この操作によって誤係合の発生を防止することができる。図7の制御ルーチンによれば、誤係合の発生を予測するために第1カム部材35に入力される角加速度や加速度を検出する検出手段が不要であるから部品点数を削減できる。制御装置45は、図7のステップS22〜ステップS24の少なくともいずれか一つを実行することにより、本発明に係る誤係合予測手段として、図7のステップS25を実行することにより本発明に係る誤係合防止制御手段としてそれぞれ機能する。なお、図7の制御ルーチンは、ステップS22〜ステップS24のいずれか一つのみ又はこれらを任意に組み合わせて行う制御に変更して実施することもできる。また、図7の制御ルーチンの実行とともに図6の制御ルーチンを実行することも可能である。
【0034】
本発明は上記各形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内において種々の形態にて実施できる。上記各形態は本発明に係る係合機構を第1モータ・ジェネレータ4のロックを行う機構として実施しているが、係合機構の適用対象には格別の制限はない。従って、各種の駆動装置に本発明に係る係合機構を組み込んで、その係合機構に対して誤係合防止制御を行うことも可能である。
【0035】
上記各形態は非係合状態から係合状態へ移行させる際に、電磁コイル43と永久磁石44との間に引力を生じさせるものであるが、本発明は非係合状態から係合状態へ移行させる際に斥力を発生させる係合機構に適用することも可能である。このような係合機構に本発明を適用した際には、誤係合の発生が予測される場合に上記各形態とは反対に電磁力発生手段と永久磁石との間に引力を発生させることにより非係合状態を維持して誤係合の発生を防止することが可能になる。
【0036】
誤係合の発生を予測する方法は上記各形態で説明した方法に限定されない。例えば、第1カム部材35と第2カム部材36との間隔Xの変化、換言すれば第2カム部材36の軸線方向の変位を検出し、その変位に基づいて誤係合の発生を予測することも可能である。
【符号の説明】
【0037】
30 係合機構
35 第1カム部材
36 第2カム部材
40 リターンスプリング(付勢部材)
43 電磁コイル(電磁力発生手段)
44 永久磁石
45 制御装置(誤係合予測手段、誤係合防止制御手段)
46 レゾルバ(角加速度検出手段)
49 加速度センサ(加速度検出手段)
Ax 軸線
X 間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の軸線の回りに相対回転可能に組み合わされ、その相対回転に伴って前記軸線方向に関する間隔が拡大するように構成された一対のカム部材と、
前記間隔が狭まる方向に前記一対のカム部材を付勢することにより前記一対のカム部材が所定の係合対象と離れている非係合状態に維持するための付勢部材と、
前記非係合状態から、前記一対のカム部材の少なくとも一方が前記係合対象に押し付けられた係合状態へ移行するように電磁力を利用して前記一対のカム部材の前記間隔を前記付勢部材の付勢力に抗して拡大させる電磁力発生手段と、
前記一対のカム部材の少なくとも一方に設けられ、前記電磁力発生手段が前記非係合状態から前記係合状態へ移行させるべく電磁力を発生させた場合に前記間隔が拡大する方向に前記一対のカム部材を付勢する永久磁石と、を備えた係合機構に適用され、
前記非係合状態の際に前記一対のカム部材の前記間隔が拡大することを原因とした誤係合の発生を予測する誤係合予測手段と、
前記誤係合予測手段が誤係合の発生を予測した場合に、前記非係合状態から前記係合状態へ移行させる際に発生する電磁力と極性が反対向きの電磁力が発生するように前記電磁力発生手段を制御する誤係合防止制御手段と、を備える係合機構の制御装置。
【請求項2】
前記一対のカム部材に入力される前記軸線の回りの角加速度を検出する角加速度検出手段を更に備え、
前記誤係合予測手段は、前記角加速度検出手段の検出結果に基づいて誤係合の発生を予測する請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記一対のカム部材に入力される前記軸線方向の加速度を検出する加速度検出手段を更に備え、
前記誤係合予測手段は、前記加速度検出手段の検出結果に基づいて誤係合の発生を予測する請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記誤係合予測手段は、前記軸線の回りの角加速度又は前記軸線方向の加速度が許容限度を超えて前記一対のカム部材に入力される原因として想定された所定の事象が起こった場合に、誤係合の発生を予測する請求項1に記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−82887(P2012−82887A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228387(P2010−228387)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)