説明

保存安定性に優れた核酸増幅検出試薬キット

【課題】臨床診断における遺伝子検査に使用する核酸増幅検出試薬の性能を維持するための試薬を提供する。
【解決手段】PCRによる核酸増幅検出反応に用いる核酸増幅検出試薬を、2以上の液状組成物で構成し、(a)少なくとも蛍光標識プローブ、マグネシウムイオンおよび緩衝剤を含み、pHが6.5以上8.5未満である試薬組成物、と、(b)少なくともDNAポリメラーゼおよび緩衝剤を含む試薬組成物とを、別の液状組成物中に配合することにより、保存安定性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCRによる核酸増幅検出反応において使用される試薬の性能を維持する方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
PCRによる核酸増幅検出反応は、多くの異なる試薬を必要とする。主な試薬には、核酸増幅酵素、例えば、DNAポリメラーゼ、ヌクレオシド三リン酸、標的核酸に対して相補的であるオリゴヌクレオチドプライマー、マグネシウムイオン及び他の緩衝液が含まれる。さらに増幅産物を検出するための色素標識されたオリゴヌクレオチドプローブ、DNA結合色素、例えば、SYBR GreenI(商標登録)も核酸増幅検出反応に必要な試薬である。
これらの試薬の中には周囲温度、圧力及び湿度条件によっては安定でないものがある。そこで従来は、不安定な試薬については予め別々の容器に入れて−20℃以下で保存しておき、核酸増幅検出反応を行う際に、従事者が保存されている各試薬を取り出して、最適な方法にて慎重に反応液を調製していた。このような反応液の調製は、遺伝子工学や分子生物学が専門の研究者にとっては、とりわけ特別な操作ではなかった。
【0003】
ところが、最近の核酸増幅検出技術の進歩によって、遺伝子検査は従来の検査法よりも感度が高いことを理由に、感染症など様々な分野に応用されるようになってきた。これらの分野においては、たとえば、病院の検査技師が臨床診断に利用する時など、試薬を扱うのは必ずしも遺伝子に取り扱いに慣れた専門家ではなく、また、高度な専門知識を有する者でもないことが多い。
このような場合、複雑な操作なく取り扱える、自動化装置で分注しやすい等、簡便な取り扱いが可能な試薬形態が望まれる。さらに、一般に検査に用いる試薬の場合、凍結保存されている試薬を解凍して使用するよりも液状で保存されている試薬の方が、解凍の手間や時間が省けるため好まれる。
【0004】
このような要望を満たす試薬を供給するために、まず考えられることは、核酸増幅検出反応に必要な試薬を全て混合することによって使用しやすくすることだが、液状の試薬を常温で保存した場合は極端に試薬の性能が低下することが知られている。また、−20℃の凍結保存であってもDNAポリメラーゼの反応開始基質であるオリゴヌクレオチドプライマーを含めると非特異反応の増加によって試薬の性能が低下することがあった。
【0005】
リアルタイムPCRを行うための増幅検出試薬として用いられている方法の一つにTaqMan(登録商標)法がある。TaqMan(登録商標)プローブは、供与体および受容体分子で標識されたDNAオリゴヌクレオチドからなる。このプローブは、PCR増幅産物の一方の鎖の特異的領域に結合するよう設計される。PCRプライマーがこの鎖にアニールした後、Taq酵素が5’から3’へのDNAポリメラーゼ活性によりDNAを伸長する。TaqMan(登録商標)プローブは、Taq伸長の開始を防ぐために、3’末端がリン酸化で保護されている。TaqMan(登録商標)プローブが標的核酸にハイブリダイゼーションすると、伸長するTaqDNAポリメラーゼがプローブを5‘から加水分解し、検出の基本として受容体から供与体を遊離する。この場合のシグナルは累積的であり、遊離の供与体と受容体分子の濃度は増幅反応の各サイクルで上昇する(非特許文献1)。
【0006】
リアルタイムPCRを行うための増幅検出試薬として用いられている別の方法として、特許文献1には3’末端にC(シトシン)を有し、C(シトシン)とG(グアニン)とが水素結合したときに蛍光が消える蛍光色素で標識したプライマーを用いてPCRを行なうQ−Probe法が開示されている。これにより、当該蛍光の変化を確認することで、PCRの結果を簡便に確認することができるとされている。
通常、蛍光色素の劣化は起こりうるものと考え、標準物質などを追加して検出し、得られた蛍光値を基準として補正する方法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−286300号
【非特許文献】
【0008】

【非特許文献1】Proc.Natl.Acad.Sci.USA Vol.88,pp.7276−7280,August,1991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
TaqMan法やQ−Probe法は蛍光標識されたプローブを用いて核酸を検出するための技術であり、DNAポリメラーゼが働き核酸を増幅すると同時に検出できるホモジニアス検出の技術である。どちらも蛍光を検出することから蛍光プローブの発する蛍光量の維持は非常に重要な課題である。また、増幅と検出を同時に行うことから反応液を構成する試薬成分も多く、保存安定性の良好な反応液の調製は容易ではなかった。従来の試薬の保存安定化方法では蛍光プローブを含めた試薬の保存安定化方法についての報告はなされていなかった。
【0010】
さらに、ホモジニアス検出においては、標的となる核酸を増幅する酵素の活性の維持も重要な課題となる。蛍光プローブの蛍光をできるだけ保持したまま、酵素を安定させて、簡便に使用できる状態で保存させるための有用な方法はこれまで報告されてなかった。
【0011】
本発明の目的は、臨床診断における遺伝子検査に使用する核酸増幅検出試薬の性能を維持するための試薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、核酸増幅検出反応に必要な試薬を2つの容器に分け、主要成分を最適に組み合わせることによって、蛍光標識プローブを安定して保存する方法を見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
【0013】
[項1]
以下の(1)〜(2)の特徴を有する、PCRによる核酸増幅検出反応に用いる核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
(1)該試薬が2以上の液状組成物から構成され、該試薬を使用する際に、当該2以上の液状組成物をすべて混合することにより反応液が調製される。
(2)該試薬には、DNAポリメラーゼと、蛍光標識プローブとが、別な液状組成物中に配合されている。
[項2]
蛍光標識プローブを含む試薬組成物に、マグネシウムイオンを含む、項1に記載の核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
[項3]
マグネシウムイオン濃度が2mM〜40mMである、項2に記載の核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
[項4]
蛍光標識プローブの蛍光色素が、フルオレセインまたはその誘導体、TAMRA、Cy3、Cy5、Cy5.5、ローダミンまたはその誘導体、ROX、Hex、JOE、BODIPY類、Alexa類、BHQ類からなる群より選ばれるいずれかである、項1〜3のいずれかに記載の核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
[項5]
蛍光標識プローブが、標的核酸へのハイブリダイゼーションによって消光する蛍光色素によって標識されている、項1〜4のいずれかに記載の核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
[項6]
DNAポリメラーゼが、KOD DNAポリメラーゼ(Thermococcus kodakaraensis KOD1由来)またはその変異体である、項1〜5のいずれかに記載の核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
[項7]
蛍光標識プローブを含む試薬組成物に、さらにオリゴヌクレオチドプライマーを含む、項1〜6のいずれかに記載の核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
[項8]
以下の(1)〜(2)の特徴を有する、PCRによる核酸増幅検出反応に用いるキット。
(1)該キットが2以上の液状組成物から構成され、該キットを使用する際に、当該2以上の液状組成物をすべて混合することにより反応液が調製される。
(2)該キットには、(a)少なくとも蛍光標識プローブ、マグネシウムイオンおよび緩衝剤を含み、pHが6.5以上8.5未満である試薬組成物、と、(b)少なくともDNAポリメラーゼおよび緩衝剤を含む試薬組成物とが、別な液状組成物中に配合されている。
[項9]
(a)におけるマグネシウムイオン濃度が2mM〜40mMである、項8に記載の核酸増幅検出試薬キット。
[項10]
蛍光標識プローブの蛍光色素が、フルオレセインまたはその誘導体、TAMRA、Cy3、Cy5、Cy5.5、ローダミンまたはその誘導体、ROX、Hex、JOE、BODIPY類、Alexa類、BHQ類からなる群より選ばれるいずれかである、項8または9に記載の核酸増幅検出試薬キット。
[項11]
蛍光標識プローブが、標的核酸へのハイブリダイゼーションによって消光する蛍光色素によって標識されている、項8〜10のいずれかに記載の核酸増幅検出試薬キット。
[項12]
DNAポリメラーゼが、KOD DNAポリメラーゼ(Thermococcus kodakaraensis KOD1由来)またはその変異体である、項8〜11のいずれかに記載の核酸増幅検出試薬キット。
[項13]
試薬組成物(a)に、オリゴヌクレオチドプライマーを含む、項8〜12のいずれかに記載の核酸増幅検出試薬キット。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、臨床診断において核酸増幅検出反応が簡便、迅速に行うことができる。具体的には、凍結せずに保存するため凍結融解を繰り返すことなく増幅検出反応液の調製が可能であり、かつ試薬性能を長期間保持することのできる試薬を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】温度変化における消光プローブの蛍光変化解析結果を示す図である。
【図2】温度変化における消光プローブの蛍光変化量を表す検出ピークを示す図である。
【図3】Aの試薬形態で、35℃で保存した時の解離蛍光値、測定値の推移を示す図である。
【図4】Bの試薬形態で、35℃で保存した時の解離蛍光値、測定値の推移を示す図である。
【図5】Cの試薬形態で、35℃で保存した時の解離蛍光値、測定値の推移を示す図である。
【図6】Dの試薬形態で、35℃で保存した時の解離蛍光値、測定値の推移を示す図である。
【図7】Eの試薬形態で、35℃で保存した時の解離蛍光値、測定値の推移を示す図である。
【図8】Fの試薬形態で、35℃で保存した時の解離蛍光値、測定値の推移を示す図である。
【図9】Gの試薬形態で、35℃で保存した時の解離蛍光値、測定値の推移を示す図である。
【図10】Hの試薬形態で、35℃で保存した時の解離蛍光値、測定値の推移を示す図である。
【図11】Cの試薬形態で、8℃で保存した時の解離蛍光値、測定値の推移を示す図である。
【図12】Hの試薬形態で、8℃で保存した時の解離蛍光値、測定値の推移を示す図である。
【図13】pH6.5、35℃で保存した時の蛍光標識プローブの蛍光値の推移を示す図である。
【図14】pH7.0、35℃で保存した時の蛍光標識プローブの蛍光値の推移を示す図である。
【図15】pH7.5、35℃で保存した時の蛍光標識プローブの蛍光値の推移を示す図である。
【図16】pH8.0、35℃で保存した時の蛍光標識プローブの蛍光値の推移を示す図である。
【図17】pH8.5、35℃で保存した時の蛍光標識プローブの蛍光値の推移を示す図である。
【図18】pH9.0、35℃で保存した時の蛍光標識プローブの蛍光値の推移を示す図である。
【図19】pH9.5、35℃で保存した時の蛍光標識プローブの蛍光値の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法
本発明の実施形態の一つは、以下の(1)〜(2)の特徴を有する、PCRによる核酸増幅検出反応に用いる核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法である。
(1)該試薬が2以上の液状組成物から構成され、該試薬を使用する際に、当該2以上の液状組成物をすべて混合することにより反応液が調製される。
(2)該試薬には、DNAポリメラーゼと、蛍光標識プローブとが、別な液状組成物中に配合されている。
【0017】
PCRによる核酸増幅反応を行う試薬は通常研究に用いる場合、−20℃以下で凍結保存されていることが多い。使用する場合は室温で融解した後必要量を分取し、その後は再び凍結にて保存されている。凍結して保存するとこのような室温解凍を使用時に行う必要があり、迅速かつ簡便な臨床検査には適さない。本発明においては、迅速かつ簡便に使用できるように凍結融解を行わずに使用できる試薬を前提としている。0℃〜40℃は凍結融解なしに核酸増幅試薬を使用できる温度であり、試薬が凍結しない温度である。
【0018】
PCRによる核酸増幅反応は、多くの異なる試薬を必要とする。主な試薬成分には、DNAポリメラーゼのような増幅酵素、反応の基質となるヌクレオシド三リン酸(dNTPs)、反応を開始するための標的物質に対して相補的なオリゴヌクレオチドプライマー、酵素を活性化させるマグネシウムイオン、及び他の緩衝液が含まれる。さらに、リアルタイムPCRまたは増幅後に検出が必要な場合では、色素標識されたオリゴヌクレオチドプローブ、SYBR Green I(商標登録)などのDNA結合色素、および内部対照核酸を含む。
【0019】
これらの試薬成分の中には特定の成分と混合して保存することで、増幅酵素の活性が低下したり、オリゴヌクレオチドプライマー、オリゴヌクレオチドプローブが加水分解したり、オリゴヌクレオチドプローブに標識された蛍光色素やDNA結合色素が劣化したりする組み合わせが存在する。
例えば、マグネシウムイオンとDNAポリメラーゼを混合して保存するとDNAポリメラーゼの活性が低下することが一般的に知られている。DNAポリメラーゼと反応開始剤となるオリゴヌクレオチドプライマーを混合して保存しても非特異産物ができることで特異的な反応ができなくなることも知られている。また、二価の金属イオンとオリゴヌクレオチドを混合すると、溶液中に微量に存在するDNaseが活性化されてオリゴヌクレオチドが加水分解されやすくなることも知られている。
【0020】
本願でいう安定性とは、広義では増幅反応試薬の増幅性能が維持されること、または検出試薬の蛍光色素の蛍光が維持されていることを意味し、具体的にはDNAポリメラーゼの活性が維持され、オリゴヌクレオチドプライマーが加水分解されずに配列が維持され、かつ蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブの蛍光色素がプローブから乖離せず、蛍光色素の蛍光量が維持されていることを言う。
【0021】
一般的に増幅試薬の性能は主にDNAポリメラーゼの活性とオリゴヌクレオチドプライマーの性能に大きく左右されている。増幅試薬の性能を維持する保存安定化方法についてはこの2種類の試薬成分をいかに安定的に保存するかが決め手となる。
DNAポリメラーゼは活性を抑えた状態で保存することが安定化につながる。そのためには、DNAポリメラーゼの活性をおさえるための方法を施せばよく、そのような方法としては特に限定されないが、抗DNAポリメラーゼ抗体を用いる方法、アプタマーを用いる方法、BSAを使用する方法を併用することが好ましい。さらにできるだけ低温で保存する方法やDNAポリメラーゼを凍結乾燥する方法なども組み合わせて使用できる。
オリゴヌクレオチドプライマーは加水分解されることによって顕著な性能低下を引き起こす。特に3‘末端が加水分解によって短くなると二本鎖結合能が大きく変化し、配列特異的な結合ができなくなる可能性がある。この加水分解はDNaseが働ことで生じるため、DNaseの混入を防ぐあるいはDNaseの活性をおさえることがオリゴヌクレオチドプライマーの安定化に必要である。
【0022】
増幅試薬を安定的に保存するためにはDNAポリメラーゼの活性とオリゴヌクレオチドプライマーの性能を保てればよく、両立させることができれば最適である。しかしながらこれらの増幅試薬の主成分を2つの容器に分ける場合、DNAポリメラーゼを活性化するマグネシウムイオンは同時にDNaseの活性化因子でもあるため両立は困難である。この両者のバランスを最適なものにするために、マグネシウムイオンとオリゴヌクレオチドプライマーを混合し、DNaseをできる限り除去した溶液を調製して保存することが好ましい。
【0023】
一般的に検出試薬の性能は蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブ(以下プローブと略する)が持つ蛍光量とプローブの配列に依存されるハイブリダイゼーション能による。検出試薬の性能を維持する保存安定化方法についてはプローブの持つ2種類の能力をいかに維持したままプローブを保存するかが決め手となる。
蛍光量については、例えば保存する緩衝液のpHにも左右される。pHを適した状態に保つことも一つの安定化させうる方策である。蛍光色素の種類によってはEDTAなどの金属キレート剤を保存溶液中に含むことで本来持つ蛍光量から大幅に減少するものも存在する。
プローブの配列に関しては、オリゴヌクレオチドプライマーと同様に加水分解されることによって顕著なハイブリダイゼーション能力の低下を引き起こす。この加水分解はDNaseが働ことで生じるため、DNaseの混入を防ぐあるいはDNaseの活性をおさえることがプローブの安定化に必要である。
【0024】
増幅検出試薬を安定的に保存するためには試薬の増幅性能と検出性能を両立させることができれば最適である。増幅試薬の主成分を2つの容器に分ける場合、DNAポリメラーゼを活性化するマグネシウムイオンは同時にDNaseの活性化因子でもあるため両立は困難である。この両者のバランスを最適なものにするために、マグネシウムイオンとオリゴヌクレオチドプライマーを混合し、DNaseをできる限り除去した溶液を調製して保存することが好ましい。ここにホモジニアス増幅検出反応などで検出試薬を加える場合は、オリゴヌクレオチドプライマーを含む容器にプローブを含めることが好ましい。
【0025】
通常専門家でない者が使用する場合は、簡便にするためにできるだけ混合した状態で保存することが良く、例えば4つに分けて保存することが好ましく、3つに分けて保存することはより好ましい。2つに分けて保存することはさらに好ましい保存方法である。核酸増幅反応に必要な全ての試薬を混合して保存することは、上述した通り活性が低下するため、本発明には適さない。
【0026】
蛍光色素標識プローブ
蛍光色素は一般にオリゴヌクレオチドに標識して、核酸の測定および検出に用いられるものが使用できるが、蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチド(以下、蛍光標識プローブとも示す。)が標的核酸にハイブリダイゼーションしたときに、オリゴヌクレオチドに標識した当該蛍光色素が検出に有利に働くものが好適に用いられる。例えば、フルオレセイン(fluorescein)またはその誘導体類、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate)(FITC)若しくはその誘導体等、Alexa 類、TAMRA 、Cy3、Cy5、ローダミン(rhodamine)6G(R6G)又はその誘導体(例えば、テトラメチルローダミン(teramethylrhodamine)(TMR)、テキサスレッド(TEXAS red)、ボデピー(BODIPY)類(商標名;モレキュラー・プローブ(Molecular Probes)社製、米国)、ROX、Hex、JOE、BHQ類からなる群より選ぶことができる。好適なものとしてフルオロセイン、FITC、TAMRA、Cy3、Cy5、テキサスレッドが挙げられる。
【0027】
蛍光標識プローブに標識する蛍光色素は、核酸増幅工程中分解もしくは蛍光が減衰しなければよく、ハイブリダイゼーション時に消光を生じる蛍光物質であればよい。特に蛍光標識プローブの末端においてグアニンとシトシンの塩基対形成時に蛍光の消光を生じる蛍光物質が好ましい。具体的には、フルオロセインまたはその誘導体(例えば、フルオロセインイソチオシアネート(FITC))、BODIPY(登録商標)シリーズ、ローダミンまたはその誘導体(例えば、5−カルボキシローダミン6G(CR6G)やテトラメチルローダミン(TAMRA))などを使用できるが、BODIPYシリーズやCR6Gの使用が特に好ましい。蛍光色素のオリゴヌクレオチドへの結合方法は、通常の方法に従って行うことができる。蛍光色素の消光を利用すれば、インターカレーターなどの他の二重鎖核酸構造への挿入色素を用いることなく、また、FRET現象を起こす二種類のプローブを用いることなく、一種類の蛍光色素に標識されたプローブを用いて単純かつ特異的に標的核酸配列を検出することができる。蛍光標識プローブの塩基配列中の蛍光色素の標識位置は、特に限定されないが、末端に標識されていることがより好ましい。
【0028】
オリゴヌクレオチドに蛍光色素を結合するには、従来公知の標識法のうちの所望のものを利用することができる(Nature Biotechnology、第14巻、第303〜308頁、1996年; Applied and Environmental Microbiology、第63巻、第1143〜 1147頁、1997年; Nucleic acids Research、第24巻、第4532〜4535頁、1996年)。例えば、5´末端に蛍光色素を結合させる場合は、先ず常法に従って5’末端のリン酸基にスペーサーとして、例えば、−(CH)−SHを導入する。これらの導入体は市販されている製品を用いてもよい(グレンリサーチ社)。この場合、nは3〜8の整数、好ましくは6である。このスペーサーにSH基反応性を有する蛍光色素又はその誘導体を結合させることにより標識したオリゴヌクレオチドを合成できる。このようにして合成された蛍光体基で標識されたオリゴヌクレオチドは、逆相等のクロマトグラフィー等で精製して本発明で使用する核酸プローブとすることができる。
【0029】
オリゴヌクレオチドの3’末端に蛍光色素を結合させることもできる。この場合は、リボース又はデオキシリボースの3’位CのOH基にスペーサーとして、例えば、−(CH−NHを導入する。これらの導入体も前記と同様にして市販されている製品を用いてもよい(グレンリサーチ社)。また、リン酸基を導入して、リン酸基のOH基にスペーサーとして、例えば、−(CH−SHを導入する。これらの場合、nは3〜8、好ましくは4〜7の整数である。このスペーサーにアミノ基、SH基に反応性を有する蛍光体基又はその誘導体を結合させることにより標識したオリゴヌクレオチドを合成できる。このようにして合成された蛍光体基で標識されたオリゴヌクレオチドは、逆相等のクロマトグラフィー等で精製して本発明で使用する核酸プローブとすることができる。
【0030】
核酸プローブの鎖内に蛍光色素分子を導入することも可能である(Analytical Biochemistry 第225巻、第32−38頁(1998年))。この場合、市販の蛍光色素が既に結合した状態のチミンアミダイト(グレンリサーチ社)を使用すると便利である。
【0031】
蛍光標識プローブを保存する時のpHは6.5以上8.5未満が好ましく、pH7.0以上7.5未満がより好ましい。
【0032】
DNAポリメラーゼ
DNAポリメラーゼは一般的に核酸増幅反応に使用できるものであればよく、現在知られているDNAポリメラーゼ(単独あるいは組みあわせ)としてのTaq DNAポリメラーゼや,EX−Taq,LA−Taq,Expandシリーズ,Plutinumシリーズ,Tbr,Tfl,Tru,Tth,T1i,Tac,Tne,Tma,Tih、Tfi(以上はPolI型酵素),Pfu,Pfutubo,Pyrobest(登録商標),Pwo,KOD,Bst,Sac,Sso,Poc,Pab,Mth,Pho,ES4,VENT,DEEPVENT(以上はα型酵素)などが挙げられる。
天然型のDNAポリメラーゼのアミノ酸配列を公知の手段により、1もしくは数個が欠失、置換若しくは付加させたもの(変異体)であっても良い。あるいは、上記の酵素(天然型、もしくは変異体)に化学修飾などの手段によりさらに改変を加えたものであっても良い。あるいは、上記の酵素(天然型、もしくは変異体)に化学修飾などの手段によりさらに改変を加えたものであっても良い。
例えば、最も一般的であるTaq DNAポリメラーゼやKOD DNAポリメラーゼを用いることができる。KOD DNAポリメラーゼは、東洋紡績製のもの(製品コードKOD−101など)を容易に入手することができる。
【0033】
DNAポリメラーゼはさらに、5’エキソヌクレアーゼ活性を持たないことが好ましい。本発明では標識プローブからの蛍光変化量を標的核酸の検出に利用することがある。そのため、高速PCR工程中で第一のプライマーによる伸長産物に対して標識プローブ及び第二のプライマーがハイブリダイゼーションしている場合に、5’エキソヌクレアーゼ活性を持つDNAポリメラーゼ、例えばTaq DNAポリメラーゼでは標識プローブを分解し、非特異シグナルの増加を伴う。5’エキソヌクレアーゼ活性を持たないDNAポリメラーゼは特に限定はされないが、KOD DNAポリメラーゼが好ましい。
【0034】
dNTPs
dNTPsは、dATP、dTTP、dCTP、dGTPの混合物であり、核酸増幅反応の基質物質である。4つの化合物をそれぞれ等量ずつ混合することが好ましい。凍結保存しない環境下では、dNTPsはDNAポリメラーゼを含む溶液中に含むことが好ましい。dNTPsの濃度は特に限定されるものではないが、50mM以上500mM以下が好ましい。これらは種々市販されている。
【0035】
マグネシウムイオン
マグネシウムイオンは、通常塩の状態の化合物を利用する。核酸増幅反応に適したマグネシウム塩が好ましい。
本発明において、マグネシウム塩は水性溶媒中にマグネシウムイオンが放出されるような形態でマグネシウムを含有するあらゆる物質を表すものとする。マグネシウム塩には、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムおよび硫酸マグネシウム等が例示されるが、これらに限定されるものではない。特に、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムが好ましい。
【0036】
マグネシウムイオンの濃度は、特に限定されないが1mMから8mMの最終反応用液の濃度となるように調整されることが好ましい。
最終濃度1mMから8mMとは核酸増幅反応に使用する好適なマグネシウム濃度を示しており、試薬の保存に際しては、最終的に他の試薬混合液と混合するためさらに高い濃度で保存されている。例えば全量50μLの核酸増幅反応系であって、12.5μLのDNAポリメラーゼ含有混合物と12.5μLのマグネシウム含有混合物を加える場合は、最終液量が4倍となるため保存中のマグネシウムイオン濃度は4mMから32mMが好ましい。濃縮倍率は2試薬を混合する場合、2倍から10倍が適した範囲であり、好ましくは2倍から8倍、更に好ましくは3倍から5倍で保存することが好ましい。このような濃縮倍率を考慮した時のマグネシウムイオン濃度は特に限定はしないが2mMから40mMが好ましい。より好ましくは、3mMから40mMである。2mM未満の場合、例えば5倍濃縮では0.4mM未満のマグネシウムイオン濃度となってしまうため、DNAポリメラーゼが活性化されずにPCR増幅が起こらない可能性がある。また、40mMを超えると溶解するマグネシウム塩の濃度が高すぎるため調製が難しい。
【0037】
このほか、本発明の方法においては、反応に影響を及ぼさない範囲で緩衝液、アミノ酸またはタンパク質、糖類、還元剤多価アルコールなどを必要により適宜各液状組成物に配してもよい。
緩衝液としては特に限定されるものではないが、トリスやヘペスなどのグッドバッファーおよび、リン酸緩衝液などが用いられるが、具体的には、10〜200mMの各種バッファー(pH7.5〜9(25℃))が例示できる。好ましくはトリス緩衝液である。好ましい緩衝pH範囲は7〜9である。
アミノ酸又はタンパク質としては、グルタミン酸ソーダ、アルブミン、スキムミルク等、糖としてはシュクロース、マルトース等、還元剤としてはグルタチオン、メルカプトエタノール等、多価アルコールとしてはグリセロール、ソルビトールなどが含まれていても良い。
また、界面活性剤などが含まれていても良い。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤がよく、好ましくTritonX−100、Tween20、Nonidet P40などが例示される。界面活性剤は、反応段階、すなわち、ポリメラーゼ反応時に、0.0001〜1%になるように含まれていてもよく、好ましくは0.001〜0.1%がよい。
【0038】
一方、DNAポリメラーゼを含む混合液の濃度は、できる限り濃度の高い状態での保存が好ましいが、混合時の操作の簡便性を考慮すると、濃縮倍率が2倍から10倍の範囲、好ましくは2倍から8倍、更に好ましくは3倍から5倍で保存することが好ましい。
【0039】
核酸増幅検出反応に用いるキット
本発明の実施形態の一つは、以下の(1)〜(2)の特徴を有する、PCRによる核酸増幅検出反応に用いるキットである。
(1)該キットが2以上の液状組成物から構成され、該キットを使用する際に、当該2以上の液状組成物をすべて混合することにより反応液が調製される。
(2)該キットには、(a)少なくとも蛍光標識プローブ、マグネシウムイオンおよび緩衝剤を含み、pHが6.5以上8.5未満である試薬組成物、と、(b)少なくともDNAポリメラーゼおよび緩衝剤を含む試薬組成物とが、別な液状組成物中に配合されている。
【0040】
本発明のキットにおける各液状組成物の調製方法は特に限定されるものではないが、上述の方法が例示できる。
【0041】
以下、実施例に基づき、本発明をより具体的に説明する。もっとも、本発明は、下記実施例に特に限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
(検体の採取)
胃生検材料より遺伝子をQIAamp(登録商標) DNA micro Kit(Qiagen社製)を用いて抽出した。抽出されたDNAは−20℃で保存した。
【0043】
(テンプレートプラスミドの調製)
1μLの抽出されたDNA溶液を鋳型として用い、PCRを実施した。ここで使用したプライマーペアは、ピロリ菌23SrRNA遺伝子を全長増幅できるプライマーを使用した。いずれもピロリ菌の23SrRNA遺伝子(GenBank accession number U27270)の公知の配列から設計した。
【0044】
PCRは、サーマルサイクラーとしてGeneAmp(登録商標)9700(Applied Biosystems製)を使用し、全量を26μLとして実施した。1μLのDNA溶液と試薬混合物(KOD−plus 0.5U、10×PCR緩衝液2.5μL、200μMのdNTPs、各々5μMのプライマー)を混合した。標的DNAの初期変性を94℃で2分間行った後、94℃・15秒の変性工程、60℃・30秒のアニーリング工程、68℃・60秒の伸長工程のサイクルを35回繰り返した。得られた核酸断片を制限酵素によって平滑末端切断されたpUC18へライゲーションし、コンピテントセルJM109を用いて形質転換体の取得を行なった。目的核酸断片が挿入された形質転換体を液体培養しプラスミドを抽出した。
【0045】
得られたプラスミドの核酸配列をオートシークエンサーにより解析し、ピロリ菌の23S rRNA遺伝子野生型の塩基配列を有するプラスミドを得た。以下、野生型をWTと示す。
【0046】
(プライマー及び標識プローブの合成)
検出に使用するプライマー及び蛍光標識プローブは核酸合成受託会社に合成を委託して入手した。
【0047】
使用した蛍光標識プローブ及びプライマーの塩基配列を示す。
標識プローブは配列番号1に示す16塩基の配列、プライマーFは配列番号2の25塩基に示す配列、プライマーRは配列番号3の26塩基に示す配列である。
【0048】
(野生型ピロリ菌の検出)
表1には、全量10μLで各試薬を要時調製により調製した反応組成を示す。核酸増幅には、東洋紡績製のKOD−plus−を利用したPCR法を用いた。検出には蛍光標識されたプローブが標的核酸とハイブリダイゼーションした時に消光するQProbe法(Fluorescent quenching−based quantitative detection of specific DNA/RNA using a BODIPY FL−labeled probe or primer, Nucleic Acids Research, 2001, Vol. 29, No.6, e34)を利用した。表1の組成をもとにした反応組成の最適化は同業者であれば容易に行える。プラスミドDNA量は全量10μLの系で約1000コピー含まれるように調製した。PCR増幅時の反応条件および検出条件は表2の通りである。増幅及び蛍光の測定には、ロシュ・ダイアグノスティック製ライトサイクラー(登録商標)を使用した。測定モードは530nmを利用した。以下、特に記載がない場合は全てライトサイクラー(登録商標)での測定とする。融解曲線解析においては標識プローブが標的核酸から解離する時の蛍光量の増加を検出している。
WT(野生型)を含む試料とNC(ネガティブコントロール:水をテンプレートに使用)とを、それぞれ上記条件で増幅・検出し、ライトサイクラーソフトウェアによる解析により、図1と図2の解析結果が得られた。図1の縦軸は蛍光強度を、横軸は温度(℃)を示している。図2の縦軸は蛍光強度の一次導関数の逆符号の値(−dF/dt)で蛍光の変化量を、横軸は温度(℃)を示している。
図1では融解曲線解析における標識プローブの蛍光変化が示されている。WTでは温度を上げていくと標識プローブが標的核酸から解離し、75℃の時の蛍光値は標識プローブが標的核酸から完全に解離した時の蛍光値である。解離蛍光値はNC(水をテンプレートに使用したとき)の40℃における蛍光値を示し、蛍光標識プローブの蛍光量の基準とすることができる。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
解析の結果、図1では融解曲線解析における標識プローブの蛍光変化が示されている。75℃の時の蛍光値は標識プローブが標的核酸から完全に解離した時の蛍光値である。解離蛍光値は水をテンプレートに使用したときの40℃における蛍光値を示し、蛍光標識プローブの蛍光量の基準とすることができる。また図2では融解曲線解析における標的核酸と蛍光標識プローブの解離を示す検出ピークが示されている。検出ピークは蛍光標識プローブとハイブリダイゼーションする標的核酸の存在を示している。
【実施例2】
【0052】
35℃保存による増幅検出試薬性能の検討
(試薬の保存)
増幅検出試薬の試薬組成を表1に示す成分量に固定した。増幅検出試薬の主要成分をDNAポリメラーゼ、dNTPs、マグネシウムイオン、プライマーセット、蛍光標識プローブの5つに分類し、各成分を2つの試薬混合液に分けて保存した。表3に示されるように各成分を組み合わせて3通りの試薬混合液セットを調製した。プローブおよびプライマーは実施例1に記載の標識プローブ、プライマーFおよびプライマーRを使用した。各試薬混合液は、1.5mLのスクリュー付チューブに入れて、遮光ラックに整理した。保存方法は、35℃保存の場合は三洋電機製INCUBATOR MIR−153に保存し、設定温度を35℃に設定した。8℃保存の場合は三洋電機製INCUBATOR MIR−553に保存し、設定温度を8℃に設定した。使用時には2つの試薬混合液を混ぜてから使用した。
【0053】
【表3】

【0054】
(試薬の測定)
DNAポリメラーゼ混合溶液2.5μL、プライマー混合溶液2.5μL、プラスミドDNA溶液5μLを混合した反応液10μLを調製した。テンプレート量は5μL中に約1000コピー含まれるように調製し、その他は実施例1の方法に従って実施した。35℃保存の試薬には1週間毎に測定し、10週間まで測定を行った。
【0055】
(データの解析)
ライトサイクラー(商標登録)付属の解析ソフトを利用して図1から解離蛍光値、図2に示される検出ピークの高さから測定値を算出して増幅検出試薬の保存安定性の解析に用いた。解離蛍光値は融解曲線解析の40℃における蛍光値をそのまま用い、蛍光標識プローブの基本となる蛍光値を示しており、解離蛍光値で蛍光標識プローブの劣化が確認できる。増幅検出試薬性能の確認方法は測定値の高さで比較できる。測定値は融解曲線解析の蛍光値を微分したグラフで見られる検出ピークの高さの絶対値の10倍の値を用いている。
【0056】
(結果)
35℃保存試薬の保存安定性の解析結果を図3から図6に示す。図3から図6に示されるように試薬成分の組み合わせをAからDにすると13週間目の測定結果でも解離蛍光値が検出できていた。これらの組み合わせによる増幅検出試薬の保存では蛍光標識プローブが13週間目でも蛍光を示していたことから安定性の優れた保存方法であるといえる。AからDに共通した組成は、酵素であるKOD DNAポリメラーゼと蛍光標識プローブを別々の混合液として保存していることである。また、蛍光標識プローブの保存液性がpH7.4であることも蛍光標識プローブを安定して保存できる一つの要因である。
【0057】
さらにAまたはBとCまたはDを比較すると、全て13週間目まで蛍光値の維持は可能であるが、AまたはBについては測定値が10週間目で0になっていた。AまたはBは酵素であるKOD DNAポリメラーゼとマグネシウムイオンが混合されて保存されているため、酵素の活性が低下したことが原因であると考えられる。この結果から、KOD DNAポリメラーゼと蛍光標識プローブを分けて保存することで蛍光標識プローブの蛍光を安定させることに加えて、蛍光標識プローブを含む試薬混合液にマグネシウムイオンを混合することで酵素の活性を維持できるCまたはDの組み合わせで保存することが増幅検出試薬の保存方法として好ましいことがわかった。
【比較例1】
【0058】
(方法)
試薬の保存、試薬の測定、データの解析は実施例2に従って実施した。表4に示されるように、5つに分類された増幅検出試薬の主要成分のうち、酵素と蛍光標識プローブを混合して保存している試薬混合液セット4種類を調製した。実施例2と同様に35℃で保存した。
【0059】
【表4】

【0060】
(結果)
図7から図10に35℃保存の結果を示す。EからHまでの4種類の試薬混合液セットでは、13週間目の解離蛍光値がライトサイクラーの検出感度を下回り、蛍光値は0を示した。また、F、G、Hは解離蛍光値よりも酵素活性の低下が早く、増幅検出試薬としての増幅検出性能が消失している。これに対し、Eでは酵素活性は維持されているが蛍光標識プローブの劣化によりライトサイクラーの検出感度以下の蛍光値となったため、13週間目では増幅検出性能を消失した。この結果から、KODと蛍光標識プローブを混合して保存すると蛍光標識プローブの蛍光の劣化が促進されることがわかった。
【実施例3】
【0061】
8℃保存による増幅検出試薬性能の検討
試薬の保存、試薬の測定、データの解析は実施例2に従って実施した。表2のCの試薬混合セットおよびHの試薬混合セットを使用した。8℃保存の試薬は1ヶ月ごとに、16ヶ月まで測定を行った。
【0062】
(結果)
8℃保存試薬の保存安定性の解析結果を図11または図12に示す。図11から試薬成分の組み合わせをCにすると、16ヶ月目の測定結果でも解離蛍光値は1.2を超えていた。また図12から試薬成分の組み合わせをHにすると16ヶ月目の測定結果で解離蛍光値は1.2以下となっていた。Hの組み合わせでは、増幅検出試薬の性能のうち蛍光標識プローブの蛍光が低下していることを示している。35℃保存の結果と同様にCの組み合わせにより保存した増幅検出試薬は冷蔵で16ヶ月間保存しても、大幅な蛍光値の低下はないことがわかった。さらにCで16ヶ月間保存しても増幅検出試薬の性能の指標となる測定値も維持されていることがわかった。
【実施例4】
【0063】
(試薬の保存)
35℃保存した時の、pH変化における蛍光標識プローブの経時的な変化について検討した。蛍光標識プローブの保存用溶液(10mM Tris−HSO pH6.5〜9.5)を調製した。さらに、各保存用溶液に配列番号1に示される蛍光標識プローブ1μMとなるように加えて蛍光標識プローブ溶液とした。各蛍光標識プローブ溶液は1.5mLのスクリュー付チューブに500μLを入れて、遮光ラック内に静置した。保存方法は、三洋電機製INCUBATOR MIR−153に保存し、設定温度を35℃に設定した。
【0064】
(試薬の測定)
各蛍光標識プローブ溶液を1×KOD−plus−PCR bufferで5倍希釈した溶液を調製した。20μLをライトサイクラー(商標登録)専用ガラスキャピラリーに充填し、ライトサイクラー(商標登録)のInstrumentのReal Time Fluorimeterモードにて測定温度を30℃に設定して530nmの蛍光の測定を実施した。35℃保存の各蛍光標識プローブ溶液は1週間毎に、6週間まで測定を行った。
【0065】
(データの解析と結果)
ライトサイクラー(商標登録)における蛍光測定結果をpH毎にまとめてグラフを作成した。結果を図13から図19に示す。0週間目と6週間目の蛍光値の差で比較した時に、pH8.5以上の溶液中で保存した場合2.0以上であり、pH8.5未満で保存した時は2.0未満であった。さらに、pH7.0およびpH7.5では0週間目と6週間目の蛍光値の差が1.5未満となっておりより蛍光色素の劣化が抑えられていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、従来凍結保存により成分ごとに保存されていた核酸増幅検出試薬を冷蔵保存可能な試薬混合液で保存することにより、より簡便、迅速に試薬調製が行うことができる。調製が簡便なため、核酸増幅技術に専門的な知識を有しない臨床診断の場でも容易に核酸増幅検出を利用した遺伝子検査が可能となり、産業界に大きく寄与することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)〜(2)の特徴を有する、PCRによる核酸増幅検出反応に用いる核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
(1)該試薬が2以上の液状組成物から構成され、該試薬を使用する際に、当該2以上の液状組成物をすべて混合することにより反応液が調製される。
(2)該試薬には、DNAポリメラーゼと、蛍光標識プローブとが、別な液状組成物中に配合されている。
【請求項2】
蛍光標識プローブを含む試薬組成物に、マグネシウムイオンを含む、請求項1に記載の核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
【請求項3】
マグネシウムイオン濃度が2mM〜40mMである、請求項2に記載の核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
【請求項4】
蛍光標識プローブの蛍光色素が、フルオレセインまたはその誘導体、TAMRA、Cy3、Cy5、Cy5.5、ローダミンまたはその誘導体、ROX、Hex、JOE、BODIPY類、Alexa類、BHQ類からなる群より選ばれるいずれかである、請求項1〜3のいずれかに記載の核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
【請求項5】
蛍光標識プローブが、標的核酸へのハイブリダイゼーションによって消光する蛍光色素によって標識されている、請求項1〜4のいずれかに記載の核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
【請求項6】
DNAポリメラーゼが、KOD DNAポリメラーゼ(Thermococcus kodakaraensis KOD1由来)またはその変異体である、請求項1〜5のいずれかに記載の核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
【請求項7】
蛍光標識プローブを含む試薬組成物に、さらにオリゴヌクレオチドプライマーを含む、請求項1〜6のいずれかに記載の核酸増幅検出試薬の保存安定性を向上させる方法。
【請求項8】
以下の(1)〜(2)の特徴を有する、PCRによる核酸増幅検出反応に用いるキット。
(1)該キットが2以上の液状組成物から構成され、該キットを使用する際に、当該2以上の液状組成物をすべて混合することにより反応液が調製される。
(2)該キットには、(a)少なくとも蛍光標識プローブ、マグネシウムイオンおよび緩衝剤を含み、pHが6.5以上8.5未満である試薬組成物、と、(b)少なくともDNAポリメラーゼおよび緩衝剤を含む試薬組成物とが、別な液状組成物中に配合されている。
【請求項9】
(a)におけるマグネシウムイオン濃度が2mM〜40mMである、請求項8に記載の核酸増幅検出試薬キット。
【請求項10】
蛍光標識プローブの蛍光色素が、フルオレセインまたはその誘導体、TAMRA、Cy3、Cy5、Cy5.5、ローダミンまたはその誘導体、ROX、Hex、JOE、BODIPY類、Alexa類、BHQ類からなる群より選ばれるいずれかである、請求項8または9に記載の核酸増幅検出試薬キット。
【請求項11】
蛍光標識プローブが、標的核酸へのハイブリダイゼーションによって消光する蛍光色素によって標識されている、請求項8〜10のいずれかに記載の核酸増幅検出試薬キット。
【請求項12】
DNAポリメラーゼが、KOD DNAポリメラーゼ(Thermococcus kodakaraensis KOD1由来)またはその変異体である、請求項8〜11のいずれかに記載の核酸増幅検出試薬キット。
【請求項13】
試薬組成物(a)に、オリゴヌクレオチドプライマーを含む、請求項8〜12のいずれかに記載の核酸増幅検出試薬キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2010−233505(P2010−233505A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85318(P2009−85318)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】