保存安定性に優れた魚油及びその製造方法
【課題】酸化による劣化を防止する事が可能な保存安定性に優れる魚油及びその製造方法を提供する。
【解決手段】レシチンを含有した飼料を魚(レシチン投与魚)に投与して飼育した後、当該レシチン投与魚からホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンを含有する油脂を抽出することにより、保存安定性に優れる魚油を製造することができる。
【解決手段】レシチンを含有した飼料を魚(レシチン投与魚)に投与して飼育した後、当該レシチン投与魚からホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンを含有する油脂を抽出することにより、保存安定性に優れる魚油を製造することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性に優れた魚油及びその製造方法に関するものであり、特に、レシチンを投与した魚から抽出した魚油及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
魚油は、n−3系脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などの有用な成分を豊富に含有していることから広く種々の用途に用いられている。
【0003】
しかし、魚油に含まれているエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などのn−3系脂肪酸は、酸化しやすく保存安定性が悪いので、劣化を防止すべく抗酸化のための方法が種々、開発されている。
【0004】
例えば、精製魚油に、エトキシキン、ビタミンEの他に、レシチンを添加した抗酸化魚油によれば、DHA油に抗酸化作用を付加し、劣化の少ない魚油が提供できることが開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−323295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した通り、魚油に含まれているn−3系脂肪酸は、酸化しやすく保存安定性が悪いので、劣化を防止する抗酸化方法の開発が望まれている。
【0006】
従って、本発明の目的は、酸化による劣化を防止する事が可能な保存安定性に優れる魚油及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、レシチンを投与した魚(以下、レシチン投与魚という。)から抽出したことを特徴とする魚油を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記目的を達成するために、魚にレシチンを投与して飼育した後、前記魚から抽出することにより製造することを特徴とする魚油の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、酸化による劣化を防止する事が可能な保存安定性に優れる魚油及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
〔本発明の実施の形態に係る魚油〕
本発明の実施の形態に係る魚油は、レシチンを投与して飼育した魚から抽出することにより製造することができる。図1は、本発明の実施の形態に係る魚油の製造フローを示す図である。
【0011】
1.レシチンを魚に投与して飼育
以下に、レシチンを魚に投与して飼育する方法について順に説明する。
【0012】
(レシチンの種類)
本発明の実施の形態においてレシチンは、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルセリン(PS)等の単体、あるいは2種以上の混合物を用いることができる。
【0013】
これらのレシチンは、動植物から得ることができ、特に限定されるものではないが、大豆、菜種、アマニ、コーン、綿実、紅花、胡麻、ひまわり、サフラワー等をはじめとする植物原料由来のものを用いることが好ましい。中でも、大豆由来レシチンを用いることが好ましい。
【0014】
また、酵素合成、化学合成したレシチンも用いることができ、例えば、ホスホリパーゼや化学合成を用いた加水分解反応や塩基交換反応により作成したPS、PI、PA、LPE(リゾホスファチジルエタノールアミン)、LPC(リゾホスファチジルコリン)などの高純度品などが使用できる。
【0015】
レシチンの形状は、特に限定されるものではなく、例えば、油状、ペースト状、粉末状、顆粒状、ブロック状などが挙げられる。
【0016】
(レシチンの投与形態)
レシチンは、レシチン単独で魚に投与してもよいし、飼料の形態で投与してもよい。飼料として投与する場合、飼料中のレシチン含有量は、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜2.5質量%がより好ましい。
【0017】
レシチンを混合させる基礎飼料としては、市販の飼料、実験飼料、もしくは特別に配合した飼料を用いることができる。基礎飼料原料としては、糖質原料、タンパク質原料、油脂原料、無機質及びミネラル等の微量栄養原料、各種飼料添加物等を包含する。糖質原料としては、植物性原料が主体であり、各種穀類、具体的には、トウモロコシ、マイロ、大麦、小麦、玄米、アルファルファミール、各種植物の茎葉(乾草を含む)、ふすま・大豆皮等のそうこう類(糠類)、コーンジャームミール、ビートパルプ、シトラスパルプ等の製造粕類等が用いられる。タンパク質原料としては、植物性原料と動物性原料があり、植物性原料としては、大豆油粕、ナタネ油粕等の植物性油粕類、動物性原料としては、魚粉等が用いられる。油脂原料としては、各種植物性油脂及び動物性油脂が用いられる。その他としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、食塩等が用いられる。また、適宜、ビタミン、ミネラル等を用いても良い。
【0018】
(レシチンの投与方法)
レシチンの投与方法は、特に限定されるものではないが、経口投与であることが好ましい。飼料として投与する場合の給餌の方法についても特に限定されるものではなく、例えば、適量、あるいは規定量を人の手によって直接、魚に投与する方法や、モイストペレット給餌機を代表とする船上機器によって投与する方法、あるいは遠隔操作による機械給餌、タイマーやコンピュータープログラム等を用いた自動給餌機による給餌、さらに、魚の学習能力を利用した自発給餌、さらには、フィルム状、練り餌状、チップ状等の形で魚の飼育環境中に固定あるいは浮遊させ、適時給餌させる方法などが挙げられる。
【0019】
(レシチンの投与量)
レシチンの投与量は、投与する魚の大きさ・種類によって異なるが、およそ魚体重(g)あたり1〜250mg/dayが好ましく、5〜125mg/dayがより好ましい。
【0020】
(レシチンの投与期間)
レシチンの投与期間は、特に限定されるものではないが、2週間以上であることが好ましく、4週間以上であることがより好ましい。
【0021】
(魚の種類)
本発明の実施の形態において適用可能な魚は、特に限定されるものではなく、例えば、ブリ、ヒラメ、トラフグ、アユ、コイ、サケマス類等が挙げられ、海産養殖魚類又は淡水養殖魚類であってもよい。
【0022】
2.レシチン投与魚から魚油を抽出する方法
レシチン投与魚から魚油を抽出する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、レシチン投与魚を氷上において解剖し、頭部と内臓を除去した後、Bligh−Dyer法にて脂質を抽出する方法がある。
【0023】
魚肉は頭部と内臓を除去せずにそのまま用いても良い。また、魚肉を加工した残渣を用いても良い。
【0024】
脂質を抽出する方法は、特に限定されるものではないが、上記のBligh−Dyer法のほか、Folch法、ヘキサン抽出、エタノール抽出、メタノール抽出、エーテル抽出、圧搾、加温抽出(煮出す)、フリーズドライ後に溶剤あるいは加温等によって抽出する方法等を用いることもできる。
【0025】
3.レシチン投与魚から抽出された魚油
レシチン投与魚から抽出された魚油は、好ましい実施の形態として、例えば、レシチン投与魚から抽出されたホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンを含有する。
【0026】
これらのホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンは、sn−1、sn−2位に結合しているDHA含量が多いホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミン、sn−1、sn−2位に結合しているEPA含量が多いホスファチジルコリンの及びsn−1位に結合しているEPA含量が多いホスファチジルエタノールアミンである。例えば、上記DHA含量及びEPA含量は、レシチン未投与魚から抽出されたホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンのDHA含量及びEPA含量に比べて1.5倍以上のDHA含量及びEPA含量である。2倍以上のDHA含量及びEPA含量である場合もある。
【0027】
特にsn−2位に結合しているDHA量が多いホスファチジルコリンやsn−1、sn−2位に結合しているDHA量が多いホスファチジルエタノールアミンを含有していることが好ましい。
【0028】
レシチン投与魚から抽出された魚油は、一般的な方法に従い、精製してもよい。
【0029】
レシチン投与魚から抽出された魚油は、その他の油脂と混合する事ができる。混合する油脂は特に限定されるものではないが、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、ゴマ油、ゴマサラダ油、落花生油、高オレイン酸べに花油、高リノール酸べに花油、高オレイン酸ひまわり油、ミッドオレイックひまわり油、高リノール酸ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、ボラージ油、オリーブ油、米糠油、小麦胚芽油、中鎖脂肪酸含有油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、品種改良によって低飽和化された油脂、牛脂、ラード、鶏脂、乳脂、魚油、アザラシ油、及び藻類油等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。さらに、これらの水素添加油脂や分別油脂を使用することもできる。
【0030】
レシチン投与魚から抽出された魚油は、ヒトおよび動物がそのまま摂取しても良いし、当該魚油を含有させた飲食物や医薬品の形態で摂取しても良い。
【0031】
〔本発明の実施の形態の効果〕
本発明の実施の形態によれば、酸化による劣化を防止する事が可能な保存安定性に優れる魚油及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明の実施の形態によれば、特許文献1のような精製魚油に抗酸化剤を添加混合するタイプと異なり、抗酸化剤を添加する必要が無く、精製魚油に抗酸化剤を添加混合するまでの間の酸化も抑止することができるため、有用性が高い。
【0032】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
〔実施例及び比較例の油脂(魚油)の抽出〕
試験用飼料を下記表1及び表2の飼料組成にて作製し、下記の試験条件下にて、試験区(実施例)及び対照区(比較例)の供試魚(ニジマス)を飼育した。表3に示した通り、試験前後において、供試魚の各区間での体重差は無かった。
【0034】
飼料に添加した大豆由来レシチンは日清オイリオグループ株式会社製の商品名:ベイシスLP−20Bを用い、大豆油は日清オイリオグループ株式会社製の商品名:大豆白絞油を用い、魚油は日本科学飼料株式会社製の商品名:フィードオイル(タラ肝油)を用いた。
【0035】
飼育後、供試魚を取り上げ、氷上において解剖し、頭部と内臓を除去した。14尾分の魚肉を1バッチとし、Bligh−Dyer法にて脂質を抽出した。1バッチあたり4〜5gの油脂(魚油)が得られた。
【0036】
<試験条件>
供試魚:ニジマス(平均体重2.3g/1尾)
供試尾数:合計280尾(70尾×4投与群)(2投与群/各区)
試験用飼料の投与期間:4週間
給餌方法:自由給餌
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
〔抽出油脂の保存安定性の評価〕
抽出油脂の保存安定性を以下の方法により評価した。
【0041】
1.ヘッドスペースの酸素濃度の測定
10mlの密閉可能なバイアル(ガスクロバイアル)に、抽出油脂0.5gを分注し、密閉した。これを60℃、暗所にて保存を行い、経時的に(保存後0,1,2,3,5,10,15,20日)ヘッドスペースの酸素濃度を、対照区(比較例)と試験区(実施例)それぞれについて測定し、その変化を比較した。測定結果を図2に示す。
【0042】
図2から明らかなように、対照区(比較例)の酸素濃度が試験区(実施例)の酸素濃度に較べて減少が早く(保存日数10日以降のデータにおいて有意差あり)、対照区(比較例)の抽出油脂は酸化しやすく、試験区(実施例)の抽出油脂は酸化しにくいことが判った。
【0043】
2.抽出油脂中の脂肪酸含量の測定
10mlの密閉可能なバイアル(ガスクロバイアル)に、抽出油脂0.5gを分注し、密閉した。これを60℃、暗所にて保存を行い、保存前、保存10日後及び保存20日後に油脂中に含有する脂肪酸含量(エイコサペンタエン酸(EPA)含量及びドコサヘキサエン酸(DHA)含量)を、対照区(比較例)と試験区(実施例)それぞれについて測定し、その変化を比較した。測定結果を図3及び図4に示す。
【0044】
図3及び図4から明らかなように、対照区(比較例)の脂肪酸(EPA,DHA)含量が試験区(実施例)の脂肪酸含量に較べて減少が早く(保存10日後及び20日後のデータいずれにおいても有意差あり)、即ち、脂肪酸を含む脂質の酸化が早いことから、対照区(比較例)の抽出油脂は酸化しやすく、試験区(実施例)の抽出油脂は酸化しにくいことが判った。なお、保存前(保存0日目)においては、脂肪酸含量に有意な差は無かった。
【0045】
以上より、試験区(実施例)の大豆レシチン投与魚から抽出された油脂は、対照区(比較例)の大豆油投与魚から抽出された油脂と比較して保存安定性に優れていることが判った。
【0046】
3.抽出油脂中の脂肪酸含量の測定
抽出油脂からホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンを抽出し、それぞれのsn−1位及びsn−2位の主要脂肪酸含量を測定した。測定結果を図5及び図6に示す。
【0047】
<分析方法>
抽出油脂はJournal of oleo science 56, (7) 361-367 (2007)に記載の方法でリン脂質を分画し、これを回収した。回収したリン脂質は基準油脂分析法(4.3.3.1-1996)記載の方法に従い、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンを分画した。さらに、これらをホスフォリパーゼA2により、sn−2位の脂肪酸エステル結合を加水分解することによって、リゾリン脂質と脂肪酸を遊離した。遊離したリゾリン脂質および脂肪酸を分析することによってsn−1、sn−2位の脂肪酸含量を算出した。
【0048】
図5及び図6より、ホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンのsn−1、sn−2位に結合しているDHA含量が対照区(比較例)に比べて試験区(実施例)において有意に多いことが判る。また、ホスファチジルコリンのsn−1、sn−2位に結合しているEPA含量及びホスファチジルエタノールアミンのsn−1位に結合しているEPA含量が対照区(比較例)に比べて試験区(実施例)において有意に多いことが判る。
【0049】
これらの特徴的なリン脂質、特にsn−2位に結合しているDHA量が多いホスファチジルコリンやsn−1、sn−2位に結合しているDHA量が多いホスファチジルエタノールアミンがレシチン投与魚の体内で産生されることにより抽出油脂の酸化の進行が進みにくくなっていると考えられる。
【0050】
したがって、本発明は、種々の用途に有用な上記リン脂質の製造方法としての利用価値もある。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態に係る魚油の製造フローを示す図である。
【図2】実施例及び比較例のヘッドスペースの酸素濃度の測定結果を示すグラフである。
【図3】保存前後における実施例及び比較例の抽出油脂中のDHA含量の測定結果を示すグラフである。
【図4】保存前後における実施例及び比較例の抽出油脂中のEPA含量の測定結果を示すグラフである。
【図5】実施例及び比較例の抽出油脂中の脂肪酸含量の測定結果を示すグラフである。(a)はホスファチジルコリンのsn−1位に結合しているEPA含量及びDHA含量であり、(b)はホスファチジルコリンのsn−2位に結合しているEPA含量及びDHA含量である。
【図6】実施例及び比較例の抽出油脂中の脂肪酸含量の測定結果を示すグラフである。(a)はホスファチジルエタノールアミンのsn−1位に結合しているEPA含量及びDHA含量であり、(b)はホスファチジルエタノールアミンのsn−2位に結合しているEPA含量及びDHA含量である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性に優れた魚油及びその製造方法に関するものであり、特に、レシチンを投与した魚から抽出した魚油及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
魚油は、n−3系脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などの有用な成分を豊富に含有していることから広く種々の用途に用いられている。
【0003】
しかし、魚油に含まれているエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などのn−3系脂肪酸は、酸化しやすく保存安定性が悪いので、劣化を防止すべく抗酸化のための方法が種々、開発されている。
【0004】
例えば、精製魚油に、エトキシキン、ビタミンEの他に、レシチンを添加した抗酸化魚油によれば、DHA油に抗酸化作用を付加し、劣化の少ない魚油が提供できることが開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−323295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した通り、魚油に含まれているn−3系脂肪酸は、酸化しやすく保存安定性が悪いので、劣化を防止する抗酸化方法の開発が望まれている。
【0006】
従って、本発明の目的は、酸化による劣化を防止する事が可能な保存安定性に優れる魚油及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、レシチンを投与した魚(以下、レシチン投与魚という。)から抽出したことを特徴とする魚油を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記目的を達成するために、魚にレシチンを投与して飼育した後、前記魚から抽出することにより製造することを特徴とする魚油の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、酸化による劣化を防止する事が可能な保存安定性に優れる魚油及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
〔本発明の実施の形態に係る魚油〕
本発明の実施の形態に係る魚油は、レシチンを投与して飼育した魚から抽出することにより製造することができる。図1は、本発明の実施の形態に係る魚油の製造フローを示す図である。
【0011】
1.レシチンを魚に投与して飼育
以下に、レシチンを魚に投与して飼育する方法について順に説明する。
【0012】
(レシチンの種類)
本発明の実施の形態においてレシチンは、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルセリン(PS)等の単体、あるいは2種以上の混合物を用いることができる。
【0013】
これらのレシチンは、動植物から得ることができ、特に限定されるものではないが、大豆、菜種、アマニ、コーン、綿実、紅花、胡麻、ひまわり、サフラワー等をはじめとする植物原料由来のものを用いることが好ましい。中でも、大豆由来レシチンを用いることが好ましい。
【0014】
また、酵素合成、化学合成したレシチンも用いることができ、例えば、ホスホリパーゼや化学合成を用いた加水分解反応や塩基交換反応により作成したPS、PI、PA、LPE(リゾホスファチジルエタノールアミン)、LPC(リゾホスファチジルコリン)などの高純度品などが使用できる。
【0015】
レシチンの形状は、特に限定されるものではなく、例えば、油状、ペースト状、粉末状、顆粒状、ブロック状などが挙げられる。
【0016】
(レシチンの投与形態)
レシチンは、レシチン単独で魚に投与してもよいし、飼料の形態で投与してもよい。飼料として投与する場合、飼料中のレシチン含有量は、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜2.5質量%がより好ましい。
【0017】
レシチンを混合させる基礎飼料としては、市販の飼料、実験飼料、もしくは特別に配合した飼料を用いることができる。基礎飼料原料としては、糖質原料、タンパク質原料、油脂原料、無機質及びミネラル等の微量栄養原料、各種飼料添加物等を包含する。糖質原料としては、植物性原料が主体であり、各種穀類、具体的には、トウモロコシ、マイロ、大麦、小麦、玄米、アルファルファミール、各種植物の茎葉(乾草を含む)、ふすま・大豆皮等のそうこう類(糠類)、コーンジャームミール、ビートパルプ、シトラスパルプ等の製造粕類等が用いられる。タンパク質原料としては、植物性原料と動物性原料があり、植物性原料としては、大豆油粕、ナタネ油粕等の植物性油粕類、動物性原料としては、魚粉等が用いられる。油脂原料としては、各種植物性油脂及び動物性油脂が用いられる。その他としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、食塩等が用いられる。また、適宜、ビタミン、ミネラル等を用いても良い。
【0018】
(レシチンの投与方法)
レシチンの投与方法は、特に限定されるものではないが、経口投与であることが好ましい。飼料として投与する場合の給餌の方法についても特に限定されるものではなく、例えば、適量、あるいは規定量を人の手によって直接、魚に投与する方法や、モイストペレット給餌機を代表とする船上機器によって投与する方法、あるいは遠隔操作による機械給餌、タイマーやコンピュータープログラム等を用いた自動給餌機による給餌、さらに、魚の学習能力を利用した自発給餌、さらには、フィルム状、練り餌状、チップ状等の形で魚の飼育環境中に固定あるいは浮遊させ、適時給餌させる方法などが挙げられる。
【0019】
(レシチンの投与量)
レシチンの投与量は、投与する魚の大きさ・種類によって異なるが、およそ魚体重(g)あたり1〜250mg/dayが好ましく、5〜125mg/dayがより好ましい。
【0020】
(レシチンの投与期間)
レシチンの投与期間は、特に限定されるものではないが、2週間以上であることが好ましく、4週間以上であることがより好ましい。
【0021】
(魚の種類)
本発明の実施の形態において適用可能な魚は、特に限定されるものではなく、例えば、ブリ、ヒラメ、トラフグ、アユ、コイ、サケマス類等が挙げられ、海産養殖魚類又は淡水養殖魚類であってもよい。
【0022】
2.レシチン投与魚から魚油を抽出する方法
レシチン投与魚から魚油を抽出する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、レシチン投与魚を氷上において解剖し、頭部と内臓を除去した後、Bligh−Dyer法にて脂質を抽出する方法がある。
【0023】
魚肉は頭部と内臓を除去せずにそのまま用いても良い。また、魚肉を加工した残渣を用いても良い。
【0024】
脂質を抽出する方法は、特に限定されるものではないが、上記のBligh−Dyer法のほか、Folch法、ヘキサン抽出、エタノール抽出、メタノール抽出、エーテル抽出、圧搾、加温抽出(煮出す)、フリーズドライ後に溶剤あるいは加温等によって抽出する方法等を用いることもできる。
【0025】
3.レシチン投与魚から抽出された魚油
レシチン投与魚から抽出された魚油は、好ましい実施の形態として、例えば、レシチン投与魚から抽出されたホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンを含有する。
【0026】
これらのホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンは、sn−1、sn−2位に結合しているDHA含量が多いホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミン、sn−1、sn−2位に結合しているEPA含量が多いホスファチジルコリンの及びsn−1位に結合しているEPA含量が多いホスファチジルエタノールアミンである。例えば、上記DHA含量及びEPA含量は、レシチン未投与魚から抽出されたホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンのDHA含量及びEPA含量に比べて1.5倍以上のDHA含量及びEPA含量である。2倍以上のDHA含量及びEPA含量である場合もある。
【0027】
特にsn−2位に結合しているDHA量が多いホスファチジルコリンやsn−1、sn−2位に結合しているDHA量が多いホスファチジルエタノールアミンを含有していることが好ましい。
【0028】
レシチン投与魚から抽出された魚油は、一般的な方法に従い、精製してもよい。
【0029】
レシチン投与魚から抽出された魚油は、その他の油脂と混合する事ができる。混合する油脂は特に限定されるものではないが、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、ゴマ油、ゴマサラダ油、落花生油、高オレイン酸べに花油、高リノール酸べに花油、高オレイン酸ひまわり油、ミッドオレイックひまわり油、高リノール酸ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、ボラージ油、オリーブ油、米糠油、小麦胚芽油、中鎖脂肪酸含有油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、品種改良によって低飽和化された油脂、牛脂、ラード、鶏脂、乳脂、魚油、アザラシ油、及び藻類油等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。さらに、これらの水素添加油脂や分別油脂を使用することもできる。
【0030】
レシチン投与魚から抽出された魚油は、ヒトおよび動物がそのまま摂取しても良いし、当該魚油を含有させた飲食物や医薬品の形態で摂取しても良い。
【0031】
〔本発明の実施の形態の効果〕
本発明の実施の形態によれば、酸化による劣化を防止する事が可能な保存安定性に優れる魚油及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明の実施の形態によれば、特許文献1のような精製魚油に抗酸化剤を添加混合するタイプと異なり、抗酸化剤を添加する必要が無く、精製魚油に抗酸化剤を添加混合するまでの間の酸化も抑止することができるため、有用性が高い。
【0032】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
〔実施例及び比較例の油脂(魚油)の抽出〕
試験用飼料を下記表1及び表2の飼料組成にて作製し、下記の試験条件下にて、試験区(実施例)及び対照区(比較例)の供試魚(ニジマス)を飼育した。表3に示した通り、試験前後において、供試魚の各区間での体重差は無かった。
【0034】
飼料に添加した大豆由来レシチンは日清オイリオグループ株式会社製の商品名:ベイシスLP−20Bを用い、大豆油は日清オイリオグループ株式会社製の商品名:大豆白絞油を用い、魚油は日本科学飼料株式会社製の商品名:フィードオイル(タラ肝油)を用いた。
【0035】
飼育後、供試魚を取り上げ、氷上において解剖し、頭部と内臓を除去した。14尾分の魚肉を1バッチとし、Bligh−Dyer法にて脂質を抽出した。1バッチあたり4〜5gの油脂(魚油)が得られた。
【0036】
<試験条件>
供試魚:ニジマス(平均体重2.3g/1尾)
供試尾数:合計280尾(70尾×4投与群)(2投与群/各区)
試験用飼料の投与期間:4週間
給餌方法:自由給餌
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
〔抽出油脂の保存安定性の評価〕
抽出油脂の保存安定性を以下の方法により評価した。
【0041】
1.ヘッドスペースの酸素濃度の測定
10mlの密閉可能なバイアル(ガスクロバイアル)に、抽出油脂0.5gを分注し、密閉した。これを60℃、暗所にて保存を行い、経時的に(保存後0,1,2,3,5,10,15,20日)ヘッドスペースの酸素濃度を、対照区(比較例)と試験区(実施例)それぞれについて測定し、その変化を比較した。測定結果を図2に示す。
【0042】
図2から明らかなように、対照区(比較例)の酸素濃度が試験区(実施例)の酸素濃度に較べて減少が早く(保存日数10日以降のデータにおいて有意差あり)、対照区(比較例)の抽出油脂は酸化しやすく、試験区(実施例)の抽出油脂は酸化しにくいことが判った。
【0043】
2.抽出油脂中の脂肪酸含量の測定
10mlの密閉可能なバイアル(ガスクロバイアル)に、抽出油脂0.5gを分注し、密閉した。これを60℃、暗所にて保存を行い、保存前、保存10日後及び保存20日後に油脂中に含有する脂肪酸含量(エイコサペンタエン酸(EPA)含量及びドコサヘキサエン酸(DHA)含量)を、対照区(比較例)と試験区(実施例)それぞれについて測定し、その変化を比較した。測定結果を図3及び図4に示す。
【0044】
図3及び図4から明らかなように、対照区(比較例)の脂肪酸(EPA,DHA)含量が試験区(実施例)の脂肪酸含量に較べて減少が早く(保存10日後及び20日後のデータいずれにおいても有意差あり)、即ち、脂肪酸を含む脂質の酸化が早いことから、対照区(比較例)の抽出油脂は酸化しやすく、試験区(実施例)の抽出油脂は酸化しにくいことが判った。なお、保存前(保存0日目)においては、脂肪酸含量に有意な差は無かった。
【0045】
以上より、試験区(実施例)の大豆レシチン投与魚から抽出された油脂は、対照区(比較例)の大豆油投与魚から抽出された油脂と比較して保存安定性に優れていることが判った。
【0046】
3.抽出油脂中の脂肪酸含量の測定
抽出油脂からホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンを抽出し、それぞれのsn−1位及びsn−2位の主要脂肪酸含量を測定した。測定結果を図5及び図6に示す。
【0047】
<分析方法>
抽出油脂はJournal of oleo science 56, (7) 361-367 (2007)に記載の方法でリン脂質を分画し、これを回収した。回収したリン脂質は基準油脂分析法(4.3.3.1-1996)記載の方法に従い、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンを分画した。さらに、これらをホスフォリパーゼA2により、sn−2位の脂肪酸エステル結合を加水分解することによって、リゾリン脂質と脂肪酸を遊離した。遊離したリゾリン脂質および脂肪酸を分析することによってsn−1、sn−2位の脂肪酸含量を算出した。
【0048】
図5及び図6より、ホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンのsn−1、sn−2位に結合しているDHA含量が対照区(比較例)に比べて試験区(実施例)において有意に多いことが判る。また、ホスファチジルコリンのsn−1、sn−2位に結合しているEPA含量及びホスファチジルエタノールアミンのsn−1位に結合しているEPA含量が対照区(比較例)に比べて試験区(実施例)において有意に多いことが判る。
【0049】
これらの特徴的なリン脂質、特にsn−2位に結合しているDHA量が多いホスファチジルコリンやsn−1、sn−2位に結合しているDHA量が多いホスファチジルエタノールアミンがレシチン投与魚の体内で産生されることにより抽出油脂の酸化の進行が進みにくくなっていると考えられる。
【0050】
したがって、本発明は、種々の用途に有用な上記リン脂質の製造方法としての利用価値もある。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態に係る魚油の製造フローを示す図である。
【図2】実施例及び比較例のヘッドスペースの酸素濃度の測定結果を示すグラフである。
【図3】保存前後における実施例及び比較例の抽出油脂中のDHA含量の測定結果を示すグラフである。
【図4】保存前後における実施例及び比較例の抽出油脂中のEPA含量の測定結果を示すグラフである。
【図5】実施例及び比較例の抽出油脂中の脂肪酸含量の測定結果を示すグラフである。(a)はホスファチジルコリンのsn−1位に結合しているEPA含量及びDHA含量であり、(b)はホスファチジルコリンのsn−2位に結合しているEPA含量及びDHA含量である。
【図6】実施例及び比較例の抽出油脂中の脂肪酸含量の測定結果を示すグラフである。(a)はホスファチジルエタノールアミンのsn−1位に結合しているEPA含量及びDHA含量であり、(b)はホスファチジルエタノールアミンのsn−2位に結合しているEPA含量及びDHA含量である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レシチンを投与した魚(以下、レシチン投与魚という。)から抽出したことを特徴とする魚油。
【請求項2】
前記レシチンが大豆由来レシチンであることを特徴とする請求項1に記載の魚油。
【請求項3】
前記魚油は、前記レシチン投与魚から抽出されたホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンを含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の魚油。
【請求項4】
魚にレシチンを投与して飼育した後、前記魚から抽出することにより製造することを特徴とする魚油の製造方法。
【請求項5】
前記レシチンが大豆由来レシチンであることを特徴とする請求項4に記載の魚油の製造方法。
【請求項6】
前記レシチンは、飼料の形態で投与されることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の魚油の製造方法。
【請求項7】
前記レシチンの投与期間は、4週間以上であることを特徴とする請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載の魚油の製造方法。
【請求項1】
レシチンを投与した魚(以下、レシチン投与魚という。)から抽出したことを特徴とする魚油。
【請求項2】
前記レシチンが大豆由来レシチンであることを特徴とする請求項1に記載の魚油。
【請求項3】
前記魚油は、前記レシチン投与魚から抽出されたホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンを含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の魚油。
【請求項4】
魚にレシチンを投与して飼育した後、前記魚から抽出することにより製造することを特徴とする魚油の製造方法。
【請求項5】
前記レシチンが大豆由来レシチンであることを特徴とする請求項4に記載の魚油の製造方法。
【請求項6】
前記レシチンは、飼料の形態で投与されることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の魚油の製造方法。
【請求項7】
前記レシチンの投与期間は、4週間以上であることを特徴とする請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載の魚油の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2009−270022(P2009−270022A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122360(P2008−122360)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 The Japanese Society for Food Science and Technology(社団法人 日本食品科学工学会) 刊行物名 FOOD SCIENCE AND TECHNOLOGY RESEARCH,14(1),2008 発行年月日 平成20年1月20日
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 The Japanese Society for Food Science and Technology(社団法人 日本食品科学工学会) 刊行物名 FOOD SCIENCE AND TECHNOLOGY RESEARCH,14(1),2008 発行年月日 平成20年1月20日
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】
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